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情報:農業と環境
No.21 2002.1.1

 
No.21

・新しい年を迎えて

・第19回土・水研究会

・第4回植生管理研究会:
   遺伝子からみた植生変化の解析とインベントリーの構築

・世界の環境資源と環境問題

・マックス・フェスカと日本各地の土性図(1)

・温暖化した世界での生物の反応

・報告書の紹介:欧州理事会及び議会への欧州委員会報告,
   農業に関する生物多様性行動計画(第3編)

・本の紹介 67:環境考古学のすすめ,安田喜憲著,
   丸善ライブラリー (2001)


 

新しい年を迎えて:時間と空間をこえて環境を守る
 
 
 新しい年を迎えました。しかし、新しい朝、新しい年などというものは存在しません。「新しい」と思う人間の心があるのです。ちょうど、平和や戦争などというモノは存在しませんが、それらを「守り・おこす」人間の心が、それをあらしめるのと同じように。
 
 時間とは、自我によって構成された限りにおいてあるのですから、それ自体としてあるのではありません。この意味で時間は観念的な存在にすぎません。
 
 しかし、時間は経験を客観的に秩序づけることができ、科学を可能にしますから、やはり実在的なものとなります。同じように、「環境保全」などというモノは存在しません。「守ろう」と思う人間の心が在るのです。しかし、環境は人間と自然界の間に成立するものですから、空間という実在的なものとなります。ということは、「環境を守る」とは、時間と空間をこえた人間の見方や価値観が色濃く刻み込まれる行為ということになります。
 
 時間と空間をこえて環境を守るには、「分離の病」を克服し、「国際化」を推進し、「俯瞰的視点」を持続しなければならないでしょう。
 
 「分離の病」には3つのことがあります。はじめに「知と知の分離」、すなわち専門主義への没頭、専門用語の迷宮、生きていない言葉の使用などがあげられます。つぎに「知と行の分離」、すなわち理論を構築する人と実践を担う人との分離、バーチャルと現実の分離などがあります。最後に「知と情の分離」、すなわち客観主義への徹底、知と情、知と現実との極端な分離などがあります。時間と空間をこえて環境を守るためには、これらを分離したままにするのでなく、可能な限り融合することが必要だと思います。
 
 「国際化」とは、国籍、人種、宗教、政治、経済体制、貧富、性別などの差別をしないで、相手の立場でモノを考え、さらに意見の対立が感情の対立にならないことでしょう。空間をこえて生じている環境問題を解決するためには、この国際化を無視することはできません。ここでは触れませんが、グローバリゼーションとは異なります。
 
 「俯瞰的視点」とは、人類が20世紀を通して獲得した最大のものだと思います。人類が文明史上最高の高度の宇宙から地球を眺め、人類と地球の来し方行く末を認識する視点です。20世紀の人類は月にその足跡をしるし、人類のあり方を考える俯瞰的視点を得たのです。地球規模の環境問題を解決するためには、この視点が不可欠であります。
 
 われわれは、農業環境の研究を多面的に行っています。多面的とは、研究に関する受信・討論・発信・宣伝・貯蔵・評価・提言を意味します。これらの研究に関わる行為の動機は、人によって異なります。それは、「精神の縁(よすが)」、「好奇心」、「経世済民」などに由来するでしょう。「経世済民」とは、世の中を治め、ひとびとの苦しみを救うことであります。先の二つは個人的な動機でしょう。「経世済民」は個人のみならず、組織が厳然として持ち続けなければならない信条であると考えます。
 
 現在の経世済民とは何でしょうか。ひとびとが未来永劫生きていく環境を保全する立場から、この宇宙に一つしかない有限である地球の危機を回避することがその一つとして挙げられます。総合科学技術会議が提言している環境分野の5つの重点課題の最初に挙げられているのも、地球環境問題です。
 
 このように考えてくると、有限の地球が当面している環境問題は、とりもなおさず、「分離の病」を克服し、「国際化」を推進し、「俯瞰的視点」を持続し、時間と空間をこえて解決しなければならない困難な面をもっているということです。われわれの農業環境技術研究所も、敢えてこの困難な道を、農業の面から目指さなければなりません。 一休禅師は語りました。 (注記を参照) 「この道を行けばどうなるものか。危ぶむなかれ、危ぶめば道なし。踏みだせば、その一足が道となる。迷わず行けよ、行けばわかるよ」と。
 
 このようなことを考えながら、農業環境研究を進めていきたいと考えております。関係各位のご支援とご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。
 
 本年も皆様方にとって良い年であることを祈念いたします。
 
農業環境技術研究所 理事長 陽 捷行
 

(注記)
 上の記事で一休禅師の言葉としていた引用について、読者の方から、この言葉の原典は清沢哲夫氏の『無常断章』(1966)に収録された詩「道」であり、一休禅師の言葉とされてきたのは誤りであるとのご指摘をいただきました。
 この詩は、「此の道を行けば/どうなるのかと/危ぶむなかれ」で始まり、「わからなくとも/歩いて行け/行けば/わかるよ」と結ばれています(「/」は改行です)。
 上の記事で引用した内容は、一部異なる部分はあるものの、この清沢氏の詩がもとになっていると考えられますので、お知らせします。

 (2006年10月 農環研Webサイト管理者)

 

第19回土・水研究会
 
 
作物によるカドミウムの吸収とその抑制技術
−コ−デックスの動向とわが国の現状−
 
趣 旨
 
FAO/WHO合同のコーデックス委員会における食品中カドミウム含量の厳しい基準値設定の動向が、世界的な注目を浴びている。一方、わが国の主要な米生産地においても、現基準によるカドミウム汚染米や準汚染米の検出頻度が無視できない状況であって、よりいっそう厳しい基準値が設定された場合、その影響は甚大である。よって、安全な食料の確保並びに国際的なカドミウムの規制強化の動向に緊急に対処する必要がある。
 
農林水産省では、2001年からカドミウム汚染の対策事業を開始するとともに、厚生労働省と連携してカドミウム毒性に関する疫学調査に着手した。また、農業試験研究機関では、農耕地へのカドミウム負荷経路や作物による吸収・移行・蓄積のメカニズムの解明、さらに、カドミウムの吸収抑制技術の開発等のプロジェクト研究を行っている。
 
 本研究会は、まず、コーデックス委員会による基準値設定の動きに対するわが国の現状と対応を整理する。次に、カドミウム汚染・準汚染土壌に対する現地における取り組み、作物のカドミウム吸収抑制メカニズム、さらに、環境修復植物作出の可能性等について討議し、効率的かつ効果的な汚染浄化技術の開発の可能性を探る。
 
 
主  催
開催日時
開催場所


独立行政法人農業環境技術研究所
平成14年3月6日(水)10:00−17:00
農業環境技術研究所 大会議室
 
プログラム
1.あいさつ 10:00〜10:10

 
陽 捷行  独立行政法人 農業環境技術研究所
 
2.カドミウムをめぐるコーデックスの動向とわが国の対応 10:10〜10:50
  朝倉健司  農林水産省生産局農産振興課
 
3.カドミウム規制強化に伴う研究の変遷と課題 10:50〜11:30
  深見元弘  宇都宮大学農学部
 
4.わが国の農耕地土壌中に蓄積されたカドミウムの実態 11:30〜12:10

 
中井 信  独立行政法人 農業環境技術研究所
 
(昼食) 12:10〜13:10
 
5.秋田県におけるカドミウム汚染対策技術と課題 13:10〜13:50
  佐藤福男  秋田県農業試験場生産環境部
 
6.ダイズによるカドミウムの吸収及び移行特性 13:50〜14:30

 
織田久男  独立行政法人 農業環境技術研究所
 
7.カドミウム吸収能の低いイネ・ダイズの検索 14:30〜15:10

 
阿江教治  独立行政法人 農業環境技術研究所
 
8.遺伝子組換えによる植物への重金属耐性能の付与 15:30〜16:10
  長谷川 功  日本大学生物資源学部  
9.総合討論 16:10〜17:00
 
参集範囲 国公立・独立行政法人試験研究機関、大学、行政部局、関係団体等
連 絡 先 農業環境技術研究所 化学環境部 重金属研究グループ長 樋口太重
    〒305-8604  つくば市観音台3-1-3
    (E-mail : higuti@niaes.affrc.go.jp)
    TEL:0298-38-8311、FAX:0298-38-8199
 
 

第4回植生管理研究会
遺伝子からみた植生変化の解析とインベントリーの構築

 
 
趣 旨
 
 近年の分子生物学の大きな進展は、広範な研究領域に影響を及ぼしている。植生研究分野においても、DNAレベルの遺伝情報を駆使することにより、個体識別、その類縁関係、集団の遺伝的構造などを詳細に把握することが可能となってきた。さらに、既存の押し葉乾燥標本から抽出したDNAの解析から、時間スケールを加えた植物の地理的分布の変遷が解明されつつある。
 
 一方、生物多様性に係わる国際的な枠組みにおいて、分散して収集された情報を、その調査方法やカテゴライズの基準などを明確にした上での公表が求められており、生物環境情報の体系的で効率的な収集、蓄積、利用システム(生物インベントリー)を構築することが、緊急な課題となっている。
 
 本研究会では、人間の活動にともなう植生の変化について、侵入・帰化植物、薬剤抵抗性雑草を対象とした分子生態学的手法による最近の研究成果を紹介する。さらに、こうした成果を含む広範な植生研究調査情報の効率的な集積や活用に取り組む先駆事例を参考に、今後、新たな解析手法やフィールド調査を通じて得られる知見をどう蓄積・利用するか、「集める、貯める、使う」視点から、生物環境情報の構築・活用について広範な論議を実施する。
 
 
主  催
開催日時
開催場所


独立行政法人農業環境技術研究所
平成14年3月7日(木)10:00〜17:15
農業環境技術研究所 大会議室
 
プログラム
1.あいさつ 10:00〜10:10

 
独立行政法人 農業環境技術研究所/陽 捷行
 
2.研究会のねらい 10:10〜10:30

 
独立行政法人 農業環境技術研究所/岡 三徳
 
3.外来侵入植物イチビの侵入経路とその歴史的増加過程の解明 10:30〜11:15

 
独立行政法人 農業研究機構 畜産草地研究所/黒川俊二
 

 
4.除草剤抵抗性水田雑草の発生及び分布拡大様式の解明 11:15〜12:00

 
独立行政法人 農業環境技術研究所/伊藤一幸
 
5.人里植物タンポポにおける雑種形成過程の解明 13:00〜13:45

 
独立行政法人 農業環境技術研究所/芝池博幸
 
6.全国スケールでの種、植生情報の収集と「身近な生きもの調査」 13:45〜14:30  
  環境省 生物多様性センター/笹岡達男
 
7.人と自然の博物館におけるインベントリーシステムづくり 14:45〜15:30
  兵庫県 人と自然の博物館/中瀬 勲
 
8.農業生態系の地域区分とそれに対応した調査・情報システム 15:30〜16:00

 
独立行政法人 農業環境技術研究所/井手 任
 
9.総合討論 16:00〜17:15
 
参集範囲 国公立・独立行政法人試験研究機関、大学、行政部局、関係団体等
連 絡 先
 

 
独立行政法人農業環境技術研究所
 生物環境安全部植生研究グル−プ長 岡 三徳
    〒305-8604  つくば市観音台3-1-3
    (E-mail : okasan@niaes.affrc.go.jp)
    TEL:0298-38-8243、FAX:0298-38-8199
 
 

世界の環境資源と環境問題
 
 
 気象庁が発表した世界と日本の年平均気温速報値によれば、世界の今年の平均気温は、統計が始まった1880年以降、1998年に続いて二番目に平年よりも高いことがわかった。日本は今夏、東日本で7月、西日本で8月に入ってからも異常な暑さが続いたが、平均気温でみると観測史上12番目の記録であった。
 
 今年の世界の平均気温は、1971-2000年を平均した平年を0.45度上回る暖かさであった。過去最高を記録した98年は、平年より0.66度高かった。日本では、年平均気温は東日本が0.4度、西日本が0.6度、沖縄など南西諸島が0.5度とそれぞれ平年を上回ったが、北日本は平年を0.2度下回るなどし、最終的に平年より0.23度高いだけにとどまった。世界に比べて日本の気温が低めだったことについて、気象庁は「極東地域で気温が低めに推移しており、局地的な現象」と説明している。90年ごろから世界的に顕著になっている地球温暖化の影響が改善される傾向にあるわけではない。
 
 この例からも解るように地球環境が変動しつつあることは、衆目の一致するところとなった。その原因が最終的には、人口の増加とそれにともなう農業および経済活動にあることはいうまでもない。このような現象に関して、ここでは、食料安全保障を予測するに当たって必要と思われる人口の増加、穀物生産量の現状、資源の変動、地球環境の悪化、さらには将来おこるであろう複合的環境悪化についてまとめてみた。
 
1.世界の人口と食料生産
 
1)世界の人口
 世界の人口は、1804年に10億人を突破した。20億人を越えたのは1927年である。この間、123年の歳月が経過した。その後、1960年に30億人、1974年に40億人、1987年に50億人、1999年に60億人に達した。人口は文字どおりネズミ算式に増加し、2001年の現在は62億人と推定されている。FAOの人口統計は、さらに、2015年および2030年の世界人口を、それぞれ72億および81億人と推定している。
 
 途上国の人口増加が著しい。FAOの調査によれば、1966、76、86および97年の途上国の人口は。それぞれ23、29、36および44億であった。2015および2030年には、それぞれ58および67億に達すると推定されている。
 
 現在、13億人という世界一の人口を抱えているのは中国である。地球の総人口の実に5分の1が中国に住んでいることになる。インドがそれに続く。すでに2000年には10億人を突破した。国連の推計によれば、2050年には中国を抜いて世界一の人口大国になる。世界の総人口の約4割が中国とインドに在住している。
 
 アフリカ地域の人口の増加も著しい。アフリカでは爆発的にエイズが蔓延している。とくにボツワナでは、成人4人のうち1人がエイズに罹患しているという。2015年までに人口の20%が減少する見込みであるが、それでも出生率の高さによって人口は増え続けると、国連は推計している。1950年には約1億人であったアフリカの人口は、1994年には7億人を超えた。2050年には約21億人に達する見込みである。こうした途上国の人口爆発の結果、2050年にはアジア・アフリカ地域が全世界人口の実に80%を占めることになる。
 
2)食料生産
 人口の増加に危機感をもつ国では、さまざまな対策をとっている。中国では経済改革を進めて農業生産量を増加させ、いまでは世界有数の穀物生産国になった。インドの穀物の生産量も順調に増加した。しかし、それを上回る勢いで人口も増加し、現在でも満足な栄養状態にない子供が全体の半数にのぼる。いずれの国においても、人口爆発を急に停止することは出来ない。そのために、今後も増加する人口を養うだけの食料を増産しなくてはならない。しかし、そんなに順調に食料生産を増加し続けることが出来るのであろうか。
 
 20世紀、農業はめざましい発展をとげた。化学肥料、農薬、機械などさまざまな技術の進歩によって農地の生産性は向上した。1900年に年間4億トン弱であった世界の穀物生産量は、1997年には18億7500万トンまでに増加した。
 
 しかし、その傾向に陰りがみえてきた。世界の穀物生産量は、1998年に18億4500万トンになり、1997年に比較すると3000万トン(2%弱)減少した。1998年には世界の人口が約7800万人増加したため、一人あたりの穀物生産量は前年の321キログラムから312キログラムへと減少した。
 
 穀物消費量をみてみよう。1950年以来、一人あたりの穀物消費量は増加し続けたが、1984年の342キログラムをピークに減少に転じた。1998年の穀物消費量は1984年に比べて7%も減少し、319キログラムになった。
 
