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情報:農業と環境
No.8 2000.12.1

 
No.8

・「農林水産省農業環境技術研究所17年の歩み」が刊行される

・国際ワークショップ

・次期科学技術基本計画(案)固まる

・地球科学技術における今後の重点化すべき研究課題

・「遺伝子組換え農作物を考えるコンセンサス会議」の

・本の紹介 20:共生生命体の30億年,リン・マーギュリス著,

・本の紹介 21:研究者,有馬朗人監修,東京図書(2000)

・本の紹介 22:化学物質は警告する

・本の紹介 23:現代日本生物誌11「マングースとハルジオン」

・本の紹介 24:Trace Gas Emissions and Plants,

・侵入生物の制御−生物によって侵入生物と戦う−


 

「農林水産省農業環境技術研究所17年の歩み」が刊行される
 


 
 
 農林水産省農業環境技術研究所は昭和58年12月1日に発足しました。平成12年12月1日をもって17年を経過したことになります。来春4月1日からは,独立行政法人農業環境技術研究所として再出発することになりました。そこで,この17年間の歩みを取りまとめ,記念誌「17年の歩み」を刊行しました。
 以下に,本記念誌の「刊行のことば」と「目次」を掲載します。本誌は,後日関係場所および関係者に配布する予定でおります。
 
刊 行 の こ と ば
 
 農林水産省農業環境技術研究所は,農業生産環境を含む農業環境の制御・保全・利用に関する先行的・基盤的技術開発を行う機関として,昭和58年(1983)12月に発足し,17年の歳月を経てきた。
 
 平成11年(1999)7月には,「食料・農業・農村基本法」が公布・施行された。この基本法では,従来からの農業所得や農業生産性の向上のみならず,食料の安定供給や自然循環機能の維持増進による農業の持続的な発展がうたわれている。
 
 この間,「農業と環境」は国内外においてますます重要な問題になってきている。ひとつは,グローバリゼーション(世界的規模化)の問題である。WTO(世界貿易機関)やOECD(経済協力開発機構)などで,農産物貿易や農業政策の論議において環境保全が重視され,さらに,IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の温暖化防止など地球規模の環境問題も重要となり,その中でも農業と地球の関わりに避けて通れない現実がでてきた。
 
 一方では,20世紀後半に急速に発達した鉱工業や革新的技術を用いた農業の集約化などにより発生した新たな問題がある。それは,有害重金属による農地の汚染,環境ホルモンなど微量化学物質の食物連鎖を通した汚染,さらには遺伝子組換え作物の生態系への影響など,もともとわれわれ人類が作り出したものによる環境へのマイナス影響の問題である。さらには,農業生産の集約化・規模拡大や耕作放棄地の拡大などに伴う農業環境資源の劣化と多面的機能の低下の問題もある。
 
 また,有限という概念が世界を覆いはじめた。現実に,化石燃料やエネルギーには限界があり,これらを活用することにより環境が悪化すること,すなわち地球の容量に限界があることからも,環境問題の重要性が認識されるに至った。さらに,多様という概念が浮かんできた。環境を維持することは,多様性を維持することに他ならないことにわれわれは気がついた。生物多様性の必要性がその良い例である。
 
 このような背景のなかで,農林水産省所管の研究所は,中央政府機関の行政改革の一環として独立行政法人化を行い,農政改革による新しい枠組みで再編することになった。農林水産省に所属する19の農業関係の研究所は,農業政策に関する一つの研究所を除き,2001年4月1日から6つの法人に整理・統合した上で,独立行政法人に移行することが決定された。
 
 農業環境技術研究所の歴史は,明治26年(1893)に設立された農商務省農事試験場に始まる。今から107年も前のことである。最初の農事試験場は,種芸部・煙草部・農芸化学部・病理部・昆虫部・報告部・庶務部から構成され,国民に食料を供給するための研究所として長い時間をかけて着実に発展してきた。
 
 誕生から57年の歳月を経た農事試験場は,昭和25年(1950)に農業技術研究所に改組され,新たな組織は,生理遺伝部・物理統計部・化学部・病理昆虫部・経営土地利用部・農業土木部・園芸部・家畜部・畜産化学部・庶務部から構成された。この組織は,社会の変遷に伴って11年後の昭和36年(1961)には,園芸部が園芸試験場,農業土木部が農業土木試験場などに分化され,専門の研究所へ発展した。その結果,農業技術研究所には,生理遺伝部・物理統計部・化学部・病理昆虫部・経営土地利用部・庶務部が残ることになった。
 
 その後,22年の歳月を経た農業技術研究所は再び変貌し,農業環境技術研究所と農業生物資源研究所に分化していった。今から17年前の昭和58年(1983)のことである。そして,農業環境技術研究所は平成13年(2001)に,独立行政法人農業環境技術研究所に生まれ変わる。
 
