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情報:農業と環境
No.5 2000.9.1

 
No.5

・地球科学技術における今後の重点化すべき研究課題について
−地球環境問題の解決に向けて−中間報告,
科学技術庁研究開発局海洋地球課

・第17回農薬環境動態研究会:
「農薬等化学物質のリスク削減技術の現状と展望」

・IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第3ワーキンググループ特別報告書
「土地利用・土地利用変動・林業」

・IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第3ワーキンググループ特別報告書
「技術移転における方法論および科学技術問題」

・本の紹介 8:生命と地球の共進化,
川上紳一著,NHK出版(2000)

・本の紹介 9:遺伝子組み換え食品がわかる本,
村田幸作・清水 誠編著,法研(2000)

・本の紹介 10:遺伝子組換え食品,
大澤勝次・田中宥司責任編集,日本農芸化学会編,学会出版センター(2000)

・シンポジウム:FACE2000国際会議終了

・筑波事務所共同分析センター2号棟が完成

・農業生態遠隔計測施設(リモートセンシング)装い新たに

・侵入生物の進攻 −侵入を予測する−

・食糧と人口:FAOの予測

・FAO Agriculture: Towards 2015/30, Technical Interium Report,
April 2000 2000年7月24日公表

・資料:畜産における温室効果ガスの発生制御 第5集,
財団法人畜産技術協会(2000)

・資料:世界の農地水管理−気候区分別農地水管理の実態と将来方向−,
緑資源公団(2000)


地球科学技術における今後の重点化すべき研究課題
について−地球環境問題の解決に向けて−中間報告
科学技術庁研究開発局海洋地球課

 

 
 科学技術庁の「地球科学技術分野に関する検討会」では,平成11年10月に科学技術政策委員会から示された「地球科学技術に関する研究開発基本計画について」に対する答申のフォローアップ報告を踏まえて,昨年12月より地球科学技術分野における今後の研究開発の方向およびその推進方策等について検討を進めてきたが,このたび,「地球科学技術における今後の重点化すべき研究課題について−地球環境問題の解決に向けて−」(中間報告)をとりまとめた。( (URLは現在見つかりません。2010年5月) )。 内容は次の通りである。
1.はじめに
2.地球科学技術の範囲
3.地球科学技術を巡る現状と検討の視点
4.重点化すべき研究課題の基本原則
5.将来的に人類が解決すべき喫緊の問題
6.問題を解決するための地球科学技術及び今後の重点化すべき研究課題
 6.1 地球温暖化研究領域
 6.2 大気質(大気化学組成)保全研究領域
 6.3 土壌劣化・流出防止研究領域
 6.4 森林・生物多様性保全研究領域
 6.5 資源・エネルギー利用研究領域
 6.6 有害化学物質等影響研究領域
 6.7 自然災害等防止研究領域
 6.8 人文・社会科学的側面からの研究領域
 6.9 共通・基盤研究領域 
7.研究開発の推進方策について
 7.1 研究開発の長期的・総合的推進
 7.2 研究機関の連携,ネットワークの構築
 7.3 人材の育成・確保
 7.4 研究資金・基盤の拡充
 7.5 研究成果の評価
 7.6 国際的な取り組みの推進
 7 研究開発の推進に向けた普及・啓発活動の充実
図1 自然界と人間活動の相互作用の見取り図
表1 重点研究課題と研究開発目標年次「カッコ内の数字は研究開発目標年次(5:5年、10:10年)」
 
 問題を解決するための地球科学技術及び今後の重点化すべき研究課題は以下のようにまとめられている。
 盛り込まれた構想の中で特筆されることは,地球環境問題の解決のためには,環境のみを単独で捉えるのでなく,資源,エネルギー,食料などの諸問題を含めて持続的な発展が可能な社会を求めることの重要性を指摘している点である。
 また,農業環境に係わるキーワードが非常に多く用いられており,農業と地球環境が切っても切り離せない関係にあることが注目される。最終的には,今年中に発表される予定である。以下,( )内は研究開発目標年次を示す。
 
6.1 地球温暖化研究領域
6.2 大気質(大気化学組成)保全研究領域
6.3 土壌劣化・流出防止研究領域
6.4 森林・生物多様性保全研究領域
6.5 資源・エネルギー利用研究領域
6.6 有害化学物質等影響研究領域
6.7 自然災害等防止研究領域
6.8 人文・社会科学的側面からの研究領域
6.9 共通・基盤研究領域

 

第17回農薬動態研究会
農薬等化学物質のリスク削減技術の現状と展望
日時:平成12年9月21日(木) 場所:農業環境技術研究所大会議室

 
 
 農業環境技術研究所では,第17回農薬環境動態研究会を下記の要領で開催する。関係者の出席を歓迎する
●日時:平成12年9月21日(木)10:00〜17:00
●場所:農業環境技術研究所2F大会議室
趣旨
 環境問題に対する関心が高まる中で、農業生産資材として使用される化学合成農薬の過剰投入による環境負荷が指摘されている。食品の安全性や生態系の保全という観点から、農薬等化学物質による環境影響に対し緊急な対応が求められている。
 化学物質のリスクは毒性(種類や強弱等)と暴露量の両者から評価され、当該物質の生物に対する影響と環境中での動態の把握が必須である。新たに問題となった超微量で内分泌かく乱作用を発現する環境ホルモン物質に関しては、従来のリスク評価の妥当性が再検討されている。また、農薬の環境影響を総合的に評価する「環境指標」への対応も進められている。一方、農薬等化学物質のリスクを削減するためには、使用量の削減や周辺環境への負荷低減を図る必要があり、環境負荷低減農薬の開発やその利用技術、さらに汚染環境を修復する技術に関する研究開発が進められている。このような現状を背景に、化学物質のリスク評価に向けた取り組みと、環境に配慮した農薬利用や動態制御技術に関連する研究を概観し、今後の研究推進の方向を討議する。
 





































 
開会の挨拶 農業環境技術研究所所長 陽 捷行 (10:00〜10:10)
 
  座長:遠藤正造
1.農薬等化学物質のリスク評価に関する国内外での検討状況(OECDを中心として)

 
農薬検査所
 
小野 仁
 
(10:10〜10:50)
 
2.化学物質のリスク削減からみた製剤開発
  日本バイエルアグロケム(株) 磯野邦博 (10:50〜11:30)
 
  座長:石井英夫
3.農薬の施用技術の開発
  (1)農薬施用法の現状と今後の方向
  全農営農・技術センター 園田正則 (11:30〜12:10)
 
  昼 食 (12:10〜13:15)
 
  (2)土壌くん蒸剤の放出抑制技術
  農業環境技術研究所 小原裕三 (13:15〜13:55)
 
  座長:佐藤姚子
4.環境中におけるダイオキシン類等化学物質の分解除去技術
  (1)微生物によるダイオキシン類の分解

 
森林総合研究所
 
西田篤實
 
(13:55〜14:35)
 
  (2)分解菌集積木質炭化素材を利用した土壌中における農薬の分解除去技術
  農業環境技術研究所 高木和広 (14:35〜15:15)
 
  休 憩 (15:15〜15:30)
 
  (3)ベラドンナによるPCB分解と植物浄化技術の研究動向
  太平洋セメント(株) 高野博幸 (15:30〜16:10)
 
5.総合討論
  司会:上路雅子 (16:10〜17:00)
 
[問い合わせ先] 農業環境技術研究所 資材動態部農薬動態科 上路雅子
  〒305-8604 つくば市観音台3-1-1;Tel&Fax:0298-38-8323
  E-mail:zueji@niaes.affrc.go.jp

 

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)
第3ワーキンググループ特別報告書
「土地利用・土地利用変動・林業」

LAND USE, LAND-USE CHANGE, AND FORESTRY
Cambridge University Press, 377pp (2000)

 
 
 IPCCは,地球温暖化の科学的な評価から,各国政府が進めるべき対応戦略までを総合的に検討するために,世界気象機構(WMO)と国連環境計画(UNEP)主催の下に,1988年11月に設置された各国の専門家で構成されている組織である。
 第1次報告書は,1990年に「Climate Change 」のタイトルで公表された。1995年には,「Climate Change 1994」が公表された。「Climate Change 1995」と題する第2次報告書は,「気候変動の科学(572p)」,「気候変動の影響・適応・削減(878p)」および「気候変動の経済および社会的重要性(448p)」の三部からなる60カ国以上の科学者が参加した膨大なもので,気候変動に関するこれまでの人類の知識と知恵の総決算といえる。
 IPCCの各報告書は,これまで気候変動枠組み条約の採決(1992年),京都議定書の採択(温暖化防止京都会議1997年)などの交渉の際の土台となってきた。さらに,本年11月ハーグ(オランダ)で開催される気候変動枠組み条約の第6回締約会議(Conference of the Parties: COP, COP6)では,土地利用,土地利用変化と林業特別報告書を科学的知見として,土地利用や林業部門における温室効果ガス吸収源の取り扱いが討議される予定である。
 ここでは,新しく発刊されたIPCC特別報告書「土地利用・土地利用変動・林業(377pp)」の目次を紹介する。上述したこれらの印刷物は,ケンブリッジ大学出版から刊行されている。(http://www.ipcc.ch/ipccreports/sres/land_use/index.php?idp=0
 
第1章 全球的な展望
第2章 異なる定義と包括的な問題との関係
第3章 植林,森林再生および森林伐採
第4章 付加的な人間由来の活動
第5章 プロジェクトを基にした活動
第6章 ガイドライン報告のための京都プロトコールの意味
 このうち,第4章(pp181-281)が「農業と環境」に関係が深いので,その目次を紹介する。
4.1 序論と状況
4.2 経過と時間規模 
4.3 活動の包括と定義に関する選択
4.4 活動の分類と記述
4.5 生物燃料と林産物
4.6 3.4条項のもとでの活動:法,規定およびガイドライン
4.7 3.4条項の実行に関係する技術的問題点

 

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)
第3ワーキンググループ特別報告書
「技術移転における方法論および科学技術問題」

METHODOLOGICAL AND TECHNOLOGICAL ISSUES IN TECHNOLOGY TRANSFER,
Cambridge University Press, 466pp (2000)

 
 
  (http://www.ipcc.ch/ipccreports/sres/tectran/index.php?idp=0
 「技術移転における方法論および科学技術問題」の内容は以下の通りである。
  政策推進者のための要約:技術移転における方法論および科学技術問題

 

本の紹介 8:生命と地球の共進化
川上紳一著,NHK出版
(2000)

 
 
 共進化という言葉は、1960年代に花と昆虫の相互依存性が、それぞれの形態の進化を促してきたことを表現する言葉として生物学者によって初めて使われた。チョウは花が分泌する蜜を得るかわりに、からだに花粉をつけて植物の生殖を助ける。そうした相互作用が強まると、花の蜜を吸い上げるチョウのストローと蜜を提供する花の形態がともに特殊化する。こうした例を生物圏で探すといろいろな生物の間の共生関係と、その時間発展過程としての共進化が見いだせる。要するに複数のものが互いに影響を及ぼしながら共に進化を重ねていくことを意味する。
 気象学者のスティーブン・シュナイダーは、こうした生物間の共進化の概念が、生命と気候の間でも成立するとして、気候と生命が共進化してきたと主張している。気候は地球上の生命に影響を及ぼすと同時に、生命が地球の気候にも影響を与えるというわけである。生命が地球の気候を変える理由は、生物圏が地球の気候を決める炭素循環や窒素循環の重要な担い手になっていることからも理解できる。
 共進化かどうかはともかく、農業と環境の間にも密接な関係がある。農業活動が活発化すれば地球環境に影響が及ぶ。たとえば、反すう動物を増産させたり、イネの生産量を増大させれば、それぞれルーメンや水田から発生するメタンは増加し、地球の温暖化が促進される。一方、地球が温暖化すれば農業生産の様態は変化し、生産地や生産量に影響が及ぶ。
 1990年代になって、著者らは全国の地球科学とその周辺分野の研究者を引き込んで文部省重点領域研究として「全地球史解読計画」を提案した。地球物理学だけでなく、大気や海洋の変化、さらに生命科学まで含めた全地球史の解読を進めようというものである。生命と地球の関わりを対等に捉えようという意図から「生命と地球の共進化」という概念を提示した。本書は、そうした見方で捉えた生物進化の歴史を紹介する。生物学の情報を用いて地球の歴史を語ることが可能になった背景には、もちろんプレートテクトニクスからプルームテクトニクスへといった地球物理学そのものの進展と、遺伝子理論に基づく生物系統樹の再構成といった生物学の進展とがある。
 地球史には7大イベントがある。すなわち、1)45億年前:地球が形成された、 2)40億年前:最古の地殻物質が保存されるようになった、 3)27億年前:火成活動が活発化し,大きな大陸ができた、 4)19億年前:著しい火成活動があり,巨大な大陸がはじめて形成された、 5)約6億年前:超大陸が分裂して新しい海洋が形成され,多細胞動物が出現した、 6)2億5千年前:超大陸が形成され,海洋の酸素欠乏事件によって,生物界で大絶滅があった、 7)現在:人類が科学を発明し,地球・宇宙の歴史とその摂理を探り始めた。
 一方、生命の歴史においても生物進化の7大イベントがあるといわれる。すなわち、
1)生命の誕生、 2)代謝の始まり、 3)光合成と化学合成の始まり、 4)真核生物の登場、 5)多細胞動物の出現、 6)陸上への進出、 7)人類の誕生。
 本書を読んでいて驚かされるのは、地球史と生命史の変化の時代がピタリと対応することだ。真核生物や多細胞動物の出現が酸素の出現や極度の寒冷化と一致するのである。また、本書は生命の起源から地球および宇宙の未来まで話が及ぶ。
 農業と地球環境の研究を進めるにあたっても、得るものが散在している書である。目次を紹介する。
序 章 惑星科学から地球学へ
第1章 地球形成論から地球史へ
第2章 縞々学から全地球史解読へ
第3章 初期地球の生命像
第4章 光合成の成立と地球の酸素汚染
第5章 原生代後期の大激変
第6章 多細胞動物への道
第7章 顕生代の生物進化と地球史
終章  地球と生命の未来
参考文献

