前号へ 総目次 総索引 検索 研究所 次号へ (since 2000.05.01)

情報:農業と環境
No.4 2000.8.1

 
No.4

・農業環境技術研究所:サイエンスキャンプ2000開催される

・平成10年度土壌汚染調査・対策事例及び対応状況に関する
調査結果の概要:環境庁水質保全局(平成12年3月)

・ワールドウオッチ研究所:警告シリーズ

・本の紹介 4:環境保全型農業と自治体,

・本の紹介 5:失われた森,レイチェル・カーソン著,

・本の紹介 6:アレロパシー 他感物質の作用と利用,

・本の紹介 7:地下水の硝酸汚染と農法転換,

・保全生態学では個体群の生存確率をどの程度正確に予測できるのか

・OECD:「農業と環境」JWPワークショップ

・平成12年度農業環境技術研究所運営委員会開催される


農業環境技術研究所:サイエンスキャンプ2000開催される
 


 

 平成12年8月1日から8月3日にわたってサイエンスキャンプ2000が開催される。これは,科学技術庁が主催し,各省庁および各都道府県の教育委員会などが後援している事業である。農林水産省では,当研究所,果樹試験場,蚕糸・昆虫農業技術研究所,家畜衛生試験場および森林総合研究所が開催している。
 趣旨,事業の概要,応募資格(高等学校または高等専門学校),応募方法などはホームページ(http://ppd.jsf.or.jp/camp/index.html)を参照されたい。当研究所のキャンプの内容は,以下の通りである。

 内容
    Aコース:リモートセンシングで生態圏を測る:一枚の葉から地球まで
    Bコース:植物群落におけるCOの動きを測る
    Cコース:酸性雨を測る
 参加者
 「Aコース」山中 歩美(やまなか あゆみ) 千葉県立佐原高等学校2年
       増田 江里(ますだ えり)   東京家政大学附属女子高等学校2年
       高須 恵美(たかす えみ)   カリタス女子高等学校2年
       米田香代子(よねだ かよこ)  東京家政大学附属女子高等学校2年
 「Bコース」岩崎 博亮(いわさき ひろあき)千葉県立佐原高等学校2年
       稲田 彩乃(いなだ あやの)  埼玉県立浦和第一女子高等学校1年
       林  祐輔(はやし ゆうすけ) 愛媛大学農学部附属農業高等学校1年
       倉谷奈央子(くらたに なおこ) 光塩女子学院2年
 「Cコース」中島 淑子(なかじま としこ) 茨城県立龍ヶ崎第一高等学校2年
       清水  葵(しみず あおい)  東京女学館高等学校3年
       神谷 雄三(かみや ゆうぞう) 芝高等学校3年
       河口 恵里(かわぐち えり)  愛知県立西春高等学校2年
 指導者
   井上 吉雄(いのうえ よしお) 環境管理部計測情報科隔測研究室長
   小川 茂男(おがわ しげお)  環境管理部計測情報科隔測研究室主任研究官
   美濃 伸之(みの のぶゆき)  環境管理部計測情報科隔測研究室研究員
   富田 淳志(とみた あつし)  環境管理部計測情報科隔測研究室研究員
   村上 拓彦(むらかみ たくひこ)環境管理部リモートセンシングユニット研究員
   石塚 直樹(いしつか なおき) 環境管理部リモートセンシングユニット研究員
   冨久尾 歩(ふくお あゆみ)  環境管理部リモートセンシングユニット研究員
   原薗 芳信(はらぞの よしのぶ)環境資源部気象特性研究室長
   鈴木智恵子(すずき ちえこ)  農業環境技術研究所特別(ポスドク)研究員
   高村 近子(たかむら ちかこ) 筑波大学大学院環境科学研究科院生M2
   林  陽生(はやし ようせい) 企画調整部地球環境研究チーム長
   新藤 純子(しんどう じゅんこ)企画調整部地球環境研究チーム主任研究官
   大浦 典子(おおうら のりこ) 企画調整部地球環境研究チーム研究員
   麓  多門(ふもと たもん)  環境資源部土壌保全研究室主任研究官
 研究所事務局
   藤牧 峻介(ふじまき しゅんすけ)企画調整部情報資料課長
   猪  和則(いの かずのり)   企画調整部情報資料課広報係長
   坂入 正行(さかいり まさゆき) 企画調整部情報資料課広報係員
   長谷川周一(はせがわ しゅういち)企画調整部企画科長
 振興財団事務局
   丸山 義巨(まるやま よしおみ) 日本科学技術振興財団情報システム開発部
 
Aコース「リモートセンシングで生態圏を測る:一枚の葉から地球まで」
 リモートセンシングは遠隔計測とも呼ばれ,光や電波を使って,物体の様子を調べる方法です。リモートセンシングは,遠くは宇宙空間から地球の表面で起こっている様々なできごとをとらえたり,近くでは対象に触れることなくその性質を測ったりすることができます。
 大気CO濃度の上昇や温暖化,砂漠化,干ばつなど,最近の環境や食糧の問題は地球規模でとらえていく必要があります。しかも,生態系の変化はそれぞれの現地でありのままの状態で計測し診断する必要があります。これらの数々の問題に対して,適切な技術的対策や国内的あるいは対外的な政策をとっていくためには,生態系や地球がどうなっているかの情報をスケールで正確にとらえることが重要です。ここでは,そのための有力な方法であるリモートセンシングによる情報計測の体験を通して生態圏情報の大切さについて考えてみます。
 
Bコース「植物群落におけるCO2の動きを測る」
 地球温暖化が進むと地球が後戻りの効かない高温になり生物の住めない星になるのではないかと危惧されています。この原因に化石燃料の大量消費,森林伐採等により,大気中のCO濃度が上昇し続けていることがあげられています。しかし,最近の研究では植物のCO取り込みによる大気中のCO濃度上昇の抑制効果がかなり大きいこと,特に中緯度の森林が大量に大気中のCOを固定していることが明らかになってきました。農耕地も陸上生態系の一つで,夏季の水田は均一な植物群落を形成し,日中大量のCOを取り込んで炭水化物を合成(光合成)する一方で,水を大気へ放出し(蒸散),水田周辺の温湿度環境を緩和しています。
 本プログラムでは,水田のCO収支とCH(メタン)の発生量評価研究を実施しているつくば市内の水田観測地を対象として,現地観測を実施し,水稲が大気との間でどの様なふるまいをしているかを実際の測定データから検証します。
 
Cコース「酸性雨を測る」
 化石燃料の燃焼に起因する酸性物質,農業や畜産からの窒素などの人為起源物質,また火山から発生する硫黄化合物などが酸性降下物として地上に降り注いでいます。北欧や北アメリカでは,酸性雨により湖沼が酸性化し魚類などに被害が出ました。生態系内では,土壌や,動植物の働きにより,酸が吸収されたり中和されたりします。同じ程度の酸性雨が降っても,生態系の酸緩衝能の大きさにより影響は異なります。
 酸性の雨は,植物にどのような変化を引き起こすでしょうか?日本の植物や土壌が酸を中和する能力はどの程度あるのでしょうか?それはどんな機構によるのでしょうか?実験や測定に基づいて,これらのことを考えてみましょう。

 

平成10年度土壌汚染調査・対策事例及び対応状況に関する
調査結果の概要:環境庁水質保全局(平成12年3月)

 



 

 われわれが生活している近代文明は,大量の金属に依存しなければ成立しない。歴史をふりかえってみても,そこには人類の発展と金属の間にきわめて深いかかわりあいが認められる。Cuはすでに紀元前6000年に,Pbは紀元前5000年に,ZnやHgは紀元前500年にひとびとによって使われていた。堆積物,極の氷のコアや泥炭に含まれる重金属の分析から,環境へのインパクトが歴史的にも明らかにされつつある。
 ローマ皇帝の時代には,Pbの使用量がきわめて多かったことも確認されている。19世紀の産業革命以後,重金属は近代社会には不可欠なものとなった。Tiller (1989) は,Nriagu (1979) が推定したCd,Cu,Ni,Pb,Znの地殻から地上への放出量を表1にまとめた。
 
表1 重金属の自然および人為的放出量 (103t)

放出源

期間

Cd

Cu

Ni

Pb

Zn

自然
人為
人為

 



全体

 

  0.83
  7.3
316

 

   18
   56
 2,180

 

   26
   47
 1,000

 

   24
  450
19,600

 

   44
  310
14,000

 
 
 世界人口の増加とそれに伴う重金属の使用量の増大は,自然界に重金属をふりまく結果となり,様々な生態学上の問題を起こしている。土壌,水,生物などに含まれている重金属は,過剰な濃度になれば生命のシステムに毒性影響を与えるけれども,いくらかの重金属は健全な生命を営むためには不可欠なものである。
 したがって,自然界に生存するそれぞれの生命にとって,また動物や人間が消費する食物にとって適切な重金属濃度を知ることがきわめて重要である。自然界に放出された重金属は,最終的には土壌−植物−動物を通して人間の体内に蓄積されることからも,土壌中での重金属の挙動についての知見を蓄積することはきわめて重要である。
 これは,重金属に限ったことではない。本来,自然の土壌に存在しない化学物質や土壌に比較的少ない元素についても同様なことがいえる。
 さて,環境庁は今年の3月,全国47都道府県と水質汚濁防止法で定められた82政令市を対象に実施した「平成10年度土壌汚染調査・対策事例及び対応状況に関する調査結果」を発表している( (対応するURLは現在存在しません。2010年5月) )。
 この調査は,全国の土壌汚染および土壌に関わる環境問題について,調査・対策事例の実態および地方公共団体における対応状況を把握し,土壌汚染対策の推進に資することを目的としている。これまでに,昭和62年度,平成4,6,8,9年度に実施されてきた。今回の調査は,平成9年度調査の構成と内容を一部改訂したものである。
 この調査によると,10年度に判明した土壌環境基準の超過事例は111件,昭和50年度以降の累積の超過件数は292件となっている。超過事例の経緯をみると,土壌・地下水汚染の有無の判明していない土地の調査「現状把握型調査」により判明した事例が急増している。
 超過事例(累積)について項目別に見ると,重金属等のみに係わるものが160件,揮発性有機化合物のみに係わるものが114件,これらの複合汚染が18件であり,個別の項目では,トリクロロエチレン,鉛,砒素,テトラクロロエチレンの順に多い。また,原因者を業種別にみると,電気機械器具製造業,金属製品製造業,洗濯業,化学工業の順に多い。

 

ワールドウオッチ研究所:警告シリーズ
Worldwatch Institute Issue Alerts: Lester R. Brown
 



 

 Worldwatch Institute Issue Alerts とは,最近ワールドウオッチ研究所の所長を退いたレスター・ブラウン会長による,環境の危機を警告する短い論文Eメールシリーズのことである。2000年5月2日に「2000-1」が最初に出された。
●Alert 2000-4:人口増が何百万の人々に「水飢饉」を強いる
●Alert 2000-3:米国農民,トウモロコシと風力で「二重の収穫」
●Alert 2000-2:世界は喫煙の習慣を蹴飛ばしつつある
●Alert 2000-1:中国の地下水位の低下は,近い将来世界各地の食料価格を上昇させるかもしれない
 なお,「情報:農業と環境 No.3」で,上記のAlert 2000-1 を日本語に訳した後,これらの日本語訳がすでに公開されていることがわかった。 (URLは現在見つかりません。2010年5月) そのとき,オリジナルの日付を3月2日としていたのが,5月2日の間違いであったことにも気づいた。お詫びし,訂正する。

 

本の紹介 4:環境保全型農業と自治体
平成11年度環境保全型農業推進指導事業
全国農業協同組合連合会・全国農業協同組合中央会(2000)

 




 

 環境保全型農業が国の農業政策の中に位置づけられ,推進されはじめてからすでに7年あまりが過ぎた。その成果を拡大するために,現場の農家や農協の積極的な取り組みはさることながら,自治体や研究の果たす役割が不可欠である。新たな農業基本法のもとで環境保全型農業をさらに推進するため「環境関連三法」も制定された。農業も本格的に環境の時代を迎えたことになる。
 「全国農業協同組合連合会」と「全国農業協同組合中央会」は,平成4年から農水省の補助を受け,環境保全型農業の先進事例調査を実施している。その報告書は毎年公表され,さらに「家の光協会」からも刊行されている。すでに平成6年「最新事例:環境保全型農業」,7年「環境保全型農業の流通と販売」,8年「環境保全型農業と地域活性化」,9年「事例に学ぶ:これからの環境保全型農業」,10年「環境保全型農業とJA」および11年「環境保全と農・林・漁・消の提携」が刊行されている。
 12年「環境保全型農業と自治体」が刊行された。農業をとりまく条件が厳しく,地域農業の存立が脅かされている中で,この報告書では,持続的農業の確立をめざす各地の苦闘が浮き彫りにされている。目次を紹介する。
 
第1部 環境保全型農業と自治体
総括 環境保全型農業と自治体の役割:
第1章 「手作りの里」の町ぐるみの有機農業運動
第2章 ヘルシーフード農業に挑む人間環境宣言の町
第3章 「持続性の高い農業」の定着条件
第4章 先駆的な町ぐるみの環境保全への取り組み:
第5章 水稲航空防除から病害虫発生予察に基づく一斉地上防除へ
第6章 全国に先駆け,行政主導で有機無農薬農業を推進
 
第2部 第5回 環境保全型農業推進コンクール受賞事例

 

本の紹介 5:失われた森,レイチェル・カーソン著,
リンダ・リア編,古草秀子訳,集英社
(2000)
 



 

 ジョージワシントン大学で環境史の教授を務めるリンダ・リアが,レイチェル・カーソンの遺稿をまとめた「Lost Woods: The Discovered Writing of Rachel Carson, 1998」の全訳が,この本である。
 レイチェル・カーソンは1999年の3月のタイム誌で,アインシュタインやフロイトと並んで「20世紀の偉大な科学者・思想家100人」にエントリーされている。現代の環境保護運動の創始者ともいわれる偉大な女性科学者である。この本はそんな偉大な女性を,思いのほか身近に感じさせてくれる。
 この本では,次に紹介する全31編がほぼ年代順に4部に分けられ,科学者そしてサイエンスライターとしてのカーソンの足取りが浮き彫りにされる。収録された作品のいくつかは,ポール・ブルックス著「レイチェル・カーソン」などの評伝に掲載されており,26章は「沈黙の春」の冒頭でよく知られた章だが,本書ではじめて紹介される作品も多い。
 「沈黙の春」は,合成殺虫剤が招く危険性をめぐって雄弁かつ重大な警告の書である。そこでは,残留化学物質が自然界を汚染していくさまはもちろん,それが人体に蓄積されていく経緯が詳細に描き出されていた。かつて「沈黙の春」に心を揺さぶられた年輩諸氏の一読をお薦めしたい。4部31編の内容とその紹介を本書から引用して紹介する。
 
 第一部 若きカーソン−野生生物保護への関心−
 1 海のなか
 2 私の好きな楽しみ
 3 野性生物のための闘い−チェサピーク湾のウナギはサルガッソー海をめざす−
 4 自然界の空のエース
 5 鷹たちの道
 6 思い出の島
 7 マッタムスキート−国立野生生物保護区−
 
 第一部に集めた著作物は、若きカーソンの興味の多様さと、文体や題材を探し求める努力とを映しだしている。最初に登場する「海のなか」は、いかにも披女らしい鋭い洞察力と叙情性に満ちた作品で、1937年にアトランティック・マンスリー誌に掲載され、作家としての出発点となった。第一部を締めくくるのは、魚類・野生生物局のために執筆・編集した5部の小冊子シリーズ『環境保全の現状』のひとつ、「マッタムスキート」からの抜粋である。彼女は魚類・野生生物局に専門職で採用された二人目の女性であり、初級水産生物学者としてはじまった公務員生活は15年間つづき、局の広報物を一手にまとめる編集長にまでなった。「マッタムスキート」には、科学者として成熟したカーソンが、書くべき題材や、一般大衆に情報を提供するという使命を、しつかりと認識していたことがあらわれている。また、野生生物をとりまく複雑な生態環境についての理解や、そうした生態学的な関係の重要性を読者に伝えたいという熱意が感じられる。
 この二編の間に収録した、少女時代の印象的な作品や、ボルティモア・サン紙に掲載された数編の記事には、披女が生涯持ちつづけた野生生物保護への関心や、人間が自然に介入することに対する懐疑的な見方、そして鳥類への強い興味が示されている。1940年代の未発表の短い作品の数々は、ナチュラリストとして自然誌作家(ネイチャーライター)として、洗練されつつあったカーソンの姿を彷彿とさせる。全体から見て、これらの作品は、若き日のカーソンが抱いていた生態学的な認識や、自然科学者としての彼女の進化の道筋を理解する手がかりとなろう。
 
 第二部 世界を理解する−自然研究,環境保全への考え方−
 8 「潮風の下で」に関するイールズ夫人宛のメモ
 9 失われた世界−島の試練−
10 「本と著者の昼食会」での講演 
11 クロード・ドビュッシー作曲「海」のアルバム解説
   ナショナル交響楽団のための慈善昼食会での講演
12 全米図書賞受賞の言葉
13 自然を描く意図
14 デイ氏の解任
15 「われらをめぐる海」第二版の序文
 
 海の生物たちを叙情的に描いた『潮風の下で』を出版した1941年から、『われらをめぐる海』を発表した1951年までの10年間は、カーソンにとって創作上の実り多い年月だった。『われらをめぐる海』は海洋学の知識を結集した記念碑的名作であり、この本によってカーソンは一躍著名人の仲間入りをして、経済的にも安定し、公務員をやめて執筆に専念できるようになった。
 カーソンは最初のうち、大勢の人の前で話をすることに消極的だったが、しだいに著名人としての役割に自信を持ち、そうした機会を利用して、世界を理解する一手段として自然研究の重要性を訴えるようになった。彼女の主要なテーマ−時を超越した地球、その営みの不変性、生命の神秘−は、作品のなかにくりかえし語られているが、人々に直接語りかけるとき、その口調は格別な新鮮さと温かさに満ちていた。カーソンはまた、数々の賞を受け、その授賞式などで得た人々に直接語りかける機会を利用して、科学の徹底的な偶像破壊主義を批判し、生命の謎を解くために努力しているすべての人々に、共通の価値観を持つことを促した。
 1952年、カーソンは魚類・野生生物局を辞職した。政府刊行物の制約から解き放たれて、彼女は環境保全についての考えを率直に表現し、自然環境の保護のために積極的に発言しはじめた。
 第二部に収録したうちの二編は、原子力時代に暮らすことの不安や、原子爆弾の発明によって、人間が自然を変化させるどころか、破壊さえする能力を獲得してしまったという懸念を伝えている。それこそ、その後のカーソンに書くべき題材を選択させた動機であり、精神的価値をないがしろにする、人間の傲慢さに対する怒りの奥底にあったものである。
 
 第三部 つながり−生態学,人間社会と自然美−
16 たえず変貌するわれらの海辺  
17 野外観察ノートから
18 海辺
19 われらをめぐる現実の世界
20 生物科学について
21 フリーマン夫妻への二通の手紙
22 失われた森−カーティス・リー・ボック夫妻への手紙−
23 雲
 
