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情報:農業と環境
No.26 2002.6.1

No.26

・土壌汚染対策法

・報告書の紹介:欧州議会と欧州理事会の指令案;環境被害の防止と修復
   に関する環境責任(欧州委員会による提案)−中編−

・本の紹介 77:エコ・エコノミー、レスター・ブラウン著、
   家の光協会(2002)

・本の紹介 78:地球白書2002−03、
   クリストファー・フレイヴィン編著、
   家の光協会(2002)

・本の紹介 79: Restoration of Inland Valley Ecosystems in West Africa,
    Association of Agriculture & Forestry Statistics (2002)

・本の紹介 80: Nitrogen in the Environment;
    Sources, Problems, and Management,
    Eds., R.F. Follett and J.L. Hatfield, Elsevier (2001)

・本の紹介 81:環境学の技法、石 弘之編、
   東京大学出版会(2002)

・報告書の紹介:畜産における温室効果ガスの発生制御(総集編)、
   畜産技術協会(2002)

・報告書の紹介:研究成果386 
   高精度観測衛星を利用した地球温暖化等に伴う
   アジアの食料生産変動の予測手法の高度化、
   農林水産技術会議事務局(2002)


 

土壌汚染対策法
 
 
 環境省は、この通常国会に土壌汚染対策法を提出した。この法案は、5月22日の参議院で可決、成立した。この法案の成立によって、市街地を対象とした土壌汚染対策の法制度が始めて誕生することになる。この法案のねらいは、工場跡地などの土壌汚染による健康被害を防止することにある。そのため、土地所有者などに汚染調査・除去などの対策を義務付けるものである。
 
 法案の最大のポイントは、汚染対策にかかわる責任の所在を明確にしたことにある。土壌汚染により健康被害が生じる恐れがあり、汚染原因者が明らかな場合は、都道府県知事は原因者に汚染の除去などの措置を命令することができる。それ以外の場合は、土地所有者などに命令することができる。土地所有者が措置を実施した場合でも、汚染原因者が判明すれば、汚染原因者に費用の負担を請求できる。
 
 すでに、海外では同様の法制度を運用している国もある。しかし責任の所在があいまいなため、実際の対策が進んでいない例も多い。したがって、この法案では土壌汚染対策促進の実効性を高めることに照準が絞られている。
 
 汚染対策の流れは以下の通りである。有害物質を取り扱ったことのある工場・事業場が廃止されたときには、土地所有者などが汚染を調査する。環境大臣が指定する指定調査機関がこの調査を行う。環境省令で定める基準値を超える汚染が見つかった土地は、都道府県が「指定区域」に指定する。汚染状況や環境リスクの管理状況などは、都道府県ごとに台帳に登録して情報公開する。都道府県知事は、汚染原因者や指定区域に指定された土地の所有者などに、汚染除去などの措置を命令する。汚染除去が行われた場合は、指定区域の指定を解除する。
 
 資力のない土地所有者などによる汚染除去などの措置を促進するため、基金を設置することも定めている。基金をもとにした助成金の交付などは、環境大臣が指定する指定法人が行う。この法人では、汚染対策のための相談・助言業務や、土壌汚染リスクに対する理解を深めるためのリスクコミュニケーション促進なども行う。
 
 今回の法制定の背景には、工場跡地などの土壌汚染判明件数の急速な増加があげられる。1991年度に8件だった環境基準の超過事例が、2000年度には134件にまで増加した。その一因として、工場跡地の再開発・売却に際して、あるいは環境管理の一環として汚染調査を行う事業者が増えたことが挙げられる。都道府県などによる地下水の常時監視体制の整備も、土壌汚染の判明件数を増加させている。
 
 汚染土地の調査義務がかかるのは、規制物質の候補として挙げられた鉛、ヒ素、トリクロロエチレン、その他(放射性物質を除く)など9物質である。政府は2003年1月の施行を目指している。詳細は、環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/info/hoan/index2.html#154 (「お知らせ>国会提出法案」のURLに変更しました。2010年5月) )を参照されたい。
 
 

報告書の紹介:欧州議会と欧州理事会の指令案;
環境被害の防止と修復に関する環境責任
(欧州委員会による提案)−中編−

 
Proposal for a
DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL
on environmental liability with regard to the prevention and
remedying of environmental damage
(presented by the Commission)
 
 欧州委員会は、2002年1月23日に環境被害を防止し、回復することを目的とする環境責任に関する指令案を採択した。
 この案は欧州共同体が長年追求してきた「汚染者負担の原則」の実現に踏み出す画期的な決定である。水質汚染、生物多様性への被害、人間への健康に深刻な影響のある土地汚染は、すべてこの指令の対象となる(http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/earth/conservation/news/02012401.htm)。
 
 今回は、この報告書(Brussels, 23.1.2002 COM(2002)17 final 2002/0021(COD) http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:C:2002:151E:0132:0145:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年6月) の中間部分を仮訳した
前編は「情報:農業と環境」No.25 に掲載)。
仮訳した文章の中には原文の内容が的確に表現されていない部分もあると思われるので、原文で確認していただきたい。
 
付属書公衆への諮問手続き
 
 欧州委員会は、2000年2月9日に環境責任白書を採択した54)。この白書の目的は、欧州共同体の環境政策の目標を実現するために、欧州共同体条約の中の重要な環境原則の1つである、汚染者負担の原則をどのように適用することが最も適切かを探ることであった。この白書では、環境責任に関する共同体制度を、どのように作るのが最もよいかを検討している。欧州共同体行動のための様々な選択肢を調査した結果、委員会は環境責任に関する欧州共同体枠組み指令が最も適切な選択肢であると結論している。
 
 この白書の背景には、1993年の委員会の諮問文書(最終的なCOM(93) 47 final)、その年の欧州議会との合同ヒアリング、共同体指令、および経済・社会委員会の意見を求める1994年の議会決議などがある。
 
 この白書は、加盟国と広範囲の利害関係者から非常に多くのコメントを引き出した55)。この白書には経済・社会委員会56)と地域委員会57)からも意見が出された。欧州議会はこの白書について公式の見解を採択しなかった58)。環境理事会は2000年の4月と12月にも環境責任の問題を討議した59)
 
 2001年7月25日に環境総局は今後の制度の基礎になる原則を示した調査報告書を公表した。この調査報告書は次のような国、地域、組織に送られた:
 
● 欧州共同体加盟国;
● 欧州経済領域(EEA)加盟国;
● 欧州共同体加盟予定国;
● いくつかの国際組織(欧州自由貿易連合(EFTA)と国連環境計画(UNEP));
● 欧州の地方・地域行政組織の協議会(欧州地方自治体協議会(CEMR)と欧州地域会議(ARE));
● 欧州の環境NGO(欧州環境事務局(EEB)、世界自然保護基金(WWF)、グリーンピース、バードライフ、地球の友、国際自然の友、および欧州消費者同盟(BEUC);
● 欧州の産業・職業の連合・協会:欧州産業連盟(UNICE)、欧州化学工業連盟(CEFIC)、欧州職人中小企業連盟(UEAPME)、欧州企業家円卓会議(ERT)、欧州公共企業センター(CEEP)、欧州産業汚染土壌ネットワーク(NICOLE)、欧州バイオ産業協会(EuropaBio)、欧州廃棄物処理協会(FEAD)、欧州機械・電気・電子・金属産業連絡会(ORGALIME)、ベルギーのアメリカ商業会議所EU委員会、EU農業専門組織委員会とEU農業協同委員会(COPA/COGECA)、環境技術のための汚染土壌回復ネットワーク(CLARINET)、欧州保険委員会(CEA)、欧州銀行連盟、国際石油・ガス生産協会(OGP)、欧州石油工業協会(EUROPIA)、欧州独立石油組合(UPEI)、国際タンカー・オーナー汚染連合(ITOPF)、欧州環境法律協会(EELA)、欧州所有権連盟(EPF)、欧州原子力産業会議(FORATOM)。
 

54) COM(2000) 66 final。
55) それらのコメントについての要約は、以下のサイトにある:
    (対応するURLが見つかりません。2010年5月) .
56) 2000年7月12日の意見(OJ C 268、19.9.2000、19ページ)。
57) 2000年6月14日の意見(OJ C 317、6.11.2000、28ページ)。
58) 環境・公衆衛生・消費者政策委員会は、2000年9月12日に環境責任についての白書に関する法律問題と共同体内市場委員会の意見(PE 290.139)を採択した。
59) 2000年12月18日の理事会プレス・リリースNo.486を参照(文書番号:14668/00).

 
 加盟国、加盟予定国、環境NGO、産業界と地方・地域行政組織との(5つの)会議が組織された。
 
 コメントは環境総局のウェブサイトで作業文書の公表を通しても求められた。
 
 ベルギー、デンマーク、フランスとオランダは、書面でコメントを送った。ポーランドも書面でコメントを提出した。環境NGO4団体(バードライフ・インターナショナル、世界自然保護基金欧州政策事務所(WWF EPO)、欧州環境事務局(EEB)と欧州地球の友)は共同のコメントを送った。欧州船主協会(ECSA)、国際海運会議所(ICS)、独立タンカー・オーナー国際協会(NTERTANKO)も、共同のコメントを提出した。このほか、以下の利害関係者がコメントを送った:フランス民間企業協会・フランス大企業経営者連盟(AFEP-AGREF);アベンティス社;ドイツ工業連盟(BDI);ベルカンプ・ルーカス(教授、HUNTON&WILLIAMS法律事務所所属);欧州保険代理店連合(BIPAR)、英国核燃料公社(BNFL);英国産業連盟(CBI);欧州保険委員会(CEA);欧州公共企業センター(CEEP);欧州化学工業連盟(CEFIC);欧州セメント協会(CEMBUREAU);欧州地方自治体協議会(CEMR);欧州物流貨物組合(CLECAT);環境保全および顧客・消費者の権利団体連合(CODACONS);欧州カーボン・グラファイト協会(ECGA);欧州環境法律協会(EELA);欧州技術コンサルタント協会連合(EFCA);欧州土地所有者協会(ELO);欧州所有権連盟(EPF);欧州環境グループ−欧州経営者円卓会議(ERT);環境産業協会(ESA);電気業界組合(EURELECTRIC);欧州連合地質調査連合(EuroGeoSurveys);欧州鉱業協会(EUROMINES);欧州石油産業協会(EUROPIA);欧州銀行協会(FBE);欧州廃棄物管理・環境産業連盟(FEAD);欧州建設業連盟(FIEC);金融・リース業組合(FLA);欧州原子力産業会議(FORATOM);フレッシュフィールズ・ブルックハウス・デリンジャー法律事務所;アイルランド商業・雇用主連合(IBEC);国際動物福祉基金(IFAW);英国経営者協会(IoD);国際タンカー所有者汚染連合(ITOPF);(ドイツ)産業組合(IV);欧州リース業協会連合;フランス経団連(MEDEF);英国農業者連合(NFU);欧州産業汚染土壌ネットワーク(NICOLE);英国原子力産業放射性廃棄物管理会社(NIREX社);北欧の家族林業;国際石油・ガス生産者協会(OGP);ルイス・マルタ(弁護士);英国自動車工業会(SMMT);スエズ社;シンジェンタ・インターナショナル;英国テームズウォーター社;フィンランド産業電力会社(TVO);欧州職人中小企業連盟(UEAPME);欧州開発業者連盟(UEPC)化学産業連盟(UIC);英国環境法律協会(UKELA)(UKELAスコットランド法特別委員会から別の提出があった);欧州産業連盟(UNICE);ドイツ化学工業協会(VCI);ドイツ電気事業連合会(VDEW);ドイツ機械製造者連合会(VDMA);オーストリア経済産業連合会(WKO);ドイツ電子工業連盟(ZVEI)。
 
