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情報:農業と環境 No.49 2004.5.1
独立行政法人農業環境技術研究所

No.49
・藤井義晴氏:第49回日本土壌肥料学会賞を受賞
・山口紀子氏:第22回日本土壌肥料学会奨励賞を受賞
・農業環境技術研究所成果発表会2004
−安心・安全な農業環境をめざして− が開催された
・第2回農業環境技術研究所「友の会」が開催された
・平成15年度農業環境研究推進会議が開催された
・わが国の環境を心したひとびと(6):吉岡金市
・農業環境研究:この国の20年(4):
侵入・導入生物による農業生態系への影響
・さまようセイヨウタンポポ
・論文の紹介:導入生物を使って有害な侵入生物を防除する
・本の紹介 139:植生と大気の4億年−陸域炭素循環のモデリング−、
ディビッド・ベアリング、イアン・ウッドワード著、及川武久監修、
地球フロンティア責任企画、京都大学学術出版会(2003)
・環境被害の防止および修復についての環境責任に関する
欧州会議と理事会の指令を採択することを目指して
理事会が採択した2003年9月18日の共通の立場
(EC)No58/2003 −その2−
 

 
藤井義晴氏:第49回日本土壌肥料学会賞を受賞
 当所の職員、藤井義晴氏は第49回日本土壌肥料学会賞を受賞した。受賞課題、所属および研究の概要は以下の通りである。
 
受賞課題名:他感作用の検定法の開発と他感作用候補物質の同定
藤井義晴(生物環境安全部 植生研究グループ 化学生態ユニット)
 
研究の概要
 農業環境技術研究所において、他感作用(アレロパシー)の検定手法の開発、他感作用の強い植物の検索、作用物質の解明、他感作用の強い植物を用いた実用的な植生管理・雑草制御法の開発に関する研究を行った。
 
 まず、他感作用の検定手法の開発を行い、他感作用に特異的な検定法として、植物の根から滲出(しんしゅつ)する物質による作用を検定する「プラントボックス法」、葉から溶脱する物質による作用を検定する「サンドイッチ法」、揮発性物質を検定する「常温吸着法」と「ディッシュパック法」、根圏土壌に含まれる他感物質の作用を検定する「根圏土壌法」等の新たな手法を開発した。
 
 これらの手法を用いて、日本や東南アジアで栽培される作物・雑草・樹木・園芸植物・薬用植物など、500種から他感作用の強い植物を探索した。その結果、ムクナ、ヒガンバナ、メスキート、ナガボノウルシ、タイワンレンギョウ等の活性が強い植物を選抜した。また、他感作用が強いイネの探索を行い、阿波赤米などの日本在来の赤米系統に強い活性を見いだした。
 
 次に他感作用の強い植物の農業利用として、他感作用の検定から選抜された植物の圃場(ほじょう)試験により、実際に現地で雑草抑制・植生管理効果の高い植物を、検定した結果、ヘアリーベッチ(Vicia villosa Roth)が最も効果が高いことを明らかにした。ヘアリーベッチはマメ科牧草で、秋に播種(はしゅ)すると春先〜初夏に圃場を全面被覆して雑草をほぼ完全に抑制し、開花後一斉に枯れて敷き藁(わら)状になる。10アールあたり10〜20kgの窒素固定をして緑肥となることから、遊休農地や果樹園の粗放管理に適していることを明らかにした。この性質から、休耕地・耕作放棄地、果樹園等の雑草抑制・植生管理に最適であることを報告した。現在日本各地の休耕田管理、カキ・ウメ・キウイ・ミカン等の果樹園で徐々に普及しつつある。
 
 農業生態系で実際に作用する他感物質を単離・同定するために、従来天然生理活性物の探索として行われている比活性の強い物質を検索する「比活性法」に替わる、全活性の強い物質を検索する「全活性法」を開発した。これは比活性が弱くても存在量が多い物質が全活性としての現場での作用への寄与が大きいことに基づくものである。この方針で他感物質を探索した結果、マメ科作物ムクナからL-3,4-dihydroxyphenylalanine(L-DOPA)を、ヒガンバナからlycorineと関連アルカロイドを、メスキートからtryptophaneとjulifrorine等のピペリジンアルカロイドを、ソバからrutinとfagomine等のアルカロイド類を、フウチョウソウからmethyl isothiocyanate等を検出した。また、ナガボノウルシから新規な環状ジチオラン化合物を発見し、zeylanoxideと命名し日本国特許を取得し、タイワンレンギョウから新規なトリテルペノイドサポニンを発見しdurantaninと命名し日本国特許を取得した。また、樹木由来の植物成長促進物質として1,2-propanediolを発見し、現在日本国特許を出願中である。
 
 ヘアリーベッチの他感作用については、特異的バイオアッセイ手法であるプラントボックス法、サンドイッチ法、根圏土壌法等により実証した。その他感物質について、「全活性法」によって探索した。作用物質の単離は、ヘアリーベッチの茎葉部より得た粗抽出液から、植物成長阻害活性を指標として、分離した部分ごとの物質の量と活性を常に測定しながら、各種カラムクロマトグラフィーにより物質を分離・精製し、核磁気共鳴法(NMR)、質量分析法(MS)、赤外分光分析法(IR)等により化学構造を解析した。その結果、雑草抑制作用の主成分はシアナミド (cyanamide) と同定された。ヘアリーベッチ粗抽出液に含まれるレタス下胚軸伸長阻害活性は、シアナミドによりほぼ完全に説明できた。ヘアリーベッチ中のシアナミドは種子にはほとんど含まれないが、発芽すると40倍に増加することから、シアナミドはヘアリーベッチにより生合成されていることを確認した。シアナミドは、合成化学肥料第一号である石灰窒素の有効成分として知られている。しかし、これまで天然成分として自然界に存在することは知られていなかった。本研究は、植物にシアナミドが存在することを示した最初の報告である。ヘアリーベッチの他感作用の本体がシアナミドであることから、石灰窒素の新たな役割や意義への発展が期待される。
 
山口紀子氏:第22回日本土壌肥料学会奨励賞を受賞
 当所の職員、山口紀子氏は第22回日本土壌肥料学会奨励賞を受賞した。受賞課題、所属および研究の概要は以下の通りである。
 
受賞課題名:配位子とイオンの相互作用が土壌中の化学反応に及ぼす影響
山口紀子(環境化学分析センター 放射性同位体分析研究室)
 