 第三部は、<ホリディ>誌に掲載された、カーソンのもっともよく知られた雑誌原稿「たえず変貌するわれらの海辺」にはじまり、雲について書いたテレビ番組用の台本で終わる。彼女はずっと以前から、空と海には同じような自然の力が働いていると考え、その類似性に魅了されていた。
 1952年に魚類・野生生物局を辞めた後、カーソンはメイン州ブースベイハーバーの西、サウスポートアイランドに地所を買って小さな別荘を建て、ここで地所内の潮だまりや岩場を調べ、「海の三部作」を締めくくる『海辺』を執筆した。この作品は『われらをめぐる海』と同じく、<ニューヨーカー>誌に連載された後、<ニューヨーク・タイムズ>誌のベストセラーリストに登場した。
 大西洋岸の海辺での野外調査は、カーソンに創造力に満ちた時間をもたらし、その一端は、ここに収めた彼女の野外調査ノートや友人たちへの手紙にも反映されている。また、彼女はそうした野外での経験をこの時期の講演などに利用し、生態学的なつながりの重要さや、現代社会における自然美の価値について語った。
 米国の自然の海辺がしだいに失われていくことを危惧したカーソンは、人間活動のおよばない地域を設ける必要があると主張した。披女は早くから自然保護区の設立を訴え、「失われた森(ロスト・ウッズ)」と名づけたサウスポートアイランドの小さな土地を、私費を投じて保護したいと考えていた。この願いは実現されなかったが、そうした披女の思想や、海辺の生物の生態学的な重要性についての確固たる主張は、その作品の数々に遺されている。
 
 第四部 沈黙の春−科学と利己主義,ガンの転移−
24 消えゆくアメリカ人
25 生物学を理解するために 「動物機械」への序文
26 明日のための寓話
27 全米女性記者クラブでの講演
28 「沈黙の春」のための新しい章
29 ジョージ・クライル・ジュニアへの手紙
30 環境の汚染
31 ドロシー・フリーマンへの手紙
 
 第四部には、1959年から1963年までをまとめている。この時期、カーソンは『沈黙の春』の執筆や、その出版後に受けた批判との闘いに明け暮れていた。1957年秋に執筆を開始した当初、この本は『自然の支配』(The Control of Nature)と題されていた。彼女は五年もの歳月をかけて、膨大な証拠を集め、合成化学農薬のはなはだしい乱用と自然を征服しようとする行為の愚かさとを告発する、説得力にあふれた名著をまとめあげた。
 ここに収めたカーソンのもっとも重要な三つの講演記録は、使われている言葉の明暗さの点でも、汚染の危険や、あらゆる生命の相関性を訴える彼女の信念が表現されている点でも、注目すべきものだ。1962年以降しだいに激しさを増す批判者からの攻撃に対し、カーソンは穏やかながら説得力にあふれた分析と、意外なほどの政治的洞察力で応酬した。高潔な存在であるべき科学界が、道徳的な立場にたってリーダーシップを発揮するどころか、社会をまちがった方向に導こうとしている、と彼女は批判した。そして、農薬の乱用の害を否定する人々の利己主義と科学的知識の乏しさを白日の下にさらし、一般大衆には事実を知る権利があると訴えた。
 こうして公的な闘いをくりひろげる一方で、カーソンはより探刻な、個人的逆境と闘っていた。1961年、乳ガンの転移を診断された彼女は、自分の意見を発表する機会がかぎられていると知り、愛する地球を守るためにいっそうの情熱をそそいだ。第四部は、親しくしていた主治医への手紙、そして親友への手紙で幕を閉じる。

 

本の紹介 6:アレロパシー 他感物質の作用と利用
藤井義晴著,自然と科学技術シリーズ,農文協
(2000)
 



 

 アレロパシー(他感作用)は,「ある植物から放出される化学物質が他の植物や微生物に何らかの影響を及ぼす現象」を意味する。アレロパシーは,自然生態系においては,植生の遷移要因のひとつであり,農業生産の場においては作物の生育阻害や,畑作物や果樹など永年生作物における連作障害(忌地現象)の原因のひとつと考えられている。
 近年,合成化学物質の農業生態系への多量投与からひき起こされた弊害への反省から,生態系調和型農業の導入が検討されている。アレロパシーは,このような農業において,雑草や病害虫防除,連作障害防止,間作や混植栽培における共栄関係による増収などの面で寄与することが期待される。(「第1章 アレロパシーとは何か」より)
 本書では,他感物質やその作用機作,自然界や耕地生態系でのアレロパシー作用,アレロパシー作用の強い植物利用の試みと可能性が紹介される。内容は次の通り。
 
第1章 アレロパシーとは何か
第2章 生態系とアレロパシー
第3章 作物や雑草とアレロパシーの関連
第4章 アレロパシー植物の作用と利用
第5章 アレロパシー研究の展望と新たな問題点
別章  アレロパシーの証明,検定方法
 
 著者は当研究所の植生管理科の他感物質研究室長で,1999年8月から国際アレロパシー学会の副会長を務めている。

 

本の紹介 7:地下水の硝酸汚染と農法転換
小川吉雄著,自然と科学技術シリーズ,農文協
(2000)
 



 

 農村地域で調査された多くの地下水,井戸水の硝酸態窒素濃度をみると,土地利用や栽培作物の違いによりその濃度は異なる。栽培作物の種類による施肥窒素量の差が原因していると推察される。さらに,施肥量の多い地域の地下水ほど,陰イオンのなかに占める硝酸態窒素の割合は高い。
 このような視点から本書では,農業の生産活動に欠かすことのできない肥料窒素や有機質資材中の窒素に焦点をあて,地形的に上位にある畑から低地の水田に至る,水の動きを通して土地利用ごとの窒素の動態をみていくことにする。
 このことから,農村地域における地下水の硝酸汚染の原因が窒素循環の破綻にあることを明らかにし,循環と調和した持続可能な農業生産を維持するための,古くて新しい耕地管理技術を提案する。(「土地利用の違いと硝酸態窒素濃度レベル」より)
 本書では,次のことが紹介される。地下水の硝酸汚染防止と循環型農業技術を開発するにあたっての基礎的な資料の提供。農業生態系における還元ゾーンとしての水田の土地利用のあり方。持続的な農業生産方式の普及・定着のための肥培管理技術の展開方向の提案。
 内容は,次の通り。
 
 第1章 農業と地下水の硝酸汚染
   1 硝酸性窒素の環境基準への格上げ
   2 農村地域の地下水汚染の実態
   3 耕地における窒素循環とその役割
 第2章 畑作地帯の地下水水質と窒素流出量
   1 普通畑作地帯の地下水水質
   2 畑地帯からの窒素排出負荷量
   3 窒素以外の肥料成分の排出負荷量
   4 降雨からの供給量と畑からの排出量の比較
 第3章 畑における肥料成分の動態と収支
   1 施肥された肥料窒素のゆくえ
   2 土壌中における窒素の動態
 第4章 畑における脱窒の可能性を探る
   1 地下水位の違いと窒素収支
   2 地下水面直上部の硝酸態窒素の消長と脱窒能
 第5章 地形連鎖・土地利用連鎖における水田の役割
   1 畑から流出した硝酸態窒素の水田における浄化
   2 地形連鎖、土地利用連鎖と窒素浄化
 第6章 水田の窒素浄化容量
   1 灌漑水中の窒素の形態と水田の窒素容量
   2 水田における窒素浄化機能と窒素受け入れ容量
 第7章 持続的農業生産へ向けての農法転換
   1 低投入・環境保全型農業とは
   2 有機物還元による物質循環の再生と土づくり
   3 作物の吸肥特性に基づいた施肥管理
   4 環境保全型農業には輪作体型の確立が不可欠である
 おわりに−−循環と共生−−
 
 著者は,ほぼ30年もの長期間にわたって,現場で環境保全の研究に携わってきた超ベテランである。また,1987年から2年間,当研究所の職員でもあった。現在は,茨城県農業総合センター首席専門技術員である。

 

保全生態学では個体群の生存確率を
どの程度正確に予測できるのか

 



 

Predictive accuracy of population viability analysis in conservation biology
B.W.Brook et al., Nature 404:385-387 (2000)

 
 農業環境技術研究所は,農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに,侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって,生態系の攪乱防止,生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の1つとしている。このため,農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが,その一部を紹介する。
 今回は,生物個体群の保全を図る上で重要な個体群の生存確率を推定するモデルの性能(正確さ)について検討したBrookらの論文を紹介する。
 生物個体群の生存確率解析(PVA:population viability analysis)は、稀少種の絶滅確率を予測したり、それらの管理のための対策案を比較するために保全生態学で広く利用されている方法である。これはまた、世界自然保護連合の基準の下で絶滅が危惧される種をリストアップするための論拠としても用いられている。しかし、PVAが正確なものなのかどうか検証されていない。そこで、過去に行われた21の野生生物個体群の少なくとも過去10年以上にわたる長期的な生態研究のデータを用いて、PVAに関する5種類のモデルによる予測の正確さを検証した。モデルに入れるパラメータについては、それぞれの長期的データの前半分のデータから推定し、後半分のデータによってモデルによる予測の正確さを評価した。その結果、最近のPVAへの批判とは反対に、PVAによる予測は驚くほど正確であった。個体群の衰退のリスクは、観察された結果とよく一致し、有意な偏りはなく、個体群サイズの予測値も実際と有意な差は見られなかった。更に、5種類のPVAソフトウェアパッケージによる予測はよく一致していた。従って、PVA用のモデルは絶滅危惧種を正確に類別し管理するためのツールとして妥当であると結論付けられた。
 PVAによる予測は正確でなくてもよいという意見があるが、生物の保全のためにはコストがかかるので、その管理方法の決定は、提案された戦略によって対象生物の回復が十分に可能であるかどうかだけでなく、得られる利益がコストに見合うものかどうかも考慮する必要がある。従って、PVAによる予測は、量的にも信頼性の高いものである必要があるが、本研究によってPVAは個体群(あるいは種)の絶滅確率について、対象生物の生活史のパラメータなどをインプットすれば、コンピュータシミュレーションによって推計学的に量的予測もできる方法であることが確認された。一方、一般的に使用されている5種類のPVAソフトウェアパッケージについて、単一個体群のリスク評価に適していること、植物には適用できないこと、生活史や個体群に関するデータが少な過ぎる場合には適用できないことなど、使用上の注意も指摘されている。

 

OECD:「農業と環境」JWPワークショップ
−持続的農業経営システムに関する技術の適応−

 



 

 平成12年7月4日から7日にわたって,オランダのワーゲニンゲンで上述のワークショップが開催された。メキシコを除く参加各国から、関係団体を含めて約60名が参加した。日本からは、農業総合研究所の篠原所長、農業環境技術研究所の上沢土壌管理科長、農産園芸局環境保全型農業対策室の米野補佐およびオランダ大使館の川合二等書記官が出席した。

<会議の概要>

1.結論案(Draft Conclusions)の検討

 ワークショップにおける議論の集約として結論案が、事務局から最終日の全体会合で提案され議論された。パリにおける次週のJWPにおいて再度検討する機会があることから、事務局が各国からの意見を踏まえて若干の修正を行い、JWPに提出し再度議論されることとなった。結論案の要点は以下のとおり。
 (1)農業者は、持続的な農業技術の導入にあたり、消費者や市民の多様でかつ変化する要求に対応するためには、幅広い技術の習得を必要とする。また、貿易の自由化により、供給側の競争が厳しくなり、消費者の意向を反映した小売業者や加工業者の力がますます強まっている。
 (2)持続的農業技術は学際的であり、単に生産技術だけではなく多くの分野(情報技術、経済学、市場、教育等)との関連が必要である。多くの分野からのインプットがあってはじめて総合的で首尾一貫した技術の研究、普及、導入が行える。
 (3)持続的農業技術の導入には相殺(Trade off)があり、常に不確実性を含んでいる。このため、技術の導入は試行錯誤的(trial and error)であり、このため技術の浸透する速さやその範囲は農家によって異なってくる。これは、農家の経営構造によって技術の習得能力が異なり、さらに、農家の存続に関わる問題を含みうるからである。
 (4)持続的農業のための特定の特効薬はない。粗放的な農業と、集約的な農業の共存が環境への影響を最小限にしながら食料の供給を行うことになるであろう。いずれにしても持続的な農業のための営農システムには、農業者の高度な技術と管理能力が必要である。
 (5)技術が受け入れられる構造は、OECD諸国の中でも多様であり、取り組みは自主的なものから強制的(法的制限)なもの、さらに、支援方策は農業者への支払い、法的制限に関する情報提供および助言等様々である。
 (6)これまでの農業技術の評価は生産性等に限られていたが、持続的か否かの評価には環境、社会および倫理的な面からの総合的な評価が必要である。
 (7)持続的農業を支える政策的枠組みは、首尾一貫していなければならない。問題が地域レベルであるなら、地域での問題解決を行うことが最善であるかもしれない。しかし、政府レベルで諸官庁、研究所等について、政策的一貫性を達成するのにはかなりの困難がつきまとうであろう。
 (8)貿易非歪曲的な方法(あるいは、国際的合意に沿った形)で持続的な目標を達成するために、それぞれの状況に応じた技術を選択し、適切な誘導的な政策枠組みを策定することが重要である。このことは(公共及び個人の)正当な権利、すなわち農業者は何をしてよく、何に対して責任があるかを明確にすることが重要であることを意味している。このことは、収入と富均衡性金融資産?の配分に重要な意味を持つ。
 (9)農業技術の導入に当たっては、広い範囲の関係者からの意見を聴取し、参加型の決定方式で決められるべきである。
 (10)農業研究予算が多くの国で削減されており、公共予算に基づく研究は公共財に関することに集中し、市場に近い技術の研究が減少することを示してしている。このことは、研究の中立性に一定の問題を提起している。いずれにしても、研究と情報には透明性が必要である。
 (11)政府やOECDは、その枠組みの中で、持続的農業技術の導入に有効な手段等に関する情報や技術導入評価のための判断基準の開発、進捗状況の測定や評価の方法、代替のための政策や市場のオプションによる選択の概要を示すことにより、技術の導入について重要な役割を果たす。
 なお、本決議案に対し、出された各国のコメント等の概要は以下の通り
 (1)持続的な農業の導入は必ずしも新たな問題ではない(NZ)。持続的な農業技術の導入そのものには新たな問題はないが、温暖化防止条約やGMOへの対応等、新たな要素は加わっておりそれに対応することは、新たな問題と言える(仏)。
 (2)「貿易非歪曲的(non-trade-distorting)」や「農業者等の正当な権利(property right)」と農業技術の導入との関係については、十分に議論されておらず、決議案の表現は必ずしも適切ではない(仏、EU)。今回のワークショップは、貿易と農業技術の関係を議論したものではなく「貿易非歪曲的」との文言は「国際的約束と整合性のある方法」というような表現で工夫したい。正当な権利については、公共の権利と農業者との権利との関係、あるいはライセンスの付与等の議論が行われたものを反映させたものである(事務局)。
 (3)持続的農業に対する有機農業の重要性は本ワークショップでかなり認識が深められたことから、さらに強調すべき(ポーランド)。
 (4)温暖化防止条約、生物多様性条約等国際的約束との関係をさらに強調すべき(ハンガリー)。

2.全体会議の概要

 (1)基調講演等
 (1)オランダは人口密度が高いが、集約的でかつ高い環境水準の達成により競争力のある農業の確立に努めてきた。結果として、輸出額で世界の2〜3位の地位を確立している(蘭)。
 (2)グローバル化が進行している中で、新しい枠組みが必要。さらに、農業・環境・貿易・研究政策の相互協調(synergy)が必要。新たな技術(情報技術や電子取引等農業技術以外の技術も含む)が開発され、農業者の市場参入のための能力開発が重要。国際競争が激しくなり、消費者の要求はますます高まっており、市場政策との協調が求められるなか、不確実性等のリスクも伴うが、新たな機会として、新技術の導入に対する期待が高まっている。経済的、環境的、社会的要求をバランスをとって調和させつつ実現するためには、多くの責任ある関係者(stakeholder)の参加のもと、首尾一貫した(coherence)政策が求められており、単純な一つの形式の持続的技術があるわけではない。(OECD)。
 (3)農業者は、国際化が進み、またフードチェーン(農業関連産業)に組み込まれる中で、より激しい競争にさらされている。持続的農業といっても、農業者の置かれている状況によって違いがあり、特に開発途上国と先進国とでは大きく異なる。農業保険や自主的な集団的取り組み等で農業者はより安定的な取り組みを行っているが、多面的機能の維持には農業者だけではなく公共の関与を組み込む必要がある。農業セクターでは多国籍企業の独占化が進んでいるが、すべての農業関係者が食料の安全性(food safety)を守るべき。消費者の声を聞くことが重要であるが、消費者の意見は感情に左右されてはならず、そのための教育が重要。  (4) 国際化が進行し、資源や食料の長距離輸送が行われ、資源や廃棄物の不均衡が生じている。この面からも、持続的な発展を考えて行く必要がある。我が国日本では「身土不二」という言葉が使われ、消費者は食べ物がどのくらいの距離を運ばれてきたかを、フードマイリッジ(Food mileage)で考え始めている。消費者の嗜好はある程度市場に反映されるが、それがすべてではない。そのために公的関与が必要。また、開発された技術の普及に当たっては公的機関の支援が重要(日本)。
 なお、篠原所長の斬新な問題提起に対して多くの賛同が寄せられ、Food mileageと国際分業論や比較生産費説との関わり等について論議すべきではないかとの提案があった。
 (2)その他
 (1)技術予測においては、単に技術の実現を予測するのではなく、需要者(消費者)サイドの動向も踏まえ、多くの関係諸団体の責任ある者(ステークホルダ)が参加することが重要。
 (2)有機農業は持続的農業に重要な役割を示すが、全ての農業を有機農業に転換することは不可能。地域の状況に応じて農薬等を適正に使用した農業と有機農業を組み合わせていくことが重要。

3.分科会の概要

 (1)技術分科会の概要:分科会座長から全体会合への報告の概要
 (1)持続的農業に資する技術には多くのものがあり、従来の技術の効率を上げるものや全く新しいものがあるが、その影響は地域によって異なるものであることに留意する必要がある。
 (2)持続性を評価する指標は重要であるが、データの利用可能性(特に国レベル)が問題であり、国が農業システムの持続性を順位づけすることは困難。
 (3)農業者の規模や経営構造が技術の導入に影響を与えることはあるが、必ずしも大きな農家だけが新しい技術の導入に有利なわけではない。
 (2)技術分科会における日本からのプレゼンテーションの概要
 (1)199910月に施行された「持続農業法」の概要とその運用に関して、特に持続的農業技術のイメージを説明。
 (2)日本農業の特徴として、地形連鎖とこれに基づく一般的な作目の配置を説明。地形連鎖と水田に関して、山間地水田の国土・景観保全機能、平坦地水田の食料生産・景観保全機能および山間地と平坦地を繋ぐ丘陵傾斜地周辺水田の脱窒による環境保全・水質浄化機能を紹介し、こうした農業生態系の有する機能を活用する重要性と問題点(例えば、水利用の制限)を指摘した。
 (3)地形連鎖と関連して、地理情報システムは、地域全体の国土保全、環境保全・浄化機能および食料生産・景観保全機能を把握し、これら機能を計画的に活用するための効果的な手法であることを紹介した。
 (4)また、科学技術研究の成果に基づく持続的農業技術の開発と普及の例として、緩効性窒素肥料の利用による投入窒素量の削減と地下水質の改善例(各務原)を、また、複数の性フェロモンの混合利用による殺虫剤使用回数の削減と生物多様性の回復を紹介した。
 (5)さらに、以上のような農業生態系の有する機能や科学技術研究の成果に基づく持続的農業技術を利用するために、国立試験研究機関と公立試験研究機関、普及組織および農業者による生産組織の連携・協力の重要性を述べた。
 (6)最後に、現行の持続的農業技術を一層環境保全的な技術として発展させる必要があり、このため、国立の試験研究機関が現行技術のライフサイクルアセスメントに取り組んでいることを紹介した。
 (3)技術分科会における各国報告の概要
 (1)ドイツからは、最適管理農法の骨格を構成しているドイツ連邦土壌保全条例、作物や土壌を管理するセンサーの開発・利用によって精密農法を発展させ、一層持続的な農業へ移行する取り組み、及び、畜舎並びに家畜個体の精密管理による栄養塩類等の舎外流出の削減に関する報告があった。
 (2)イタリアからは、アブルッゾ地域における持続的農業への移行を推進した経験に基づいて、技術・農業経営・普及組織・制度等の役割を解析した事例の紹介があった。
 (3)オランダからは、農業における農薬等作物保護資材の削減並びに温室栽培におけるエネルギー効率の改善について、公的機関と民間の果たす役割等に関する報告があった。なお、残念ながら、豚の頭数を短期間に3/4に削減した際の経験については報告が無かった。
 (4)スペインからは、水資源と水質の保全を目的して、全国をカバーする灌漑システムを構築している事業とその経済的効果を試算した結果に関する報告があった。
 (4)制度分科会の概要:分科会座長から全体会合への報告の概要
 (1)技術の導入に関して、地域で解決できるものは地域で解決するほうが有利であり、技術の導入において地域の広がりをよく考慮すべき。
 (2)技術の導入においては時間を必要とするものがあり、普及までの時間的なずれも考慮すべき。
 (3)政府が推奨する技術がいつも正しいわけではなく、政府は常にできるだけ多くの情報を農業者を含む広い層に提供すべきである。政府の推奨する技術は、常に普及すべき正しい技術であるとの誤解を招くようなは表現は避けるべき。