 利害関係者の主な意見の概要
 
 利害関係者の主な意見は、次のように要約できる60)
 
 加盟国
 
● 概して、公法の仕組みに頼ることは歓迎されが、民事責任と従来の損害を扱わなくったことについては、失望がいくつか出された。
● 定義を含め、できるだけ正確な法制度が必要なことが、強調された。
● 「汚染者負担」の原則を完全に実施する必要性と、「みなしご被害」(すなわち、汚染者が被害を修復する費用を払うことができない場合)に関連して公的当局が果たす新しい役割を慎重に考慮する重要性が、公的当局の将来の財政的負担がどうなるかとの関係で、特に強調された。
● 第三者が引き起こした環境被害で影響を受けた土地の所有者あるいは居住者の特別な立場に注目が集まった。
● 環境領域から出発した提案が、会社法や民事手続きに関連が深い問題にふれていることについて、懸念が表明された。
● 国際条約との関連を明らかにする必要性が言及され、さらに、委員会がこの問題の意見を追求する必要性を重視する観点から、民事責任の分野における国際レベルでの様々な取り組みが言及された。
● 一時的消失を含めることについて疑念が表明された。
● 今後の欧州共同体制度は、加盟国がさらに厳しい規定を採用することを妨げてはならない。
 

60) 受け取った意見の完全な原文(原則として元の言語で)は、非公開の要求が出されていないので、以下のサイトで見ることができる:
(対応するURLが見つかりません。2010年5月)

 
 加盟予定国
 
● 概して、この作業文書で述べられた提案には異議が出なかった;いくつかのコメントでは、提案はもっと包括的であるべきだとさえ述べられた。
● 公的当局の将来の財政の将来のなりゆきについて、懸念がいくつかだされた。
 
 企業団体と専門職団体
 
  産業界は、従来の被害(個人の傷害と物品の被害)が除外され、事業者に対する非政府組織(NGO)に直接行動を与えないということを歓迎したが、これまでに表明したのと同様な懸念が繰り返された。主な論点は、産業界は:
 
● 規定一般、特に定義を、明確かつ厳密なものにする必要を主張する;
● 概して、立証責任の何らかの緩和あるいは逆戻りには反対である;
● 概して、連帯責任には反対である;
● 厳しい責任は限られた数の活動のみに限ることを望んでいる(産業界の何人かの代表は過失による責任に限るべきだとと考えている);
● 許可に従った、最先端の科学知識による、開発リスクは例外として残すべきだと主張する;
● 概して、司法へのアクセスに関する限り、NGOにどんな種類の特権的資格を与えることにも反対である;
● 環境被害の評価が難しいことに懸念をもっている;
● 財政的な保障が強制ではないことを歓迎するが、事業者が適切な保険適用を見つけるのが難しいのではないかと心配している;
● 関連する分野における既存の国際条約(たとえば、油汚染や放射能の被害)を考慮するように委員会に求めている;
● 経済的評価技術の使用について心配している;
● 産業界はこの作業文書の、「会社秘密に穴をあける」ことについての新しい提案について心配している。
 
 環境の非政府組織(環境NGO)
 
● 法案をすぐに発表するという委員会の意向は歓迎するが、この提案のめざす水準が十分ではないということを心配している。さらに詳しく述べると、環境NGOからのコメントはつぎのような傾向にある:
● 一般に、彼らは、遺伝子組換え生物(GMOs)分野における新しい開発、包括的環境配慮製品に関する政策(IPP)、危険な化学製品の分野の欧州共同体政策の再検討、およびエリカ・タンカー石油流出事故を追究する必要性を考慮するために、作業文書で提示されている規制緩和的な取り組みを広範囲に再検討することを主張している。
● 彼らは、厳しい責任の範囲が限定されすぎている(潜在的に危険なすべての活動、最低限でも、彼らがコメントで列挙した活動を対象としなければならない)と考えている。
● 彼らは保護地区外での生物多様性被害と、欧州共同体と加盟国が加わっている国際条約による保護地域への被害を対象にすべきであると主張している。環境責任は、国内法令で保護される種と、国と国より下のレベルで保護されているあらゆるタイプの地区に適用されるべきである。この責任は野生鳥類指令で保護されるすべての鳥種に適用されるべきである。
● 彼らは、厳格な責任と過失の責任の区別があっても、過失責任は、危険とは分類されないような活動によって生じた水の汚染(たとえば、下水汚泥や工場廃水による水質汚染の場合)にまで拡大しなければならないと考えている。
● 彼らは、環境に対して有害であり、人間の健康にも有害かもしれない土壌汚染を対象としなければならないと主張する。
● 彼らは、従来の被害を対象としなければならないと考えている。
● 彼らは、今後、この制度が些細な被害から衝撃的な被害までの様々な事例に適用できるようにするため、被害の最低水準を大きく引き下げることを要求している。
● 彼らは、委員会が過去の被害について、とくに土壌汚染の事例を探しだすことを求めている。
● 彼らは、「公的当局による命令の遵守」によって、許可あるいは認可された事業が商業的に成長した遺伝子組換え作物を含む責任を免除されないように求めている。
● 彼らは、責任の分担割合が明らかでない事例では、連帯責任を歓迎する。
● 彼らは、財政保証を条件として、管理法人および管理者の責任を歓迎する。
● 彼らは、市民と関係グループは、法的資格を持ち、少なくともある事例では事業者に対抗する直接行動をとれるべきであると考えている;とくにさしせまった被害が生ずる可能性がある場合、汚染者に対する訴訟を起こす市民に対して、適切な財政援助(すなわち、法廷費用と被害請求の軽減)が必要である。
● 彼らは、財政的保証が欧州共同体レベルで義務化されなければならないことを求めている。
● 彼らは、一般に、被害に対する回復条件を歓迎する。
● 彼らは、立証の負担が軽減されなければならないと考える。
 あるNGOは、同等の回復が不可能な場合に使用される貨幣評価法には、定められた優先的手法を入れることも求めている;また、遡及的な制度も主張する。
 
 地方と地域の行政機関
 
● 特にどの汚染者も責任を負わない場合、立案された制度は公的当局に制度の実施の義務を要求するという規定について、懸念が表明された。
● また、公的当局の行動に対して資格のある関係者が異議を唱えることができることについて懸念が表明された。
 
  利害関係者によるコメントに基づいて、作業文書で述べられた提案を再調査した。
 
  以下の論点で、その事項を修正した(提案の条項の順に):
● 「職業的・商業的活動」は、「業務活動」に置き換え、意図した適用範囲をより明確にした。
  この変更は、「職業的・商業的活動」は、ある業務活動の過程で行われる非営利活動と、公共企業や公共団体によって行われる業務活動は対象にならないと理解されるかもしれないが、意図しているのは、このような非営利活動を対象とすることであるというコメントに由来する。
● 国際条約との関係を明確にした。
  この変更は、国際レベルと欧州共同体レベルとの関係を明確にすべきであるという要求に由来している。指令が侵害せずに適用すべき国際条約を列記した。
● 公的当局による命令が例外として扱われる範囲を、さらに明確化した。
  この変更は、「公的当局による命令の遵守」あるいは、「義務的措置の遵守」では、許認可を受けた活動は責任を免除されると解釈されるかもしれないが、規制遵守を例外とすることを意図してはいないというコメントに由来する。
● 入手可能な証拠に基づいて責任を配分することができない場合には、連帯責任を選択するか、公平で公正な責任配分を選択するかを、加盟国にまかせることにした。
  この変更は、連帯責任が、公法の関しては加盟国における標準的ルールに必ずしもなっていないというコメントに由来する。
● 非常に多数の被害が同時に発生するような状況においては、加盟国が被害に優先順位をつけることを可能にした(しかし、この弾力性は、ある被害を修復しないままにしておくことを認めるものではない)。
  この変更は、例外的な状況が起きるかもしれないことを考慮すべきだというコメントに由来する。
● 有効期限の条項が、見直された。
  この変更は、有効期間は公法の関連では民事責任法令とは異なった役割を演じるというコメントに由来する。所管官庁が回復措置を取り、あるいは命令するために、有効期限はないことを今回、加えた;逆に、有効期限が、費用の回収を進めるために所管官庁に与えられた期間に適用される。
● 今後の制度の実施における公的当局の任務と権限を明らかにした。
  この変更は、所管官庁が措置のための要求によってさらに行動しなければならないような状況と条件を明示すべきであるというコメントに由来する。
● NGOの役割と司法審査の手続きの条項が、より運用しやすくするように見直された。
  この変更は、どの回復措置が4ヵ月以内に行うべきかについて最終決定をすることが実際には常に可能でないというコメントに由来している。所管官庁は、この提案の目的の完全な達成に矛盾のない正当な期間内で、行動すべきことを、今回、明確にした。さらに、行動に対する要求を申し立てた人や資格がある関係団体に4ヵ月以内に通知する義務がある。
● もっと厳しい規定を採用できる、加盟国の権利を明記した。
  この権利は条約の第176条から直接に出ているが、さらに、この事情を知らない利害関係者から質問が提出されたので、法的な明解性のためにこの提案の中で繰り返す。
● この制度の一時的な適用に関する条項が見直された。
  この変更は、立証責任の完全な逆転によって不公平な状況が生じるかもしれないというコメントに由来する。提示された証拠に対する事業者からの反証を要求する前に、所管官庁はまず最初に、納得のいく証拠を提示しなければならないことを、今回、明確にした。
 
 これらの明確な変更に加えて、全般的な正確さと明快さが必要であること、「汚染者負担」の原則を完全に実施すること、保険適用の問題など、関心を引いた様々な問題にとくに注意した。
 
 作業文書と比較すると、述べられていたいくつかの提案は、削除されている。これは、一定の実際上の人と法定上の人への責任を拡大する(「会社の秘密のベールに穴をあける」)ことを目的とした条項と、汚染者による資金の浪費を避けることを目的にした簡易裁判手続きに関する条項についてのケースである。
 
 この変更は、これらの条項が加盟国が補助的な行動をとることを要求される限りは、絶対に欠かせないものではなく、また、これらの一部については、欧州共同体の法令と国内法令のどちらにも先例がないため、民事手続きに関する国内法令への干渉であるとする大きな反対が起きたことを配慮したことに由来する。表明された懸念の一部には根拠がないということにもふれておく必要がある。複数のNGOは、提案された制度は「未分類の化学製品」には適用されていないが、この提案では化学製品が欧州共同体のレベルで分類されている必要はないと指摘した;関連する共同体法令61)では、共同体レベルの分類が未決定の間62)は、化学製品メーカーが自発的に、化学物質の有害な性質を暫定的に評価し、それに応じて分類、表示、包装を行う必要がある。彼らは、国内法令で指定されたサイトばかりでなく、国以下(地域や地方)の規則で指定されたサイトも対象とすべきであると指摘した。これについては常にそのように意図してきた。
 
 法的根拠に関しては、司法審査の条項は、追究される環境目標の単なる付属物であり、また、システムが適切に機能するためのものであるので、この提案に司法審査に関する条項が含まれることが法的根拠の選択に影響を及ぼすことはない。司法審査の条項は、国境を越えた国内問題における司法の協力のみに関係する欧州共同体条約の第65条で示された行動領域のいずれにも当てはまらないことにも注意すべきである。
 

61) 1992年4月30日の理事会指令92/32/EECによって改訂された、有害物質の分類、包装及び表示に関する加盟国の法律、規則ならびに管理規定の接近に関する1967年6月27日の理事会指令67/548/EECの第6条。
62) それは、関連する化学物質が、理事会指令67/548/EEC改訂版の付属書の中に取り入れられる時期までである。

