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情報:農業と環境
No.45 2004.1.1

No.45

・新しい年を迎えて:「技術知」と「生態知」と「統合知」

・第20回気象環境研究会:
      農業水資源の潜在量評価と有効利用

・第21回土・水研究会:
      農耕地における重金属汚染土壌の修復技術の現状と展望

・第6回植生研究会:
      外来植物の蔓延実態とその生態的特性

・国際共同セミナー:
      「アジア・太平洋諸国における侵入生物による環境影響と
       データベース構築」が開催された

・第23回農業環境シンポジウム/
      第1回日韓共同研究合同国際シンポジウムが開催された

・平成15年度農業環境技術研究所依頼研究員懇談会が開催された

・生物多様性の指標:価値基準と評価尺度の選択(論文)

・わが国の環境を心したひとびと(3):中川金治

・本の紹介 133:地球温暖化−世界の動向から対策技術まで−、
      大政謙次・原沢英夫・遺伝学普及会編、
      生物の科学 遺伝、別冊No.17、裳華房(2003)

・本の紹介 134:いちばん大事なこと−養老教授の環境論、
      養老孟司著、集英社新書(2003)

・遺伝子組換え生物の国境を越える移動に関する
      2003年7月15日の欧州議会と理事会の規則


 

新しい年を迎えて:「技術知」と「生態知」と「統合知」
 
 
 新しい年が明けました。おめでとうございます。
 
 昨年も同じようなことを書きました。稲作農民の遺伝子がそうさせるのか、四季の変化に敏感なのか、はたまた仏教の輪廻の教えがそうさせるのか解りませんが、われわれ日本人は新しい年が始まると、不思議と新たな気持ちになれるというありがたい特性を持ち備えています。はるかな上古から引き継がれたこの特性を大切にしたいものです。そのことが、「環境を守る」という人間の心にも通じると思うからです。
 
 もちろん、新しい朝、新しい年などというものは存在しません。そこには「新しい」と思う人間の心があるだけです。その気持ちのなかで、新年に向けて「技術知」と「生態知」と「統合知」について考えていることを記します。
 
 20世紀とはいったいどんな時代だったのでしょうか。恐らく、科学技術の大発展に支えられた成長の魔力に取り憑かれた世紀であったといえるのではないでしょうか。この科学技術こそが持続的な経済成長や豊かな生活に不可欠であるという考え方が、今なお世界を鷲づかみにしています。
 
 これは、「技術知」がなす業であると考えます。そのことが文明の発達でもありました。「技術知」は目的と手段を定めたうえで地球の資源を活用し、水平方向に新しい技術を開発していく思考と行動形態を有しています。
 
 一方このような「技術知」に対して、われわれ人類が長い時間を通して実際の生活の場から観察し、獲得してきた知恵があります。私はこれを「生態知」と呼びます。「生態知」は文化の進展をももたらしてきました。「生態知」は「技術知」の目的を高遠にするため、あるいは「技術知」の手段を生活の場から深く掘り下げるため、思考や研究が垂直方向に高揚したり、深化する形態を有します。
 
 「技術知」の発達とは、具体的には次のようなものと考えます。「技術知」は無機化学や有機化学などの基礎科学の事実を応用し、窒素肥料や臭化メチルなどを製造します。ついで、これらを農地に散布し農産物の増産を図ります。さらに、これを経済社会へと広げてゆくやり方のことです。人間の行為の手段としての価値は、製造の速度と収益の増大という点に設定されており、目的とする価値は生活を豊かにし、それに伴う便宜さにあります。
 
 これに対して、「生態知」の例に次のようなものがあります。生態系での窒素は様々な酸化還元作用によって姿を変えます。実際の畑などの現場では、有機物中の窒素は微生物の作用によってアンモニアを生成します。このアンモニアは、さらに微生物による硝酸化成作用を受けて作物に吸収されやすい硝酸態窒素に変化します。堆肥などの有機物の施用が作物の増収に役立つという事実は、生態の観察から得られた知といえます。
 
 ここで得られた知は、さらなる「生態知」を生みます。この硝酸化成作用で生成された亜酸化窒素は大気に放出され、対流圏では温室効果ガスになり、成層圏ではオゾン層破壊ガスとして作用します。また硝酸態窒素は、飲料に適さない水質をもたらし、河川や湖沼に流れ込み、富栄養化をもたらします。農業生産の増大を目的とした窒素の過剰な使用は、このような環境問題を世界のいたる所で起こしてきました。これらも「生態知」です。
 
 この例にみられるように、20世紀で得られた「技術知」はさまざまな形態や部門で環境破壊をおこし、そのことが今では地球規模の環境変動に及んでいます。となると、環境を守るのに「技術知」は不要ということになるのでしょうか。そうではありません。「技術知」も「生態知」も人間の英知が生み出した貴重な財産です。今、われわれが必要としているのは、これらの二つを融合する「統合知」ともいえる知を創出することなのです。さらには、より多くの「生態知」を獲得し、これまでの「技術知」との融合を試みることです。
 
 肥効調節型肥料の開発は、「統合知」のひとつの例といえるでしょう。この肥料の基本は、「生態知」で得られた硝酸化成作用を制御し、作物による窒素の吸収利用率を最大にすることによって、亜酸化窒素や硝酸態窒素の発生を最小限にできます。このことにより、生産は維持され、同時に環境は保全されるという「統合知」が得られるのです。今後、このような「統合知」を追求した研究が様々な分野で必要なことは言うまでもありません。
 
 われわれは、宇宙から地球を眺める俯瞰的視点を20世紀に獲得しました。さらに環境と共生しなければ自然は逆襲するということも学びました。21世紀には、これらの教訓をもとに「生態知」を深め、「統合知」の創出をめざす研究が必要なのです。
 
 このような思いをもちながら、農業環境の研究を進めていきたいと考えております。本年も旧年にまして関係各位のご支援とご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。
 
農業環境技術研究所理事長  陽 捷行
 
 
 

第20回気象環境研究会:
農業水資源の潜在量評価と有効利用

 
 
趣 旨
 
 地球温暖化は確実に進行しており、これにより地上の水循環が変化し、ひいては食料生産や環境に大きな影響が及ぶと考えられている。地球規模の水循環のこれまでの研究によると、温暖化により全球は一様には変化せず、地域によっては洪水ばかりでなく干ばつも同時に発生するというような複雑な様相を呈することが推定されている。このような不安定な水循環において、農業では食料の安定的確保を可能とするための水の確保と、技術開発が重要な課題の一つになっている。
 
 一方、経済発展により生活用水や工業用水の需要が高まり、農業用水との間での水の争奪がおこり、農業部門で使用できる水量は将来的には減少傾向にある。しかし、人口の増加傾向は依然として止まるところを知らず、食料需要はますます増加し、良質な農業用水の需給はさらに逼迫(ひっぱく)することが予想される。
 
 本研究会では、このような温暖化による水循環の変動と産業間での水の争奪がある中で、(1)農業を取り巻く水環境がどの様に変動するのか、(2)農業のための水資源が枯渇している実態と農業に必要な水資源量はどの程度か、(3)農業部門の水使用を効率化し、水不足の中で作物収量を実質的に高めていくにはどのようにすればよいか、などの題材を取り上げ、21世紀の農業水資源問題を解決するために必要な研究の方向性を探る。
 
日  時 平成16年2月24日(火) 10:00〜17:00
場  所 農業環境技術研究所 大会議室
主  催 農業環境技術研究所
 

 
プログラム
 

 
挨 拶   陽 捷行(農業環境技術研究所理事長) 10:00-10:10
   
I   農業水資源の潜在量評価
1. モンスーンアジアにおける降水量変動と水稲 10:10-10:50
   松本 淳(東京大学大学院理学研究科)
2. リモートセンシングを用いた積雪水資源のモニタリング 10:50-11:30
   大野宏之(農業環境技術研究所)
3.
 
東ユーラシアを対象とした灌漑用水の時空間的分布特性の評価 11:30-12:10
 

 
 石郷岡康史(農業環境技術研究所)
 

 
− 昼食 −
 
12:10-13:15
 
4. 農業用水資源の枯渇の実態とその影響 13:15-13:55

 
 近藤昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)
 
   
II   農業水資源の有効な利用法
1. 日本における最近のイネの節水栽培と水利用の作物研究 13:55-14:35
   鴨下顕彦(東京大学大学院農学生命科学研究科)
2. 下層土貯留水の利用促進による節水栽培 14:50-15:30
   小沢 聖(国際農林水産業研究センター)
3. 樹木根による土壌水の再配分と近傍作物への効果 15:30-16:10
   桜谷哲夫(京都大学大学院農学研究科)
   
III   総合討論 16:10-17:00
 
参 集 範 囲
 
国公立・独立行政法人試験研究機関、大学、行政部局、
 関係団体等
連 絡 先
 
農業環境技術研究所 地球環境部 気象研究グループ長
 野内 勇
    Tel: 029-838-8201 Fax: 029-838-8211
    e-mail: nouchi@niaes.affrc.go.jp
 
 
 

第21回土・水研究会:
農耕地における重金属汚染土壌の修復技術の現状と展望

 
 
趣 旨
 
 食品中のカドミウムのリスク評価結果が今年の6月にJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会)から公表され、来年早々にもCodexの本会議で、カドミウム濃度に関する新基準値が討議される予定である。
 
 このような国際的な動きに呼応して、農林水産省では主要農作物のカドミウム濃度を低減するためのプロジェクト研究を積極的に推進し、農業環境技術研究所を中心に、汚染土壌のリスクマッピング、低吸収品種の選抜、汚染土壌のファイトレメディエーションや化学修復などに成果をあげつつある。なかでも、コストや恒久的対策の点から、汚染土壌に対する新しい修復技術の確立が緊急課題になっている。
 
 本研究会では、重金属汚染土壌の修復技術に係わる最近の情勢や問題点を整理する。さらに、上述のプロジェクト研究の成果を中心に、ファイトレメディエーションや化学的洗浄による土壌修復の実際について論議を深めるとともに、新しい修復技術の開発をめざした研究方向を探る。
 
日  時 平成16年2月25日(水) 10:00〜17:00
場  所 農林水産技術会議事務局筑波事務所 つくば農林ホール
主  催 農業環境技術研究所
 

 
プログラム
 

 
1)
 
理事長挨拶           農業環境技術研究所 陽 捷行 10:00-10:10
 
   
2) 汚染土壌修復技術の現状と展望
  農業環境技術研究所 小野信一 10:10-10:50
   
3) ファイトレメディエーションによる重金属汚染土壌の修復技術
1. カドミウム汚染土壌に対するファイトレメディエーションの有効性と問題点
  農業環境技術研究所 杉山 恵・阿江教治 10:50-11:30
2. カドミウム汚染土壌の一貫修復技術体系の確立

 
()植物工学研究所 谷口 彰
 
11:30-12:10
 

 
〈昼 食〉
 

 
3. 秋田県におけるカドミウム汚染土壌の一貫修復技術体系
  秋田県農業試験場 伊藤正志   13:10-13:50
4. ヒ素、鉛汚染土壌のファイトレメディエーション
  ()フジタ 近藤敏仁 13:50-14:30
   
4) 重金属汚染土壌の化学的修復技術
1. 化学資材洗浄によるカドミウム汚染土壌修復技術の開発
  農業環境技術研究所 牧野知之 14:30-15:10

 
()太平洋セメント 高野博幸
 

 

 
〈休 憩〉
 

 
2. 電気泳動技術を用いた重金属汚染土壌の修復技術の開発
  滋賀県立大学 川地 武 15:30-16:10
   
5) 総合討論 −新たな土壌修復技術の開発に向けた研究戦略−
  農業環境技術研究所 今井秀夫 16:10-17:00
 
参 集 範 囲
 

 
独立行政法人研究機関、公立試験研究機関、大学、
 関係団体、行政部局等
問い合わせ先 農業環境技術研究所 重金属研究グループ 小野信一
    305-8604 つくば市観音台3-1-3
    TEL029-838-8311 FAX029-838-8199
    E-mail: onos@niaes.affrc.go.jp
 
 
 

第6回植生研究会:
外来植物の蔓延実態とその生態的特性

 
 
趣 旨
 
生物多様性条約の第8条には、生態系、生息地または種を脅かす外来種の導入防止、そのような外来種の抑制と撲滅が謳(うた)われている。このことを受けてわが国では、現在、「外来種新法」の策定作業が進められている。一方、農業生態系に目を向けると、すでに多くの外来植物が蔓延(まんえん)して、生物多様性に悪影響を及ぼしている。そのうえ、耕作放棄地、休閑農地あるいは畦畔(けいはん)の緑化管理等を目的として、新たな外来植物が無秩序に次々と導入され続けている。
 
このような実態は、省力的な緑化や農地管理に対して外来植物がもたらす便益もさることながら、それらによる生態系影響リスクの増大を放任していることにほかならない。
 
そこで、そのようなリスクを軽減して生物多様性を確保するために、新たに導入を図ろうとする外来植物について事前に生態系影響評価を行うための制度の導入や、そのための手法づくりが農業分野においても不可欠といえる。
 
本研究会では、新たに導入する外来植物の生態系影響評価手法の確立に向けて、1)生態系に蔓延している外来植物の分布拡大戦略を生長および繁殖特性から明らかにし、生態系を加害する外来植物の種生態的特性を整理するとともに、2)強いアレロパシー活性に起因して分布を拡大している外来植物の事例をもとに、外来植物の化学生態的攻撃性がもたらす危害について話題提供を行い、総合討論では、生態系影響評価手法についての議論を深める。
 
日  時 平成16年3月5日(金) 10:00〜17:00
場  所 農業環境技術研究所 大会議室
主  催 農業環境技術研究所
 
  プログラム  
     
1. 理事長あいさつ 農業環境技術研究所/陽 捷行 10:00-10:10
     
2. 開催趣旨の説明 農業環境技術研究所/小川恭男 10:10-10:30
     
   パート1: 外来植物の実態と生物多様性
   座長 農業環境技術研究所/井手 任  
3. 生物多様性を救う保全生態学 10:30-11:15
  九州大学/矢原徹一  
4. 帰化植物の実態−全国ネットワーク調査から− 11:15-12:00
  九州沖縄農業研究センター/森田弘彦  
     
   パート2: 意図的に導入した外来植物の生態学的特性からみた
          便益とリスク
   座長 農業環境技術研究所/荒谷 博  
5. 法面植生管理への被覆植物の導入と問題点 13:00-13:30
  兵庫県立農林水産技術総合センター/福嶋 昭  
6. 長野県千曲川水系におけるニセアカシアの侵入 13:30-14:00
  長野県自然保護研究所/前河正昭  
     
   パート3: 外来植物の化学生態的攻撃性
    座長 農業環境技術研究所/平舘俊太郎  
7. 多摩川中流域の河川敷植生構成種の他感作用 14:00-14:30
  東京農工大学/浦口晋平  
8.
 