 

平成12年度農業環境技術研究所運営委員会開催される
 


 

 平成12年度の農業環境技術研究所運営委員会が開催された。趣旨,日時,場所,内容,参加者等は以下の通りである。
 
 趣旨:農業環境技術研究所運営委員会規程に基づき,試験研究の基本方向,運営及び試験研究成果の評価について,学識経験者等及び農林水産省関係者の意見を反映することにより,所の円滑な運営及び研究の効率化を図ることを目的として,運営委員会を開催する。
 日時:平成12年7月13日(木) 10時30分〜17時
 場所:農業環境技術研究所大会議室(2階)
 内容:
  1.所長挨拶                        10:30-10:40
  2.出席者紹介                       10:40-10:45
  3.農業環境技術研究所における研究の経緯と運営の概要    10:45-10:55
  4.前年度運営委員会指摘事項への対応            10:55-11:05
  5.農業環境研究の流れと将来の研究方向           11:05-11:35
  6.今後重要となる農業環境研究の方向
   1)農業からみた地球環境研究の現状と将来方向       11:35-12:00
   2)遺伝子組換え作物の環境影響研究の現状と将来方向    13:00-13:25
   3)内分泌かく乱物質研究の現状と将来方向         13:25-13:50
   4)農業環境インベントリーの現状と将来方向        13:50-14:15
  7.全体の意見交換                     14:40-17:00
[運営委員]
     中村 雅美  日本経済新聞社科学技術部編集委員
     秋元 肇   地球フロンティア研究システム大気組成変動予測研究領域長
     高橋 弘   三菱総合研究所地球環境研究センター長
     本山 直樹  千葉大学園芸学部教授
     大井 玄   環境庁国立環境研究所長
     厨川 道雄  通商産業省資源環境技術総合研究所長
     長谷川 裕  農林水産省大臣官房総務課環境対策室長
     西岸 芳雄  農林水産省構造改善局計画部資源課長
     藤本 潔   農林水産省農産園芸局農産課環境保全型農業対策室長
     三輪 睿太郎 農林水産省農業研究センター所長
     廣居 忠量  農林水産省森林総合研究所長

 
 
 「資料1:研究推進の基本方向及び研究推進・研究所運営の現状」

目  次
1.農業環境技術研究所の設立背景と研究目標
2.環境問題と農業環境技術研究所の研究の流れ
3.農業環境技術研究所の運営の現状
  1)農業環境技術研究所組織の変遷
  2)現在の研究推進体制
  3)定員・予算の変遷
  4)研究プロジェクトの流れ




11
  5)成果の現状
    (1)審査委員を置く専門誌等への発表事例
    (2)農環研在籍研究者の所属学会等一覧
    (3)農環研在籍研究者の学会賞等受賞一覧
    (4)主要成果のカテゴリー
    (5)代表的主要成果(1983〜2000)
    (6)研究成果などの見えざる活用場面の例

13
14
16
17
18
19
  6)研究交流の現状
    (1)共同研究数の推移
    (2)外国人研究者数の推移
    (3)海外出張者数(長期は除く)の推移
    (4)国際研究集会参加者数の推移
    (5)依頼研究員及び技術講習生数の推移

20
20
21
21
21
  7)情報資料
    (1)図書購入経費の推移
    (2)蔵書数の推移
    (3)図書受入数の推移
    (4)逐次刊行物数の推移
    (5)複写件数の推移

22
22
23
23
23
  8)研究評価システム
  9)平成11年度運営委員会指摘事項への対応
  10)「情報:農業と環境」
24
28
34
 

 
 
 「資料2 プロジェクト課題の成果」
目 次
農林水産省予算 年 度
農林水産業のもつ国土資源と環境保全機能及びその維持増進に
 関する総合研究

1982〜1987

農林業における水保全・管理機能の高度化に関する総合研究 1988〜1993
農林地のもつ多面的機能の評価に関する研究 1989〜1991
中山間地域における農林業の環境保全機能の変動評価 1992〜1994
農林水産業及び農林水産物貿易と資源・環境に関する総合研究 1996〜2000
水田農業の持続性・公益的機能の解明と環境調和型栽培管理技術の開発 1998〜2001
中山間地域における地域資源の活用に関する総合研究/
 農村経済活性化のための地域資源の活用に関する総合研究

1997〜2002

農林水産業における自然エネルギーの効率的利用技術に関する総合研究
 「グリーンエナジー計画」

1978〜1987

生物資源の効果的利用技術の開発に関する総合研究
 「バイオマス変換計画」

1982〜1990

生物情報の解明と制御による新農林水産技術の開発に関する総合研究
 「生物情報−バイオメディア計画」

1988〜1997

農林水産生態系秩序の解明と最適制御に関する総合研究 1989〜1998
新需要創出のための生物機能の開発・利用技術の開発に関する総合研究
 「新需要創出−バイオルネッサンス計画」

1991〜2000

画期的新品種創出等による次世代稲作技術構築のための基盤的総合研究 1998〜2004
形態・生理機能の改変による新農林水産生物の創出に関する総合研究 1998〜2000
物質循環の高度化に基づく生態系調和型次世代農業システムの開発 1992〜1998
環境負荷低減のための革新的農業技術の開発
 【持続的農業推進のための革新的技術開発に関する総合研究の大課題】

1999〜2003

環境負荷低減のための病害虫群高度管理技術の開発
 【持続的農業推進のための革新的技術開発に関する総合研究の大課題】

1999〜2003

環境影響評価のためのライフサイクルアセスメント手法の開発
 【持続的農業推進のための革新的技術開発に関する総合研究の大課題】
1998,
1999〜2003

長距離移動性害虫の移動予知技術の開発 1983〜1987 10
病害虫の薬剤抵抗性獲得機作の解明と対抗技術の開発 1987〜1989 10
カンキツグリーニング病媒介昆虫ミカンキジラミの防除に関する研究 1999〜2001 10
アレロパシーの解析と原因物質の同定・評価 1986〜1988 11
植物の代謝系遺伝子を活用した新雑草防除技術の開発 1997〜2002 11
植物から環境中へのカテコール化合物の分泌と周辺植物の応答現象の解明 2000〜2002 11
根圏環境の動態解明と制御技術の開発 1986〜1990 11
微生物利用土壌改良資材の効果判定技術の開発 1987〜1990 12
有用天敵生物の機能向上と新害虫防除技術の開発 1988〜1990 12
「地域バイオテクノロジー研究開発促進事業」 1986〜1990 12
有用植物病害診断・防除総合システムの開発 1991〜1995 13
病原性低下因子利用による果樹類紋羽病の遺伝子治療 1998〜2002 13
組換え体の野外環境下での安全性評価手法の開発 1987〜1989 14
組換え体の生態系導入のためのアセスメント手法の開発 1990〜1992 14
組換え体高度利用のためのアセスメント手法の開発 1987〜1995 14
組換え体実用化のための安全性確保に関する研究 1996〜1998 14
組換え体の産業的利用における安全性確保に関する研究 1999〜2003 15
土壌蓄積りんの再生循環利用技術の開発 1984〜1988 15
環境保全のための家畜排泄物高度処理・利用技術の確立 1994〜1996 15
21世紀を目指した農山漁村におけるエコシステム創出に関する技術開発 2000〜2002 15
環境保全のための総合モニタリング手法の開発研究 1994〜1998 16
森林・農地・水域を通ずる自然循環機能の高度な利用技術の開発 2000〜2002 16
微生物の機能活用・機能増強による環境修復手法の開発 1996〜1999 16
農林水産業における内分泌かく乱物質の動態解明と作用機構に関する総合研究 1999〜2004 16
ダイオキシン類の野菜等農作物可食部への付着・吸収実態の解明 1999〜2001 17
農用地土壌から農作物へのカドミウム吸収抑制技術等の開発に関する研究 2000〜2002 18
環境微生物の難分解性芳香族化合物分解能の多様性に関する
 分子生物学・分子生態学的研究

1997〜2001

18
農林水産生態系を利用した地球環境変動要因の制御技術の開発 1990〜1996 18
農業生産管理システム構築のための情報処理技術の開発 1985〜1989 19
増殖情報ベースによる生産支援システム開発のための基盤研究 1997〜2002 19
未来型軽労化農業技術確立のための基盤技術開発に関する総合研究 1994〜1999 20
やませ霧の微気象特性と作物の障害発生機作の解明 1989〜1991 20
気象・作物・土壌解析による冷害予測手法の開発 1994〜1996 20
低温限界環境下における作物・微生物の代謝制御系の解明 1997〜1999 21
高精度観測衛星を利用した地球温暖化等に伴うアジアの食料生産変動の
 予測手法の高度化

1998〜2001

21
不測時の食料安全保障に関する調査研究 2000〜2002 21
 
科学技術庁予算 年 度
侵入帰化植物による植物多様性に対する遺伝子汚染のリスク評価のための
 基礎的研究

1997〜2001

21
内分泌撹乱物質による生殖への影響とその作用機構に関する研究 1998〜2000 22
地球温暖化の原因物質の全球的挙動とその影響等に関する研究 1990〜1999 22
北極域における気圏・水圏・生物圏の変動及びそれらの相互作用に関する
 国際共同研究

1990〜1994

23
熱帯林の変動とその影響等に関する観測研究 1990〜1999 23
炭素循環に関するグローバルマッピングとその高度化に関する国際共同研究
1998〜2000 23
水田生態系における炭素の動態・収支に及ぼすCO濃度上昇の影響
 (FACE)

1996〜2000

23
風送ダストの発生メカニズムに関する研究 2000〜2002 24
砂漠化機構の解明に関する国際共同研究 1989〜1994 24
衛星搭載次世代SARの陸域観測仕様の開発 1999〜2001 24
農耕地における新野外RIトレーサー技術の開発に関する研究 1989〜1993 24
アフィニティーバインディングアッセイによる
 微生物の環境シグナル物質認識レセプターの単離・解析法の開発

1998〜2002

25
中性放射化分析法の環境影響元素・物質研究に対する新利用法と
 高度化技法の開

2000〜2004

25
土壌並びに農作物中の降下放射性核種の分析及び研究 1957〜     25
放射性ヨウ素の土壌蓄積性と浸透性の定量的把握 1991〜2001 26
 
環境庁予算 年 度
南西諸島における海洋への土砂流出の発生機構の解明と防止技術に関する研究 1991〜1995 26
耕草地管理に基づく窒素・りんの発生負荷低減に関する研究 1982〜1986 26
農耕林地における地下水の水質変動機構の解明に関する研究 1986〜1990 27
農林生態系利用による浅層地下水の水質浄化技術の開発に関する研究 1991〜1995 27
有機性汚泥の環境保全的評価及び農林業への利用に関する研究 1981〜1985 27
家畜尿汚水中の窒素、りんの高能率・低コスト除去技術の開発に関する研究 1984〜1988 27
農業環境系におけるダイオキシン等芳香族塩素化合物の分解促進技術の開発 1985〜1989 28
先端技術産業に係わる環境汚染物質の拡散予測とモニタリング手法の
 開発に関する研究

1988〜1992

28
農業生態系におけるハイテク産業関連汚染物質の動態制御技術の
 開発に関する研

1993〜1997

28
農耕地における微量重金属負荷量の評価に関する研究 2000〜2004 28
陸上生態系における炭素循環機構の解明に関する研究 1990〜1992 29
陸域生態系の吸収源機能評価に関する研究 1999〜2001 29
森林の二酸化炭素吸収の評価手法確立のための大気・森林相互作用に関する研究 1999〜2000 29
アジアフラックスネットワークの確立による東アジアモンスーン生態系の
 炭素固定量把握

2000〜2002

30
メタン・亜酸化窒素の放出源及び放出量の解明に関する研究 1990〜1994 30
アジア太平洋地域の土地利用変化が地球温暖化に及ぼす影響に関する研究 1996〜1998 30
熱帯アジアの土地利用変化が陸域生態系からの温室効果ガスの発生・吸収量に
 及ぼす影響の評価に関する研究

1999〜2001

30
地球温暖化による生物圏の脆弱性の評価に関する研究 1999〜2001 30
気候変動の将来の見通しの向上を目指したエアロゾル・水・植生等の
 過程モデル化に関する研究

2000〜2002

31
大気汚染物質による農作物の生理・遺伝的影響に関する研究 1982〜1985 31
長期・低濃度広域大気汚染が主要農作物に及ぼす影響の解明と評価法の
 開発に関する研究

1986〜1990

31
スギ林における酸性降下物等の動態解明と影響予察に関する研究 1987〜1991 31
酸性降下物の農業生物に及ぼす影響に関する研究 1989〜1992 32
酸性物質の臨界負荷量に関する研究 1993〜1995 32
東アジアにおける環境酸性化物質の物質収支解明のための大気・土壌総合化
 モデルと国際共同観測に関する研究

1996〜1998

32
酸性・酸化性物質に係る陸域生態系の衰退現象の定量的解析に関する研究 1999〜2001 32
地球環境リスク管理にかかるコミュニケーションと対策決定過程に関する研究 1999〜2001 33
紫外線増加が植物に及ぼす影響に関する研究 1990〜1992 33
紫外線増加が植物等に及ぼす影響に関する研究 1993〜1995 33
紫外線増加が生態系に及ぼす影響に関する研究 1996〜1998 34
臭化メチル等の環境中挙動の把握と削減・代替技術の開発に関する研究 1996〜1998 34
オゾン層破壊物質におよび代替物質の排出抑制システムに関する研究 1999〜2001 34
人間活動が土地資源に及ぼす影響評価に関する研究 1992〜1994 35
砂漠化防止対策効果の環境立地的評価手法の開発に関する研究 1995〜1997 35
中国における砂漠化防止対策の適用に基づく持続的土地利用システムの
 開発に関する研究

1998〜2000

35
アセアン諸国とのリモートセンシング技術の高度化とその応用に関する共同研究 1989〜1990 36
人工衛星データ等を利用した陸域生態系の3次元構造の計測と
 その動態評価に関する研究

1997〜1999

36
アジア地域における環境安全保障の評価手法の開発と適用に関する研究 1999〜2001 36


 「資料3 農業環境研究の流れと将来の研究方向・今後重要となる農業環境研究の方向」
 
農業環境研究の流れと将来の研究方向
 
 
1.はじめに
 
 平成11年7月に「食料・農業・農村基本法」が公布・施行された。この基本法では、従来からの農業所得や農業生産性の向上のみならず、食料の安定供給や自然循環機能の維持増進による農業の持続的な発展がうたわれている。これを受けて平成11年11月には、我が国の農林水産研究の重点的・効率的な推進を図るため「農林水産研究基本目標」が策定された。農業環境技術研究所では、この「農林水産研究基本目標」に沿って、今後10年間の農業環境研究の研究基本計画を策定した。
 農林水産省農業環境技術研究所は、農業生産環境を含む農業環境の制御・保全・利用に関する先行的・基盤的技術開発を行う機関として、昭和58年に発足以来、これまでもその時々の情勢を踏まえた「農林水産研究基本目標」に合わせて、昭和60年、平成2年および平成8年に研究基本計画を改定してきた。
 この間、「農業と環境」は国内外においてますます重要な問題になってきている。ひとつは、グローバリゼーションの問題である。WTOやOECDなどで、農産物貿易や農業政策の論議において環境保全が重視され、さらに、IPCCの温暖化防止など地球規模の環境問題も重要となり、その中でも農業と地球の関わりが避けて通れない現実がある。
 一方では、20世紀後半に急速に発達した鉱工業や革新的技術を用いた農業の集約化により発生した有害重金属による農地の汚染、環境ホルモンなど微量化学物質の食物連鎖を通した生物相における汚染に加え、遺伝子導入作物の生態系への影響など、もともとわれわれ人類が作り出したものによるマイナスの環境インパクトがある。さらには、農業生産の集約化・規模拡大や耕作放棄地の拡大などに伴う農業環境資源の劣化と多面的機能の低下の問題がある。
 21世紀に予想される様々な環境問題は実に人口問題の解決をぬきにしては考えられない。人口問題は即ち食料問題であるし、食料問題はまさに農業問題である。したがって、環境問題はとりもなおさず農業問題なのである。いうなれば、21世紀は農業の時代なのである。さらに61億人を越えて増えつつある世界の人口に、大地と水と大気と生物に悪影響をあたえないように食料を供給するためには、農業生態系の持つ自然循環機能を活用し、健全な食料を生産することがきわめて重要な課題である。
 一方、このような背景のなかで、中央政府機関の行政改革の一環として、農林水産省に所属する19の農業関係の研究所は、1つ(農業政策に関する研究所)を除き、2001年4月1日から6つの法人に整理・統合した上で、独立行政法人に移行することが決定された。
 独立行政法人になると、研究所の運営方針は大幅に変更することになる。農業環境技術研究所は、単独で同じ名称の独立行政法人となるため、研究所の行う研究の枠組みは基本的には同じである。しかし、空間的には地球を、時間的には21世紀を見据えた広い視点から、上述した問題を解決するための組織と研究課題を検討する必要がある。
 このため、ここでは環境問題にかかわる世界と日本の動向、農林水産省における環境保全に関連する研究の流れ、農業環境研究の流れと農業環境技術研究所の成果などを整理し、さらには,将来の農業環境研究の展望について述べ、それを遂行するための組織案を報告し、運営委員の先生方のご意見を頂きたい。
 また,これから重要となる農業環境の研究のうち,4課題「地球環境研究」「組換え作物の環境影響研究」「内分泌かく乱化学物質研究」および「農業県境インベントリーの現状と将来方向」については、この報告の後,それぞれ専門の立場から具体的な提言をし,運営委員の先生方のご意見を伺いたい。
 
2.環境問題にかかわる世界の動向
 
 世界の環境問題は,1961年に発行されたレーチェル・カーソンの歴史を変えた「沈黙の春」に始まる。その後,OECDの環境委員会(1970)や国連環境計画(1972)が設立され,1982年の国連環境計画管理理事会特別会合では,世界環境の保全と改善を訴えた「ナイロビ宣言」が採択された。また,オゾン層保護のための「ウィーン条約」が1985年に出された。1989年には,有害廃棄物の国境を越える移動および処分の規制に関する「バーゼル条約」ができた。さらに1990年には,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第1次報告書を作成し,温暖化の問題を提起した。また,1993年には,OECDで「農業と環境」合同専門部会が設置された。このような状況の中で,農業が環境問題と密接に関わっていることが広く認識されるようになった。
 また,1992年の「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)を契機として,持続可能な開発が世界のキーワードになった。地球サミットでは持続可能な開発に向けた行動計画であるアジェンダ21が採択されるとともに,気候変動枠組み条約,生物多様性保全条約および森林原則声明が採択された。1996年には,カーソンの志を継いだシーア・コルボーン達が「奪われし未来」を発表した。ここでは,われわれが造った化学物質そのものが食べ物や食物連鎖を通してわれわれの体を蝕み,さらにはその影響が世代を越える環境問題に発展していることを警告している。環境問題は農業問題をぬきにしては考えられない。環境に関わる世界の動向を表1(資料1,p2-5)に示した。
 