 農林水産省農業環境技術研究所が終焉し,新たな独立行政法人農業環境技術研究所が甦生するにあたって,ここに農業環境技術研究所の「17年の歩み」を刊行する。本書が,次の新たな研究所の飛躍台にならんことを希望する。さらに,新たな研究所が日本および世界の農業環境研究の中核たらんことを切に希望する。
 
 本書を刊行するに当たり,多くの先輩から研究所の歴史の裏付けとなる回想や体験談を頂くことができ,本書の内容が正確かつ充実した。心からお礼申し上げる。また,編集委員諸氏の地道な努力と,執筆を分担された多くの所員にも心からお礼申し上げる。
 
目 次
T










 
沿 革
1.研究の背景と動向
(1)国内外の情勢
(2)研究の背景
(3)研究の動向
2.研究実施の変遷
(1)研究基本計画
(2)研究の推進・運営
3.組織・定員の変遷
(1)組織の変遷
(2)定員の変遷
4.予算の推移

II

























 

業 績
1.17年の業績
(1)農業環境構成要素の分類および特性解明と機能評価
(2)農業生態系における構成要素の動態・相互作用の解明と制御技術の開発
(3)地球環境保全における農業生態系の機能の解明と評価および影響軽減化技術の開発
(4)農業生態系の総合的計画・管理技術の開発
2.主要な研究成果
(1)農業資源としての土壌の分類基準
(2)水系における微量元素の分析法と賦存量
(3)他感作用の強い植物の検索と他感物質の同定
(4)クロロ安息香酸の3種異性体を分解するバークホルデイリア菌の特徴
(5)土壌伝染性担子菌類の個体群構造
(6)昆虫フェロモンの化学構造の決定と利用
(7)分解細菌を集積した木質炭化素材による農薬のバイオレメデイエーション
(8)廃水処理余剰汚泥の土壌施用によるレアメタル蓄積の推定
(9)地球規模の気候変動による純一次生産力変動の予測
(10)農耕地からのメタンと亜酸化窒素の発生とその発生制御技術
(11)衛星SARデータによる水稲作付け面積の推定手法
(12)わが国の食料供給システムにおける窒素循環の変遷
(13)農林地の持つ国土・環境保全機能評価データベースの作成
(14)農村環境の生物保持機能に着目したビオトープ結合システム

III


 

 追 想
1.歴代所長
2.運営委員会・外部委員
3.職員

IV































 

資 料
1.国内外の環境問題と当所の研究活動の流れ
2.研究推進・評価の変遷
(1)研究基本計画
(2)運営委員会の開催記録および外部委員名簿
3.プロジェクト研究の推移
(1)主要プロジェクト研究の推移
(2)プロジェクト研究課題一覧
(3)科学技術振興調整費による重点基礎研究課題一覧
(4)所内プロジェクト研究課題一覧
4.主要成果(農業環境研究成果情報)一覧
5.特許一覧
(1)国内特許
(2)外国特許
6.所蔵コレクション
(1)昆虫標本館のコレクション
(2)土壌モノリス館のコレクション
7.刊行物一覧
(1)農業環境技術研究所報告
(2)農業環境技術研究所資料
(3)農業環境技術研究所叢書
(4)NIAES Series
8.ホームページ
9.研究の人事交流
(1)科学技術庁在外研究員など
(2)国内留学(派遣)
(3)国内留学(受入れ)
(4)流動研究員(派遣)
(5)流動研究員(受入れ)
10.職員名簿
(1)全職員名簿
(2)現職員名簿
11.土地・建物の概況と施設配置図
 
 

国際ワークショップ
「環境変動下における地域農産物生産のモニタリングと予測」
Crop Monitoring and Prediction at Regional Scales

 




 
 
趣 旨
 
 急激な人口増加を背景として,特にアジアにおける農作物生産量の増加が21世紀半ばまでの重要課題である。一方,気候変化や異常気象さらに大気組成の変化など,農業生産にとっての環境変動と不確実性は今後ますます高まるだろう。こうした環境変動下の農作物生産の現状を的確にモニタリングし,将来を予測するためには,生長プロセスに基づくモデリングと,リモートセンシングおよび環境地理的情報の統合が不可欠である。本ワークショップは,日中および日米科学技術協力協定の下で,農作物生産のモデリングと予測に必要な個別技術と,それらの統合を主テーマとして開催する。その結果,中国を主とする東アジアの農作物生産を,広域的・長期的に予測するための研究協力体制が確立するものと期待される。
 
実 施 内 容
1. 主催:農業環境技術研究所
2. 開催場所:つくば市(研究交流センター国際会議室)
3. 開催日:平成13年2月19日(月)〜21日(水)
4.

 
参加国など
 中国7名,韓国2名,アメリカ5名,EU2名,日本4名(以上招待講演)
5.
 
 一般研究発表は公募(主に国内)
プログラムの概要











 
 開会
 セッション1:生長プロセス・モデリング

 
農作物生長モデルの開発,地域スケールの生長プロセス・シミュレーション
 セッション2:リモート・センシング

 
リモートセンシングによる農作物モニタリング,リモートセンシングと生長モデルの統合
 セッション3:環境変動下の作物生産モニタリングと予測

 
農作物生産と環境変動の実態,気候のリージョナル・シミュレーション,環境変動下の農作物生産予測
 総合討論
 閉会

6.