侵入・導入・帰化植物の他感作用と含まれる有毒成分・化学生態特性 14:30-15:00
 

 
農業環境技術研究所/藤井義晴
 

 
  休憩 15:00-15:30
     
   パート4: 新たに導入する外来植物の生態系影響評価とその規制
   座長 農業環境技術研究所/小川恭男  
9. 外来植物の規制に関する法律とその考え方 15:30-16:00
  環境省/野生生物課・担当官  
10 新たに導入する外来植物の生態系影響評価手法の考え方 16:00-16:30
  農業環境技術研究所/大黒俊哉  
  総合討論 16:30-17:00
 
参 集 範 囲 国公立・独立行政法人機関、大学、行政部局、民間団体
事務局連絡先
 

 
農業環境技術研究所 生物環境安全部 植生研究グループ長
 小川恭男
    Tel & FAX029-838-8243
    E-mail: ogaway@affrc.go.jp
 
 
 

国際共同セミナー:「アジア・太平洋諸国における侵入生物
による環境影響とデータベース構築」が開催された

 
 
 上記の国際共同セミナー(情報:農業と環境 No.42)が終了した。つくば市ホテルグランド東雲で平成15年11月13〜15日に開催されたこのセミナーには、11カ国(オーストラリア、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、台湾、タイ、アメリカ合衆国)の研究者が参加した。ここにセミナーのまとめを紹介する。
 
緒 言
 この国際セミナーは、外来生物による侵入の速度が増していることに対して、社会的な関心が高まるなか、農業環境技術研究所(日本)とアジア太平洋地域食糧肥料技術センター(台湾)によって共同開催された。
 
 世界貿易の振興に即して、アジア太平洋諸国は貿易に対する障壁を取り除き、その一翼を担っている。食用作物は育種改良が進み、世界貿易の重要品目となっているため、多くの病虫害も輸入作物とともに世界中を行き来している。ここ数年をみると、加害生物の予期せぬ侵入が著しく増加している一方、アジア太平洋地域には、侵入生物として動物、植物、微生物などすべての生物が、めまぐるしい勢いで流入している。とくに、これらの侵入生物は、新天地で天敵の影響を受けないために、人類と動植物の健全性を脅かす侵入加害生物になっている。
 
 アジアの農業者はすでに自由貿易の影響下にあり、その立場は、新たな病虫害問題に直面するならば、ますます悪化するだろう。もし、彼らを病害虫の予期せぬ侵入から守ろうとすれば、注意深い監視と速やかな防除が不可欠である。
 
 侵入生物がアジア農業にもたらす被害は、莫大な額である。外来雑草は草地や耕地を侵略して荒廃させ、外来の病原菌と害虫は作物収量の低下原因となっている。さらに、これらの収量減による直接被害額に、侵入生物の防除費用が加算される。このような被害状況の具体的な事例として、セミナーでは、次のような中国の例が報告された。
 
 「中国では、32種の昆虫、23種の病原菌、108種の雑草が外国から侵入し、それらによって11億USドルの直接被害がある。また、それらを防除するために7億USドルをかけている。また、上海市の水路と湖では、ホテイアオイを除去するためにかかる費用が2001年には750万USドルであった。しかし、翌年には2,300万USドルに増加した」。
 
 一方、セミナーにおけるその他の報告は、新たな侵入加害生物に関する有益な情報、それらを検知して制御するための新しい科学技術など、いずれも貴重で重要なものであった。そして、セミナーの成果を取りまとめる出口として、アジア太平洋地域における侵入生物情報のデータベース(APASD)についての報告があった。
 
 18人の研究者による報告とそれらに基づく論議は、データベースの背景として、アジア太平洋地域の侵入加害生物を対象とした貴重な近年の研究情報源となった。以下に、セミナーにおける重要な指摘を要約する。
 
外来生物の導入
 すべての外来生物が、必ずしも望ましくないものではない。実際、アジアを含むすべての農業国で、さまざまな原産地の作物が栽培されている。また、その他の外来生物が農業加害生物を生物的に防除することを目的として、意図的に導入されている。1963年以降タイでは、39種の外来昆虫がさまざまな雑草と害虫の防除のために導入され、それらは有益な外来昆虫種として特徴づけられた。
 
 いくつかの報告で強調されたように、大部分の外来生物は有益で人間生活を豊かにする。しかし、新天地における外来生物の影響予測は難しい。経済、環境、または両者に有害な予想もしなかった影響があるかもしれない。そうしたことが起こってから、適切な監視や防除措置を開始することは難しい。外来生物の管理方法と適用手段に関する決定は、時として遅れることがある。さらに、多くの決定は、技術的というよりむしろ政治的になされる。それらによって、農産物と栽培用種子の国際貿易を含む世界貿易に従事する調整者間に摩擦がおきる。
 
 望ましくない外来生物の大部分は、予期せぬ侵入であると考えられる。しかし、アジアで現在被害を及ぼしている外来生物の多くは、導入することに何らかの利益を期待した人々によって、意図的に導入された。
 
意図的な放出
 多くの場合、外来の種の意図的な導入には、環境中に定着させようとする目的があった。しかし、天敵や個体群形成を規制する制限要因が存在しないために、しばしば、環境中に放出した外来生物は、高い分布拡大能力を発揮し、新たな生息地において旧来種に代わって優占した。その結果は、環境の質的荒廃や生物多様性の低下となる。
 
アジアにおいて後に大きな問題となった意図的な放出に関する、多くの事例が報告された。それらのいくつかを下記に示す。
 
ホテイアオイ
 ホテイアオイはアジアの主要な水生雑草であり、タイとその他のアジア諸国に、鑑賞用植物として意図的に導入された。原産地は南〜中央アメリカであり、中国には、同じ種が養豚用の飼料として導入された。現在、ホテイアオイは、すべてのアジア諸国において水路の障害物となり、大きな問題となっている。また、マレーシアでは、淡水魚の生産性向上を目的としても導入された。しかし、インドネシアでは、水面を厚く覆うマットとなり、むしろ淡水漁業に被害を及ぼしている。このように、ホテイアオイは、水路交通網の物理的障害物になるほか、水面を閉鎖して淡水魚の餌資源を損耗させている。
 
土壌保全植物
 主要雑草となった多くの植物は 、大規模な伐採地における土壌浸食防止事業に導入された。これらの植物は、本来せき薄土壌でも生育可能で生長速度が速い種であることが多い。中国では、そのような種として、オーストラリアからユーカリ類、日本からマツ類、アメリカから多くのイネ科が導入された。これらの多くは雑草化し、野生種を含む地域自生種に取って代わった。著しい被害を及ぼした種のひとつに、被覆植物および土壌浸食防止を目的としてタイに導入されたミモザ(Mimosa pigra)がある。この種は、きわめて多くの種子を生産し、それらは長い休眠期間を持っている。タイでは、多く湿地で棘のある厚い藪を形成し、現在、マレーシアのペナン、ペリス、ケランタン地方に分布を広げ続けている。
 
ギンネム
 意図的に導入した植物は、利用方法が変化すると、時として厄介者になることがある。中央アメリカを原産地とするマメ科木本のギンネムは、食用作物および荒廃土壌の修復を目的として、多くのアジア諸国に導入された。台湾では、この木は数百年前に食用作物および燃料として導入されたが、もはやそうした利用はなくなった。1980年代から、台湾では遠隔地にある農地が放棄され、そうした多くの地点ではギンネムが広がって単純群落を形成している。また、部分的に樹冠が閉鎖されてない林地も侵略している。しかし、ギンネムは多くの種子を生産し、伐採後も数十本の萌芽が発生するので、これを除去することは難しい。さらに、強い他感作用を発現させ、ギンネムの周辺に生育している競争相手の植物を殺すことができる。台湾における最近の防除プログラムは、ギンネムの高い光要求性を利用している。すなわち、小面積であれば、伐採と切り株の再生に対する除草剤散布で除去処理を行った後に、生長が早い自生樹木をそこに植栽すると、それらの生長によって光環境が改変される。結果として、自然植生がギンネムを遮ることが期待される。
 
テラピア
 テラピアはアフリカ原産の淡水魚で、アジアに養殖を目的とした食用魚として導入された。しかし、インドネシアのプランパン湖のようないくつかの地域では、テラピアが勢いよく広がっている。その結果、在来の魚類に個体数と種数の減少を招いた。
 
スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)
 スクミリンゴガイは、ジャンボタニシとしてもよく知られ、有用生物として意図的に導入された後、主要な有害生物になったひとつの例である。スクミリンゴガイは熱帯から亜熱帯の南アメリカ原産で、多くのアジア諸国にタンパク食料源として導入された。元々は養殖されていたが、すぐに逃げ出して、水田、灌漑(かんがい)水路などの湿地環境で増殖した。水稲の幼植物を加害し、人間に深刻な病気をもたらす住血吸虫(the rat roundworm)の中間宿主にもなる。セミナーでは、生息北限域である日本におけるスクミリンゴガイの分布と防除について報告され、大部分は水田を生息地とし、それらのほとんどは日本で越冬しないようである。しかし、灌漑用水路や他の好適環境で越冬した個体は、春に水田で繁殖し、生存を保証するのに十分な個体群を確保する。こうした知見は、冬を越えて野外で生存するスクミリンゴガイの効果的な防除の基礎になると考えられる。しかし、もっとも重要な防止策は、まだ侵入していない地域に運び込まないようにすることである。
 
予期せぬ侵入
 予期せぬ侵入は、さまざまな農産物などに混入して生じることも多い。セミナーでは、韓国における雑草の予期せぬ侵入についての報告があった。すでに、韓国で定着している外来雑草は300種以上に及んでいる。これらの3分の1以上は、近年の侵入によるものであり、それらは1980年以降報告されている。侵入の経過については完全には把握できていないので、今後もさらなる雑草の侵入が考えられる。韓国における外来雑草の分布に関する研究は、たいていそれらが港の近く、道路沿いまた埋立地で発見されることを指摘している。このことから、外来雑草がそれらの雑草種子が混入した輸入穀類とともに持ち込まれたことが考えられる。外来雑草は、かく乱された荒蕪(ぶ)地と埋立て後の農地に、たしかによく見られる。
 
 海外から入った植物病原菌のほとんどすべては、予期せぬ侵入によるものである。例をあげると、インドネシアの海岸地帯のアラビアコーヒー農園をほとんど消滅させたコーヒーさび病菌(Hemilia vasastrix)、同国の農園を攻撃した茶もち病菌(Exobasidium vexans)がある。また、タイにおける2つの重要な侵入植物病原細菌である、スイカ果実汚斑細菌病菌(Acidovorax avena)およびジャガイモ青枯病菌(Ralstonia solanacearum)は、国際的な種子の輸出入に伴って、汚染種子により持ち込まれたと推察されている。ジャガイモ、トマトそしてショウガなど多くの重要作物を加害する青枯病菌は、栽培用に輸入された汚染ジャガイモ塊茎中に潜伏し、それとともに侵入したと考えられている。タイに分布する青枯病菌の遺伝的解析により、タイのジャガイモ青枯病菌系統は、その他の国の青枯病菌系統と非常に相同性が高いことが判明した。
 