研究の概要
 土壌溶液中のイオンは水分子を配位した水和イオンとして存在することから、水分子は土壌中のほとんどすべての反応に関与する配位子として重要である。植物根から分泌される有機酸は金属イオンに配位し、根圏土壌における金属化学種の溶解度に影響する。本研究では、土壌中に存在する重要な配位子である水分子と有機酸に着目し、それらとイオンの相互作用が土壌中の化学反応に及ぼす影響を明らかにしようとした。
 
 イオンの吸着形態は、イオンが水和水を保持したまま静電的に弱く吸着する外圏型吸着錯体と、イオンが配位していた水和水を放出し、粘土鉱物の表面に直接強く結合する内圏型吸着錯体に大別できる。イオンに配位した水分子はイオンの電場に引き寄せられているため、自由な水分子よりも占有体積が小さい。そこで、水和水が自由な水分子となることによる微量な体積の増加を橋谷式膨張計で精密測定し、内圏型吸着錯体の形成に伴ってイオンもしくは土壌鉱物から水和水が放出されることを初めて実験的に証明した。さらに、水和水との相互作用の弱いイオンほど固体表面へより近づきやすく、より吸着しやすいことを明らかにした。
 
 土壌鉱物表面に内圏型吸着錯体として吸着したイオンは水系へ移行しにくく、長期間土壌鉱物表面にとどまり、その反応は土壌粒子表面で長い時間をかけて進行する(Aging)。そこで、腐植酸や植物根から分泌される有機酸(クエン酸、シュウ酸など)と金属の相互作用に着目し、土壌に吸着した金属イオンがAgingによりさらに溶出されにくくなる反応のメカニズムを解明した。すなわち、土壌鉱物表面の金属の化学形態の解析をX線吸収スペクトル微細構造(EXAFS)などの分光学的手法により行い、Agingにより表面のイオンの化学形態が内圏型吸着錯体から表面沈澱となること、有機酸が表面沈澱反応を抑制すること、土壌鉱物の溶解度が表面沈澱の化学種に影響することを示した。
 
 また、酸性土壌等における植物生育阻害因子として単量体アルミニウムより毒性が高い水溶性アルミニウムポリマーであると考えられている13量体Al(Al13)について、有機酸とAl13を含む反応系中のAl13濃度を5分から1年という時間スケールで追跡することによって、Alイオンと有機酸の強い相互作用がAl13の生成を抑制し、さらにその分解を促進するため、Al13は土壌中に存在しないことを、明らかにした。
 
農業環境技術研究所成果発表会2004
−安心・安全な農業環境をめざして−
が開催された
 農業環境技術研究所は、2001年4月に独立行政法人として新しいスタートを切りました。発足1周年を迎えた2002年4月23日には、研究所の研究内容を広く世間に理解いただくため、第1回の研究成果発表会を開催しました。その内容は、すでに「情報:農業と環境」の第24号に紹介してあります。今回は、第2回の成果発表会を上記のタイトルで開催しました。ここでは、当日のプログラムと、あいさつ、特別講演、成果発表の要旨、そして総合討論の要約を紹介します。
 
プログラム
 はじめに
独立行政法人 農業環境技術研究所 理事長  陽  捷行 
 (特別講演)
 「農」の風景の意義と保全活用
東京農業大学 学長 教授・(社)日本造園学会 元会長・(社)日本都市計画学会 会長   
進士 五十八 
 (研究成果発表)
 1.農業環境における生物生息地を評価する
 地球環境部 生態システム研究グループ            
生態管理ユニット研究リーダー   デイビッド スプレイグ 
 2.外来昆虫の侵入リスクと生態影響の評価
 生物環境安全部 昆虫研究グループ長   松井 正春 
 3.微生物インベントリーの利用法を探る
農業環境インベントリーセンター 微生物分類研究室長    對馬 誠也 
 4.農業活動が流域の水質に及ぼす影響を解析する
化学環境部長    齋藤 雅典 
 5.カドミウム汚染土壌の修復技術の開発
化学環境部 重金属研究グループ長   小野 信一 
 (総合討論)
 
はじめに
 わたしたちは、法人が発足してから新しい農業環境研究を目指してさまざまな角度から研究所の「構造」を改革しました。さらに、この構造がうまく「機能」するための「システム」を構築してきました。当たり前のことですが、農業環境技術研究所は、明確な目的のために存在する集団です。すなわち、わたしたちはこの組織を「共同体」ではなく「機能体」としてとらえています。したがって、「機能の向上」をさらに追求することが、研究所の使命でなければなりません。
 
 そのために、研究所が忘れてならない活動に、受信(社会・専門・政策)、研究(自己増殖・成長)、討論(セミナー・啓発)、貯蔵(インベントリー・発酵)、評価(組織・課題・成果)、発信(専門・一般・パブリックアセスメント)、提言(リスク評価・マスタープラン)および宣伝(新聞・TV・雑誌・インターネット)があります。
 
 ここで開催する農業環境技術研究所の「研究成果発表会2004−安心・安全な農業環境をめざして−」は、2年前に行った研究成果発表会に続く第2弾で、平成14年および15年度に実施した研究のうち、「農業と環境」にかかわる主要な成果をまとめたものです。上に掲げた活動のうち、「評価」と「発信」に当たる部分を担うものです。
 
 この成果の中には、新たな「技術知」と「生態知」と「統合知」が含まれます。「技術知」とは目的と手段を定めたうえで、資源を活用し水平方向に新しい技術を開発していく知です。「生態知」とは現場で観察し、獲得してきた知です。「統合知」とは、これらの二つを融合した知です。この成果発表会には、これらの「知」が混在しています。
 
 環境研究を進めるにあたって忘れてならないことに、「分離の病」を克服し、「国際・学際・地際」を推進し、「俯瞰(ふかん)的視点」を維持し続け、「自他の共生」を図ることがあげられます。ここでは、このなかで「国際・学際・地際」についてのみ触れます。
 
 国籍、人種、宗教、政治、経済体制、貧富、性別などを差別せず、お互いが相手の立場で思考し、意見の対立が感情の対立にならない交流こそが、「国際」化と考えます。空間を超えて地球レベルで生じている環境問題を解決するためには、この「国際」を無視することができません。広く分野や所属をこえて研究を共にする「学際」は、説明の必要がありません。現場のない環境研究はありえません。これが、「地際」の重要な点です。「国際・学際・地際」の融合こそが環境研究の決め手になるでしょう。
 