 
連絡先:農業環境技術研究所地球環境研究チーム,0298-38-8171
   (担当:大野宏之 ohno@niaes.affrc.go.jp)
7.
 
ホームページ: (対応するURLが見つかりません。2010年5月)
 

次期科学技術基本計画(案)固まる
 


 
 
 「情報:農業と環境」No.1で紹介した「科学技術基本計画」(案)がほぼ固まった。科学技術会議総合計画部会は11月9日,2001年から5年間の科学技術戦略を定めた「科学技術基本計画」(案)の概要をまとめた。
 
 新基本計画では「科学技術創造立国の実現」を基本目標として捉え,「資源配分の重点化」に取り組む決意を強調している。
 
 具体的には,ライフサイエンス,情報通信,環境,ナノテクノロジー・材料の4分野に重点を置き,優先的に資源を配分すると明示している。研究開発システムの改革では,研究者が常に競争にさらされる環境を整備することが必要であるとし,競争的資金を倍増して,そのうちの30%を間接経費に充てるとしている。
 
 さらに研究者の採用については,公的研究機関では若手研究者に活動の場を与えるため30代半ばまでは原則的に3〜5年の任期付き採用とし,研究者の流動化を高めるため流動促進計画を定めることを求めている。
 
 産業技術力の強化と産学官連携の仕組みでは,特許の研究機関管理による活用を促進し,発明者に使用料を還元する制度を整備するとしている。また,大学などの施設の老朽化や施設の不足については5年の緊急施設整備計画を策定するとしている。
 この基本計画案は12月中に科学技術会議に答申され,さらに省庁再編にともなって2001年1月に内閣府に設置される総合科学技術会議での議論を経て,政府の了承を得て決定される。基本計画(案)の項目は以下の通りである。
 
はじめに
第1章 科学技術政策の基本的方向
T.21世紀初頭における我が国の目標
II.科学技術振興のための基本的考え方
 
第2章 重要施策の計画的な実施
T.科学技術の重点化戦略
II.科学技術システムの改革
III.科学技術活動の国際化の推進
 
第3章 科学技術基本計画の着実な実行と総合科学技術会議の役割
 
 

地球科学技術における今後の重点化すべき研究課題
−地球環境問題の解決に向けて−

(最終報告ドラフト),地球科学技術分野に関する検討会

 




 
 
 「情報:農業と環境」No.5で紹介したように,科学技術庁の「地球科学技術分野に関する検討会」では,平成11年10月に科学技術政策委員会から示された「地球科学技術に関する研究開発基本計画について」に対する答申のフォローアップ報告を踏まえて,昨年12月より地球科学技術分野における今後の研究開発の方向およびその推進方策等について検討を進めてきたが,このたび,「地球科学技術における今後の重点化すべき研究課題について−地球環境問題の解決に向けて−」(最終報告ドラフト)をとりまとめた。( (対応するURLが見つかりません。2010年5月) )。 内容は次の通りである。
 
1.はじめに
2.地球科学技術の範囲
3.地球科学技術を巡る現状と検討の視点
4.重点化すべき研究課題の基本原則
5.将来的に人類が解決すべき喫緊の問題
6.問題を解決するための地球科学技術及び今後の重点化すべき研究課題
7.研究開発の推進方策について
図1 自然界と人間活動の相互作用の見取り図
表1 重点研究課題と研究開発目標年次「研究開発目標年次は5年と10年がある」
 
 問題を解決するための地球科学技術及び今後の重点化すべき研究課題は以下のようにまとめられている。
 盛り込まれた構想の中で特筆されることは,地球環境問題の解決のためには,環境のみを単独で捉えるのでなく,資源,エネルギー,食料などの諸問題を含めて持続的な発展が可能な社会を求めることの重要性を指摘している点である。
 また,農業環境に係わるキーワードが多く用いられており,農業と地球環境が切っても切り離せない関係にあることが注目される。最終報告は,今年中に発表される予定である。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「遺伝子組換え農作物を考えるコンセンサス会議」の
「市民の考えと提案」が公表される

 



 
 
 農業環境技術研究所は,組換え体の生態系に対する安全性評価のための試験研究を主要な業務の一つであると位置付けている。そして,昭和62年度以来,「安全性」に始まる組換え体プロジェクト研究の主査場所を務めており,現在,「組換え体の産業的利用における安全性確保に関する総合研究」を平成11年度から行っている。組換え農作物の実用化を図るためには,研究開発の推進と併せて,科学的知見に基づく安全性の評価・向上が不可欠であり,これに加えて,遺伝子組換え農作物に対する市民の不安や疑問などに的確に応えていくことが重要である。このため上記のプロジェクト研究の一環として,以下のような「市民からの提案に対応する研究」をプロジェクトの中で進める予定である。
 