 
2002/0021(COD)
欧州議会と理事会の指令のための提案
 
環境被害の防止と修復に関する環境責任
 
[欧州経済領域関連についての原文]
 
欧州議会と欧州連合理事会は、
 
欧州共同体条約、特に第175条(1)を考慮して、
委員会からの提案を考慮して、
経済・社会委員会の意見を考慮して、
地域委員会の意見を考慮して、
この条約の第251条で規定した手続きに従って、行動して、
 
以下の理由からこの指令を採択した:
 
(1) 現在、欧州共同体には、深刻な健康リスクをもたらしている汚染サイトが数多くあり、また生物多様性の消失はこの数十年の間に急激に速まっている。行動をおこたることは、将来において、汚染サイトの増加と生物多様性のさらなる消失に結びつくであろう。可能な限り、環境被害を防止し、修復することは、条約の第174条に述べられているように、欧州共同体の環境政策の目的と原則を実施することに貢献する。
 
(2) 環境被害を防止、修復することは、条約の第174条(2)に示されるように、汚染者負担の原則を促進することを通して実施されなければならない。このため、この指令の基本原則の一つは、環境被害やこのような被害のさしせまった危険を引き起こした事業者に、財政的責任を負わせることであり、そのことによって、財政的責任を問われることが少なくなるように事業者が環境被害のリスクを最小化にするような措置を採用したり、活動を改善したりするように誘導することである。
 
(3) 提案された行動の目的、すなわち、社会に低コストで環境被害を防止、回復するための共通の枠組みを設けることは、提案された行動の規模、および他の欧州共同体法令(野生鳥類の保護に関する1979年4月2 日の理事会指令79/409/EEC、自然の生息地と野生動植物相の保全に関する1992年5月21日の理事会指令92/43/EEC、水政策分野における欧州共同体行動のための枠組みを確立する2000年10月23日の欧州議会と理事会の指令2000/60/EC)との関係から、各加盟国によって十分に達成することができず、共同体レベルで、より適切に達成できる。したがって、条約の第5条で述べられている補完の原則に従って、対策を取ることができる。この条項で述べられている均衡の原則に従って、この指令は、それらの目標の達成に必要な範囲を超えることはない。
 
(4) この指令によって規定された制度の正しい解釈と適用を助けるような概念を定義しなければならない。対象とする概念が他の関連する欧州共同体法令に由来するときには、共通の基準が使用され、また一様な適用が促進されるように、同一の定義を使用しなければならない。
 
(5) 生物多様性も、自然環境保護に関する国内法令に従って選定された保護地区や保全地域に関連づけて定義されなければならない。ただし、欧州共同体指令や同様の国内規定が、環境に与える保護レベルからのある程度の悪化を認める特別な状況を考慮に入れなければならない。
 
(6) この指令は、環境被害に関する限り、人の健康と環境に対するリスクがある業務活動に対して、適用しなけれなければならない。これらの活動は、原則として、人や環境に対して潜在的あるいは実際のリスクをもたらすと考えられる活動や業務に関して、規制要件を規定する欧州共同体関係法令と関連づけて特定しなければならない。
 
(7) この指令は、欧州共同体法令によって、生物多様性被害に関して、人や環境に対する実際の、あるいは潜在的なリスクがあると、すでに直接あるいは間接的に確認されたもの以外のすべての業務活動にも適用されなければならない。
 
(8) 欧州原子力共同体条約および関連する国際条約、ならびにこの指令の範囲に該当するすべての事業を、さらに包括的に厳しく規制する欧州共同体法令を明確に考慮しなければならない。この指令は、所管官庁の権限を明記する場合に、法令上の矛盾点についての追加的規則を規定していないため、とくに、民事と商事の問題に関する裁判の管轄および施行に関する2000年12月22日の理事会規則(EC)No 44/2001で規定された国際的司法権に関するルールを侵害しない。この指令は、国防のために行われる活動には適用しない。
 
(9) あらゆる形態の環境被害が責任メカニズムによって修復できるわけではない。責任制度が有効であるためには、特定できる行為者(汚染者)が一人以上存在し、被害が具体的で定量でき、被害と特定された汚染者との間に因果関係が確立している必要がある。したがって、広範囲で、拡散した特性をもつ汚染を扱う場合には、各行為者の活動が環境に悪影響を及ぼしていることを関連づけることができないため、責任は適切な手段ではない。
 
(10) 環境被害の防止と修復は、欧州共同体環境政策の遂行に直接に貢献する仕事であるので、公的当局には、この指令によって規定される制度を適切に実施・施行する特別な義務が委託されなければならない。
 
(11) このシステムが効率的に実施されるように、所管官庁は、責任を負う事業者が環境被害を防いだり、そのような被害を修復したりするために必要な措置を取らない、あるいは取れない場合には、所管官庁がみずから行動しなければならない。
 
(12) 環境の回復は、関係する回復目標が確実に達成されるような効果的な方法で行われなければならない。そのために、所管官庁が監督しなければならない適正な適用のための適切な指針を定義しなければならない。
 
(13) 複数の環境被害が発生して、所管官庁が必要な回復対策のすべてを同時に取ることができないような状況に対する適切な規定を作成しなければならない。このような場合、所管官庁には環境被害のどの事例を最初に修復すべきかの決定権を与えなければならない。
 
(14) 「汚染者負担」の原則によって、環境被害を引き起こしたり、あるいは、さしせまった危険を生じさせたりした事業者は、原則として、必要な防止・回復措置の費用を負担しなければならない。所管官庁が事業者に代わってみずから、あるいは、第三者を通して行動しなければならない場合には、その公共機関はそれに要した費用を事業者から回収しなければならない。事業者が、環境被害を評価する費用と、場合によっては、このような被害が起きるさしせまった危険を評価する費用を、最終的に負担することも妥当である。
 
(15) 加盟国は、汚染者負担の原則を実施できない場合に、必要な防止・回復措置が確実に行われれるようにしなければならない。このような場合は、加盟国は、必要な防止・回復措置に資金を効果的に調達できるものであれば、各国の法制度に従って、適当と考えられるどんな規定でも採用しなければならない。
 
(16) 生物多様性被害が、この指令で人や環境への現実的あるいは、潜在的リスクがあると確認された以外の業務活動の間に、ある事業者によって発生した場合、その事業者に過失があったり、不注意であったりしたことが立証されなければ、この指令に従って実施された防止・回復措置の費用負担を事業者に義務づけるべきではない。
 
(17) 対象となる被害やそのさしせまった危険が、事業者の管理を越えた事件や明確に認められた排出や行為の結果である場合、行為や排出が行われたときには被害の可能性が知られていなかった場合、あるいは、人が破産管理人として活動し、過失や不注意がない場合、さらに、事業者が規定要件を本当に遵守して、彼らの活動を行っただけの場合には、適切な配慮をしなければならない。このような場合には、事業者は防止・回復の措置の費用を負担すべきではないが、加盟国はそれにもかかわらず、行動をとる義務があると認められる状況があるだろう。
 
(18) これらの措置が、彼らの活動を規制している法律、規則、管理規定を遵守するための当然の行為として実行するべきものであった場合、事業者は防止措置に関わる費用を負担しなければならない。
 
(19) 複数の事業者が被害の原因となった場合を考慮して、加盟国が連帯責任、あるいは公平で合理的な財政責任にもとづく責任配分のどちかを規定できるようにするなどの、適切な条項を作らなければならない。
 
(20) 所管官庁はそれらの対策が達成された日から適当な期間、防止・回復対策の費用を事業者から回収する権限が与えられなければならない。
 
(21) 実施と施行の効果的手段が利用できるようにすると同時に、関連する事業者と他の利害関係者の正当な利益が十分に保護されることを確保する必要がある。所管官庁は、適切な調査を行い、専門的な知識と適切な行政上の裁量、すなわち被害の重要性を評価し、どの修復措置を実施するかを決定する特別な任務を担当しなければならない。
 
(22) 環境被害によって悪影響を受けていたり、あるいは、悪影響を受けそうな人々には、所管官庁に行動を取ることを要求する権利を与えなければならない。けれども環境保護は利益が拡散するために、個人が必ずしも行動したり、あるいは行動する立場にいたりしない。彼らがこの指令の効果的実施に貢献することができるように、資格がある関係者に特別な立場が与えられなければならない。
 
(23) 行動の要求を容易にするために、適切な手続き定められなければならない、また、適切な期間または時間内で決定ができないときには、所管官庁はそのことを利害関係者に知らせる義務がある。
 
(24) 関係する人々と資格のある関係者は、所管官庁の決定、活動および無活動の再検査の手続きを行う権利をもたなければならない。
 
(25) 環境被害が複数の加盟国に影響を及ぼしている場合、あるいは影響を及ぼしそうな場合は、これらの加盟国は、どのような環境被害についても適正で効果的な防止の、場合によっては回復の行動を確実に実施する観点で協力しなければならない。
 
(26) 加盟国は、この指令における財政的負担に対する効果的な保証が提供できるように、事業者が何らかの適切な保険または他の形態の金融保証を利用することを奨励しなければならない。
 
(27) この指令は、加盟国が環境被害の防止・回復に関わるさらに厳しい規定を維持し、あるいは制定することを妨げてはならない。この指令による所管官庁の行動と、被害で資産が影響を受けた人の行動が、同時に行われることによって二重の回復が生じるかもしれない状態について、適切な措置を加盟国が採用することを妨げてはならない。
 
(28) この指令の実施期限までに生じた被害には、その条項を適用するべきではない、また被害の原因がこの日付以後に生じたかどうかが明らかでない場合に対して適切な条項を作成しなければならない。
 
(29) 加盟国は、委員会が持続可能な開発に関する影響を考慮して、この指令のなんらかの再調査をすることが適切かどうかを検討できるように、この指令の適用によって得られた結果を委員会に報告しなければならない。
 
第1条
趣旨
この指令の目的は、環境責任に基づき、環境被害の防止と回復のための枠組みを制定することである。
 
第2条
定義
1.この指令の目的のために、次のような定義を用いる:
 
  (1) 「ベースラインの状態」とは、被害が生じなかったときに存在していたと考えられる天然資源とサービスであり、歴史的データ、関連データ、対照データ、あるいは、増加し続けるデータ(たとえば、死亡した動物の数)のいずれか、あるいは組合せのうち、適切なものに基づいて、推定されたものを意味する;
 
  (2) 「生物多様性」とは、指令79/409/EECが付属書で、または、指令92/43/EECの付属書、IIとIVに記載された自然生息地と種、あるいは、これらの指令では対象とされないが、保護や保全地区が自然保全に関する関係国内法令に従って指定された生息地と種を意味する;
 
  (3) 「保全状態」とは、次のことを意味する;
 
     (a) 自然の生息地に関しては、自然の生息地とその表徴種が受けている影響の総計であり、その表徴種の長期的な存続だけではなく、生息地の長期的な自然分布、構造と機能に影響しうる、表徴種の存続は、場合に応じて、条約が適用される加盟国の欧州領域、ある加盟国の領域、あるいはその生息地の自然の分布域で判断される;
 
     (b) 種に関しては、対照種が受けている影響の総計であり、場合によって、条約が適用される加盟国の欧州領域、ある加盟国の領域、あるいは、その種の自然の分布域における、個体群の長期的な分布と数に影響を及ぼしうる;
 
  (4) 「費用」とは、この指令の適正かつ効果的な実施を確実に行う必要性に見合った費用を意味し、行政・法律・施行上の費用、データ収集費、他の通常経費、監視・監督経費を含む;
 