3.環境問題にかかわる国内の動向
 
 国内では,大気汚染防止法が1968年に,1970年には水質汚濁防止法,海洋汚染防止法および農用地汚染防止法が制定された。その後,光化学スモッグの事件が頻発したり,BHCやDDTの販売が禁止されるなど,農業と環境に関わる問題が数多く発生した。このような背景のもとに,農業環境技術研究所が1983年に発足した。わが国で初めての環境という名のつく研究所であった。1986年にはチェルノブイリ原子力発電所の事故が発生し,緊急の放射能汚染調査が開始された。当研究所は主体的に何年もこの調査に参加し,安全性確保の実証に努めた。
 また,地球環境計画が1990年に,環境基本計画が1994年に策定され,国内でも環境問題への盛り上がりが見られた。このころ,組換え作物の問題が新たに浮上した。1998年には地球温暖化対策推進法が策定された。また,食料・農業・農村基本法が1999年に公布され,この基本法に関連して環境3法が公布された。この年,ダイオキシンによる作物汚染が所沢で,ウラン加工施設(JCO)で臨界事故による作物汚染問題が東海村で発生した。国内においても農業と環境問題が密接に関係している。国内の環境問題の動向を表1(資料1,p2-5)に示した。
 
4.農林水産省における環境保全に関連する研究の流れ
 
 わが国の経済は、昭和30年頃を境にして戦後の復興期を脱却し、成長期へと入っていった。昭和40年代半ばにかけての新しい科学技術の発展には、目を見張るものがあった。その結果、わが国は世界でも類のない経済的発展をとげることができた。しかし、この発展の裏には、人体や自然への安全性、産業や都市廃棄物の処理など環境への社会的配慮が払われていない事実が厳然としてあった。
 このため、大気、水、土壌、生物および人間に対してさまざまな公害問題が発生し、これが大きな社会問題となり、経済活動そのものに制約が加えられるようになってきた。そのうえ、各種の汚染問題は農林水産活動や食品の安全性にも深刻な影響を与えるにいたった。
 これらの現象に対して、農林水産省でも公害研究調査が実施された。この研究調査は、昭和31年の農林水産技術会議の発足により、学際的なプロジェクト体制をとり、農林水産業の生産の維持・増進と安全な食料供給の観点から行われてきた。ところが、公害問題は年がたつれて複雑かつ深刻化したため、各省庁は個別の調査研究に対応しきれなくなった。このためもあって昭和46年に環境庁が発足し、各省庁の環境関係の試験研究を総合調整し、予算も一括して計上するようになった。
 この間、水質汚濁、重金属汚染、廃棄物、大気汚染、農林生態系の保全、農薬の安全性などのプロジェクトが実施され、その成果は、農林水産技術会議により研究成果としてまとめられた。これらについては,文末の文献を参照されたい。
 
5.農業環境技術研究所の設立
 
 これらの成果が発表され始めた時を同じくして、農業関係試験研究機関の再編整備により、昭和58年に、人間活動と自然生態系とが高い親和性をもつ農業技術体系を確立するための農業環境技術研究所が設立された。
 農業は食料の生産供給と同時に緑の保全、水資源の涵養、大気の浄化などの重要な役割を果たしている。しかし、人間の生産活動の発展と生活圏の拡大に伴って農業生産活動が悪化したり、農業形態の変化に伴って農業生態系や自然生態系へマイナスのインパクトが生じ、さらには地球規模の環境問題が懸念されるようになってきた。
 このような問題を克服し、人間生活と自然生態系とが高い親和性をもつ農業技術体系を確立するための試験研究の整備が必要とされ、農業環境技術研究所が農業環境の総合的制御・保全・利用に関する先行的・基盤的技術開発を行う機関として誕生した。
 農業環境技術研究所は、食料生産の基本となる持続的農業の確立、国土および資源の適切な利用、環境の維持・保全、多様な生物との共存などを満足させる理想的な農業・農村の創造、あるいは地球規模の環境問題の解決に向けて総合的農業管理システムを構築することを目指した。
 このような研究目標を達成するため、次の研究基本方向を定めて研究を行ってきた。
(1)農業環境資源の分類及び大気、土壌、水、生物、資材など環境構成要素の特性解明と機能評価
(2)農業生態系における環境構成要素の動態と相互作用の解明
(3)地球環境保全に貢献する農業生態系の機能の解明・評価と影響軽減技術の開発 
(4)農業生態系を総合的に計画・管理する技術の開発。
 
6.農業環境研究の流れと成果
 
 当研究所は,上述した環境問題の流れの中で様々なプロジェクト研究に参加したり,自らシンポジウムを開催し,その成果を様々な形で公表してきた。以下にプロジェクトの内容やその成果などを簡単に紹介する。
 
1)主要なプロジェクト研究の推移(1983−2000)」
 農業環境技術研究所は1983年(昭和58年)に設立された。その後,時代の流れに即応しながら各種のプロジェクトを実施してきた。主要なプロジェクト研究の推移を図1(資料1,p12)に示した。これらを整理すると次のようにまとめることができる。


●国土保全機能:「国土資源」「水保全管理」「多面的機能」「中山間保全」などに代表される国土保全および農業生態系の持つ環境保全機能に関する研究。
●環境と貿易:国土保全機能研究の流れで、OECDで検討されている農業環境指標のための研究。国際的な対応も含まれている研究。
●生物・生態機能:「GEP」「バイオマス」「生物情報」などに代表される生物や生態のもつ機能を解明し、これを利活用しようとする研究。
●持続的農業:「物質循環」「LCA」「ISA」など、環境を保全しつつ持続的な農業を営むための物質循環に関わる研究。
●環境保全型有害生物管理:「生物防除」「天敵生物」「病害診断」などに代表される生物管理に関する研究。新たに「侵入帰化植物」や「IPM」などの研究にも発展しつつある。
●組換え作物の安全性:「安全性評価」「アセスメント手法」に続いて「組換え体実用化」「組換え体産業化」など組換え体の安全性に関する研究。今後さらに研究の深化が期待される分野。
●環境保全型の資源・資材管理:「地下水水質」「家畜排泄物」「ハイテク産業」など土壌および水質の汚染、またその原因となる家畜尿汚水、汚泥、微量元素など環境に影響を及ぼす物質の管理に関する研究。
●環境ホルモン:「環境ホルモン」「ダイオキシン」など新たに時空を越えた環境汚染物質、内分泌かく乱物質の研究で,将来ますます深化が期待される分野。
●重金属汚染:新たな「カドミウム」「微量重金属」に関わる環境問題で,内分泌かく乱物質およびCODEXに関係する重金属の研究。
●地球温暖化:「地球温暖化」「炭素循環」「メタン・亜酸化窒素」に代表される温暖化に影響を及ぼす物質の基礎的な研究。また、温暖化が農業生産に及ぼす影響に関する研究が、「FACE」「先駆的地球環境」「生物圏脆弱性」などで行われている。
●砂漠化・オゾン層破壊・酸性雨など地球環境問題:「大気汚染」「酸性降下物」「紫外線」「砂漠化」などの研究が幅広く行われている。最近では、「臭化メチル」「オゾン層破壊」の研究が行われている。
●計測情報・リモセン:「リモセン」にはじまる研究は、「マイクロ波」を経て、「高精度衛星」へと発展し、新たに「次世代SAR」が開始された。
●原子力・放射能:「原子力」「放射能」などアイソトープ利用や放射能追跡のためのプロジェクトが継続的に実施されている。この研究の継続性が,東海村ウラン加工施設臨界事故などに即座に対応可能。

 これらのプロジェクトの成果については,文末の文献を参照されたい。

 
2)「農業環境シンポジウム」の推移
 当研究所では,様々な分野でシンポジウムや研究会を開催している表1(資料1,p2-5)。なかでも「農業環境シンポジウム」は,所全体のシンポジウムとして位置づけられており,それぞれの時代に対応した問題点が摘出されてきた。第1回から20回までのテーマを以下に紹介する。

第 1回
第 2回
第 3回
第 4回
第 5回
第 6回
第 7回
第 8
第 9回
第10回
第11回
第12回
第13回
第14回
第15回
第16回
第17回
第18回
第19回
第20回
農業環境情報システムの在り方
農村地域と環境研究
新環境における生物群集の攪乱と安定
酸性雨の農業生態系への影響評価に関する展望
農業環境における生物活性物質と生物相互作用
混住地域における農業環境管理の方向
地球規模の環境問題−物質・エネルギーの循環の視点から−
農林研究における非破壊法による生体情報計測技術の開発
農山漁村地域の多面的機能の評価と環境管理手法
農村生態系における生物相の保全-ビオトプの構造と機能の視点から-
農業研究における放射線高度利用
農業リモートセンシングの現状と展望
資源のリサイクルと農業環境保
導入・侵入生物の生態系へのインパクト
土壌分類の利活用による環境保全技術の展開方向
21世紀の食料確保と農業環境
今後のわが国における公益的機能活用を目的とする農業施策の可能性
農業におけるライフサイクルアセスメント
農業を軸とした生物系廃棄物の循環利用の展望
組換え作物の生態系への影響評価研究
1984
1985
1986
1986
1987
1988
1988
1989
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000

 
3)農業環境研究叢書とNIAES Seriesの刊行
 当所では,様々な刊行物を発行している。詳細は別紙「主な刊行物目録集」を参照していただきたい。なかでも,上記の「農業環境シンポジウム」などの結果をまとめた「農業環境研究叢書」および「NIAES Series」は一般にも市販されており,広く活用されている。

 「農業環境研究叢書」
第1号
第2号
第3号
第4号
第5号
第6号
第7号
第8号
第9号
第10号
第11号
第12号
第13号
農・林・水生態系へのアプローチ
環境中の物質循環
農林水産業における環境影響評価
農業環境を構成する生物群の相互作用とその利用技術
微量元素・化学物質と農業生態系
環境インパクトと農林生態系
地球環境と農林業
農村環境とビオトープ
農林水産業と環境保全−持続的発展を目指して−
水田生態系における生物多様性
21世紀の食料確保と農業環境
農業におけるライフサイクルアセスメント
農業を軸とした生物系廃棄物の循環利用の展望
1986
1987
1988
1989
1990
1990
1991
1993
1995
1998
1998
2000
2000
 
 「NIAES Series」
No.1
No.2

No.3
 
Ecological Processes in Agro-Ecosystems
CH4 and N2O: Global Emissions and Controls from Rice Fields and Other Agricultural and Industrial Sources
Biological Invations of Ecosystem by Pests and Beneficial Organisms
1992

1994
1999
 

 
4)主要な成果
 当研究所では,毎年その年の農業環境研究に関する研究成果を,他の研究場所の成果を含めて「農業環境研究成果情報」と題して発行している。第1集を1985年に発刊し,現在は第16集(2000)が印刷中である。環境資源特性,農業生態,地球環境および環境評価・管理の分類のもとに成果がまとめられている。
 17年間にわたる約600の成果内容の頻度数とカテゴリーを整理し,代表的な研究を「環境資源」,「農業生態」,「地球環境」および「環境管理」ごとに上位10点をまとめると次のようになる。これによって,これまで当研究所が行ってきた研究の傾向と成果があらまし明らかになる。

「環境資源」:水質浄化(22),生物分類(14),土壌分類(12),土壌特性(10),生産力評価(9),レアメタル(8),水質汚濁(8),地下水汚染(8),遺伝子解析(6),気象情報(6)
「農業生態」:生態情報(31),天敵(16),フェロモン(15),生理活性物質(15),薬剤耐性(13),残留農薬(13),植物生理(12),土壌微生物(10),アレロパシー(10),生物防除(10)
「地球環境」:温室効果ガス(24),温暖化(19),土壌侵食(14),酸性降下物(13),砂漠化(8),オゾン層破壊(7)
「環境管理」:物質循環(19),リモセン利用(19),分析法(10),多面的機能(10),画像解析(9),放射能汚染(9),情報処理(8),計測手法(8),冷害予測(7), アイソトープ利用(7)

 最近になって成果が増加しつつあるのは,環境修復(5)と組換え体安全性(2)である。
 次に,成果の中で各研究科から推薦されたものについて紹介する。これらの内容やその他の成果については,「農業環境研究成果情報:1−16集」を参照されたい。


1985年−1991年
●天敵微生物による有害線虫の制御 1985
●わが国の食料供給システムにおける窒素の動態 1986
●土壌浸食防止機能評価式の開発 1987
●ランドサットTMデータによる水稲の洪水被害推定法 1988
●安定同位体30Si利用による鉱さいケイ酸質肥料の可給態ケイ酸評価法の開発1988
●ムクナ及びエニシダのアレロパシー 1989
●タバコガの性フェロモンの化学構造 1990
●除草剤ベンチオカーブの土壌中動態とその制御 1991
1994年
●水管理によるメタンの発生制御
●ランドサットデータを用いた中国東部における砂漠化域の抽出法
●農耕地土壌分類の改訂
●農業灌漑用ため池における窒素浄化機能の定量的評価
1995年
●土壌中タンパク態窒素の存在形態と作物による直接吸収
●内蒙古半乾燥地域における過放牧による砂漠化過程の特性
●炭素源利用能に基づいた土壌細菌集団の多様性迅速評価法
●日本産及び台湾産Mythimna属(鱗翅目・ヤガ科)の分類学的再検討
●スジコナマダラメイガ卵を用いたナミヒメハナカメムシの簡易飼育法
●水生昆虫コガタシマトビケラの殺虫剤抵抗性の検出とそのメカニズム
1996年
●酸性物質の臨界負荷量推定のための定常マスバランスモデルの有効性
●炭素循環モデルに基づいた農用林における炭素収支
●農村環境の生物保持機能に着目したビオトープ結合システム
●降下性ヨウ素の野外環境下における土壌浸透の実態
●大気−植生−土壌系モデル計算による農耕地の二酸化炭素収支の変化
1997年
●地球環境変化に伴う主要穀類ごとの栽培可能地域と生産量の変動予測
●WWW用リアルタイム静止画像システムFieldEye
●温暖化時における自然植生がもつ純一次生産力とその季節変化
●TDR水分計を用いた畑地水分定数の現場測定
●天然石灰資材を利用した豚舎汚水からのリン除去技術
●農耕地における土壌からの二酸化炭素放出速度推定のためのモデル
●種子伝染性病原細菌の超高感度検出法
1998年
●植物体内におけるホウ素の化学形態と新たな機能
●廃水処理余剰汚泥施用による土壌のレアメタル富化の可能性
●農用地の持つ国土保全機能評価と農業地域類型区分との関係
●農業統計情報を用いた地域レベルの窒素収支算定システム
●気象情報と作物モデルによる水稲生育過程リアルタイム推定システム
●田面水の水質及びトリハロメタン生成能に及ぼす肥培管理の影響
●放線菌のキチナーゼ遺伝子の多様性とその発現制御機能の解明
●土壌くん蒸用臭化メチルの大気への放出量の把握と削減技術
1999年
●畑栽培下におけるイネの低リン酸耐性に関わるQTL(量的形質遺伝子座)の解明
●日本と韓国における水稲収量変動の特徴と推定
●植物病原細菌の簡易な定量法
2000年
●芳香族塩素化合物を分解する土壌細菌とその分解遺伝子の多様性
●東海村ウラン加工施設臨界事故に伴う農作物の緊急放射能調査と平常値調査
●ホウ素及びストロンチウムの安定同位体比によるコメの生産国の判別

 
5)見えない成果:国際研究から普及まで
 当研究所の成果には,刊行物やシンポジウムなど広く世間に公表されてきたもの以外に一般には成果として見えていないものもある。その例の一部を紹介する。

国際研究



 
Intergovernmental Pannel on Climate Change (IPCC) の Climate Change 1990,1995 などの主著者などとして貢献。Scientific Committee on Problems on the Environment(SCOPE) の研究会議の開催とまとめ。
InternationalGeosphere-Biosphere Programme (IGBP) の研究会議の開催とまとめなど。
国際行政
 
Organization for Economic-Cooperation and Development (OECD) の「農業環境指標」の作成のための基礎資料の提供や会議への派遣協力など。
他省研究
 
チェルノブイリ原発事故による主要核種の放射能汚染調査(厚生省・環境庁)。インドネシアの森林火災の調査研究(環境庁・気象庁)。
他省行政


 
「気候変動に関する国際連合枠組み条約」に基づく日本国報告書に温室効果ガスの排出量提示(環境庁)。「環境白書」に世界の食糧貿易における窒素の動態研究が掲載(環境庁)。環境庁の土壌汚染環境基準設定調査の協力。
農水行政

 
「図説農業白書」などの資料として各種のデータの提供。農産園芸局「環境保全型土壌管理対策推進事業土壌生成温室効果ガス動態調査報告書」などの企画・解析・作成。組換え作物の安全性評価手法の開発など。
都県研究
 
性フェロモンの構造決定。合成製剤の研究機関への提供。都道府県依頼研究員受け入れによる研究協力。昆虫等の同定依頼など。
都県行政
 
性フェロモン構造決定に伴う防除事業の実施。植物病原微生物・線虫及び関連微生物の同定など。
民間研究
 
高分解能ICP−MSの開発(イギリス)。圃場水分計測システム・土壌ガス拡散簡易測定装置・土色計などの市販化への協力など。
現場普及
 
冷害防止・気象改善法のための防風ネットの普及。臭化メチルの大気放出抑制技術の活用など。
 
 
7.新農業環境技術研究所の検討経過と組織案
 
1)検討経過
 農政改革大綱に合わせて,技術会議に農業関係試験研究検討会が1998年10月に設置された。その「中間とりまとめ」が1999年2月に次にように整理された。
(1)新たな農政の展開に即した政策研究の遂行
(2)食料の安定供給確保のための農業生産力の向上と農業の体質強化
(3)安全・良質で多種多様な食糧の供給と食品産業の健全な発展
(4)先端技術の開発・導入による生産性の飛躍的向上,農林水産業の新たな展開を可能とする新産業の創出
(5)地域の条件や特色を生かした農業の展開
(6)自然循環機能等農林水産業と環境の関連性の解明
(7)農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮及び農村地域社会の活性化
(8)世界の食料・環境問題解決のための国際貢献
 この検討会の内容に対して,農業政策研究所(農水省直轄)および独立行政法人農業技術研究機構・農業生物資源研究所・農業環境技術研究所・農業工学研究所・食品総合研究所・国際農林水産業研究センターが対応することになった。農業環境技術研究所は,上述の(6)の項目を推進する研究所として位置づけられた。
 これに対応して,農業環境技術研究所では1999年1月12日に農業環境技術研究所将来方向検討会を設置し,新しい農業環境技術研究所が重点的に推進すべき課題と運営態勢の枠組みを検討し,3月26日に報告書をとりまとめた。
 その後,3月26日に農業環境技術研究所推進方策委員会を設置し,技術会議事務局からの独立行政法人構成案に基づき,重点課題,研究組織のあり方など研究関連問題を検討した。この結果を7月13日の運営委員会にかけ,外部有識者の意見を頂いた。また,10月20-22日には外国人の有識者も参加する技術会議事務局レビューに検討案を説明し,基本的了解を得た。推進方策委員会の報告書を10月26日にまとめた。さらに,2000年2月15日の技術会議3次レビューでそのまとめの一部を報告した。
 技術会議の指導のもとに,1999年11月11日に独立行政法人農業環境技術研究所準備委員会を設立した。これまで14回の会合を持ち,以下に示す組織の原案を作成し,なお委員会は継続中である。
 