 

本の紹介 9:遺伝子組み換え食品がわかる本
村田幸作・清水 誠編著,法研
(2000)

 
 
 健康への不安,環境や生態系への影響など,遺伝子組換え食品に対して抵抗感をもつ消費者は少なくない。しかし,人口増大による食料不足が懸念される21世紀の世界で,乾燥や塩害などの環境に強い作物を作り出すことなど,遺伝子組換え食品への期待は大きい。本書は,遺伝子組み換えの技術と農業生産の現状を紹介し,専門家による化学的・社会的視点からの検証データを提示し,その利点や問題点をわかりやすく解説する。
 本書の特徴は,第4章によく現れている。消費者,企業,科学者および行政の立場から遺伝子組換え食品の光と影,すなわち安全と危険の両者を語らせる。ここに「はじめに」に書かれた編著者の思いが現れている。
 「科学は進歩します。現在の豊かな生活もすべて化学の恩恵にあずかっています。しかし,科学の進歩の結果,思わぬ事態に遭遇することもあります。環境問題がそうです。20世紀の社会は大量採集,大量生産,大量消費,大量廃棄の観念で進んできました。デカルトやベーコンのような哲学者の思想を底流にして,自然を征服することに価値が置かれたからです。そのつけが,今戻ってきたのです。」に始まる「あとがき」では,本書が単に遺伝子組換え食品に関する現状の紹介に止まらず,人口,健康,環境の観点からこの新食品に対する理解をさらに深める一助になることを願っている。
 内容は,以下の通りである。
第1章 遺伝子組み換え食品のおいたち
第2章 遺伝子組み換え技術と組み換え食品
第3章 人類を救うか?遺伝子組み換え食品の未来
第4章 遺伝子組み換え食品の光と影
第5章 遺伝子組み換え食品の流通と表示−日本で、世界で

 

本の紹介 10:遺伝子組換え食品
大澤勝次・田中宥司責任編集,日本農芸化学会編,
学会出版センター
(2000)

 
 
 「この本は遺伝子組換え食品や遺伝子組換え植物の開発に係わってきたわが国の研究者や技術者,報道関係者が集い,”自分の知っている遺伝子組換え食品のありのままの姿を伝える”ことを主眼に書いたものです。心がけたことは,”私たち自身が体験したこと,その中で知ることになった事実をありのままに伝える”ことであり,”誰にもわかりやすい言葉で,かつ正確に書く”ことでした。」と,「まえがき」にあるように,研究の現状と課題をエピソードを交えながら読ませてくれる本である。この技術によって作られる生物がわけのわからないものでなく,新しい品種であることを強調し,21世紀を支える技術であることを理解してほしいと読者に訴えている。
 14人の執筆者はすべて現役である。現在,北海道大学大学院農学研究科教授である主著者の大澤勝次氏は,これまで農林水産省農業生物資源研究所と北海道農業試験場の部長を務めてこられたこの分野の大ベテランである。
 内容は次の通りである。
第1章 遺伝子組換え食品誕生の科学
第2章 素顔の遺伝子組換え食品
第3章 遺伝子組換え食品の安全性
第4章 二一世紀の遺伝子組換え技術

 

シンポジウム:FACE2000国際会議終了
 
 
 FACEはFree-Air CO2 Enrichment(開放系大気CO2増加)の略称で、囲いを何もしないほ場の空気中に直接高濃度のCO2を吹き出して、植物群落の周囲のCO2濃度を高める実験方法である。これにより、大気CO2濃度の上昇が植物に及ぼす影響を、実験室でなく実際のほ場で調べることができる。農業環境技術研究所では、日本科学技術振興事業団(JST)の戦略的基礎研究予算で、1996年からRice FACEプロジェクト(正式名称は「CO2倍増時の生態系のFACE実験とモデリング」研究代表者 小林和彦)を進めている。同プロジェクトは今年度で完了するが、まだ実験を行っている間に世界の関連研究者に訪れてもらい、研究状況と成果を話しあうために、去る6月27−30日の4日間、つくば国際会議場(エポカル)で、FACE2000国際会議を開いた。主催はJST、農環研の他、日本学術会議IGBP(地球圏生物圏国際協同研究計画)委員会、アメリカ エネルギー省他であった。また、会議直前の6月25−26日に、岩手県雫石町で実施中のFACE実験地を訪れるツアーも行った。
 FACE2000国際会議の主なテーマは、FACE実験手法の開発、大気CO2増加が植物や生態系に及ぼす影響、そして個別の研究結果の統合とモデリングであった。口頭・ポスター合わせて79件の発表があり、参加者総数は107名(日本72、アメリカ16、オーストラリア6、その他ヨーロッパ、アジア、南アメリカの11カ国から各1ー2名)と、にぎやかな会議となった。現在、世界中の約17ヵ所でFACE実験が行われているが、そのうちの14ヵ所がFACE2000に参加者を送ってきた。中にはアメリカ・アリゾナのFACEのように、12年前からFACE実験を続けてきた所もあれば、インドのように今年からFACE実験を始めた所もある。またFACE以外の施設を使って、同様の目的の実験を行っている所からも参加者があった。
 FACEプロジェクトの中には、コムギとソルガム(アリゾナ)やイネ(日本)など,農作物を対象にした所もあるが、スイスやニュージーランドのFACEは牧草地を対象としており、またアリゾナ以外のアメリカのFACEでは樹木や自然植生が対象である。研究対象が違えば、主な研究テーマや結果も違うため、FACE2000では植生タイプ(農作物と牧草、樹木、自然植生)別に、研究発表・討論が行われた。例えば,一年生の農作物については、高濃度CO2下で播種から成熟までの一生を終える実験が毎年可能だが、樹木ではたとえ5年間連続のFACE実験でも、その一生のごく一部をカバーできるに過ぎない。一般にCO2濃度上昇による生長促進効果は、植物の初期生育段階で大きく、成熟するにつれて減退することが、しばしば見られる。FACE2000での報告をみると、樹木のほうが農作物よりも、CO2濃度上昇による生長促進率が大きいように思われるが、生育の比較的早い段階での効果を見ているためかも知れない。また、自然植生を対象としたFACE実験では、種組成の変化を考慮すると、数年間の実験ではやはり変化の一部が見えるだけである。たとえばFACE条件下で、つる性の侵入植物の生長促進率が、他の種よりもずっと高いことが観測されているが、これがそのまま進むのかどうかを知りたいところである。
 一方、CO2濃度の上昇で光合成が促進され、炭水化物同化量が増えることはどの植物も共通であるので、植生タイプを超えた総合も試みた。高濃度CO2下での植物の変化は多岐にわたるが、そのうちの主なもの、たとえば光合成、水利用、養分吸収といった変化のそれぞれについて、専門の研究者にとりまとめてもらった。
 FACE2000で発表された論文の多くは、ケンブリッジ大学出版から発行されているNew Phytologist誌に投稿され、査読を経て同誌の特別号で出版される予定である。内容としては、FACE実験システムの開発から、各FACEプロジェクトの研究成果、そして研究結果の統合を含み、FACEを主体とした出版物としては、今までで最も充実したものになるはずである。なお、特別号は2ー3冊に分かれて発行されるので、それらを一冊にまとめた単行本としての発行も計画している。発行の際にはご案内する。
 FACE2000国際会議でお世話になった多くの方々に、お礼申し上げる。

 

筑波事務所共同分析センター2号棟が完成
 
 
 当研究所内に建設中であった作物や環境中におけるダイオキシン類等化学物質の超微量分析施設が完成した。本分析センターの面積は約1200m2、2階建て、総工費約15億円である。施設内の分析装置等に関する概略を紹介する。
 1階に、共同研究室とダイオキシン類を除く一般化学物質の抽出・精製を行う前処理室と各種の機器分析室が、2階にダイオキシン類の抽出・精製室及び2台の高分解能質量分析計を設置した機器分析室がある。特に、超微量で毒性の高いダイオキシン類を分析対象とすることから、実験者への安全性を確保するとともに施設外への排出を極力抑制するように、排気、排水への配慮が施されている。主な分析機器の仕様と担当責任者は次の通りである。
 





















 
分析機器名 仕  様  等 設置場所 責任者
高分解能質量分析計

 
Micromass社AutoSpec-Ultima
高分解能80000以上、測定感度は2,3,7,8-TCDDで100fg。
2F機器分析室

 
殷 熙洙
上垣隆一
 
ICP質量分析装置
 
Mcromass社Platform ICP
V-Grooveネブライザー、HPLC付き。
機器分析室1
 
馬場浩司
荒尾知人
原子吸光光度計
 
日立偏光ゼーマン原子吸光光度計。
フレーム分析、グラファイト炉分析可能
機器分析室1
 
平舘俊太郎
小原裕三
キャピラリー電気泳動装置 HP社AgilentG1602A。
ミセル動電クロト、等速電気泳動等が可能
機器分析室2
 
平舘俊太郎
小原裕三
原子吸光検出器付きガスクロマトグラフ HP社Agilent6890/G2350A。
感度1〜150pg/sec,測定元素約30種
機器分析室2
 
石井康雄
小原裕三
蛍光検出器付き高速液体クロマトグラフ HP社Agilent1100。
ダイオードアレイ検出器、3D蛍光検出器付
機器分析室2
 
石井康雄
小原裕三
電気化学検出器付き高速液体クロマトグラフ HP社Agilent1100。
電気化学・ダイオードアレイ検出器等
機器分析室2
 
石井康雄
小原裕三
4重極型質量分析計
 
HP社Agilent6890/5973N。
質量範囲1.6〜800a.m.u. 感度1pg(EI)
機器分析室2
 
石井康雄
小原裕三
液体クロマトグラフ質量計 PEバイオシステムズAPI-3000LC/MS/MS
イオン源:ESI(TurboIonSpray)
機器分析室3
 
石坂眞澄
 
イオントラップ型質量分析計 サーモクエスト社LCQ DECA LC/MSn
イオン源:ESI, APCI
機器分析室3
 
石坂眞澄
 

 
責任者電話番号(0298-38-〇〇〇〇):石井康雄・小原裕三・殷 熙洙8330,上垣隆一8324,
                 馬場浩司8255,荒尾知人8271,平舘俊太郎8246,石坂眞澄8329
 
 
 本分析センターは、農林水産技術会議事務局筑波事務所(農林交流センター)の共同利用施設として運用されることになっており、農林交流センターから利用者募集が行われる予定である。なお、本施設は農林水産省試験研究機関との間で依頼研究員制度や共同研究契約等を交わした大学・公立・民間等試験研究機関の共同研究者に利用されることを目的に建設されており、多くの研究者に広く開放されることになっています。
 現在、各種の分析機器の据えつけ整備が順次行われており、近日中に各機器毎の使用に関する説明会が催されることになっています。利用希望者は、機器担当責任者にご連絡下さい。

 