 今後、はたして農産物の生産量は増えるのであろうか。世界の穀物生産量は、1969年代から80年代にかけて飛躍的な上昇をみた。これは新しい品種開発や化学肥料の施用によって、アジア・中南米・アフリカなどの途上国での単位面積あたりの収穫量が大幅にのびたからである。近代農業は、品種改良と化学肥料で土地生産性を上げてきた。その結果、1950年には1ヘクタール当たり1.06トンだった穀物生産量は、1998年には2.73トンまで上がっている。
 
 しかし、その後、生産性の高い新しい品種は出ていない。その上、1998年の肥料の使用量は1950年のそれに比較して約9倍以上に達し、これ以上、肥料を使用しても収穫量は上がらず、むしろこれ以上の使用は環境に悪影響を与えることになる。
 
 農耕地に適した土地は、世界の大半の地域ですでに耕作されているから、開拓の可能性のある土地は、本質的には条件の悪いやせた土地である。後でふれるが、かんがい用水も水資源の枯渇から期待できない。さらに、これらの土地は生産性を維持するためのコストが大きい。事実、1998年の世界の穀物収穫面積は6億8400万ヘクタールとなり、前年の1997年に比べると600万ヘクタール(1%)減少している。1981年の史上最高値に比べると4800万ヘクタール(7%)減少している。また、一人当たりの穀物収穫面積は0.12ヘクタールで、1950年の水準の半分にまで減少している。
 
 農地の非農地への転用、土壌侵食、砂漠化、塩類化なども耕地が増えない原因である。かんがい用地も増えていない。かんがい用地は、1950年以降急速に拡大した。現在は2億6000万ヘクタールになり、当時の3倍近い値になった。しかし、1990年以降は世界中で地下水や河川に水不足の兆候が現れた。また、世界の工業化や都市化にともなって、本来ならかんがいに使用されるべき水が、工業や都市用に転用される事態が頻繁におこっている。水がなければ、かんがい用地で作物を栽培することは出来ない。
 
 このように見てくると、人口の増加に対する食料の安定供給は果たして可能なのだろうか。現在でも8億4100万人ものひとびとが飢えと闘っている。地球は増加しつつある人口を養えるのであろうか。食料増産の可能性については、バイオテクノロジーの研究が進み、単収が伸びて食糧難は回避できるという楽観的な見方がある。しかし、仮に収穫が倍増できる遺伝子組換え作物が開発されたとしても、その作物はどこに植えるのか。土地がない。仮に植えるだけの土地があったとしても、その作物はその土壌から2倍の養分を略奪する。それで持続的な農業は維持できるのか。
 
 世界の食料需給の見通しは、悲観的なものが多い。世界的に食料不足が生じる可能性は十分ある。特に、わが国の自給率は、供給カロリーベースで40%である。貿易が途絶すれば、たちまち食料危機問題が出現する。このような事態に対応する制度の整備と最低限の農地の確保が必要である。このことについては、最後の「食料安全保障」の項で詳しく触れる。
 
2.資源の枯渇化
 人口の増加に対して食料の安定供給が果たして可能であるのか、という課題に加えてさらに深刻な問題として有限である地球の資源の劣化や枯渇化があげられる。
 
1)水不足
 いま、世界の各地で水不足が表面化している。その背景には、温暖化による干ばつなどの影響、世界の都市化、工業化、人口の増加などがある。事実、人間による世界の水使用量はこの50年間で3倍に増加した。
 
 水不足の兆候は、かんがい用水にもっとも顕著に現れている。現在、河川から引かれたり、地下から汲み上げられている世界中の淡水の70%が、かんがい用水として使用されている(工業用水:20%、都市用水:10%)。とくにかんがい用水は、帯水層から汲み上げて利用している場合が多い。しかしかんがい用地が増え、必要な水が激増するにつれ、帯水層の水は減少している。
 
 とくに深刻なのは、世界の全かんがい農地の70%を占めるアジアである。なかでも、2大穀倉地帯の中国とインドの状況は危機的である。中国では、穀物生産量の約40%を占める北部平原での水不足がひどい。毎年、地下水位が約1.5メートルずつ低下している。インドの状況はもっと悪い。インドでは全土で帯水層の水位が毎年2-3メートルも低下している。帯水層の水が枯渇してかんがい農地が減ってしまうと、インドの穀物収穫量は25%減少する可能性もある。
 
 アメリカでは地下水のかんがい利用として、オガララ帯水層がよく知られている。この帯水層のある地域、とくに南部では降雨による補給がほとんどない。したがって水を汲み上げれば、必ず地下水量が減る。地下水位の低下、揚水コストの上昇、伝統的に低い作物価格に押されて、オガララ帯水層に頼っていた農民の多くは、すでにかんがい農業に見切りをつけている。オガララ帯水層でかんがいされる畑は、1978年のピーク時には5州で520万ヘクタールに及んだ。それから10年で約20%減少して、420万ヘクタールになった。今後20年間にさらに120万ヘクタールの農地が乾燥地農業に転用されるか、放棄されることになる。
 
2)土壌劣化
 農業の基盤そのものである土壌が、世界各地で侵食と劣化の攻撃にさらされている。農地を酷使した結果は、管理状態の悪いかんがい用地にみられるたん水や塩類集積から、重い機械の使用による土壌の圧密、あるいは農薬や化学肥料の過剰施用による汚染にいたるまでさまざまである。しかし、最も一般的な現象は土壌侵食である。国連の調査は、劣化土壌の84%が侵食によるものであることを明らかにした。
 
 風や水の侵食作用によって失われる土壌は、アフリカ、ヨーロッパ、オーストラリアでは、1ヘクタールあたり年間5-10トン、北米、中南米では10-20トン、アジアではおよそ30トンにもなっている。年間に生成される土壌は、1ヘクタール当たりおよそ1トンであるから、このような割合で侵食が進むと、作物の養分基盤が回復するより早いペースで土壌が消耗されていくことになる。1センチの土壌が生成されるのに、100年から500年かかることを考えれば、この土壌侵食はまさに自然の歴史的遺産の喪失以外のなにものでもない。
 
3)資源・エネルギー
 いうまでもなく、いまの農業生産の多くは石油をはじめとする化石燃料に依存して成立している。コップ一杯の牛乳を生産するのに、コップ一杯の石油が消費されているとも言われるように、エネルギー投入を考えない農業は多くの国で成立しない。
 
 化石燃料の中でも、もっとも大量に供給・使用されているのは石油である。ところが今日、採掘されている石油の約80%が、1973年以前に発見された油田からのもので、そのほとんどの油田で埋蔵量が減ってきている。
 
 現在の石油の埋蔵量は、1998年の時点で1兆195億バレルで、現在の採掘ベースによる可採年数は43年とみられている。石炭については、残存埋蔵量が1993年の時点で約1兆316億トンで、採掘可能年数は230年となっている。天然ガスの埋蔵量は、1998年の時点で約144兆立方メートルで、採掘はあと62年可能である。
 
3.環境の悪化
 以上、人口の増加に対して食料の安定供給がきわめて困難であることを述べた。そのうえ、食料生産の基盤である水と土壌とエネルギーにかげりが見えはじめていることを具体的に示した。ここでは、さらに悪化しつつある環境問題のいくつかについて述べる。
 
1)オゾン層破壊
 クロロフルオロカーボン(フロン)は化学的に安定しているため、大気に廃棄されると成層圏に移行する。成層圏では紫外線により分解され、塩素原子を放出する。この塩素原子がオゾンの中の酸素原子と結びついてオゾンが破壊される。このことは、1974年にローランドとマリーナにより指摘された。その後、窒素肥料から発生する亜酸化窒素(N2O)および臭化メチル(CH3Br)もオゾン層を破壊することが明らかにされた。
 
 1982年には、イギリスの研究チームによって南極上空のオゾン層が減少していることが明らかにされた。1985年には、南極上空でついにオゾンホールが確認された。1989年には北極にもオゾンホールが出現した。気象庁は2000年9月、南極上空のオゾンホールが観測以来最大になったことを報告した。南極大陸の約2倍の面積(2918万平方キロ)に達した。 
 
 成層圏のオゾンが破壊されたり、オゾンホールができると何がおこるのか。太陽からの紫外線が地上に直接照射される。そのことによって、生物の遺伝子DNAや生体の構成成分であるタンパク質が破壊される。海洋の植物プランクトンは、紫外線に対して感受性が非常に高いので、食物連鎖を通して魚介類の生態に大きな影響が出る。その他、農作物の収量や品質への影響、地球規模の生態系への影響などが憂慮される。
 
 さらに懸念されるのは、後で述べるが、大気中の熱のバランスが変化して、地球の気候が変動することである。さらには、生命はオゾン層によって生命自身を存続させる環境を創設しているが、そのシステムそのものが崩れるなど、地球環境の根元的な問題が生じるであろう。
 
2)温暖化
 地球の気候変動は、様々な要因が組合わさっておきている。現在いわれている地球の温暖化は、人間活動が原因で、大気中の温室効果ガス濃度が高くなったことの結果である。温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)クロロフルオロカーボン(CFCs)などがある。温暖化への寄与率が最も高いのは、化石燃料の燃焼で生じる二酸化炭素である。次がメタンで水田や家畜などから発生する。次が亜酸化窒素で、主として窒素肥料の耕作地への施用により発生する。
 
 温暖化の影響はいたるところで観察されている。ワールドウォッチ研究所の報告によれば、北極海をおおう氷の面積は、1978年から96年のあいだに約6%減少した。また氷の厚さは、70年前後には平均3.1メートルあったのが、90年代半ばには平均1.8メートルになった。地球上の氷の91%がある南極では、この10年間に3つの棚氷が崩壊し、巨大な氷山が海に流れ出した。
 
 日本でも年平均気温は上がり続けている。1999年9月には、東京、大阪の平均気温が過去最高を記録した。東京が26.2度、大阪が27.2度で奄美大島の26.6度、那覇の27.2度と同じ暑さになった。長期的にみても、日本は暖かくなり続けている。日本の大部分の地域で、年平均気温が過去百年間で2度以上も高くなった。なかでも東京の上昇率が最も高く、年平均気温は2.9度も高くなっている。今年度の平均気温などは、冒頭に示したとおりである。
 
 このように温暖化が進めば、様々な地域で干ばつに見舞われるなど農作物の生産に大きな影響が現れることは避けられない。温暖化に伴う病害虫の問題も起こっている。
 
 イギリスのハドレー気候変動研究センターが1998年に行った推計では、温暖化が進むと異常気象によりアフリカと北アメリカで食料生産が激減するという。
 
3)ダイオキシン
 ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン、ポリ塩化ジベンゾフランおよびコプラナーPCBからなるダイオキシン類による土壌および作物汚染の問題がある。ダイオキシン類は、塩素化合物を含む物質を燃焼させると簡単に発生する。発生源は、塩素入り漂白紙、プラスチック、排気ガス、ゴミなどさまざまな物質である。
 
 ゴミ焼却炉から発生したダイオキシン類は排煙とともに地上に降り注ぎ、土壌や作物を汚染する。また、過去に使用された農薬の不純物として含まれていたダイオキシン類が土壌中に蓄積している。さらに、これらは川から海へと流れ、汚染は拡大していく。ある地域で発生したダイオキシンは、大気に乗って、あるいは海流を通して地球上に広がっていく。最終的には、食物連鎖を通じて人間の体にはいることになる。
 
 これらのダイオキシン類による農作物への影響については、約220種のダイオキシン類異性体の完全分離と超微量分析が困難であるために、汚染実態をはじめほとんど解明されていなかった。この問題がすでにベルギーをはじめ欧州やわが国でも発生している。
 
 わが国では1999年2月に、ホウレンソウ等農作物におけるダイオキシン汚染が報道され、農業生産に大きな衝撃を与えた。これを契機に、ダイオキシン問題は人の健康等に関わる環境保全上の重要課題として政府一体となった取組みが進められ、2000年1月に「ダイオキシン類対策特別措置法」が施行された。本法では、一日耐容摂取量が見直され、大気及び水質の排出規制、さらに大気汚染、水質汚濁、土壌汚染に関する各種環境基準等が設定された。
 
 このような状況から農水省を中心に、農作物に対するダイオキシン類の影響について調査・研究が始まった。当所でも、イネ等農作物におけるダイオキシン類の汚染経路の解明と汚染軽減の技術開発を目指した研究を開始している。詳しくは、「情報:農業と環境、No.20の「農作物におけるダイオキシン類」」を参照されたい。ここでは、これまで得られた研究成果と各省庁での調査結果について紹介するとともに、今後に残された問題点が整理されている。
 
4)インベーダー
 本来その土地の生物でない外来種が広まっていく「生物侵入」は、環境破壊のあらゆる側面のうちでも、おそらくもっとも人目につきにくく、予測不可能なものであろう。またもっとも危険なものの一つである。
 
 これまで数多くの生物が、潮流に乗りあるいはコンテナなどに乗り、国境を越えてあらゆる水域や内陸へ侵入を果たしてきた。頻繁なあるいは偶発的な往来によって、生物が本来の生息範囲をはるかにこえて移動していくのは、文化と人間の基本的活動の避けられない一面であろう。
 
 このため、これまでも「生物侵入」によって海洋産業、森林産業、園芸産業は大きな影響を受けてきた。その影響は、今日ますます増強しているようである。昨今の口蹄疫の例にみられるように、今日、われわれは新しい「生態系のカオス」の時代に入ったとも思われる。人々と物の交流がきわめて頻繁な時代に入ったのである。いまや、ほとんどあらゆる生物が、どこにでも持ち込まれうるのである。いったい誰が、今世紀の疫病や作物の病害菌の蔓延を正確にたどることができるであろうか。これらのインベーダーによる明日の作物生産への影響の予測はきわめて困難であろう。
 
 農業環境技術研究所は、農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに、侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって、生態系のかく乱防止、生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の一つとしている。このため、農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集している。これらに関する情報は、「情報:農業と環境、No.3からNo.20」に掲載されている。また、平成13年12月12日には、農業環境技術研究所の昆虫研究グループのシンポジウムが「導入昆虫の生態系への影響とその評価法」と題して開催されている。関心のある方は、これらを参照されたい。
 
5)遺伝子組換え作物
 21世紀が始まって農業生産の最大の関心事は、遺伝子組換え作物であろう。世界全体の2000年の作付け面積は4300万ヘクタールである。1996年に比較すると、25倍以上の増加である。遺伝子組換え作物の耕地面積の4分の3はアメリカである。1998年のアメリカの大豆生産量の3分の1以上が遺伝子組換え作物であった。トウモロコシの約4分の1、綿花の5分の1もそうである。アメリカ以外で生産量の多い国は、アルゼンチンとカナダのみである。同年のアルゼンチンの大豆とカナダのナタネは、収穫量の5割以上が遺伝子組換え体作物であった。世界の遺伝子組換え作物の栽培面積の99%が、この三カ国で占められている。世界全体の遺伝子組換え作物の栽培面積の52%が大豆、30%がトウモロコシである。残りはアメリカの綿花とカナダのナタネが大半を占める。
 
 遺伝子組換え作物の安全性については疑問視する声もある。1998年のイギリスのロウェット研究所の発表によると、遺伝子組換え作物を長期間食べさせたラットの免疫力が低下したという。殺虫成分を作り出す遺伝子をもつ作物は、ねらいとする害虫以外のものも殺してしまうことが判明してる。また、栽培後も殺虫成分が土壌に残るため、土壌汚染の懸念もある。また、遺伝子組み換え作物が周囲にあれば、昆虫などを媒介にして受粉する雑草までも殺虫成分能力をもつことも考えられるから、昆虫や動物の生態系が崩れる可能性もある。除草剤に対する耐性をもつ遺伝子組換え作物も、自然界にとっては問題かも知れない。遺伝子組換え作物の栽培開始からわずか2年しかたたない1998年、カナダでは除草剤耐性組換え作物の周囲の雑草が除草剤耐性を獲得したことが判明した。
 
 このような例からも分かるように、開発されたときは「食糧難の救世主」ともてはやされた遺伝子組換え作物だが、生産量の動向と共に今後どのような過程をたどるのか、観察が必要である。
 