2)研究方向
 独立行政法人農業環境技術研究所の重点研究方向の検討にあたっては,農業環境研究の任務や領域を明確にし,農政と国民の期待に応える必要がある。一方で,農水省所管の独立行政法人の枠組みを踏まえ,その中での独自な領域を明確にするとともに,他の省庁所管の環境研究に関係する独立行政法人との違いを明確にする必要がある。さらに,農業環境研究の総合性や学際性にも気を配る必要がある。
 農業環境技術研究所は,「食料・農業・農村基本法」およびその理念や施策の基本方向を具体化した「食料・農業・農村基本計画」並びに「農林水産研究基本目標」に示された研究開発を推進するため,「農業生態系の持つ自然循環機能に基づいた食料と環境の安全性の確保」,「地球的規模での環境変化と農業生態系の相互作用の解明」および「生態学・環境科学を支える基盤技術」に関する研究を重点的に推進することになる。
 
3)研究の目標
 新農業環境技術研究所は,こうした研究方向の下に,21世紀の地球問題を見据えた広い視点から次の基礎的な研究を重点的に推進する。運営委員会やレビュー委員会の先生方から,将来積極的に研究を推進するよう指摘されていた「多面的機能」および「環境保全型農業」の研究は,今後それぞれ「農業工学研究所」および「農業技術研究機構」で行われることになった。
 
I 地球環境問題を踏まえた食料安全保障への貢献
II 農業の持つ自然循環機能に基づいた食料と環境の安全性の確保
III 農業環境資源の次世代への継承

 
4)新農業環境技術研究所の研究組織案
 新しくできる独立行政法人農業環境技術研究所においては,上記の重点研究を効率的に推進するために,次のような組織を検討中である。
 

理事長・理事・監事

環境研究官:緊急及び国際的ニーズに基づく農業環境に関する調査及び研究を総合的に推進する。

企画調整部:研究企画科・研究交流科・研究情報システム科・情報資料課・業務科

総務部:

地球環境部:農業が地球規模の環境変動に及ぼす影響の解明,地球規模の環境変動がに及ぼす影響の予測,及びそれらの影響緩和のための技術シーズの開発に関する調査及び研究を行う。

生物環境安全部:農業生態系における生物群集の構造と動態の解明,導入・侵入生物の環境影響評価,組換え体の生態系安全評価等のための調査及び研究を行う。

化学環境部:農業生態系における化学物質の動態解明,影響評価,化学物質等による環境負荷の軽減,農業環境資源の動態モニタリング,健全性の保全技術及び修復技術開発のための調査及び研究を行う。

農業環境インベントリーセンター:農業環境資源及び農業生態系に生息する生物の調査・分類及びインベントリー構築のための調査及び研究を行う。

環境化学分析センター:共同分析センター2号棟及びRI施設を管理し,農林水産省所管の研究機関等との共同利用を行うとともに,内分泌かく乱物質等有害化学物質並びに放射性同位体元素に関する調査及び研究を行う。

 
8.研究成果
 
1) 研究成果  6:アイソトープ利用研究10年の成果、1961
2) 研究成果 10:アイソトープ利用研究10年の効果、1962
3) 研究成果 17:水質汚濁に関する研究の成果、1964
4) 農林省公害研究会:農業(水稲)用水基準及び水産環境水質基準について、1970
5) 農林水産技術会議事務局:土壌及び作物体中の重金属の分析、1971
6) 研究成果 64:大気汚染による農林作物被害の測定法法に関する研究、1973
7) 研究成果 65:農薬残留の緊急対策に関する調査研究、1973
8) 研究成果 71:水質汚濁が農作物被害に及ぼす影響の解析に関する研究、1974
9) 研究成果 73:家畜ふん尿の処理・利用に関する研究、1974
10) 研究成果 75:除草剤の森林生態系に及ぼす影響とその調査方法に関する研究、1974
11) 研究成果 92:農用地土壌の特定有害物質による汚染の解析に関する研究、1976
12) 研究成果 102:農林水産生態系における汚染物質の循環と指標生物に関する研究、1977
13) 農林水産技術会議事務局:植物の金属元素含量に関するデータ集録、1977
14) 研究成果 122:農林漁業における環境保全的技術に関する総合研究、1980
15) 研究成果 151:都市廃棄物のコンポスト処理方式の改善並びに農業利用に関する研究、1983
16) 研究成果 164:光化学オキシダント農林作物の生育収量に及ぼす影響の解析に関する研究、1985
17) 研究成果 166:農耕地における土壌有機変動の予測と有機物施用基準の策定、1985
18) 研究成果 184:耕地生態系における水質保全に関する研究、1987
19) 研究成果 196:土壌−植物−家畜系における微量元素の動態解明に関する研究、1987
20) 研究成果 231:有機性汚泥の環境保全的評価及び農林業への利用に関する研究、1989
21) 研究成果 239:アレロパシーの解析と原因物質の同定・評価、1990
22) 研究成果 242:農林水産業のもつ国土資源と環境保全機能及びその維持増進に関する総合研究、1990
23) 研究成果 254:赤潮の発生予知技術の開発に関する研究、1991
24) 研究成果 257:家畜尿汚水中の窒素、りんの高能率・低コスト除去技術の開発に関する研究、1991
25) 研究成果 263:農業環境系におけるダイオキシン等芳香族塩素化合物の分解促進技術の開発、1992
26) 研究成果 269:都市近郊樹林等森林の公益的機能の維持強化のための管理技術の開発、1992
27) 研究成果 272:耕草地管理に基づく窒素、リンの発生負荷低減に関する研究、1992
28) 研究成果 277:農耕林地における地下水の水質変動機構の解明に関する研究、1992
29) 研究成果 278:組換え体の野外環境下での安全性評価手法の開発、1993
30) 研究成果 279:長期・低濃度広域帯気汚染が主要農作物に及ぼす影響の解明と評価法の開発に関する研究、1993
31) 研究成果 281:海産魚類による汚染物質の影響評価手法の確立に関する研究、1993
32) 研究成果 283:農林地のもつ多面的機能の評価に関する研究、1993
33) 研究成果 291:組換え体の生態系導入のためのアセスメント手法の開発、1994
34) 研究成果 294:先端技術産業に係わる環境汚染物質の拡散予測とモニタリング手法の開発に関する研究、1994
35) 研究成果 297:湿原生態系保全のためのモニタリング手法及び農用地からの影響緩和方方策の確立に関する研究、1995
36) 研究成果 308:農林業における水保全・管理機能の高度化に関する総合研究、1996
37) 研究成果 312:有害赤潮の生態学的生業による被害防除技術の開発に関する研究1996
38) 研究成果 313:中山間地域における農林業の環境保全機能の変動評価、1997
39) 研究成果 319:野生鳥獣による農林水産物被害防止等を目的とした個体群管理手法及び防止技術に関する研究、1997
40) 研究成果 321:組換え体の高度利用のためのアセスメント手法の開発、1997
41) 研究成果 328:農林生態系利用による浅層地下水の水質浄化技術の開発に関する研究、1998
42) 研究成果 332:沿岸生物に及ぼす汚染物質の慢性影響評価手法の開発に関する研究、1999
43) 研究成果 336:南西諸島における海洋への土砂流出の発生機構の解明と防止技術に関する研究、1999
44) 研究成果 339:農林水産生態系を利用した地球環境変動要因の制御技術の開発、1999

 
農業からみた地球環境研究の現状と将来方向
 
企画調整部 地球環境研究チーム長 
林 陽生
 
1.研究の位置付け
 
 従来の農業環境技術研究所の研究基本計画「地球環境保全における農業生態系の機能の解明と評価並びに影響軽減技術の開発」に含まれる多くの研究課題が,来年度には新規課題を含めて「地球規模での環境変化と農業生態系との相互作用の解明」の柱の元に新たに集約され,スタートする予定である。その内容は,(ア)地球規模の環境変動が農業生態系に及ぼす影響解明,(イ)農業が地球環境に及ぼす影響と対応技術の開発,に分けられる。それらに関する研究の現状と将来方向の概要は以下の通りである。
 
2.地球規模の環境変動が農業生態系に及ぼす影響解明
 
 従来,農業生態系には,水資源の涵養,土壌侵食の防止,気候の緩和,生物相の保全やアメニティの機能など,固有の機能が付随している。これらの機能が有機的に結びつき,食料生産の場である農業が営まれてきた。温暖化に代表される地球環境変化は,この農業生態系固有の機能を損ないつつある。
最近IPCCは,2001年に公表予定の第3次レポートのドラフトを完成させ,関係分野での修正が進んでいる。そのかなで最も重要な検討事項の一つは,温暖化による社会システムの脆弱性の評価である。今回の3次レポートの特徴は,従来行なわれてきた影響評価のみに止まらず,特に負の影響を緩和する技術や対応策を最終的な目標として明確に位置付けている点である。
 温暖化は,温室効果ガス濃度の上昇によって引き起こされ,両者の複合的な効果として影響が及ぶ。現時点では両者を分け,それぞれが社会システムに及ぼす影響を個別に解明しようとする傾向にある。その中で,温暖化はより直接的に社会システムに係わると考えられるため,比較的多くの影響評価が行なわれている。
 農業環境技術研究所は,これまでに気候シナリオのもとに作物生産量がどのように変化するかといった予測を行い,その一部はIPCCの複数のレポートに採用されている。最近では,温暖化に対するわが国の水稲栽培の脆弱性評価に関する研究を実施している。これによると,現在各地域に導入されている品種をそのまま使い,同程度の収量を確保するためには,温暖化によって北では出穂日が早まり,南では遅くなる傾向が現れることが予測された(図1)。しかし脆弱性評価といった場合には,同時に影響が及ぶ害虫の発生分布や苗の移植時期における農用水資源の減少などの制約要因を考
慮する必要があり,その結果として「影響緩和技術は何か」を明らかにすることが求められる。これに関する研究は現在進行中である。
 

 
 
 
 
 
 図1 温暖化時(2060年)における水稲出穂日の変化。
    現在より−;早まる,+:遅れる(日数)
 
 温室効果ガスのうち,CO2濃度の上昇が作物生育および収量に及ぼす影響を明らかにするための研究が進んでいる。圃場のCO2濃度を上昇させる特殊な実験装置FACE(Free Air CO2 Enrichment)を用いたもので,世界ではじめて水稲を対象とした実験(Rice FACE)が東北農業試験場との協力のもとに岩手県雫石で行なわれている。本実験結果を含めた従来の解析結果を整理すると,約50年後(CO2濃度が550〜600ppmvと予測される)では,水稲収量が現在の15%〜20%増になることが示されている。この増加割合は,同じCO2濃度上昇条件における光合成促進の割合よりもかなり小さいことが指摘されている。このような差異の原因を明らかにすることで光合成促進分の効率的な穂への取り込みの研究が進み,最終的には今後の食料問題への対策が導かれるものとして注目される。6月27日〜30日には,FACEに係わる各国の研究者が最新の成果を持ち寄り,つくば市内において国際シンポジウムが開催された。
 水稲を対象としたFACE実験は今年で3年目を迎え,さまざまな解析が進んでいる。その中の興味ある取り組みの一つとして,CO2濃度を高めた条件で登熟した籾を使った次世代の個体の収量性が調査されている。このような研究アプローチによって新しい器質を獲得した稲が開発される可能性も考えられる。
 
3.農業が地球環境に及ぼす影響と対応技術の開発
 
 20世紀以降の急激な人口増加を維持するために,灌漑は決定的に重要な役割を果たすものと期待された。しかし,塩類集積による生産力の低下や地下水の枯渇といった問題が立ちふさがり,生産力の低下した農地が世界各地に現れるに至った。大気環境においては,化石燃料の燃焼や森林伐採によって温室効果ガスの濃度が加速的に上昇した。将来の地球環境にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを抜きにして,食料生産の場である農業に係わる研究は成立しない。
 「地球の気候に危険な人為的影響を及ぼさないレベルで,温室効果ガスを安定させる」ことを目的として,1995年にベルリンで気候変動枠組み条約第1回締約国会議(COP1)が開催された。その後,1997年12月に京都で行なわれた第3回会議(COP3)にて,2000年以降の具体的な規制が取り決められた。昨年11月の第5回会議(COP5)では,報告様式などが規定され,本年のCOP6へ向けた資料作成が急がれている。現在,各国レベルで報告データの検討が進んでいるが,その基礎資料のなかから農業に係わる数値を抜粋した結果を表1に示す。
 報告の対象とされている温室効果ガスのなかで農業由来のものは,CO2,CH4,N2O,COである。CO2については農耕地土壌との収支が問題となるが数値が示されていない。CH4は国内総計の約57%が農業から発生しており,その内訳は,ほぼ腸内発酵(家畜):有機質肥料:水稲栽培(水田)=3:1:3である。N2Oは国内全体の14%に相当する量が肥料,農耕地土壌,有機物残さの燃焼によって発生している。COは国内全体の4%が有機物残さの燃焼から発生している。
 温室効果ガス排出量規制の問題と関連し,狭義の農業分野の研究において早急に把握しなければならないのは,水田からのCH4の発生とバイオマス燃焼によるCO発生の実態,および年間を通したCO2収支の実態といえよう。これらに関して農業環境技術研究所では,水田および湿地から発生するCH4を測定する技術を開発し,日本などで行なわれる中干しはCH4発生を抑制することを示した。またCH4発生は,休耕期間を含む年間を通してN2O発生とトレードオフの関係があることを明らかにした。この研究は,現在の農業技術体系がどの程度の環境負荷を発生させているかを定量的に把握するためのLCA手法を用いたプロジェクト研究の成果として得られた。
 また,畑土壌による吸収速度をCOとCH4について比較した結果,後者に比べて前者が早く吸収され,同時にワラなどの有機物が多いほど両ガスの吸収速度が早まる傾向が明らかになった。農耕地からの温室効果ガスフラックスの推定には,年間を通した計測が欠かせない。そこで, CO2収支に関しては,他省庁研究機関との協力のもとで信頼性の高い測定法を用いた観測ネットワーク(フラックス・ネットワーク)の整備が進んでいる。
 
4.まとめ
 
 ここで取り上げた研究事例はごく限られている。これまで,土地利用変化による温室効果ガス収支の変化予測,酸性降下物の農業生態系影響予測,農耕地の荒廃の予測など多くの課題が,農業からみた地球環境研究の研究課題として取り上げられている。特に,IGBPのプログラであるIGAC(International Global Atmospheric Chemistry Project),GCTE(Clobal Energy and Terrestrial Ecosystems),LUCC(Land-Use/Cover Change)のなかで,低緯度地帯における温室効果ガスフラックスの実態把握が進み,土地利用変化がガス発生量へ及ぼす影響の評価が勢力的に行なわれている。
 基本的な解析手法が確立され実態が明らかになるに従い,これら地球規模の環境変化に関する研究に対して,影響予測に基づいた具体的な緩和策の提案が求められる時代に移行しつつある。今後は影響予測の研究を深めると同時に,施策の基盤となる情報をポリシーメーカーが利用し易い媒体で整備し,提供を図る必要がある。
 
5. その他
 
 最近科学技術庁は,地球科学技術分野に関する検討会において「地球科学技術における今後の重点化すべき研究課題について‐地球環境問題の解決に向けて‐」と題した中間報告(案)をまとめた。盛り込まれた構想のなかで特筆すべきことは,地球環境問題の解決のためには,環境だけを単独で考えるのではなく,環境,資源・エネルギー,食糧などの諸問題を含めて持続発展可能な社会を求めることの重要性を指摘している点である。
 重点化すべき研究課題(表2)を見ると,農業環境に係わるキーワードが非常に多く用いられていることに気づく。この草稿は,今後人類が解決すべき問題を戦略的な目標に掲げ,これらを達成するために必要な地球科学技術,重点化の方針および研究開発目標を具体的に提案するもので,今秋に公表される予定である。農業からみた地球環境研究の方向を示すものとして注目される。

表1 国内での温室効果ガス放出量インベントリ‐1998年(単位:ギガグラム)‐
気候変動枠組み条約に対する温室効果ガス排出・吸収目録(インベントリ)
の環境庁案
[農業に係わる温室効果ガスのみ抽出(数値は小数点以下を45入)]
カテゴリ CO2 CH4 N2O CO その他
国内合計 1,184,377 1,366 65 3,684 4,649
1.エネルギー 1,106,544 178 24 3,467 3,046
2.工業 53,809 47 25 - 225
3.有機溶剤その他 - - 1 - 1,273
4.農業 - 774 9 154 -
    (57 %) (14 %) (4 %)  
  A 腸内発酵1) - 330 - - -
  B 施肥2) - 106 5 - -
  C 水稲栽培3) - 333 - - -
  D 農耕地土壌 * - 3 - -
  E 火入れ - - - - -
  F 残さ燃焼4) - 5 1 154 -
  G その他 - - - - -
5.土地利用変化と森林 *
 
-
 
-
 
-
 
-
 
6.廃棄物 24,024 366 6 44 103
           
参考          
 A 航空 18,311 1 0 31 80
 B 船舶 18,687 2 1 45 460
 C バイオマス 40,389 - - - -
その他の欄 NOXSO2などが含まれる。
- 記載無し。
* CO2に関しては、元の表の様式では放出と吸収のコラムが設けてあり、両者を区別して記入するようになっている。収支として考えるのが日本の主張。
1) 95%が牛で残りが豚。牛の内訳は、乳牛と肉牛が半々。
2) CH4放出量の約74%が有機質肥料由来。
3) 水稲栽培の内訳は水田が100%。
4) 有機物残さの内訳は穀物の残さが100%。
 

表2 地球科学技術に関する重点研究課題(検討中の課題)

1 地球温暖化研究領域
  1.1 温室効果ガスの発生源・吸収源・循環プロセスの解明
    ・ 陸上生態系、農耕地等の発生量・吸収量の解明
    陸域、海域酸素フラックスの推定
    全球における循環プロセスの解明
  1.2 気候変動の解明
    エル・ニーニョ、モンスーン等の発生メカニズムの解明
    気候変動物質循環総合モデルの開発
    中・長期の気候変動の予測・評価
    温暖化に伴う熱帯性及び温帯性低気圧の振舞い
    エル・ニーニョ/南方振動、モンスーン、梅雨循環等の変化の予測・評価
  1.3 温暖化に伴う氷床の変化と海水準変化の解明
    氷床・気候結合モデルの開発
    温暖化に伴う氷床、海水準変化の解明
    海水準予測モデルの開発
  1.4 地球温暖化に伴う脆弱な分野や地域の評価
    気候変動による水資源、農業・食糧生産の脆弱性評価
    海面上昇による沿岸システムの脆弱性評価
    温暖化による生態系、人間健康等の脆弱性評価
  1.5 温室効果ガス等の固定化技術
    海水中の溶存炭素量の観測技術
    深層海水、地中固定による周辺環境への影響予測・評価
    陸上生物、海洋生物の二酸化炭素固定能の評価
2 大気質(大気化学組成)保全研究領域
  2.1 大気質の変化がもたらす微量成分の発生・輸送・変質・沈着プロセスの解明
    対流圏における窒素・硫黄・ハロゲン循環の解明
    オゾンの生成・消滅フラックスの推定
  2.2 大気質の変化がもたらす地球温暖化への影響の解明
    エアロゾル生成メカニズムの解明
    エアロゾルの物理的・科学的性状と放射影響プロセスの解明
    エアロゾルによる雲生成メカニズムの解明
  2.3 大気質の変化に伴う脆弱な分野及び地域の評価
    紫外線の増加による生態系・人間健康の脆弱性評価
    酸性雨による生態系・農業・食糧生産の脆弱性評価
3 土壌劣化・流出防止研究領域
  3.1 気候変動が土壌の劣化・流出に及ぼす影響の解明
    気候変動と土壌劣化・流出の相互影響プロセスの解明
    中・長期的な気候変動による砂漠化の予測・評価
  3.2 砂漠化に伴う脆弱な分野及び地域の評価
    砂漠化による生態系、農業・食糧生産水資源の脆弱性評価
  3.3 土壌の劣化・流出対策技術
    灌漑システム、緑化樹木栽培技術、土壌改良技術(塩類除去)等の開発
  3.4 循環型農業システム
    持続的土地利用システムの確立
    生態学的な生産管理システムの確立
4 森林・生物多様性保全研究領域
  4.1 人間活動が森林・生物多様性の減少に及ぼす影響の解明
    土地利用形態の変化が森林・生物多様性の減少に及ぼす影響の解明
    土地利用形態の変化に伴う森林・生物多様性の減少予測・評価
5 資源・エネルギー利用研究領域
  5.1 鉱物資源の有効利用に係わる技術
    メタンハイドレードの探鉱・掘削技術
    掘削による周辺環境への影響の予測・評価
  5.2 自然エネルギーの利用推進に係わる技術
    地熱エネルギー利用技術
    海洋エネルギー利用技術
    バイオマスエネルギー利用技術
    大循環プロジェクトによる周辺環境への影響の予測・評価
  5.3 資源・エネルギーの安全利用に係わる技術