農業生態遠隔計測施設(リモートセンシング)装い新たに
 
 
 地上,飛行機および人工衛星などから,土壌,水質,作物および陸域植生など農業生態系を分光学的精密計測によって解析する農業生態遠隔計測施設が改築された。
 この施設は,自動潅排水・自動降雨遮断シェルター付きの人工圃場、低高度精密計測プラットホーム「スカイデッキ」、および観測データの分析・処理機器を備えたリモートセンシング実験棟からなる。以下に本施設の概要を紹介する。
 
施設概要
1.リモートセンシング観測実験圃場
植物・土壌精密観測実験用人工圃場12プロット
(1)水田プロット6、畑プロット6(土壌2種:赤色土,黒ボク土)
(2)計測プラットフォーム「スカイデッキ」 高さ37m自走,搭載重量450kg
2.リモートセンシング実験棟
(1)データ処理解析室:観測画像データ等の処理・解析・保管,ネットワーク転送等
(2)機器校正精密実験室:光学実験,センサ等の調整ならびにキャリブレーション等
(3)観測機器保管準備室:観測用機器・センサ類の保管,調整
(4)試料調査室:採取した植物試料の乾燥・分析用調整・保管,機器工作等
3.分析機器概要
(1)高速ハイパースペクトルセンサ:超高波長分解能の分光放射輝度計測
(2)航空用スペクトル画像システム:高精細の可視〜近赤外〜熱赤外センサ画像計測
(3)微量ガスリモートセンサ:オープンパスFTIRによる微量ガス濃度計測
(4)画像処理システム:大容量多波長画像の高速処理・解析
(5)無線画像電送システム:スカイデッキ等の計測プラットフォームからの画像データ等の転送
(6)超音波エコーセンサ:超音波の反射による群落構造計測
(7)AOTFハイパースペクトル画像計測システム:超高波長分解能の高速画像計測
(8)レーザ誘導光遠隔計測システム:レーザ照射による植物微弱発光の遠隔計測
(9)光合成蒸散計測システム:野外における植物光合成蒸散・蛍光の精密計測
(10)3D磁気センサ:立体空間座標の計測
(11)マイクロ波散乱計:多周波におけるマイクロ波の後方散乱の計測
(12)微気象観測システム:熱・CO2・H2O等のフラックス,植被放射環境等の微気象計測
 
 農業環境技術研究所では、分光計測等に関して数多くの知見と技術を蓄積しており,さらに,地上−低中高度−宇宙の各レベルにおける定量的かつ高精度の情報収集システムの確立を目指している。現在,植物とその生育環境に関わるセンシングデータ・実測データを体系的に収集・解析する施設・装置を試作開発して,これら各レベルの研究を進めている。これにより、リモートセンシング計測手法の高度化、地球観測衛星データと地上データを関連させるための情報処理技術に関する基礎研究や生態圏(エコスフェア)の統合的理解のための基礎研究の進展が期待される。また、依頼研究員,流動研究員,STAフェローシップ制度等による内外の研究者との共同研究を通じて、リモートセンシング研究コミュニティの連携強化・発展を図ることをめざしている。
 共同研究の提案等の連絡先:計測情報科隔測研究室長:井上吉雄 yinoue@niaes.affrc.go.jp 

 

侵入生物の進攻 −侵入を予測する−
 
Biological Invaders Sweep In. −Predicting Invasions−
M. Enserink, Science 285: 1834-1836 (1999)
 
 
 農業環境技術研究所は,農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに,侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって,生態系の攪乱防止,生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な研究目的の1つとしている。このため,農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが,その一部を紹介する。
 
 経済の国際化に伴い植物や動物の移動・定着も世界化し、環境に対して大きな被害をもたらしている。例えば、ムラサキイガイの一種(zebra mussel)は、米国でパイプを詰まらせ毎年数千万ドルの被害を与えている。生物学的侵入は、1988年の調査では,米国における生物多様性の喪失に対して生息地の破壊に次ぐ大きな原因となっており、間もなく第1位になると推察されている。生態学者は、自分が研究している対象がすでに原初的なエコシステムではなく,世界中からの侵入生物が混在するエコシステムになってしまっていることに気がついて,侵入生物に対して注意を向けるようになっている。外来生物の侵入過程を押しとどめるための新しい研究に拍車がかかっている。
 外来種の運搬を制限し、蔓延防止を図ろうとする政策立案者は、次はどこに危険な侵入生物が現れるか正確にわからないため、政策決定ができないでいる。もしも、生態学者が、侵入者らしい種を見分けることができるならば、政府は単純にそれらの危なっかしい生物種の輸入を制限することができ、管理者はそれを容赦なく取り除くことができる。しかし、そのような予測はとても難しい。まだ少数の予測モデルが検討されている最中であり、そのモデルはほんの狭い範囲の生物にのみ有効である。
 
●侵入者の実像
 歴史的にヨーロッパから新大陸に様々な生物が持ち込まれたが、19世紀後半に持ち込まれたウサギがオーストラリアの植生を荒らしたことから、新参者は生態系に危険であることが明らかとなった。現在、米国農務省は約3000種の潜在的有害生物の侵入を阻止している。しかし、多数の他の種は通り抜け、数千種の外来種が定着している。フロリダ州では、生物種の3分の1ないし4分の1が外来種であり、サンフランシスコ湾の一部では99%のバイオマスが外来種と考えられている。遅い出発であったが、侵入生物学の分野がついに離陸し、「Biological Invasion」という雑誌が先月発刊された。
 侵入の背景に生態学的原理を探す科学者にとって、侵入者の一般的な特性の解明が研究の出発点となる。多くの研究者は、例えば、侵入者はしばしばより速く成長し、増殖サイクルが短いことに注目している。通常,植物では分散しやすいように小さな種子を生産し、大抵の侵入者はどのような環境にも適応できるジェネラリストである。ある研究者は、なぜある種の外来種は在来種を侵略し、他の外来種は侵略できないのかを理解するためにこれらの一般的特性を用いようと試みている。
 
●侵入を受けやすいなわばり(テリトリー) 
 たとえ定型的な侵入者像がまだ不確かだとしても、容易に侵入されやすい典型的なエコシステムがあるのだろうか? 多くの研究者は,外来種は異なるタイプの生態系間をより容易に移動することを明らかにしている。もう一つの長期間維持されている理論では、種数が多く、それらの密度が高く、食物連鎖網が発達しているエコシステムは侵入に対して抵抗性である。このことは、島嶼生態系が侵入を受けやすいこと、室内実験で複雑系の方が侵入種の増殖を抑制しやすいことからも推察される。しかし、後者については実験系が自然と比べて単純すぎるという批判もある。また、科学者は外来種が新しい生息地で数十年間目立たずに過ごし、その後に個体数が爆発的に増加することを繰り返し目撃している。フロリダ州に入った外来イチジクの例では、後で花粉を媒介するハチが入ったために急速に分布を拡大した。侵入者が急増するもう一つの機会は、侵入が単純に繰り返され、広域に行われることである。この間に、気候的変化や火事で植生に変化が生じるなど侵入者の定着にとってチャンスが巡ってくることがある。しかし、多くの生態学者は自分たちの予測能力について全く遠慮がちである。現在までのところ、「予測するための最善のアプローチは、ケースバイケースということであり」、研究すべきもっとたくさんのケースがあるということが、わずかな慰めとなっている。

 

食糧と人口:FAOの予測
 
 
 FAOのニュース・アンド・ハイライト( (対応するURLが見つかりません。2010年5月) )に,2030年に向けての「食糧と人口:FAOの予測」が掲載されている。内容の概略は,以下の通りで,2002年初頭に発刊される予定である。非常に楽観的な予測である。
 
 2030年には、世界の人口が80億人を上回ると予測されている。果たして、世界はこの人口を支えるだけの食糧を生産できるだろうか。FAOグローバル・パースペクティブ・スタディーズ・ユニットの新しい報告書によれば、答えは「イエス」である。その報告書「2015・2030年の農業」では、食糧、栄養、農業における世界の動向を今後30年間にわたり予測している。
 報告書は、世界の食糧事情がこの30年間で顕著に改善されたことに注目している。この間に世界の人口が70%以上も増加したにもかかわらず、1人当たりの食糧消費量が約20%増えている。途上国では、人口がほぼ2倍にふくれ上がったにも関わらず、慢性的な栄養不良状態に陥っている人口の割合は半分に減り、1995/1997年には18%にまで減少している。FAOは、このような状況が今後も継続すると予測している。しかし、飢餓の絶対人数は依然として高率のままであろう。「2015年には、5億8000万人の人々がまだ慢性的な栄養不良に苦しんでいるだろう」とFAOは述べている。
 
● 食糧生産のペースは持続
 食糧生産の増加は続くだろうが、増加率は低下し、過去30年間では1年あたり2.2%の増加率を示してきたのが、今後2030年までの30年間では1.5%の増加率にとどまることが予想される。しかし、それでも人口の増加率を上回ると見られている。
 穀物はカロリー換算で、今後も最も重要な食料としての位置を占め続けるだろう。穀物の需要と生産は、現在の18億4000万トンが2030年には28億トンとなり、約10億トン増加すると予測される。ただし、増加率は落ちるであろう。家畜飼料のセクターが穀物の需要増加分の44%を占めることが予測され、「世界の穀物セクターを動かす最もダイナミックな要素となるだろう」とFAOは述べている。
 
● 貿易の拡大
 途上国では、穀物の輸入依存量が徐々に増加するであろう。穀物の純輸入量は、1995/1997年には1億700万トンであったが、2030年には2億7000万トンまで増加することが予測される。北アメリカ、西ヨーロッパ、オーストラリアなどの従来の穀物輸出国では、1995/1997年には純輸出量が1億4200万トンであったが、2030年には需要を満たすために2億8000万トンに増加しなければならないだろう。
 
● 畜産物の重要性が増す
 都市化が進み、所得が増えるにつれ、徐々に畜産物の需要が増加し、世界の食品経済はその供給のために活気づけられている。過去20年間で、途上国の食肉の需要は目覚ましい増加を示し、年間5.5%の増加率で拡大した。ただし、タンパク質の摂取量を増やす必要性の最も高い多くの国は、この過程には係わっていなかった。家禽に関しては劇的な増加を見せ、この30年間で食肉の産出量のシェアを2倍以上も増やし、28%に達する勢いを示した。途上国での食肉需要は横ばいとなり、工業国での消費が落ちていることから、FAOは世界の食肉経済の成長は鈍化すると見ている。
 
● 農産物の生産量は増加傾向
 途上国では、農産物の輸入量と生産量がともに増加するだろう。報告書によれば、農産物の産出量は2030年には現在より70%増加することが予測される。この増加分の5分の4は、高収穫量、多毛作、休耕期間の短縮などの方法により、生産量を増やすことで達成されるだろう。残りの5分の1は、主として南米およびサハラ近辺のアフリカで耕地を拡大による。途上国では、灌漑がより重要な役割を果たすことが期待される。現在、灌漑作物は全農作物の生産量の40%を占めていると見られるが、2030年にはさらに7%上昇する可能性がある。
 
● 林業と漁業
 報告書によれば、森林管理の目標は徐々に変化し、従来の木材生産から、森林の環境機能の保護へとシフトしていくだろう。材木を供給するための産業用造林の役割がますます重要になることが予測され、2015年までにはそうした造林地からの供給が全供給量の3分の1を占めるであろう。燃料用木材の利用は今後20年間はまだ増加を続け、その後に安定するか若干の減少を示すと見られる。1995年に世界で伐採された木材の60%以上が、燃料用に使用されている。
 魚類の1人当たりの平均消費量は1997年では年間16kgであったが、2030年には19ー20kgに増加し、魚類を食品として消費する量は1億5000万−1億6000万トンにのぼる可能性がある。海洋漁業の年間の持続的漁獲量は1億万トンと推定される。「したがって、供給の増加分の大部分は水産養殖でまかなわなければならない」と報告書は述べている。
 
● 環境への圧迫は続く
 農産物の増加率が鈍化するので、環境への圧迫は増すにしても、そのペースはこれまでよりも落ちるだろう。たとえば、森林の伐採率は耕地拡大のペースが落ちれば縮小すると予想される。化学肥料、農薬、その他の農業資材の使用も、増加のペースが落ちるであろう。しかし、家畜生産物の増加により、土壌、水、大気の汚染が拡大し、環境への悪影響が増す可能性がある。
 最終報告書は2002年初頭に刊行の予定である。

 

FAO
Agriculture: Towards 2015/30 Technical Interium Report
April 2000,2000年7月24日公表

 
 