 予期せずに侵入した外来病原菌は、意図的に導入したものより、必ずしも大きな被害を及ぼすわけではないが、それらはより多くの関心を呼び起こす。これは、それらが防除システムによる影響を受けにくいからである。これらの事実からみれば、予期せぬ侵入に関するリスク評価は、さかのぼって実施せざるを得ないのに対して、意図的な導入においては、導入に先立って実施されるべきである。基調講演では、リスク評価とリスク管理は、外来侵入植物の実質的管理の中核をなすべきであることが主張された。
 
リスク評価(リスクアセスメント)
 リスク評価はリスクを定量する過程であり、リスク管理はそのリスクを明確にする過程である。基調講演にあったように、異なった2種類のリスク評価モデルが必要とされ、ひとつは、意図的な放出のためであり、もう一つは予期せぬ放出のためである。意図的導入によってもたらされる損害を軽減するために用いる鍵のひとつは、生物とくに栽培植物の国際貿易に対するより良い規制である。すべての意図的な放出は、予期せぬ放出とは別に、それらが国内に入る前に、前もって評価するべきである。意図的放出のためのリスク評価モデルは、それが過去に環境被害の原因となったかどうかといった歴史が焦点となるだろう。すべてのリスクを管理し、軽減するための計画を策定するべきである。
 
 予期せぬ侵入に対する先取り計画は、不可能といえる。なぜなら、予期せぬ侵入に際して、どんな生物種が混入しているのか、あるいは、それがどこに入っているのかを、それらが運び込まれる前に知ることはできないからである。予期せぬ侵入に対するリスク評価モデルは、それらが分布を拡大しそうな経路に焦点を当てると同時に、他の国でその種がもたらした被害の歴史に焦点を当てる必要がある。
 
 実際に、どんな生物種が問題になるのかを予測することは困難である。例えば、生態系を変質させる侵入植物を特定することは難しい。ひとつの指標として、その種がどこかで問題を起こした事実があるかどうかが考えられる。もし、ある種が侵略的な挙動を示した事実があれば、その種は危険な存在である可能性が大きい。そのほかの一般的原則として、ある種が自然界に広い分布域を有し、増殖率が高く、増殖のための大きな個体群を持っているとき、その種は侵略性が大きいといえる。また、生息地でいえば、ある生息地が著しいかく乱を受けているとき、侵入しようとしている種と類似した種が生息しないとき、種の多様性が低いときには、その生息地は外来種の侵略におかされやすい。
 
 これらの原則は高リスクとなる種や生息地を特定するために役立つけれども、実際には、大部分の国では、いかなる生息地も外来種によって侵略されるとは思っていない。したがって、国が特別な事態として考えていることに対して、一般的な原則を適用することは難しい。さらに、リスク評価の経費が妥当であると、みなされないかもしれない。経費を支払う集団は結果を期待するのに対して、先買い的な行動が外来種の侵略を防いだという事実、あるいは侵略後にそれらがもたらす被害を軽減したという事実を証明することは困難である。
 
 さらに、一般の人々は、在来種のそれぞれが同一の価値を持っているとは考えていない。その土地に特有な鳥の保全は、一般には、在来のミミズの保全よりも重要であると考えられている。もう一つの問題点は、ある外来生物のもたらす結果が、すべての人々に同じようには受け止められないことである。用材となる外来樹木種の導入は、用材林の所有者にとっては経済的な便益となる。しかし、それは、地域の人々にとっては、経済的に困難をもたらすかもしれない。すなわち、かれらの伝統的な経済は、彼らの環境におけるそのような変化に対して、必ずしもよく適合しないからである。基調講演では、外来種の導入がもたらす潜在的な危害や苦痛、とくに、人々の生活と生計に直接影響するものを特定し、そのことについて、より多くの人々の理解を得る必要性が強調された。
 
 島嶼(とうしょ)は、とくに植物や動物によって侵略されやすい生態系を有している。また、島嶼には、他のどこにもないユニークで固有な種が、しばしば生存している。セミナーでは、ニュージーランドの生物安全に関連して、外来雑草に対する4種類のリスク評価モデルついて報告があった。
 
 Eslerが作成したモデルのひとつは、2種類の異なる評価内容に対して評点を与え、その評点に応じて有害植物としての相対的な重要性を評価するものである。評価内容のひとつは、植物が持つ定着と分布拡大能力を示す項目などであり、生物的侵略性を定量する。もうひとつは、植物の持つ有害な性質を示す項目であり、雑草性を定量する。
 
 2番目のモデルは、3つのセクションにまたがる49の質問票である。各セクションは、分布と好適気象条件のような生物地理学的事項に関する質問票、毒性と家畜に対する低い嗜好性など望ましくない特性に関する質問票、繁殖と拡大にかかわる特性を含む生物/生態学的事項に関する質問票からなっている。評点に準じて、植物は輸入可能あるいは不適の位置づけをなされる。
 
 3番目のモデルは水生植物に関して作成されたものであり、4番目のモデルは、外来植物が、もしニュージーランドの自然環境に入ったとき、その潜在的な驚異を評価するためのものである。
 
検知と監視
 外来種の影響は大きな被害をもたらしているので、侵入生物の蔓延を最小限に食い止めるために、もっとも実現可能な検知および監視システムを構築することがとても重要である。セミナーでは、外来の侵入生物の脅威に対抗するための国内システムについての報告がいくつかあった。中国では、隣接国と主要貿易国における外来加害生物の特定、検疫すべき加害生物の検知と同定の強化、外来加害生物の進入経路の特定、入り込んでしまった生物種を防除するための環境に優しい方法の確立、こうした順に重要性を定めている。外来加害生物の生物学的特性に基づいた監視技術が必要であることが指摘された。
 
 台湾の動植物防疫検疫局(BAPHIQ)では、植物防疫検査ならびに新たに侵入した加害生物の最新情報を得るための国内監視システムを実施している。日常的な監視としては、外来のミカンコミバエ(Oriental fruit fly)、ウリミバエ(melon fly)、シロイチモジヨトウ(beet armyworm)、ハスモンヨトウ(tobacco cutworm)、その他49種の植物の害虫と病原菌に、焦点を絞っている。また、34カ所の診断所は作物に加害する生物の同定を支援している。
 
 すべての国々で、輸入農産物と国際的な旅行者の流れが増加している。これにより、防疫検査所が増え続ける貿易物資の流れを監視することは、困難になってきている。セミナーでは、防疫検査の標的が植物の害虫と病原菌に絞り込まれる傾向があることが指摘された。多くのアジア諸国で、生物生息地を加害する生物についての検疫が不十分になっている。
 
 もう一つの問題点は、侵入生物種の同定である。侵入生物は植物、昆虫、微生物の多岐にわたっているため、防疫検査官と農業者になじみのない種が多い。
 
生物種の同定
 新たな侵入生物の迅速かつ正確な種の同定は、きわめて重要である。しかし、ほとんどの防疫検査官と検査所スタッフは、加害生物や雑草を実際に同定するための分類研修を受けていない。そのため、かれらが迅速かつ正確に種を同定することは困難であるかもしれない。とくに、今までに見たことがない新しい外来種に遭遇した時には、そうなるだろう。しかし、幸いにも、種の同定を支援するソフトウエアがあり、セミナーでは 、オーストラリアのクイーンズランド大学で開発された2種類の支援ソフトについて報告があった。ルーシッドプロフェッショナル(Lucid Professional)は、分類学者が種の同定のための電子的な検索表を構築する目的で使用するソフトウエアである。作成した検索表は、未知の種を特定するために活用でき、CDやインターネット上で使用できる。検疫機関が多くの専門的な検索表を構築するために、このソフトはすでに使用されている。ルーシッドフェニックス(Lucid Phoenix)は、既存の検索表を、インターネットを通じてアクセスできる検索表に変換するために用いる新しいソフトウエアである。
 
遺伝的関係を解明する分子レベルの研究
 遺伝的関係を解明する分子生物学的な手法は、種の身元を確認するための有力な助けとなり、特定の外来生物害の起源を知るためにも役立つ。これらの手法は、検疫機関や検査所のスタッフには不向きであるが、訓練を受けた科学者集団が利用する場合、きわめて有効になる。また、将来には、検疫機関や検査所スタッフがはっきりしない種を同定するためにも有効になる。
 
 PCR法(DNA増幅法)のような 新しい遺伝子解析手法は、病原性の細菌や糸状菌の系統を特徴づけることを可能にする。この方法により、タイプの違いと国の違いとにおける関連を解明できるので、侵入経路を指摘することができる。セミナーでは、日本において、ショウガとその他の作物を枯らす細菌のPCR分析結果について論議された。タイプIIIの2種類が特定され、これらはそれぞれ異なった輸入種子に混入して日本に侵入し、タイプIはタイから、タイプIIはオーストラリアに起源をもち、中国経由で侵入したと考えられた。
 
 パパイヤリングスポットウィルスの遺伝子解析についてもセミナーで報告され、2種類のバイオタイプがあり、パパイヤだけに感染するタイプ、そのほかスイカとウリ類にも感染するタイプがある。後者は、ウリ類に付着してアジアを移動し、ある時アジアにおいてパパイヤにも感染できるウィルスに突然変異したと考えられる。また、この変化は、ひとつのアミノ酸の突然変異に基因し、たぶん一度だけの変化ではなく、異なったアジアの国々で何度も独立して起こったものと考えられる。
 
 一方、日本における西洋タンポポの侵入、交雑にともなう遺伝子流動、ならびに遺伝子の拡散についての研究紹介があった。在来植物と非常に類似した種の導入がもたらす影響についての興味深い事例であり、西洋タンポポと日本タンポポとの遺伝子交雑について、希少種保全の観点から論議された。
 
拡散経路
 拡散経路は、外来生物のリスクを評価・管理するために中心となる重要事項である。必要になる情報は、経路の源、経路そのもの(ベクターといわれる運び手、侵入の頻度と程度)、上陸地点である。
 
 拡散経路の管理は、侵入生物を防除するための、最良の方法となることが多い。セミナーでは、フィリピンにおけるクロカメムシの一種(rice black bug)の拡散経路についての報告があった。イネの主要害虫のひとつであるこの虫は、カンボジアや他の南アジア諸国では一般的であったが、1979年以前のフィリピンでは、パラワン以外で見つからなかった。しかし、1980年代には、ミンダナオとビサヤス地域にも拡散している。飛翔(ひしょう)性が弱いので、ミンダナオやパラワンには船で運ばれたと考えられ、その一つにフィリピン島嶼に人と物資を運送するフェリー便がある。しかし、ひとたび定着すると、ミンダナオ内には、それ自身で拡散可能である。このカメムシに対する天敵はウォレス線の西側ではこの虫と一緒に見つかるが、東側には見つからない。このことから、たぶん東側が元々の侵入箇所であることが示唆される。また、ウォレス線の西側からは、この虫を制御するための生物防除プログラムに使用できる、重要種がたぶん供給されるであろう。その間、パラワンではイネの一斉移植や直播などの耕種法がかなり有効な防除方法になる。
 
侵入生物の防除
 すべての国々は、外来種の予期せぬ侵入を防ぐための防疫所と監視システム、ならびに意図的な放出に関する厳しい監視体制を備えている。しかし、的確な予防にもかかわらず、外来の加害生物と雑草の侵入はさけられない。それゆえ、問題は、それらの管理と防除ということになる。
 
 多くの侵入種は定着しない。また、定着するものでも、必ずしも危害を加えない。基調講演では、上陸した10%の種が定着し、そのうちの10%だけが生態系に影響を及ぼすという「10のルール」が言及された。
 
 次に問題になるのは、農業と自然環境を加害する外来侵入種に関して、確実で、経済的にも実行可能な根絶方法があるかどうかである。定着した外来種を根絶するための効果的なプログラムは、比較的に少ない。例として、不妊虫放飼法(Sterile Insect technique、不妊の昆虫を環境中に放出して個体群を減少させる方法)による、沖縄におけるウリミバエとミカンコミバエの根絶があり、最近では、この方法がアリモドキゾウムシ(sweetpotato weevil)の根絶のために適用された。根絶効果が短期間の場合には、この方法は非常にコスト高だが、沖縄では効果が長いので、高コストであっても実現可能である。沖縄は、日本で唯一、輸送が管理されている。また、イネミズゾウムシは長い距離を飛翔できないので、沖縄での再侵入を防ぐためには、移入または輸入物資を検査しなければならない。
 
 他の諸国においては、侵入有害の根絶は、多くの場合、技術的または経済的に不可能である。例えば、台湾におけるナンヨウネズミ(Polynesia rats)は根絶できなかった。しかし、毒餌の使用により、個体数を低い水準に抑制して、島からの拡散を防止することは可能であった。
 
データベース
 侵入生物に関するデータベースであるAPASD (Asian Pacific Alien Species Database)は、農業環境技術研究所(NIAES)において構築が進められている。セミナーでは、NIAESの山中氏が、その構造、仕様、目的について説明した。侵入生物に関する情報には、「それがいつ侵入したのか、実際に定着したのかどうか、広がっているのかどうか」のほか、それらが引き起こした経済的被害や防除方法などが含まれている。また、その侵入種に関連した最近の公表情報の紹介も含まれている。山中氏は、もしデータベースがうまくいけば、すべての国から外来侵入生物に関する持続的な情報提供が必要であることを強調した。NIAESはすでにプロトタイプを作成し、松井氏によってその実演が行われた。松井氏と彼の部下は、すでに有効になった情報と今後データベースに必要となる情報を参加者に説明するために、いくつかの記録をデータベースに入力していた。
 