 

 
化学プラント、原子力発電所事故時の有害化学物質、放射性物質等の拡散  の予測・評価
    地層処分システムに自然現象が及ぼす影響の予測・評価
    放射性物質の岩盤中の移流・拡散・モデルの開発
  5.4 水資源の保全に係わる技術
    ・ 人口、農耕、都市化等の変化と水資源の枯渇の関係の解明
    ・ 温暖化・砂漠化等による水資源の変化の予測・評価
    ・ 水資源管理システム
6 有害化学物質等影響研究領域
  6.1 有害化学物質のモニタリング、低濃度分散メカニズムの解明
    ・ 高感度・高速モニタリングシステムの開発
    ・ 大気・土壌・地下水中の低濃度分散メカニズムの解明
  6.2 有害化学物質等の物質循環の解明及び生態系に及ぼす影響の解明
    ・ 有害化学物質等の物質循環の解明
    ・ 有害化学物質等の汚染状況の定量的把握
    ・ 生態系、人間健康等に及ぼす影響の予測・評価
7 自然災害等防止研究領域
  7.1 地震・火山噴火等の現象の予測モデルの開発

 

 
・ 地震・火山噴火等の自然現象と地殻構造・テクトニクス等との相互影響
  プロセスの解明
    ・ プレート運動の時間的・空間的変動とテクトニクスに及ぼす影響の解明
  7.2 中・長期的な気候変動と総観〜中規模大気現象の関係の解明
    ・ 中・長期的な気候変動による総観〜中規模大気現象の変化のモデル化

 

 
・ エルニーニョ、10年スケール変動等が気象等の様相変化に及ぼす影響の
  予測・評価
    ・ 地球温暖化等が気象等の様相変化に及ぼす影響の予測・評価
  7.3 災害をもたらす小規模の大気現象等の解明

 

 
・ 災害をもたらす小規模の大気現象(竜巻、降ひょう、局地的豪雨等)の
  メカニズムの解明
    ・ 小規模の大気現象の予測
8 人文・社会科学的側面からの研究領域


 

8.1 地球環境問題解決に向けた人間活動(社会・経済的側面)の制御・管理
     方策並びにその効果の予測

 

 
・ 農業活動、産業活動等と地球環境の変化(土地利用形態、生物多様性等
  を把握するための総合評価モデル
    ・ 循環型社会システムのシミュレーション
    ・ 社会的受容性の評価
  8.2 地球環境変化に伴う社会経済への影響とその対応策の解明
    ・ 地球規模の環境変化による経済的損失を推計するための方策論の開発
    ・ 地球環境変化へ人類が適応していくための方策の分析及び効果の予測
  8.3 地球システム進化への人間圏の影響の評価
    ・ 人間活動の変化(人口、農耕、都市化等の時間的・空間的変化)の解明
    ・ 人間活動の変化が地球システムに及ぼす影響の解明
9 共通・基礎研究領域
  9.1 物質・エネルギー循環の解明

 

 
・ 人間圏を含めた地球システムにおける物質・エネルギー循環のインベン
  トリーの作成
    ・ 非定常ボックスモデルの開発
  9.2 地球システムの変動の解明
    9.2.1 地球システムモデルの開発
    ・ 大気、海洋、陸地面、氷床等の結合モデルの開発
    ・ 地球システム統合モデルの開発
    ・ 計算機システムの高度化
    9.2.2 古環境変動の解明
    ・ 堆積物、氷床コア等による高精度の古環境復元技術の確立
    ・ 古文書、考古学データによる歴史時代の古環境の解
    9.2.3 極域地域システムの変動の解明
    ・ 極域における地球環境変動の観測
    ・ 各圏の相互プロセスの解明
    ・ 極域地球システムの変動メカニズムの解明
  9.3 観測・モニタリング技術等の開発
    ・ 成層圏プラットフォーム技術の確立
    ・ 高度海洋監視システムの構築
    ・ 深海地ドリリング計画
    ・ 地上・海洋観測データによるリモートセンシングデータの信頼性の確認

 

 
・ 能動的観測(地震波速度構造、比抵抗構造等)による地殻変動、マグマ
  活動等のモニタリング
    ・ 長期的な観測・モニタリングシステムの確立
  9.4 地球システム総合データベース及び情報ネットワークの構築
    ・ 地球システム総合データベースの作成
    ・ 情報ネットワークの構築

 
遺伝子組換え作物の環境影響研究の現状と将来方向
 
環境生物部 植生管理科長 三田村強
 
 はじめに
 
 世界で初めて遺伝子組換え作物が商品化したのは1994年であった。その後、米国の組換え作物開発は巨大産業として急生長し、輸出農産物としても大きなシェアを占めるようになった。しかし、組換え農産物の安全性の確認方法ならびに貿易ルールは、現在でも国際協議が続けられ、今後も修正・追加される流動的側面をもっている。また、我が国の組換え農産物の安全性の確認方法ならびに栽培・利用のルールについても、当然、これら国際協議や規制に基づいて進められているから、組換え作物の環境影響に関する研究を推進するにあたっては、このような国内外の動向を把握し、その要請に迅速かつ的確に答えられる研究内容にすることが肝要である。そこで、これまでの組換え作物の環境影響に関する国際的協議の経緯、国内外における組換え作物栽培状況および組換え作物の環境影響評価の現状を分析し、本研究所が取り組んでいる組換え作物の環境影響研究の現状と今後、重点化すべき研究方向について述べる。
 
1.組換え作物の安全性に関する国際的協議
 
 1973年に遺伝子組み換え実験が世界で最初に行われ、1975年には米国アシロマの国際会議でDNA実験の自主規制が合意され、その後、この合意に基づき、各国で実験指針が作成された。組換え体利用当初は、組換え生物を環境中に放出すると、思いもよらない性質が現れるのではないかという懸念から、生きたまま利用することが禁止されていた。しかし、1986年にOECD理事会は工業・農業等での利用おける安全性について、組換え体の利用を規制する特別の法律を制定する科学的根拠は現在、存在しないことを報告し、我が国もこれに則して後述する農林水産分野における利用指針を定めた。さらに、1993年には小規模圃場から実際の生態系を想定した安全性評価についての報告書が提出されたが、この報告書の中で、環境に対する安全性評価にあたって、ファミリアリティ(Familiarity)という考え方を提案した。この考え方は、組換え体の環境に対する安全性評価を行う上で、元の作物や導入される遺伝子についての既存の科学的情報やこれまでの育種に関する情報等、作物に対する過去の経験に関する十分な情報(精通性:ファミリアリティ)に応じて、適切な安全性を図る、と言うものであり、今後、この概念が国際的にも広く取入れられて行くものと思われる。
 1994年からはOECD専門家会合において科学的な面での安全性評価の調和のための活動が行われており、作物ごとに雑草性、交雑性など、評価の基礎となる情報を各国が共有するためのデータの収集・整理について検討されている。1999年、ケルンサミットではバイオテクノロジーと食品の安全性等についての検討が開始され、2000年2月に行われたOECDエジンバラ会議で組換え食料生産、組み換え食品と健康・規制の枠組みと消費者の関与、共通ビジョンに向けた取り組みが開始された。これらの結果は、九州沖縄サミットでOECDから報告されることになっている。
 一方、2000年1月、カナダのモントリオールで開催された生物多様性条約締約会議特別会合において、遺伝子組換え生物等の越境移動等についての「バイオセフィティ」議定書が米国、カナダなど組換え作物輸出国(マイアミグループ)とEU及び途上国との間で激しいやりとりの末、漸く決議された。主な内容は、(1)輸入国に対する事前通知・許可が必要となる対象物は、種子など環境への放出が意図される遺伝子組換え生物に限定され、(2)遺伝子組み換え作物の分別につながる正確な種別の特定を不要にし、(3)輸入国側は深刻な被害を与えることが科学的に証明されなくても公衆衛生や環境にかかる懸念に基づいて遺伝子組換え生物の輸入を制限・禁止できる(予防的アプローチ)、などである。
 また、バイオセフィティ議定書はWTOと「相互補完的」関係にある。WTO協定上の主な規定は、(1)遺伝子組換えに関わる新たな技術の応用にあたっては、環境や健康への影響についての評価が行われ、その結果を踏まえた組換え生物の生産・流通(輸入を含む)がなされ、(2)輸入国は安全でないものについては、GATT第20条に基づき、差別待遇の手段とならないような方法、または、国際貿易の偽装とされた制限となるような方法で適用されない限りにおいて、人、動物または植物の生命または健康の保護のために必要な措置を採ることができるとされている。
 
2.我が国における組換え作物の安全性評価の手続き
 
 以上のように、遺伝子組換え体の利用にあたっては、国際的調和を図りながら各国が国内の規制を定めてきた。我が国の遺伝子組み換え実験については、1979年に科学技術会議が「組換えDNA実験指針」を定め、さらに、組み換え作物等の栽培・利用にあたっては、農林水産技術会議が1989年に「農林水産分野等における組換え体利用のための指針」を定めた。開発した組換え植物が生態系に対して悪影響を与えないことを確認するための実験や、組換え植物の利用に関しては、図1に示す指針に基づき行う。すなわち、科学技術庁の2種類の「実験」指針と、農林水産省2種類の「利用」指針に基づく、4段階に分けられている。模擬的環境利用と開放系利用の段階においては、農林大臣に利用の確認申請を行い、農林水産技術術会議がその諮問委員会である「組換え体利用専門委員会」の審査結果を踏まえて利用の可否を大臣に回答した後、大臣が事業者に行おうとする利用が指針に適合していることの確認を行うことになっている。
 
3.世界における組換え作物の栽培と安全性確認状況
 
 1996年から、組換え作物の商業栽培が世界的に本格化し、その栽培面積は170万haであったが、2年後には2,780万haと爆発的に拡大した。商業栽培を行っている国は米国、カナダ、オーストラリア、アルゼンチン、メキシコ、スペイン、フランス、南アフリカの8カ国であり、このうち米国、アルゼンチン、カナダが栽培面積全体の99%を占め、米国が74%と群を抜いている。世界における組換え作物別の面積割合は除草剤耐性大豆52,害虫抵抗性トウモロコシ24、除草剤耐性ナタネ9、害虫抵抗性・除草剤耐性ワタ9、除草剤耐性トウモロコシ6%である。これまでに世界で行われた組換え作物の野外調査実施件数の国別割合は、アメリカ 78.2、カナダ8.5、フランス2.4、オランダ1.3、ベルギー1.2、イタリア1.2、日本0.9%であり、米国の野外調査実施件数は5,540件であるのに対し、日本は75件にとどまっている。我が国がこれまでに組換え農作物の環境に対する安全性の確認を行ったのは、12種47件で、平成7年以降、確認件数が急増している。米国で環境安全性を確認した農作物は12種50件、カナダ7種37件、EU域内6種14件である。
 このように、組換え作物の栽培ならびに研究開発においても米国が群を抜き、産業として順調に拡大し続け、今後もこの趨勢は大きく変化しないと思われる。このことから、我が国において、環境安全性の確認申請が提出されると考えられる作物は、米国における組換え作物の栽培の現状と開発計画をみれば、おおむね見通しがつく。
 
4.米国における遺伝子組換え作物生産の動向と今後の計画
 
 組換え作物の研究開発の速度は極めて速く、また、多種多様の組換え作物が環境安全性の確認を終えているが、これらの作物すべてを環境影響評価研究の対象にすることは実際上、困難であり、重点化すべき課題の絞り込みが必要である。そこで、米国における組換え作物の栽培と開発の動向を次に検討すると、
 これまでに商品化された組換え作物は、(1)Btトキシンを発現させた害虫抵抗性作物(トウモロコシ、ワタ、ジャガイモ)、(2)グリホサート・グリホシネート除草剤耐性作物(大豆、ナタネ、トウモロコシ、ワタ)、(3)ウイルス抵抗性作物(ジャガイモ、スクワシュ、パパイヤ)であり、これらの組換え作物開発の目的は栽培・管理費の低減を目的としている。
 その他、日持ちトマト、高ラウリン酸ナタネ、高オレイン酸大豆など、高品質化によって付加価値を高めることを目的とした作物もある。
 今後、米国の企業が開発を計画している作物は、(1)Bt作物(新たな害虫抵抗あるいは新Btトキシン遺伝子導入のトウモロコシ、ワタ、Btトマト、ひまわり、大豆、カノーラ、小麦)、(2)グリホサート・グリホシネート除草剤耐性作物(甜菜、レイプ、ジャガイモ、小麦、ライス、大豆、甜菜、ワタ)、(3)グリホサート耐性+Bt大豆、(4)病気・ウイルス抵抗性(トウモロコシ、ジャガイモ、小麦、トマト、ネマトーダ抵抗性大豆)、等の栽培・管理費の低減を目的とした作物である。
 品質向上させた組換え作物としては、(1)低フィチン酸(燐酸吸収向上)トウモロコシ、(2)高ステアリン酸大豆、高蛋白質大豆、(3)高ステアリン酸カノーラ、高カロチンカノーラ、低飽和脂肪カノーラ、(4)色つきワタ、高品質繊維ワタ、(5)高品質ジャガイモ(傷による変色防止、低水分ジャガイモ)、(6)小麦;高グルテン、高スターチ、粒ぞろい、ミネラル強化、(7)味の良いトマト、ピーマン、成熟抑制ラズベリー、イチゴ、バナナ、パイナップルがある。しかし、これらの高品質化組換え作物は、栽培・管理経費削減目的の組み換え作物のようなコスト削減効果は低く、販売価格が不透明であり、流通時の分別が難しいなどの理由から、農家がこれらの作物の栽培を直ちに増やすとは考えにくい。
 このように、米国における組換え作物開発は、既存の組み換え技術の延長線にあることから、今後、我が国の組換え作物の環境影響に関わる研究としては、当面、栽培・管理費削減を目的とした組換え作物について重点化しても大きな誤りはないと思われる。それらの組換え作物を機能別に分類すると、Btトキシン発現作物、除草剤グリホサート・グリホシーネート耐性作物、ウイルス抵抗性作物の3タイプであり、作物別ではトウモロコシ、ナタネ、イネ、大豆、小麦、ジャガイモが上げられるが、このうち、小麦、ジャガイモは環境に対する安全性の確認はこれまでなされていない。
 
5.組換え作物の環境影響に関わる課題
 
 近年、我が国においても組換え農作物は消費者に身近なものとなり、その安全性については様々な議論がされている。議論の内容は多岐にわったっているが、環境影響に関わる事項のみを摘出すると、(1)組換え作物そのものが雑草化しないか、(2)導入遺伝子が近縁の非組換え作物や野生植物と自然交雑し、我が国の生態系に定着・拡大しないか(遺伝子拡散)、(3)ウイルス遺伝子を導入した作物を栽培した場合に導入遺伝子が産生する外皮タンパク質を取り込んだ新種のウイルスが作られ、生態系に拡散しないか(トランスキャプシデーション)、(4)導入した遺伝子が産生する毒素を非標的野生生物が摂食することによって野生生物の生育・生存に悪影響を及ぼさないか、(5)害虫抵抗性あるいは除草剤耐性組換え作物を連作することによって抵抗性生物型の出現を促進させないか(抵抗性バイオタイプ)、(6)長期栽培に伴う生態系影響の予見は困難ではないか、などが上げられる。これらのなかで、(1)の事項は、組換え作物も含め導入植物ならびに侵入植物の定着・拡大に関する課題として取り扱うのが適切であり、この点については後ほど述べる。また、(5)の事項は組換え作物固有の課題というよりも2次的影響、すなわち農薬連用に伴う栽培管理の課題とみなすことができる。ちなみに、除草剤抵抗性雑草の出現に関する研究については、当所・植生管理科で既に研究を行っており、これらの研究成果を活用することが可能である。
 以上のことから、組換え作物による環境影響に関する検討すべき研究課題を整理をすると、次の3項目に要約できる。
a.近縁の作物ならびに野生植物との自然交雑ならびに定着・拡大の可能性
b.組換え作物の産生する物質が野生生物に及ぼす影響評価
c.微生物等による組換え作物からの導入遺伝子の拡散の可能性
 
6.農林水産省における組換え体研究の取組み状況
 
 農林水産技術会議では昭和62年から今日まで組換え体の安全性評価に関するプロジェクト研究を実施し、本研究所が一貫して主査を担当している。このプロジェクト研究の内容を分類すると、組換え微生物等の検出手法、抗生物質耐性等の導入遺伝子の安全性・発現制御技術に関する課題など、組換え技術そのもの安全性に関する研究がこれまで多く、組換え作物の導入が生態系の植物や昆虫の生育・存続に及ぼす影響解明研究が本格的に開始されたのは平成11年度からである。
 他方、当研究所ではプロジェクト・グループを編成し、1988年から1992年にかけて、TMV抵抗性を付与したトマトの生態系に対する安全性評価研究を科学技術庁と農林水産省の指針に基づき、所定の手続きを経て1992年に開放系利用(一般圃場栽培)の確認を取った後、一般圃場でこの組換えトマトと非組換えトマトを交配し、育種素材として実用化を図った。この一連の調査研究ならびに確認手続きは国内最初であり、この業績は事業者が組換え体利用確認申請を行うマニュアルとして活用されている。
 また、昨年5月にネイチャー誌に害虫抵抗性遺伝子導入トウモロコシ(Btトウモロコシ)の花粉をオオカバマダラの幼虫に摂食させたところ、44%が死亡し、生存した個体の生育も阻害されたことが報告され、Bt花粉による非標的昆虫への安全性評価を行う必要があることが指摘された。しかし、我が国ではBtトウモロコシ花粉に係わる安全性評価に必要なデータがこれまでなかったので、当研究所では急遽、プロジェクトチームを編成し(4科7研究室)、花粉の飛散距離・落下数、鱗翅目昆虫の幼虫にBt花粉を摂食させる試験、花粉中のBtトキシン蛋白質含有量の検出、チョウ目昆虫の絶滅危惧種の生態特性などについて、関係専門分野の研究者が調査を行った(表1)。この結果、Btトウモロコシの花粉の飛散によって非標的鱗翅目昆虫が受ける影響の可能性は、実際上、無視し得るほど小さいことを総合的に判断した。この緊急調査の結果を基に、農林水産技術会議では記者発表を行い、また、上記指針の中に花粉でのBtトキシンを発現についての安全性に係わる評価項目を加えた。
 このように、この調査は関係分野の研究者が連携して調査を同時に行い、それらの結果を総合的に分析し、鱗翅目昆虫への影響についての判断を下した。このことによって、6ヶ月という短期間の調査ではあったが、特定分野の偏った判断による誤ちの危険性を回避することができたものと考えており、今後も生態系影響評価研究については、総合研究が行える機動的研究組織体制を取れるようにしておく必要がある。
 