 FAOは2000年7月24日に2015年及び2030年を展望した世界の食料需給の展望を公表した。公表したとはいえ、まだ内部報告書であり、今後各方面からの意見を採り入れて修正し、最終報告書を2002年初めに刊行する予定である。2030年には世界人口が現在よりも約20億人増加して約81億人となる。しかし、人口増加率は徐々に低下して行くので、食料生産は十分対応できるというのが、結論である。以下、第1章の概要部分を紹介する。
 
1.2 食料及び栄養の展望
これまでの経緯
 最新の"FAO Assessment of Food Insecurity in the World"(FAO, 1999a)は、1995/97における途上国の栄養不良人口は7億9000万人(途上国人口の18%)と推定している。1969/71年には9億6000万人(途上国人口の37%)であったのであり、この数の多さは実にしつこい。世界食料サミットでは、1990/92年時点の栄養不良人口8億3000万人を2015年よりも遅くならない時期に半減させることを目標にしたが、この目標に向けた動きは遅く、現在のペースでは2025年までには達成できないであろう。しかし、栄養不良人口の割合が減少したこと(途上国人口に占めるパーセントが半分になったこと)は、意味のある達成といえる。
 
表2.1 途上国における栄養不良人口(抜粋)

 
1969/
71
1979/
81
1990/
92
1995/
97
2015
 
2030
 
1969/
71
1979/
81
1990/
92
1995/
97
2015
 
2030
 
  人口に占める% 人数 100万人
途上国 37 29 20 18 10 6 959 937 828 790 576 401
サブサハラ 34 36 34 33 22 15 88 125 162 180 184 165
除くナイ
ジェリア
36
 
35
 
39
 
39
 
25
 
17
 
77
 
99
 
151
 
171
 
177
 
160
 
近東/北アフリカ 25
 
9
 
8
 
9
 
8
 
6
 
45
 
22
 
25
 
33
 
38
 
35
 
ラテンアメリカ・カリブ海諸国 19

 
13

 
13

 
11

 
7

 
5

 
54

 
46

 
59

 
53

 
45

 
32

 
南アジア 37 38 26 23 10 4 267 337 299 284 165 82
東アジア 43 29 17 13 7 4 504 406 283 240 144 86
 
 多様な国の栄養不良人口を計測するのに使用するキー変数である1人当たりの食料消費量、kcal/person/dayが明確に増加した点でも、かなりの前進が明らかになされた。この値は過去30年間に17%増加して、2760 kcalになった。工業国及び経済移行国の1人当たりの消費量は1960年代半ばからすでにかなり高いレベルになっており、世界全体での平均値が増加したことには、途上国で平均28%の増加があったことが大きく反映されており、このことがより重要である。途上国全体でこうした前進がみられたことは、なかでも人口の多い国々でかなりの増加があったからに他ならない。人口が1億人を超える7つの国(中国、インドネシア、ブラジル、インド、パキスタン、ナイジェリア、バングラデシュ)のうち、バングラデシュのみは1人当たりの食料消費量が非常に低いレベルのままとなっている。しかし、かなりの数の国は食料安全保障向上という一般的な前進に参加できない国もかなりの数に達する。現在、1人当たりの食料消費量が2200 kcal以下の国が33か国あり、その多くはサブサハラのアフリカの国々である。
 
表2.2 1人当たりの食料消費量の推移(kcal/人/日)(抜粋)
  1964/66 1974/76 1984/86 1995/97 2015 2030
世界 2357 2429 2643 2761 2960 3100
 途上国 2053 2145 2433 2626 2860 3020
  サブサハラアフリカ 2091 2093 2039 2188 2400 2580
  近東/北アフリカ 2277 2574 2926 2983 3090 3170
  ラテンアメリカ・カリブ海諸国 2392 2543 2685 2791 2950 3080
  南アジア 2013 1977 2184 2424 2790 3040
  東アジア 1953 2094 2544 2783 3020 3170
 工業国 2945 3065 3218 3374 3490 3550
 経済移行国 3222 3385 3378 2901 3170 3330
 
人口と所得の増加
 国連による最新の世界人口動態予測(UN, 1999)から、今後世界人口の増加率は劇的に減速することが予測されている。本調査の範囲でいえば、世界人口は、基準年(1995/97年の3年間の平均値)の57.5億人が、2015年には71.5億、2030年には81億、2050年には89億人に増加すると予測されている。世界人口の増加率は、1960年代の後半にピークに達し、年間2.1%となったが、1990年代後半には年間1.3%となり、2015年には1.0%、2030年には0.7%、2050年には0.3%に低下すると予測されている。
 
表2.4 人口動態予測(抜粋)
  人口(100万人) 人口年増加率、%

 
1964/
66
1974/
76
1984/
86
1995/
97
2015
 
2030
 
1967
-97
1977
-97
1987
-97
1995/97
-2015
2015
-2030
世界(UN) 3337 4075 4837 5745 7154 8112          
世界(FBS) 3327 4062 4823 5725 7126 8077 1.7 1.6 1.5 1.2 0.8
途上国 2298 2935 3613 4436 5778 6718 2.1 2.0 1.8 1.4 1.0
サブサハラ 230 300 400 542 852 1143 2.8 2.9 2.7 2.4 2.0
近東/北アフリカ 159
 
208
 
274
 
361
 
517
 
633
 
2.7
 
2.7
 
2.4
 
1.9
 
1.4
 
ラテンアメリカ・カリブ海諸国 247
 
318
 
397
 
483
 
625
 
719
 
2.1
 
1.9
 
1.8
 
1.4
 
0.9
 
南アジア 632 799 1001 1251 1651 1915 2.2 2.2 2.0 1.5 1.0
東アジア 1029 1310 1540 1800 2133 2307 1.7 1.5 1.3 0.9 0.5
工業国 695 760 813 876 933 950 0.7 0.7 0.7 0.3 0.1
経済移行国 335 367 397 413 415 409 0.7 0.6 0.2 0.0 -0.1
 
FBS: 食料バランスシート
 
 人口増加が減速し、世界人口のかなりの部分で1人当たりの食料消費量が徐々に飽和に達していることから、食料需要並びに世界レベルでの食料生産の増加率が低下することになろう。人口及び全体的な需要や生産の増加率が劇的に減少するとしても、年間増加量の絶対値はなお莫大である。人口についていえば、現在世界中で毎年7700万人が増えている。この数は2015年までは大幅に減少することはなかろう。2030年でも年間に5800万人が増えるであろう。事実上、世界人口の増加分は全て途上国に由来しよう。途上国のなかでも増加程度には差がある。東アジアは予測期間の終わり頃にはゼロ成長になろう。その反対に、サブサハラの人口は2030年でも年間2%の増加率を維持すると予測される。需要と生産についていえば、世界全体で穀物生産は、現在18億4000万トンの水準だが、2030年にはこれに10億トンを上積みしなければならない。この増加分は過去30年間よりもさらに多い量である(3章、表3.3参照)。
 食料の需要増加に加え、食料安全保障や栄養変化にかかわるもう一つの重要な決定因子である所得の増加についての展望は、単一ではない。いくつかの国では、達成の期待される経済成長では、貧困をかなりの程度根絶するのに不十分であろう。特に貧困と食料不安の集中度合の高い南アジアとサブサハラの2つの地域は対照的である。前者の地域では、比較的高いGDPの成長が続く結果、貧困根絶や1人当たりの食料消費量の増加に前向きのインパクトが予想される。しかし、サブサハラの成長は極めて限られ、2015年までの期間における1人当たりの所得増加率は1.5%に過ぎず、貧困や食料不安をかなりの程度減らすにはほど遠いだろう。最新の世界銀行の予測によると、次の10年間(1999〜2008年)における世界経済の成長は1990年代よりも高いが(年率3.1%)、その多くは工業国でのより高い成長に起因している。そして、「多くの途上国では、貧困に対する戦いは、2015年までに貧困を半分に減らすことを求めている国際コミュニティの設定した目標に到底及ばないであろう」と結論している。
 
食料及び栄養の展望
 様々な品目についての食料需要予測から、1人当たりの食料消費量(kcal/人/日)はかなり増加すると予測されている。世界平均値は2015年には3000kcalに近づき、2030年には3000 kcalを超えると予測される。すなわち、1995/97年の2626 kcalが、2015年には2860 kcal、2030年には3020 kcalに上昇するであろう。こうした世界平均値の変化には途上国での消費量増加が反映されている。このような顕著な上昇の反面、現在の高レベルの栄養不良人口をかなりの程度削減させられるほどのレベルに1人当たりの食料消費量の増加しない国がいくつか存在しよう。2015年においても人口の6%(4億1200万人)が、食料消費量の極めて低い(2200 kcal以下)の国で暮らすことになろう。リージョンレベルでは2015年においてもサブサハラの1人当たりの食料消費量は、中位低レベルの2400 kcal/人/日であって、ナイジェリアを計算から外すとさらに低いレベルとなろう。
 こうした平均消費量の増加が国内における分配の改善(2章、セクション2.2.3参照)と結びついて、相対値、つまり、人口に占める%では、栄養不良人口をかなりの程度減らすことが可能になる。途上国全体の栄養不良人口パーセントは1995/97年の18%から、2015年には10%、2030年には6%に低下すると期待される。全てのリージョンでこうしたパーセント低下が起き、サブサハラを除く全ての地域では、栄養不良人口の割合が、1995/97年の9〜23%に比して、4〜6%に低下すると予想される。サブサハラでは、栄養不良人口の割合が、1995/97年の33%から下がるとはいえ、2030年にはなお15%となろう。
 栄養不良人口の割合がこのように低下するからといって、人口増加を勘案すると、栄養不良人口の絶対数がこれに呼応して減少することには必ずしもならない。人口増加がスローダウンするとはいえ、途上国の人口は1995/97年の44億2000万人が、2015年には57億5500万人、2030年には66億9000万人に増加すると予測されている。従って、栄養不良人口は、1995/97年の7億9000万人から、2015年には5億7500万人、2030年には4億人へと緩慢に低下するだけでとなる。この予測が正しいなら、栄養不良人口数が半減するのは2030年まで待たなくてはならないことになる。
 栄養不良人口の絶対数の減少ペースが遅いとはいえ、予測からは軽視できない全体的な改善が展望される。途上国において、栄養十分な人口が1995/97年の36億人(途上国人口の82%)から、2010年に52億人(人口の90%)、2030年には63億人(94%)に増加する。だからといって、これで目標が達成されるものでは決してない。
 ここでの予測よりも早い前進がなされることはありえる。栄養不良人口の相対的割合が低下することによって、国内的及び国際的な政策介入がしやすくなる。栄養不良人口割合の高い国が減少するとともに、当該人口の数(政策の対象とする者の数)が少なくなることは、予測から必然的に導かれる(表2.1参照)。これと同時に、世界は現在よりも豊になろう。これに加えて、栄養不良人口の割合が比較的低い国の数が増えよう。例えば、1995/97において栄養不良人口が5%以下の国は15か国に過ぎなかったが、この数は2015年には26、2030年には42に増えよう。2030年にはこうした栄養不良人口の低い国(大きな途上国の大部分を含む)が、途上国人口の4分の3を占め、栄養不良人口4億人のうちの1億6400万人(1995/97年には7億9000万人のうちの8000万人)を占めるようになろう。従って、栄養不良人口の比較的低い国が全体の栄養不良人口でより高い割合を占めることになる。このため、これらの国が国内政策介入によって問題に対処することが現在よりも容易となろう。これと同時に、栄養不良人口割合の高い国(25%以上)の数は、1995/97年の38から、2015年には23、2030年には6のみとなろう。これら国のどれも人口の非常に多いクラスの国ではない。これらの国々が全体の栄養不良人口に占める割合は低下し、2030年には4億人中の3300万人(1995/97年には7億9000万人のうちの2億5000万人)となろう。
 