 このため、「国際」に関しては大韓民国農村振興庁農業科学技術院中国科学院土壌科学研究所およびドイツのボン大学開発研究センターと共通の農業環境問題を共同で解決するための基本となるMOU(協定覚え書き)を締結し、すでに研究、国際会議および人的交流にその効力を発揮しているところです。また、オランダのワーゲニンゲン大学・研究センターとも共同研究を推進することになりました。
 
 「学際」に関しては、これまでの国立大学との研究協力をさらに拡大・進展させるため、新たに東京農業大学鯉淵学園とのMOUを締結しました。東京農業大学との協定覚え書きには、研究を効率的に推進するために研究協力と客員教授制度が謳(うた)われています。また鯉淵学園との覚え書きには、現場や地域での試験研究の重要性、さらには教育研究活動の必要性から客員研究員制度が謳われています。
 
 「地際」に関しては、広く県や民間の研究所との現場を介した研究を拡大するばかりでなく、その研究を推進するために必要な経費も新たにシステム化しました。
 
 今日、農業環境技術研究所とMOUを締結した東京農業大学の進士五十八学長に「「農」の風景の意義と保全活用」と題して特別講演をいただけることは、この研究所の将来方向を見定め、さらに東京農業大学との研究協力を進めるうえで、われわれにとって望外の喜びです。
 
 「構造」と「システム」が決定され、これが「国際・学際・地際」のもとにほどよく展開され、「機能」が発揮されているかどうか。参加者のみなさまの忌憚(きたん)のないご意見をいただくようお願い申し上げます。
2004年4月12日
(独)農業環境技術研究所 理事長
陽 捷行
 
 
特別講演:「農」の風景の意義と保全活用
東京農業大学 学長 教授・(社)日本造園学会 元会長・(社)日本都市計画学会 会長
進士 五十八
 
 第二次大戦後の日本は、何事も経済指標で計量する傾向を強めてしまった。しかし、「農」の価値は農業生産額のみで計量されるものではない。その反省が2001年日本学術会議が日本政府の依頼で研究した「農林業の多面的機能」に関するレポートである。
 
 例えば「水田・畑地の公益的機能」の金額換算では約7兆円/年と試算されている。しかしこの数字は日産自動車の1社の年間総売上額に相当し、トヨタ自動車の44%にも満たない。「農」の価値は、(1)産業としての農業、(2)環境としての農地、(3)マンパワーとしての農民、(4)家庭教育システムとしての農家、(5)コミュニティシステムとしての農村といった様々な側面が一体になったトータル・システムにこそある、と私は考えている。
 
 ふつう景観的価値は、環境の一側面すなわち視覚的環境として捉えるのが一般的であるが、私は、前述したように「農」の多面性のトータル・システムが発揮してくれる全体価値を「農」の風景価値と呼びたい。風景の眼で見れば、その空間や場所が美しく豊かで持続力のある「生きられる景観」であるかどうか「一目瞭然」だからである。
 
 これからの環境はphysicalにもvisualにもecologicalにもsocialにもmentalあるいはspiritualにも、そしてamenityあふれるものであるべきで、なおかつマズローの欲求段階説の最終段階が「美」であるように、人間が本質的に希求して止まない自然と人間活動が調和的で共生(symbiotic)する美しい世界の典型例は「農」の風景である。高学歴化、高年齢化で本質を見抜く、かつまた自然共生を求める都市民が増加する21世紀社会での「農」の風景への市民意識はより一層高まるであろうし、現在国会で審議されている「景観・緑3法」においても、国土の「農」の景観保全地区設定が用意されている。
 
 これからは都市病理から脱却したい都市民を癒し、Green tourismなどOutdoor recreation滞在の場を提供するのみならず、自らと自らのコミュニティに対するIdentityを確認し、自ら居住地をpride of placeと呼べるものにするためにも、風景の中の風景である「農」の風景、すなわち自然・歴史・文化・産業の調和した健全でTotalなLandscapeの保全と活用が希求されなければならない。そのための方法を私は「百姓のデザイン」すなわち『ルーラル・ランドスケープ・デザインの手法』(学芸出版社、1994年)として刊行している。
 
 要するに、自然の地形・地質・植生・水景・地理を科学的に評価し、その点数にふさわしい土地利用分級と土地の活用と保全方策を講じることによって、農村地域のsustainabilityが高まると考えたわけである。Design with Natureこそが、農民の土地利用哲学であったのである。しかもその結果は、「用と景の調和」すなわち実用的であるばかりか美しくもあったのである。「観光」とは、風景を経済化する産業であると同時に、「国の光を観る」すなわち、その土地の最も素晴しい物や事を観るという意味であるから、住民にとってはpride of placeの重要な契機となるものであり、Green tourismや国際観光など政府の観光政策としても、「農」の風景の保全と活用は極めて重要といってよい。
 
 
研究成果発表   
1.農業環境における生物生息地を評価する
     (PDFファイル 212KB)
2.外来昆虫の侵入リスクと生態影響の評価
     (PDFファイル 426KB)
3.微生物インベントリーの利用法を探る
     (PDFファイル 627KB)
4.農業活動が流域の水質に及ぼす影響を解析する
     (PDFファイル  82KB)
5.カドミウム汚染土壌の修復技術の開発
     (PDFファイル 884KB)
 
(パソコンでPDFファイルを読めないときはAdobe Reader をインストールしてください)
 
 
総合討論
 「安全・安心な農業環境をめざして」というテーマで行われた研究成果発表会の総合討論は、生産者、あるいは消費者など一般の参加者の視点からの意見・要望が寄せられ、充実したものになった。
 
 この討論の中でとくに強調されたのは、農業環境問題に対する多角的な解決アプローチの重要性である。そもそも、農業環境問題は複合的な性質が強い。たとえば、日本の土壌窒素汚染は、海外から多量に輸入される飼料作物に依存した畜産業の影響が強い。また海外からの作物輸入は、必然的に外来種侵入のリスクを高める。これらの問題は、一見独立しているようで、実は強くリンクしているのではないか、という指摘があった。
 
 このような複合的な問題に取り組むためには、ひとつの分野に偏らない、学際的な研究や、縦割りを乗り越えた行政システムが求められる。ある問題に対して、いくつもの対処法を研究・実施していくことが効果的なのではないか、という提言があった。また、研究や行政だけでなく、生産者や一般の消費者が意識的に問題に取り組む姿勢の必要性も挙げられた。最近では、環境関連の市民活動も盛んになり、消費者の意識や知識が高まりつつある。消費者参加型の環境負荷の少ない農業や、国内で自給される作物や食品を意識的に購入するなどの具体的な取り組み案が提案された。
 
