前の記事 | 目次 | 研究所 | 次の記事 2000年5月からの訪問者数(画像)
農業と環境 No.176 (2014年12月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

生物多様性条約第12回締約国会議(COP12)および名古屋議定書第1回締約国会合(COP-MOP1)(10月 韓国) 参加報告

地球規模の環境問題として、みなさんは何を最初に思い浮かべますか? さまざまな地球環境問題の深刻化の程度を評価した研究によると、生物多様性の損失という問題は地球温暖化よりも重大で、後戻りできないほどに悪化しているといわれています(Rockstrom et al.,2009, Science, 461, 472-475)。生物多様性が失われていく速度は、自然状態で起こる速度 (100万種の生物がいた場合に、年間0.1から1種が絶滅) の100〜1,000倍と推定されています。

人間活動の変化に伴って生物の生息空間が破壊されたり劣化したりすることが、生物多様性損失のおもな要因ですが、生物多様性の損失や生態系の劣化によって、やがては人類の生存が脅かされるといわれています。そのため、持続可能な発展のために生物多様性を保全し、正しく利活用するための国際的な枠組みとして、生物多様性条約が作られました。これまで193か国と欧州連合が締結し、定期的に(最近は隔年で)締約国会議が開催されています。

第12回の生物多様性条約締約国会議(COP12)が、2014年10月6日から17日まで、韓国の平昌(ピョンチャン)で開かれました。また、いまから4年前の2010年に愛知県名古屋市で開催された第10回の締約国会議(COP10)では、生物多様性条約の大きな目的のひとつである「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する名古屋議定書」が採択されています。その締約国数が議定書発効に必要な50か国に達したことにより、第1回の名古屋議定書締約国会合(COP-MOP1)も10月13日から17日に開催されました。

この2つの会議に、政府代表団の一員として農林水産省からの出席者とともに農業環境技術研究所の研究者が参加しましたので、そのようすをお伝えします。環境省のウェブページに 会議結果の報告(http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=18740)がありますので、あわせてご覧下さい。


写真1 閣僚級会合が行われたピョンチャン・アルペンシア国際会議場(池田浩明撮影)

写真2・3 COP12 と COP-MOP1 の会場となった大型仮設テントの一つ(池田浩明撮影)と全体会合が開かれた会場内のようす(大久保悟撮影)

わが国が議長国を務めた COP10 では、上記の名古屋議定書のほかにも、生物多様性損失を食い止めるための戦略計画 2011-2020 と具体的数値目標を含む20項目の個別目標(愛知目標)が採択されました。COP12 の中心議論の一つは、この戦略計画と愛知目標に対する中間評価と、目標達成に向けた活動強化でした。今回で第4版になる地球規模生物多様性概況(GBO-4)が会議初日に正式発表されました(生物多様性条約事務局のウェブページ(http://www.cbd.int/gbo4/)に全文(英文)のPDFファイルが掲載されています)。2020年までの戦略計画と20項目の愛知目標の達成状況が評価されています。会場では、報告書作成の中心的役割を果たしたポール・レドリー博士が GBO-4 の概要を説明しました。それによると、陸域17%以上の保護地の確保など、数項目については目標達成が可能と評価されましたが、サンゴ礁など気候変動や海洋酸性化に対して脆弱(ぜいじゃく)な生態系への悪影響や、侵略的外来種の増加は依然として抑制できていないなど、多くの目標が達成困難な状況にあることが報告されました。農業環境に関係する目標7「持続可能な農林水産業」をみると、目標に向かっているもののさらなる努力が必要という評価になっています。具体例としては、ヨーロッパにおいて農地性鳥類の普通種の個体数減少が続いているものの減少が緩やかになってきていることや、有機農業や生物多様性配慮型農業の認証制度の取り組みが増えてきているが面積は限られており、窒素肥料の系外流出が依然として問題となっていることなどが挙げられました。

この報告書では、いくつかの将来シナリオのもとで生物多様性がどう変化するかも分析されており、肉消費の制限など消費パターンの変化も地球全体の生物多様性維持に大きく貢献するということでした。また、GBO-4 には評価結果から得られた、目標達成に向けた優先行動が示されており、各国の国家戦略改訂などに役立てられる内容になっています。上記の目標7については、生物多様性に配慮する農業認証制度の強化・見直し、送粉や生物防除(天敵)サービスの促進を考慮した景観計画などが挙げられており、農業環境技術研究所での取り組みの重要さを再認識できました。COP12 では、GBO-4 の評価結果を歓迎し、愛知目標の達成に向けた今後の勧告を奨励することが合意されました。

このほか、COP12 では、国連ミレニアム開発目標の後継にあたる持続可能な開発目標と生物多様性の保全・利活用との統合化や、海洋と沿岸の生物多様性に対する水中騒音や海洋酸性化の影響把握に向けた行動、ペット等の外来種の侵入に伴うリスク管理手法に関するガイダンス文書、世界侵略的外来種情報パートナーシップ(GIASP)と連携した情報共有や侵入経路特定の努力、合成生物学技術により作り出された生物や生成物に対する予防原則に基づいたリスク評価・管理と専門家グループの設置、気候変動と生物多様性との関係や気候変動・災害リスク低減対策と生物多様性保全との連携評価、保全上重要な森林や湿地生態系の保全と復元に向けた行動、ブッシュミート(野生動物食)と持続可能な野生動物管理技術などについて議論されました。個人的な印象としては、日本国内だけを見ていたのではわからない観点が各国の争点になることが多く、それぞれの国や地域の社会・文化的背景をある程度理解していないと主張の意図が十分に理解できないことも多々ありました。

COP-MOP1 は、第1回の会合なので、発効したばかりの名古屋議定書の順守を促進するための手続や制度を中心に議論されました。とくに、議定書の実施において今後の重要な役割を担う ABS クリアリングハウス(ABSに関する情報を共有するためのプラットフォーム)の運用について議論が交わされ、技術的な助言を行うための非公式助言委員会(IAC)を設立することなどが決議されました。日本は名古屋議定書をまだ批准していないため、批准に向けた国内調整が本格化すると思われます。

なお、会議の行われたメイン会場は3千人を収容可能という、大きな仮設テント(写真2)でした。防災のため、最終日の前日まで暖房が入らず、雨天の日などはとても冷え込みました。にもかかわらず、カラフルな冬物コートを身にまとった締約国代表が、深夜まで熱心な議論を続ける姿が脳裏に焼きつきました。

(生物多様性研究領域 大久保 悟・池田 浩明)

前の記事 ページの先頭へ 次の記事