農業全体及び主要農産物セクターに関する展望
農業全体
 世界全体における作物及び畜産物の消費量増加の大方は途上国に由来している。いくつかの途上国では人口増加率の低下に加えて、食料消費が徐々に中〜高レベルに達成されるのに伴って、食料需要(世界レベルでは生産についても)の増加率もこれまでよりは下がってこよう。これは人間の厚生の観点からみて積極的な要因である。他方、マイナス側面として、栄養不良人口割合の高いいくつかの国では、食料需要の増加率が、自国の食料安全保障をかなりの程度改善するのに必要なレベルよりもかなり低いと展望される。世界全体の食料需要の増加率がどの程度低下するかは、様々な要因に関してこれまでの経緯とも関連している。なかでも1人当たりの消費量レベルが中〜高レベル、つまり、2700 kcal/人/日に既に達している国が世界全体に占める割合や、その他の特徴が重要である。人口の多い一部の途上国(中国、インドネシア、ブラジル、メキシコ、ナイジェリア、エジプト、イラン、トルコ)を含むいくつかの国がこのクラスに達している。これらの国は途上国人口の半分を占め、途上国の食料需要全体の2/3を占めている。
 1960年代半ばから90年代半ばまでの30年間に、この途上国グループ26か国では1人当たりの消費量がめざましく上昇し、2075 kcalから2910 kcalに増加した(3章の表3.2参照)。こうした前進において中国のパフォーマンスが大きな比重を占めている。このグループの人口増加率は年間1.9%で、需要全体の増加率は年間4.1%であった。品目毎の予測からは、kcal/人/日でみた1人当たり消費量は2015年に3120、2030年に3250 kcalとなって、工業国とさほど違わないレベルに増加すると予測される。1995/97〜2030年の全期間での予測増加率は年0.3%に過ぎない。これと同時にこのグループの人口増加率は年間0.9%に低下すると予測されている。この結果、このグループの国々では需要全体の増加率が劇的に減少し、これまでの30年間における年4.1%が2030年には年1.7%に低下すると予測される。このグループの需要全体の増加率がより高くなるとすれば、2030年における1人当たりの消費量はここで予測した3250 kcal/人/日よりも高くなることを意味する。
 
表3.2 途上国の国グループ別の需要と生産の増加率の推移

 
1967-97
 
1977-97
 
1987-97
 
1995/97
-2015
2015
-2030
1995/97
-2030
  需要(年増加率、%)
途上国 3.6 3.7 3.9 2.2 1.7 1.9
 2700kcal/人/日以上の国* 4.1 4.3 4.6 1.9 1.4 1.7
 その他の途上国 2.9 2.9 2.8 2.6 2.1 2.4
  生産(年増加率、%)
途上国 3.4 3.6 3.8 2.1 1.6 1.9
 2700kcal/人/日以上の国* 3.9 4.2 4.4 1.8 1.3 1.6
 その他の途上国 2.7 2.8 2.8 2.4 2.1 2.3
  人口(年増加率、%)
途上国 2.1 2.0 1.8 1.4 1.0 1.2
 2700kcal/人/日以上の国* 1.9 1.7 1.5 1.1 0.7 0.9
 その他の途上国 2.4 2.3 2.2 1.7 1.3 1.5
  1964/66 1974/76 1984/86 1995/97 2015 2030
  人口(100万人)
途上国 2297 2936 3612 4436 5778 6718
 2700kcal/人/日以上の国* 1240 1584 1902 2259 2759 3054
 その他の途上国 1057 1351 1710 2177 3019 3663
  kcal/人/日
途上国 2053 2145 2433 2626 2860 3020
 2700kcal/人/日以上の国* 2075 2233 2652 2910 3115 3245
 その他の途上国 2028 2042 2189 2332 2630 2840
 
* 1995/97において
 
 このグループの国々が途上国全体及び世界に占める比重が高いため、その増加率が劇的に低下することは、全ての集計値に反映してくることになる。このため、途上国の増加率は、これまでの30年間の年3.6%が2030年には1.9%に低下することになる。この低下は、その他の途上国(1995/97において2700 kcal以下で、途上国人口の残り半分を占める)における需要がそれほど下がらず(人口増加率の減少率よりも低い)、1人当たりの食料消費量1995/97年の2330 kcalから2030年には2840 kcalに増加するとしても、起きる。世界レベルでは途上国での増加率低下のインパクトは小さくなってしまう(世界全体では需要全体の増加率は年2.2%から年1.5%に低下し、世界人口の増加率(2030年では年1.0%)に比べてそれほど高くない)。このことは、過去において経済移行国において消費と生産が崩壊したために、世界の需要増加率が低下したという事実にも関連しよう。将来、こうした途上国での低下が停滞することになれば(逆行することもありうる)、途上国における増加率のスローダウンに伴う世界全体での需要増加の低下は、部分的にはキャンセルされることになろう。
 世界レベルでは、生産と消費は等しいため、上述の世界レベルでの需要増加の展望に関する論議は、世界レベルでの生産にも適用できる。しかし、個別の国や国グループについてみると、需要と生産という2つの増加率は、国におけるネットの農産物貿易の状況によって異なる。一般に途上国地域では生産の増加率の延びは需要増加率よりも低く、このため、農産物では輸出よりも輸入の方がより急速に増加している。こうした傾向のために、農産物貿易では輸出超過であった伝統が徐々に崩れてきている。途上国では、ウルグアイ・ラウンド農業合意実施の影響を考慮に入れると、ネットの貿易赤字が拡大する方向にあることが予測される。途上国で不足するためにネットで輸入する主要農産物は、主に穀物と畜産物であり、これらの輸入はかなり急速に拡大し続けよう。これと同時に、途上国の伝統的輸出産品(熱帯飲み物、バナナ等)を考慮に入れたネットの貿易黒字の延びは、穀物や畜産物輸入のネットの延びよりも遅いか、逆に減少しよう(植物油脂、恐らく砂糖も)。
 
穀物
 上述した将来における需要増加のスローダウンに関する論議は、程度は異なるが、個々の品目にもあてはまる。世界の穀物セクターの減速は既にある程度生じている。穀物セクターの減速は将来とも続くであろうが、過去と将来との増加率の差は、家畜生産や油糧作物といった他のセクターほど大きくはならないだろう(下記参照)。穀物は全食料消費において(カロリーの点で)断然最重要な給源であり続けるだろう。穀物の食料としての使用量は増加し続けるが、増加率は減速しよう。現在途上国における1人当たり平均の穀物の食料使用量は172 kgで、全カロリーの57%を供給しているが、これは30年前の141kg、61%よりも増えている。将来における1人当たりでみた穀物の食料使用量の延びは、中〜高レベルの食料消費と食事の多様化を達成する国が増えるのに伴って、これまでよりもはるかに低くなろう。2015年には178 kgに達し、2030年でも同じレベルにとどまると予測される。食料消費量(kcal/人/日)は2015年に2860 kcal、2030年に3020 kcalに増加すると予測されるが、穀物はその50%以上を供給し続けるであろう。穀物群の中で1人当たりのコメの食料消費量は現在のレベルで安定傾向を示し、長期的には、東南アジア地域での経済発展を反映して、若干減少するであろう。これと対照的にコムギの1人当たりの食料消費量は増加し続け、途上国ではこれに伴ってコムギの輸入が増加しよう。また、途上国における家畜飼料として使用増加に伴って、粗粒穀物の需要と貿易が増加しよう。
 既に指摘したように、世界全体における穀物の消費と生産は2030年には現在の18.4億トンのレベルよりもほぼ10億トン増えると予測される。この増加分のうち、半分が食用で、約44%が飼料用、残りがその他の使用(種子、非食用工業品、廃棄物)と予測される。飼料利用、中でも途上国での飼料利用が、穀物全体の需要増加原因のなかで最も大きな比重を占めるため、再び世界の穀物経済を動かす最もダイナミックな要素となろう。穀物の飼料利用が経済移行国とEUという2つの大消費地域において落ち込んだ事件や政策に伴って、90年代半ばまでの10年間、穀物のこうした役割は失われていた(3章、セクション3.2と3.3参照)。
 
表3.3 世界全体及び主要国グループ別の穀物バランス(抜粋)



 
需要 生産


 
ネット貿易

 
自給率
(生産/需要)
 
年増加率、%
1人当たり
(kg)
総計
(100万トン)


 
需要

 
生産

 
人口

 
食用 全用途 食用 全用途
世界
1964/66 147 283 490 941 940 4 100 67-97 2.1 2.0 1.7
1974/76 151 304 612 1234 1268 1 103 77-97 1.6 1.5 1.6
1984/86 168 333 809 1608 1659 2 103 87-97 1.2 1.5 1.5
1995/97 171 322 979 1844 1836 6 100 95/97-2015 1.4 1.4 1.2
2015 176 336 1257 2393 2397 3 100 2015-30 1.1 1.1 0.8
2030 177 346 1428 2801 2805 4 100 95/97-2030 1.2 1.3 1.0
途上国
1964/66 141 183 325 420 399 -17 95 67-97 3.2 2.9 2.1
1974/76 149 200 438 587 563 -39 96 77-97 2.8 2.7 2.0
1984/86 170 232 616 839 779 -66 93 87-97 2.5 2.4 1.8
1995/97 172 250 765 1107 996 -107 90 95/97-2015 1.8 1.6 14
2015 178 268 1029 1550 1352 -198 87 2015-30 1.3 1.2 1.0
2030 178 281 1197 1886 1615 -270 86 95/97-2030 1.6 1.4 1.2
工業国
1964/66 136 482 94 335 351 30 105 67-97 1.1 1.5 0.7
1974/76 136 505 104 384 456 55 119 77-97 1.0 0.8 0.7
1984/86 149 571 121 464 614 106 132 87-97 1.3 1.8 0.7
1995/97 161 573 141 502 620 117 124 95/97-2015 0.7 1.1 0.3
2015 163 615 152 574 760 186 132 2015-30 0.5 0.9 0.1
2030 164 654 156 622 868 246 140 95/97-2030 0.6 1.0 0.2
経済移行国
1964/66 210 556 70 186 189 -9 102 67-97 0.6 0.3 0.7
1974/76 191 719 70 263 249 -16 94 77-97 -1.1 -0.6 0.6
1984/86 183 766 73 304 266 -37 87 87-97 -3.6 -2.8 0.2
1995/97 177 569 73 235 220 -4 93 95/97-2015 0.7 1.4 0.0
2015 184 648 77 269 285 15 106 2015-30 0.6 0.8 -0.1
2030 181 717 74 294 321 28 109 95/97-2030 0.7 1.1 0.0
 
 途上国では、これまでに比べればその需要増加率は低くなるとはいえ、穀物(コムギと粗粒穀物)輸入に対する依存を引き続き高めて行こう。緑の革命後の時代で、特に潅漑など資源不足のますます強まる時代となるため、生産増加を図るための資源の潜在力はこれまでよりも制約されると展望さている点からも、こうした予測が導かれる。ネットの穀物輸入量は、1995/97年の1億700万トンから、2015年には2億トン、2030年には2億7000万トンに増加すると予測される。こうした数値は、ほぼ停滞の期間の後に、世界の穀物貿易が拡大を再開することを示している。現在の停滞は、90年代において経済移行国によるネットの穀物輸入が事実上消滅したことと、特に食料輸入大国の近東/北アフリカを始め多くの国で経済と石油輸出の利益が低下したことに主に起因している。
 伝統的な穀物輸出国が使っていた輸出市場を不振にしたこれらの要因は将来その制約度合を下げるとはいえ、完全に消えることはないであろう。経済移行国がネットの大輸入国に再び戻ることはありそうになく、長期的には自らを穀物のネットの輸出国に転換させる潜在能力を有している。我々は、伝統的輸出国である北アメリカ、西ヨーロッパやオーストラリアの現在の輸出量よりもどれほど輸出が増えうるかを評価するために、この不測の事態に対して補正(ネットの輸出量として、2015年に1500万トン、2030年に3000万トン)を行った。伝統的輸出国は、ネットの輸出量を1995/97年の1億4200万トンから、2015年には2億2000万トン、2030年には2億8000万トンに増やす必要があろう。
 しばしば提起される疑問だが、これらの伝統的輸出国は、輸出にまわす過剰分を絶えず増やし続けるほどの生産力を十分有しているのだろうか。こうした疑問が提起されるのは、集約農業の環境に対するマイナスインパクトに対する関心がその大きな理由となっている。その答えは、とりわけ何年にわたってどれだけ増やさなければならないかにかかっている。生産増加を行うべき必要量は、輸出用の畜産物生産に必要な穀物需要量を含めた自国の国内需要の予測量と、ネットの輸出予測量を加えたものとなる。これらの伝統的輸出国は、総生産量を1995/97年の6億トンから、2015年には7億3500万トン、2030年には8億4000万トンに増加させることが必要であり、予測対象の全34年間全体では平均で年率1.0%の増加となる。過去の増加率は、主に政策変更や時折の気象ショックに伴った輸出需要の増減に従って大きく変動しているが、年率1%の増加は、過去34年間(1965〜1999年)の平均増加率の1.7%よりも低い。過去の経験から学んだことは将来にも通ずるだろうが、その学んだことからすれば、生産システムは、需要増加が妥当な範囲にあり、それを満たすのに柔軟に対応する力を有しているといえよう。
 