 一方で、生産者・消費者の意識の向上に対し、研究所はその成果を積極的に公開する義務があり、また消費者はそれを求めているとの意見が出された。行政・研究・生産者・消費者の4者が円滑に意見を交換できる場とシステムを作っていく努力が必要であること、さらに、そこで議論が発展していくことにより、日本の農業環境問題が解決に向かうひとつの道標ができるのではないか、との総括がなされた。この意味で、今回の研究成果発表会と総合討論は、意義深いものであったと言えるだろう。
 
第2回農業環境技術研究所「友の会」が開催された
 平成16年4月12日、農業環境技術研究所の「研究成果発表会2004」が開催された後、「第2回農業環境技術研究所第2回友の会」が開催されました。会長は初代農業環境技術研究所長の坂井健吉氏、副会長は元企画調整部長で元野菜・茶業試験場長の村井敏信氏と元総務部長の児玉 進氏です。元・前所長4名はじめ、遠くは九州からの来訪者もあり、約70名の出席者でにぎわいました。昔の話に花が咲くだけでなく、将来の研究所のあり方まで語り合う盛大な会になりました。
 
 農水省関係者はもとより、広く一般の方々に「友の会」会員への門戸は開かれています。皆様方の積極的な入会をお待ちしております。会員へは、年4回発行している「農環研ニュース」をはじめ、さまざまな案内をお送りしております。
 
 入会希望者は、当研究所の企画調整部研究企画科(Tel:029-838-8180, E-mail: kikaku@niaes.affrc.go.jp)にお問い合わせください。
 
平成15年度農業環境研究推進会議が開催された
 平成15年度の農業環境研究推進会議が、農業環境技術研究所において2月26日と27日に開催された。この会議は、農業環境研究の推進を図るため、農林水産省関係行政部局と関係研究機関等からの農業環境研究に関する要望を受けるとともに、意見交換を行うため、農林水産省関係行政部局および関係する独立行政法人、都道府県の研究機関等からの出席のもとに開かれたものである。
 
 
本会議(2月26日10〜12時)
 農業環境研究推進会議本会議は、農林水産省の関係行政部局、農林水産技術会議事務局、および農業環境に関係する検査・研究機関からの30名、農業環境技術研究所からの28名の参加のもとに開かれた。
 
1.あいさつ
独立行政法人 農業環境技術研究所 陽 理事長 
 法人が設立されて3年たった。今日は、この一年最も力を入れてやった仕事を3点紹介したい。1つはネットワークの構築、2つ目は国際会議、3つ目は現場重視の研究会である。
 
 まず、ネットワークの構築に当たり、国際・学際・地際を浸透させている。国際(international)は、国籍・人種・宗教・政治・経済・体制・貧困・性別などの差別がなく、相手の立場で思考し、意見の対立が感情の対立にならないことだ。学際(interdisciplinary)は分野を越えて研究をともにすることだ。地際(interregional)は、現場に役立つ研究にするために、現場との協力が非常に重要だということだ。
 
 国際・学際では、中国科学院南京土壌研究所および韓国農業科学技術院との間でMOU(Memorandom of Understanding)を結んだ。さらにASEAN諸国の研究者を国際シンポジウムに招へいしたり、私たちが相手側へ行き、研究協力のネットワークができつつある。アジアの農業環境研究の中心を農業環境技術研究所に置きたいという思いだ。オランダのワーゲニンゲンUR(University and Research)とは、かつてから連絡をとりつつある。今では、農林水産技術会議がワーゲニンゲンURとMOUを結んでいるので、交流は順調に行われている。この3月には生物環境安全部長を訪問させ、さまざまな研究計画を立てる予定でいる。ドイツのボン大学には、環境の国際部門があり、そことMOUを結ぶ。そこは、世界中から環境関係の学生や教授を集めている。今年3月から農環研から1名をこの研究所に派遣する。これらとネットワークを作って、国際的な問題を掌握したい。
 
 国内での学際・地際では、民間・大学・県とさまざまなプロジェクトで共同研究をしている。東京農業大学とMOUを結び、約10名の客員教授を決めようとしている。客員教授の資格で、学生の指導や研究に当たり、東京農業大学のドクター論文を審査したりする。鯉淵学園ともMOUを結んだ。フィールドをともに活用するのが目的で、客員研究員という制度を作った。環境研究の連携を目指した各省庁の10研究所の連絡会の事務局を昨年私たちが務め、成果発表会も開催した。これから毎年、開くことになる。このように学際・地際が進んでいる。
 
 今年は4つの国際会議を開催した。一つ目は、「東アジアの農業生態系における物質循環と環境影響評価」(15年3月)で、これは中国および韓国と結んだMOUの成果だ。次は、「アジア・太平洋諸国における侵入生物による環境影響とデータベース構築」(15年11月)で、ニュージーランドほか10カ国の研究者が集まった。3番目は、アメリカほか10カ国の研究者を集めた「農産物から重金属汚染を低減するための農業戦略とテクノロジー」(15年11月)で、カドミウムの問題を扱った。4番目として、この3月にデンマークほか4カ国の研究者を呼んで「地球温暖化に伴う東アジアにおける食料生産変動予測」についての国際ワークショップを開催する予定だ。
 
 現場重視の研究会として、ダイオキシン類を中心に、現場とは切り離せない研究会を開催した。問題になったドリン系農薬をとりあげた農薬環境動態研究会は、現場に最も近い研究会だ。昨日の土・水研究会では、「農耕地における重金属汚染土壌の修復技術の現状と展望」のテーマで、カドミウムで悩んでいる各県の現場の修復技術にまで踏み込んでいる。午後の研究推進部会では、「温暖化が農業に及ぼす影響評価と軽減対策への取り組み」をテーマにして、コメ、果樹および野菜の生産を取り上げている。
 
 このあと、企画調整部長が今年度の研究推進の概要を説明するが、今のような視点で総括をお聞きいただき、問題点があれば、皆様方からいろいろなご意見をいただいて、改正・改革し、問題点についての検討を始めたい。よろしくお願い申し上げる。
 
農林水産省 農林水産技術会議事務局 安中 研究開発課長 
 環境分野の研究は、科学技術基本計画の重点4分野の一つであり、わが国の重要な研究施策の大きな柱である。このことを背景にして、いろいろな研究施策、それに基づいた行政施策が展開されている。その科学技術基本計画も13年度から始まり17年度で第2期が終わるので、第3期の策定に向けて、総合科学技術会議自身も検討を開始している。第3期の計画に第2期がそのまま踏襲されるかどうかを質問しても全くの白紙だという返事だから、新たな重点化方向が示される可能性もある。農業環境の研究を国全体の環境の研究の中にどう位置づけるかについて、しっかり注視したい。
 