侵入生物:結論の概要
 東南アジア諸国の在来植物群集は、競争と遷移の長い歴史の産物である。ユーラシアのようなひとつの陸域においてさえ、地域や地方ごとに固有の生態系がある。動植物は、それらの分布を無制限に拡大できない。生物の移動と拡散能力を制限するようなすべての障壁が、地域や地方ごとの固有な品種と種の発達を導いた。しかし、国際的な貿易と渡航者の増加に伴って、地理的障壁は、もはやそのような状態を維持することはできなくなっている。
 
 導入されたすべての種が定着するわけではない。定着したもののうち、わずかな割合だけが重大な問題の原因を引き起こす。リスク評価は、問題を起こす種かどうか、根絶プログラムの経費が適正かどうかについての有効な指針となる。これらのシステムは常に改善され続け、われわれは今後の研究によって、それらをなお一層発達させることができるかもしれない。人々に対する教育もまた重要であり、それによって農業者や検疫所のスタッフだけでなく、一般の国民も同じように外来種の重要性を認識し、それらについてなすべきことを理解することができる。
 
 外来種の分布を示す世界・地域の地図は、大変有用である。なぜなら、生物の情報を世界的に共有することにより、規制のための決定が質的に著しく改善されるからである。検知と根絶の方法に関する迅速な情報は、とくに重要である。しかし、そのような情報は、加害生物が定着していない国では、入手できないことが多い。APASDのような国際的な共有データベースが、そのような決定の根拠として利用できる科学的情報の基盤となるべきである。
 
 ある生物種が侵入生物としてすでに問題を引き起こしている場合は、それが導入されるどのような場所でも、同じような問題を引き起こすであろう。したがって、歴史的な情報は重要となる。また、拡散経路は、政治的見地からみると扱いにくい部分を含んでいるが、意図せぬ侵入問題においては重要である。
 
総合論議
 Andow氏は、提示された新しいデータベースは広い地域をカバーすべきであることを述べた。また、第一段階として欠かせないことは、リスク分析、外来種の検出、分布情報を含めることであり、その他の重要な要素を網羅するためのデータベースの拡張は、後で行うこともできる、と提案した。
 
 Norton氏は、データベースは、使用する者が必要とする情報にあわせることが不可欠であり、「過ぎたるは及ばざるがごとし」が示すとおり、多すぎる情報は使用者に過重になると主張した。また、既存の情報源の確認とそれらとのリンクが重要であり、有用情報を入れて速やかに一般的なデータベースとして公開すること、データベースに対する強い関心と充分量のアクセスがあるかどうかを確認することが必要である、と主張した。さらに、データベースが適正であり、維持、拡張され続けるようにすることも必要であると述べた。
 
 最終的な論議においては、データベースの将来の発展方向について、以下のような数多くの指摘があった。
●データベースの対象地域は、侵入生物が世界的関心事であることから、地域的というより世界的である必要があるかもしれない。
●魚類、とくに淡水魚類も対象に入れることができるのではないか。
●外来種の導入を政策的に規制している国の現在の規制と防疫制限条件についてもデータベースに入れられるのではないか。このことは、農産物の輸出市場の拡大を図っているアジア諸国への支援となる。
●地域言語に翻訳すべきである。もし英語だけであったら、データベースの重要な利用者である農業者や地域の検査所の専門家には使えない。
●データベースは早期警報の役割と密接に関連しているので、監視行動を強化する必要がある。将来GISデータを加えることも考えられる。
●侵入有害生物、とくに新たに侵入した種についての天敵情報を加えるべきである。
 
 しかし、参加者は、データベースを構築することと、既存のデータベースと協調させる試みを行うことについて優先することに同意した。初期段階で重要となるのは、中心になるシステムであり、多くの新しい詳細な情報を付加しようとする必要はない。詳細な情報については、データベースが成熟した後の段階で付加できる。現段階では、データベースをいかに作成し、いかに維持するかが焦点になる。
 
 外来侵入生物に関する情報の一部は、政治的に扱いにくいことが指摘された。そのような情報を広く利用できるようにすることは、輸出市場に悪影響をもたらすかもしれない。もう一つの見解は、新たな侵入生物が公表されることが、防疫機関の失敗あるいは不名誉として受け止められるかもしれないため、緊張の原因となる。防疫機関の人々と科学者との連携が、いずれの国においてもきわめて重要であり、この連携を尊重すべきであることが同意された。新たな侵入生物に関する情報の普及が損なわれるかもしれないが、侵入生物に関する公式情報は、許可なく普及されるべきではない。
 
 ある侵入生物が定着し始めたときには、この情報を公表することについて、何ら問題がないことが合意された。アジア・太平洋地域のある国において新たな侵入生物となる種の大部分は、すでに他の国に定着している。うまくいけば、データベースは、自らの国に新たに侵入した加害生物と直面した人たちに情報を提供できる。そうなれば、なぜこの情報が必要であるのかについて、かれらに説明する必要がなくなるかもしれない。
 
 データベースの今後の発展に関して、農業環境技術研究所(NIAES)の岡氏は次のように語った。データベースはつくば情報センターによってサーバー管理される。パスワードを有する協力者はインターネットを介して、データベースに直接、新たな記録を記入し、あるいは既存の記録を修正することができる。入ってくる新たなデータの堅実さと信頼性を確保するために、専門委員会がそれらを持続的に評価する。
 
 データベースが成功を収めるために、外来侵入生物に関する情報をすべての国から継続して収集する必要性について、引き続き強調された。岡氏は、2004年に台湾で次の会議を開催することを通知し、最後に、情報交換のために、NIAESとの連携を保つことを参加者に要請する一方、NIAESも参加者の助言と意見を得るために参加者との接触を保ちたいと伝えた。また、参加者が自国の侵入生物の新たな記録に関する情報を、引き続き提供してもらえるよう希望した。
 
 なお、この国際会議に関する疑問点などは、生物環境安全部植生研究グループ長の小川恭男(Tel:029-838-8243, E-mail:ogaway@affrc.go.jp)にお問い合わせください。
 
 
 

第23回農業環境シンポジウム/
第1回日韓共同研究会合同国際シンポジウムが開催された

 
 
農業環境技術研究所が主催する第23回農業環境シンポジウムおよび第1回日韓共同国際シンポジウム「農産物から重金属汚染を低減する農業戦略とテクノロジー―カドミウム汚染リスクを減らす―」が、11月20日、21日の両日、つくば国際会議場において、農林水産技術会議事務局と韓国農業科学技術院の後援で開催された。参加者は、海外からの参加者22名を含めて207名であった。
 
カドミウムのリスク評価結果が、本年6月にJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会)から公表された。今後、コーデックス(CODEX)本会合で食品中のカドミウム濃度が検討され、世界中の多くの国々は、農産物のカドミウム汚染について対応を迫られることになる。
 
このシンポジウムでは、セッション1で重金属のリスク評価と食物連鎖、セッション2でヨーロッパ・アジア各国の汚染の実態、セッション3で農作物への汚染の対策技術が論じられた。
 
フランス、ハンガリー、カナダ、オーストラリア、インドネシア、中国、韓国からの9題の招へい講演に加えて、日本から7題の計16題の講演があり、活発な討論が行われた。また、ポスターの部では29題の発表があり、カドミウムの汚染対策技術に関する詳細かつ具体的な意見交換が行われた。
 
CODEXで論議されているカドミウム新基準に対して、関係各国の対応は三つに大別された。1)国際貿易対応(オーストラリア、カナダ、インドネシアなど)、2)農業の持続性確保(日本、フランスなど)、3)健康影響(韓国、日本、中国など)。したがって、コーデックス新基準値に一喜一憂するよりも、それぞれの国の実情に合わせて適切な対策を講じることが重要になってくる。
 
オーストラリアやカナダでは、輸出農作物にターゲットを絞って具体的な対策を立てている一方、参加したアジア各国では、重金属の調査・研究がほとんど行われておらず、国際貿易や健康影響の面から、今後大きな問題になってくるものと思われる。
 
最後に、米国農務省USDAのチェニー研究員から興味のある二つの提案があった。一つは、bio-availability(生物可給性)に関するもので、カドミウムの場合、作物よりも人間に対する可給性がより重要である。コメを主食とするアジアの人々は、コメのカルシウム含量が低いため、カドミウムの人体に対する可給性が高く、カドミウム汚染の危険性がより高くなる。二つ目は、Hyperaccumulator(高集積植物)の定義である。カドミウム汚染土壌は、同時にその100倍の亜鉛を含有するので、修復植物は亜鉛耐性が必須であること。また、Hyperaccumulatorとは、少なくともヘクタール当たり数キログラムから数十キログラムのレベルで有害物質を吸収する種を想定しているということであった。
 
ポスターの部では、とくにコメや大豆のカドミウム汚染対策技術、カドミウム汚染土壌の修復技術などに参加者の高い関心がよせられ、熱心な討議が行われた。
 
 なお、この国際会議に関する疑問点などは、化学環境部重金属研究グループ長の小野信一(029-838-8311)にお問い合わせください。
 
 
 

平成15年度農業環境技術研究所
依頼研究員懇談会が開催された

 
 
 農業環境技術研究所に滞在して研究を行っている依頼研究員と当研究所役職員との懇談会が11月10日に開かれ、各研究員の研究の状況や研究・生活環境について、また受入れ終了後の予定などについて意見交換を行った。
 
 この懇談会には、平成15年度の依頼研究員8名のうち滞在中の7名と、農業・生物系特定産業技術研究機構からの流動研究員として当研究所に滞在している1名が出席した。
 
氏  名    所  属 滞在先グループ、研究室
望月  証  
 
兵庫県立農林水産技術総合センター 化学環境部・重金属研究グループ
小田島ルミ子 
 
岩手県農業研究センター
 
化学環境部・重金属研究グループ
三浦 伸之  
 
鹿児島県茶業試験場総合センター
 
化学環境部・重金属研究グループ
牧  浩之  
 
兵庫県立農林水産技術
 
生物環境安全部・植生研究グループ
上野  達  
 
北海道立中央農業試験場
 
化学環境部・有機化学物質研究グループ
渡部佐知子  

 
広島県立農業技術センター

 
農業環境インベントリーセンター・微生物分類研究室
草田 仁志  

 
山形県病害虫防除所

 
農業環境インベントリーセンター・昆虫分類研究室
(受入れ研究者: 農研機構 流動研究員)  
丸山 篤志  
 
九州沖縄農業研究センター
 
地球環境部・気象研究グループ
 
 研究所からは、理事長、理事、幹事、研究部長、センター長、グループ長、受入れ担当研究者など15名が出席した。
 
 依頼研究員から、現場の問題に関する情報交換や専門の研究者との討論をしている/県では使いにくい実験設備が利用できる/シンポジウム・セミナー等に参加して貴重な情報を得た/受入れ終了後も研究協力を続けたいなどの発言があった。また農環研役職員からは、担当研究者と十分に議論すること/他分野や他法人の研究者とも積極的に交流して今後の仕事に生かしてほしい/今後も情報交換や研究協力を継続してほしいなどの発言があった。
 
 なお、平成15年度の依頼研究員受入れ(申込みは終了)の情報は、インターネットで公開されている(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/rinfo/iraiken/030114.html)ので、参考にされたい。平成16年度の依頼研究員受入れの情報については、平成16年1月末までにインターネットで公開する予定である(研究所ホームページ:http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/)。
 
 
 

生物多様性の指標:価値基準と評価尺度の選択(論文)
 
Biodiversity indicators: the choice of values and measures
P. Duelli and M. K. Obrist
Agriculture, Ecosystem and Environment 98: 87-98 (2003)
 
 農業環境技術研究所は、農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに、侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって、生態系のかく乱防止、生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の一つとしている。このため、農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが、今回は生物多様性の指標の選び方に関する総説を紹介する。
 
要 約
 生物多様性の指標は、評価しようとする生物多様性の構成要素あるいは概念(側面)と直線的な関係にあることが理想的である。しかし、生物多様性の構成要素や側面を調べようとする目的が異なると、価値体系も違ってくる。価値体系が違えば、使用する指標の間にはまったく相関性がないこともある。それぞれの価値体系に対応する生物多様性の指数は、1つあるいは複数の互いに関係の深い指標を用いて作成されている。
 
 農業景観における生物多様性を評価するために、3つの指数が提案されている。これらは3つの価値体系、すなわち「保全」(希少生物や絶滅のおそれがある生物の保護と回復)、「生態」(種の多様性による生態の復元力や生態系機能)および「生物的制御」(潜在的な有害生物に対する拮抗(きっこう)生物の多様性)に対応している。
 