  (5) 「被害」とは、直接・間接的に発生し、また、この指令が対象とする活動のいずれかによって生じる、天然資源の計測可能な悪化および/または天然資源のサービスの計測可能な損傷を意味する;
 
  (6) 「さしせまった危険」とは、近い将来に環境被害が起こるだろうという十分な見込みを意味する;
 
  (7) 「破産管理人」とは、債務超過、清算、解散、あるいは同様な手続きのために、関連する国内法令に従って指名される人を意味する;
 
  (8) 「天然資源」とは、生物多様性、水、下層土を含む土壌を意味する;
 
  (9) 「事業者」とは、このような活動の許可や認可を受けた者および/またはこのような活動を登録あるいは通知した人を含む、この指令で対象とする活動の事業を管理するすべての人を意味する;
 
  (10) 「人」とは、個人あるいは法人を意味する;
 
  (11) 「土地汚染」あるいは「表層土と下層土の汚染」とは、人間の活動の結果として、人間の健康や天然資源に有害な、物質、化学薬品、動植物や微生物が、表層土や下層土の中に直接的、間接的に導入されることを意味する;
 
  (12) 「防止措置」とは、その被害を防止あるいは最小化する目的で、環境被害のさしせまった危険を生じさせた事件、行為または不作為に対してとるすべての措置を意味する;
 
  (13) 「業務上の活動」には、非営利的活動と公共のサービスの提供を含む;
 
  (14) 「資格のある関係者」とは、国内法令で定められた基準に基づき、環境被害の確実な修復に関心をもっているすべての人を意味し、設立の定款で示すような目的が環境を保護することであり、また国内法令によって指定される要求をすべて満たす関係団体と組織を含む;
 
  (15) 「復元」とは、損害を受けた天然資源やサービスが、ベースラインの状態まで戻ることを意味する;
 
  (16) 「回復」とは、損害を受けた天然資源や損なわれたサービスを回復させ、復帰させ、または取り替えるための、あるいは、それらの資源やサービスと同等の代替物を与えるための、すべての活動、あるいは活動の組合せを意味し、次のことを含む;
 
     (a) 基本的回復、すなわち、自然な復元を含め、損害を受けた天然資源や損なわれたサービスをベースラインの状態まで戻すすべての行動;
 
     (b) 代償的回復、すなわち、関連する天然資源やサービスが損害を受けた場所とは別の場所において、天然資源やサービスに関して行われる、すべての回復的活動、および被害の発生の時点から、被害を受けた天然資源や損なわれたサービスがベースラインの状態に戻るまでの、天然資源やサービスの一時的な低下を代償するためにとるすべての行動;
 
  (17) 「サービス」(あるいは、「天然資源のサービス)とは、ほかの天然資源や公共の利益になる、天然資源が行う働きを意味する;
 
  (18) 「環境被害」とは、次の被害を意味する:
 
     (a) 生物多様性への被害、すなわち生物多様性の保全状態に対する重大な悪影響をもつ被害;
 
     (b) 水の被害、すなわち水の生態学的状態、生態学的な潜在力および/または化学的状態に悪影響を及ぼす被害であり、指令2000/60/ECの第4(7)が適用される場合を除いた、指令2000/60/ECで定義したカテゴリーの1つによってその状態が悪化する、あるいはしそうなことが懸念されるもの;
 
     (c) 土地への被害、すなわち表層土と下層土の汚染によって公衆衛生に重大な害をもたらす、またはもたらしそうな被害;
 
  (19) 「価値」とは、個人が特定の物やサービスを得るために支払おうとする物、サービスや金銭の最大値、あるいは、個人が特定の物やサービスを受けないことを進んで認めるような物、サービスや金銭の最小値を意味する。ある生息地や種の価値には、天然資源の直接的利用、たとえば、水泳、ボート漕ぎ、あるいは野鳥観察などから、個人によって引き出される価値と、直接的利用に無関係に個人が生息地と種について考える価値が含まれる。個人への金銭収入の損失は除く;
 
  (20) 「水」とは、指令2000/60/ECで対象としているすべての水を意味する;
 
  (21) 「排出」とは、物質、化学薬品、動植物あるいは微生物の環境への放出を意味する。
 
2. 生物多様性被害は、第1節(18)(a)の意味の範囲では、指令92/43/EECの第6条(3)と(4)項の実施規定、あるいは自然保護に関する国内法令で保護されているが、指令79/409/EECや92/43/EECの対象となっていない生息地と種について同等の効果をもつ国内法令がある場合には、必要な代償的措置など、少なくともそれらの国内規定が同等の保証をしているかぎり、他の規定に従って、所管官庁によって明確に許可された事業者の活動によって生じた悪影響を含まない。
 
   指令79/409/EECの第9条あるいは指令92/43/EECの第16条の実施規定に従って、所管官庁が明確に許可した事業者による活動によって生じた悪影響は生物多様性被害には含めない。
 
第3条
適用範囲
1. この指令は、付属書に記載された業務上の活動のいずれかの実施によって生じた環境被害、およびこれらの活動のいずれかが原因となって生じた環境被害のさしせまった危険に適用される。
 
2. この指令は、付属書に記載されたほかのすべての業務上の活動の実施によって生じた生物多様性被害、およびこれらの活動のいずれかが原因となって生じた被害のさしせまった危険に適用される。
 
3. この指令は、その責任や補償が下記の協定のいずれかで規制されているような事件によって生じた環境被害やそのような被害のさしせまった危険には適用されない:
 
   (a) 油汚染被害についての民事責任に関する1992年11月27日の国際条約;
 
   (b) 油汚染被害の補償のための国際基金の設立に関する1992年11月27日の国際条約;
 
   (c) 燃料油汚染被害の民事責任に関する2001年3月23日の国際条約;
 
   (d) 危険・有害物質の海上輸送にともなう被害についての責任と補償に関する1996年5月3日の国際条約;
 
   (e) 危険な物品の道路、鉄道、国内航行による輸送中に生じた被害についての民事責任に関する1989年10月10日の条約。
 
4. この指令は、欧州原子力共同体条約で扱われる活動の実施によって、あるいはその責任や補償が以下の協定のいずれかによって規制されている事故や活動によって、生じるかもしれない、核の危険、環境被害、あるいはこのような被害のさしせまった危険には適用されない。
 
   (a) 原子力エネルギー分野における第三者責任に関する1960年7月29日のパリ条約と1963年1月31日のブリュッセル追加条約;
 
   (b) 核被害に対する民事責任に関する1963年5月21日のウィーン条約と核被害に対する追加補償に関する1997年9月12日のウィーン条約;
 
   (c) ウィーン条約とパリ条約の適用に関する1988年9月21日の共同議定書;
 
   (d) 核物質の海上輸送分野における民事責任に関する1971年12月17日のブリュッセル条約。
 
5. この指令は、指令の範囲に該当する活動の事業を規制している欧州共同体法令のより厳しい規定を侵害することなく、また、司法権の衝突に関する規則を含む欧州共同体法令を侵害することなく、適用しなければならない。
 
6. この指令は、被害と個々の事業者の被害と活動との間の因果関係を立証することが不可能な、広範囲にわたる、拡散的な性質の汚染によって生じる環境被害や被害のさしせまった危険には適用されない。
 
7. この指令は国防のみを目的とする活動に適用されない。
 
8. 第11条(3)に関わる場合を除いて、この指令は、環境被害や被害のさしせまった危険によって受けた経済損失に対する賠償の権利を民間関係者に与えない。
 
第4条
防止
1. 環境被害はまだ生じていないが、被害が生じるさしせまった危険がある場合、所管官庁は、必要な防止措置を取ることを事業者に命じるか、あるいは、所管官庁みずから、その措置を取らなければならない。
 
2. 第1項によって所管官庁が要求するかもしれないさらに進んだ行動を侵害しなければ、加盟国は、事業者がさしせまった危険を知っていたり、あるいはこのような危険を知っているはずである場合、それらの事業者は、所管官庁がそうすることを要求するのを待つことなく、環境被害の発生を防ぐために必要な措置を取らなければならないことを規定しなければならない。
 
3. 加盟国は、必要に応じて、あるいは環境被害のさしせまった危険が関係する事業者が行う防止措置にもかかわらず除去できない場合は必ず、事業者が所管官庁にその状況を知らせることを規定しなければならない。
 
4. 事業者が第1、2項に述べられた義務を遵守できないときは、所管官庁が必要な防止措置をとらなければならない。
 
第5条
回復
1. 環境被害が生じた場合、所管官庁は、必要な回復措置をとることを事業者に命令するか、所管官庁がみずからその措置をとらなければならない。
 
2. 事業者が第1項によって出された命令を実行できない場合には、所管官庁は必要な回復措置をとらなければならない。
 
3. 必要な回復措置は、付属書IIに従って決定しなければならない。
 
4. 複数の環境被害が発生して、所管官庁が必要な回復措置を同時にとることが確実にできない場合、所管官庁は環境被害のどの事例を最初に修復すべきか決定する権利を与えらる。
 
   その決定においては、所管官庁は関係する環境被害のいろいろな事例の特性、程度、および重大性、ならびに自然な復元の可能性をとくに考慮しなければならない。
 
第6条
防止と回復に関係する追加的な規定
1. 第9条(1)が適用される場合を除いて、以下の場合に、加盟国は必要な防止や回復の措置が確実に行われるようにしなければならない:
 
   (a) 被害または被害のさしせまった危険を生じさせた事業者を特定することができない場合;
 
   (b) 事業者を特定することができるが、必要な防止や回復の措置のいずれかを行うための財政的手段が不十分な場合;
 
   (c) 事業者を特定することができるが、必要な防止や回復の措置のすべてを行うための財政的手段が不十分な場合; あるいは、
 
   (d) 事業者がこの指令のもとで、必要な防止や回復の措置の費用を負担することが要求されない場合。
 
2. 第1項の(a)、(b)、および(c)に従って行う措置は、この指令のもとでの関係する事業者の責任を侵害してはならない。また、欧州共同体条約の第87条および88条を侵害してはならない。
 
第7条
費用の回収
1. 第8、9、10条が適用される場合を除いて、所管官庁は、被害または被害のさしせまった危険を生じさせた事業者から、この指令による防止または回復の措置に要した費用を回収しなければならない。
 
2. 所管官庁は、被害または被害のさしせまった危険を生じさせた事業者から、環境被害を評価する費用および、場合に応じて、このような被害のさしせまった危険の評価の費用を回収しなければならない。
 
第8条
特定の生物多様性被害に関する費用配分
   第10条が適用される場合を除いて、第3条(2)に関する事例において、被害または被害のさしせまった危険を生じさせた事業者に過失があったこと、あるいは不注意であったことが立証されなければ、事業者は、この指令に従って行われた防止や回復措置の費用を負担することを要求されない。
 
第9条
例外
1. 第10条が適用される場合を除いて、この指令は、下記のことによって生じた環境被害、または被害のさしせまった危険には適用されない:
 
   (a) 武力紛争、戦争行為、内乱および暴動の行為;
 
   (b) 例外的な、回避不能な、かつ抵抗しえない性質の自然現象;
 
   (c) 適用可能な法規において、あるいは、その事業者に与えられた許可や認可において認められた排出や事件;
 
   (d) その排出や活動が行われた時点の科学技術の知識に従って、有害であると考えられなかった排出や活動。
 
2. 第1節の(c)および(d)は、事業者が不注意であった場合には適用されない。
 
3. 第10条が適用される場合を除いて、環境被害または被害のさしせまった危険の発生が下記のことの結果である場合、事業者はこの指令に従って行われる防止や回復措置の費用を負担することを要求されない:
 