 技術会議事務局にも、研究の柱として農林水産研究基本目標がある。10年を見越した目標を立てているが、5年の区切りなので見直しの準備を進めている。農林水産研究の中に環境を位置づけていく作業はこれからだ。独立行政法人は平成13年から3年が経過し、ちょうど折り返し点だ。外部の環境も研究所の枠組みも、枠組み全体が次を目指して切り替わるときだ。環境研究をどの方向に進めていくのかについて、私たちも一生懸命考えるが、いろいろな場面でここに集まった環境研究を日常の業務とする方々の知恵をお借りしたいのでご協力をお願いする。
 
 重要なのは、環境研究にどう取り組み、どんな成果を上げたかを明確にすることだ。理事長の話に、ネットワークの構築、国際会議、現場重視の研究会というポイントがあった。そのような活動を、行政部局からの要請への迅速な対応、施策への貢献、現場への応用研究および基礎的な学術研究などの具体的な切り口で、農業環境研究が果たした役割を明確にアピールする必要がこれからますます高まってくる。
 
 今日の会議は15年度の総括と16年度の展望を主な目的としていると理解している。私もカドミウムの国際シンポジウムや温暖化のワークショップに参加し、国際会議開催の努力には敬服している。16年度から農業環境研究がどこまで到達してどこへ行こうとしているのかを十分議論して、明確な姿として示す方向で検討を進めていただけるとありがたい。最後になったが地球温暖化の研究、有害化学物質のプロジェクト研究など、国が実施するプロジェクト研究に中心的な役割を果たしてご尽力いただいていることを感謝し、あいさつとする。
 
2.平成14年度農業環境研究推進会議において行政部局から出された要望等への対応状況
 昨年14年度の推進会議で出された要望等と、それに対する当研究所の対応状況を報告した。
 
3.農林水産省独立行政法人評価委員会農業技術分科会による農業環境技術研究所の平成14年度に係わる業務の実績に関する評価結果について
 「I 業務運営の効率化に関する目標を達成するため取るべき措置」、法人の主要な業務である研究開発を含む「II 国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する目標を達成するためとるべき措置」、「III 予算(人件費の見積もりを含む。)、収支計画及び資金計画」、及び「VII その他農林水産省令で定める業務運営に関する事項」について評価があり、すべてについて中期計画の達成に向けて業務は順調に進捗(しんちょく)していると判断され、Aと評価されたことを報告した。
 
4.平成15年度評議会報告
 法人が独自に行う機関評価として、昨年4月に当研究所で開催された「平成15年度独立行政法人農業環境技術研究所評議会」の概要を説明し、評議員からの指摘事項とそれに対する対応を報告した。
 
5.平成15年度研究推進状況の総括
 平成15年度の研究の実施状況について、中期計画小課題、受託プロジェクト研究など法人プロジェクトおよび他の研究機関等との連携研究などを説明した。また、東京農業大学大学院農学研究科および財団法人農民教育協会鯉淵学園とMOUを締結したことを紹介した。さらに、過去1年間に研究所が開催した研究会・シンポジウム(11件)の概要を報告した。
 
6.平成16年度のプロジェクト・研究会・シンポジウムの予定
 当研究所が中心となって実施するプロジェクト研究等の来年度の予定および研究所が開催する研究会・シンポジウムの今後1年間の開催予定(9件)を紹介した。
 
7.行政部局及び研究機関からの要望
(1) 農水省 大臣官房 菊地環境政策課長
 今年は、地球温暖化対策推進大綱の見直しの年だ。関係省庁の関係審議会において大綱の見直しがスタートしている。産業部門の製造業関係では二酸化炭素の削減目標が達成できると言われているが、民生部門、運輸部門では達成は困難と言われている。農林水産業関係は、農地面積が減り、石油使用量が減り、結果的に二酸化炭素の排出が減少しているが、これは結果的な削減だ。農林水産業部門においても意図的な削減や省エネに取り組む必要がある。施設、園芸および農地からの発生を抑制するための技術開発が必要だ。温暖化対策で、来年をめざして各省それぞれの対策が求められてくる。
 
 バイオマス・ニッポン総合戦略を策定し、関係省庁と連携して取り組んでいる。バイオマスを農地還元するのではなく、エネルギー的に利用することに大きな期待が高まっている。各地域でバイオマスを使った取り組みが点の存在として活発化している。バイオマスのエネルギー的な利用や製品利用については、技術的な問題および科学的な課題が残っている。これについて、16年度もいろいろな予算措置が講じられているので、引き続き皆様方のご努力をお願いする。
 
 今度の国会に、外来生物を規制する法律が提出される。規制の目的は、生態系への影響、人の身体・生命に対する影響、農林水産業への被害の3つを防止することだ。そのために、ある特定の外来生物の輸入を許可制にし、国内の外来生物の使用者を許可制とする。外来生物が蔓延(まんえん)して3つの目的に影響を及ぼすときは、国が駆除する。農林水産業に被害を及ぼす外来生物は、厳しい規制をすることになるが、植防関係や家畜関係では、大部分が既存の法律により規制されていて、この法律により、新たに規制の対象になるものはない。ただ、魚類関係にいくつかのものが規制の対象になると想定されている。一方で、農業上利用している外来生物が生態系に影響を及ぼす場合には、規制の対象となる。植生研究会で、農業だけでなく、生態系への影響も対象としていることは、まことに結構だ。是非とも研究を深めていただきたい。
 
 昨年12月末に農林水産業全体の政策の進め方として、環境を重視した農林水産業を構築していくことを打ち出した。背景には、農林水産大臣から今後の農林水産業の施策は環境を正確にとらえ、環境を重視した政策を実施すべきという指示があり、それに基づいてとりまとめた。各行政部局で同じ認識の元に施策を展開していくことになる。すぐには取り組めない部分もあるが、4〜5年かけて実施しようと思うので、皆様方から、ご助言、ご支援いただきたい。
 