 農業環境技術研究所でも、これらに関する研究が行われている。農業環境技術研究所では、「Bt遺伝子組換えトウモロコシの花粉飛散が鱗翅目昆虫に及ぼす影響評価」と題した論文が「農業環境技術研究所報告、第21号」で近々刊行される。これは、害虫抵抗性遺伝子組換えトウモロコシの生態系への影響評価に関する緊急調査の結果である。
 
6)その他
 大気汚染、水質汚濁、砂漠化、塩類化、海洋汚染、森林火災、大洪水、酸性雨などの環境問題も食糧生産に大きな影響を及ぼす。
 
4.複合的環境悪化
 このように食料生産に関わる地球環境変動の問題は数多くある。地球環境が現在かかえているこれらの重圧を考えると、われわれの食料に対する安全保障は深刻である。われわれはかって経験したことのない状況に直面している。
 
 上述した環境の悪化は、それぞれ個々の現象であった。さらに深刻なことは、様々な環境悪化が組合わさって相互作用を起こす心配がある。地球規模での環境悪化の問題のなかで、環境をむしばむこれらの項目が相互に影響し合ういくつかの組み合わせが考えられるが、ここでは、そのうち農業生産に関わる相互作用を考えてみる。
 
1)気候変動と紫外線
 温暖化によって低層の大気が暖まり、その結果、とくに南極上空で成層圏の温度が下がる。冷えた成層圏は、オゾン層の減少をさらに強める。温度が下がれば下がるほど、フロンの塩素のオゾンを破壊する力が強くなるからである。北極上空のオゾン層は、温暖化が進むに連れて徐々に薄くなっていくであろう。
 
2)気候変動と酸性雨と紫外線
 カナダ東部では、20年に及ぶ軽度の干ばつとわずかな温暖化傾向によって、各地域の湖に流れ込む河川の流量が減少している。流れが弱まると押し流されてくる有機堆積物の量も減るため、湖の透明度が増す。オゾン層の破壊で、より大量の紫外線が水面に到達するわけだが、さらに湖水の透明度が増すほど、紫外線が水面下へより深く差し込むようになる。酸性雨はカナダとユーラシア大陸の北方の湖に影響を及ぼす。また、オゾン層の破壊はより大量の有機物の溶融物を沈降させ、湖に紫外線が深く入り込む状態を作り出す。なかには、紫外線の照射の深さが20ー30センチであったものが、3メートル以上にのびた湖もある。
 
3)淡水資源の取水と窒素汚染
 広大な土地のかんがいは、乾燥地を生産性の高い農地に変えることができる。しかし、その後に施用される化学肥料によって、窒素酸化物を流出する汚染源にもなる。
 
5.食料安全保障
 以上のような資源の枯渇化、環境の悪化および環境悪化の相互作用などを考えると、世界の食料需給の見通しは悲観的である。世界的な食料不足が生じる可能性は否定できない。とくに、わが国は食料の多くを輸入に依存しているため(食料自給率:供給カロリーベースで40%)、貿易が途絶すれば、たちまちのうちに危機的な状況に陥るであろう。このような現象に対応できる制度の整備と最低限の農地の確保が必要不可欠であろう。
 
 農林水産省は、このような危機的な事態を想定して、食料供給のシミュレーションを行っている。世界的に深刻な食料不足や戦争などが原因で食料輸入が完全に途絶する場合、現在の農地を活用し、穀物やイノ類を中心とした食生活に切り替える必要がある。価格の統制などを行い、配給制度を実施することで、一人当たり1760キロカロリーという生存水準のカロリーを供給することは可能であるという結果が示された。しかし、農地が現状より減少すれば、そのカロリーを確保することはできない。
 真剣にこのことを実施する日は近いであろう。
 
参考文献
1. 飢餓の世紀、レスター・ブラウン、ハル・ケイン著、小島慶三訳、ダイヤモンド社(1995)
2. だれが中国を養うのか?、レスター・ブラウン著、今村奈良臣訳、ダイヤモンド社(1995)
3. 地球環境変動と農林業、陽 捷行編著、朝倉書店(1995)
4. 食糧破局、レスター・ブラウン著、今村奈良臣訳、ダイヤモンド社(1996)
5. 地球白書1996-97、レスター・ブラウン編著、浜中裕徳監訳、ダイヤモンド社(1996)
6. 奪われし未来、シーア・コルボーンら著、長尾 力訳、翔泳社(1997)
7. 地球白書1997-98、レスター・ブラウン編著、浜中裕徳監訳、ダイヤモンド社(1997)
8. 地球白書1998-99、レスター・ブラウン編著、浜中裕徳監訳、ダイヤモンド社(1998)
9. 世界の資源と環境1998−99、世界資源研究所ほか共編、石弘之日本語版監修、中央法規出版(1998)
10. 地球白書1999-2000、レスター・ブラウン編著、浜中裕徳監訳、ダイアモンド社(1999)
11. 生態系を破壊する小さなインベーダー、クリス・ブライト著、福岡克也監訳、家の光協会(1999)
12. 水不足が世界を脅かす、サンデラ・ポステル著、福岡克也監訳、家の光協会(2000)
13. レスター・ブラウンの環境革命−21世紀の環境政策をめざして−、レスター・ブラウン編著、松野 弘監修、ワールドウォッチジャパン編、朔北社(2000)
14. 地球カルテ−新世紀への精密検査−、地球カルテ政策委員会編、青春出版社(2000)
15. 地球白書2000-01、レスター・ブラウン編著、浜中裕徳監訳、ダイヤモンド社(2000)
16. 全予測、環境&ビジネス、三菱総合研究所著、ダイヤモンド社(2001)
17. 地球白書2001-02、レスター・ブラウン編著、家の光協会(2001)
18. ISAAA報告書「商業化組換え作物の世界情勢:2000年」(2000)
19. 気候変化2001、IPCC地球温暖化第3次評価報告書−政策決定者向け要約−、IPCC編、環境省地球環境局監修(2001)
20. 国際食料需給と食料安全保障、是永東彦監修、農林水産文献解題、No.29、農林統計協会(2001)
21. 地球温暖化の日本への影響2001、環境省地球温暖化問題検討委員会影響評価ワーキンググループ(2001)
22. 導入昆虫の生態系への影響とその評価法、独立行政法人農業環境技術研究所、昆虫研究グループシンポジウム (2001)
 
 

マックス・フェスカと日本各地の土性図(1)
 
 
 マックス・フェスカの日本での業績に焦点を当てようとすると、四つのことが思い起こされる。一つは、わが国の代表的な農書「日本地産論 (1894)」の著者としての業績。つぎは、肥料成分や火山灰に代表される数多くの土地改良耕地培養に関する研究。つづいて、駒場農学校や地質調査所での教育者としての姿。とくに、駒場農学校卒業後、農商務省地質課に勤務していた恒藤規隆との師弟関係には、教育の原点がある。最後は、ここに紹介する数多くの日本各地の土性図の製作者としてのフェスカである。
 
 フェスカは明治15年(1882)11月に来日し、明治27年(1894) まで、農商務省地質調査所の雇員、駒場農学校の農学科教師として滞在した。上に紹介したように、この間さまざまな業績を残し、日本の農学発展のために多くの啓蒙的活動を行った。
 
 農業環境技術研究所の本館から東側に少し離れた平屋の建物に、「土壌モノリス館」がある。ここには、日本も含めて世界の土壌断面が200点以上も保存されている。展示されている数多くの土壌断面の脇の壁に、折り目のすり切れたひときわ古い「大日本 甲斐國土性図」と題する土性図が壁に掛けられている。
 
 この土性図は、フェスカが来日して最初に完成したものである。フェスカは、甲斐の国の土性調査を明治16年(1883)に開始し、翌17年、ドイツで開催された万国地質学協会でその成果を発表した。それが、この土性図だと思われる。ドイツでの発表に対する評判は、櫻井武雄の著書に「大に斯の専門家の喝采を博せり」とあることからも、その内容が想像できる。今から118年もの昔の作品としては、立派な土性図であったろう。
 
 この土性図を少し紹介してみよう。
 
 土性図の枠外上部に「AGRONOMIC SECTION OF THE IMPERIAL GEOLOGICAL OFFICE OF JAPAN」と製作担当部署が書かれている。枠外左部には、「農商務省地質調査所土性課 甲斐國土性報告書図 調査員 農学士 恒藤規隆 農学士 大内 健 プロフェソルドクトル、フェスカ」の文字がみられる。枠外下部の左端に、「製図者市原正秀(Drawn by Ichihara)」と小さな文字が見える。枠外下部の右端には、これもまた老眼では判別しにくい文字で、「彫刺印刷東京東陽堂(Drawn by M. Ichihara; Engraved by K. Watanabe, Toyodo-Engraving-office, Tokio.)」とある。枠には北緯(3520'~3550')と東経(13810'~13910')が示されている。
 
 土性図は、「大日本甲斐國土性図 Agronomic Map of the Kai-Prorince by N. TSUNETO, C. OUCHI & PROF. DR. M. FESCA 」というタイトルのもとに、「設色記号(Explanation of Colours)」と「土壌側断面(Profiles of Soil Scale)」と「調査員誌」が掲載されている。Kai-Prorinceは、Kai-Provinceのまちがいと思われる。
 
 「設色記号」は、符号と土性と地質に分けられた、土性図の色分けの説明である。
 
 「土壌側断面」は、36種類にも分類された詳しいものである。当時の学問の水準の高さが分かるし、ドイツでの評判も誇張ではあるまい。土壌は、つぎの13種に分けられている:埴土・凝灰岩埴土・礫質埴土・泥質埴土・植質埴土・壌土・植質壌土・ラス質壌土・砂質壌土・礫質壌土・砂・壌質礫・レキ。
 
 「調査員誌」は、「凡ソ土性図ヲ製スルニハ先ツ精細ナル地形図ヲ要ス然ルニ甲斐國ノ如キ従来実測セシ者鮮キヲ以テ本図ノ地形ニ属スル基線ハ伊能氏ノ実測図ニ拠リ其他ハ路上図板及ビ量程車ヲ以テ実測セリ其実践シタル地方ハ図中明載スル線路ニ過ギザレバ実測ノ及バサル地方ニ於テハ山川沼湖ノ位置ニ少差ナキヲ保セズ図中岩石ニ属スル設色区分ハ明治十一年和田維四郎ノ調査セシ甲斐國地質概測ニ拠スル 明治十七年十一月 調査員誌」とある。伊能忠敬(1745ー1818)の「大日本沿海興地全図」を活用したのだろう。
 
 フェスカとの共同製作者、恒藤規隆は、「率先してこの人に就き土性調査の方法を練習し、爾来引続きフェスカ博士に従ひ、十二年間各地の土性調査に従事し、同博士帰国後もなお二年間之に従事したのである。」と、熊沢喜久雄の著書にある。また、恒藤は明治30年4月から5ヶ月の間、欧米を視察した後、同年11月にフェスカが滞在中に務めていた地質調査所土性課長に就任している。さらに、明治34年4月に氏が再び欧米の視察に赴いたとき、ドイツでフェスカを訪ねている。そのときの様子を「同博士は予を各地に案内して地質土性の実際を丁寧に説明せられたることは、予の今に感激措く能はざる所である。」と、熊沢喜久雄の著書は記している。
 
 また土性図作製のこの事業は、明治38年(1905)当所の母体である農事試験場(明治26年設立)に移管され、以後農事試験場の土性部がこれを引き継いだ。誕生から57年の歳月を経た農事試験場は、昭和25年(1950)に農業技術研究所に改組された。改組に伴って、この事業は農業技術研究所の化学部に引き継がれた。その後、22年の歳月を経た農業技術研究所は再び変貌し、農業環境技術研究所と農業生物資源研究所と農業研究センターに分化していった。そこで、この事業の流れは農業環境技術研究所の環境資源部に引き継がれた。さらに17年の歳月は、この研究所を独立行政法人農業環境技術研究所へと変えていった。そしてこの流れは、現在も当所のインベントリーセンターへ脈々と引き継がれている。
 
 恒藤がフェスカらと共に作成した土性調査図と説明書は、この甲斐国をはじめとして国別につぎつぎと刊行される。このことについては、次回の情報で紹介する予定である。
 
参考文献
1)日本地産論:マックス・フェスカ著、地質調査所 (1894)
2)フェスカ日本地産論−食用作物編−:櫻井武雄改題、日本評論社 (1942)
3)熊澤喜久雄:恒藤規隆博士と日本の燐酸資源、肥料科学、6, 27-68 (1983)
4)農林水産省農業環境技術研究所 17年の歩み 農業環境技術研究所 (2000)
 
 

温暖化した世界での生物の反応
 
Response to a Warming World
J. Penuelas and I. Filella, Science, 294, 793-795 (2001)
 
要 約
 
 気候の温暖化によって、植物の生育や開花、動物の移動のような生物季節的な変化が生じると考えられている。それらは累積温度に依存する。これらの生物気候学的な変化は、生態学的過程、農林業、人間の健康、世界経済に対し広範な影響をもたらしそうである。このような生物気候学的な変化は、気候温暖化に敏感であるため、生物圏の変化を容易に観察できる指標にもなる。
 
 種による違いはあるが、1950年から2000年にかけての気候温暖化から、次のような図式が描ける。植物に関する欧米での観察によると、葉の展開が1〜4週間早まり、落葉が1〜2週間遅くなり、開花が約1週間早まる。その結果、植物の生育期間が約3週間拡張された。このことは、赤色光の地表面反射率を利用した衛星リモートセンシングによっても確認されている。植物の生育期間が長くなったということは、生物圏の活動性を地球規模で増加させることに貢献しそうである。このことは、1960年から1994年の間の大気炭酸ガスの年間の変動幅の増加からも推論される。このような気温や生物気候学的変化は、1970年代後半以降、とくに目立っている。植物の生育期間の拡張は、地球規模での炭素の固定に重要な役割を果たす。また、地球の水と栄養物質の循環にも関係する。
 
 昆虫、カエル、鳥などの動物では、出現と活動の時期が1〜2週間早まる。そのため、これらの動物の移動を早めたり遅らせたりする。このため、熱帯から温帯に長距離移動する鳥は、不適当な時期に移動してくることになる。西ヨーロッパにおける長距離移動鳥類の衰退の理由の一部に、このことがあるかもしれない。植物と動物の活動時期のずれが変化することにより、種間の競争能力は変化する。種による生物気候学的な反応の違いが、群集構造と生態系機能に予測不可能な影響を及ぼすかもしれない。
 
 多くの生態学的(炭素固定、栄養物質と水の循環、種間競争、病害虫、鳥の移動と繁殖、種間関係)、農業的(作物の適性、生産可能性、生育期間の拡大、霜害の危険、病害虫の流行、農薬使用の時期と量、食料の品質)、社会経済的および衛生学的(花粉媒介期間及び病気の媒介虫の分布と個体群サイズ)な要因は、植物と動物の生物気候学的事象に強く依存している。そのため、まだいくつもの生物気候学上の問題が未解決である。それ故に、地球環境変動の枠組みの中で生物気候学的研究を進める意義は増加しつつある。
 
 

報告書の紹介:「欧州理事会及び議会への欧州委員会報告,
農業に関する生物多様性行動計画(第3編)」

 
COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE COUNCIL AND THE
EUROPEAN PARIAMENT
Biodiversity Action Plan for Agriculture,
(Brussels,27.3.2001,COM 162(2001) final, VOLUME 3)
 