   (a) 被害を発生させることを意図した第三者によって行われた行動があり、適切な安全措置が取られたにもかかわらず被害またはさしせまった危険が生じた場合。
 
   (b) 強制的な命令、指示や他の法的義務、あるいは、公的当局から出された強制的な措置の遵守。
 
4. 事業者が破産管理人としての資格の範囲で行動している場合、その人が債務超過、清算、解散や同様な手続きに関する関連国内規定に従って行動し、さらに過失や不注意がないかぎり、この指令のもとで防止や回復に関する費用を負担することを義務づけられない。
 
第10条
特定の防止措置に関連する費用配分
1. 加盟国は、すべての許可あるいは認可の条件を含め、事業者の活動を規制している法律、規則、および管理規定を遵守するための当然の行為として実行しなければならなかった防止措置に関わる費用のすべてを、事業者が常に確実に負担するようにしなけらばならない。
 
2. 第1項で言及した法律、規制、および管理規定を限定する目的では、第4条を考慮すべきではない。
 
第11条
複数の関係者に原因がある場合の費用配分
1. 第2項が適用される場合を除き、所管官庁が全く同一の被害事例が複数の事業者の行為や不作為によって生じた十分な可能性があることを立証できる場合、加盟国は関連する事業者がその被害について連帯責任を負うか、または所管官庁が公平で合理的な根拠に基づいて、各事業者が負担する費用を配分するかを規定できる。
 
2. その活動によって生じた被害の程度を立証することができる事業者は、被害のその部分に関わる費用のみを負担することを要求される。
 
3. この指令は負担権や償還請求権に関する国内法令の規定を侵害しない。
 
第12条
回収のための有効期間
   所管官庁は問題の措置が実施された日から5年間、この指令に従って実施した措置について、被害や被害のさしせまった危険を生じさせた事業者に対する費用回収の手続きを始める権利を与えられなければならない。
 
第13条
所管官庁
1. 加盟国は、この指令で規定された義務を果たす責任のある所管官庁を、一つまたは複数指定しなければならない。
 
   加盟国が、所管官庁に拘束力のある決定を出す権限や、このような決定を施行する権限を与えないと決定するなら、その加盟国は、裁判所や他の独立した公平な公共団体がこのような決定を出し、施行する権限を持つようにしなければならない。
 
2. 第1項第2文で述べられた決定が、所管官庁、裁判所、あるいは他の独立した公平な公共団体によって出されたかどうかとは関係なく、どの事業者が被害や被害のさしせまった危険を生じさせたかを立証し、被害の重要性を評価し、そして、付属書IIに従って、どの修復措置が行われなければならないかを決定する義務は、所管官庁が負わなければならない。
 
3. 加盟国は、所管官庁が、第14条に従って、申し立てられたどの優先行動の要求とも無関係に、この指令のもとでの義務を果たすために適切な調査を確実に実行できるようにしなければならない。
 
   所管官庁には、調査に必要な情報とデータの提供を関係する事業者に命令する権限が与えられなければならない。
   
   加盟国は、所管官庁がこのような情報とデータを要求するときのために詳細な取り決めをしておかなければならない。
 
4. 加盟国は、所管官庁が第三者に必要な防止や回復の措置を実行する権限を与えたり、あるいは実行を命じることができるようにしなければならない。
 
5. この指令に従って防止や回復の措置を課する決定においては、その正確な根拠を示さなければならない。このような決定は、関係する事業者にただちに通知され、同時に、関係する加盟国で有効な法律のもとで、事業者が利用可能な法的救済方法と、その救済方法が利用可能な期限が知らされなければならない。
 
第14条
行動要求
1. 所管官庁のみずからの決定によって始めた調査を侵害しなければ、環境被害によって悪影響を受け、あるいは悪影響を受けそうな人、または資格のある関係者は、彼らが認識している環境被害の発生に関わる意見を所管官庁に提出する権利が与えられ、また、この指令のもとで行動をとることを要求する権利を与えられる。
 
2. 所管官庁は、行動要求とともに、対象とする環境被害について提示された意見の根拠となるすべての関連情報とデータの提出を要求する権限を与えられる。
 
3. 行動要求とそれにともなう意見が、環境被害の発生が現実に存在することを、十分に妥当と考えられる方法で示していた場合には、所管官庁はその意見と行動要求を十分に考慮しなければならない。
 
4. 所管官庁は、関係する事業者に、行動要求とそれにともなう意見について、彼らの知見を述べる機会を与えなければならない。
 
5. 所管官庁は、できるだけ早く、あるいは問題となった環境被害の特性、程度と重大性に応じた正当な期間内で、関係する人や資格のある関係者に、行動要求に同意するか、拒否するかの決定を知らせ、そして、その決定の理由を示さなければならない。
 
6. しかるべき努力にもかかわらず、所管官庁が第5節で述べた期間内に、行動要求について決定できない場合、その所管官庁は、行動を求められてから遅くとも4ヵ月以内に、その目的の適切な達成に支障のない期間内に、この指令を確実に適用するためにすでに行った、あるいは行おうとしている手段と措置を、関係する人や資格のある関係者に知らせなければならない。
 
第15条
再検討の手続き
1. この指令における行動要求を申し立てた人や、資格のある関係者は、所管官庁の決定、行為または不行為に関しての手続き上あるいは内容上の合法性を再検討する権限のある裁判所や他の独立した公平な公共団体に働きかけることができる。
 
2. この指令は、司法手続を始める前に行政上の再検討の手続きをすべてつくすことを要求する国内法令の規定を侵害しない。
 
第16条
財政保証
   加盟国は、事業者が適切なすべての保険や他の形態の財政保証を利用することを促進しなければならない。加盟国は、金融サービス業を含む適切な経済的、財政的事業者による適切な保険や他の財政保証の手段と市場の開発を促進しなければならない。
 
第17条
加盟国間の協力
   環境被害が複数の加盟国に影響を及ぼしている場合、あるいは影響を及ぼしそうな場合には、それらの加盟国は、適切で効果的な防止行動を確実に実施するために協力し、また必要に応じて、そのような環境被害の回復行動を実施しなければならない。
 
第18条
国内法令との関係
1. この指令は、この指令の防止と修復の要求に従うべき追加的な行為の取扱い、追加的な責任当事者の取扱い、あるいは当事者間の財政的責任の配分を含む、環境被害の防止、修復に関するさらに厳しい規定を、加盟国が維持あるいは採用することを防げない。
 
2. この指令は、この指令に従う所管官庁、あるいはその資産が被害による影響を受けた人による同時行動の結果、二重回復が起こりうるような状況に関して、二重回復を禁止するなどの適切な措置を加盟国が採用することを妨げない。
 
第19条
適用期間
1. この指令は、第21条(1)で述べられる日付より前に行われた活動によって生じた被害には適用されない。とくに、この指令は、第21条(1)で述べられる日付より前に許可された処理施設で合法的に処分された廃棄物、あるいは、第21条(1)で述べられる日付より前に環境中に放出された物質によって生じた被害には適用されない。
 
2. 所管官庁が、第21条(1)で述べられる日付より後に行われた活動によって環境被害が生じたことを十分な妥当性と確実性で立証することができる場合には、事業者が問題の被害を生じさせた活動がその日付より前に行われたことを立証できない限り、この指令が適用される。
 
3. 第21条(1)で述べる日付より前の活動によって生じた環境被害を特定する申告を、この日付の1年以内に、所管官庁に提出した事業者には第2項は適用されない。
 
   加盟国は、事業者によって提出された申告がその質と正確さにおいて信頼できることを確保するために必要な措置をとらなければならない。
 
第20条
報告
   加盟国は、遅くとも第22条(1)で述べられる日付から5年目までに、この指令の適用によって得られた経験を委員会に報告しなければならない。国別の報告には付属書IIIで示した情報とデータを含めなければならない。
 
   これに基づいて、委員会は報告書と適切と考えられる提案とを欧州議会と理事会に提出しなければならない。
 
第21条
実施
1. 加盟国は、遅くとも2005年6月30日までに、この指令を実施するために必要な法律、規則、および管理規定を施行しなければならない。加盟国は、施行後ただちに委員会に知らせなければならない。
 
   加盟国がそれらの規定を採用するときは、この指令への参照指示を含むか、またはそれらを公式の刊行物とする際には、同様な参照指示を添付しなければならない。加盟国は、この参照指示をどのように行うかを決めなければならない。
 
2. 加盟国は、この指令が管理する分野における国内法のおもな規定の原文、およびこの指令と採択された国内の規定の原文との間の対応表を委員会に送らなければならない。
 
第22条
効力の発生
   この指令は、EC官報(Official Journal of the European Communities)での公表から20日後に発効する。
 
第23条
受取人
   この指令は、欧州共同体加盟国に向けたものである。
   ブリュッセルにおいて、
   
   欧州理事会を代表して           欧州委員会を代表して
   理事長                     委員長
 
 
 

本の紹介 77:エコ・エコノミー、レスター・ブラウン著
福岡克也監訳、北濃秋子訳、
家の光協会(2002)
ISBN4-259-54620-1

 
 
 本書を紹介する前に、レスター・ブラウンについておさらいしておく。
 
 かつて、ワシントン・ポスト紙は氏を「世界で最も影響力のある思想家」と評したことがある。また、ここでこの本を紹介している筆者は、かつて氏と講演を共にする機会があったが、そのときの氏の出で立ちが忘れられない。壇上での氏は、蝶ネクタイとズック姿であった。新しいタイプの思想家であり実践家であろう。
 
 氏は、アメリカのラトガーズ大学農学部を卒業した後、米国農務省の海外農業局所属の国際農業アナリストになった。この間、メリーランド大学で農業経済理学修士、ハーバード大学で行政学修士を取得している。1964年、農務長官の対外農業政策顧問に、66年に農務省の国際農業開発局の局長に就任した。69年に公務から離れ海外開発会議を設立している。氏はこの間、発展途上国の人口増加に対応できる食糧増産計画の課題に深く関わった。
 
 1974年に地球環境問題の分析を専門とする民間研究機関として、ワールドウォッチウオッチ研究所が設立された。氏の独自性が発揮されるようになるのは、この研究所で84年から発刊され始めた「地球白書」の執筆からであろう。地球の診断書とも言うべき「地球白書」は約30の国語に翻訳され、世界の環境保全運動のバイブル的な存在になっている。
 
 氏の思想は、人口の安定と気候の安定の二つに集約できる。過剰の人口増加は、食糧生産の増大を要求する。食糧の増産は、土地の劣化や水不足をもたらす。工業化の成功は、耕地面積の縮小と食糧輸入国への変遷を生じ、多量の化石燃料の消費に転じる。
 
 このような考えを背景として書かれた「だれが中国を養うのか」は、中国から激しい反論を受けたが、中国の食糧政策の転換を促進した。氏の分析は自然科学的データをもとに、社会科学的手法を取り入れた説得的な提言に満ちている。
 
 氏は環境問題が世界の経済を変えると説く。地球の生態系により負担の少ない産業こそが、未来の成長産業であり、このような経済へのシフトは、最大の投資機会であると主張する。そのような産業とは、再生可能なエネルギー業界、リサイクル業界、高エネルギー効率の交通産業などである。
 
 このような背景の元に書かれた本書「エコ・エコノミー」の、「はじめに」に書かれた内容の一部を紹介する。
 
 本書が執筆された背景に三つのことがある。第一に、人類は地球を救うための戦略レベルでの闘いに敗れつつあるということ。第二に、私たちは環境的に持続可能な経済(エコ・エコノミー)のあり方について明確なビジョンをもつ必要があるということ。そして第三に、新しいタイプの研究機関(エコ・エコノミーのビジョンを提示するだけでなく、その実現に向けての進展状況の評価をたびたび行う機関)を創設する必要があるということ。
 