 このテーマに関心を持つ専門外の一般の方に市民パネラーになっていただき,遺伝子組換え農作物について,専門家の意見を聞き,議論したうえ上で,これについての共通理解や環境に対する安全性等についての提案をとりまとめていただいた。提言のために,社団法人農林水産先端技術産業推進センター(STAFF)主催による「遺伝子組換え農作物を考えるコンセンサス会議」が実施された。つくば市で開催された第2回会議では,農業生物資源研究所のバイオプラントリサーチセンターとともに,当所の遺伝子組換え植物隔離圃場を市民パネラーが見学した。11月4日に「遺伝子組換え農作物が環境に及ぼす影響の長期的な調査研究の実施」,「なまざまな媒体をもちいて分かりやすい情報を提供すること」など9つの「鍵となる質問」について「市民の考えと提案」が公表された。今後,この提言を踏まえた調査研究をプロジェクトの中で進める予定である。
 
 なお,「遺伝子組換え農作物を考えるコンセンサス会議」および「市民の考えと提言」の詳細については,農林水産省農林水産技術会議事務局先端産業技術研究課のホームページ( (対応するURLが見つかりません。2010年5月) )に掲載されているのでご覧下さい。
 

「遺伝子組換え農作物を考えるコンセンサス会議」     
運営委員会およびファシリテーター名簿     














 

○運営委員長
 若松 征男(東京電機大学理工学部教授)
○運営委員
 駒嶺 穆 (東北大学名誉教授・財団法人進化生物学研究所理事)
 高柳 雄一(NHK解説委員)
 塚原 修一(国立教育研究所教育政策研究部教育制度研究室長)
 吉田 岳志(農林水産省先端産業技術研究課長)
 渡辺 秀一(日本生活協同組合連合会くらしと商品研究所安全政策推進室長)
○ファシリテーター
 小林 傳司(南山大学人文学部教授)

 

 

「遺伝子組換え農作物を考えるコンセンサス会議」の市民パネラー     





 

○ 応募者数  総数 479名
○ 選出方法  地域別・年齢層別・性別に定員数を定めた上で厳正に抽選
○ 市民パネラー選出者  計 18名(倍率26.6倍)

 
 
 

本の紹介 20:共生生命体の30億年,リン・マーギュリス著,
中村桂子訳,草思社 
(2000)

 
 
 著者のリン・マーギュリスは,生物の進化に関して共生説を唱え,進化論の主流のダーウィン信奉者からは異端視されてきた女性科学者で,かつては天文学者のカール・セーガンの妻であった。
 
 本書は,著者が研究者として生涯をかけて取り組んできた二つの主要なアイデアである,連続細胞内共生説(SET,Serial Endosymbiosis Theory)とガイア(GAIA),それにこの二つの相互関係を中心テーマとしている。
 
 共生とは,それぞれの生物が懸命に生きようとし,時には戦いながら,結局そこに落ち着いた姿であるということだ。共生とは相手を思いやってのことではなく,そうでなければ生きられない生き方である。共生するパートナー(共生体)は,同じ場所と時間のなかで文字通り相手と接触し,ときには相手の内部に入り込むことさえある。
 
 これを,生物の進化の説明に当てる。遺伝子の突然変異だけでは,生命の進化は説明できない。そこには細菌細胞の融合と合体,共生というじつに生きものらしい過程があった。ヒトの細胞内にあるミトコンドリア,植物の光合成をになう葉緑体,神経や精子のしっぽまでが,遠い昔に合体した共生細胞だという。人類は神の創造物ではなく,他の類人猿と同じく,高い反応性をもつ微生物の何十億年にもおよぶ相互作用によってつくられたと言う。
 
 ガイアは,母なる大地を意味する古代ギリシャ語で,地球は生きているという前提に立つ概念を表している。イギリスの化学者ジェームス・ラブロックが提唱したガイア仮説は,
大気中のガスや地表の岩石や水の様相が,生物の成長や死や代謝などの活動によって調節されているというものだ。ラブロックは,この仮説でブループラネット賞を受けている。
 
 DNAとGAIAの相互関係を語ろうとする本書は,多くの基礎的知識を必要とするが,まさに46億年の地球の歴史と生命のたどってきた道に思いをはせるには,実に興味ある科学書であろう。
 
 

本の紹介 21:研究者,有馬朗人監修,東京図書
(2000)1,800円 ISBN4-489-00601-2

 



 
 
 本書のプロローグでは,原子核の集団運動の研究をはじめ,原子核の電磁気的構造についての研究など,原子核物理の分野で多くの業績を残した有馬朗人東大名誉教授が,「成功するための研究力と独創力を身につける方法」と題して,成功する研究者に必要な資質と独創力をのばす方法,成功する研究者の条件などを語る。
 
 つづいて,世界の最前線で活躍している日本を代表する13人の科学者が,研究者として成功するための方法を語る。若者の理科離れが言われる現在,一流研究者が後進の若者に向ける言葉は熱い。それぞれの章に詳しい注釈があり,最新の科学技術の解説書にもなっている。
 
