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農業と環境 No.174 (2014年10月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第13回 IUPAC 農薬化学国際会議 (IUPAC 2014) (8月 米国) 参加報告

2014年8月10日から14日までの5日間、米国・サンフランシスコで開催された、第13回IUPAC農薬化学国際会議 (13th IUPAC International Congress of Pesticide Chemistry) に参加しました。

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写真 会議の会場(マリオット・マーキスホテル)

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写真 オープニングセレモニーのようす

この国際会議は、国際純正・応用化学連合(IUPAC)よって4年に1度開催されています。今年は米国化学会 (ACS) の AGRO 部門との共催で行われました。今回のメインテーマは、“Crop, Environment, and Public Health Protection: Technologies for a Changing World” (作物、環境、公衆衛生の保護: 変わりゆく世界のための技術) で、9つのメイントピックスから成り立っています。各トピックは、さらに46のテクニカルシンポジウムに分かれ、全体で1,010件の発表がありました。1,250人の参加登録があり、また、学生に対する旅費・渡航費の補助が52件あったようです。

メイントピックスは、(1) 喫緊の課題と取り組み、(2) 農業バイオテクノロジー、(3)新規農薬の探索と合成、(4)農薬の生態系および人体に対する曝露(ばくろ)とリスク評価、(5)農薬の環境動態・代謝、(6)農薬の製剤・施用技術、(7)農薬の作用機構と抵抗性管理、(8)食品と飼料における農薬残留、(9)管理、規制と支援・普及 で、幅広いテーマのもとで真剣な議論が交わされました。

農業環境技術研究所からは與語靖洋 研究コーディネータ、有機化学物質研究領域の小原裕三 主任研究員と元木 裕 研究員の3人が参加しました。

会期中、口頭発表やポスター発表における写真撮影や録音は一切禁止されるとともに、多数の会場での発表が同時に進行しており、さらにポスター発表は毎日入れ替わるため、関連の発表をすべて網羅することはできませんでした。以下に、それぞれが参加したセッションのようすを報告します。

與語靖洋

メイントピック (4) の 「現実社会における農薬使用に関する意思決定のためのリスクパラダイムの実施」 のセッションに参加しました。このセッションでは、口頭発表9件とポスター発表14件がありました。発表者は主催地である米国のほか、カナダ、南米、EU諸国、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、中国など、さまざまでした。報告者は、「農薬の河川中水産動植物への影響」 の演題で、わが国の農薬取締法における水産動植物に対する農薬のリスク評価を中心に解説するとともに、農薬に対する生物種の感受性分布(SSD, Species Sensitivity Distribution)、農薬の河川中濃度の季節変化、確率論的考え方を導入した影響評価手法などについて、農業環境技術研究所における取り組みを紹介しました。同セッションのその他の口頭発表では、インポートトレランス(海外で登録がある農薬について輸入農産物等を対象に設定される残留基準)、水生生物への段階的影響評価、回復を念頭においた評価、農薬の曝露評価モデル、リスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーションに関する話題提供がありました。SSD を導入した生態影響評価をすでに実施している国も複数あり、報告者の発表後に米国環境保護庁(EPA)と欧州食品安全機関(EFSA)が熱い議論を戦わすなど、農環研での取り組みの重要性を改めて感じました。

小原裕三

メイントピック(4)の 「バイスタンダー(偶然の立ち寄り者)と農業作業者曝露(ばくろ)評価の世界的なアプローチ」 のセッションでは、私のほかに米国環境保護庁、カリフォルニア州農薬規制部、オーストラリア、インド、ブラジル政府の担当者が話題提供し、各国の作業者曝露の評価方法の新たなアプローチについて報告がありました。報告者は、「無人ヘリコプターによる農薬散布での曝露レベル評価」の演題で、無人ヘリコプターによる水稲防除で妥当な範囲でのワーストケースのシナリオを構築し、評価優先度の高い25農薬について28日間の曝露濃度推移の予測を行った結果と、モデル実験としてフサライドとフェニトロチオンを用いてモニタリング実施時の条件下での曝露濃度を予測して、実測値とよく合致し、またワーストケースでの予測値よりも十分に小さかったことを報告しました。

元木 裕

メイントピック(5)では、「都市環境下における農薬の動態」、「農薬や汚染物質のサンプリング方法」、「植物と動物における農薬の代謝」、「農薬の環境動態モデリング」、「水−底質系における農薬の分配と生物有効性」、「より現実的な曝露評価に向けての農薬の土壌中での動態」、「農薬の大気中での消失・軽減」など、大気、土壌、水、さらには植物体内、動物体内といった、さまざまな環境下における農薬の動態・代謝について発表が行われました。報告者は、このうち土壌中での農薬の動態に関するセッションで 「エージング期間が土壌残留農薬の水抽出性に及ぼす影響」 というタイトルで研究成果を発表しました。このセッションでは、とくに農薬の土壌吸着の経時変化(エージング過程)について高い関心が寄せられており、時間依存的な土壌吸着のパラメーターを組み込むことで、農薬の地下水汚染予測モデルを改良する多くの試みがなされていました。土壌に残留する農薬のうち、水に溶出する可能性のある農薬に着目し、またその減衰要因を土壌吸着の経時変化の観点から解析しているという点では報告者の発表と一致しており、有意義な意見・情報交換ができました。

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写真 街中を走るケーブルカー

今回の会議は8月の開催でしたが、サンフランシスコは近くを寒流が流れているおかげで、日本より気温、湿度がともに低く、快適に過ごせました。また、交通の便がよく、電車やバス、路面電車、ケーブルカーといった多様な交通機関が発達しているため、移動には苦労しませんでした。会場の近くには、チャイナタウンやシーフード料理が楽しめるフィッシャーマンズワーフ、また少し足をのばせばジャパンタウンもあるため、アメリカ流のファーストフードが苦手な方にも食事には困らない街だと思いました。

次回の 第14回 IUPAC 農薬化学国際会議 は、4年後の2018年、ブラジルのリオデジャネイロで開催されます。関心のある方は是非参加されてはいかがでしょうか。

有機化学物質研究領域 小原 裕三
元木  裕
研究コーディネータ 與語 靖洋

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