 ワールドウォッチ研究所を発足させたとき、私たちは森林減少、砂漠化、土壌浸食、放牧地の劣化、生物種の消失を憂慮していた。漁場の崩壊についても心配し始めていた。しかし、現在では懸念される問題のリストははるかに長くなっており、たとえば二酸化炭素濃度の上昇、地下水位の低下、気温上昇、河川の枯渇、オゾン層の破壊、ますます発生頻度と破壊力を増す暴風雨、氷河の融解、海面上昇、サンゴ礁の死滅などが加わってきている。
 
 過去四半世紀ほどのあいだに、私たちは多くの戦術レベルでの闘いで勝利を得てきたが、地球の環境悪化に歯止めをかけるために「人類がとるべき行動」と「実際にとっている行動」とのあいだのギャップは開きつづけている。何とかして、こうした状況を変えなくてはならない。本書の目的は、エコ・エコノミーというビジョンの輪郭を描くことである。
 
 アメリカでは、エネルギー省の全米風力資源要覧のおかげで、いまやノースダコタ、カンザス、テキサスの三州に国内の電力需要を満たしうるだけの利用可能な風力エネルギーが存在することが知られている。
 
 ヨーロッパでは、風力タービンが炭鉱に取って代わりつつある。石炭火力発電所の建設を禁止したデンマークは、現在、電力の15%を風力発電から得ている。ドイツ北部のいくつかの地域では、電力需要の75%までが風力で満たされている。
 
 一年前、熟考の末に私がたどり着いた一つの結論は、これらの目標を達成するためには、新しいタイプの研究機関をつくる必要があるということだった。そこで、2001年5月、リー・ジャニス・カウフマンおよびジャネット・ラーセンとともに、アースポリシー研究所(Earth Policy Institute)を創設した。本書“Eco-Ecomnomy : Building an Economy for the Earth”は当研究所の最初の出版物である。また、私たちは世界の風力開発や中国北西部における荒地化といったトピックを取り上げるEarth Policy Alertsの発信も開始した。これはエコ・エコノミーに向けての人類の前進に影響を与える諸動向に目を光らせるものである。
 
 いつもこう答える。「自転車を活用して、自動車の利用を減らしたり、新聞紙をリサイクルするなど、生活のあらゆる側面で私たち一人ひとりが自己改革をする必要がある」と。しかし、「それだけでは十分ではない」と私は強調する。私たちは社会経済システムを変えなくてはならない。
 
 そのためには、税制を再構築する必要がある。所得税を減らす一方で、環境への負荷の大きい生産と消費への課税を増やして、価格が生態学的現実を反映するようにする必要がある。地球環境の劣化を反転させることを望むならば、こうした税制改革は不可欠である。
 
 本書は3部から成る。第1部は「環境へのさまざまなストレスとその相互作用」で、これまで報告されてきた気候、水、暴風、森林、土壌、種の絶滅などの変動の現実が解説される。さらに、これらの環境変動の相乗作用が、予想を超える脅威を持つことが強調される。第2部は「環境の世紀の新しい経済」で、人類の挑戦である「エコ・エコノミー」が解説される。第3部は「エコ・エコノミーへの移行」で、人口の安定化、経済改革を実行する政策手段などが語られる。
 
 第3部の最終章の最後の節「まだ時間はあるのか」が、最も関心の深いところであろう。ここでは、「模様眺めの時間はない」が「改革断行の時間はある」という。「人類が力を合わせて持続可能な経済を構築するのか」、または「環境的に持続不可能な今日の経済を衰退するがままに放置するのか」、そのどちらかである。中道の道はないと言い切る。
 
 はじめに
 第1章 「経済と地球」についてのコペルニクス的転回
 
第I部 環境へのさまざまなストレスとその相互作用
 第2章 ストレスの兆候:気候と水
 第3章 ストレスの兆候:生物基盤
 
第II部 環境の世紀の新しい経済
 第4章 人類の挑戦、エコ・エコノミー
 第5章 ソーラー/水素型エネルギー経済を構築する
 第6章 新しいマテリアル経済を設計する
 第7章 全人類の食料供給を確保する
 第8章 森林の生産機能とサービス機能を守る
 第9章 健康で暮らしやすい都市にする
 
第III部 エコ・エコノミーへの移行
 第10章 地球規模の家族計画で人口を安定化する
 第11章 経済改革を実行する政策手段
 第12章 エコ・エコノミーへ、改革の最後のチャンス
 
 

本の紹介 78:地球白書2002−03、
クリストファー・フレイヴィン編著
エコ・フォーラム21世紀:日本語版監修
地球環境財団/環境文化創造研究所:日本語版編集協力
家の光協会(2002)
ISBN4-259-54612-0

 
 
 本書の「はじめに」は、次の文章ではじまる。
 
 2002年8月にヨハネスブルクで開催される地球サミットは、新世紀の幕開けに全人類が直面しているもっとも根本的な課題に、各国首脳が取り組む貴重な機会である。世界経済は地球の自然生態系との新しい調和を見出せるのだろうか。今日存在する10億を超える貧しい人々に加え、この先数十年のあいだに世界人口に上乗せされる20億〜30億人の基本的ニーズを満たすことができるのだろうか
 
 地球サミットで協議すべき事項を明確化することが、本年版『地球白書』の最重要課題である。歴史的に有名なリオデジャネイロの地球サミットから10年がたつ。その後の成果を振り返り、向こう10年間に起こる変化のペースを加速させる方法を考えるよい機会である。過去10年間に持続可能な社会を築く過程で、無数の失望と成功を見てきた。すべては貴重な教訓であると私たちは考えている。
 
 第1章の「ヨハネスブルク・サミットの課題」には、自然界の犠牲・一般市民の配慮・新たな経済モデルを開拓する・将来を考える、という節がたてられ、「より安全な世界をつくり出す」ことを目的にこれらの現状が語られる。その一例として、地球環境においてもっとも重要な気候変動のIPCCの報告書が紹介される。
 
[IPCCの第3次報告書−「温暖化の大半は人為的なものと判断」]
 地球環境においてもっとも重要な問題は気候変動である。温室効果ガスの排出、気温の上昇、海水面の上昇、異常気象の頻度と強度の高まりなど、それぞれの相互作用について、科学者がこの10年のあいだに理解を深めるにつれ、この問題は重要性を増してきた(第2章参照)。南極やグリーンランドの氷床コアを分析すると、現在の大気中の二酸化炭素濃度は過去42万年のなかでもっとも高いことがわかる。世界の気温の記録には、1990年代が19世紀に測定が始まって以来もっとも暖かい10年だったことが示されている。さらに科学者らは、過去100年のあいだに世界の海水面が10〜20センチメートル上昇したと報告している。このような各種のデータに応えて、世界中から集まった2500人以上の科学者で構成される気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は1996年に、変動する世界の気候に人間の影響が及んでいることは明らかだという警告を発した。2001年の第3次報告書では、さらに踏み込んで、「過去50年間の温暖化の大半は人的活動に起因する」と明記された。
 
 第2章の「温暖化防止への取り組みを地球規模で前進させる」には、科学の進展・テクノロジーと経済の新しい考え方・気候政策−理論と実際−・気候変動ビジネス・政治の風向き、という節がたてられている。アメリカの政治的ご都合主義、それによる孤立するアメリカの問題点、さらには、このことによる日本の動向に関心が寄せられている。最後に、地球サミットでの優先課題を提案する。
 
[地球サミットでの優先課題−地球温暖化防止の取り組みを進める]
●ヨハネスブルク・サミットの前に京都議定書を発効させる。
●大気、エネルギー、財政、産業、技術の分野で「アジェンダ21」の実施状況を見直し、気候変動の新たな状況を明らかにする。
●京都議定書の実施をめざす政策決定者にとっての信頼できる基盤としてのIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第3次報告書の重要性を再認識する。
●アメリカの京都議定書への復帰の必要性を強調し、排出量削減取り組みの第2期を考慮し、排出量削減目標を掲げる国を拡大するとのヨハネスブルク・サミット以降の気候交渉の青写真を示す。
●2000年に国連と民間セクターのあいだで取り交わされた「グローバル・コンパクト」にならって、自発的な「世界気候コンパクト」の設置に努力し、経済界のリーダーにエネルギー効率の高い製品、再生可能エネルギー、水素および燃料電池技術の導入を促進するよう求める。
 
 第3章の「農業のもつ社会的役割を評価する」では、次の節が設けられている。機能不全農業の増加・豊かさのなかの飢餓・農業の本質・なぜ農村地域を気にかけるのか・食の倫理。最後に地球サミットでの優先課題が提案される。
 
[地球サミットでの優先課題−−−−農業の本来の役割を評価し、それを実現する]
●農業補助金を生態農業の支援にまわす。
●農薬や化学肥料や工場化した大規模畜産に課税する。
●土地を再分配し、男性のみならず、女性にも明確な所有権を保証する。
●輸出補助金とそれがもたらしている食料のダンピング輸出を排除する。
●農業における平等の権利と支援を女性に保証する。
 
 第4章の「有害化学物質を減らして、汚染から開放される」では、次の節が設けられている。化学産業経済・はるかな時代からの金属であり、現代の脅威でもある鉛と水銀・POPsと事前警告・変動する国際状況・環境民主主義と市場・技術革新と機会・未来へ向かって。
 
 気候変動の次に大きな問題は、有機化学物質であろう。気候変動に関する世界規模の協議がハーグで暗礁に乗り上げてから3週間後の2000年12月初め、有害化学物質に関する新しい世界条約を締結するための交渉のほうは、環境保護論者と化学産業界代表とが揃って歓迎する文書の最終とりまとめに成功した。
 
 この条約が定める主要目標は、1)意図的に商業生産される、10種類の残留性有機汚染物質(以下、POPsと表記)の製造と使用を世界的に禁止すること[ただしDDTについてはマラリア対策としてのみ例外として認められている]、2)製造過程の副生物である2種類の物質の排出を低減して最終的に廃絶すること、の2点である。POPsは、環境中に残留し、食物連鎖を通して生物濃縮される、生物に有害な物質である。条約で規制される農薬のうち9種類は、すでに少なくとも60か国で禁止されている。さらにこの条約が評価される点の1つとして、禁止リストを追加する手続きを定めていることが挙げられる。ここでの地球サミットでの優先課題は次の通りである。
 
[地球サミットでの優先課題−有害化学物質を減らす]
短期的課題
●世界規模での有鉛ガソリンの廃絶。
●主要な国際環境条約の批准(POPs条約、バーゼル条約、ロッテルダム条約)。
●代替物質と環境に負荷を与えない廃棄物処理方法との研究に対する十分な投資。
 
長期的課題
●有害物質の使用と排出に関する統一され、かつ提出義務のある報告制度の採用。
●商業施設および住居における殺虫剤の使用への課税。
●農薬散布や洗剤などの拡散タイプの使用における残留性合成物質の排除。
●金属鉱石をはじめとする工業原料の採掘にともなう水銀、鉛をはじめとする有害副生物質量を最小限にする。
●石炭火力発電を減らし、最終的に廃絶。
 
 第5章以下の目次は次の通りである。
 
第5章 増大する国際旅行の持続可能性を高める
 ◆グローバルな産業
 ◆経済発展の原動力となるか
 ◆旅行が環境に及ばす影響
 ◆エコツーリズムは環境の味方か敵か
 ◆持続可能な旅行産業へ
 
第6章 人口政策を見直し、女性の地位を改善する
 ◆統計で見る世界の現状
 ◆人口の生態学
 ◆健全な性と生殖、健全な家庭
 ◆人口政策
 ◆近視眼的なジェンダー観を正す
 