 「研究の壁は新発見のはじまり」,「研究者としての基礎体力をつける」,「幸運は用意された心にやどる」,「事実の発見より価値の発見」,「夢を語れるか,夢を実現する基礎体力があるか」,「ナンバーワンよりオンリーワンを目指せ」,「幅広い教養・知識を積み,問題発見法の知性を磨け」,「五つのC」などわくわくするキーワードがいくつも散見される。以下に目次を紹介する。
 
プロローグ:成功する研究者の条件

 
●成功するための「研究力」と「独創力」を身につける方法 有馬朗人
 
成功する研究者の方法

















 
●よいテーマとよい装置の開発で人のやらないことをやれ! 戸塚洋二  
●大型プロジェクトを生み出す原動力は何か? 舘すすむ
●ゲノム研究は新しいスタイルの研究者を求めている 榊 佳之
●事実の発見より価値の発見こそが重要だ! 野依良治
●独自の研究を継続して「オンリーワン」をめざせ! 本庶 佑
●研究対象に愛情をもてば,新しい局面がどんどん開ける! 松本 元
●世界を相手に勝負するテーマと「武器」をもっているか 外村 彰
●ブレークスルーを生み出すカギはどこにあるのか? 小林 誠
●君はマスター二年までに「相転移」をおこしているか? 北澤宏一  
●成功に導く研究は,間違えてこそ進展する 森 重文
●君は夢を語れるか? 夢を実現する基礎体力があるか? 土肥義治  
●幅広い教養・知識を積み,「問題発見型」の知性を磨け! 小平桂一
 





















 
 
 

本の紹介 22:化学物質は警告する
−「悪魔の水」から環境ホルモンまで−,常石敬一著,洋泉社
(2000)690円 ISBN4-89691-489-9

 




 
 
 著者は,「はじめに」に書いている。すべて「先送り」にしてきたと。化学物質がこの一世紀にわたり,人間に多くの豊かさを与えてきた反面,少しずつデメリットという形でチャレンジしてきた問題を見極め,人間がそれをどうはね返せるかを,一人ひとりが考えること,これが本書の目的だと。
 
 著者は「はじめに」で続ける。「先送りされてきた問題,化学物質からの人間へのチャレンジが,今や先送りできないことを示しているのが環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)だ。今,化学(科学)の世界はあたかも飽和状態のように見える。それだけ若者にとって魅力の少ない分野となっているのだろう。しかし化学物質からのチャレンジということは,自然からのそれでもある。それにまともに応えなければならないということは,本書の最後にも述べるが,新しい科学を建設することにつながると私は考えている。今や,化学(科学)は多くのチャレンジ精神に富む若者にとって,挑戦し甲斐のある魅力ある分野だと考えている。」
 
 現在,化学物質は毎日2000種が登場し,12万種が流通しているという。しかしその結果,われわれの身の回りには人間が意図的に,またときによっては非意図的に作りだした毒物であふれている現実がある。毒物の種類は二通りある。一つは食品添加物などで,毒と知っていて毎日摂るもの。もうひとつは和歌山の「亜ヒ酸入りカレー事件」のように,知らないで摂って被害を受けるものである。いずれにしても,われわれの周りにはわれわれが作った人工物質に満ち満ちているのだ。
 
 著者は「あとがき」でこう締めくくる。「わたしは内分泌攪乱化学物質は,人類の将来を破壊する化学的な時限爆弾ではないか,と危惧している。これらは,これまでの多くの人工的に作り出され,利用されてきた化学物質とは違い,問題が出てから対応するのでは手遅れとなる。「沈黙の春」の「明日のための寓話」が現実のものになると考えている。そうさせないために,化学物質からのメッセージを受け止め,未来を確保するための戦略を作り出さなければならない。これは未来を信ずる一人ひとりに課せられた課題だ。」以下に目次を紹介する。
 
序 章 毒にも薬にもなる化学物質
第1章 ヒ素 猛毒中の猛毒物質
第2章 窒素 火薬・肥料の原料として出発
第3章 塩素 最も身近な化学物質
第4章 青酸 「生命の起源」にもかかわる猛毒物質 
第5章 リン 3大「神経ガス」の原料
第6章 水銀 回収・再利用が行われている危険物質
第7章 PCB・ダイオキシン・フロン 地球と人類に敵対する最悪の化学物質
第8章 環境ホルモン 21世紀の科学革命と内分泌攪乱化学物質との闘い
 
 

本の紹介 23:現代日本生物誌11「マングースとハルジオン」
−移入生物とのたたかい−,服部正策・伊藤一幸著,岩波書店

(2000)1,900円 ISBN4-00-006731-1
 




 
 
 「現代日本生物誌」は,いま日本の動物・植物に何がおきているのかをテーマに全12巻から構成されている。すでに4巻が刊行された。その一つが本書である。このシリーズでは,主人公である二つの生き物の名前が,各巻の表題になっている。その組み合わせは,「動物と動物」,「植物と植物」および「動物と植物」に及ぶ。一見したところ結びつきもなさそうな二つの生き物を取り上げて各巻が構成されているのは,一つの生き物を取り上げただけでは解らない,現代を生き抜こうとしている生物の本質的な特徴を明らかにするためである。
 