(2) 農水省 消費・安全局 農産安全管理課 新本調査官
 消費・安全局は、食の安全・安心の確保のためのリスク管理業務を中心に行う局として昨年の7月に発足した。食の安全・安心にかかわるものに環境汚染物質の問題がある。コメのカドミウムについてわが国の食品衛生法では1.0ppmだが、CODEXで基準値が検討され、0.2ppmという原案が出されている。これに対して、厚生科学研究の研究班がわが国の日本人のカドミウム摂取量の推計をもとに0.4ppmという日本提案を出している。3月にCODEXの部会で、コメをはじめ各食品のカドミウムの基準値を議論する。
 
 先週からのカドミウムに関係するプロジェクトの推進会議や土・水研究会に担当者が出席し、非常に感謝している。どんな基準値になっても、国内のリスクを全体的に下げる対策をとる必要がある。リスク管理を行う地域のゾーニング作業を進めている。農環研の出したカドミウム濃度やリン酸吸収係数、pHの知見をもとに、各県のデータによるゾーニングをしている。コメについては水管理の影響があるので、ダイズのデータも取るようにしたい。研究成果を踏まえて、補助事業の形で対応したい。あわせて、今年度から各県が持つ土壌とコメのカドミウム濃度のデータを農環研に提出し、一緒にゾーニング作業を進めたい。さらにゾーニングをした上で、カドミウム濃度を下げる技術対策も推進したい。コメのマニュアルを作成し推進しているが、CODEXではダイズや野菜などの基準値も設定する。それらについても必要な対策が今後求められるので、引き続き農環研がネットワークの中心となり各県や民間と連携して対応していたきたい。
 
 農薬も当局の所管だ。今日の国会でも山形県選出の国会議員からドリン系農薬の対策についての国会質問があった。負の遺産として残っているので、科学的対策をしっかり実施したい。14年に農薬取締法が改正され、マイナー作物の問題が出てきたが、2年間の経過措置が終わる今年中にはこのマイナー作物問題を整理しなければならない。一つはグルーピング化も視野において、農環研の方へお願いしている。消費者に納得してもらえるような科学的裏付けをしていきたい。
 
 食の安全とは直接かかわらないが、カルタヘナ法(遺伝子組換え作物の生物多様性影響の防止)も当局の所管で、この2月19日に法律が施行された。申請を受け付け、省内に設けた検討会で学識経験者の意見を聞いて審査を進めている。生物多様性や野生動植物との関係で、長期的な影響や大規模商業栽培になった場合の交雑の可能性について消費者からの質問も想定される。長期的な影響、大規模に栽培した場合の生物多様性影響や同種の作物への影響といった知見を蓄積する必要があるので、よろしくお願いしたい。
 
 先のカドミウムの話にしても、われわれ行政の立場から、すべての動きをフォローすることは至難の業なので、農環研が科学的分野でネットワークの中心となり活動していることを非常に心強く思う。科学的知見については、農環研に聞けばおよそのことは分かるという形になると非常にありがたい。
 
 われわれ消費・安全局は、食の安全について科学的知見をベースにして安全性を議論する。安心を訴えるためにも科学的知見がベースになる。食の安全性については突発的な話が出て来た場合、科学的知見を機動的に整理する作業が必要になる。その場合に、例えば研究班方式のような、機動的にテーマを設定して、これに関係のある方を広く結集して短期間で成果を上げるような形ができないかと省内で技術会議と相談している。予算的にどうすればそういうことができるかはこれからだが、いずれにしても消費安全局は、研究機関との連携を強めたいという意識を持って局内で作業をしている。
 
(3) 農水省 生産局 農産振興課 環境保全型農業対策室 坂本企画調整係長
 農産振興課にあったカドミウム関係の部署は、昨年7月に消費・安全局農産安全管理課に移った。24日に開催された全国環境保全型農業推進会議には、農環研理事長にも推進員として出席していただいた。毎年11月に開いている技術研修会は生産者に環境保全型農業の核となる技術を推進していただくためのシンポジウムだが、昨年は施肥技術について各分野の先生方に講演していただいた。一昨年は総合防除だった。農業環境の技術面で密接に関係するので今後とも連携を深めながら推進したい。
 
(4) 農水省 農村振興局 資源課 農村環境保全室 松尾環境調査班課長補佐
 昨年度に要望した水田を活用した栄養塩類の浄化技術について、次年度の取りまとめに向けて引き続きお願いしたい。ダイオキシンの浄化技術について、あと1ヶ月程度で取りまとめに入りたい。これらの協力に感謝したい。16年、17年の基本計画の見直しについて、農村振興局としては環境を重視した地域資源の保全管理を打ち出している。農村環境の水や環境、有機性資源をどう保全するかを、研究会を作って調査したい。その中で農村環境の農地や水などの現状を、国民に分かりやすい形で明らかにしたい。政策を講じた場合の政策評価等をどうするかについて、アドバイスをいただきたい。
 
(5) 独立行政法人 農薬検査所 渡邉検査部長
 昨年の農薬取締法改正法の施行から1年たち、マイナー作物に対する登録促進方策について、本省と一体となり取り組んだ。経過措置で使用が認められた農薬も、事後に試験成績を提出する必要がある。各県から出されたものについて、重複の整理作業や、試験数の軽減化、試験設計に対する助言などをこの1年間行った。特定防除資材について、近々本省から評価の指針が出されると聞いている。いよいよ具体的な検討が必要な時期になってきている。食品安全委員会へのリスク評価の移行に伴い、いろいろ対応が必要になってきている。さらに、登録農薬に関する情報を提供できるように充実を図っていく予定だが、まだ課題が残っている。こういう状況で、本省の消費・安全局農産安全課や農薬対策室とも一体となって、今後とも取り組む。2年目も農環研の皆様からアドバイスをいただきたい。
 
(6) 北海道立中央農業試験場 能代農業環境部長
 カドミウムのプロジェクトなど農環研が主導するプロジェクトに参加させていただき、お礼申し上げる。温暖化について、北海道に住んでいる実感として、冬は10℃から15℃は温暖化している。夏は寒かったり暑かったりで毎年が異常気象という状況だ。作物への影響を研究すべきという研究シーズが大きくなってきている。これからも全国的なプロジェクトがあればぜひ参加したい。
 
 遺伝子組換えの問題では中央農業試験場にも遺伝子工学科があってバイテクの基礎研究をしている。消費者ニーズ、安心・安全を重視する声が大きいので北海道としては慎重な対応をせざるを得ない状況にある。
 