  この報告書は欧州委員会が欧州理事会と欧州議会の要請を受けて、4年の歳月をかけて検討し、2001年3月27日に発表した(http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CELEX:52001DC0162%2801%29:EN:HTML (最新のURLに修正しました。2010年5月) )。この報告書では、農村開発や農業・環境関連の既往の制度や支援制度を有効に活用し、EUにおける複数の政策分野を横断して生物多様性の保全を図るための長期計画について提言している。この報告書の原案作成に携わった欧州委員会のある幹部は、この報告書が提出されたことによって、2003年の共通農業政策(CAP)改革では、従来型の農業生産関連の支援制度から農村開発に関する部分が強化され、生物多様性を各種施策の中に組み込む絶好の機会になるという認識を示した。
 この報告書は4編から構成されている。前回は農林水産業全体に係わる生物多様性行動計画(第1編)を仮訳した。今回は第3編「農業に関する生物多様性行動計画」について仮訳し、参考となる資料を脚注に示した。しかし、本報告書には、EU各国における農業並びに生物多様性に係わる政策・制度の実施状況やそれらを取り組むまでの背景が記述されていないので、内容が理解しにくい部分がある。また、仮訳した文章の中には原文の内容を的確に表現できない部分もあると思われるので、原文で確認していただきたい。
 
目次
1. 緒言
1.1. 関連する枠組み
 
2. 生物多様性手段についての現状
2.1. 情報源
2.2. 農業に対する生物多様性の恩恵
2.3. 生物多様性に対する農業の恩恵
2.4. 農業から生物多様性へのインパクト
 
3. 生物多様性の保全と持続可能な利用のための戦略的枠組みとCAP(共通農業政策)手段
3.1. 枠組み
3.2. 優先事項
3.3. 推奨される原則
3.4. 生物多様性に影響する欧州共同体農業手段
 
4. EC生物多様性戦略を実施するための手法としての行動計画
4.1. 実施されるべき横断的目的と分野的目的
4.2. 農業生態系の保全と持続可能な利用(分野的目的2)
4.2.1. 横断的規則
4.2.2. 農業環境対策
4.2.3. 条件不利地域と特定の環境規制がある地域
4.2.4. その他の農村開発対策
4.2.5. 共通市場機構における環境要素(表1参照)
4.2.6. 市場関連手段の環境要素
4.2.7. 植物保護剤についての法令
4.2.8. 欧州共同体の拡大と農業農村地域開発のための特別新規加盟プログラム制度
4.3. 遺伝資源(分野別目的 1)
4.3.1. 農業における遺伝資源の保全、特性表示、収集、利用に関する規則(EC)
No146/94
4.3.2. 種子法
4.3.3. 遺伝子改変生物
4.4. 農業への貿易のインパクト(分野別目的3)
4.5. 欧州共同体生物多様性戦略の横断的目的の達成
4.5.1. 生物多様性の保全と持続可能な利用
4.5.2. 生物多様性の利用から生まれる利益の分配
4.5.3. 研究、同定、監視、情報交換
4.5.4. 教育、研究、自覚
4.6. 監視と評価の会議優先における進展
4.6.1. 農業環境指標に対する総合化枠組み
4.6.2. 生物多様性の目的の監視と評価
5. 対策の整合性の確保
5.1. 統合化プログラム
5.2. 対象とする全地域
5.3. 適合性と整合性
5.4. 結論−目標の設定と予定表
付表1 農村開発に対する欧州農業指導保証基金(EAGGF)保証部門配分
付表2 品質に関連する政策
付表3 監視指標
付表4 評価の指標
 
1. 緒言
1.1 関連する枠組み
1. この報告書は欧州委員会が農業に関する生物多様性行動計画を作成するという任務を受けて作成されたものである。この報告書は、生物多様性の深刻な低下、あるいは消失の原因を予測し、防止し、除去するために、欧州共同体戦略を支援する欧州共同体の対策パッケージの不可欠な部分になるであろう。また、この報告書は、生物多様性に影響を与える他の共同体開発、たとえば、持続可能な農業に向けた指令1)、国際条約と協定、とくに生物多様性条約、そして加盟国の国内戦略や行動計画などとを合わせて読む必要がある。
 
2. 一方、この環境的側面は、アムステルダム条約の要件に沿い、また「環境への配慮をCAP規則の中に組み込むことと、環境を維持し、田園地域を保護する農業活動を発展させること、この両者を取り扱う」というヘルシンキ欧州理事会の首脳達によって再確認した共通農業政策(CAP)の新しい方向づけの主要な要素になる。
 
3. アジェンダ2000(とくに、農村開発についての規定)は、農業理事会が指摘したように、環境で考慮すべき農業政策(生物的多様性はその基本的問題であり、また統合戦略2)として重要な問題である)の中に組み込むために関連した枠組を定めている。
 

1)欧州理事会および欧州議会への委員会からの報告。COM(1999)22;OJ EC C173,19.6.1999,p2-7.(官報公示番号・年次・ページを示す)
2)農業理事会によって出されたCAPにおける環境面の統合化と持続可能な開発に関する理事戦略−ヘルシンキの欧州理事会への農業理事からの報告(EU理事会,AGRI184ENV398,13078/99)
2) (対応するURLが見つかりません。2010年5月)

 
4. 生物多様性の目的に関していえば、この戦略の重要な役割は、環境を守り、田園地域を保護し、そして農村の遺産を保護するための農業活動を支援することを目指した農業環境対策である。これらの対策は、次世代の農村開発計画のための唯一必須の要素である。
 
1.2 生物多様性の概念
5. 生物多様性の定義は、単に遺伝資源や絶滅が危惧される種の保護問題に限定すべきではない。生物多様性条約および全ヨーロッパ生物・景観多様性戦略に明記されているように、生物多様性とは生命と、そのプロセスが多様であることである。これは単細胞から複雑な生物までの全ての生活様式であり、生物を個体群、生態系、景観に結びつける全てのプロセス、経路、循環が含まれる。
 
6. 生物多様性は一般に三のレベルで認められる。
 ・遺伝的多様性:一つの種の代表的個体の間で見られる遺伝的構造ブロックの多様性
 ・種多様性:ある特定の場所で見出される生物の多様性
 ・生態系の多様性:種類も数においてもさまざまな自然条件のもとで生じる生物種と生態的な機能とプロセスの多様性
 
7. 農業に関する包括的戦略では、これらの異なるレベルの全てを適切な手段の中に入れる必要があり、これは、下記の生物多様性の主要な3つの領域にわたっている。
 ・栽培植物や家畜の遺伝的多様性(ジーンプール、自然遺産、景観など)、これは人間活動と自然生態系の間で平衡状態に達してから長期間たってから後に現れる(多くは数世紀後)。そして、いずれの場合でも、次のことよりも単純である。
 ・”野生”多様性(農場に関連する野生の植物相と動物相);絶滅が危惧される種や生態系に通常、与えられる特別の注意は、ボックス1に示すように軽視してはいけない。
 ・生命維持システム(土壌微生物、花粉媒介者、捕食者、そして農業生態系の肥沃、生産力を維持する全ての生物)
 

 ボックス1:生物多様性についての脅威
  ヨーロッパの野生種が受ける脅威は、ますます深刻になっている。既知の脊椎動物のほぼ半数、鳥類の1/3以上の種が減少している。このような変化は湿地などの重要な生息地にも影響を与えている。同時に、とくに粗放的農業活動の継続と有機栽培システムの導入によって、特定の種が維持され、時には再定着している。最も大きなインパクトとしては、都市化、基盤整備、水環境に対する破壊(除去、汚染、富栄養化)、集約的農業および農業の放棄、単一樹種の植林、気象・大気的な現象(温暖化と酸性化)、土壌の貧栄養化、侵食がある。第2回欧州環境アセスメントで明らかにされたように、ヨーロッパのほとんど全域での土地利用の変化は、かく乱、破壊と汚染、そして種の導入による自然と半自然の生息地における多様性の衰退と消失の主要な変化の原因となってきた。
  さらに、伝統的なヨーロッパの農業システムでも例示されるように、さまざまな調査結果から、農業活動と生物多様性とが連結していることが明確に実証された。農業の集約化と利用放棄の傾向は、EUのさまざまな地域に影響を与えているが、生物多様性への影響からみた東欧での重要な問題は、農地面積の減少である。この変化は、より集約的農業のために伝統的農業と多様性の重要性、そして、適応力のある作物ならびに家畜の重要性が減少した結果、おきていると考えられる。

 
8. 生物多様性の一部である農業の生物多様性は食料を確保するうえから、人間の基本的な必要条件を満たすために欠かせない。農業の生物多様性は、農業者によって積極的に管理され;農業の生物多様性の多くの要素は人間の介入なしでは存続することができない;地域固有の知識と文化は農業の生物多様性を管理していくためになくてなならない。
 
9.農業の生物多様性は人為的管理による影響が大きいため、農業生産システムの保全は持続可能な利用と本質的に連動している。結局、持続可能な農業は、農業システムが単に生態学的観点だけはなく、生物学的、経済学的、社会学的なさまざまな観点から、長期間にわたって生産的であり続けなければならないことを意味している。
 
10. 重要なタイプの生物多様性を支えている農業形態(たとえば、非集約的農業)を放棄することが生態系への脅威となることがある。これは、農業生産の集約化と同様に、ある農業活動の中止が半自然生態系に同程度の脅威になるということ意味している。休耕と耕作の交互管理農業は、農業があまりに集約化されたり、または利用が放棄されて、通常の管理を続けることができない場合に好ましい解決法になる。しかし、多くの場合、農家はほとんど書類上の土地管理者にとどまっている(ボックス2参照)。他方、農業の放棄が、生物多様性に対してプラスとなる場合がある(たとえば、湿地)。
 

 ボックス2:農業環境対策、条件不利地域と生物多様性
  ほとんどのEU加盟国では、生物多様性を保護するための農業環境対策が、たとえば、化学肥料と農薬の使用量の低減、または段階的廃止、そして輪作の維持などを盛り込んだ規則(EEC)No 2078/92のもとで実施されている。事例としては、有機農業の導入、粗放な草地管理、総合的作物管理、農地周辺のセット・アサイド(休閑)、そして、LIFEネイチャープログラムによって試験され、特定生息地を目指した個別対策がある。また、これらの対策は動物相、植物相のためになるような農場内の林地、湿地、生け垣を管理するのにも適用される。さらに、絶滅の危機にさらされている作物や家畜の品種の保護にも適用できる。
  農地の低利用と利用放棄は、自然環境に対して破滅的な結果をもたらすことがありうる。例えば、乾燥地や北方地域のように、山岳地域やその他の条件不利地域においては、農業の中止は、豊かな植生をもった地域を急速に低木林に回帰することになる。また、脊椎動物や無脊椎動物個体群にも影響を与える。
  比較的、開けた植生の半自然生息地は適正な農業行為が継続することに強く依存しているため、その維持が問題である。ところが、農業が継続されても、適切な活動がされなければ、生物多様性を保全するには不十分であるかもしれない。たとえば、放牧管理が制御されない大規模畜産システムに置き換わると、半自然環境が劣化するであろう。CAP支援は、とくに条件不利地域(LFA)対策を介して、脅威にさらされている農業システムを維持するために優れた役割を果たすことが可能である。さらに、農業活動が消失していしまいそうなところでは、農業環境対策はEUにおける農場に依存した生物多様性を保存する努力の重要な部分となる。したがって、これらの対策は、生物多様性の保護に向けた欧州共同体が主要な取り組みと、実質的な部分となっている。
  現在、EUの農地面積の20%は農業対策の対象となっており、これは第5次環境行動プログラムで設定された2000年達成目標の15%を超えている。しかし、5つのEU加盟国が支出の86%を占める。非常に生産的で、集約的農業地域では、このプログラムの取り組が一般に低い。これらの地域では生物多様性へのインパクトがますます強まると思われる。
  CAP手段の使用は (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 3)など、欧州共同体の他の規則の実施の観点からも検討されるべきである。

3) (対応するURLが見つかりません。2010年5月) ,
http://www.natura.org/nnp_leaflet.pdf (最新のURLに修正しました。2010年5月)

 
2.生物多様性手段についての現状
2.1 情報源
 
11. 行動計画を作成するときの優先事項は、まず、農業と生物多様性との相互作用、生物多様性の現状とその展開に関する知識を基に決定しなければならない。
 
12. 欧州共同体レベルでは人間活動と土地利用行為に関連して、ヨーロッパ地域の生物多様性の発展と脅威について、追加的情報を提供する報告書が最近、公表された。それは欧州委員会報告「農業、環境、農村開発;実態と数値」4)と、1998年のEUにおける環境状態に関する欧州環境庁報告5)、「ヨーロッパの環境;第2次評価」によって補足された6)
 
13. 規則(EEC)No 2078/92と、これ以前の規則(EEC)No797/85の19条の実施は、生物多様性に対する農業の正と負の影響について、より掘り下げた情報を提供した。規則(EEC)No 2078/92の評価報告書は7)、「農業と環境」と名づけられたリーフレット8)、最近の報告書「持続可能な農業に向けた指令」と伴に、生物多様性へのインパクトについて比較的包括的な状況を提供している。
 
14. 農村環境は、先ずなによりも動物相、植物相、生息地、そして農業活動が相互に依存しながら発展している生活環境である。何世紀の間、真の共存が発達していた:数多くの生物種と生態系は、いくつかの農業活動の継続によって維持されている。そして農業はまた生物多様性から最も大きな利益を得ている。

4)DG6(農業理事会)とDG11(環境理事会)の共同作業によってEurostat(欧州統計局)が作成。
5)環境アセスメント報告No2:EUの環境、今世紀の傾向、EEA,1999。
6)ヨーロッパ環境庁,1998。
7)委員会(DG VI)調査報告 VI/7655/98,1998。委員会のインターネット
  (対応するURLが見つかりません。2010年5月) )で閲覧できる
8):CAP調査ノート、特別号、欧州委員会の農業理事長

 
2.2 農業に対する生物多様性の恩恵
15. 生物多様性の保全は、農業的活動の決定的な要因の一つである:農業が利用しているさまざまな生物的プロセスの核である生物多様性によって農業者にサービスだけではなく、食料と繊維、毛皮、医薬品などの食料以外のものを提供する。たとえ、食料を農業で自給するための研究が限られた数の植物種、家畜品種に焦点を合わせて、この数十年間きたにせよ、食料の確保は、大きな変化と、同時に厳しい環境下で、十分な規模で作るために適した特性をもつ農業生産を可能にする適応と遺伝子改良によって達成されてきた。(たとえば、トウモロコシ生産地域の拡大)。農業における生物多様性の利用は、経済的、健康、技術、生態的目標の達成に向けた新しい系統や品種の作出を可能にする。
 
16. 農業における生物多様性の持続可能な利用は、有用昆虫の行動によって殺虫剤の使用を低減し、土壌微生物活動の増大によって耕起を減らし、受粉率の向上によって収量を維持するなど、実際の農業活動の改善に貢献する。
 
2.3 生物多様性に対する農業の恩恵
17. 逆に、ある場合には農業活動の発展が生物多様性を豊かにする場合がある。耕作地と生け垣溝などによって仕切られた圃場周辺地のモザイクは、生物の避難場所となり、そして、ある植物群や微生物の栄養源となるように、そこでは特定の生態系と生息地を創出し、生物が維持されている。農業は、地方固有の、絶滅の恐れのある種が生き残る場ともなってきた半自然環境を作り上げる。たとえば、ベニハシガラス(Chough)場合の生存は、ヨーロッパのある地域における伝統的放牧の維持に依存している。また、ノガン(Great Bustard )はスペインとポルトガルにおいて穀類が生き残っている休閑地と草地の広大なパッチで繁殖している。しかし、また、非常に多くの植物種と昆虫種は半自然草地(および他の半自然生息地)に依存している。たとえば、スウェーデンにおいて絶滅の恐れがある維管束植物の70%は、開かれたさまざまな農業景観において依存している(ボックス2参照)。
 
18. このように、絶滅の危機にある時には、非集約的な農業が、生態系はもちろん野生種と栽培植物や家畜の種、品種、系統を維持する。栽培化された植物と動物の選抜と研究のおかげで、非集約的農業においては種内変異が発達する(たとえば、乾燥した環境に適応した植物の選抜)
 