 全12巻の内容は,カラスとネズミ・ホタルとサケ・フクロウとタヌキ・イルカとウミガメ・タンポポとカワラノギク・マツとシイ・イネとスギ・ツバキとサクラ・ネコとタケ・メダカとヨシ・マングースとハルジオン・サンゴとマングローブである。
 
 さて,「マングースとハルジオン」の紹介である。マングースがハブの天敵として東南アジアから沖縄に90年前に導入された動物であることは,多くの人が知るところである。沖縄での動物の分布域から考えても,奄美大島のような深い天然林に進入することは困難であろうと思われていたが,ハブと共存できる習性からあっさりとその地位を占めてしまった。しかし,ハブを駆除するために放ったマングースが,ハブとは共存し天然記念物のアマミノクロウサギの生存を脅かしているという。
 
 北アメリカ原産のキク科の多年草であるハルジオンは,大正時代に関東地方に帰化した。帰化したハルジオンに除草剤がかけ続けられているうちに,除草剤への抵抗性を獲得してしまった。すなわち,除草剤の効果が失われたのである。本書では,このハルジオンを例に雑草の生態系でのたくましさが語られる。
 
 本書は第1部がマングース,第2部がハルジオンについての解説である。第3部は二人の著者と二人の編集者(林 良博・武内和彦)による討論である。以下に本書の目次を紹介する。なお,著者の一人の伊藤一幸氏は,当研究所の植生生態研究室長である。
 
第1部 マングース
第2部 ハルジオン
第3部 討論 マングースとハルジオンは何を問うているのか
 
 

本の紹介 24:Trace Gas Emissions and Plants,
微量ガス発生と植物
Ed. S.N. Singh, Kluwer Academic Publishers, pp.328

(2000) ISBN 0-7923-6545-3
 





 
 
 快適さを追求することに飽くことを知らない現代の人類は,人為的な活動を促進し,温室効果ガスや成層圏破壊物質を大気中に大量に放出している。その結果として,地球の温暖化や成層圏オゾン層の減少が生じ,21世紀の人類に地球規模の環境変化という大きな苦難をもたらすことは疑いようがない。本書はその原因となる温室効果ガスである二酸化炭素(CO),メタン(CH)や亜酸化窒素(NO),対流圏のオゾン(O),さらには過剰な窒素沈着としてアンモニア(NH)などの微量ガスを取り上げている。それら微量ガスの大気中への発生メカニズムや大気中における動態,あるいは大気中の濃度増加の結果として起こる様々な環境変化に対して,植物がいかに反応しているかを,多数の執筆者がその専門的な目から解説している。なお,編者であるDr. Singhはインド国立植物研究所環境科学部に所属し,大気汚染,メタン,NOなどと植物との係わりのある様々な分野で活躍している研究者である。
 
 本書は1章から7章まで,地球温暖化の主要な原因である化石燃料の燃焼産物のCOに関する問題に紙面の多くを費やしている。養分と水が十分供給される状況ならば,作物の生産力と収量は大気中のCO濃度増加によって増大する。しかし,温度の上昇とオゾン濃度の増加などの要因も加わった環境においては,光合成,光呼吸,気孔コンダクタンス,水利用効率,転流,炭素分配,ダウンレギュレーション,篩部ローディングなど植物の生理生化学的な特性が異なるので,これらについての詳細な影響が検討されている。また,気候変化に対する森林の炭素固定や炭素プールも論議されている。
 
 8章から9章は,農耕地などの土壌で微生物によって生成されるCHとNOに関するものである。湿地と水田の土壌において,CHは嫌気的条件下でメタン生成バクテリアによって生成されている。水生植物は底質土壌のメタン生成には直接的な影響を与えてはいないが,底質土壌から大気へのメタン輸送のためのパイプとしての役割を果たしており,湿地からのメタンフラックスに影響を与えている。水田からのメタンフラックスの日変化,季節変化および年次間変化は,土壌特性,植物の活性や農業の管理手法によって大きく変化する。これらの局面が8章で強調されている。9章では埋め立て地からのメタン発生について書かれている。ここでは,環境にやさしくかつ費用効果が高い戦略として,メタン酸化菌の生息する表面土壌をうまく利用して,メタン発生を抑制する技術が詳述されている。
 
 10章および11章はNOに関するものである。ここでは,NOの酸化(硝化作用)および嫌気(脱窒作用)条件下での生成メカニズム,地球温暖化現象と成層圏オゾン層の破壊におけるNOの関わり,NOフラックスと酸化を制御する土壌的要因と環境的な要因,NOの人為的な発生源と吸収源,さらに,発生を制御する技術などが紹介されている。
 