 一般に用いられる指標が適切で信頼できるかどうかは、次の3段階の手順で確認すべきである。最初に、その目的と価値体系、そしてそれらと関係のある生物多様性の側面や要素を明確にしなくてはならない。第2段階では、時間をかけて、この3つの価値体系あるいは目的のうちの1つ以上に関して、数多くの生息地をできるだけ詳細に調査する。第3の段階として、測定が容易な指標を選択して、第2段階で数値化した各要素との直線的関係を調べる。
 
 十分に信頼でき、広範囲に適用可能な指標を作成するためには、指標が評価対象とする要素のうち数値化できるかなりの部分と直線的な関係にあることを確かめる必要がある。現在、利用されている指標や提案されている指標のすべてを、必要とされる価値体系別に整理しなおし、それらを経験的な尺度と比較することが新たな課題になっている。
 
 
 

わが国の環境を心したひとびと(3):中川金治
 
 
はじめに
 環境とは、自然と人間との関係にかかわるものであるから、環境が人間と離れてそれ自身で善し悪しが問われるわけではない。人間と環境の関係は、人間が環境をどのように見るか、環境に対してどのような態度をとるか、そして環境を総体としてどのように価値付け、概念化するかによって決まる。すなわち、環境とは人間と自然の間に成立するもので、人間の見方が色濃く刻み込まれているものである。
 
 だから、人間の文化を離れた環境というものは存在しない。となると、環境とは文化そのものである。すなわち環境を保全するとか改善するということは、とりもなおさず、われわれ自身を保全するとか改善することにほかならない。
 
 そのためには、われわれの人生の豊かさ、心の豊かさが必要であろう。人生の豊かさ、心の豊かさを問うことは空間の豊かさを問うことから切り離すことができない。豊かな環境とは、空間の豊かさであろう。空間の豊かさは、次の三つの思想を通して追求されてきた。ひとつは、西行や慈円などに見られる文学や宗教にかかわる思想である。もうひとつは、熊澤蕃山や吉岡金市などに見られる水理や公害など科学にかかわる思想である。最後は、風土の概念を導入し、空間と時間を環境につなげた和辻哲郎に代表される哲学的な思想であろう。
 
 このような観点から、「わが国の環境を心したひとびと」と題したシリーズを先々月から始めた。第1回目は熊澤蕃山、第2回目は栗田定之丞を紹介した。第3回目の今回は、飛騨高山の山奥に生まれ林学を学んだ中川金治を取りあげる。
 
思想は外からやってくる?
 われわれ日本人は、古来、思想は外からやってくるものと思いこんでいるのではなかろうか。宇宙飛行士のエドガー・ミッチェルは、宇宙を訪れて、「心の底から故郷、存在、アイデンティティーといった感覚がわいてきた。その感動を私は瞬間的な地球意識と呼びたい」と語っている。その後、この言葉は、ミッチェルによって初めて語られたかのようにわが国で流布される。果たしてそうか。
 
 宮沢賢治は彼の「書簡」の中で、すでに「宇宙意識」について語っている。つまり、「・・・ただひとつどうしても棄てられない問題はたとへば宇宙意識といふやうなものがあってあらゆる生物をほんたうの幸福に齎(もたら)したいと考へてゐるものかそれとも世界が偶然盲目的なものかといふ所謂信仰と科学とのいずれによって行くべきかといふ場合私はどうしても前者だといふのです。・・・」
 
 同じように、森の大切さを強調するのに、アルド・レオポルドの著書「野生のうたが聞こえる」や、レイチェル・カーソンの著書「失われた森」は引用されるが、石 弘之の実録「世界の森林破壊を追う」や、森林総合研究所東北支所が出版した「東北の森:科学の散歩道」などは活用されない。
 
 われわれは、環境を守る多くの思想を古くからもっている。中川金治は奥多摩の山並みのそのまた奥で、水源林の造成を行い森林を守ったまさに「わが国の環境を心した人」であった。
 
中川金治と祠(ほこら)
 中川金治は、明治7年(1874)に飛騨高山の山奥の岐阜県坂下村(現在の宮川村)に生まれた。林業を学んだ後、志をいだいて上京し、帝国大学農科大学(現東大農学部)の篤志林業夫となった。そのとき農科大学で林学を担任していた教授は、わが国で最初の林学博士になった本多静六であった。当時、東京府から水源林経営の立案を頼まれていた本多静六は、山中深く分け入り、この計画を実現できる人材を懸命に探していた。
 
 中川金治こそ、目指す人であった。本多静六に認められた中川金治は、明治35年(1902)奥多摩に入り、昭和20年(1945)戦時中の疎開で故郷に戻るまでその生涯を水源林経営に捧げた。中川金治は、森林が生命はもちろんのこと、生命に必要な水を育み、大気に酸素を供給し、大気の二酸化炭素を吸収することを知っていた。今では、農林業のもつ環境保全機能という言葉で表現されるように、森林はわれわれ人間のために多くの機能を提供してくれているのである。洪水・渇水緩和機能、土壌侵食防止機能、土砂崩壊防止機能、水質浄化機能、大気浄化機能、生物相保全機能、保健休養機能などがその例である。
 
 中川金治は、100年後あるいは200年後の森林を思い描き、植林と製材、炭焼き、ワサビ栽培など山村の生活を支える方法を考え、子供たちの未来の幸せを願って森林を造ったといわれる。「山の御爺(おんじ)」といわれた中川金治は、背が高くて、大きな登山靴をはいていたといわれる。東京から山奥に帰ってくるときは、絵本、童話の本、人形などをリュックに一杯詰め入れてきたという。それらを村の子供たち一人ひとりに、頭をなでながら「よい子になれよ」と、与えたという。みんなが、御爺はまだかなあ、と彼の帰りを待ちこがれたといわれる。
 
 村人たちは、そんな中川に山の神を重ねあわせたのであろう。小さな祠(ほこら)が創られた。奥多摩の山並みのそのまた奥に、広大な東京都水道水源林の山梨県の領域に丹波山村という山村がある。急峻な山に囲まれたこの村の北側の斜面を登りきった所をサオウラ峠という。「サオウラ」とは「竿裏」である。真っすぐ立てた竿の裏のように険しいという意味だそうだ。この峠にその祠がひっそり建っている。
 
 この祠は、昭和10年(1935)奥多摩を守る山の神として村人の手で奉られた。祭神は中川金治その人である。由緒書には「大山祇中川大人之命」とある。由緒書はさらに続く。「中川翁のこの地方の山村民の福利増進に果たされた功績は計り知れず、その余徳を敬慕してこの祠を作り、村人百有余人をもって維持する」と記されている。
 
おわりに
 わが国の木材自給率は21%といわれる。そのうえ、森林の80%は人工林で、生き物の糧が乏しく、森林を守る人も減少の一途をたどっている。森林は、未来に引き継がれる貴重な財産であるうえ、地球の生態系のなかで果たす役割はきわめて大きい。一方では、山に生きる文化の伝承が強く求められている。
 
 中川金治のようなひとびとのお陰で、今われわれは、森林からの水を何の疑問も持たずに利用している。仮に水源造成のための森林がなかったら、われわれの生活は一体どうなるのであろうか。先人のお陰で、現在豊かな生活を送ることができていると思える人がどれだけいるのであろうか。
 
 中川金治は、100年後のわれわれのことを思い森の造成に励んだ。今、それだけの人をわれわれはもっているのか。かれの献身的な努力のお陰で、後世のわれわれは豊かな水を与えられた。森林や水は、世代を越えた豊かな気持ちがなければ、守ることができない。すくなくとも、これから100年先を考えた「森と水」を守る政策が必要なのだ。蛇口の水を両手に受ける朝、せめて一瞬でも水源の森に思いをめぐらせたいものだ。
 
参考資料:読売新聞、平成14年10月7日
 
 
 

本の紹介 133:地球温暖化-世界の動向から対策技術まで-
大政謙次・原沢英夫・遺伝学普及会編、
生物の科学 遺伝、別冊No.17、裳華房(2003)

 
 
 地球環境問題は、人類が直面している環境問題の中で解決が困難なもののひとつである。別の表現をすれば、この問題の解決は百年単位の革命ともいえる。現在の二酸化炭素の濃度380ppmを、産業革命前の280ppmにもどすには百年以上の歳月がかかるからである。「環境」を健全に維持するには、百年単位の計画を構想し、それを実施する革命の精神がいる。
 
 温暖化は、先進国や途上国の区別なく、世代を越えて、地域の違いもなく進行する。そのうえやっかいなことは、エネルギーを使うほとんどの人間活動が原因になっており、対策を施すには費用がかかり、経済に与える影響が少なくないことである。
 
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による科学的知見の評価を踏まえ、国際的に合意された気候変動枠組条約(1992年)や京都議定書(1997年)を契機に、世界は一挙に温暖化防止対策に向かうと思われた。しかし、アメリカの京都議定書からの離脱や途上国の削減協力への拒否行動など、削減を具体的に実施する段階で、各国の足並みが乱れた。
 
 このような状況の中で、地球温暖化に関係するさまざまな問題をこの1冊で理解できるよう、それぞれの分野の最先端の34人の研究者によって執筆されたのが、この本である。「国際的な動き」、「温暖化のメカニズムとモデル予測」、「測定技術とモニタリング」、「温暖化の影響と対策」および「温暖化対策の技術」がその内容である。なお執筆者の一人に当所の職員が含まれている。目次は以下の通りである。
 
別冊『地球温暖化』刊行にあたって
 
<第1編 国際的な動き>
地球温暖化問題における国際的な動き
京都議定書と森林吸収源の問題
 
<第2編 温暖化のメカニズムとモデル予測>
地球温暖化のメカニズムと気候モデルによる予測
地球温暖化に関わる気象・沿岸災害の予測
 
<第3編 測定技術とモニタリング>
温室効果ガスのモニタリングと森林フラックスの測定
極域におけるモニタリングと氷床変動
農耕地からの亜酸化窒素、メタン放出のモニタリング
森林の構造とバイオマスの3次元リモートセンシング
 
<第4編 温暖化の影響と対策>
陸上生態系のモデリングと陸上生態系への影響
生物多様性への影響
生物季節への影響
森林生態系への影響と森林管理
日本の水稲栽培への影響
海洋生態系への影響―サンゴ礁生態系を中心として―
健康への影響と対策
 
<第5編 温暖化対策の技術>
樹木苗の大量生産システムと植林・農業利用
CO削減技術と持続可能型社会
炭素循環の見地からみたCO隔離技術
 
 
 

本の紹介 134:いちばん大事なこと−養老教授の環境論
養老孟司著、集英社新書(2003)
 ISBN4-08-720219-4
 
 
 この本のカバーの見返し部分がよくまとまっているので、はじめにこの部分を紹介する。
 
 「環境問題のむずかしさは、まず何が問題なのか、きちんと説明するのがむずかしいことにある。しかし、その重大性は、戦争、経済などとも比較にならない。百年後まで人類がまともに生き延びられるかどうかは、この問題への取り組みにかかっているとさえいえる。だからこそ、環境問題は最大の政治問題なのである。そもそも「人間社会」対「自然環境」という図式が、問題を見えにくくしてきたし、人間がなんとか自然をコントロールしようとして失敗をくりかえしてきたのが、環境問題の歴史だともいえる。本書は、環境省「二十一世紀環の国づくり会議」の委員を務め、大の虫好きでもある著者による初めての本格的な環境論であり、自然という複雑なシステムとの上手な付き合い方を縦横に論じていく。」
 
 第1章では、環境問題こそ最大の政治問題であることを説く。また、「人間」対「環境」という設定の仕方がそもそも間違いで、人間の身体が自然であることを強調する。特に経済と環境の問題を理解させるための話が大変わかりやすい。
 
 「お金は数字であり、紙神である。それが実態でないことは、だれでも知っている。経済活動にはその意味で虚と実がある。花見酒でいうなら、十文のやりとりは虚で、酒が減るのと、八と熊の二人が酔っぱらうのが実である。極端に単純化するなら、経済とは十文のやりとりを指し、酒の減少とは資源のことであり、八と熊が酔っぱらうことは人が生きることである。つまりグローバル化した経済とは、地球規模の花見酒である。」
 
 第2章では、政治としての環境問題が解説される。また、食の安全が損なわれた理由が述べられるが、そこでは、環境問題とは別な言い方をすれば、何かを手に入れたときのツケであることが明白に語られる。
 
 第3章では、環境問題がどのように始まり、産業革命が起こった理由が語られる。また、日本人の自然観のルーツが、孔子や孟子や荘子や二宮尊徳の例を引きながら解説される。究極は次の一節である。
 
 「環境問題とは、人間が自然をすべて脳に取り込むことができ、コントロールできると考えた結果、起こってきたとみることもできる。それと裏腹に、自然のシステムはとても大きいから、汚染物質を垂れ流しても、「自然」に浄化してくれるだろうという過大な期待もあった。人間は自然を相手にするとき、理解できる部分はコントロールし、理解を超えた部分には目をつぶってきた。一言でいうなら、相手に対する謙虚な姿勢がなかったのである。」
 
 第4章では、生物の多様性を強調する。また、人間は細胞さえつくれないのに、遺伝子で生物を「操作」することの危険性を強調する。ジャンボ機を飛ばしたらエイズが蔓延する例を提供しながら、これまでの科学の限界と、システム理解の重要性を語る。
 