19. たとえ、農業活動が放棄されても、欧州共同体の領域の大部分を管理することで、農業が消失すると考えられる多くの特定の生態系のいくつかのケースを保存する。人が入り難い場所での羊の放牧によって灌木や下草を除去し、被覆植物が発達するので、水と風の作用からのエロージョンを防止し、放牧によって形成された半自然草地における植物相の多様性の維持、アルプス高地の生物多様性の保護、湿地の保全などは、いずれも生物多様性への農業からの利益の実例である。
 
2.4 農業から生物多様性へのインパクト
20. しかしながら、農業活動の二つの主な変化、すなわち、生産の集約化と土地の低利用化が、ある状態になると、農業と生物多様性との均衡を壊してきた(ボックス2参照)。少なくともこの50年間、農業の重大な変化が、土地利用と農業構造に劇的に影響を与え、直接・間接的に生物多様性の特徴を著しく減退あるいは喪失させた証拠がある。北西ヨーロッパの低地の半自然草地は、湿地も同様に、農業の集約化(排水と施肥)の影響で、劇的に減少した。
 
21. 不適正な農業行為よって生物多様性が悪化する一般的原因は、種々のレベルの直接・間接的に影響を及ぼす一連の相互関係であることを明らかにした。その例を次に示した:
 ・遺伝子のレベル:単一栽培を含め、利用される種/系統/品種の数の減少は、経済的に価値のない植物と動物の遺伝的潜在力への脅威となる。
 ・「野生」種のレベル:除草剤の使用は共生生物に影響し、殺虫剤の使用は微生物に影響する。機械化と施肥(最も窒素を好む植物が有利になる)によって、サイクルが崩壊され、平衡状態が崩れる。
 ・生息地と生態系:湿地、雑木林、生け垣の消失や荒廃は、トンボ類、シギ類、サヨナギドリ類、ハリネズミ類、湿生植物に直接影響する。
 
22. 一方、営農条件がとくに厳しい地域においては、農地の緩慢な限界地化や放棄が、農業活動に極めて高く依存した生態系を衰退させる。たとえば、農地の過少利用は中標高の粗放的放牧草地と高緯度地方の放牧草地の豊富な植物相の消失を促進し、木本植物のはびこりやすい環境になり、そして、木本植物がコロニー化する。
 
23. さらに、農業資源からの汚染(肥料や農業化学物質の過剰施用の結果)は、上に示した以上の間接的影響をもたらす。
 
24. 生物多様性にインパクトを与える主な農業活動は、次のようなものがある。
 ・肥料と植物保護剤(農薬)の不適切な使用
 ・慣行的農作業から機械化重視の農業
 ・生産システムの特殊化と特定の行為の強化(混作システムの放棄、放牧システムに組み込まれた穀物栽培の放棄)
 ・種と品種の数の減少
 ・農地の放棄はもちろん、自然生態系から農地への転換
 ・再区画整備(区画サイズの拡大化、生け垣や溝などの圃場周縁部の消失)
 ・排水・灌漑(とくに、その規模が河川の条件に合わない時、すなわち、地下水の過剰汲み上げ)
 
 以上のような農業活動が行われると、次のようなことが引き起こされる:
 ・農地条件の劣化、とくに土壌劣化、エロージョン(土壌生物相に影響)
 ・生態系の単純化と均一化
 ・侵入種と野生種の制御不能な蔓延
 
3. 生物多様性の保全と持続可能な利用のための戦略的枠組みとCAP手段
3.1 枠組み
 
25. 農業分野における行動計画の作成に必要な要点は、欧州委員会報告「持続可能な農業に向けた指令」9)に、その概要が述べられ、アジェンダ2000の最終決定によって確定した。以前に述べたように、環境要素は、新しい枠組みで重要な役割を果たす。とくに、環境を保持し、田園を保護する農業活動の導入が注目に値すると思われる。
 
26. アジェンダ2000の達成目標は、農業分野において、競争力を生み出すという社会経済挑戦、天然資源の持続的管理、また、環境と田園の質についての社会的期待の中で、真の持続可能な農業を育成することにある。そのため、アジェンダ2000(とくに、農村開発における規定)は、環境に特定の生物多様性への考慮を農業政策の中に組み込むための枠組みとなる。使用できるようになった枠組みに沿って、生物多様性の行動計画が作成される時に優先される対策と指令は、現在までに得られた進展を根拠に判断することができる。
 
3.2 優先事項
27. 集約化の無理のない、あるいは合理的な集約に向けて、今日の集約農業活動の発展を確保する。このためには次のようなことが必要である。
 ・生物多様性を考慮した健全な農業活動を発展させる(生産のタイプと、輪作と関係する特色のある栽培品種の多様化を通して)
 ・投入資材の低減を促進する(肥料、植物保護剤10)
 ・有機農業や総合的な作物管理のような、生物多様性に対してさまざまな方法で好ましい一貫性のある生産システムを促進する。
 ・粗放な生産様式を支持する(とくに畜産において)
 ・天然資源の持続的管理の達成する(とくに水資源)

9) COM(1999)22final、1999年1月27日
10)農薬やその成分を指す

 
28. とくに、農業活力が既に低下した生物多様性の豊富な地域においては、生物多様性を保護することを目的に、目標を定め、適合した対策によって、経済的に存続可能な社会に受け入れられるような農業活動を維持すること。
 
29. 生物多様性の保全と持続可能な利用のために農業環境対策の潜在力を使用すること。
  ・下記(パラグラフ30)の2に記した生物多様性が富んだ地域における野生の植物相と動物相の保全
  ・たとえば、ある動物個体群および(あるいは)小さな景観構造物など、まだ重要な価値があると思われる集約的に利用されている地域における、野生の動物相と植物相の保全
  ・生息域内(農村域内)における家畜と栽培植物の生物多様性の保全
 
30. 下記のような生態的インフラストラクチャーが全域にあることを確保すること。これは、保全政策のために欠かせない。次の二つの補足的取り組み方を推奨すべきである。
 (1)欧州共同体規模の生態学的ネットワークであるNatura2000の実施
 (2)さまざまなサイズ11)または小さなサイズ12)の孤立した場所を結びつける線状構造物13)の維持と発展。このような場所は汚染を低減したり、景観の価値を高める見地から、環境に対して別の利点を与える。これは、ある広大な環境を維持するために必須である。
 

11)さまざまなサイズ:採草地、粗放的放牧地、ヒース、古い果樹園など
12)小さいサイズ:孤立樹木、小さな水たまりなど
13)線状構造物:生け垣、農薬や肥料が散布されない圃場の周縁部、草で覆われた水路の川岸、林、道

 
31. 家畜や作物の地方品種・伝統品種・在来品種、ならびに農業で使用される品種の多様性を維持するために、遺伝資源の利用に関する特別の対策を支援する。
 
32. 地方や地域の条件に自然に適した在来種や変種のマーケティングを促進する特別の対策を導入する。恩恵は農業システムと害虫や病気に対する耐性に多様性の点にある。
 
33. 農業によって導入され、また農業によって推奨された非在来種の大量発生と拡大を防止するための対策を実施する。
 
3.3 推奨される原則
34. とくに、農業環境対策で得られた経験は、行動計画を作成するために欠かせない原則であることを証明している。
  ・農業生態系の実際の条件は、農業活動への外部要因の影響(その他の経済分野からのインパクト、たとえば、川上に位置する工場によって汚染された水の使用など)に依存していこともあるが、生物多様性の維持は、それを生み出した農業生産方法にたびたび直接、依存している。
  ・行動はアジェンダ21(持続可能な開発に関する国連委員会)の第14章(持続可能な農業と農村開発の促進)に規定してある任務の包括領域に従って、取らなければならない。そのため、この方法と手段は地域間で異なると思われる;これには、一方では、地方の全関係者の密接な協力を得るために”聖域”のやかましい理屈を克服し、他方では、農業分野が持続可能な生産を強化することの任務を遂行するための取り組みが必要となる。CBD(生物多様性条約)の決議書V/16に規定されているような、生態系の取り組みが適用されなければならない。
  ・欧州加盟国が適切な対策の選択と実施に責任をもつ地域では、分散化した取り組みが必要である。
  ・農業と環境が互いに補足し、相互関連した欧州共同体手段と、各国に関連する補足的国内手段に基づいた組織化された整合性のある取り組みに優先を与えられなければならない。
 
35. 取り組みはこれまでよりも協調することが好ましい。協調には次のような目的がなけれればならない。
  ・補助性と透明性の原則を受け入れる。
  ・プロジェクトの実施を監視する。
  ・臨時そして最終の評価と融資の継続。
  ・欧州共同体の資金源間の重複をさける。
  
3.4 生物多様性に影響する欧州共同体農業手段
36. 主に農村開発対策(農業環境計画を含む)と共通市場機構(common market organisation)の中での直接支払が受け入れられる一般規則を通して、アジェンダ2000によって促進された農業環境戦略は、農業生態系の持続性を高めることが大きな目的である。これは、農業者がそれ相当の補償金を受けなくとも、環境規則の基本的事項を進んで尊重するようになるという理念に基づいている。農業者が通常の適正な農業行為14)に従うだけではなく、それ以上の農畜産物やサービスを提供した場合には、少なくともコストと受けた収入の損失とを相殺するための支払いを受けることができる。
 
37. 行動計画は、生物多様性の利益のためになる、次のような手段の最適な利用に基づいている。
  ・横断的規則15) 
  ・農村開発農業環境対策16)
  ・その他の農村開発対策
  ・共通市場機構の環境要素
  ・農業における遺伝資源の規則17)
  ・市場と関連した施策(品質)の環境要素
  

14)農村開発に関する規則(委員会規則(EC)1750/1999の第28条は理事会規則(EC)1257/1999の適用の詳細なルールを定めた)、「通常の適正な農業行為」とは、道理をわきまえた農業者が関係する地域において、従うであろう標準的な農業のことをいう。加盟国は開発計画において検証可能な標準を提示すべきである。どんな場合でも、これらの標準については、一般的に必須の環境要件の応諾が必要である。
15)1999年5月17日に理事会規則(EC) No 1259/1999がCAPのもとでの直接支持制度に対する共通規則を制定した。
16)欧州農業指導補償基金(EAGGF)から、農村開発についての支援と、いつかの規則の修正、撤廃に関する1999年5月17日の理事会規則(EC) No 1257/1999
17)農業における遺伝資源の保全、特性づけ、収集、利用に関する1994年6月20日の理事会規則(EC) No 1467/94

 
38. 農村開発規則で規定されている農村開発計画は、支援される対策とその地理的範囲のタイプを考慮に入れ、生物多様性に関する環境的考慮を組み込むための優先枠組みを作るべきである。総合的農村開発計画は、さまざまな対策との一貫性をもたせ、同一地域内の矛盾した対策を回避するために役立つ。農村開発計画を作成するときには、加盟国は生物多様性に関する公約を果たす必要があるという考えを忘れてはならない。このため、EC規則No 1750/199918)の附属の第6.1項の最後の段落では、「個々の農村開発計画の関して」次の範囲を記述することの必要性を述べている。”この戦略は、とくに水の質と使用、農場内での作物品種・系統の保全を含めた生物多様性の保全、そして地球温暖化など、持続可能な開発とこれらに関連することを含め、国際的社会と国内環境政策の義務に関連する全てを考慮に入れるという範囲”
 
39. 生物多様性の利益のために利用可能なアジェンダ2000(共通農業政策よりも一般的)が提出した農村開発対策の要約を表1に示した
 
40. 欧州生物多様性戦略19)によって確認された分野別並びに横断的な目的の達成に向けた主要な手段とその関連の詳細は次の章で述べる。
 
 
表1 生物多様性を有利にするCAP規定
 
 
4. EC生物多様性戦略を実施するための手法としての行動計画**
4.1 実施されるべき横断的目的と分野的目的
 
41. 共同体生物多様性戦略(COM(98)42)は4つの主なテーマで構成され、これらは多様な分野的活動の結合効果を必要とするので、「横断的目的」とも呼ばれる。それらのテーマは:
(1)生物多様性の保全と持続可能な利用は、地域内保全、地域外保全、生物多様性の要素の持続可能な利用の三のテーマで表現される。
(2)生物多様性の利用による利益の分配
(3)研究、特定、監視および情報交換
(4)教育、研修、自覚
 
42. 分野的目的は一方では戦略20)の各単一の政策領域と結合している。ところが、これらのあるものは、遺伝資源と貿易のようなことに関して、さまざまな分野と生物多様性の行動計画を含め、欧州共同体の政策間の協力が必要である。これは主に分野間に交差した専門的技術が要求され、また問題に関する政策的な繊細性のためである。
 
43. 共同体生物多様性戦略(COM(98)42)には農業における分野目的が3グループに分けられて示されている。第一グループは遺伝資源に関するものであり、第二グループは農業生態系の保全と持続可能な利用に関するもの、そして第三グループは農業生産と土地利用についての貿易政策のインパクトに関するものである(ボックス3参照)。
 
44. 以下の節では、主要な関連農業手段が生物多様性戦略の分野的目的の実施によって提出された問題にどのように直面しているかを解析する。それぞれの節では横断的目的の達成を評価している。
 

18)1999年7月23日の委員会規則(EC) No 1750/1999は欧州農業指導保証基金(EAGGF)による農村開発の支援に関する理事会規則(EC) No 1257/1999の適用について細目を定めている。
19)EC生物多様性戦略(COM(98)42)の定義による
20)戦略によって示された政策領域は、天然資源の保全、農業、漁業、地域政策と空間計画、林業、エネルギーと運輸、ツーリズム、開発と経済協力である。

 
 
4.2 農業生態系の保全と持続可能な利用(分野的目的2)
4.2.1. 横断的規則
 
45. 規則(EC)No 1259/1999の第3条(環境的保護要件)は、”加盟国は農業的土地利用状況または生産問題の視点から適切であると思われ、そして潜在的環境効果に反映する環境対策を取るべきである。これらの対策には次のことが含まれるであろう。
・農業環境への貢献に対する見返りを支援する。
・全般的な必須の環境要件
・直接支払いの条件となる特定の環境要件
  
46. 3番目の選択肢を採択した加盟国は、環境規定が満たされなかった場合、支払われなくなった財源をCAP「関連対策」(農業環境対策、早期退職、条件不利地域、植林)」のために配分してよい。
 
47. 加盟国による、いわゆる、クロス・コンプリアンス(cross-compliance)21)の適用は、集約的農業と保全と間のバランスと、天然資源の保全・持続可能な利用を確保するための一つの手法になり得る。ある保有地と地域に対して達成した生物多様性の改善が、同一地域において退化を引き起こすような他の生産行為によって一掃されないように防止しなければならない。
 

21)クロス・コンプリアンス(共通遵守事項、交差的条件の満足などとも和訳されているが、そのままカタカナで書かれることが多い);農地や水資源の開発・利用のために農家が財政支援(助成)を受ける場合、土壌・水・自然などの保全条項(特定された土地利用条件や農法)を遵守するものである。もしこれを遵守せず、影響を受けやすい環境分野にまで農業を拡張した場合、助成は撤回される。補助金の一種であり、デカップリング的手段である。1)「食料と環境の政策構想」矢口芳生著、農林統計協会p.39〜43、2)「環境保護とイギリス農業」、福士正博著、日本経済評論社、p74〜87.参照
(対応するURLが見つかりません。2010年5月)
(対応するURLが見つかりません。2010年5月)

 
48. クロス・コンプライアンスは、とくに、分野別目的2.3と2.4(ボックス3を参照)で取り扱われ、;目的2.8、2.5、2.2の達成のために貢献し、よりわずかに分野的目的2.1、2,6、2,7の達成に役立つ。
 
4.2.2 農業環境対策
49. 1992年以降、農業環境対策の適用は7戸に1戸の農家が関係し、そしてEU管内の20%以上22)が環境サービスを受けた。分布が一様でなく、控えめな成果であるにもかかわらず、農業環境プログラムは十分な環境的利益、とくに、生物多様性を生みだしていることを証明した。生物多様性と景観の積極的な維持と向上が、農家の収入に不利益をもたらさず、逆に、アイルランドのウズラクイナ(Corncrake)のように、農業が生み出す「有用野生動植物」の具体例となることを示す多くの事例がある。
 