 12章では,対流圏オゾンの増加が過去,現在および未来において,農作物の生長・収量,森林の衰退,さらに様々な自然植生に及ぼす影響が解説されている。13章では成層圏オゾン層の破壊に伴って増加する紫外線(UV−B)の農作物への影響が論議されている。UV−Bの増加は植物の生理的なプロセスを変化させることによって,農作物の生長と収量に影響を与えるかもしれないこと,その一方で,現在までの野外におけるUV−B照射実験では,予想される程度のオゾン層破壊では,農作物の生長・収量の減少にはあまり大きな影響がないと考えられることなどが紹介されている。
 
 最後の14章と15章では,気候変化と窒素沈着との間の相互作用と,大気アンモニアの作物と森林生態系への毒性影響と養分的な影響が概説されている。
 
 本書は,気候変化の領域で行われている研究と植物の生育との密接な関係を,最近の情報を中心にまとめている。なかでも,気候変化によって世界的な食料の供給と人間の健康への危険が差し迫っているという観点から,人為的な温室効果ガスの発生を抑制するための緩和策が紹介される。気候変化の脅威を抑制できる戦略,あるいはその脅威を先に延ばせるような国家的,国際的なレベルで採用されるべき将来の戦略を垣間見ることができる。本書は,地球規模の気候変化が及ぼす農業,森林および草原への影響に関心を持つ研究者や環境保護に積極的に行動している人達には,得るものが多い書である。
 
 なお,本書の「10章:農耕地から発生する亜酸化窒素」の著者,陽 捷行氏と「13章:成層圏オゾン層破壊に伴う紫外線(UV−B)増加が農作物へ及ぼす影響」の著者,野内 勇氏は当研究所の職員である。目次は以下の通りである。
 
 1.温室効果ガスと地球温暖化
 2.人間活動と大気環境
 3.COと温度の変化に対する植物の反応
 4.CO増加に対する樹木の反応
 5.オゾンとCOの相互影響:陸上生態系を介して
 6.気候変化に対する森林生態系の反応とフィードバック
 7.CO増加に対する植物の反応とオゾンとの相互作用
 8.水田におけるメタン発生と酸化
 9.覆土した埋め立て地におけるメタン酸化
10.農耕地から発生する亜酸化窒素
11.増加する亜酸化窒素と気候変化
12.対流圏オゾンの影響:過去,現在と予想される未来
13.成層圏オゾン層の破壊に伴う紫外線(UV-B)増加が農作物へ及ぼす影響
14.気候変化と窒素沈着との相互作用(特に,アンモニアを中心に)
15.植物によるアンモニアの吸収,移動および発生
 
 

侵入生物の制御−生物によって侵入生物と戦う−
 


 
Biological Invaders: Fighting fire with fire
D. Malakoff, Science 285: 1841-1843. −Fighting Fire with Fire−
 
 農業環境技術研究所は,農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに,侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって,生態系の攪乱防止,生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の1つとしている。このため,農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが,その一部を紹介する。
 
火をもって火を制する 
 侵入者をくい止めるために,昆虫からウイルスまでの広い範囲の天敵に対する需要が高まっている。しかし,生態学者はこの方策は逆効果になりかねないと警告している。
(要約) 
アメリカのモンタナ州のウエストボールダー川
 米国モンタナ州の牧場経営者は,ユーラシアから侵入した多年生雑草であるハギクソウ(leafy spurge)を,雑草の原産地であるアジアから導入された昆虫の大群が駆除してくれることを期待している。もうひとつの侵入植物,ロシアアザミ(tumbleweed)を,導入した天敵昆虫が1年で抑えられたという成功例があるからである。
 
 これは,研究者達が古典的な生物的防除と呼んでいるもので,侵入した雑草や害虫の天敵生物を導入する,いわば「火をもって火を制する」方法である。侵入生物の脅威が増すにつれ,多くの科学者は,化学農薬や物理的防除法より安全かつ安上がりで,広大な地域にいる侵入生物を制圧できる方法として,生物的防除に頼るようになっている。化学農薬の使用を削減しようとしている政府は,天敵の探索や生物的防除を後押ししている。かつては主に農業上の有害動物に限られていたが,生物的防除はあらゆる種類の侵入生物と戦うための優先度の高い手段になっており,毎年世界中で数十種類の天敵が放されている。
 
 しかし,生物的防除はそれ自身危険であると警告する環境研究者や生態学者もいる。導入した外来生物が標的以外の在来種を攻撃したり,望ましくない状態に生態系を変えることが問題となるかもしれない。生物的防除の研究者でさえ,導入された天敵の長期的運命は分からないことがしばしばあると認めている。このような危険の故に,導入天敵による生物的防除は最後に頼る手段とすべきであると,テネシー大学の生態学者シンバーロフは述べている。生物的防除に対する需要が増大すると同時に,環境研究者や生態学者は以前よりずっと詳細に生態系影響について調べるようになっている。
 