7.今後、重点的に取り組む研究課題
 
 現在、農業環境技術研究所ではプロジェクト研究[組換え体産業化]において、環境影響に係わる次の研究を行っている。
a.鱗翅目昆虫に対する害虫抵抗性遺伝子導入トウモコロシの安全性評価
b.組換え体植物の開放系での利用に伴う遺伝子拡散のリスク評価のための基礎的研究
c.植物表生菌における遺伝子の水平移動・ゲノムの再編成の分子機構の解明
 
d.組換えナタネの導入ならびに侵入植物の分布拡大が近縁の作物や野生植物への遺伝子流動の実態を把握し、遺伝的多様性に及ぼす影響を評価する。
e.害虫抵抗性トウモロコシ等の組換え作物が産生するBtトキシンタンパク質等が非標的鱗翅目昆虫等に及ぼす影響を解明し、評価する。
f.微生物による導入遺伝子の伝達、再編、交換等の解析を行うとともに、環境中における導入遺伝子の動態や拡散をモニタリングするための遺伝的解析手法を開発する。
 これらの研究計画は上記(5)−a,b,cと対応しており、いずれも欠くことのできない重要課題に絞り込んでいる。
 
8.関連研究の重要性
 
 以上、組換え作物栽培による生態系への安全性評価研究として今後、重点的に行う研究内容にについて述べたが、生態系への影響は予測・検出が困難なことが多く、上記の研究(7)−d,e,fだけでは解決できない。ちなみに、(1)組換え作物導入によって近縁種と自然交雑し、それが分布拡大するか否かは、数十年あるいは数百年を経過しなければ、結果が判明しない植物もある。また、(2)Btトウモロコシで飼育したヨーロッパアワノメイガを補食天敵であるヒメクサカゲロウの幼虫に摂食させたところ、非Btトウモロコシ区よりも死亡率が高かったという報告があるが、このような食物連鎖を経て影響が現れる問題の解明は困難性を伴う。したがって、組換え作物導入による生態系の生物相に及ぼす影響評価研究は、上記の研究内容だけでは解決が困難であり、関連研究の充実と情報の集積が必要である。すなわち、組換え作物が逸出あるいは在来植物と交雑して雑草化する課題については、これまで、海外から我が国に導入した作物・植物あるいは侵入した野生植物が国内にどうのように分布拡大あるいは消失したかの調査・研究を蓄積しておけば、組換え作物が導入された場合の影響について類推が可能になる。また、(2)多様な生物相で構成される農業生態系における複雑な食物連鎖網の解明研究の事例を蓄積して、これらの食物網のファイルから、問題が生じた生態系と類似の生態系における食物網を調べれば、影響を及ぼす可能性のある生物種をスクリーニングすることが可能になると思われる。
 以上の研究推進方向は、前述のOECDが提案した環境に対する安全性に当たっての考え方、ファミリアリティーと共通しており、国際的にも受け入れられるものと思われる。
 


 

施 設

主な評価項目


 
 









 

閉鎖系温室
 

導入遺伝子の発現
形態・生育特性


 「組換えDNA実験指針」
  (1979年)



 科学技術会議
 ライフサイエンス部会
 組換えDNA技術
 分科会

非閉鎖系温室


 

形態・生育特性
生殖特性
有毒物質の産生性
 

 


 





















 

隔離ほ場




 

周辺生物相への影響
雑草性



 

 「農林水産分野における
 組換え体の利用のための指針」
  (1989年)

 農林水産技術会議
  組換え体利用専門委員会


 

一般ほ場で栽培が可能

−−−→






−−−→










−−−→


 






















 






















 














 








 

 飼料及び飼料添加物
 としての安全性評価
「組換え体利用飼料の
 安全性評価指針」等
  (1996年)

 農業資材審議会
  飼料部会

 

 

 








 








 

 食品としての安全性評価
「組換えDNA技術応用食品
  ・食品添加物の
  安全性評価指針」
   (1991年)

 食品衛生調査会
バイオテクノロジ−特別部会
 

図1  我が国における組換え作物の安全性評価の流れ
 
 
 
表1 Btトウモロコシ花粉が鱗翅目昆虫に及ぼす影響評価緊急調査検討委員会の構成
 

調 査 項 目

調 査 担 当 者

1)トウモロコシ圃場からの花粉落下数調査
2)トウモロコシ圃場からの花粉落下数の推定式の作成
3)Btトウモロコシ花粉摂取による鱗翅目昆虫の生育影響調査
4)Btトウモロコシ花粉中のBtトキシンタンパク質含有量の検定
5)我が国における鱗翅目の希少種・危急種・絶滅危惧種の食草に関する文献調査

植生生態研(松尾主研)
大気生態研(川島室長)
昆虫行動研(斎藤室長)、
松井昆虫管理科長
殺虫剤動態研(大津技官)

昆虫分類研(松村室長)、
保全植生研(大黒主研)

 

検討委会の構成:環境研究官を委員長とし、上記調査担当者と下記のメンバーで構成
        環境生物部部長、植生管理科長、農薬動態科長、農業気象管理科長、業務科長

 
 

 
内分泌かく乱物質研究の現状と将来方向
 
資材動態部 農薬動態科長 上路雅子
 
1.背景及び目的
 
 農業は安全で高品質の食料生産と環境の保全を使命としている。しかし、農業生産過程で使用する資材、及び農業生態系外から移入する化学物質による農業生産物や環境汚染の懸念が拡大している。
 生体内に超微量でも取りこまれると内分泌作用をかく乱し、生殖機能の異常、繁殖力の低下、発ガンや奇形の発生等を引き起こす疑いのある化学物質−内分泌かく乱物質−に関係する問題が、農業分野でも生じている。ダイオキシン類に関しては、所沢でのホウレンソウ等農作物の汚染、ベルギーで発生した家畜飼料を介しての畜産物汚染、さらに、過去に使用された農薬製剤の不純物として毒性の高いダイオキシンの検出等があり、食料の安全性や農業生態系の保全の面から大きな不安材料となっている。
 環境庁「外因性内分泌攪乱化学物質問題に関する研究班」から提出された「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」では、内分泌かく乱作用が疑われる化学物質として67物質(群)をリストアップした。特に、農薬がその約6割を占め、さらにカドミウム、鉛、水銀にも同様の作用が疑われている。しかし、大部分の化学物質について、毒性発現と作用メカニズムの因果関係は必ずしも明確でなく、内分泌かく乱作用の有無が十分な科学的知見に基づいたものといえない。今後、データの集積が必要である。
 すでに、農業を取り巻く内分泌かく乱物質問題に対応するため、農作物や農業生態系への影響実態の解明、環境中での動態解明、汚染防止及び汚染環境の修復等の対策技術開発にむけた研究を開始しており、さらに、これらの研究を強力に推進することが重要である。ここでは、内分泌かく乱作用の疑いがあるとされたダイオキシン類及び農薬に関する研究の方向を示す。
 
2.ダイオキシン類研究の現状と今後の課題
 
1)農作物における汚染実態と汚染機構の解明
 農業生態系を汚染するダイオキシン類は、主として廃棄物焼却施設からの排出に由来するものであるが、これに過去の農薬不純物として農地土壌に混入したものが加わる。ダイオキシン類は難分解性であるため、長期間、大気及び土壌の粒子に吸着して環境中に残留し、農作物汚染を招くことが懸念されている。その汚染実態を明確にするため、平成11年度から開始された環境研究「環境ホルモン」、行政対応「ダイオキシン」で、イネ、ホウレンソウ、ニンジン等での可食部を中心とした作物体部位別における汚染実態を解析している。汚染程度は農作物の種類や環境条件で著しく異なるとされており、今後の耐容一日摂取量の低減化を含めた見直しに対応するため、より低濃度レベルでのモニタリング調査による実態解明を行う。
 農作物から検出されたダイオキシン類の汚染経路を解明することは、汚染防止にむけた対策技術や汚染除去法を提示する上で重要な課題である。しかし、ダイオキシン類の水溶解性は極めて低く、さらに、物理化学的特性は異性体間で著しく異なるため実験手法の確立が困難であり、農作物のダイオキシン汚染機構に関する研究成果はほとんどない。現在、ダイオキシン類の作物体表面における付着、体内吸収、移行、蓄積等の汚染機構の解明にむけて、ダイオキシン類の異性体パターン解析、安定同位体を用いた実験方法の確立、各種異性体の物理化学的特性に基づく農作物中での動態解析等に関する課題に着手している。なお、作物種や大気、土壌等の環境因子がダイオキシン汚染機構に大きく作用することが予想されることから、さらに、環境因子との関係の解明が重要である。
 
2)土壌残留ダイオキシン類の環境中への移行・拡散機構の解明と抑制技術の開発
 農地土壌中には、土壌粒子や腐植等に強固に結合したダイオキシン類が残留している。土壌の極く表層に存在するダイオキシン類の一部は太陽光で分解したり、大気に揮散することも考えられるが、大部分は分解されずに土壌中に存在する。そのため、土壌粒子が水系に流出して、河川(底質)や海水に移行・拡散された場合、ダイオキシン類も同様な挙動をとり、その過程で水生生物に濃縮されることが懸念される。
 水田土壌からのダイオキシン類の流出防止に向けた研究を開始するため、平成12年度に環境研究「環境ホルモン」が拡充された。ここでは、土壌粒径別、土壌特性、施肥法等の違いによるダイオキシン類の土壌吸着特性の解明、土壌中での分解、揮散等の消失速度の把握、さらに、ダイオキシン類と関係が深いといわれている懸濁物質の移動過程を明らかにしダイオキシン類の移動経路を解明する。これらの成果を基に、ダイオキシン類が結合する土壌粒子凝集剤の探索や懸濁物質の流出抑制技術の開発に繋がることが期待される。
 
3)ダイオキシン類の分解機構の解明と分解除去技術の開発
 芳香族塩素化合物は一般に難分解性である。微生物機能を利用した難分解性化学物質の分解機構に関する研究はこれまでも実施してきており、その成果をダイオキシン類分解除去に関する研究に活用する。
 ダイオキシン類の土壌中での半減期は、その環境条件や異性体の物理化学的特性により異なるが概ね20−30年とされている。効率的な分解除去技術の開発に向けて、土壌中からダイオキシン類の分解微生物を単離し、その特性及び分解機構を明らかにし、さらに、汚染農地土壌へのバイオレメディエーション技術の適用を図る。また、ダイオキシン類を特異的に吸収、分解する植物に関する研究成果も報告されていることから、今後、ファイトレメディエーション技術の開発研究に取組む。
 
4)ダイオキシン類の超微量・簡易・迅速分析法の確立
 上記のダイオキシン類に関する研究で重要な視点は、極微量(10-12g/g)レベル以下での分析である。類似の構造や物理化学的特性をもつ約220種のダイオキシン類の異性体の完全な分離と定量が必須であり、高度な分析技術が要求される。
 農作物及び土壌・大気等環境中におけるダイオキシン類の分析上の問題点は、試料の採取法、イオウや油成分等の分析夾雑物の除去、各異性体の分離、極微量ダイオキシン類分析のための長時間の抽出・精製操作等である。また、一方では、短時間で分析結果がでる簡易・迅速分析法も必要とされている。分析値の精度管理も当然、要求される。これらの課題に対して、ダイオキシン類各異性体の効果的な抽出・精製法等の開発、さらに、農業分野でのモニタリング調査のための簡易・迅速分析法を開発する。
 
3.内分泌かく乱作用を視点とする農薬研究の現状と今後の課題
 
1)農薬及び分解・代謝生成物による生態影響の解明
 農薬を登録する際、各種の毒性試験や環境影響に関する試験が実施されている。生態影響評価に関しては、現在、魚類(コイ)と甲殻類(ミジンコ)の急性毒性試験を義務付けているだけであり、内分泌かく乱作用の観点からの試験方法も未整備で、また、農業生態系に生息する多種多様な生物を対象としていない。
 そのため、農業生態系で影響を受け易い魚類・水生昆虫等を試験対象生物とし、内分泌かく乱作用の検定法の開発、生体濃縮等の影響評価法に関する研究を、環境研究「環境ホルモン」、所内プロジェクト研究等により開始している。さらに、開発した試験方法を活用して、農業生態系での農薬及び分解・代謝物による内分泌かく乱作用による毒性発現の検定、食物連鎖を介した各種生物と生態系における濃縮機構の解明に発展させる。
 
2)農業生態系における動態の解明と、放出抑制・分解除去技術の開発
 農薬のリスクは、生物に対する毒性(種類と強さ)とその生物への曝露(量と時間)の両者により評価されるため、農業生態系における農薬の動態を解明することが必須である。これまでも、動態研究として多数の農薬を研究対象としてきたが、農薬の挙動や分解・代謝等は土壌特性、気象要因等の環境条件や農薬の物理化学的特性、使用方法等により著しく異なる。
 現在、従来の研究成果を基に、内分泌かく乱作用が疑われる農薬を中心として、大気、土壌、水系における動態解明と、その動態を予測するためのシミュレーションモデルの開発に取り組んでいる。今後、特に、大気での動態研究に必要である農薬の捕集方法の確立、リスク評価に適応できるシミュレーションモデルの精度向上を目指す。
 さらに、農薬使用による環境負荷を最小限に抑制するための技術開発、微生物機能を利用した汚染環境の修復技術の開発にむけ、積極的な研究の展開を行う。
 
4.内分泌かく乱物質に関する研究推進にむけた取り組み方
 
 農業分野に関係するダイオキシン類等内分泌かく乱物質に関わる研究は緒についたところであり、新農業環境技術研究所では研究体制を整備・強化して、研究の重点化を図る。すなわち、内分泌かく乱物質を含む環境負荷化学物質の影響評価、農業生態系における動態解明、環境負荷軽減・環境修復技術の開発等のための調査研究は化学環境部を中心にして、他研究部との連携を図りながら研究を推進する。なお、ダイオキシン類の農作物や農業環境周辺への影響並びにその影響軽減対策技術の開発は早急に解決すべき課題であり、化学環境部内にダイオキシンチームを設置して積極的な研究実施にむけた体制を取る。
 さらに、内分泌かく乱物質研究の実施に必須である超微量化学物質の高精度分析は、高分解能GC/MS、LC/MS、ICP/MS及び抽出・精製等前処理のための各種分析機器を装備した環境化学分析センターを活用する。なお、同分析センター内の環境化学物質分析研究室では超微量分析法及び簡易・迅速分析法の開発研究を実施し、化学環境部と連携しながら研究を推進する。
 なお、超微量で毒性を発現するダイオキシン類等のわが国における研究への取組みは、試験方法、研究施設等の面から立ち遅れていることも否定できない。今後、より効果的な研究推進と研究成果の蓄積を図るためにも、国公立試験研究機関、大学、民間研究(分析)機関等との連携・協力を図ることが重要である。
 

 
農業環境インベントリーの現状と将来方向
 
環境資源部長 浜崎忠雄
 
1. 農業環境インベントリーの背景と目的
 
 21世紀を前に、「農業と環境」は、国内外においてますます重要な問題となってきている。一つはグローバリゼーションの問題である。WTOやOECDなどで、農産物貿易や農業政策の論議において環境保全が重視され、さらに、IPCCの温暖化防止など地球規模の環境問題も重視され、その中で環境対策が農業政策の大きな柱になるなど農業との関わりも重要になっている。一方では、20世紀後半に急速に発達した鉱工業や革新的技術を用いた農業の集約化により、多量の農業資材を投入したり、さまざまな人間活動に伴って自然界に存在しなかった物質が土壌・水・大気へ拡散し、地下水の硝酸態窒素汚染、土壌中への重金属の蓄積、農業生態系における生物相の貧困化等さまざまな問題がおきている。また、新たな導入生物や海外からの侵入生物等これまで分布していなかった生物が農業生態系に生息し始めている。その結果、農業生態系における土・水・大気及び生物資源に大きな変化が生じ、その影響は農業系外にも及んでいる。このため、これまで以上に消費者やNGOなどクライアントへの対応が必要な時代になっている。さらには、60億人を越えて増えつつある世界の人口に健全な食料を供給し続けるため、資源を健全な状態で維持し、質の高い農業環境資源を次世代に継承する必要がある。
 そのため、農業環境資源の分類・特性の解明と機能評価を行うとともに、その状態の動向把握のためのモニタリングを行う。また、資源の分類・特性解明、機能評価を踏まえ、農業環境資源標本の収集・展示とデータベース化及び農業環境状態を解析した調査・研究成果のデータベース化を行い、農業環境インベントリーを構築する。さらに、他研究機関、行政が保有しているデータも取り込みながら、インベントリーの利用技術の高度化を図る。これらのデータをもとに、農業環境の総合評価と将来の変動予測を行い、研究・行政等が必要とする農業環境情報の提供を目指す。
 
2. 農業環境インベントリーの現状
 
1) 海外の事例
 アメリカ合衆国農務省自然資源保全サービス(USDA・NRCS)は、全国の土地の利用状況、地目、保全休閑地を含む農用地の土壌侵食状態を5年ごとに調査し、「全国資源インベントリー(NRI)」として公表している。このサマリーレポートはインターネット上で公開されている。また、同サービス国立土壌調査センターは全国2万地点の土壌データを、国立地図センターは全国の土壌図をCD-ROMに収納して安価で世界中に配布している。さらに、同国環境保護庁は5年ごとに更新される「有毒化学物質放出インベントリー(TRI)」をインターネット上で公開している。
 EUは1999年7月に「EUの農業、環境、農村開発:その正確な情報〜農業の課題」と題する数百ページに及ぶ報告書を刊行した。これは2000年の共通農業政策の改革において、環境保全との調和を図る農業政策を強化し、そのための支出を増加するのに際して、EU農業における様々な環境状態を詳しく分析したインベントリーといえるものである。
 また、OECDの農業委員会と環境政策委員会は、環境保全目的だとする政府支援が本当に環境改善に役立つものかを判定するのに使える農業環境指標を策定している。13の指標案がほぼ固まってきたが、その中で、例えば、農地にインプットされる窒素量と収穫物として農地から搬出される窒素量との差の指標(窒素収支)を使って、加盟国間の比較がなされている。1999年10月に出された数値によると、大部分の加盟国の窒素収支は年間100kgN/ha以下であるが、1995-97年ではオランダ294、韓国253、ベルギー183、日本135、デンマーク119kgN/haが突出している。このような指標のリスト、指標の策定手法、指標の算出に必要なデータの集団等もインベントリーの重要な要素である。
 
2) 国内の事例
 通産省地質調査所では、岩石の成因などの地球科学問題の解決や資源の評価の基礎となる分析・計測の精度を高めるための信頼性の高い岩石標準試料の収集・提供を行っている。全国の主要な岩石種について80項目の元素、同位体比、年代等のデータが付けられており、データベースはインターネット上で公開されている。また、産業廃棄物等による土壌汚染や地下水汚染を迅速かつ正確に評価するため、地質の自然バックグランドとして、日本各地5000点の元素の濃度分布を示す地球化学図を作成している。調査項目数は50であり、地球化学アトラス等で公表している。
 環境庁の生物多様性センター(平成10年設立)は、緑の国勢調査の企画・実施とともに生物多様性に関する文献の収集、希少野生動植物などの標本を保存している。また、生物多様性情報システムを構築し、生物多様性情報をデータベース化し、インターネットなどによって提供している。さらに、生物多様性の保全に関する普及啓発のための展示室を備え、公開している。国立環境研究所環境情報センターの環境数値データベースには、大気環境月間値・年間値データや公共用水域水質年間値データが入れられており、MOまたは磁気テープで提供され、インターネット上でも試験的に提供が始められている。
 