50. 農業環境対策は農地の使用法にも及ぶ。農地の使用法は、環境、景観と天然資源、土壌、遺伝資源の保護と改善が両立しなければならない。これには特定の自然保護計画、有機農業、低投入農業技術、放棄農地の環境管理、絶滅が危惧される家畜品種の飼育や地方の在来種の栽培など、生物多様性に利益をもたらすいくつかの選択肢がある。農業環境対策による支払い23)は、自発的、または契約にもとづいて、環境サービスを5年間、請け負った農業者に行われる。要したコストと過去の収入に基づく支払いは、通常の適正な農業行為の適用を上回った(少なくとも全般的必須の環境要件を満たした場合)対策についてのみに限定して行われる。各地域において生物多様性について言えば、適正な農業行為のあるべきことを強調しているガイドラインと規範の開発が研究されるようになり、またEU加盟国に対する不可欠な義務になると思われる。
 
51. EU全域において、目標を定めた農業環境対策が実施されることは、今や、欧州共同体の環境戦略の中核となっている。欧州加盟国によって企画された各農村開発計画における唯一の義務的要素として、これらの対策は、欧州共同体の生物多様性の目的の達成にとって不可欠な役割を果たす。管理の分散化システムの開発のために、それぞれの加盟国政府に与えられた、助成金の増額に向けた動きは、行政上の柔軟な枠組みとして認め、またこの動きは、目標達成のための要求に適合している。これによって、まさに地域特有の生物多様性の問題について、適切でよく適合した制度を実施することが本当にできるようになるであろう。
 
52. これらの対策は、とくに目的;2.8、さらに2.1,2.2,2.4,2.7(ボックス3参照)も達成することを目指したものである。これらの対策は、”遺伝資源”に関する中の目的グループのいくつか、すなわち、生息域内保全に関するような 1.1と1.3を達成することを目指している。

22)第5次環境行動プログラムで設定した目標の15%を越えている
23)欧州共同体の適正な年間支払額いの上限は:一年生作物は600ユーロ/ha、特定の多年生作物は900ユーロ/ha、その他の土地利用では450ユーロ/haである。

 

 ボックス3:生物多様性に関する欧州共同体戦略(COM(1998)42)で定義された農業における分野別目的
 
 
1. 植物と動物の遺伝資源.目的は
1.1 食料と農業に関わる植物遺伝資源の保全と持続可能な利用のための行動に関する地球計画の実施を促進する政策、プログラム及びプロジェクトを作成すること
1.2 遺伝資源の多様性のレベルを評価する技術の開発を促進すること
1.3 食料と農業に関かわる実際、または潜在的に価値をもった遺伝資源を生息域内と生息域外で保全する政策を強化すること
1.4 遺伝資源を利用できるようにするために、食料と農業について遺伝資源を生息域内・外で保全するとこに役立つ適切なジーンバンクの開発を強化すること
1.5 法令が遺伝資源の保全を妨げないことを保証すること
 
2. 農業生態系の保全と持続可能な利用。目的は:
2.1 農村地域の生態的な機能を高めること
2.2 生物多様性の目的をCAPの関連手段に組み込むこと
2.3 環境条件が充当しているところに農業補助に結びつけることができる自由の選択権で生物多様性を高める農法を促進すること 
2.4 汚染と生物多様性への一層の被害のリスクを低減する視点で、適正な農業行為の基準を促進すること
2.5 短期的にも、長期的にも特定の農業活動が汚染をもたらす可能性のある全ての生産者の間で、そして全ての生産者が環境と生物多様性の両方の保護者となるべき必要性あることについて自覚を高めること。これには植物保護剤の使用についての統合化された持続可能な戦略の開発を含まれている。
2.6 優先すべき野生種がいる生態系を保全するために栽培・飼育しなければならない作物の種・品種と家畜品種を増進し、守ること
2.7 特に高い自然価値をもつ地域においては、集約度の低い農業システムを促進・支援すること
2.8 次のことによって、生物多様性について最も利益となる農業環境対策をさらに発展させること
・標的とされた農業環境対策の強化
・生物多様性指標に関する一つの特定セットに備え、その実績を評価すること
・アジェンダ2000の決定事項に規定されているように、関連予算ならびに資源を適切に活用すること。
2.9 生態系の機能の基盤となる土壌の肥沃度を増加させること
 
3. 農業についての貿易インパクト。目的は:
3.1 世界貿易機構(WTO)の原則に加えて、生物多様性の保全と持続可能な利用の必要性を尊重する農業政策と秩序に関連する貿易を促進すること

 
4.2.3 条件不利地域と特定の環境規制がある地域
53. 農業環境対策以外に、農村開発規則は生物多様性への好ましい行動のためのいくつかの可能性を提供する。これに関して補償手当はこのような事業の中で最も有効である。
 
54. 補償手当の主な目的は、農用地の自然的、構造的不利益と山地や他の条件不利地における持続可能な利用の継続に対して補償するものである。この手当24)は農地の放棄を防止するために欧州共同体が選択した施策である(この目的は農村開発計画と共通市場機構(CMO)の規定に基づいた対策の全体セットを利用することによって達成されるであろうが)。地方の条件と田園を保存するという要件に合った適正な農業行為とが一致した農地の利用を継続することは、農地の経済的、環境的な潜在力(とくに景観と生物多様性に関して)を保存するために不可欠である。

24)補償手当は25〜200ユーロ/haまで幅がある。

 
55. CAP改革の結果として、生物多様性の目的に関連した、この事業の新しい視点は、次のことを重要視すべきである。
 
・補償手当の支払いは適正な農業行為の遵守が必要である。
・以前の頭数ベースシステムによる支払いは、面積ベースシステムに移行した;これによって、より豊かな生物多様性を通常は保護する低投入型農業をより適切に支援することが可能になる。
・特定の環境目的を持った新しい施策は、この事業の中で作られた。補償手当の支払いは、欧州共同体法で定められた特定環境要件が課せられた地域にも認められる。欧州加盟国はNatura2000の実施をそれに含むことができる。これらの区分に相当する面積は、関係する加盟国の面積の4%から10%に増加した。
 
56. 条件不利地域(LFAs)に関する対策は、目的2.1,2.3,2.4,2.6,2.7、そして2.2を達成するために貢献する(ボックス3参照)。
 
4.2.4 その他の農村開発対策(表1参照)
57. 加盟国は生物多様性の利益のために、他の農村開発対策を利用できる;それらを表1にまとめた。これらのなかで、研修制度は引用に値する。これは特に、”生産についての質的な方向転換、景観の維持と増進とが両立しうる生産行為を適用すること、環境の保護などについて農業者に準備させる”ことを要求している。この研修制度は目的の2.5をなし遂げるために、とくに特に貢献するであろう。
 
58. 林業対策の中では、農村開発規則の32条によって示された新たな可能性についても注目すべきである:これは高い環境的価値と経済的収益性が低い森林について持続的管理を条件とした支援のための最終施策を欧州加盟国に提供する。
 
 
4.2.5 共通市場機構における環境要素(表1参照)
59. 畑作物の分野において、全体としての目的は、価格の低下、デカップリング助成、セット・アサイド(休閑)制度の導入などによる、1992年に開始された農業投入量の最適化である。
 
60. とくに、環境は畑作物規則25)における一般規定によって取り扱われている。セット・アサイド協定は生物多様性を維持するための重要な機会を与える。2000/2001から2006/2007までの市場年度の期間、維持(基本比率;10%)される義務的セット・アサイド協定に備える合意がベルリンで達した。面積払いが適格である休閑地の土地管理は、環境条件を常に満たしていなければならない。さらに、実施規則は、休閑の詳細な規則の中にいくぶん柔軟性を導入し、そこでは、考慮されるべき特別な環境条件(水路の川岸の管理など)を認めるべきである。加えて、自発的休閑による生物多様性への明確な利益に重点をおくべきである。5年間の約束に基づいた、この事業によるEUにおける休耕地は約 50万haである。
 
61. 共通市場機構(Common Market Organisation、CMO)は、牛肉と子牛肉26)に関して、生物多様性の目標を支援すると思われる粗放化を奨励している。生産者はとくに飼養密度に関して厳しい要件を満たす必要がある。一方では、牛肉/子牛肉についての基本的奨励金に関して言えば、支払いは、農家が所有する家畜の餌として使用される草地・飼料作面積当たりの家畜単位(Livestok Unit)が2LU/ha までを上限として支払われる。他方では、粗放化奨励金は農家の所有地、1.4LU/haを超えない密度で家畜を飼育している生産者に認められる。特別奨励金(雄子牛)と搾乳牛奨励金の総計100ユーロが支払らわれる。飼養密度を計算するために、農家の全ての家畜が含まれ、少なくとも草地・飼料作面積の50%が放牧地でなければならない。
 
62. 放牧地の粗放管理が植物相、動物相、微生物相の多様性を維持するために有益であるという点からみて、畜産の粗放化を促進する規定が特に関連する。
 
63. さらに、欧州加盟国はこの共通市場機構と、牛乳と乳製品に対するCMOとのもとで、追加支払いを認めることができる27)。目的基準に基づく、頭数あたり、あるいは面積当たりで支払われる。また、生産に関するタイプの環境への影響と土地の環境的脆弱性を考慮した条件に応じて認められる。したがって、環境インパクトが生物多様性の維持・増進に好ましいような生産システムを推進するために、加盟国レベルで追加的制度の導入を企画することは、十分に可能である(たとえば、山地における粗放畜産)。
 
64. これらの対策は、優先事項「農業生態系の保全と持続可能な利用」と、とくに目的2.2,2.3,2.5,2.7のもとでグループ下された目的の多くを実施に包括的に貢献するであろう(ボックス3参照)。

25)理事会規則(EC)No 1251/1999の第8条は畑作物の生産者のための支援システムとして1999年5月17日に成立し、そこでは「加盟国は申請者に環境法を遵守する必要があることを思い出させるために、必要な対策を取るべきである」と述べている。
26)1999年5月17日の理事会規則(EC)No 1254/1999、OJ L 160,26,6,1999,p21.
27)1999年5月17日の規則(EC)No 1255/1999、OJ L 160,p48

 
 
4.2.6 市場関連手段の環境要素(品質政策)
65. 品質政策に関する手段28)は生物多様性の増進に間接的役割を果たすと思われ、これを過小評価すべきではない。伝統的資源によって作られた限定農畜産物に対する用語の使用を限定することよって、品質に関連する政策が生物多様性の保全に向けて貢献する。品質の指標は、生産物自体とその製造で使用される天然資源への需要を高める。このような資源の保全は、その需要が増加することによって増進する。Monteleoneコムギ(Italy)は最近、保護された地理的表示(PGI、protected geographical indication)として登録された。このように、忘れられた作物であったスペルトコムギが健康、自然食品材として再評価された。これに関連して、有機農業と有機食品市場も注目に値する。条件不利地域における伝統的農業活動の基づく優良生産物ラベルの制限は、生物多様性の財産を継承するために不可欠な地方の魅力と活力だけではなく、環境的価値と雇用を有利にする共同産物の中の良い事例である。
 
66. これらの政策はとくに目的2.6と2.7の達成に貢献する(ボックス3参照)。
 
4.2.7 植物保護剤についての法令 
67. 生態系への農薬の投入は回復不可能な被害の原因となるりうるため、植物保護剤の認可と使用は、生物多様性にとって、非常に重要な要件となる。欧州全域における動物の健康と自然を保護するために、欧州共同体は食物、水、環境における残留の可能性はもちろん、植物保護剤29)の市場での保管法と使用法を30)管理するための一定基準を可決した。この規制は、人と環境に対する有効性と安全性に関する、厳しい必要条件を満した農薬製品のみに交付された許可規定条件に従たがって、”良好な植物−健全の農作業”を追求している農業者によって使用することができることを定めている。共同体規則は、これらの植物保護剤が消費者に危険でないことを保証するために、植物、植物と家畜からの生産物、水の中に植物保護剤が残留する可能性について厳しい基準を設けている。

28)品質に関連する政策のリストは附属IIに示す
29)市場における植物保護剤の保管に関する1991年7月15日の理事会指令91/414/EEC OJ L 230,19/08/1991
30)とくに、指令91/414/EEC OJ L 265,27/09/1997について附属VIを定めた1997年9月22日の理事会指令97/57/ECは、非標的種に関するインパクトを評価するための基準を設けている。

 
68. 追加的な欧州共同体植物保護リスク低減政策31)の必要性について意見が一致している。欧州委員会は、関連する部局長と共に作成した「植物保護方法の適切な使用に向けて」という報告書を出す予定である。この報告書は、中でも、植物保護剤をより環境にやさしく使用するにはどうしたらよいかを分析する。
 
69. いつかの植物保護剤を利用できることが多くのマイナーな作物の生産に必要である。農業における生物多様性は、作物の多様性と密接に関連している。このことは、新しいリスク低減対策を開発する際に考慮する必要がある。何故なら、植物保護剤メーカーは、将来は少数の主要な作物のみに主に焦点を合わせた植物保護剤の開発をすでに発表しているからである。欧州委員会とEU加盟国は、この問題に対処するための戦略を開発することにしている。そうでなければ、マイナー作物に使用できる植物保護剤の減少が農業の生物多様性とっての障害となるからである。
 
4.2.8 欧州共同体の拡大と農業農村地域開発のための特別新規加盟プログラム(SAPARD)制度
70. 中央計画経済の消滅に続き、EUへの加盟を申請している東欧と中欧の10ヶ国内では農業と生物多様性において、大きな変化がみられた。農業構造はもちろん土地利用にも変化が既に現れた:もし、環境的安定性を維持することが、作物ならびに家畜生産の専業化、集中化、または主要再区画整備のような、いくつかの発展による課題を受けている場合には、生物多様性に関する明るい展望が同じ程度、適切に存在する。すなわち、一番目に、EUへの加盟はEU法の総体(Acquis Communautaire)を採択すると同時に、EU内・外での競争への農業経済に備えると共に、EU国内の生息地と種の消滅を防止することを要求するであろう。このような取り組みは、天然資源の利用の観点から、適正な集約化を促進するであろう。2番目に、10ヶ国の候補国は全般的にうまく作られた保全政策を持ち、そして、多様性戦略を支援し、共に行動する強さと同様に、農村地域の豊かな自然の可能性を開発することに熱心である。
 
71. 生物多様性の価値を高く保つ土地利用の形態を残すことついて、適切な配慮を払うべきである。これは新加盟候補国の市場を内部市場に統合する移行期間(とその長さ)において、望ましい農業開発と、可能な承認を決定する際に考慮に入れるべきである。EU農地の良好な全体的な環境の質に、また、生物多様性の豊かな地域外でも、同様な注意が払わられるべきである。ここでは、言い換えれば、地下水と表面水の水質を維持し、ここから、地下水に依存する地域、河、湿地、バルチック、黒海の生物多様性を支えている。さらに少し先の将来には、EU農地面積が50%拡大することによって、EU15ヶ国の農業は、新しい状況に直面しなければならないであろう。
 
72. SAPARD(Special Accession Programme for Agriculture and Rural Development:農業農村地域開発のための特別新規加盟プログラム)32)制度は、農業と生物多様性に関する戦略的役割をもっている。この制度は、年間予算529百万ユーロ(2000年の金額)33)を使って、適切な行動で広範囲を扱い、十分に分散された方法で管理されるであろう。環境保護は、欧州共同体の標準、環境インパクト評価、環境的パートナーの関与を扱う特定の規定を介して考慮されている。さらに、実験的農業環境制度が、SAPARDプログラムのほとんど全で実施される。自然保全地域の管理、有機農業の開発と促進、土壌侵食と汚染の防止、そして、自然価値の高い地域における農業(とくに粗放放牧)の維持などは、この農業環境事業において、加盟予定国によってすでに提案されている対策の部分である。もし利用できる予算があれば、これらがEUのCAP改革によって進展したような、農業環境対策の計画と管理を漸次、取り入れることが期待される。