家畜生産
 世界の食料経済は、畜産物指向の食事にシフトするのに伴って拡大してきている。途上国では過去数十年間において、肉類消費量は年率5〜6%、ミルク及び乳製品は3.3〜3.5%増加してきている。しかし、こうした増加の大方は、中国、ブラジルなど人口の非常に多い一部の国を含む比較的少数の国で起きているに過ぎない。この2か国を含めると、途上国における1人当たりの肉類消費量は90年代半ばまでの20年間に11kgが23kgに増加したが、この2か国を除くと、11kgが15kgに増加したに過ぎない。途上国及び世界総計に中国を含めるのと含めないのとでは、中国の食料消費で比重の小さなミルク及び乳製品は別だが、肉類全体の増加率がかなり違ってくる。しかし、蛋白消費量を増やす必要性の最も高い多くの国や地域は、世界の肉類セクターの浮揚力には加わっていない。このカテゴリーに入る地域は、サブサハラ(ある意味では永久経済停滞のために1人当たりの消費量が非常に低い)や近東/北アフリカである。後者は、80年代後半まで急速に拡大した後、停滞し、その後の数年間はイラク援助での消費の崩壊に伴って若干低下した。ミルク及び乳製品の1人当たりの消費量に関する展望についても同様なことがあてはまる。
 世界の肉類経済では、家禽セクターが急速に成長しており(過去30年間に肉類全体の産出量に占める割合が13%から28%に拡大した)、最近では肉類貿易の浮揚力となっていることが特徴となっている。こうした浮揚力には、なかでも地域貿易協定を含む肉類貿易の自由化に向けた大きな動きが反映されている。輸出国や輸出先について、一部大きな変化が生じた。日本がネットの輸入国として世界最大の国となり(80年代中期以降、ネットの輸入量が4倍に増加)、次いで旧ソ連(主にロシア連邦)となった。オーストラリアとニュージーランド(両者を合わせて)が世界最大の輸出国であり、この10年間にアメリカは肉類のネット輸入国からネット輸出国に転じたが、その主たる部分は家禽セクターの拡大による。
 
表3.9 ミルク及び乳製品の1人当たりの消費量及び生産と消費の推移(生乳換算)(換算)
  1人当たりの消費量 kg/人
  1964/66 1974/76 1984/86 1995/97 2015 2030
世界 74 75 78 76 82 91
途上国 28 30 37 42 53 67
工業国 185 191 210 213 220 224
経済移行国 157 192 180 155 173 186

 
消費又は生産量
1000トン

年増加率、%
  1995/97 1967-97 1977-97 1987-97 95/97-2015 2015-30
  総消費(全用途)
世界 538,438 1.3 1.0 0.1 1.4 1.5
途上国 216,899 3.5 3.3 3.4 2.6 2.6
工業国 222,960 0.7 0.5 0.1 0.4 0.2
経済移行国 98,580 0.0 -1.2 -4.6 0.6 0.4
  生産
世界 539,266 1.3 1.0 0.3 1.4 1.5
途上国 196,358 3.4 3.5 3.7 2.6 2.6
工業国 241,170 0.8 0.4 0.3 0.6 0.5
経済移行国 101,739 0.1 -0.1 -4.4 0.6 0.4
 
 
表3.10及び3.11 肉類(生体重換算)の1人当たりの消費量及び生産と需要の推移(抜粋)
  1人当たりの肉類消費量 kg/人
  1964/66 1974/76 1984/86 1995/97 2015 2030
世界 24.1 27.4 30.7 34.7 40.0 44.0
途上国 10.2 11.3 15.5 23.1 30.0 35.0
工業国 61.5 73.6 81 86.5 93.0 97.0
経済移行国 42.5 60 65.8 49.4 61.0 69.0


 
消費又は生産量
1000トン

 

年増加率、%
 
  1995/97 1967-97 1977-97 1987-97 95/97-2015 2015-30
  生産
世界 202,575 2.9 2.8 2.5 1.9 1.4
途上国 102,938 4.9 5.5 5.9 2.7 1.9
  消費
世界 200,377 2.9 2.8 2.4 1.9 1.4
途上国 103,283 5.1 5.5 5.9 2.8 2.0
 
 
 将来に関していえば、これまで肉類セクターを急速に成長させた力はかなり弱まると予測される。過去の増加で際立っていた主要国では消費量がかなり高いレベルに達するのに伴って、増加が自然減速するので、人口増加率の低下が重要な要因となる。例えば、仮に中国では過去10年間における2 kg/人/年という増加(これによって1995/97年には39kgとなった)がなお続くとすると、中国の1人当たりの消費量がまもなく工業国を追い越すことになるが、こうした予測は擁護できるものではない。同様な見方はブラジルなど他の国にもあてはまる。従って、少なくともこれら2か国では劇的な減速が生じ、その重みを考えると、世界全体の集計でも減速が生ずると予測される。
 その他の国ではこれまでよりも将来の消費は増加しようが、総計に占めるこれらの国の比重は小さく、世界全体の総計では予測される減速を止めるには至らないと考えられる。インドでは、1人当たりの肉類消費量が極めて低く(1995/97年で4.5kg)、人口は中国に対抗するほどなので、世界の肉類経済を成長させる一つの極になると考えるかもしれない。しかし、これはあり得ないことで、1人当たりの消費量は、楽観的予測でも2030年に10kgを超えないであろう。この値は多数の研究からも示されている。ここで得られた結論は、世界全体の肉類の需要と生産の増加率は、これまでよりもかなり低く、過去20年間の年率2.8%に対して、次の20年間では年率1.9%になるというものである。こうした大国の影響を受けて、途上国全体での減速はより急速なものとなろう。中国とブラジルを除けば、減速はずっと小さくなるが、人口増加率よりもはるかに大きいものになることはなかろう。
 肉類と異なり、ミルク及び乳製品の消費量は、限界に達するまでまだまだ成長しよう。経済移行国では低下に歯止めがかかり、一部回復が起きるため、最近の状態に比べれば、世界のミルク及び酪農セクターはより高い成長を示すと予測される。経済移行国を除くと、世界の需要はこれまでと同じ年率1.6%で増加し続けるはずである。やがて経済移行国は上向きに転じ、肉類セクターに多少の刺激を与えるであろうが、予測される減速を薄めるほどの効果を持つとはとても思えない。
 過去において肉類セクターを発展させる特徴となった構造変化は、その速度は低下するものの、なお継続すると考えられ、世界全体の肉類生産と肉類貿易の中で家禽のシェアは増加し続けるであろう。貿易に関しては、途上国がますます肉類のネット輸入国になる傾向は続くであろう。この点は、途上国が食料及び農産物のネット輸出国からネット輸入国に点ずるという一般的傾向のもう一つの重要な要素である。輸入肉類への依存を高めるなかで、家禽肉の輸入が際立ってこよう。乳製品の貿易も、途上国のネットの輸入増加とともに、80年代中期以降の停滞を脱して成長を回復するであろう。
 既に指摘したように、世界における穀物の飼料利用は最近かなりスローダウンしている。途上国は違うが、世界における穀物の飼料利用の増加率は家畜生産セクターの総生産量よりも低くなっている。これは主に、経済移行国における家畜生産セクターの崩壊、90年代初期までのEUにおける高価格政策、家畜生産の家禽へのシフト、生産性全般の向上に起因している。経済移行国の事件で生じた世界における穀物の飼料利用に対する圧力低下の歯止め、EUにおける穀物の飼料利用増加への転換、世界の畜産物における途上国の比重の増加、家禽にシフトした構造変化の減速などによって、世界における穀物の飼料利用は再び増加することになろう。
 
油糧作物と油脂製品
 高カロリー含量の本カテゴリーの食品は、途上国の食料消費増加において重要な役割を果たしてきている。過去20年間における食料消費の増加分についてみれば、5カロリーのうちの1カロリー強がこのグループの食料に由来している。この傾向は継続かつ強化されると予測され、次の20年間に増加するカロリーでは、3カロリーのうちの1カロリーはこのグループに由来しよう。この予測は、途上国の多くでは直接食料として消費する基本食料(穀物、根茎作物等)の量はわずかに増加するだけで、植物質油脂のような非基本食料を嗜好し、その消費量がかなり増加するという予測に立脚している。
 需要サイドについていえば、これまで世界の油糧作物経済を駆動させてきている大きな力は、途上国、特に需要増加の大方を占めている中国、インド及びその他一部主要国における食料需要量増加である。これ以外にも油脂の非食用工業利用や家畜生産セクター用の油かす飼料もかなりの需要増加をもたらしている。世界全体の需要及び生産(油相当量)は、農業全体の延びよりも高い水準で拡大し続けようが、過去20年間の年率4.0%の延びよりははるかに低く、今後20年間では年率2.1%の延びとなろう。こうした減速は、既に他の品目について論議した要因、即ち、人口増加率が低下すること、中〜高レベルの消費を達成する国が増加することと同時に、有効需要を抑制させる低所得国が引き続き存在することを反映している。
 生産サイドについていえば、これまでは4つの油糧作物(オイルパーム、ダイズ、ヒマワリ、ナタネ)が中心で、少数の国が世界における生産量増加の大方をまかなってきている(表 3.16)。将来における需要増加率の低下と政策変更(補助金を受けた生産に対する制限など)によって、これらの作物生産を助長する構造変化のペースは落ちるであろう。油糧作物セクターは、これまで耕地拡大のかなりの部分を占め、工業国では穀物栽培面積の減少分の一部をカバーしてきた。途上国における土地利用の予測からは、油糧作物は今後とも収穫面積拡大のかなりの部分を引き続き占めるであろう。
 途上国における需要が急速に増加したのに伴い、油脂及び油糧種子の大輸入国となった一部途上国が出現した。5つのネットでの大輸出国(マレーシア、インドネシア、フィリピン、ブラジル、アルゼンチン)を除く途上国では、油脂及び油糧種子のネット輸入量(油換算)を1974/76の100万トンから1995/97年には1400万トンに拡大した。しかし、これと同時に5つの主要輸出国はネット輸出量をp400トンから1800万に増加したため、全途上国におけるネットのバランスは若干向上した。将来的にはこうした傾向は続き、途上国でのネットのバランスは大きくは変化しないであろう。途上国はこれまで油かすのネット輸出国であり、減少傾向にあったとはいえ、これによって油糧種子、油脂及び油粕を合わせると、ネットの輸出をプラスにしてきた。途上国における家畜生産セクターの発展に伴い、油粕のネットでの輸出はネットの輸入に転換すると予測される。この点も、上述した途上国が農産物のネット輸入国に転ずるという傾向を裏付けるものである。
 
作物生産拡大にかかわる要因
 2030年までに途上国の作物生産は基準年(195/97年)に比して70%向上すると予測される。作物生産量はこのようにかなり増加すると予測されるが、年増加率でみると、これまでに比べて作物生産ではかなりスローダウンすることになる。この増加分の大方(約80%)は単収向上の形(増加分の70%)や作付強度向上(多毛作や休閑期間の短縮)の形で達成され、残りの20%分は耕地拡大の形で達成されよう。
 途上国には天水利用で「最低許容レベル」以上の収量を上げうる潜在耕地が28億ha存在する。こうした土地のうちの約9億6000万haは既に耕作されている。しかし、残りのまだ利用されていない18億haの土地の大方は、非常に不均一に分布し、南アメリカやサブサハラの特定の国に集中しているため、「予備」農地とみなすことはできない。これと対照的に南アジアや近東/北アフリカの多くの国には事実上余分な土地が残されてなく、利用されていない土地は1つ又は複数の要因の制約を受けていて、農業に向いていない。これに加えて、農業に向いた土地のかなりの部分は、森林又は保護地域にあったり、人間の定住用に使用されていたり、インフラがなかったり、疾病の発生地帯等にあったりしている。従って、これらの土地は、直ぐにでも農業拡大に使える「予備」農地とみなすべきではない。
 
表4.2 作物生産増加に対する寄与率の推移(抜粋)

 
耕地の拡大
(1)
作付強度の向上
(2)
収穫耕地面積の拡大(1+2) 単収向上
 

 
1961-97
 
1995/97
-2030
1961-97
 
1995/97
-2030
1961-97
 
1995/97
-2030
1961-97
 
1995/97
-2030
世界 15   8   23   77  
途上国 24 20 5 11 29 31 71 69
 
表4.7 全耕地面積の推移


 
利用耕地面積(100万ha)