 第5章では、環境と教育が語られる。これまでのこの種の陳腐な論を切り倒し、返す刀で、環境問題なんぞは教壇で教えるものではないと、大上段に構える。「自然史とは、大学の教壇で教えるものではない。それは、人間の生き方(a way of life)です。」という、メリアム・ロスチャイルドの言葉の引用が印象的である。
 
 第6章では、これからの生き方が語られる。この章に期待してはいけない。いつものこの著者の癖がみごとにでるのがこの章である。曰く、学ぶとは、自分が変わることである。目からうろこが落ちる。それを先生に教えてもらってやるのではない。自分で目のうろこを落とせ。私はそういいたい。
 
目次は以下の通りである。
 
序 なぜ環境問題に口を出すのか
第1章 虫も自然、人体も自然
虫がきっかけ/環境問題こそ最大の政治問題/「人間」対「環境」がそもそもも間違い/原因は一つではない/なにも起こらないことはすばらしい/経済と環境の関係は/なにが虚で、なにが実か/絶対だという話は怪しい/すべてわかろうとするな
第2章 暮らしの中の環境問題
政治としての環境問題/環境問題と駆け引き/明るい日本列島/「自分で考える」のはむずかしい/食の安全が損なわれた理由
第3章 歴史に見る環境問題
環境問題のはじまり/産業革命が起こった理由/森を切ると川が濁る/里山の「手入れ」/究極のリサイクル/日本人の自然観のルーツ/「手入れ」で保たれる環境/水俣病の教訓/手入れとコントロールの違い
第4章 多様性とシステム
生物多様性という呪文/トキがいなくてなにが困る?/人間は細胞さえつくれない/遺伝子で生物を「操作する」危うさ/遺伝子解読のメリット/ロボットづくりは21世紀の科学/生物集団というシステム/理屈は同じでも結果は違う/これまでの科学の限界
第5章 環境と教育
教壇からは教えられない/ひっかかり続けること/日本の自然史を読みたい/AIBOと犬、どちらがお好き?/子どもは環境問題である/虫は自然の虫眼鏡/情報と情報化の違い
第6章 これからの生き方
環境問題はシステムの問題/この先どうなりますか/参勤交代
あとがき
 
 
 

遺伝子組換え生物の国境を越える移動に関する
2003年7月15日の欧州議会と理事会の規則

 
 
 EUとその加盟国は、生物の多様性に関する条約*1のバイオセイフティに関するカルタヘナ議定書*2に署名し、議定書の規定に沿った関連法規の整備を進めている。その一環として、EU理事会は遺伝子組換え生物の国境を越える移動に関する2003715日の欧州議会と理事会の規則(EC1946/2003を採択した。
 ここでは欧州官報に掲載された文書(OJ L 2872003115110ページ)
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2003:287:0001:0010:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月)
を仮訳したので紹介する。仮訳するにあたって、不明な用語については、参考になる資料をウェブサイトから検索し、それらを基に仮訳した。これらの用語には印を付け、参照した資料の中から、いくつかの資料を掲載した。また仮訳した内容が適切に表現されていない部分もあると思われるので、原文で確認していただきたい。
 なお、本規則の採択に至るまでの検討過程として、本規則の共通の立場 (EC) 17/2003が公表されているので、本規則を理解する上で参考になる。この文書は「情報:農業と環境」42号(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn042.html#04210)に掲載されているので、参照いただきたい。
 

*1 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/bio.html (条約の解説)
  http://www.biodic.go.jp/biolaw/jo_hon.html (条約の日本語版)
  http://www.cbd.int/doc/legal/cbd-en.pdf (最新のURLに修正しました。2010年5月) (条約の英語版)
*2 http://www.biodic.go.jp/cbd/biosafety/index.html (対応するページが見つかりません。2010年5月) (議定書の解説)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty156_6a.pdf (議定書の日本語訳)
  http://www.cbd.int/doc/legal/cartagena-protocol-en.pdf (最新のURLに修正しました。2010年5月) (議定書の英語版)

 
官報 L 287E(2003年11月5日、1〜10ページ)
 
遺伝子組換え生物の国境を越える移動に関する
2003年7月15日の欧州議会と理事会の規則
(EC) No1946/2003
(欧州環境庁との適合文書)
 
欧州議会と欧州連合理事会は、
 
欧州共同体設立条約、とくに第175(1)に留意し、
 
欧州委員会からの提案(1)に留意し、
 
欧州経済社会評議会の意見(2)に留意し、
 
地域委員会の意見(3)に留意し、
 
欧州連合の設立条約の第251条で定められた手続き*1に従い(4)
 

(1)欧州官報 C 151E2002625日号、121ページ。
(2)欧州官報 C 2412002107日、62ページ。
(3)欧州官報 C 27820021114日、31ページ。
(4)2002924日の欧州議会の意見(官報に未掲載)、200334日の理事会の共通の立場(欧州官報 C 107 E200356日、1ページ)200364の欧州議会の決定(官報に未掲載)および2003616日の理事会の決定。
*1: http://www.law.tohoku.ac.jp/~kawato/UGSem2K1/ASANO.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月) の第3章

 
以下のことに鑑み:
 
(1)生物多様性に関する条約のバイオセイフティ(biosafety)に関するカルタヘナ議定書(以下「議定書」という)*1に、欧州共同体とその加盟国は2000年に署名し、欧州共同体を代表して議定書を締結する理事会の決2002/628/EC(5)2002625日に採択された。
 
(2)議定書の第1条では、環境と開発に関するリオ宣言の原則15にある予防原則(precautionary approach*2に従い、議定書の目的は、人の健康への影響を考慮し、とくに国境を越える移動を重視し、生物多様性の保全と持続可能な利用に悪影響を及ぼすかもしれない現代のバイオテクノロジーによってもたらされる遺伝子組換え生物(GMO)の安全な移送、取扱い、および利用に関して適切な水準で保護することに貢献することが定められている。
 
(3)議定書に基づき、その義務を実施するために必要、かつ適切な法的措置、行政的措置および他の措置をとることを議定書は各締約国に義務づけている*3。遺伝子組換え生物の環境への意図的放出に関する2001312日の欧州議会と欧州連合理事会の指令2001/18/EC(6)は、議定書に定めた手続きの実施についての法案提出を欧州委員会に要請し、議定書に従って、議定書の第7条から第10条まで、および第12条と第14条に示したように、AIA手続き(事前の情報に基づく合意の手続き(Advance Informed Agreement Procedure))*4のすべての要件を確保することを欧州共同体の輸出者に求めている。
 
(4)人の健康へのリスクを考慮し、生物多様性の保全と持続可能な利用の確保に貢献し、さらに市民がGMOに関して自由に、しかも情報が与えられた上で選択(informed choice*5することが行えるようにするために、GMOの国境を越える移動の監視と規制を組織化することが重要である。
 
(5)欧州共同体法には、第三国へのGMOの輸出の個別要件が含まれていないため、そしてGMOの国境を越える移動に関する議定書の義務の遵守を確保するため、このような輸出のために共通の法的枠組みを確立すべきである。
 
(6)議定書と整合性が取れるように、輸入を行う締約国または非締約国のバイオセイフティのための規制枠組みを遵守しなければならないことを認識する必要がある。
 
(7)欧州共同体または関係加盟国が加わる他の国際的協定、あるいは欧州共同体または関係加盟国が参加する組織によって扱われる人の医薬品は、この規則の対象外とすべきである。
 
(8)環境への意図的放出を目的としたGMOは、科学的に適正な方法で行われたリスク評価に基づき、情報を提供した上で決定(informed decision*6が行えるよう、輸入を行う締約国または非締約国に通知すべきである。
 
(9)輸出者は通告を確実に行うべきである。輸出者は、通告の際に提供する情報の正確性について責任を負うべきである。
 
10)輸出者は、環境への意図的放出を目的とするGMOの最初の国境を越える移動に関する手続きを行う前に、輸入を行う締約国または非締約国から書面による明確な事前同意を得るべきである。
 
11)発展途上国や経済移行国の中には、そのような情報を得た上で判断する能力がないかもしれないので、欧州委員会と加盟国は、これらの国が人的資源と組織的能力を開発し、強化を可能にするために持続した取組みを行うべきである。
 
12)議定書によると、そのような行動が議定書の目的と規定と整合性があり、国際法に基づき当該締約国のそのほかの義務に従っているならば、欧州共同体または他の締約国は、生物多様性の保全と持続的利用について、議定書で求めたものよりも保護的な行動をとることができる。
 
13)議定書によると、欧州共同体はその関税区域内でGMOの移動に関して国内法を適用することができる。
 
14)現行の欧州共同体法、とくに指令2001/18/ECおよび、この指令に定めた原則に従って実施される個別リスク評価を定める部門別法規には、議定書の目的に合致した規則がすでに含まれているので、欧州共同体へのGMOの輸入に関する追加条項を定める必要はない。
 
15GMOの安全な運搬、取扱いおよび包装を保証することが必要である。現行の欧州共同体法、とくに道路による危険物の輸送に関する加盟国の法令の統一化*7に関する19941121日の理事会指令94/55/EC(7)、および鉄道による危険物の輸送に関する加盟国の法令の統一化に関する1996723日の理事会指令96/49/EC(8)には、すでに、適切な規則が含まれているので、この点に関して追加的条項を定める必要はない。
 
16)欧州共同体から輸出または輸入されるGMOの同定(identification)を確実に行う必要がある。欧州共同体への輸入品のトレーサビリティ(履歴管理)*8、表示、同定について、そのようなGMOは、欧州共同体法の規則に従うべきである。輸出に関しても同様な規則を適用すべきである。
 
17)欧州委員会と加盟国は、議定書の第27条に規定されているように、議定書の締約国会合の役割を果たす生物多様性条約の締約国会議第1回会合で合意されている、GMOの国境を越える移動に由来する損害の責任と賠償に関して国際的な規則と手続きを推敲する過程を支援する。
 
18)欧州委員会と加盟国は、議定書の第18条に従って実施されるGMOの同定に関する添付資料についての共通形式のさらなる開発と適用を支援する。
 
19)人の健康へのリスクを考慮し、生物多様性の保全と持続可能な利用に著しい悪影響の可能性が高いGMOの非意図的な国境を越える移動に効果的に対処するために、このような影響があると考えられるGMOの非意図的移動を引き起こすおそれのある放出に結びつく事故を管轄下において気が付いたときには、加盟国は直ちに公衆に通知する適切な措置をとり、欧州委員会、そのほかのすべての加盟国、影響を受けるまたは受ける可能性のある国、バイオセイフティ情報センター(BCH)*9および、必要に応じて、関連する国際的な組織に、遅滞なく通知すべきである。またその加盟国は、影響を受けるまたは受ける可能性のある加盟国と遅滞なく協議し、それらの国が適切な対応を決定し、必要な行動を開始することができるようにすべきである。
 
20BCHの発展に協力するために、欧州共同体と加盟国は、関連情報をBCHに伝達し、欧州共同体において議定書の実施に関するモニタリングと報告を確実に行うべきである。
 
21)加盟国は、本規則についての違反に適用する罰則に関する規則を定め、それらを実施することを確保すべきである。それらの罰則は、効果的で、均衡がとれ、抑止的なものであるべきである。
22)本規則を適用する場合、予防原則を考慮に入れるべきである。
 
23)本規則は、基本的権利を考慮に入れ、とくに欧州連合の基本権憲章で認められている原則を遵守する。
 
本規則を採択した:
 

(5)欧州官報 L 2012002731日、48ページ。
(6)欧州官報 L 1062001417日、1ページ。
(7)欧州官報 L 31919941212日、7ページ。欧州委員会の指令 2003/28/EC(欧州官報 L 90200348日、45ページ)で修正された最終の指令。
(8)欧州官報 L 2351996917日、25ページ。欧州委員会の指令 2003/29/EC(欧州官報 L 90200348日、47ページ)で修正された最終の指令。

*1: http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty156_6a.pdf/commission/1st/reference1_1.pdf
*2: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/precautionary.html
    http://www.ne.jp/asahi/chemicals/precautionary/web030703pp.pdf
*3: http://www.env.go.jp/info/hoan/156_idenshi/index.html        我が国の国内法
*4: http://www.env.go.jp/council/toshin/t131-h1405/t131-h1405-1.pdf のp.2参照
*5: http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/030301ci.htm (対応するページが見つかりません。2015年5月)  の概要の項
*6: http://www.reservoir-jp.com/general_ja/patient_ic/index.html (最新のURLに修正しました。2010年5月)
    http://www.dab.hi-ho.ne.jp/~kigyo-ho/lect-0.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*7: http://www.envix.co.jp/ecoquery.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)          のF-2 危険物質関連の項参照
    http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g01114hj.pdf      のp.14の(9)参照
*8: http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/gmo/document/eugmoreg.htm
    http://kumamoto.lin.go.jp/syokuniku/01.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*9: http://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/codex/03-02.html (最新のURLに修正しました。2010年5月)