31)1998年5月12-14日、ブリュッセルで行われたEUにおける植物保護剤の持続可能な使用についての枠組みに関する第2回ワークショップで勧告されている
32)加盟前期間における中欧と東欧の加盟申請国の農業農村開発に対する加盟前対策をEUが支援する1999年6月21日の理事会指令(EC)No 1268/1999
33)OJ L 226の農業農村開発についての加盟前対策のための年間の共同体による財政支援の配分額についての1999年7月20日の委員会決定1999/595/EC 1999年8月27日
(対応するURLが見つかりません。2010年5月)

 
73. 加盟前の期間内におけて加盟予定国の生態系の安定性を図るため、適切な監視が必要である。たとえ、農村開発における農業環境制度が環境的に脆弱な地域をさらに援助したとしても、EU内における農業支援の特質と水準において、それ以上の発展に依存することが大きいであろう。最も重要な課題は成長可能な農業の継続を確保すること、バランスのとれた田園と景観管理を提供することができることである。一般的な、または個別の義務的環境規制の遵守も一つの問題となるであろう。
 
4.3 遺伝資源(分野別目的 1)
 
4.3.1 農業における遺伝資源の保全、特性表示、収集、利用に関する規則(EC)No 146/94
 
74. 1999年の終わりにできた規則(EC)No 1467/94実施に向けた第1次5年プログラムは、基本的には遺伝資源の生息域外での保全に集中し、また、遺伝子バンクに収集された有用な遺伝資源の特性表示がとくに関係する。この取り組みは、食料生産として農家では無視された品種を保護することができるようにする生物多様性の保全を目指した戦略のなかで極めて重要な要素である。遺伝材料の保全の責任をもつ研究所が研究と選抜を行ったことにより、地方品種の特性化が改善された。ところが、取り組みは同時に現代農業との関連から、将来、遺伝資源の保全として必要不可欠な条件であることを意味する。この取り組みがプログラムの成果を利用する者とって特に重要であることを実験で明らかになっている。いくつかのプロジェクトへの積極的な関与がその明らかな証拠である。
 
75. 第1次プログラムでは主に植物遺伝資源を扱った(合計で24の中から17プロジェクト)。しかし、欧州共同体の関係機関では、規則1467/94は家畜や農作物の品種の保存を行わなければならないという非常に重要な役割をもっていることを理解している。
 
76. 欧州共同体生物多様性戦略実施経過報告34)では、さらに次のように述べている:「この規則の最初の作業プログラムの中間報告(1997年)に対する欧州理事会と欧州議会の勧告に従い、農業における行動計画を詳細を検討すると同時に、規則1467/94の財政的寄付が今後も続けられるべきである。」
 
77. この規則は、表題”遺伝資源”に掲載されている欧州共同体生物多様性戦略の目的のほとんど全てに貢献することが狙いであり、そのため、この実施に対する十分な財政手段が確保されなければならない。
 
78. 規則1467/92が欧州共同体生物多様性戦略の目的を達成することに向けて効果的な貢献をすることができるならば、生態地域における特有の性質、このような地域や自然の生息地に対する特有の種(品種)の保全と進化について配慮することが可能になるので、将来のプログラムは生息域内の保全と農地の管理について主に貢献すべきである。このためには、また遺伝資源保全の過程においては、非政府組織(NGO)と農家のより一層の連携が必要である35)

34)1999年8月4日の委員会スタッフ調査報告SEC(1999)1290
35)遺伝的多様性を維持または強化するための一つの方法は、生息域内での保全、すなわち、それらの本来の生息地において維持することである。生息域外での保全と対照的に、生息域内における保全では、自然生息地または農業生息地において維持される植物種の集団の生育を可能にし、そして進化し続ける植物個体群の遺伝的多様性と適応性を決める進化的な過程を与える。農業生態系と人間要素を維持することを必要とする生息域内の一部である「農場内の保全」、すなわち「農場管理」は、農業者による選択の圧力によって、連続的に作物に適応と改良の機会が与えられる。地方種や伝統的品種を農場内で強化することは、収入と持続可能な生産を同時に増加させるが、遺伝的多様性が排除されないようなプログラムの設計が要求される。複雑な農業生態系のダイナミックは一層、よく理解されなければならず、また文化的、あるいは同時に社会経済的な要因を扱わなければならない。農場内における保全プログラムが構築されるべきであり、そして知識と管理の地域システム、地方機関び社会組織を強化すべきである。これら全ては、適切なマクロ経済学と政策の環境の存在に依存するところが大きい。
   概略的には、農場での管理活動は、二つの暫定的なカテゴリーに分けられると思われる。すなわち、政策や普及事業を伴う農場における保全を促進する農業分野全体での取り組みと、地方や国のレベルで特に重要な地方品種や伝統的品種の保全に焦点をあてた対象を定めた取り組みである。特殊な質の農産物の生産のために、すなわち高い多様性をもつ新品種の開発するために、古い栽培品種を主要生産体系の中に、有機農業、または隙間作物のような中に再導入することによって、利用と結びつけることが保全の主目的である。
   植物育種への参加の取り組みは、遺伝子バンクからの材料について要求が高まっている育種分野以外の仕事にたずさわっている利用者に認められるかもしれない。
   資源材料として活動的で、地方に適応した育種個体群の利用は、地方に適応を強めた遺伝子の生息域内個体群の一種と見なされるであろう。このような大量の遺伝子の保存は、育種家にとって利用しやすい有用な対立遺伝子の組み合わせを維持するのに非常に安価で効率的方法であるといえる。

 
4.3.2. 種子法
79. 生息域内、すなわち農場内での植物遺伝資源の保全と改良は、持続可能な利用に効力ある可能性にも依存し、したがって、多様な遺伝的素材を市場に出すことを可能にする法律に依存している。
 
80. 1998年12月14日の指令98/95/ECは、DUS基準36)に従う種子の公的リストに含まれない品種、生息域内の保全から生み出された品種の市場化が許可される可能性を将来、開くために必要とされる法律の枠組みを作り出した。また、この指令は、本来、地方や地域の条件に適応し、そして、遺伝子汚染による脅威にさらされている地方種や品種を育てて、市場化することによって、生息域内における植物遺伝資源の保全と持続可能な利用に貢献する。
 

36)DUS基準:品種としての形質の区別性、均一性、安定性が確認さて手いること

 
81. これらに対するそれぞれの条件には特に次のような点がある
 ・地方種と品種は、理事会指令70/457/EECと70/458/EECの該当する条項に従って登録を行うものとする。公的な受け入れに対する手続きでは、特定の質的特徴と要件を考慮に入るものとする。とくに、非公的なテストの結果として、栽培、繁殖、利用の実際の経験から得られた知識と、関係加盟国に関して知らせるための品種の詳細な説明および関連する名称は考慮に入れるものとする。そして、受け入られた場合には、公的な試験の必要を免除するものとする。このような地方種や品種が受け入れられると、共通カタログに”保護品種”として表示するものとする。
 
・ 地方種や品種の来歴と種子のマーケティング地域は、明記すること。
・地方または品種の種子は、限られた期間だけ市場に出させるような、適切な量的規制を行うものとする。
 
82. 特定の自然生息と半自然生息地と遺伝子汚染による絶滅の恐れが関連づけられ、理事会指令70/457/EECの第1条に記載された種が含まれていれば、混合種子のマーケティングについても特別の条件が制定されるであろう。
 
83. この新しい可能性を活用するために必要な実施規則は、まだ制定されていない。
 
4.3.3. 遺伝子改変生物(GMO)
 
84. 環境中にGMOを放出するときの環境の安全性についての主なEU法令は、「意図的放出に関する指令(Deliberate Release Directive)」37)であり、「封じ込め内での利用に関する指令(Contained Use Directive)」38)は、環境中に事故または偶然による遺伝子改変微生物を扱っている問題である。これらの法令は、健康と環境の保護に関係するGMO法の枠組みとなっている。食品の安全性については、遺伝子改変食品規則39)によって補完されている。この法令の枠組みは、カルタヘナ生物多様性議定書の採択に従って、修正・変更されなければならない。

37)遺伝子改変生物の環境への意図的放出に関する1990年4月23日の理事会指令90/220/EEC
38)遺伝子改変微生物の封じ込め使用に関する1990年4月23日の理事会指令90/219/1990
39)遺伝子改変食品及び遺伝子改変食品成分に関する1997年の1月27日欧州議会と理事会の規則 EC No 258/97

 
85. 遺伝子改変生物(GMOs)の農業における利用は、極度にデリケートであり、政治的にも微妙な問題である。欧州連合は公的な討論、多様な利害関係者の利害の衝突から生じるいろいろな問題に立ち向かわなければならない。環境について、とくに生物多様性についての論争に関する限り、次のような事項が主要な問題とされている。
 
・農業による環境への悪影響を減少させるために、伝統的知識とともに最新の科学技術を有効に利用すること
・栽培種または野生種、そして病原体の農業に重要な遺伝子の判別と調査のための最新の分子・遺伝子技術の使用とそのような知識の活用
・遺伝子改変作物の環境安全性;生態系へのインパクト
・栽培種と野生種の間の意図せぬ遺伝子流動の可能性と影響
・遺伝子改変作物の遺伝子導入の特性と病害虫・雑草防除との関係
・生物多様性の保全と持続可能な利用及ぼすインパクト
・インパクト評価(生物多様性の価値を持つ地域、栽培種発祥中心地)
 
4.4 農業への貿易のインパクト(分野別目的3)
86. 農業市場の自由化の進展は、EUの農業を高いレベルの競争インパクトにさらされている。この進展は最適な土壌での農業生産が有利であり、一方、限界地域の農家はコストと価格の比率が圧縮されることよって深刻な影響を被るであろう。これによる農業構造の調整は、生物多様性や自然価値の高い景観における負の効果をもつ農地利用の限界地化、さらには放棄にさえつながるであろう。
 
87. 農業政策の自由化が、それ自体で農地の保全能力を増強することは全くないであろう。逆に、自由化に向けた主要な長期経済反応である構造変化は、環境的な結果としてマイナスになるであろう。したがって、EUは土地管理を継続し、生物多様性と景観特性を保全していく視点で適切な対策を取ることが必須である。
 
4.5 欧州共同体生物多様性戦略の横断的目的の達成
88. 横断的目的を適切に達成するには、多様な共同体政策と多様な分野別活動を結合と協調の努力が必要である。
 
4.5.1 生物多様性の保全と持続可能な利用
89. 主な目的には、生息域内と生息域外の両方での保全と持続可能な利用が含まれている。この実現には純粋の保全政策、他の環境法令および分野別政策(農業を含む)間の十分な協調を必要とする。もちろん、野生鳥類指令、生息地指令、そしてNatura2000ネットワークの実施は、この領域で優先事項を残すべきである。1999年のはじめには、このネットワークに加盟国が提案した地域は、EU領域の9%に及んだ。提案されたサイトのリストはまだ完全ではなく、それゆえ、ネットワークの進展は期待したよりも遅い。国内のサイトのリストの他、管理計画の作成40)は分野を超えた政策の調整が必要な緊急の任務である。農業支払い(農業環境、補償の手当または支払い)の利用はある状況下では戦略手段となると思われる。実に、「指令92/43、付表1にリストした198の生息タイプのうち、65タイプは牧畜活動の集約化によって脅威にさらされ、26タイプは伝統的活動の停止により危険にさらされている」41)。少なくとも、地域あるいは国内プログラムレベルでの適切な手段の選択によって、農業的活動を支援する重要な役割があることに注目すべきである。
 
90. 土壌や水などの天然資源の管理と保護に対する環境法の立案と実施も、この自然保全の目的に貢献する。
 
91. 最後に、分野的政策、中でも農業政策への環境の保護と持続可能性の条件の一般的目的は、生物的多様性の維持・増進のための重要な要素である。共通農業政策は、アジェンダ2000合意に基づいて、生物多様性の全域でより良い安定を促進し、農業活動、とくに非集約的農業システムの利益を最適化して、最小化を目指す枠組みを示すことが今や可能である。農業理事会は1999年12月のヘルシンキの欧州理事会での戦略を再確認した。

40)生息地指令(EC指令92/43)の第6条による要求
41)オスターマン、1998年(「IUCN,1999 農業と生物多様性に関するIUCN政策の進展についての背景研究、ロンドン大学、Wyeカレッジ、P.Nowickiとの協力」による引用)

 
4.5.2 生物的多様性の利用から生まれる利益の分配
92. 世界の主要な多様性の中心地は、実は開発途上国にある。いくつかの開発途上国は、研究と育種活動のための世界中の遺伝子素材の主要な供給地である。そのため、この素材の本来の提供者である地域の農家への補償は、改良された素材の利用権や、改良によって生まれた利益の配分の見地から必要である。この補償は、いずれにしても参加型の方法で行われるべきである。現在の方向付けと、進行中の「経済的・発展的協調生物多様性行動計画」との間の連結がさらに進められるべきである。
 
4.5.3 研究、同定、監視、情報交換
93. 知識のギャップを埋めることは、生物多様性の共同体戦略の目的を成功裏に達成するために欠かせない。基礎的研究、とくに保全状態の監視と評価、そして生物多様性の要素の動向についての研究を強化する必要がある。欧州環境庁はもちろん関連する委員会部局を含め、指標システムの開発は、より重要な任務である。OECD、国連機関、加盟国、民間の非政府組織(NGO)等の他の関係者との協力関係も確保すべきである。彼らは正確な専門的知識はもちろん、入手可能な関連データを同様に所有している。第5回円卓会議(Round Table Discussion,RTD)における生物多様性研究行動の統合は、これらのニーズに対して確かに貢献するであろう(ボックス4参照)。
 

 ボックス4:生物多様性と農業に関する研究プログラム 
 「生命の特質と生物資源の管理」に関する研究の特定プログラム(重要行動3のRTD優先事項:"細胞工場”)では、「自然・導入個体群の生物多様性と生態的動態」(生態的インパクトの評価と低減を含め)と「新しい価値をもつ生産物のもととなる代謝と遺伝的多様性の同定と持続可能な利用”に関する研究活動が進んでいる。
 重要行動5のRTD優先事項(持続可能な農業、漁業および林業、並びに山岳地域を含む農村地域の総合開発)では、関連するゲノム応用研究、遺伝資源の多様性、生態系へのインパクトを低減した持続可能な生産システムと栽培種の多様性を含む、農業と動植物育種における遺伝的多様性を保護・改善することに関する研究を扱う。
 「エネルギー、環境、および持続可能な開発」に関する研究の特定プログラムにおいて、(重要行動2”地球規模の変化、気候と生物多様性”のもとで)生態系の脆弱性の研究計画が、人為的なインパクトと生物多様性の変化との相互作用をよりよく理解することを追求する。「生物多様性の評価と保全」の作業は、土地利用の変化と生物的資源の持続可能な利用の関連において、生物多様性を保全することに役立っている。最後に、第3領域(生物多様性の保全を経済的発展に調和させる)プロジェクトでは、生物多様性の保全を、もしかすると対立するかもしれない人間活動と調和させるための戦略を開発し、それを応用するであろう。

 
94. 欧州環境庁は生物多様性に関連する情報をインターネットで利用可能にするための欧州共同体クリアリングハウスメカニズムを立ち上げている。これは、また生物多様性条約の第18条3項における加盟国によるクリアリングハウス確立要請の実施に貢献するであろう。
 
4.5.4 教育、研修、自覚
95. 人々、とくに農家の自覚が、現在の取りくみにおける行動の確実な成功のためには不可欠である。そのため、農村開発規則は、生物多様性を含む環境改善を直接的な目標とすることができる特別な制度(研修)を導入した。農村開発計画の作成と実施におけるNGOの関与と参加は、加盟国によって常に支援されるべきである。
 