 
年増加率%

 
潜在可能地に対する利用耕地%


 
1961/
63

 
1979/
81

 
1995/
97

 
1995/97
補正
2015

 
2030

 
1961
-1997

 
1995/97
-2030
1995/
97

 
2030

 
サブサハラ 121 138 154 231 266 288 0.73 0.65 21 26
ラテンアメリカ 104 138 159 202 227 243 1.26 0.55 18 22
近東/北アフリカ 86 91 101 87 92 94 0.42 0.22 76 82
南アジア 191 202 204 207 212 216 0.18 0.13 84 88
東アジア 176 181 228 232 236 238 0.91 0.07 57 58
途上国 680 756 853 960 1033 1079 0.68 0.34 32 36
工業国 379 394 388       0.08   45  
経済移行国 291 280 267       -0.16   52  
世界 1350 1430 1508       0.35   35  
 
 
 途上国については、かなりの発展の期待される作物ごとに、収量及び農地配分(4章及び付属書2)や、天水及び灌漑農地での作付強度の向上の側面について詳しい調査がなされている。農地の利用可能性と需要を考慮すると、途上国の耕地は2030年までに12%増加すると予測されるが、その大部分は「土地の豊富な地域」である南アメリカやサブサハラで、そのかなりの部分は、どの程度かは不明だが、森林伐採によって造成されよう。収穫面積では、作付強度の向上によって、20%(1億7600万ha)増加しよう。
 灌漑は途上国の農業において、その重要性を高めると予測される。現在、灌漑による生産は耕地の20%で行われ、全作物生産の約40%(穀物生産の約60%)に寄与していると推定されている。このシェアは2030年には23%(つまり、4500万haで、1995/97年の1億9700万haが2030年には2億4200万ha)増加し、収穫面積では34%増加すると予測される。灌漑農業の拡大によって農業用取水量が12%増加しよう。この取水量増加予測は、水源から作物まで導水する過程における水のロスを減らして、灌漑水の利用効率をどこまで高めることができるかにかかっている(平均で43%を50%)。
 一般にいわれているように、収量増加が作物生産増加の大黒柱となろう。しかし、予測期間における収量の年増加率は、これまでよりははるかに低くなろう。例えば、途上国の平均穀物収量の増加率は、1961〜97年の実績である年率2.5%に対して、年率1%になると予測される。こうした成長の減速はゆっくりと起き、現在でも既に多少起きている。例えば、過去10年間(1987〜97年)においては既に1.9%に低下した。国によって収量の差は大きいが、これは引き続き残ると予測される。この差は、農業生態系の条件、農業管理行為、さらには全体的な社会経済的及び政治的な環境の違いに起因している。例えば、小麦及びコメについてみると、収量の低い国10%の平均収量は、収量の高い国10%の平均収量の5分の1又はそれ以下に過ぎない。大生産国(作付け面積の大きな国10%)といえども、小麦及びコメの平均単収は、単収の高い国10%の半分よりわずかに多いだけである。
 途上国における肥料(NPK成分)は、1995/97年の7900万トンから2030年には1億1200万トンへ、年率1.0%増加すると予測される(世界全体では1995/97年の1億3400万トンが2030年には1億8200万トン)。これはこれまで(1987〜97年では年率3.5%)に比べると、劇的なスローダウンである。このスローダウンは、予測される農業生産の増加率の減速、環境への関心の高まりに触発され、一部の国で現在行われている又は徐々にそうなりつつある高レベルの施肥のレベルダウンや肥料利用効率向上に起因しよう。途上国におけるha当たりの使用量は、1995/97年の90kgから2030年には107kg(先進国における現在の使用レベル)に増加すると予測される。東アジアでは肥料使用量がha当たり180kgに達しようが、サブサハラでのha使用レベルは非常に低いままで、多くの地域では養分消耗を除くには足りないであろう。
 
表4.15 肥料消費量の推移(抜粋)
  1961/63 1995/97 2030 1961-97 1987-97 1995/97-2030
総計 養分、100万トン 年増加率%
サブサハラアフリカ 0.2 1.1 2.2 6.0 0.6 1.9
ラテンアメリカ 1.1 9.4 15.9 6.3 2.1 1.6
近東/北アフリカ 0.5 5.7 8.3 7.6 0.0 1.1
南アジア 0.6 18.1 27.2 10.0 4.3 1.2
東アジア 1.7 44.4 58.8 9.7 4.2 0.8
上記の合計 4.1 78.7 112.4 8.8 3.5 1.1
工業国 24.6 46.3 58.3 1.5 -0.5 0.7
経済移行国 5.3 8.4 10.8 1.8 -17.3 0.8
世界 34.3 133.9 181.6 3.9 -0.9 0.9
ha当たり kg/ha 年増加率%
サブサハラアフリカ 2 8 11 4.6 -2.4 0.9
ラテンアメリカ 15 73 92 5.0 2.0 0.7
近東/北アフリカ 11 80 97 6.7 -0.4 0.5
南アジア 6 79 104 9.4 3.6 0.8
東アジア 9 147 180 8.9 3.1 0.6
上記の合計 7 90 107 7.9 2.4 0.5
工業国 125 206 253 1.1 -0.9 0.6
経済移行国 27 54 61 2.4 -15.9 0.4
世界 35 107 124 3.3 -1.5 0.5
 
家畜生産の拡大
 家畜生産セクターの高い速度での成長というこれまでの傾向は(作物セクターよりも早い成長)は今後とも継続するが、減速しよう。既に家畜生産は世界全体で農業総産出額の40%を占めている(先進国では半分以上)。途上国は、引き続き世界の総生産額に占めるシェアを高め、2030年には肉類生産では63%(1995/97年は51%)、ミルク生産では54%(1995/97年は36%)に増加しよう。
 一般には家畜頭数を増加させることが肉類生産拡大の主力になろうが、牛肉、羊肉や家禽肉セクターでは1頭当たりの体重を増やすことがより重要となろう。養豚及び家禽セクターでは回転率(生産サイクルの短縮)の向上も将来の生産拡大には重要となろう。途上国では家畜生産のシェアの向上に伴い、多目的システムから専作化した商業的集約生産システムに移行しよう。これに伴い家畜飼料原料の組成も変化し、濃厚飼料のシェアが増加しよう。当然、こうした発展に際しては、土地、飼料、労働力、資本の利用可能性によってリージョン間の大きな差が存在し続けよう。
 畜産物に対する強い需要が続くことは、農村開発のチャンスとなり、それを触発することにもなりうる。しかし、途上国における家畜生産セクターの発展には落とし穴も存在する。つまり、総合的な大規模商業事業体が小規模な家畜生産農家に置き換わって、農村の貧困を拡大させることにもなりかねない。さらに、高度集約的な家畜生産が無秩序に拡大することによって、良く知られたような環境面の危険も生ずる。この両者の問題に対処するには、効率的な生産を助長する環境(例えば、既存の歪曲政策の撤廃)や、家畜生産による環境インパクトを効果的に規制する環境を創出する予防的な政策が必要である。
 家畜生産の集約化の進展、家畜密度の増大や家畜給餌の変更に伴い、ますます畜産物の食品としての安全性や人獣伝染病(結核など)への関心が高まってきている。最近におけるBSEの発生並びにサルモネラやダイオキシンの事故は、人間の健康と畜産業の双方に厳しい派生的影響を与えうることを証明している。従って、品質管理と保証システムがますます重要となり、これらが給餌行為から加工及び流通に至る全生産システムに対してインパクトを与えることとなろう。しかし、多くの途上国では生産者並びに加工業者が自らの行為を変更するだけの十分なインセンティブを持てない危険が存在する。これは消費者の食品の安全性に対する認識が、ごく限られたものになっている現状がなおしばらく続くと考えられるからである。しかし、途上国の輸出業者は輸入国の食品安全基準にますます適合するように求められてきている。
 
林業発展の可能性
 社会における漠然とした環境に対する関心の高まりに呼応することも一因となって、森林管理の目的は、木材生産から、生物多様性の保全を含めた環境機能の保護にますますシフトしてゆくこととなろう。現在、約3億haの森林面積(約8%)が自然保護ないし保全地域に指定されており、法的に保護された面積が年率4%の割合で増加している。やがては自然林と人工林を含め、法的保護の外にある森林もこうした目的に沿って適切な仕方で管理されることになろう。
 森林伐採スピードは、既に1990年代初期でも認められているが、予測される作物や家畜生産に加え、木材生産のスローダウンに呼応して、国やリージョンによって大きな差があるとはいえ、引き続き減速すると予測される。多数の国では、耕地の拡大(正規とそれ以外の農業)が、これからも森林伐採の主因であろう。水がますます重要な資源になるのに伴い、集水域における洪水防止や降雨遮断、さらには侵食防止に果たす森林の役割はますます重要になると考えられる。
 工業用丸材の需要は引き続き上昇しよう(2015年までは年率1.5%、その後は年率1.3%)。丸材供給においては工業用植林の役割が大きく高まるであろう。現在、この種の植林は工業用丸材供給の約1/5を占めていると推定されているが、この割合が2015年及びそれ以降においては約1/3に高まると予測される。これによって自然林に対する圧力が多少減って、適切な森林管理行為が行いやすくなるだろう。ha当たりの木材産出量を高めて植林の生産性を改善する余地は多分に存在する。木材加工業においては、より効率の高い加工方法(回収率の向上や残渣の利用等)と新素材(例えば、ゴムや材オイルパーム材)とを組み合わせることによって、単位産出量額たりの原料の量をさらに減らせるであろう。
 1995年に世界中で伐採された木材の60%以上が燃料として使用された(途上国では80%以上)。薪の消費量は次の20年間に増加し続けるものの、その後は安定又はかろうじてだが、減少すると予測される。薪燃焼器具のエネルギー効率の向上やよりきれいな器具の開発がなされることが主因となって、こうした傾向が引き起こされると予測される。当然、人口増加率全体、特に農村の人口増加率の低下が薪利用量の増加率を抑える重要な要因となる。いくつかの国では木材以外の林産物が大きな収入源となろう。木材以外の産品は様々あり、そのなかには栽培化されたり、通常の農業の中に組み込まれるものもあろうが、隙間市場を見つけたり、商業化するのは必ずしも容易ではなかろう。
 森林の状態や例えば持続可能性に関する管理決定に関する知識を向上させる情報の提供など、林業における意志決定を助ける情報及び通信技術を改善する必要性が高まると予測される。こうした技術によって、樹木の新しい増殖技術や木材加工技術の普及に加え、遠隔地の森林施業の場との連絡が容易となろう。
 
漁業発展の可能性
 魚介類は引き続き食品として好まれよう。1人当たりの消費量の世界平均は1997年に約16kgとなったが、国によって大きな差があり、1人当たりの消費量が1kg以下の国から80kgを越える国まである。2030年には1人当たりの平均消費量は世界全体で19〜20kgに増加し、食用利用される魚介類の量は1億5000〜6000万トンに増加しよう。魚粉や油脂に加工される魚類の割合(現在は約3000万トン)は恐らく低下しよう。家畜生産の集約化や水産養殖の一層の拡大に伴って、魚粉に対する需要が増加するにもかかわらず、遠洋性の小魚(通常は魚粉利用)のうち、食用に供される割合が高まるであろう。従って、魚粉製造は別の資源を見つけざるをえなくなり、最も可能性の高いのが動物性プランクトン(まずは南極のオキアミ)であろう。
 1990年代、海洋魚介類の漁獲量は8000〜8500万トンの範囲にあり、内水面での漁獲量は年間700〜800万トンであった。しかし、1990年代の終わりには、主要な海洋魚介類資源の50%の開発が完了し、約15%が乱獲され、7%が枯渇されてしまた。従って、長期的に持続可能な海洋漁獲量がおおよそ1億トン(又はこれを若干上回る量)を越えることはないと推定されている。しかし、この推定は、資源のより一層効率的な利用、健全な生態系、危機的状態にある生息地の保全を前提にしているのに加え、漁獲量の増加は、不要な魚介類の廃棄を少なくする漁具の選択性の向上や、回復したストックからの漁獲量をより高いレベルでの維持にもかかっている。しかし、こうした増加を実現させるのには時間がかかろう。
このため、供給増の大方は養殖に頼らざるをえない。1990年代に養殖は目覚ましいまでの発展を遂げた(大方はアジアで、世界の養殖生産の70%を中国が占めている)。現時点(1997年)で、養殖による漁獲量は2億8200万トン(内水面1710万、海洋1億1100万トン)に達し、食用魚介類供給量の約30%を占めている(養殖によるものは魚粉生産には使用されていない)。なお暫くの間は活発な成長を続けられるが、制約要因(飼料原料の不足、疾病、適当な内水面の場所不足、環境問題等)が次第に強まってきている。この10年間、養殖は魚粉や油脂の生産量の半分以上を利用してきている。
 近年、レジャーとしての漁業(レクリエーションやスポーツとしての釣りやその他消費以外の利用)への関心が高まり、現在使用されている水産資源にアクセスさせろとの要求が高まっている。こうした要求は通常商業漁業と直接競合することはなく(一部の沿岸及び内水面漁業を除き)、レジャーによる漁獲量は比較的小さい。
 漁業は多数の問題に直面しており、そのどれにも公的な介入が必要である。その1つは、魚介類の現存量に制限があって、漁船の生産効率が向上し続けているため、漁船の過剰漁獲能力を組織的に削減する必要である。既にこのプロセスは始まっており、なかでも先進国では漁業労働力の削減がなされている。もう一つの関連した大きな問題が魚介類資源へのアクセス規制である。この問題は法的なアクセス権を扱う国際的及び二国間条約でますます扱われるようになってきている。第三は、社会のいろいろな層から、捕獲漁業及び養殖漁業の双方に伴う環境のダメージを削減すべきとの圧力が高まっている問題である。この問題から、一部には自主的なものもあるが、漁獲方法を規制する一連の国内及び国際的な規則が作られてきている。
 今後海洋生態系についての理解がどの程度進むかは、捕獲漁業の持続可能性や養殖の拡大の双方に強くかかわる重要な要因である。知識が向上すれば、魚介類資源のダイナミックスや、海洋生態系に対する人間の影響を含め、生態系の動きを良く理解できるようになろう。こうした知識は、漁業の生産性向上、漁業管理の支援や、漁獲操業のモニタリングに役立ち、なかでもモニタリング規則や規制の順守に加え、は環境インパクトにも役立つであろう。
 
