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農業と環境 No.180 (2015年4月1日)
国立研究開発法人農業環境技術研究所

第32回 土・水研究会 「農業分野における反応性窒素過剰問題とフローの適正化への取り組み」 開催報告

独立行政法人農業環境技術研究所は、2015年2月27日(金曜日)、農業環境技術研究所大会議室において、第32回 土・水研究会 「農業分野における反応性窒素(Nr)過剰問題とフローの適正化への取り組み −グローバル〜圃場まで−」 を開催しました。

窒素は農業生産にとって重要な肥料成分である一方、農耕地への窒素施肥は、強力な温室効果ガスである一酸化二窒素の発生、地下水の硝酸性窒素汚染や閉鎖性水域の富栄養化等の環境問題に深く関与しています。また、わが国においては、畜産廃棄物・汚水中の窒素は水質汚濁・温暖化問題にとって重要ですが、これらはおもに海外で施肥し栽培された飼料中の窒素に由来し、その適切な循環利用が求められています。

環境に影響をもたらしやすい窒素形態 (アンモニア性窒素、硝酸性窒素、一酸化二窒素など) は、反応性窒素(Nr)と呼ばれることがあります。工業的窒素固定法が実用化して以来、安定な窒素ガスから窒素肥料が生産できるようになり、陸域生態系に負荷される反応性窒素はこの100年間に倍増しています。反応性窒素の過剰は、いま、地球レベルで看過できない問題としてとらえられつつあり、その実態解明と管理に関する国際的な動き(OECD、INI など)が活発になってきています。

この研究会では、窒素問題に関する国際的な動き、広域の窒素フロー、窒素負荷に関する日本の耕種農業・畜産業の特徴・問題点・解決策などの研究を紹介し、グローバル〜圃場までの窒素問題にどのように向き合うべきかを展望しました。

開催日時: 2015年2月27日(金曜日) 10:00−16:30

開催場所: 農業環境技術研究所大会議室

主催: 独立行政法人 農業環境技術研究所

後援: 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構

参加者数: 155名

(行政: 3、公設研究機関: 58、独法研究機関: 37、大学: 8、一般・民間(農業生産者、JA、肥料メーカー等): 14、農環研: 35)

講演の内容 (講演の表題をクリックすると、講演要旨のPDFファイルをダウンロードできます)

アジアの食料需給に伴う窒素の流れと環境負荷、将来予測

山梨大学   新藤 純子

土壌の窒素肥沃度はどう変わってきたか?

農業環境技術研究所 三島慎一郎

窒素負荷から見た日本の耕種農業の特徴

農業環境技術研究所 江口 定夫

家畜ふん堆肥等施用と化学肥料施用の LCA、環境影響の経済評価

農研機構・近畿中国四国農業研究センター 志村もと子

日本の畜産業をめぐる窒素フローの問題点と改善策

北里大学   寳示戸雅之

世界の中の日本として窒素問題にどのように向き合うべきか

農業環境技術研究所 林 健太郎

第32回 土・水研究会(写真1)

新藤純子 氏(山梨大学)

第32回 土・水研究会(写真2)

三島慎一郎(農環研)

第32回 土・水研究会(写真3)

江口定夫(農環研)

第32回 土・水研究会(写真4)

志村もと子 氏(農研機構)

第32回 土・水研究会(写真5)

寳示戸雅之 氏(北里大学)

第32回 土・水研究会(写真6)

林 健太郎(農環研)

第32回 土・水研究会(写真7)

会場のようす

まず、山梨大の新藤教授から、食料需給・食生活の変化という視点から窒素の流れと環境負荷について解析したアジア域での研究成果について講演がありました。続いて、当研究所の三島主任研究員が、土壌環境基礎調査に基づく窒素肥沃度の変遷を土壌タイプ、土地利用、有機物施用から考察した講演、江口上席研究員が、窒素収支や窒素フットプリントについて諸外国と比較し、日本農業における窒素負荷の特徴を論じた講演をそれぞれ行いました。農研機構の志村主任研究員からは、家畜ふん堆肥施用と化学肥料施用を比較した圃場レベルでのLCAと環境影響の経済評価についての講演がありました。北里大学の寳示戸教授からは、家畜排せつ物にかかわる資源配分・アンモニア揮散など日本の畜産業をめぐる諸問題についての講演とともに北里大学の牧場で実践中の自給粗飼料のみを使った資源循環型畜産についての紹介がありました。最後に林主任研究員より、食料・飼料の海外依存、畜産物消費の増加、食品ロスなど食料消費スタイルに起因する日本の窒素問題についての総括とともに窒素問題への国際的な取り組み(OECD、INI、Future Earth)が紹介されました。

肥料の効率的利用、環境中に出た反応性窒素の循環利用(家畜排せつ物ほか)や適正な配分など、技術的な視点の議論とともに、食生活の選択(肉の消費)や食品ロスなどが重要であるとの議論があり、反応性窒素問題はわれわれの生き方の選択の問題でもあることを認識させられました。

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