3) 農業環境技術研究所における現状
 国の行政機構の中で自然資源の分類・調査は、各省が分担実施してきた。試験研究に関しては、土壌については農水省が担当している。農耕地生態系の土壌については当所が、林野の土壌については森林総合研究所がそれぞれ分類体系と調査法の確立及び農水省・国土庁等の各種調査事業の推進に当たっての指導を行ってきた。ちなみに、地質については通産省の地質調査所が、地形については建設省の国土地理院が、気象については運輸省の気象研究所等がその役割を担っている。また、未知の種も多い農業と関係した昆虫、微生物の分類、同定法の確立と依頼同定についても当所が担当してきた。従って、当所は、土壌、昆虫、微生物等の分類、同定や特性に関する研究、標本・試料の収集・保存と展示、これらのデータベース化については蓄積を持っている。また、農業生態系の環境資源状態や物質フローを解析した調査・研究成果やそれらのデータベースについても多くの蓄積がある。
 土壌については、昭和55年筑波移転とともに設置された、わが国唯一の土壌モノリス館を核に全国の主要土壌標本(モノリスという)の収集・保管とその特性解明を行ってきた。現在では約160ペドン(ペドンは土壌個体の呼び名)の標本と標準試料を収集している。また、海外での調査研究の必要性の高まりとともに、海外の土壌モノリスもマイクロモノリスを含めると約40ペドンが収集されている。これらの標本・試料については採取地、断面記載、断面写真、分析特性値等のデータベース化を進めている。土壌モノリス館への来訪者は年間千数百人あり、教育・試験研究者や一般の人々の土壌資源に対する理解の啓蒙に役立っている。また、目的を厳しく限ってはいるが、各種イベントやテレビ放送への土壌モノリスの貸出しや研究者への標準試料の提供も行っている。一方で、学術上また国の事業や試験研究の推進上必要な土壌分類体系、土壌調査法、土壌モノリス作製法の開発を進めてきた。当所で開発した土壌モノリス作製法は海外でもタイ、フィリピン、台湾、パラグアイなどで使われている。
 昆虫については、農林水産省唯一の昆虫標本保存施設として昆虫標本館をもっており、農業昆虫を中心に現在約120万点の昆虫標本が収蔵されている。ちなみに、わが国で収蔵数が最も多いのは九州大学農学部で、当所は4番目である。これらの標本は明治32年に農事試験場に昆虫部が設置されて以来のコレクションであり、毎年3〜4万点増加している。これらの中には約1000点のタイプ標本(学名の証拠となるただ一つの標本)が含まれている。最近では発表論文で使った材料の一部を将来の検証確認のため標本として残す研究証拠標本の受け入れも行っている。欧米の学会誌には研究証拠標本の保存を義務づけるものが増えてきている。標本とともに分類関連文献も所蔵しており、分類研究上必要な文献は可能な限り収集している。また、昆虫の同定業務は、スタッフが研究時間を割いて対応しているが、年平均百数十件、2000〜3000点の依頼を受けている。また、平成12年度から農林水産省ジーンバンク事業が天敵等昆虫にも拡大されたので、農業環境インベントリーの標本収集・保存と関連させて進めていくことにしている。
 微生物(線虫を含む)については、農林水産省ジーンバンク事業の微生物遺伝資源部門のサブバンク機能を果たしており、バンクの全保存微生物株のうち約4分の1の4000株は当所が収集・評価したものである。基本的にはセンターバンク(生物資源研究所)が菌株の保存・増殖・配布を行うが、特殊菌株や法律上取り扱いに制限のあるものはサブバンクでも増殖・保存している。遺伝資源情報はインターネット上で公開している。
 観測データのデータベースとしてホームページ上で公開されているもの一例として、エコシステムデータベース(Eco-DB)がある。地球環境の将来予測のためには、大気ー地表間で繰り広げられている熱・水蒸気・温室効果ガスなどの交換過程を理解することが不可欠である。当所では、科学技術振興事業団(JST)の研究情報データベース化支援事業により、これまでに世界各地の様々な植生で得られた大気ー地表相互作用に関する実測データを再整理し、データベース化し、平成11年10月にインターネットで公開した。これは世界に発信しているため英語表記になっているが、観測データの時系列グラフ描画、観測地及び観測方法に関する情報(画像とコメント)、データのダウンロード、の3つのサービスを行っている。この8ヶ月間でアクセス数は7200を超えている。
 また、わが国の食料供給システムにおける窒素循環に関して、1960年から5年ごとの窒素の流れを示しているが、その算出のため多量のデータが集積されている。当所では、世界の主要国についてはやや大まかなレベルで、日本についてはかなり詳細なデータベースを整備しようとしている。1992年のわが国の状況を見ると、食料生産システムに約161万トン(内57%が輸入食飼料由来)の窒素が入って、1億2千万余りの人口の食料となった後、屎尿、生ごみ、家畜糞尿等としてほぼ同量の窒素が農地を含む環境に排出されている。これに化学肥料や農作物残差からの窒素を加えると約238万トンとなる。日本の農地土壌が受容できる窒素の量は約130万トン(250kgN/ha)といわれているので、いかに多量の窒素が環境に排出されているかが分かる。
 このほか、当所にはすでに土壌、水、大気、昆虫、微生物、線虫、植物・植生、農薬肥料等の資材、環境負荷物質、地球環境等に関する多くの農業環境インベントリーの要素となる研究の蓄積があり、現在も関連研究が行われている。たとえば、農業環境技術研究所資料は現在まで23号まで刊行されているが、昆虫、微生物、植物の目録に関するもの3件、土壌、昆虫、微生物の分類・同定に関するもの5件、水質、気象に関するモニタリングデータ7件、地理情報システムの開発に関するもの2件が収録されている。目録やモニタリングデータはこのままでも冊子状態のインベントリーということができるが、これらをデジタル化し有機的につなげばわれわれが目指している農業環境インベントリーの構築にすぐに貢献できる。また、特定のプロジェクトで特定の目的のために収集された冊子あるいはモニタリングデータであるが、さまざまな他の環境・生態系研究にきわめて貴重なデータになると想定されるものが研究者個々のところに蓄えられているケースが多々ある。しかもこれらのデータの多くはすでにデータベース化されているので、農業環境インベントリーの一要素として取り込み農業環境研究の発展や行政等の要請に役立てることが望ましい。さらに、分析手法、モニタリング手法、解析手法、モデリング手法などの生態系研究の過程で開発された手法も冊子状態で数多く蓄積されている。このような、それぞれの目的で蓄積され、手書きの状態、冊子としてあるいはファイルとして、分散保存管理されている情報は有機的につなげて、共有化を図る必要がある。
 現在、農業環境インベントリー構築の要素となる標本試料、調査研究の成果、新たに取り組むべき事項について、リストアップを進めている。
 
3. 農業環境インベントリーの将来方向
 
 農業環境インベントリーのイメージを別紙1に示した。当所のインベントリーは、資源標本サブインベントリー、資源標本情報サブインベントリー、農業環境情報サブインベントリーの三つの構成要素を考えている。各サブインベントリーの内容は別紙2に示してある。具体的例として、土壌資源インベントリーのイメージを別紙3に示した。
 資源標本サブインベントリーは、標本や試料といった資源そのものの収集・保存インベントリーである。標本は分類上の証拠となるとともに同定に当たって照合に用いる。新たな種の分類も標本なしには行えない。昆虫標本については、最近ではDNA鑑定による系統類縁関係が明らかにされるようになってきており、微生物とともに遺伝資源としての価値が付加されようとしている。保存試料はダイオキシンのように農業と環境に関わる新たな問題が発生した場合、全国的な分布を把握したり、過去にさかのぼって問題を追跡するためのタイムカプセル的意義をもつ標準環境試料と分析精度の向上のために用いられる標準分析試料とを考えている。
 資源標本情報サブインベントリーは、収集した標本・試料に関する情報を整理したデータベースである。基準情報やバックグランド情報となるものであり、必要に応じて提供できるようにする。
 農業環境情報サブインベントリーは、農業環境関連全分野にわたる情報の集積であり、土壌・水・気象・昆虫・微生物・線虫・植物・植生・土地等の各農業環境資源情報、生物多様性情報、ダイオキシン等の有機化学物質・重金属類・環境負荷栄養元素等の環境動態情報、窒素等の広域における物質循環情報、温暖化等の地球環境情報、組換え体の野外における安全性情報、生態系機能情報等、当所内部で集積されたモニタリングデータを含む各種データ・加工データ・図データ情報、分析・モニタリング・解析・モデリング等の手法情報とともに外部から収集・導入したこれらをデータベースに蓄積または外部情報システムとリンクしたインベントリーである。
 農業環境インベントリーは、試験研究関係者、教育関係者、行政、その他一般の利用者が、訪問、インターネット、依頼によりアクセスできるようにする。また、情報の蓄積・提供がさらに新たな蓄積・提供を生むような増殖システムにする。
 当面、以下のような業務・調査研究課題を考えている。
 
1) 農業環境資源標本・試料の収集・保管・展示・提供
 農業生態系を構成する土壌、水、大気、昆虫、微生物、線虫、植物・植生、資材等の農業環境資源標本・試料を収集・保存し、土壌モノリスや昆虫標本等として、また、ビオトープやミニ農村のような現地生態系として展示・公開し、農業環境資源に対する研究者自身の研究への活用や国民の理解を深めるために役立てる。また、収集標本・試料の特性・機能を解明し、分類情報、採取地情報、分析データのセットとして提供する。さらに、天敵等の昆虫及び微生物資源についてはジーンバンク等を通じて提供し、土壌等の資源については将来的には標準環境試料及び標準分析試料の本格的提供も検討する。収集・保存法の改良・開発研究も推進する。
 
2) 農業環境資源標本・試料の情報データベースの構築と提供
 収集保存した農業環境資源標本・試料に関する地点、分類、形態、特性、機能等に関する情報を整理し、データベース化する。昆虫についてまずタイプ標本の画像データ及び関連する文献のデータベース化を進める。データベースは冊子、電子媒体、インターネット等で公開する。
 
3) 農業環境関連調査研究成果・手法・データの収集とデータベース化及び提供
 当所にはすでに多くの農業環境インベントリーの要素となる研究の蓄積があり、現在も関連研究が行われている。関係研究分野の協力を得て、すでに公開しているエコシステムデータベースのように、これらの情報を集積し、データベース化する。同時に農業環境に係わる外部情報・データについても収集・データベース化あるいはリンクを図る。データベースは冊子、電子媒体、インターネット等で公開する。
 ・農業技術研究所資料、農業環境技術研究所資料等に発表された土壌、昆虫、微生物、植物等に関する目録、分類・同定に関する体系や同定・検索システム、水質や気象に関するモニタリングデータを収集し、データベース化する。
 ・特定のプロジェクトで特定の目的のために収集・整備された冊子データ、モニタリングデータ、地図情報等を発掘し、データベース化することにより他の研究や行政等のニーズに役立てる。
 ・環境資源や環境負荷物質の分析法、農業生態系のモニタリング手法・解析手法・モデリング手法など生態系研究の過程で開発された手法の収集を行い、マニュアル化し、データベースを作成する。
 ・外部情報・データについては、農業環境インベントリー内のデータベースとして必要かつ取り込めるものは取り込み、取り込めないものは結合(リンク)システムを整備する。
 
4) 農業環境インベントリーシステムの構築
 それぞれの目的で構築され、分散保存管理されている各種データベースを有機的な繋がりを持った農業環境インベントリーのパーツとするために、まず個別及び全体のシステムのフレームを構築し、全体を結合するインターフェイスの設計・開発を行う。ついで内容の充実を図る。システムは情報の蓄積・提供がさらに新たな蓄積・提供を生むような増殖システムにする。
 
5) 農業環境資源の分類・同定と特性・機能の解明
 土壌については包括的土壌分類体系の確立と国際的土壌分類体系との対比、各種土壌の特性の解明と機能の評価を行う。昆虫、微生物等については新種を含めた昆虫・微生物・線虫の分類・同定及び特性と機能の解明評価を行う。また、これらの農業環境資源の分類・同定と特性に関して必要に応じて研究者・技術者等に対するアドバイス、指導を行う。
 
6) 農業環境資源の調査・モニタリング手法の開発
 農林水産業と環境の関わりを探る農業環境研究は、生態学や環境科学を基礎としており、野外科学である。野外における実態をとらえ、解析し、問題解決法を見いだしてゆく。その場合、野外における実態をいかに効率よく、有意義に調査、計測するか、その手法は学問や計測ツールの発達に応じて常に改良されてゆく必要がある。常に、最先端の調査・モニタリング手法の導入・開発を行う。
 
7) 農業環境インベントリー利用技術の開発
 内外の教育・試験研究のための利用者、行政や一般の利用者の農業環境インベントリーの活用を図るため、農業環境資源の総合的評価と変動予測、そのためのデータの解析・加工、表示法の検討を行う。
 
8) 農業環境技術研究所における関連研究課題
 農業環境インベントリーは、当所のあらゆる分野の次のような研究課題と連携して、課題推進のためのインベントリーの活用と成果のインベントリーへの導入を行う。各人が、インベントリーを意識して、情報・データの収集、電子媒体を用いたデータの集積に心がける。
・農業環境資源及び環境負荷物質の分析法及びモニタリング手法の改良・開発とモニタリング
・環境資源状態の広域的時系列的計測手法の改良・開発
・農業環境資源情報・データの類型化手法及び多変量解析手法の開発
・地球規模の環境変化が農業生態系に及びす影響の解明
・農業が地球環境に及ぼす影響の解明
・環境負荷物質の動態解明
・人為的インパクトが生態系の生物相に及ぼす影響の評価
・農業生態系の生物相の構造と機能の解明
 
4. 研究推進体制
 
1) 研究組織
 農業環境技術研究所の新組織では、生態学・環境科学研究に係わる基礎的・基盤的研究として「農業環境資源情報の集積」を掲げ、中期的計画としては「土壌等の非生物資源、昆虫、微生物等の生物資源の分類・同定と特性・機能を解明するとともに、インベントリーのためのフレームを構築する」予定である。組織的には農業環境インベントリーセンターが中心となり推進する予定である。
 しかし、農業環境インベントリー構想では、単に土壌、昆虫、微生物にとどまらずすべての農業環境資源を対象にしたインベントリーを目指しており、土壌分類研究室、昆虫分類研究室、微生物分類研究室から構成される農業環境インベントリーセンターを中心に当所のすべての研究分野の連携の基にインベントリーを構築する計画である。また、農業環境インベントリーが機能するためにはやるべき業務量も多いので、要員の確保が必要である。
2) 研究施設
 現在小規模の土壌モノリス館、昆虫標本館を所有しているが、すでに手狭で機能も十分でない。農業環境資源の標本・試料の展示・保存、保存法の開発や保存処理、情報の蓄積、解析、活用のためのシステム開発、情報受信・蓄積・発信のための施設として農業環境インベントリー館を新設する必要がある。
3) 予算
 現在予定されている一般プロジェクト研究はなく、当面、経常研究、法人内プロジェクト研究等で対応しなければならない。今後、農業環境インベントリー構築研究のプロジェクト化を図る必要がある。
4) 連携協力
 農業環境インベントリーの研究と構築の進展状況及び予算状況に応じて、農林水産省の他試験研究機関並びに行政部局、都道府県、他省庁、大学等の調査・研究成果の取り込みまたはデータベース間の結合を図ってゆく必要がある。
 
 
 
 [別紙1]


 

農業環境インベントリーのイメージ
 


現地調査・標本収集

 

 

インベントリー

 

 

 

研究開発

 

現地調査
標本試料収集
標本試料作製

導入
−−−>
 




























 

資源標本サブインベントリー




























 












活用
−−>


<−−
 成果










 




























 

 




























 

標本
標準環境試料
標準分析試料
 

農業環境資源インベントリーシステムの構築
 

 

情報収集

 

試験研究機関
行政部局
各種法人
都道府県
大学
国際機関等


導入
−−−>
リンク

 

資源標本情報サブインベントリー

農業環境資源の分類・同定と特性・機能の解明

標本情報データベース
標準試料情報データベース

 

農業環境情報サブインベントリー

農業環境資源の調査・モニリング手法の開発

    ||
    ||
    ||







訪問
インター
 ネット
依頼
−−−>

<−−−
提供

土壌資源情報
昆虫資源情報
微生物資源情報
線虫情報
水資源情報
気象資源・温暖化情報
植物・植生資源情報
生物多様性情報
物質動態情報
物質循環情報
組換え体の野外における安全性情報
生態系機能情報
リモセン・土地資源情報
その他の情報

 

農業環境インベントリー利用技術の開発

利用者


試験研究関係者

教育関係者

行政機関

その他一般

 

その他の農業環境各分野の研究開発



 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 
 [別紙2]


 

農業環境インベントリー
 


 
 

資源標本サブインベントリー

 

農業環境情報サブインベントリー


 ●土壌資源標本
   土壌モノリス収集・保存・展示
   土壌標準試料収集・配布

 ●昆虫標本
   昆虫標本収集・保存・展示

 ●微生物標本
   微生物株収集・保存・展示
   土壌微生物凍結試料収集・配布

 ●線虫標本
   線虫標本収集・保存・展示

 ●植物・植生標本
   植物標本収集・保存・展示
   植生現地保存・展示

 ●その他の標本
   水・大気・資材等
 






















 


 ●土壌資源情報
   土壌特性変動
   土壌機能・評価
   土壌図
   土壌分類同定

 ●昆虫資源情報
   天敵有用昆虫
   環境指標昆虫
   昆虫分類同定

 ●微生物資源情報
   微生物遺伝資源
   種籾常在細菌フロラ
   微生物分類同定

 ●虫情報
   線虫分類同定

 ●水資源情報
   降雨・地下水・河川水質

 ●気象資源・温暖化情報
   各種生態系微気象・フラックス
   気候変動メッシュデータ
   温室効果ガス
   温暖化に伴う食料生産力の変動

 ●植物・植生資源情報
   畦畔植生の群落構造
   アレロパシー植物

 ●生物多様性情報

 ●物質動態情報
   有機化学物質
   重金属類
   栄養元素

 ●物質循環情報

 ●組換え体の野外における安全性情報

 ●生態系機能情報

 ●リモセン・土地資源情報

 ●その他の情報
 

 

 

資源標本情報サブインベントリー

 


 ●土壌資源標本情報
   土壌モノリスデータベース
   土壌標準試料データベース

 ●昆虫標本情報
   昆虫標本データベース

 ●微生物標本情報
   微生物標本データベース
   土壌微生物凍結試料データベース

 ●線虫標本情報
   線虫標本データベース

 ●植物・植生標本情報
   植物標本データベース
   植生現地保存データベース

 ●その他の標本情報
   水・大気・資材等

 























 




















































 
 
 
 
 [別紙3]


 

土壌資源インベントリーのイメージ
 


現地調査・標本収集

 

 

インベントリー

 

 

 

研 究 開 発

 

現地調査
標本試料収集
標本試料作製

導入
−−−>
 





























 

土壌資源標本・試料パッケージ





























 












活用
−−>


<−−
 成果











 





























 

土壌資源インベントリーシステムの構築





























 

土壌モノリス標本
土壌標準環境試料
土壌標準分析試料

土壌資源インベントリーシステムのフレームの構築
農業環境インベントリーとの結合システムの構築
外部情報システムとの結合システムの構築
 

 

情報収集

土壌資源情報パッケージ

試験研究機関
行政部局
各種法人
都道府県
大学
国際機関等


導入
−−−>
リンク

 

土壌地点・断面データベース
土壌特性データベース
土壌機能データベース
土壌変動データベース
土壌図データベース

土壌資源の分類同定と特性・機能の解明

土壌生成過程の解明
土壌特性・機能の解明
土壌分類法の高度化
土壌分類の国際対比

    ||
    ||
    ||







訪問
インター
 ネット
依頼
−−−>

<−−−
提供
 

土壌資源調査・分類・保存法パッケージ

土壌資源の調査・モニタリング手法の開発

土壌分類・同定法
土壌調査法
土壌分析法
土壌図化法
土壌標本・試料作製法
土壌環境モニタリング手法

土壌調査法の高度化
土壌分析法の高度化
土壌図示法の高度化
土壌標本・試料作製法の高度化
土壌環境モニタリング手法の高度化

利用者


試験研究関係者

教育関係者

行政機関

その他一般
 

土壌資源評価・変動予測手法パッケージ

土壌資源インベントリー利用技術の開発

土壌情報データベース構築法
土壌機能評価手法
土壌機能評価図作製法
 

土壌資源評価・変動予測手法
土壌機能評価
土壌変動評価
土壌変動予測


 


 


 


 


 


 


 


 


 

前の号へ ページの先頭へ 次の号へ
目次ページ 索引ページ 検索ページ 農業環境技術研究所トップページ