(7) 中央農業総合研究センター 高橋病害防除部長
 要望事項についていくつか上げると、バイオマス研究とマイナー作物の農薬登録の問題とがある。これは都道府県から強い要望が中央農研にも上がっている。研究サイドもできることはしなくてはならない。3点目は海外からの侵入病害虫である。農環研で国際シンポジウムを開催したが、農研機構も重要なので前から取り組んでいる。カンキツグリーニング病の問題が大きくなっている。最近の国際化と温暖化が絡んで、日本で生息できなかった病害虫が侵入し、被害が拡大する事例が出ている。遺伝子組換えの問題は、現場に持っていくことが目的なので、それに伴って生じる問題は一緒に対処したい。
 
(8) 野菜茶業研究所 武田茶業研究部長
 茶業では、施肥により環境に大きな負荷を与え、硝酸態窒素や亜酸化窒素の問題が生じていた。このため7〜8年前から施肥削減に取り組んでいる。30%の施肥削減が技術的にはできたので、農家の段階まで下ろすことが平成17年までの大きな課題になっている。さらに17年以降50%の施肥削減の目標があり、これは既存技術の延長では解決できない問題だ。茶業の研究勢力は非常に小さいので、農環研との連携強化をお願いしたい。
 
 ここ20年の間に、一番茶の時期が1週間早くなっている。そのため、これまでの技術を少しずつ修正する必要があり、温暖化プロジェクトで対応している。生物機能を活用した農薬削減および環境負荷削減については、農林水産省の平成16年度から始まるプロジェクトで対応する。茶業研究も環境というキーワードで、大きく舵(かじ)を切ったと理解している。今後とも連携をよろしくお願いする。
 
(9) 畜産草地研究所 加納草地生態部長
 草地関係も温室効果ガス問題を扱っている。草地土壌中の炭素蓄積について、土壌分類研究室の協力をいただいている。委託事業として、メタンや亜酸化窒素について温室効果ガスチームにお世話になる予定だ。また、耕作放棄地や転作田が余り、そのような場所にかなり放牧が進んでいる。それが里山や水田の生物多様性にどういう影響を与えるかについて農環研と協力をしたい。それから、家畜の飼養形態についても、自給飼料を主体とした畜産に転換するにはどうすればよいかを考えている。
 
(10) 動物衛生研究所 三浦安全性研究部長
 環境ホルモンのプロジェクトを一緒に実施したが、今後も、ダイオキシン類や類似の有害物質の家畜飼料や家畜への蓄積の実態および移行について研究を進めていきたい。
 
(11) 北海道農業研究センター 山田生産環境部長
 北海道の今年の重点検討課題として、リスク低減化技術を検討した。具体的には、カドミウムを中心とした重金属、残留農薬も含めた農薬、赤カビのマイコトキシンのような微生物が産生する物質および健康阻害物質の硝酸性窒素、この4点について、どう考えればいいかを検討しているので協力をお願いする。
 
(12) 東北農業研究センター 矢島地域基盤部長
 ドリン系農薬の問題が一昨年、山形県で発覚した。東北農研では人員・機材等が不足し十分対応できず、農環研で対応していただいたことを感謝する。雫石の水田に設置したFACEリングは、水田では世界で2つしかない施設だが、東北農研と農環研の共同研究であるFACEの研究期間が来年で終了する。せっかくの施設であり、新たな共同研究を立てて活用したい。とくに今年は冷害で、作物だけでなく、病理や害虫についても興味深い成果が出ているので、引き続きお願いしたい。
 
(13) 近畿中国四国農業研究センター 長野間地域基盤部長
 近中四農研では、次期中期計画に向けて重点化3本計画を作成し、その中で環境問題を大きく取り上げた。とくに都市近接中山間の人口の多い地域や景観が重要な地域があり、閉鎖性水系が沢山ある。高度化事業にも瀬戸内海に関わる野菜地帯とカンキツ地帯の水質問題で応募している。四万十川の水質に対する代替技術がどう評価できるかということが重要になると考える。生物の多様性については、近中四農研の畦畔(けいはん)管理研究室で、畦畔や法面をどう考えるかという観点での研究が必要と考えている。近中四農研では残留農薬に関する問題別研究会を継続しており、その中で府県から要望が出てきているので、協力をお願いする。水に係わることについてこれからも連携をお願いする。
 
(14) 九州沖縄農業研究センター 金森環境資源研究部長
 九州沖縄農研においても地球温暖化や有害化学物質等で共同研究させていただき、お礼申し上げる。研究の連携と人的な交流もよろしくお願いしたい。
 
(15) 農業生物資源研究所 竹田昆虫新素材開発研究グループ長
 遺伝子組換え作物の圃場試験について、日本農学アカデミー、生物研理事長や農環研理事長が意見書を出したという話を聞いている。農環研と連携して、社会の認知を受けながら組換え作物を実用化の方向へ進めたい。組換え作物を作出する、評価する、現場に移すということを、3つの独立行政法人が一緒になってやっていきたい。
 
(16) 農業工学研究所 長利農村環境部上席研究官
 農工研は土地改良法に基づいて、土・水・コンクリートを対象にしてきたが、独法化後は植物や魚、農村まで手を広げた。環境の部分では、連携・協力をお願いする。農工研のプロジェクトの土地資源の管理で、評価委員からもう少し環境の方へ広げるようにという指摘も受けている。今後とも協力をお願いする。
 
(17) 国際農林水産業研究センター 伊藤生産環境部長
 昨年3月には世界水フォーラムが京都で行われた。そのフォローアップとして、この2月にアジアの水田にかかわるINWEPFという水環境のネットワークを、日本を主体として立ち上げた。農環研も国際農研もこのメンバーなので、このネットワークを介して連携を深めたい。技術会議が主導する水循環や東京大学を中心としたクレスト(CREST)などの水関係のプロジェクトが走っている。これらはメコン川を主体にして研究している。我々は、バンコク、東北タイのコンケン、ビエンチャン、メコン川下流域のメコンデルタに拠点を持っている。それを利用して、共同研究をさらに深めたい。CGIARでは水と食料チャレンジプログラムを昨年11月から実施している。国際農研はコンソーシアムのメンバーなので、これを推進して行く中で、農環研の協力をいただきたい。
 
(18) 森林総合研究所 加藤立地環境研究領域長
 農環研、水産総合研究センターと森林総研で環境関係の研究を連携して進めている。とくに、河川で運ばれる物質に関する研究や鳥獣害の研究がある。最近では、温暖化関係の研究がある。引き続き連携して研究を進めたい。農・林・水のそれぞれの研究成果が求められ、さらに一体化した回答も求められる。これからますます農環研と一緒に研究することになるが、いろいろお知恵を拝借したい。
 