成功の世紀 
 生物的防除についての最も早い記録は,1836年に英国政府がブラジルからのカイガラムシを南インドで放したものである。このときは,南アメリカから侵入したサボテンの防除に成功した。これ以降,50種類以上の植物を防除しようとして約300種類の昆虫と病原が導入され,500種近くの侵入昆虫に対して1000種類近くの捕食者,寄生者と病原が放された。
 
 しかしながら,生物的防除には未だ試行錯誤の面がある。害虫防除用に導入された昆虫の3分の1以下しか効果がなかったと推定されており,雑草を攻撃する目的で輸入したものの半数しか定着しておらず,効果のあったものはさらに少ない。多くの微生物,ウイルスおよびカビによる生物的防除では,天候や日光の変化のようなストレスに耐えられないため成功率はもっと低い。
 
 その結果,殺虫剤の効果と比較すると,不確実であるとして生物的防除を否定する専門家もいる。しかし,統計的にはそう悪くないという研究者もいる。研究者は1種の雑草に対して,通常4種以上の天敵昆虫を試みている。米国農務省は,研究の支援と同時に米国の生物的防除素材の認可を行っているが,既に13の天敵昆虫をハギクソウ(leafy spruge)に対して使用することを承認している。生物的防除には目覚ましい成功物語がある。例えば,ゾウムシや他の昆虫は,世界中のを湖や川からホテイア オイやフサモなどの外来種を駆逐した。また,米国においては,導入寄生蜂がかつて米国で主要害虫であったアルファルファゾウムシを防除し,これにより推定毎年9千万ドルの節約になっている。殺虫剤のコストが回収できないような低価格の作物では,生物的防除は最良の選択であろうといわれている。
 
小魚の猛威
 しかしながら,成功話とともに,生物的防除素材の失敗例も増加しつつある。例えば,数十年間ロスアンジェルス郡では,蚊の防除のために合衆国南西部からカダヤシ(Gambusia)を持ち込んで無料で配布していた。この小魚はオタマジャクシを貪欲に食べることが知られてお り,池のみに制限し,小川に放すべきではないという警告もあったが,この小魚は,以前は魚のいなかったサンタモニカ山中の川にまで入った。現在,この小魚は,希少種のアオガエル(Pacific tree frog)と他の2種の両生類を食 べているようだ。もっとはげしい論争では,アザミを枯らすゾウムシ(Rhinocyllus conicus)の問題がある。2年前に,子実を食べる幼虫が,ロシアアザミ(Russian thistle)を攻撃するだけでなく,稀少種を含む何種かの在来の北米アザミも攻撃する と報告された。1960年代後半のそのゾウムシの放飼は,環境的なコストを無視したいいかげんな生物的防除であったと示唆されている。米国農務省のDelfosse氏は,ほとんどの先進国においては,雑草や昆虫とその生物的防除素材について,長期の「寄主特異性」試験が実施されており,たとえ飢餓状態にあっても,その昆虫が貴重な作物 や昆虫を攻撃しないことを確かめていると反論している。
 
 Delfosse氏は,そのゾウムシを放飼した時代においても,試験結果はその天敵昆虫が在来種のアザミを摂食するかもしれないことを示していたと付け加えている。そし て,30年前に行われた放飼承認の決定では,摂食試験の方法についてよりも,リス ク/ベネフィットについてより多く議論しており,現在なら異なる選択がされるだろうといっているが,現在の基準によって30年前になされたことを判断すべきではないとも主張してる。放飼前の試験では,防除に適した天敵のようにみえるが,実際にはまったく異なった行動を示すかもしれない詐欺師的な昆虫を見過ごしてしまうようなニアミスを防げなかった例をあげられている。例えば,1996年に「適切でない」ハエが雑草のアザミに広く定着したことがわかっている。幸いなことに,その昆虫は,これまで有用なヒマワリには選好性を示していないが,ある試験ではその危険性が示されている。
 
 米国農務省のBalciunas氏は,重要な雑草に標的をしぼり,できるだけ少ない種類の天敵を使うことを推奨している。また,その結果が良くても悪くても,十分な評価をするための追跡調査の研究を拡大することを主張している。
 
 最近でも,そのような追跡調査研究は困難であり,実施例は少ない。昆虫個体群は極端に変動するので,標的昆虫あるいは標的以外の昆虫への天敵の影響を調べるのは 難しい。侵入種のゾウムシが稀少種のアザミの生息範囲まで拡がるのに30年近くか かったが,これは悪い影響があるかどうかは長い間わからないことを暗示している。
 
 その結果,科学者たちはある昆虫が導入から1,2年後,あるいは20年後に他の種とどのように相互関係を持つのか本当には知っていない。特に,定着はするが,標的生物を加害しない天敵はしばしばまったく無視される。また,米国農務省の4千万ドルの生物的防除のプロジェクトは,詳細な放飼後のモニタリングをおこなうものだけが対象になるであろう。生物的防除の推進派は,現実的なアセスメントを進めることで生物防除についての国民の信頼が増すと期待している。生物防除は絶対安全ではないが,他のどの防除方法も同様なのである。
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