 
第1章
目的、範囲および定義
 
第1条
目的
 
予防原則に従い、指令2001/18/ECの規定を侵害することなく、遺伝子組換え生物(GMO)の国境を越える移動についての通告と情報に関する共通のシステムを確立し、人の健康へのリスクも考慮に入れ、生物多様性の保全と持続可能な利用に悪影響があるかもしれないGMOの安全な移送、取扱いおよび利用に関して、適切な水準の保護に貢献するために、欧州共同体を代表して議定書の規定の整合性のとれた実施を確保することが本規則の目的である。
 
第2条
範囲
 
1. 本規則は、人の健康へのリスクも考慮して、生物多様性の保全と持続可能な利用に悪影響があるかもしれないすべてのGMOの国境を越える移動に適用しなければならない。
 
2. 他の関連する国際協定あるいは組織が扱っている人の医薬品は、この規則の範囲から除外する。
 
第3条
定義
 
本規則の目的を果たすために、次の定義を適用する:
 
1. 「生物」とは、指令2001/18/ECの第2条(1)で定義する生物をいう;
 
2. 「遺伝子組換え生物」または「GMO」とは、指令2001/18/ECの第2条(2)に定義する遺伝子組換え生物を指し、指令2001/18/ECの附則IBに記載した遺伝的子組換え技術によって得られた生物は含まない;
 
3. 「意図的放出」とは、指令2001/18/ECの第2条(3)に定義する意図的な放出をいう;
 
4. 「上市」とは、指令2001/18/ECの第2条(4)*1に定義する市場に出すこと*2をいう;
 
5. 「封じ込め利用」とは:
a)指令90/219/EEC(9)の第2条(c)に定義する行為;
b)微生物以外の生物を遺伝子改変し、あるいはそのようなGMOを他のあらゆる方法によって栽培、保管、運搬、破壊、廃棄、利用するなど、指令90/219/EECと変わらない原則に基づく特定の封じ込め手段が、一般の生物集団や環境との接触を規制するために適宜、使用する行為をいう;
 
6. 「食料」とは、規則(EC178/2002(10)の第2条に定義する食料をいう;
 
7. 「飼料」とは規則(EC178/2002の第3条(4)で定義する飼料をいう;
 
8. 「通告」とは、議定書の締約国の所管官庁に、あるいは非締約国の所管官庁に、本規則に基づき輸出者に要求した情報を提出することをいう;
 
9. 「バイオセイフティ情報センター」または「BCH」とは、議定書の第20条に基づいて設立されたバイオセイフティ情報センターをいう;
 
10. 「輸出」とは:
a)欧州共同設立条約の第23(2)の要件を満たすGMOを欧州共同体の関税区域から永久的または一時的に域外に出すこと;
b)通過手続き以外の通関手続きに従って提出される(a)に定める要件を満たさないGMOの再輸出*3をいう;
 
11. 「輸入」とは、欧州共同体内のある締約国から、欧州共同体域外の締約国または非締約国の税関区域の中で売り出されたGMOを通過手続き以外の通関手続きに従って注文することをいう;
 
12. 「輸出者」とは、通告を行う自然人または法人もしくは彼らの代表者、すなわち、通告を送るときに、第三国に荷受人と契約が成立し、GMOが欧州共同体の関税区域から発送することを決定する権限がある人をいう。輸出契約が結ばれていない場合、または契約者が自ら代表して行動しない場合、GMOを欧州共同体の関税区域から、発送の決定を下す法的権限を明確にしなければならない;
 
13. 「輸入者」とは、GMOの輸入手続きをする、輸入締約国または輸入非締約国の管轄下の自然人または法人をいう;
 
14. 「国境を越える移動」とは、欧州共同体内の締約国間の移動を除く、ある締約国または非締約国、および他の締約国または非締約国の間のGMOの意図的または非意図的な移動をいう;
 
15. 「締約国」とは、議定書の当事者であるすべての国、あるいは地域の経済的な統合組織をいう;
 
16. 「非締約国」とは、議定書の当事者でないすべての国や地域の経済的な統合組織をいう;
 
17. 「議定書」とは、生物多様性に関する条約(条約)のバイオセイフティに関するカルタヘナ議定書をいう;
 
18. 「生物多様性」とは、とくに陸域、海洋およびその他の水域の生態系およびこれらの生態系を構成要素とする生態学的複合体など、すべての供給源からの生物の間の変異性をいう;これには生物種内、生物種間および生態系の多様性が含まれる;
 
19. 「所管官庁」とは、議定書の締約国によって指定された所管官庁あるいは非締約国の同等の関連組織を指し、議定書で求められている行政を行うことに責任をもち、または非締約国の場合は同等の機能があり、かつその国を代表して行動する権限が与えられている組織である;
 
20. 「中央連絡先」とは、事務局と連絡することにその国を代表して責任がある締約国が指定した組織体をいう;
 
21. 「事務局」とは、議定書の事務局をいう。
 

(9)遺伝子組換え微生物の封じ込めに関する1990423日の理事会指令 90/219/EEC(欧州官報 L 117199058日、1ページ)。決定 2001/204/EC(官報 L 732001315日、32ページ)で修正された最終の指令。
(10)食品法の一般原則と要件を定め、欧州食品安全機関*4の設立、および食品の安全性問題に関する措置を定める2002128日の欧州議会と理事会の規則(EC178/2002(欧州官報 L 31200221日、1ページ)。

*1: http://www.biodic.go.jp/cbd/biosafety/commission/4th/4reference2.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://member.nifty.ne.jp/tsato/seec-faq/rackham.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*3: http://www.biodic.go.jp/biolaw/was/was01.html
    http://jorei.cne.jp/treaty/wasinnton.html
*4: http://www.euinjapan.jp/world/afs/f-policy/ (対応するページが見つかりません。2014年10月)

 
第2章
第三国への
GMOの輸出
 
第1節
環境中への
GMOの意図的放出
 
第4条
輸入を行う締約国と非締約国への通告
 
輸出者は、環境への意図的放出を計画し、附属書Iの項目(i)に従って、特定の利用を予定しているGMOについて、最初の意図的な国境を越える移動に先立ち、輸入を行う締約国または非締約国の所管官庁に書面で、通告を確実に行わなければならない。
通告には、附則Iに定める情報が最低限、含まなければならない。輸出者は、通告に含まれる情報の正確性を確保しなければならない。
 
第5条
決定を行わない場合
 
1. 輸入を行う締約国が通告の受取り通知、あるいはその決定の伝達を行わないことが、意図的な国境を越える移動の同意を意味しないものとする。最初の意図的な国境を越える移動は、輸入を行う締約国または、適切な場合、非締約国の明確な書面による事前の同意がなければならない。
 
2. 輸入を行う締約国が通告の受領日から270日以内に、この通告に対応する決定を伝達しない場合、輸出者は、この延滞通知を受領してから60日が回答の最終期限であることを付けた延滞通知書を輸入締約国の所管官庁に送り、その写しを事務局と輸出加盟国および欧州委員会に送らなければならない。
輸入を行う締約国が返答することができる期間の計算において、輸入締約国が追加的な関連情報のために待たなければならない日数は考慮に入れてはならない。
 
3. 第1項を侵害することなく、議定書の第9と第10条に従って、輸入締約国が決定する手続き、または適切な場合、輸入非締約国が必要とする同等の手続きを進めなければ、輸出者は意図的な放出をしようとするGMOの最初の国境を越える移動の手続きをしてはならない。
 
4. 第1、2および3項は、議定書の第13条と第14条に従って締結した簡略化した手続き、二国間、地域および多国間の協定(agreement*1)または取決め(arrangement*1)が該当する国境を越える移動の場合には適用してはならない。
 
5. 欧州委員会と加盟国は、事務局と協議して、議定書の締約国会合の役割を果たす本条約の締約国会議の決定として、輸入締約国が意思決定を容易にするため、あるいは議定書の条項に遵守することを推進するために、適合したあらゆる手続きおよび機構に従って、適切な行動をとらなければならない。
 

*1: http://www.mlh.co.jp/resource/NW2003_words2.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
第6条
輸出を行う締約国への通知
 
輸出者は、第4条に定めた通告と受取り通知、および輸入を行う締約国の決定、適切な場合、非締約国の決定の証拠を少なくとも5年間、保存し、これらの文書の写しをGMOを輸出する加盟国の所管官庁と欧州委員会に送達しなければならない。
 
16条を侵害することなく、委員会は環境情報の利用に関する欧州共同体規則に従って、これらの文書を公開しなければならない。
 
第7条
決定の再検討
 
1. 輸出者は、決定の根拠としたリスク評価の結果に影響するかもしれない、あるいは科学的または技術的な追加的関連情報が利用可能になったなど、環境変化が生まれたとみなすならば、輸出者は議定書の第10条に従って、通告に関して行った決定を再検討することを輸入を行う締約国または適切な場合、非締約国に要求することができる。
 
2. 輸入を行う締約国または非締約国は90日以内に、この要求に応じない場合、輸出者は、遅延通知書を輸入を行う締約国または適切な場合、非締約国の所管官庁に遅延通知受領後、一定期間内に、回答を求めている事務局の写しを添えて送らなければならない。
 
第8条
本章第1節の除外事項
 
1. 人の健康へのリスクを考慮に入れ、生物多様性の保全と持続可能な利用に悪影響がありそうにもないとして、議定書の締約国会合の役割を果たす本条約の締約国会議の決定において確認された、環境中に意図的に放出されるGMOは、本章第1節の適用範囲から除外しなければならない。
 
2. 本章第1節は食料や飼料として直接利用または加工されるGMOには適用してはならない。
 
3. 議定書の目的に従って意図的な国境を越える安全な移動を確保するために、適切な措置が行われることを条件として、そのようなGMOの輸入は、議定書の第7条から10条、12条および14条に示すように、事前の情報に基づく合意の手続きを免除することができるという議定書の第13(1)(b)と第14(3)に従って、輸入を行う締約国がBCHに事前に特定した場合、本章第1節で定める義務を適用してはならない。
 
第1節
食料や飼料として直接利用または加工される
GMO
 
第9条
BCHへの情報伝達
 
1. この決定を下した欧州共同体を代表する欧州委員会または適切な場合、加盟国は、欧州共同体内または加盟国内での上市を含む利用に係わるすべての最終決定について、および食料や飼料として直接利用または加工のために国境を越える移動の対象となる可能性のあるGMOについて、BCHおよびBCHを通して他の締約国に通知しなければならない。この情報は、その決定の採択から15日以内にBCHに送達しなければならない。
 
本項は、その後の決定がなければ、第三国に食料や飼料として直接利用または加工されないGMOに関する指令2001/18/ECのパートBに従って、意図的な放出に係わる決定に適用してはならない。
 
2. BCHに送達される第1項に掲げる情報は、附則IIで定める情報が最小限、含まれていなければならない。
 
3. 欧州委員会または第1項に掲げる加盟国は、第1項に掲げる決定にかかわる追加情報を得るために締約国または非締約国から提出された要求を処理しなければならない。
 
4. 欧州委員会あるいは第1項に掲げる加盟国は、BCHに連絡していないことを事務局に事前に知らせている各締約国の中央連絡先に第1、2および3項で掲げる情報の写しを書面で送らなければならない。
 
10
締約国と非締約国による輸入に関する国内決定
 
1. 輸出者は、議定書の第11条(4)に従って輸入締約国が行った、あるいは議定書の目的と整合性のある国内規制枠組みの下で輸入非締約国が行った、食料や飼料として直接利用または加工されるGMOの輸入に関するすべての決定を遵守しなければならない。
 
2. 輸入を行う発展途上の締約国または非締約国または経済移行にある締約国または非締約国が、議定書の第11(6)に従って、食料や飼料として直接利用または加工される特定のGMOの輸入に先立ち、決定をBCHを通して宣言した場合、輸出者は、規定に従って手続きをとらない限り、そのようなGMOの最初の輸出を進めてはならない。
 
3. 輸入を行う締約国または非締約国が通告の受取り通知あるいは第2項に従って決定を伝達しないことが、食料や飼料として直接利用または加工されるGMOの輸入の同意あるいは拒否することを意味しないものとする。規則(ECNo 178/2002の第12条に基づき、要求された輸入に対して、欧州共同体内で許可され、あるいは第三国の所管官庁が明確に合意しない限り、食料や飼料として直接利用または加工するために国境を越える移動の対象となるGMOを輸出することができない。
 
第2節
封じ込め利用を目的とした
GMO
 
11
 
1. そのような国境を越える移動が輸入を行う締約国または非締約国の基準に従って実施される場合、第2章第1節の条文は、封じ込め利用されるGMOの国境を越える移動には適用してはならない。
 
2. 前項では、輸入に関する決定ならびに管轄内での封じ込め利用基準の設定に先立ち、すべてのGMOのリスク評価を必要とする締約国または非締約国のあらゆる権利を侵害してはならない。
 