第7章 途上国の長期化する資源紛争の構造
 ◆資源と紛争のあいだの関係
 ◆資源をめぐる紛争の分析
 ◆自然資源の略奪はいかにして紛争の資金源となるか
 ◆資源開発はいかにして紛争を引き起こすか
 
第8章 グローバル・ガバナンスを再構築する
 ◆国際環境ガバナンスを強化する
 ◆グローバル・フェアディール
 ◆新たなグローバル・アクター
 ◆グローバル・ガバナンスの民主化
 
 

本の紹介 79:Restoration of Inland Valley Ecosystems
in West Africa、eds., S. Hirose and T. Wakatsuki,
Association of Agriculture & Forestry Statistics
(2002)
 ISBN4-541-02920-0 C3061
 
 
 本書は、基本的には「西アフリカ・サバンナの生態環境の修復と農村の再生」(廣瀬昌平・若月利之編著、農林統計協会、1997年)の英訳である。過去十年以上にわたる現場の圃場研究の集大成を試みたものである。
 
 したがって、本書の内容は多岐にわたる。それぞれの研究分野の調査研究にとどまらず、農業、林業、牧畜とこれらの融合システムの確立、実行可能なサバンナの再生戦略の確立と小低地集水域のベンチマークサイトの村を舞台とした実証試験、すなわち、農民参加によるアジア的水田造成と水田農業のオンファームトライアル、アグロフォレストリーの試行と村落苗畑の設置と管理、養魚池の造成と養魚、さらに農耕民スペと牧畜民フルベの共生システムなどを扱っている。
 
 第1章では、地球環境問題が直接に人間生存の危機として現れている西アフリカの現状と水田と森林の環境技術による西アフリカの大地の再生戦略を述べている。第2章では、西アフリカの生態系、すなわち地質、地形、水文と低地の土壌の種類と分布およびその理化学性の特徴を広く概観している。第3章ではギニアサバンナ帯のヌペランドの伝統的農業と作物生産について調査した結果から、合理的な伝統的土壌保全農法を明らかにしている。第4章では、ギニアサバンナ帯における森林保全と生態系修復に向けた対策を講じるうえでの基礎資料をとりあげている。
 
 第5章では、本調査地の大地を農耕民スペとともに分け合って生きている牧畜民フルベの生態人類学的調査の結果を述べている。第6章では、上記の調査結果を踏まえて組み立てられた低地アフリカ適応型水田稲作実証技術を、研究者が農民の圃場を使って行うオンファーム研究と、農民が中心となって行う農民参加型のオンファーム・トライアルからその可能性と問題点を指摘している。第7章では、本書の総括と結論を述べている。
 
 これは、16人の日本人、4人のガーナ人そして4人のナイジェリア人によって書かれた確実に現場を意識した国際色豊かな書である。この書を眺めていると、研究の継続性とリーダーシップの重要性が痛切に感じられる。目次は以下の通りである。
 
Chapter 1
 
Sustainable Agricultural Development of West Africa during Global Environmental Crises
  T. Wakatsuki
1. Peoples and history of West Africa
2. Characteristics of recent agricultural production in West Africa
3.
 
Situations of farmland degradation and desertification in the tropics and West Africa
4.
 
Directions of restoration of degraded farmland and development of sustainable farming systems in West Africa
5.
 
Restoration strategies for West African land: ecotechnology approaches for sustainable development of sawah and afforestation in inland valley watershed
 
Chapter 2 Ecological Environment of West Africa
1. Climatic characteristics
  Y. Kitamura
2. Topography, geology, vegetation and soils in West Africa
  T. Wakatsuki
3. Distribution and characteristics of lowland soils in West Africa
  T. Wakatsuki, R. N.Issaka and Md. M. Buri
4. Characteristics of the hydrologic environment
  Y. Kitamura
5. Characteristics of the water use environment
   
6. Oxygen isotope composition of natural water in West Africa
  C. Mizota
 
Chapter 3
 
Traditional Agriculture and Crop Production −Case studies in the Guinea Savanna Zone
1. Rice and upland farming in the Nupe community
  S. Hirose
2. Nupe's lowland farming systems
  F. Ishida
3. Ethnopedological study of Nupe's farming systems
  F. Ishida
 
Chapter 4 People and Forests in Guinea Savanna
1. Land and forest resources in the northern Nigeria
  M. Masuda
2. Trees on farmland
   
3. Climate and growth of trees in savannas
  N. Okada
4. Multipurpose use of trees in Bauchi State, Nigeria
  Y. Hayashi
 
Chapter 5
 
Ecological Anthropological Study on Daily Herding Activities of Pastoral Fulbe in Central Nigeria
  K. Shikano
1. Introduction
2. Study area and method
3. Social background of Bida Fulbe
4. Bida Fulbe settlements
5. Relationship between Bida Fulbe and cattle
6. Bida Fulbe's herding activities
7. Discussion and conclusion
 
Chapter 6
 
On-farm Demonstration Studies for the Restoration of Ecological Environment and Rural Life
1.
 
Topography, land use and hydrological characterization of benchmark inland valley watersheds
  D. Kubota, O. O. Fashola, K. O. Asubonteng, and T. Wakatsuki
2.
 
African based sawah agriculture in inland valley − A case study at Nupe Land, Guinea Savanna Zone of Central Nigeria
3. African based sawah agriculture in inland valley −A case study at Ashanti, Ghana
4. Potential for agroforestry as a part of integrated watershed management
 
Chapter 7
 
Conclusion: Integrated Watershed Management by the Ecotechnology Approach
  S. Hirose and T. Wakatsuki
1.
 
Histrical and ecological background of non-sawah based rice cultivation in West Africa
2. Agronomic and engineering adaptation in rice cultivation
3. Road to sustainable rice cultivation in West Africa
4.
 
Ecotechnology approach for sawah based agriculture in inland valleys and floodplains in West Africa
5.
 
Toward integrated development and management of inland valley watershed in West Africa
 
References  
Index  
 
 
 

本の紹介 80:Nitrogen in the Environment;
Sources, Problems, and Management,
Eds., R.F. Follett and J.L. Hatfield, Elsevier (2001)
ISBN: 0-444-50486-9

 
 
 窒素。「ものみなめぐる」ということの大切さと、「万物流転」の法則をこれほどよく教えてくれる元素は、ほかにないであろう。
 
 人間は、これまでもプラスチックや放射性物質やフロンなど、「めぐる」ことのできないものをたくさん作りだした。それらは、「めぐる」ことのできないままに、使い捨てられ、たまりつづけ、われわれの住む地球生命圏を窮地に追い込んでいる。「めぐらない」から抜け出して、窒素のもつ「めぐる」に帰依しないと、地上はいずれ取り返しのつかない世界となるであろう。
 
 しかし、すでにわれわれ人間は、この窒素のもつ「めぐる」にも重大な変調をもたらした。その中でも環境変動に最も大きな影響を与えているのは、大気圏における亜酸化窒素(NO)の濃度上昇と、地下水の硝酸性(NO)窒素濃度の増大などである。
 
 これらの窒素成分の生命圏での濃度上昇や循環の変調によって、温暖化、オゾン層破壊、酸性雨、地下水汚染などさまざまな地球環境の変動がもたらされた。その結果、いまや地下水から成層圏に至る生命圏すべての領域が、地球環境変動の脅威にさらされている。
 
 このような変動は、大気中に無限(空気の78%)に存在する窒素(N)が、われわれ人間の手によって自然界のそれよりも上回る速度で地上へ固定されることからはじまった。そのうえ、固定された窒素は、生態系のバランス、場所および時間などの要因を考えないままに、大地に還元され循環している。このため、窒素の「めぐる」はすでに変調をきたしている。
 
 もちろん窒素は生命にとって不可欠な元素である。これは、アミノ酸とよばれる分子種の基本的な成分である。これらは、生命を維持するためになくてはならないものである。アミノ酸が合成されたものがタンパク質で、これは酵素や酸素のような小さい分子を転移させたり貯蔵する機能をもつ。また窒素は、DNAを創る塩基の基本的な組成でもある。DNAは、すべての生命体の遺伝的コードを運ぶ分子である。また、窒素は他にも生物学的に重要な役割がある。例えば、呼吸するとき酸素の代用品として酸化形態での窒素を利用することができる有機体もある。一方、還元された窒素を酸素で酸化でき、エネルギーを解放するものもある。
 
 実際、窒素は酸化と還元状態でおどろくほど様々な顔を呈する。酸化数がプラス5からマイナス3まで多数にわたる顔をもつ。このことは、窒素の循環に最も大きな影響を及ぼす要因は、生物的に調整された酸化還元反応が中心にあることを意味する。このように酸化還元反応によって窒素の顔が変わるということは、様々な条件で、窒素がある系から他の系へ移動するということを示している。
 
 窒素は土壌、地殻、海洋、動植物および大気のあいだを様々な形をとりながら流転している。窒素は、あるときは有機および無機成分として土壌の内部に、あるときは有機成分として人間の体に、あるときは気体として大気の中に存在する。すなわち、窒素は時空を越えて巡っているのである。
 
 人間圏が成立したときから、窒素の循環に変調が訪れた。それは、人間圏が農業生産を開始し、豊かな物質文明を享受し始めたときからである。窒素固定・肥料製造、森林伐採・湿地干拓、化石燃料の燃焼および食料増産などが、窒素の循環をかえた。その結果、温暖化・オゾン層破壊・酸性雨などの現象が大気環境で、浸食・栄養バランスの変動などが土壌環境で、飲料水の悪化などが地下水で、サンゴ礁の被害が海洋で起こって、現在も進行中である。
 
 このような多岐にわたる窒素の問題を、「環境中の窒素:発生源・問題点・管理」と題して世に問うたのが本書である。背景と重要性、水質、大気への影響、調査予測と管理技術、経済と政策の論点などの各節で、それぞれの問題点が解説される。目次は以下の通りである。
 
Executive Summary
About the Editors
List of Contributors
 
Section 1: Background and Importance of Nitrogen
Chapter 1. The Nitrogen Cycle, Historical Perspective, and Current and Potential Future Concerns
  Dennis R. Keeney and Jerry L. Hatfield
Chapter 2. Nitrogen Transformation and Transport Processes
  Ronald F. Follett
Chapter 3. Importance and Effect of Nitrogen on Crop Quality and Health

 
Jurg M. Blumenthal, David D. Baltensperger, Kenneth G. Cassman,
Stephen C. Mason, and Alexander D. Pavlista
Chapter 4. Utilization and Metabolism of Nitrogen by Humans
  Jennifer R. Follett and Ronald F. Follett
 
Section 2: Water Quality
Chapter 5. Nitrate Losses to Surface Water through Subsurface, Tile Drainage
  G. W. Randall and M. J. Goss
Chapter 6. Nitrogen in Groundwater Associated with Agricultural Systems
  Michael R. Burkart and Jeffrey D. Stoner
Chapter 7. The Importance and Role of Watersheds in the Transport of Nitrogen
  T. J. Sauer, R. B. Alexander, J. V. Brahana, and R. A. Smith
Chapter 8.
 