農業における自然資源利用の環境側面
 将来的には農業の環境に対するインパクトは、2つの相殺しあう力から構成されることになろう。1つは、作物及び家畜生産の拡大による自然資源に対する圧力が今後とも続くこと、もう1つは、農業によって引き起こされる環境破壊に対して技術革新や制度的対応を行うことによって、農業生態系に対する圧力が低下することである。農業生産の増加はスローダウンすると予測されるので、農業によるインパクトもスローダウンすると予測される。従って、環境に対する圧力の増加率も減少すると予測される(重要な例外もあるが)。農業生産拡大需要とそれによる環境への悪影響との間のトレードオフが続くことになろう。しかし、農業拡大需要が徐々に減少するともに、そのうちに技術進歩がトレードオフを最小にして、環境に対して行ったダメージを部分的ないし全体的に回復させるチャンスが生まれると予測される。自然資源を維持すべきとか、農業活動に伴うマイナスの環境インパクトを抑制すべきとの公衆の認識や圧力の高まりに呼応して、徐々に適切な政策や規制が実施されよう。
 途上国では、これまで年間510万haの耕地を増やしてきたが、1995/97年と2030年の間に増やすべき耕地は年間350万haに減少しよう。また、家畜生産の成長速度はこれまでよりも遅くなり、ますます集約的生産システムにシフトしよう。この2つの理由から、森林伐採がスローダウンすると予測される。しかし、侵食を起こしやすい傾斜地や湿地は、これまでよりも遅い速度とはいえ、引き続き耕地に転換されてゆくであろう。土地の劣化や砂漠化の広がりや深刻度についてはなお不明な点が多いが、これまでの評価の多くは過大評価であるとの指摘がなされている。これに加えて、土地劣化の生産力に対するインパクトも、これまで指摘されていたほどは深刻でないようである。農業起因の土地劣化は今後も続くであろうが、いろいろな理由(生産増加のスローダウン、保全耕耘の普及、肥料利用効率の向上、脆弱農地からの撤退等)によって、これまでほどではなかろう。
 肥料施用量は引き続き増加し、環境に対してプラスとマイナス双方のインパクトを与えるであろう。有機及び無機の肥料は作物に収奪された養分を補完し、土壌有機物を生成させる。しかし、地下水の硝酸塩汚染は多くの先進国で引き続き問題となり、途上国でも次第に問題となろう。肥料使用量の増加は、湖沼、ダム、池などの富栄養化や土壌の酸性化を引き起こすであろう。逆にサブサハラでは肥料使用量が足りず、養分の消耗や土壌の圧密が一層進行しよう。土壌の圧密は低投入システムのために土壌有機物レベルが低下して、土壌構造にダメージが生ずるために起きる。汎用されている農薬の多くはまだかなり広い作用スペクトルを有し、従って、有益な昆虫、鳥類、その他の非標的生物にマイナスのインパクトを与え続けよう。しかし、総合的に考えると、技術改善、規制措置やオーガニック農業の成長によって、農薬の過剰使用ひいてはその環境インパクトは減少するであろう。
 途上国では潅漑耕地面積が2030年までにネットで約4500万ha増加しようが、平坦ないし良くテラス化された潅漑耕地は一般に深刻な土壌侵食の原因にならないので、環境に対して便益をもたらすであろう。しかし、水利用効率の向上や排水への投資を増やさない限り、地下水位の低下、塩類化や冠水などの問題が増えるであろう。地下水の過剰取水によって、数100万haの潅漑農地が生産不能になりうる。
 家畜生産活動の環境インパクトについては、これまで過放牧や森林伐採(牛放牧用草地)並びに特に先進国における集約的家畜生産事業体に起因する汚染が、問題にされてきている。将来的には、家畜生産増加分の大方は集約的な濃厚飼料を利用した酪農、養豚、養鶏システムによると予想されるため、過放牧よりも、家畜生産システムに起因するガスの発生や水質汚染が地球規模でより重要となり、国内的にもより広範に起きよう。こうした集約的システムからは生態系の酸性化を引き起こすアンモニアや、温室効果ガスのメタンや亜酸化窒素が発生する。また、こうしたシステムからは、濃厚な液状及び固形の排泄物が生産され、硝酸塩が土壌や水系に溶脱し、水管理が不十分だと、窒素や他の養分が表流水に放出されて、深刻な富栄養化を生ずることになろう。
 生物多様性は、これまでよりも増加率は低いとはいえ土地の伐採や農地拡大、さらには作物及び家畜生産の集約化によって、引き続き進行するであろう。生物多様性に対する主たるインパクトとしては、1)管理している森林、放牧草地や圃場外縁部における種の豊かさの全般的低下と、栽培作物及び家畜の遺伝資源の減少、2)食料及び農業生産を支える微生物を含めた野生生物種の減少、3)農業と農業によって生息地と餌を生み出している景観に依存した野生生物種の減少が問題になる。
気候変動:気候変動に対する農業の役割
 農業活動は、温室効果ガスを発生して気候変動に関与するが、同時に、例えば炭素の固定を行って気候変動を緩和する。農業は世界全体の人為的な温室効果ガス発生の30%を占めている(メタンでは40%、亜酸化窒素では80%)。農業活動による二酸化炭素発生の増加率は、森林伐採や土地植被変化のスローダウンによって、スローダウンするであろう。同様に、水稲栽培からのメタンの発生もスローダウンないし、恐らく減少するであろう(水田の湛水の仕方や水稲品種の変更のために)が、家畜からの年間のメタン発生量は、2030年までに60%増加するであろう。また、肥料からの亜酸化窒素の発生増加もスローダウンしよう(消費量増加のスローダウンと肥料のより効率的な使用の組合せによって)が、家畜(家畜排泄物)からのメタン(注:亜酸化窒素の誤りではないか)発生は2030年までに50%増加するであろう。積極的な側面では、作物及び家畜生産は、作物残渣、家畜ふん尿、さらには保全耕耘の普及によって土壌有機物を増やすることによって、炭素固定においてかなりの役割を果たしうる。
気候変動:農業へのインパクト
 農業に対する気候変動の影響はまだ良く分からないが、異常気象の出現頻度の高まり(出現頻度の変化はまだ一般的に受け入れられているわけではない)と海面の上昇を除けば、2030年以前では恐らくあってもわずかであろう。温帯(相対的に適した土地で収量の高い地帯)では、光合成の増加(二酸化炭素の肥料効果)、水利用効率の向上及び降雨の変化がもたらす作物生産への直接的インパクトは、全体としてプラスになろうが、サブサハラや熱帯性の中緯度地帯では一般にある程度減収が生ずるであろう。同様な影響(温帯で良好、熱帯では多分にマイナス)が家畜生産や林業でも起きると考えられる。しかし、漁業は海水温度の上昇によって全ての場所で影響を受けると考えられる(例えば、既に北海では魚介類資源への影響が起きている)。同様に海面上昇(2030年までに15〜20cm上昇)によって全ての沿岸地域が影響を受けるであろう(マングローブの破壊、塩水の浸透など)。気候変動は、水の利用性の変化や有害生物個体群へのインパクトを介して、間接的にも農業に影響を及ぼすであろう。地球全体では農業に対する気候変動のインパクトは恐らく小さいであろうが、一部の国は厳しい影響を受けるであろう(例えば、沿岸地帯の広大な国)。重要な問題は、これらの国々が今後数十年間にわたって生ずるこうした変化にどの程度適応でき、自分らの必要とする農産物についてどの程度世界市場を頼りにできるかである。

 

資料:畜産における温室効果ガスの発生制御 第5集
財団法人畜産技術協会
(2000)

 
 
 地球の温暖化は,夏期の気温上昇にともなう家畜の生産性の低下,降水量の変動に伴う飼料作物の生産変動などによって,畜産分野にも影響を与えると考えられる。一方,畜産業そのものが温暖化ガスの発生源の一つであることもすでに明らかにされている。家畜ルーメンから呼気とともにでるメタンや,家畜排せつ物から発生するメタンや亜酸化窒素がそれである。
 この報告書には,地球温暖化をめぐる世界と日本の流れから,反芻家畜のメタン生成メカニズム,家畜排せつ物からのメタン・亜酸化窒素の発生・制御など最新の研究情報が体系的にまとめられている。さらに,読者の理解を容易にするため,地球温暖化関連用語解説が掲載されており,コンパクトな解説書の役目も果たしている。また,海外の調査報告も紹介されている。
 内容は次の通りである。
1.地球温暖化をめぐる流れ
2.温室効果ガスの濃度変動、温暖化及びその対策技術
3.反芻家畜とメタン
4.家畜排せつ物からのメタン・亜酸化窒素の発生と制御
5.草地とメタン・亜酸化窒素
6.わが国の畜産における温室効果ガスの発生と制御(総括)
7.「地球温暖化関連用語解説」
海外調査報告
1.平成11年度海外調査について
2.アルゼンチン国における畜産からの温室効果ガス抑制に関する研究動向

 

資料:世界の農地水管理
−気候区分別農地水管理の実態と将来方向−,緑資源公団
(2000)

 
 
 本書は,緑資源公団の前身である農用地開発公団が,1984年から15年間にわたり農地水管理の専門家に依頼して現地調査した結果をまとめた資料である。対象とした地域は,「東南アジア水田地域」,「乾燥・半乾燥地域」,「半乾燥地を中心とした天水農業地域」である。東南アジア水田地域の水管理については,我が国の研究の蓄積もあることから,灌漑および排水の問題に対する視点が明確となっている。そこでは,気候,地形,品種など様々な影響のもとで発達した多様な水田とその水管理を類型化しており,水管理組織の重要性も指摘している。半乾燥地の灌漑農業は,古代文明発祥の地で発達した河川灌漑をはじめ,オアシス農業および近代的砂漠灌漑農業が解説され,次いで半乾燥地の土壌,作付け体系の特徴と塩害等の問題点を指摘している。3番目の天水農業の水管理は今まであまり注目されてこなかったテーマである。しかし天水に一方的に頼るばかりでなく,多様な作物の組合せによる限界地農業や雨水を積極的に利用するといった伝統的利水技術が多数紹介されている。世界の作付け面積の17%の灌漑農地が農産物の約40%を生産しているという指摘からみても,灌漑水管理の重要性はいうまでもない。しかし,一方では,自然の水文サイクルを大きく変更するような灌漑は,古代文明滅亡をみれば明らかなように,決して持続的な農業ではない。本書に紹介されている多数の調査事例から灌漑農業の功罪も考えることができる。開発途上国を中心とする地域の農地水管理技術を支援する際に前もって情報を得るには大変便利な資料である。
目次
第1章 序説
第2章 湿潤地域(東南アジア)における水管理技術
第3章 乾燥・半乾燥地域における水管理技術
第4章 天水農業
第5章 まとめ−取り組んだ研究課題と研究結果の総括−
(A5版366ページ)
 
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