第3節
共通の規定
 
12
同定と添付資料
 
1. 輸出者は、GMOに添付資料の中に次の情報を明記し、GMOを受け取る輸入者に送達することを確実に行わなければならない:
 
aGMOを含む、あるいはGMOから構成される情報;
 
b)可能であれば、GMOに割り当てられた固有の識別遺伝暗号。
 
2. 食料や飼料として直接利用または加工されるGMOについて、前項に掲げる情報には、輸出者の申告によって、次のことが追加されなければならない:
 
aGMOは食料や飼料として直接利用または加工するつもりであることを明記し、環境中への意図的放出を行わないことを明確に示し;
 
b)追加情報入手のための連絡先を詳細に記す。
 
前項(b)は、食料や飼料として直接利用または加工するためにだけ利用されるGMOから成る製品あるいは混合物が含まれる製品には適用されない。これらの製品は、指令2001/18/ECのトレーサビリティ要件および該当する場合、このようなGMOのトレーサビリティ、表示および同定を規定する今後の欧州共同体法規に従わなければならない。
 
.  封じ込め利用されるGMOについて、第1項に掲げた情報には、次のことを明記した輸出者の申告によって、追加されなければならない:
 
aGMOの安全な取扱い、保管、運搬および利用についての要件;
 
bGMOを託送する個人または機関の名称と住所などの追加情報入手のための連絡先。
 
4. 環境中への意図的な放出されるGMO、ならびに本規則を適用される他のGMOについて、第1項に掲げる情報は、次のことを詳述した輸出者の申告によって追加されなければならない:
 
aGMOの同一性(identity)と関連する特性や特徴:
 
bGMOの安全な取扱い、貯蔵、運搬および利用の要件;
 
c)追加情報入手のための連絡先、必要に応じて、輸入者、輸出者の名称と住所;
 
d)移動は輸出者に適用される議定書の要件に従っているという宣言書。
 
.  第1項から第4項までは、欧州共同体法規によって課された他の個別の要件、ならびに議定書の第18条に従って策定された国際的な確認要件を侵害してはならない。
 
13
通過
 
輸出者は、その区域を通るGMOの通過を規制する決定を行い、その決定をBCHに通知した締約国にGMOの通過の通告を確実に行わなければならない。
 
第3章
GMOの非意図的な国境を越える移動
 
14
 
1. 加盟国は、GMOの非意図的な国境を越える移動を防止するための適切な措置をとらなければならない。
 
2. 加盟国が人の健康へのリスクを考慮に入れて、生物多様性の保全と持続的利用に著しい悪影響の可能性の高い国境を越える非意図的移動を引き起こす、あるいは引き起こすおそれのあるGMOの放出をもたらす事故にその管轄の下で気付いたときは、加盟国はすぐに:
 
a)公衆に通報するため、また欧州委員会、他のすべての加盟国、影響を受ける国または影響を受ける可能性のある国、BCH、および必要に応じて、関連する国際組織に遅滞なく通知するために、適切な措置をとらなければならない;
 
b)たとえば、著しい悪影響を最小限にするための緊急措置など、適切な対応と必要な行動提案の決定を可能にするために、影響を受ける国または可能性のある国と遅滞なく協議しなければならない。
 
.  上記により生じるすべての情報には、附則IIIにおいて特定した情報が含まれなければならない。
 
第4章
共通の規定
 
15
国際情報手続きへの参加
 
1. 加盟国は、議定書の規定に従って、秘密情報の保護を侵害することなく、下記のことについてBCHと欧州委員会に、その決定の採択から15日以内に通知しなければならない:
 
a)議定書の第11(5)と第20(3)(a)に従って、議定書の実施に関連する国内法および指針;
 
b)議定書の第17条に従って、非意図的な国境を越える移動の通告の国内の連絡先;
 
c)議定書の第20(3)(b)に従って、GMOの意図的な国境を越える移動に関して、加盟国が発効した二国間、地域や多国間の協定と取決め;
 
d)議定書の第17条と第25条に従って、GMOに関する非意図的または違法な国境を越える移動の事案に関わる情報;
 
e)たとえば、次のことについての決定など、その加盟国内のGMO利用について、加盟国が行った最終決定:
−国境を越える移動の対象となる可能性のあるGMOの危険度3または4クラスに分類される封じ込め利用、
−指令2001/18/ECのパートBに従って、GMOの意図的な放出、
−議定書の第11条と第20(3)(d)に従って、GMOの欧州共同体への輸入;
 
f)欧州共同体の規制手続きで生み出され、議定書の第15条に従って実施されたGMOのリスク評価または環境調査のすべての概要、適切な場合には、議定書の第20(3)(c)に従って、その製品、すなわち現代のバイオテクノロジーの使用によって得られた複製可能な遺伝物質の検出可能な新たな組合せを含むGMO起源の加工物質に関わる関連情報を含める;
 
g)議定書の第12条に従って、意図的な国境を越える移動に関する国内の決定の再検討;
 
h)指令2001/18/ECの第23条に基づき保護措置に関して加盟国が行う決定または遺伝子組換え食品と飼料に関する欧州共同体法に基づき行われる加盟国の緊急措置。
 
2. 欧州共同体を代表して、欧州委員会は議定書の規定に従って、次のことをBCHに通知しなければならない:
 
a)議定書の第11(5)と第20(3)(a)に従って、議定書の実施に関連する欧州共同体法と指針;
 
b)議定書の第20(3)(b)に従って、GMOの意図的な国境を越える移動に関する欧州共同体レベルの二国間、地域および多国間の合意と取決め;
 
c)たとえば、議定書の第11条と第20(3)(d)に従って、GMOの上市あるいは輸入についての決定など、欧州共同体内のGMOの利用に関する欧州共同体レベルで行われた最終決定;
 
d)欧州共同体の規制手続きで生み出され、指令2001/18/ECの附則IIに定めたものと同様の手続きに従って実施されたGMOのリスク評価と環境調査の概要、適切な場合には、議定書の第20(3)(c)に従って、その製品または現代のバイオテクノロジーによって得られた複製可能な遺伝物質の検出可能な新たな組合せを含むGMO起源の加工物質に関わる関連情報を含める;
 
e)議定書の第12条に従って、意図的な国境を越える移動に関する欧州共同体レベルでの決定の再検討;
f)議定書の第14(3)(4)に従って、欧州共同体内でのGMOの意図的移動と欧州共同体内へのGMOの輸入のための議定書の手続きに代わる欧州共同体法の適用;
 
g)議定書の第20(3)(e)に従って事前の合意手続きの実施など、本規則の第19条に準じて提出される報告。
 
16
秘密保持*1
 
1. 欧州委員会と加盟国は、この規則に基づき受理した、あるいは交換したいかなる秘密情報も第三者に漏らしてはならない。
 
2. 輸出者は、第4条に基づき提出された通知の中で、秘密事項として扱うべき情報を指定することができる。請求を行う場合、正当な理由を示さなければならない。
 
3. 第4、9または12条に従って提出された場合、次の情報は決して秘密事項にはできない:
 
a)輸出者と輸入者の名称と住所、
 
bGMOGMOの一般的な説明、
 
c)人の健康へのリスクを考慮し、生物多様性の保全と持続可能な利用に及ぼす影響のリスク評価の概要、および
 
d)緊急対応するためのあらゆる方法と計画。
 
4. どのような理由であっても、輸出者が通告を取り下げる場合には、加盟国と欧州委員会は、研究開発の情報だけでなく、輸入を行う締約国または非締約国、および輸出者が秘密に関して意見が合わない情報も含め、商業上の情報と工業上の情報の秘密を守らなければならない。
 

*1: http://www.jmcti.org/C-TPAT/vol.1/1-49files/EU.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
17
所管官庁と中央連絡先
 
1. 欧州委員会は、欧州共同体の中央連絡先を指定し、必要に応じて、欧州共同体の所管官庁を特定しなければならない。
 
2. 各加盟国は、一つの中央連絡先の他に一つもしくは複数の所管官庁もまた指定しなければならない。単一の機関が、中央連絡先と所管官庁の両方の機能を果たすことができる。
 
3. 欧州共同体を代表して、欧州委員会と各加盟国は、議定書の効力発生前に、中央連絡先と所管官庁の名称と住所を事務局に通知しなければならない。加盟国または欧州委員会が、複数の所管官庁を指定する場合には、それを事務局に伝えるときに、それぞれの所管官庁の責任についての関連情報を含めなければならない。該当する場合には、そのような情報には、最低限、どの種類のGMOにどの所管官庁が責任を負うかを定めなければならない。欧州委員会と加盟国は、中央連絡先の指定または一つの所管官庁もしくは複数の所管官庁の名称と住所あるいは責任に関するいかなる変更も事務局に速やかに通知しなければならない。
 
18
罰則
 
加盟国は、本規則の条文の違反に適用できる罰則に関する規則を定め、実施することを保証するために必要なあらゆる措置を取らなければならない。定める罰則は、効果的で、均衡がとれ、抑止的なものでなければならない。加盟国は2004115日より前に欧州委員会にそれらの規定を通知し、それらに影響を及ぼすその後のいかなる修正も遅滞なく通知しなければならない。
 
19
モニタリングと報告
 
1. 定期的に、少なくとも3年ごとに、議定書の第33条に基づき確定されていない限り、加盟国は本規則の実施に関する報告を欧州委員会に送達しなければならない。
 
2. 欧州委員会は、議定書の締約国会合の役割を果たす条約締約国会議が決定する間隔で、加盟国が提供した情報に基づき報告書を編集し、議定書の締約国会合の役割を果たす条約締約国会議にそれを提出しなければならない。
 
20
効力の発生
 
1. 本規則は、欧州連合の官報公示から、20日目に効力が生じる。
 
2. 本規則は、議定書の第37(1)に準拠して、議定書が発効する日、あるいは本規則の発効する日のいずれか遅い日から適用しなければならない。
本規則は、全体として拘束力があり、すべての加盟国に直ちに適用しなければならない。
 
2003715日ブリュッセルにおいて採択
 
  欧州議会代表 欧州連合理事会代表
  議長 議長
  P. Cox G. Tremonti
 

 
附則I
第4条に基づく通告に必要な情報
 
a)輸出者の名称、住所と連絡先の詳細。
b)輸入者の名称、住所と連絡先の詳細。
cGMOの名称と同一性、ならびに、もしあればGMOのバイオセイフティレベルの輸出国における分類
d)判明している場合には、国境を越える移動の予定期日
e)バイオセイフティに関連する受容体(recipient organism)または親生物の分類上の位置け、一般名、採集地または取得地および特徴。
f)判明している場合、受容体および/または親生物の原産地の中心または遺伝的多様性の中心および当該生物が存続または繁殖し得る生息地の記述。
g)バイオセイフティに関連する供与体(donor organism or organisms)の分類学上の位置付け、一般名、採集地または取得地および特徴。
h)導入された核酸または改変遺伝子、使用した技術およびその結果として生じたGMOの特徴についての記述。
i)指令2001/18/ECの附則Iのパート1に記載した技術によって得られた複製可能な遺伝物質の検出可能な新たな組合せを含む、GMOまたはその製品、またはGMO由来の加工された材料の、予定される用途。
j)移送されるGMOの数量または容量。
k)指令2001/18/ECの附属書IIと整合した以前のおよび既存のリスク評価の報告。
l)適切な場合には、包装、表示、資料、廃棄および不測の事態の手続きを含め、安全な取扱い、保管、運搬および利用のために提案した方法。
(m)輸出国内におけるそのGMOの規制状況(たとえば、輸出国において禁じられているのか、他の制限があるのか、または一般的な放出が承認されているのか)、および輸出国でそのGMOが禁止されている場合には、禁止の理由。
n)移送されるGMOに関して、輸出者が他の国に対して通告を行ったあらゆる結果と目的。
o)上記の情報が事実に基づいて正確である旨の宣言書。
 

 
附則 II
第9条に基づき要求される情報
 
a)国内利用を決定に関する申請者の名称および連絡先の詳細。
b)決定に責任を有する所管官庁の名称および連絡先の詳細。
cGMOの名称と同一性。
d)修飾遺伝子、使用された技術およびその結果として生じるGMOの特徴についての記述。
eGMOの特異性の同定。
f)バイオセイフティに関連する受容体または親生物の分類学上の位置付け、一般名、採集地または取得地および特徴。
g)判明している場合、受容体および/または親生物の起源の中心および遺伝的多様性の中心地および当該生物が生存し、または繁殖し得る生息地の記述。
h)バイオセイフティに関連した供与体の分類学上の位置付け、一般名、採集地または取得地および特徴。
iGMOの承認された利用。
j)指令2001/18/ECの附属書IIと整合したリスク評価の報告。
k)適切な場合には、包装、表示、資料、廃棄および不測の事態の手続きを含め、安全な取扱い、保管、運搬および利用のために提案される方法。
 

 
附則 III
14条に基づき要求される情報
 
aGMOの推定量と関連する特徴および/または特性に関する入手可能な関連情報。
b)移送元の締約国のGMOの放出の状況と推定された放出の日、および利用についての情報。
c)人の健康へのリスクを考慮した、生物の多様性の保全および持続可能な利用についての、可能性のある悪影響についてのあらゆる入手可能な情報、および可能なリスク管理措置についての入手可能な情報。
d)その他のあらゆる関連情報、および
e)追加情報を入手するための連絡先。
 
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