4.6 監視と評価の会議優先における進展
96. この報告書においては、いくつかの優先事項が、まず生物多様性の利益に係わる農業活動の役割を強化し、次に悪影響を低減するという視点で確認された。共通農業政策は、農村開発政策の中心であり、この領域の行動に関する重要な可能性を提供している。
 
97. 農村開発計画と農業環境対策の監視と評価には、関連するサイトの特有の性質とプログラム基準を反映する適切な手段が必要であろう。このような農業環境指標は次に来る戦略の有効性を評価できなければならない。
 
4.6.1. 農業環境指標に対する総合化枠組みの開発
98. 農業環境指標は農業と環境に関わる複雑な問題を正しく理解するための道具とするべきである。これらの指標は動向を示し、量的情報を提供しなければならない。農業についての指標開発では、関係する地域の全体にわたる活動のプラス、マイナス全ての影響を含んでいなければならない。たとえば、生物多様性のみを扱っていたのでは、その全体像をみることができない。農業生産が行われ、生物物理学的特色と、栽培された作物に関連する特色の両面で、その全ての特色を特徴づけた耕作された、半自然空間の一部とみなした田園についての広範な理念に基づく体系的取り組みは、農業環境指標に適切な脈絡を与えると思われる。 
 
99. 農業と環境に関する指標の開発には、地域によって経済構造も自然条件も異なることを反映した様々な取り組み方が必要である。これは欧州委員会における現行作業の優先事項の一つであるが、この作業を複雑なものになっている。農業環境指標に関する最近の報告42)はさまざまなイニシアチブ43)を概観して、現在の指標のセットに欠落している部分を明らかにしようとしている。これは欠落している指標を埋めるための全体的枠組みと見通しを提案している。この作業では生物多様性に関連する農業環境指標のセットを開発することの重要性を重視している。しかしながら、指標があまり多すぎると、問題点を明らかにするよりもわかりにくくしてしまうため、あまり多くの指標を作ることを避けることも重要である。
 

42)欧州委員会から理事会と欧州議会への報告「CAPの中に環境的事項を取り込むための指標,COM(2000)20final」
43)OECDと協力によって、欧州統計局、合同研究センター、欧州環境庁、ELISAなどの共同体研究プロジェクトなど、委員会部局によって指標のセットが開発される。

 
100. とくに生物多様性に関して、環境指標の望ましいリストの開発と、使用可能な定義、信頼できるデータなどを十分に備えた完成した実用的な指標のセットとの間の隔たりは極めて大きい。この隔たりを埋めるには、欧州委員会と加盟国にもっと多くの資源が必要であり、この領域にける加盟国の努力と貢献を含む一致した努力が必要である。データ/情報の必要性についての長期的戦略が必要であろう。
 
4.6.2 生物多様性の目的の監視と評価
101. サイト特有の取り組みは、地域農業活動と特定の生物多様性の資産との間の相互関係の正確な状況を提供するために必要である。さらにこの取り組みは、(農村開発計画の範囲の中で)農業環境政策の立案と実施のレベルにうまく適合するであろう。しかし、この結果として、このようなサイトの取り組みに重点をおくことは、適切な指標を開発する場合に、特有の困難が生まれ、一方では、生物種や自然生息地の全体的蓄積は、累積的影響しか反映しなくなる。
 
監視
102. これに関連して、欧州委員会よって作成された農村開発計画の監視に関する報告書について触れておかなければならない。農村開発規則の第43(1)条では、農村開発計画には、”監視と評価を含めた、計画の効果的で適切な実施を確保するための規定”があるべきだと述べている。同規則の第48(2)条では、”監視は特定の物質的指標および財政指標をもとにして実行しなければならない。そのため、委員会は、そのように指標の共通構造だけではなく加盟国に共通の指標のセットを提示している(付表3参照)。
 
103. たとえ、この情報が生物多様性に関する予期されたインパクトの完全な状況を与えることができなくとも、加盟国や各地域における農村開発対策の実施について、統一されたデータの基礎的水準となるであろう。この情報は、生物多様性の発展と保護のために各加盟国で実施されている対策についての特に注目して共同体の規模に集計することが可能である。これによって、加盟国や地域で適用された対策の経過を示すことができ、また毎年の経過報告を作成することができるであろう。
 
104. さらに、”横断的”規則(規則1259/1999)では、環境要件を満たしてないケースを含めて、この規則の実施のために行う対策の詳細を委員会に知らせることが加盟国に求められている。ある作業はEUのレベルで意味のある指標を作り出すためには、この作業を調整する必要がある。
 
評価
105. 農村環境計画は農業における生物多様性のための対策を実施する主な手段となるであろうが、監視によって得られた情報は、さまざまな対策や生物多様性の目標の評価に関連する指標によって、さらに点検される必要がある。そのため、農村開発プログラムとその支援制度のもとでの支払いは、そのため、生物多様性を含めて、それらの影響を調べるたのめに作られた評価(事前、中間、および事後)を受けることになる。
 
106. これらのプログラムと政策の効果を結果と影響に焦点をあてて、評価するための適切な指標の詳細が加盟国と委員会によって提出された。生物多様性は環境についての章の一として選ばれている。プログラムの実施前・中間・事後の各段階の評価に関する必要条件が、欧州委員会規則No 1750/1999の第42−45条に提示されている。これらの規定は、第43(1)と、特に欧州農業指導保証基金(EAGGF)による農村開発の支援に関する理事会規則No 1257/1999の第49条における評価についての全般的要求を具体化したものである。これらはEAGGFにおける2000-2006年農村開発プログラムの評価ガイドラインでさらに詳しく述べられ(DOC VI/8865/99-REV.)、そして指標についての一般的評価項目が練られているところである(付表4を参照)。
 
107. 農村開発地域内で行われる監視と評価の実施においては、欧州共同体内部、あるいは、OECDのような会議(フォーラム)で開発された総合的枠組みとともに、生物多様性についての行動計画によって設定された目標の達成を評価するために使用されるだろう。
 
5.対策の整合性の確保
5.1 統合化プログラム
108. 農村開発手段(農業環境対策を含む)によって示された潜在性の観点から、これらの特色に基づく優先事項としての戦略を作成しなければならない。しかし、それは支援対策の寄せ集め以上のものでなければならない。農村開発政策は市場政策と、と共に、あるいは加えて、統合的開発プログラムの開発に努めなければならない。
 
109. ここでは、農村開発計画の設計と実施が、重要な要素となる。これらの計画は、2000年1月1日から7年間にわたる44)。それらは、最も適切と考えられる地理的レベルで作成しなければならない45)。これらの準備においては、環境の専門家を含めて、全ての責任ある専門家が関係しなければならない。生物多様性に関するさまざまな対策の間の相互作用の可能性を明確にすることが不可欠である。これにより、協力の進展が可能になり、相互に矛盾する取り組み方が避られるであろう。生物多様性の保全において最も頻繁に持ち上がる特殊な、地域的問題を考慮するならば、計画の全体的整合性は地域スケールでのみ評価できる。
 
110. 生物多様性を強化する農業のための地域戦略は、農村開発計画のもとでの優先事項としなければならない。これらの農村開発計画には、環境対策、そして状況によっては、条件不利地域における対策と、環境規制を受けている地域についての対策が含まれる。このことは目的1及び目的2のプログラム作成とも関係し、常に配慮しなければならない46)
 

44)規則(EC)No 1257/1999の第42条
45)規則(EC)No 1257/1999の第41条
46)EAGGF指導部門が助成する農村開発対策は、規則1260/1999に対応した目的1地域に対するプログラムに組み込まれ、いくつかの対策(いわゆる「関連対策」以外のもの)は目的2地域に対するプログラムに組み込まれる。
   (対応するURLが見つかりません。2010年5月)

 
111. 農村開発計画47)の内容の条項は、適切な地理的レベルでの環境状態を考慮した対策のプログラム作成を促進する。加盟国は、また次のことを提示することが明確に求められている:「この戦略が持続可能な開発に関連、とくに、水質と水利用や農場内での作物品種の農場内の保全を含む生物多様性の保全を入れて、国際的共同体と国内の環境政策義務を考慮しているか」48)
 
5.2 対象とする全地域
112. 共同体の地域全域にわたる生物多様性支援のガイドラインを作り出すことが極めて重要である。2000年のはじめから実施されている農村開発政策は、全ての農村地域に適用される。さらに、加盟国の計画は、その地域全体について、各国の特有の必要に従って、農業環境対策を規定する49)
  計画によって提供されるさまざまな支援対策は互いにバランスがとれたものになるようにすることも必要である。
 
113. これらの規定は、地域の社会・経済的、文化的、環境的資産を維持する農業の重要な役割を認識し、また、農業地域の収入を生み出す活動の活性を高めるために代替の収入源を作り出すための要求を重視する、農村開発に対する多面的な統合アプローチの一部である。
 
5.3 適合性と整合性
114. 農村開発の支援は、共同体法律に従った対策に対してのみ与えられる。これには明らかに環境法令も含まれる。したがって、2000〜2006年の計画とプログラムにおいては、生物多様性に関する法令を配慮することが期待される。欧州共同体のレベルにおいては、これは、現在のところ、生息地指令と鳥類指令50)に従って、選定された保護地区を含む、保護サイトの欧州ネットワーク(Natura2000)の実施に基づいている。
 
115. 農村開発規則と他の共同体支援制度51)による、同一の対策については、支払いを行ってはならない。ただし、その規則は、生物多様性の保全のためのさまざまな共同体基金(EAGGF、構造改善基金、LIFE)からの支援には該当しない。CAP対策による生物多様性の改善は、環境法令と該当地域における構造改善基金対策という、より広範な前後関係においてのみ、組み合わせることができる。
 
116. LIFEと規則2078/92による農業環境対策とは組み合わせのよい例である。LIFEプログラムは、自然保護対策のためのテストケースの性格を持ち、農業環境対策下で大規模に実施される試験的プログラムの役割をしている。

47)規則(EC)No 1257/1999の第43条と実施規則1750/1999の第33条
48)委員会規則(EC)No 1750/1999の 付表の第6.1点
49)規則(EC) No 1257/1999の第43(2)条
50)自然生息地と野生の動物相・植物相の保全に関する理事会指令92/43/EEC
51)規則(EC)No 1257/1999の第38条

 
5.4 結論−目標の設定と予定表
117. CAPへの生物多様性の組み込みの進行の速さは、アジェンダ2000の実施によって、大部分設定されている。予定表は加盟国による農村開発計画の作成と実施によって大部分、左右される。したがって、計画の中に適切な生物多様性戦略を組み入れることは、緊急で重要な作業となる。生物多様性について期待される成果の多くは(通常は5年間にわたる)、農業環境対策の実施をとおして実現されるべきであり、目標のほとんどはプログラム期間の終わりの、事後評価の実施によって評価されるであろう。
 
118. 具体的な優先事項、分野的および横断的目的、目的に対応する関連施策を表2にまとめた。目標と仮の指標が可能な限り、予定とともに示されている。
 
119. いつかの行動が、生物多様性の指標、あるいは土地利用、土地被覆、景観指標を改良することを目的に、欧州委員会、加盟国またはOECDで着手されている。これらの検討結果と進行中の生物多様性への農業的イニシアチブとの連携を常に保つことが重要であろう。
 
120. 加盟国は2002までに農業における生物多様性を改善する際の、現在する問題点を報告することが求められている。
 
 
表2 行動計画優先事項を達成するために必要な対策の実施:目標と予定表
 
 
付表1 農村開発に対する欧州農業指導保証基金(EAGGF)保証部門配分
 
 
付表2 品質に関連する政策
 
 
付表3 監視指標
 
 
付表4 評価の指標
 
 
 

本の紹介 67:環境考古学のすすめ、安田喜憲著、
丸善ライブラリー 349、丸善
(2001)840円 ISBN4-621-05349-3

 
 
 梅棹忠夫の「文明の生態史観序説」では、東洋の自然観・世界観に立脚しながらユーラシア大陸の風土・歴史をグローバルな観点から論じられている。筆者は、この生態史観に基づいて、文明や歴史をその舞台となる自然環境との関係を重視しながら研究する分野として、「環境考古学」を提唱している。著者はこの「環境考古学」が、地球環境と人類が危機に面している今このとき、きわめて重要な学問であることを強調する。
 
 第3の「森と文明の環境考古学」と第4章の「稲作文明の環境考古学」では、農林業と環境と文明の関係が詳しく紹介されている。以下に紹介した目次からも分かるように、文明は森の神殺しから出発し、森の消滅は文明の崩壊を導く。森の農業、森の稲作農業は森の宗教を守りつづけることを強調する。そして、日本の林業と稲作農業を守ることの必要性が語られる。
 
第1章 環境考古学とは何か
 1 地理学からの出発
自然と人間の関係の研究/環境悪化と共産主義の崩壊が歴史観を変える
 2 二一世紀の新たな科学の展開
赤道西風の発見/地球の遺伝子を解読する/湖底にできた10万年の堆積物/文明の興亡史に決着
 3 環境考古学のすすめ
文明の生態史観/環境考古学の提唱/動物的環境論の展開/ダイナミックに変貌する風土/地球環境危機の時代の「文明環境史観」
 
第2章 気候と文明の環境考古学
 1 農耕の起源と気候変動
欲望への覚醒/農耕社会の成立/15万年間の気温変化/激動の500年/農耕をはじめなかった縄文人
 2 都市文明の誕生と気候変動
「ノアの方舟」が伝える気候変動/気候の乾燥化と都市文明
 3 一神教の誕生と気候変動
アニミズムから一神教への転換
 4 日本古代社会の変容と気候変動
寒冷化と巨大墳墓/寒冷化すると南へ、温暖化すると北へ/価値観の多元化と収斂
 
第3章 森と文明の環境考古学
 1 レバノンスギの森の悲劇
文明は森の神殺しから出発した/ギルガメシュ王の2000キロメートルの旅
 2 森を破壊する家畜の民
森の消滅とギリシャ文明の崩壊/森の破壊とペスト大流行/一万年の森を破壊したアングロサクソン/森の破壊と漢民族
 3 モアイ文明の悲劇
目に入れてモアイは神になった/モアイ倒し戦争/森の消滅と食料危機
 4 森の民、日本人
里山の農業/森を守る神話と心/欲望をコントロールする森の心
 
第4章 稲作文明の環境考古学
 1 稲作農業の起源
米を食べるということ/豊かな稲作農業社会/稲作農業の起源/ヤンガー・ドリアスと農耕/森と草原のはざまと農耕
 2 稲作文明の誕生
長江文明の発見/稲と太陽と鳥/湖南省城頭山遺跡
 3 畑作牧畜民の拡大
長江文明の崩壊/畑作牧畜民の拡大と森の消滅
 4 長江文明と日本民族のルーツ
長江文明の難民が稲作をもたらした/森の農業の発明/森の宗教と日本人/森にやさしい日本食/稲作農業を守る日本民族
 
第5章 動物と文明の環境考古学
 1 森の文明のシンボル、蛇
ギリシャで発見された蛇/ギリシャは森の国だった/日本の蛇信仰/蛇を飼う容器/今も残る蛇神話/蛇巫女の墓標/家の主の蛇/病気を治す蛇/商売繁盛も蛇/あの世とこの世を支配する/豊饒と愛のシンボル
 2 蛇をめぐる文明の交流
東洋の蛇信仰と稲作/カラスと蛇
 3 蛇を化け物にした家畜の文明
森の消滅と蛇信仰の衰退/邪悪のシンボルとしての蛇/化け物になった蛇/大地から姿を消した蛇
 
第6章 環境考古学を学ぶ人のために
幅広い視野と分析技術/岩石圏の環境考古学/水圏の環境考古学/大気圏の環境考古学/生物圏の環境考古学/人間圏の環境考古学/年代測定の技術
 
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