Nitrogen Transport and Fate in European Streams, Rivers, Lakes and Wetlands
  B. Kronvang, J. P. Jensen, C. C. Hoffmann and P. Boers
Chapter 9. Nitrogen Effects on Coastal Marine Ecosystems
  John R. Kelly
 
Section 3: Atmospheric Effects
Chapter 10. Gaseous Nitrogen Emissions from Livestock Farming Systems
  Oene Oenema, Andre Bannink, Sven G. Sommer, and Gerard L. Velthof
Chapter 11. Exchange of Gaseous Nitrogen Compounds between Terrestrial Systems and the Atmosphere
  A. R. Mosier
Chapter 12. The Impacts of Nitrogen Deposition on Forest Ecosystems
  K. J. Nadelhoffer
 
Section 4: Emerging Prediction and Management Technologies
Chapter 13. On-Farm Technologies and Practices to Improve Nitrogen Use Efficiency
  N. R. Kitchen and K. W. T. Goulding
Chapter 14. Developing Software for Livestock Manure and Nutrient Management in the USA
  Philip J. Hess, Brad C. Joern, and John A. Lory
Chapter 15. Field Techniques for Modeling Nitrogen Management
  Marvin J. Shaffer and Jorge A. Delgado
Chapter 16.
 
Simulated Effects of Land Use, Soil Texture, and Precipitation on N Gas Emissions using DAYCENT

 
S. J. Del Grosso, W. J. Parton, A. R. Mosier, M. D. Hartman, C. A. Keough,
G. A. Peterson, D. S. Ojima, and D. S. Schimel
Chapter 17. Remediation of Drinking Water for Rural Populations
  W. J. Hunter
Chapter 18. Remediation at the Water Treatment Plant
  L. D. McMullen
 
Section 5: Economic and Policy Issues
Chapter 19. Nitrogen Management by Producers: A Multiple Scale Perspective
  Pete J. Nowak, Laurence B. Cutforth, Perry E. Cabot and Bruce M. Kahn
Chapter 20. New Policy Directions
  Andrew P. Manale
 
Appendix
Abbreviations
Units of Measure
Index
 
 
 

本の紹介 81:環境学の技法
石 弘之編、東京大学出版会(2002)
ISBN4-13-032112-9

 
 
 表紙のカバーの裏側に次のような文章がのっている。
 「環境学」とは何だろうか? 環境学は何をめざすのだろうか? 私たちなりの「環境学」の輪郭を定める上で拠り所としたのは、自然環境の「ハード」面ではなく、それを認識し、そこに働きかける人間的な「ソフト」の面である。たとえば、自然環境をめぐって人は何を争い、なぜ協力するのか、そして調査をする人は「問題」にどうかかわるのか。自然科学的な知見さえ社会的な文脈の規定を免れるわけにはいかない。・・・・対象と距離をとり、種々の方法を場面に応じて組み合わせ、読み解いていくこと。問題解決の研究につきまとうこの難問に対処する技術は、しかし個人の裁量に依存する。この「裁量」の中身を分解し、「技法」として目に見える形で再構成してみようというのが、環境学の確立にむけて私たちがとった最初の一歩である。
 
 本書の第1章では、その考え方がまとめられている。「環境問題の新たな枠組み」では、環境学の目的は、次の段階への移行過程の研究、教育にあること、環境研究のこの多層・循環性構造を、環境学の新たな枠組みとして想起することにあると解説する。
 
 その段階とは、1)「環境状況」から「環境変化」を認知し、2)「環境変化」から「環境問題」を抽出し、3)「環境問題」から「問題解決」に取り組み、4)「問題解決」から「新たな環境状態」を想定することである。
 
 また、「揺れ動く環境学」では、環境学を構築するにあたって再認識が必要であることが解説される。それは、環境に対する意識の歴史的な変化である。その時代を、1)自然の時代、2)公害の時代、3)環境の時代、4)エコロジーの時代、にわけ、その時々の環境に対する認識が整理される。目次は、以下の通りである。
 
はじめに 石 弘之・佐藤 仁
I 問題を設定する
 
第1章 環境学は何を目指すのか 石 弘之
    環境研究の新たな枠組みの構築
 1.はじめに
 2.大学における環境研究の現実
 3.環境学の構築
 4.揺れ動く環境学
 5.環境の意識の変化
 6.環境学科の目指すもの
 
第2章 「問題」を切り取る視点 佐藤 仁
    環境問題とフレーミングの政治学
 1.はじめに
 2.環境問題の分析における曖昧さとフレーミング
 3.フレーミングの基本パターン:境界線の綱引き
 4.フレーミングの浸透力をきめる要因
 5.フレーム分析の意義
 
II 状況を解釈し、一般化する
第3章 個別現象限りの知見に終わらせない工夫 永田淳嗣
 1.はじめに:環境学と事例研究
 2.現象とその認識
 3.事例研究という方法
 4.南インド・マディユル村の研究:
   事例研究として意義づけるための留意点
 5.おわりに
 
第4章 環境評価と新しい経済モデルの方向性 R.ノーガード
 1.はじめに
 2.経済学的考え方の歴史的背景
 3.古典派経済学のモデル
 4.カール・マルクスと資源の所有権
 5.新古典派理論の誕生
 6.環境保全の政治経済学
 7.経済的枠組みに「公正さ」を取り入れる
 8.エコロジー経済学
 9.おわりに
 
III データを集め、判断する
第5章 環境学におけるデータの十分性と意思決定判断 松原 望
 1.「方法」としての水俣
 2.「科学的証明」が強調された水俣ケースの背景
 3.事実と価値の混同で遅れた解決:社会の観点と公平
 4.「たった1例」として見過ごされた水俣の悲劇
 5.水俣の教訓:先制的予防原則
 6.「1例」でも認識上は有用であった:ベイス的統計学
 7.変化の兆し:権限不行使は違法との司法判断も
 8.おわりに
 
第6章 越境するフィールド研究の可能性 井上 真
 1.フィールド研究の重要性
 2.フィールド研究とは何か?
 3.ハイブリッド・アプローチ:学問分野の越境
 4.アカデミズムにおけるフィールド研究の全体的プロセス
 5.フィールド研究の倫理
 6.おわりに:実践する研究者の姿
用語解説
 
 

報告書の紹介:畜産における温室効果ガスの発生制御(総集編)
畜産技術協会(2002)

 
 
 世界的な地球温暖化防止への取り組みが、世界のいたる所で行われている。、地球温暖化については、これまでも「情報:農業と環境」で多くの情報を流してきた(参照:総索引)。この資料は、畜産技術協会が平成7年度から平成13年度まで農林水産省畜産局の委託を受けて実施した「畜産関係温室効果ガス抑制技術等調査検討事業」の成果をまとめたものである。
 
 「地球温暖化をめぐる流れ」では、温暖化のメカニズム、国際社会における温暖化への取り組み、温暖化の科学的知見、気候変動枠組条約締約国会議(FCCC−COP)が、簡潔にまとめられている。「温室効果ガスの濃度変動、温暖化およびその対策技術」では、IPCCの報告書のうち、一般的な大気変動と農業に関する部分が分かりやすく解説されている。目次は以下の通りである。
 
I.地球温暖化をめぐる流れ
1.はじめに
2.温暖化のメカニズム
3.国際社会における温暖化への取り組み
4.温暖化の科学的知見
5.気候変動枠組条約締約国会議(FCCC−COP)
6.おわりに
 
II.温室効果ガスの濃度変動、温暖化およびその対策技術
1.大気組成の変化とその原因
2.二酸化炭素、メタン及び亜酸化窒素の温暖化への寄与
3.大気組成の変化と畜産
4.今後の予測
5.対策の現状
6.おわりに
 
III.反芻家畜とメタン
1.メタン生成のメカニズム
2.変動要因と発生量の推定
3.発生量の制御
4.反芻家畜からの発生量の実態及び削減対策技術と将来展望(まとめ)
 
IV.家畜排せつ物からのメタン及び亜酸化窒素の発生と制御
1.家畜排せつ物の排出量と処理・利用の現状
(1)家畜排せつ物の排出量
(2)家畜排せつ物の処理利用の状況
(3)処理方法別のふん尿量の推定
2.家畜排せつ物からのメタン発生量の推定と制御
(1)メタン発生のメカニズム
(2)メタン発生変動要因と発生量の推定
(3)メタン発生量の制御
3.家畜排せつ物からの亜酸化窒素の発生量の推定と制御
(1)亜酸化窒素発生のメカニズム
(2)亜酸化窒素発生の変動要因と発生量の推定
(3)亜酸化窒素発生量の制御
4.アンモニアの揮散(アンモニア・エミッション)について
5.わが国において今後必要とされる研究
6.家畜排せつ物からのメタン及び亜酸化窒素の発生の実態及び削減対策技術と将来展望
 
V.草地におけるメタン及び亜酸化窒素の発生と制御
1.メタン
(1)メタン発生・吸収のメカニズム
(2)変動要因と発生量・吸収量の推定
(3)発生量の制御
(4)草地からの発生・吸収量の実態及び削減対策技術と将来展望
2.亜酸化窒素
(1)亜酸化窒素発生のメカニズム
(2)亜酸化窒素発生の実態
(3)亜酸化窒素発生量に及ぼす変動要因
(4)亜酸化窒素発生量の制御
(5)諸外国の研究動向
(6)草地からの亜酸化窒素の発生の実態及び削減対策と将来展望
 
VI.わが国の畜産における温室効果ガスの発生と制御(総括)
1.畜産におけるメタン・亜酸化窒素の発生量の推定
2.メタン・亜酸化窒素の制御技術の現状
3.畜産における温室効果ガス制御に関する課題
 
VII.「地球温暖化関連用語解説」
1.地球温暖化係数(GWP)ならびに表示単位
2.地球温暖化関連用語
 
 

報告書の紹介:研究成果386 高精度観測衛星を利用した地球
温暖化等に伴うアジアの食料生産変動の予測手法の高度化
農林水産技術会議事務局(2002)

 
 
 農林水産技術会議では、関係試験研究機関の協力を得て推進したプロジェクト研究等の成果を、研究や行政の関係者に総合的かつ体系的に報告することにより、今後の研究および行政の効率的な推進に資する目的で、昭和35年(1960)年から「研究成果シリーズ」を刊行している。現在(2002)、393号まで刊行されている。本書は、その386号である。
 
 この報告書は、平成10年度から平成12年度までの3年間にわたって、農業環境技術研究所(現在:独立行政法人農業環境技術研究所)が中心になり、農業研究センター(現在:独立行政法人農業技術研究機構中央農業総合研究センター)、国際農林水産業研究センター(現在:独立行政法人国際農林水産業研究センター)および中国農業科学院が共同で実施した研究の成果をとりまとめたものである。
 
 この研究は、今後予想される地球環境の変化に対応してわが国の食料の安定確保を図るため、地球観測衛星に搭載されている高性能センサーを活用したリモートセンシング技術の高度化により、農耕地資源および作物生産状況などの把握手法を確立し、地球温暖化などに伴うアジア地域の食料生産力の予測と生産変動の推定手法を開発する目的で行われたものである。目次は以下の通りである。
 
第I編 リモートセンシング等によるアジア地域の農業生産資源の把握手法の高度化
第1章 リモートセンシング等による農耕地資源の把握手法の高度化
1.耕地及びかい廃農地の高精度検出手法の開発
2.汎用性の高い作物の収量予測手法の開発
第2章 アジア地域の作物生産状況把握手法の開発
1.アジア地域の主要穀物の同定手法の開発
2.作物モデルと衛生データによる広域的作物生育把握手法の開発
(1)リモートセンシングと作物生長モデルによる作物生産動態の推定
−方法論とケーススタディ−
(2)広域的生育把握のための作物生長プロセシングモデリング
 
第II編 地球温暖化等に伴うアジア地域の食料生産変動の予測
第1章 リモートセンシング等による生産変動要因の把握手法の高度化
1.温暖化等に伴う中長期的な気候変動シナリオの作成
2.リモートセンシング等による農耕地資源の変動予測
第2章 アジア地域の主要穀類の生産力の予測及び生産変動の推定
1.異常気象の予測情報解析及びその気候変動シナリオとの統合化
2.主要穀類の生産力の予測及び生産変動の推定
 
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