(19) 水産総合研究センター 原研究調査部長
 水産資源は長期的に大きく変動するので、漁獲統計や海洋観測データの長期的モニタリングが非常に重要だ。気象庁の気象観測業務のような予算化がないので、船を動かすための予算を集めて、モニタリングを行っている。モニタリング研究をどう予算化するかという問題意識を持っている。農環研やこの場にいる皆さんと一緒に、地球温暖化などのプロジェクトに参加させていただいていることで、皆さんにお礼申し上げたい。今後とも連携を深めたい。
 
(20) 水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所 有馬化学環境部長
 有害化学物質の総合管理に関しては、いつもお世話になっている。対象生物や物質は多少異なるが、使う手法は共通するので、いろいろと教えていただきたい。
 
(21) 富山県農業研究センター 農業試験場 大野土壌肥料課統括研究員
 成果情報の検討についての要望を聞いていただき、感謝する。平成18年度の研究基本目標の改良にあわせて指定試験の見直しが予定されている。環境研究はどうしても成果が見えにくいが、環境政策の基本方針にふさわしい重要な仕事をしていると自負している。われわれは現場で利用されてこその成果だと思っている。指定試験は何十年と受け継がれてきた信頼関係の上に成り立っている。このような関係は一朝一夕にはできないとご理解いただいて、今後とも継続的に指定試験が研究業務を続けられるように農環研からもご支援をお願いしたい。現在は環境負荷物質の指定試験の5割が独立行政法人からの出向者だが、全体からすると3割に満たない状況にある。指定試験主任への研究者の派遣にご協力をお願いしたい。
 
(22) 秋田県農業試験場 原田生産環境部環境調和担当
 環境負荷物質の動態解明試験について成果が足りないと言われているが、環境研究の仕分けの問題だ。同じようなテーマに取り組んで、全体的にレベルアップすることが大事だが、テーマや地理的分担関係の整理も必要だ。環境負荷物質の動態解明が終了し、新規課題の立ち上げになる場合は、ご協力をお願いする。
 
(23) 静岡県農業試験場 海岸砂地分場 新良主任研究員
 農環研のプロジェクトに参加しているが、指定試験なので非常に狭い地域で研究をしている。試験の設定について協力をお願いする。また、人的交流をお願いする。
 
(24) 愛知県農業総合試験場 東三河農業研究所 今川野菜グループ統括研究員
 自然循環プロジェクトなどではご指導いただき感謝する。今後とも密な連携をお願いしたい。
 

 
研究推進部会(2月26日13〜17時)
議 題: 「温暖化が農業に及ぼす影響評価と軽減対策への取り組み」
 
 本会議の出席者のほかに各研究機関の研究者などが加わり、約70名が出席して開催された。
 
(趣旨)
 2001年に刊行されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第3次評価報告書によると、過去100年間で地上の気温は約0.6℃上昇し、今後1000年間でさらに約3℃上昇することが示されている。なかでも、将来の気温上昇幅を地域ごとに比較すると、日本列島を含む東アジア地域で上昇幅が大きいことが明らかになった。また、この地域では世界の約7.5%の土地に約25%の人間が生活しており、潜在的に食料生産性が高い地域である。これらのことから、わが国周辺地域の農業は世界で最も早い時期に温暖化による深刻な影響を受けることが考えられる。
 
 こうした温暖化問題に対処するため、2002年から研究プロジェクト「温暖化が農林水産業に与える影響の評価及び対策技術の開発」がスタートした。このプロジェクトは、他の分野の温暖化研究課題とともに総合科学技術会議に属する温暖化イニシャティブのもとに位置づけられ、従来の研究に比べてより政策提言に役立つ成果が求められている。
 
 本部会ではこれらの情勢を背景として、農業分野で実施している温暖化影響評価および対策技術開発に関する研究を紹介し、問題点の整理を行う。あわせて、行政部局における温暖化対策の取り組みについて解説し、近い将来に焦点を置いた影響軽減対策の方向と役割について検討する。
 
(議事次第)
 1.開催にあたって
         陽  捷行(農業環境技術研究所理事長)
 2.農業における温暖化の影響評価と対策に関する情勢
         嘉多山 茂(農林水産省大臣官房企画評価課参事官)
 3.地球温暖化に関する地域における環境対策行政の取り組み
         松井 康男(岐阜県健康福祉環境部参事)
 4.高温によるコメの品質低下に対する対策
   −関東農政局管内の事例−
         角田新二郎(関東農政局生産経営流通部農産課農産機械係長)
   −三重県におけるコシヒカリの品質低下の要因と対策−
         北野 順一(三重県科学技術振興センター農業研究部伊賀農業研究室)
 5.温暖化による水稲栽培可能期間の変化予測
         石郷岡康史(農業環境技術研究所地球環境部気象研究グループ)
 6.野菜・果樹への影響評価と対応技術
   −野菜への影響評価と対応技術−
         岡田 邦彦(野菜茶業研究所葉根菜研究部作型開発研究室長)
   −果樹への影響と対策技術−
         杉浦 俊彦(果樹研究所生理機能部環境応答研究室)
 7.温暖化影響対策の今後の展望
         今井 勝 (明治大学農学部作物学研究室教授)
 8.総合討論
 
(討論の概要)
 最初に理事長より、近年温暖化の兆候がさまざまな現象に現れていること、農業環境における温暖化研究には先を見通した視点が必要であることの指摘があった。また、温暖化影響評価の研究に関して農環研に期待する点について意見をいただくことが本部会の一つの目的であり、充分な討議をお願いしたいとのあいさつがあった。
 
1)農業における温暖化の影響評価と対策に関する情勢
 地球温暖化が国際的な問題となってから約20年が経過し、その間にIPCCの設立、「気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)」の発効および「気候変動に関する国際連合枠組条約締約国会議(COP)」の開催など、さまざまな国際的取り組みが行われている。日本国内においては、京都議定書に対応する形で改正された「地球温暖化対策推進法」の主要部分はいまだ施行されていないものの、「地球温暖化対策推進大綱」が策定され、我が国の温室効果ガス削減目標を達成するための具体的な方策を提示している。また、農林水産省においては「循環型社会構築・地球温暖化対策推進本部」を設置し(平成13年)、省内各局庁はもとより関係府省とも連携しながら、循環型社会構築及び地球温暖化対策のための総合的な施策の検討を行っている。
 
 これらを背景として、農林水産省大臣官房企画評価課が平成14年4月に取りまとめた「近年の気候変動の状況と気候変動が農作物の生育に及ぼす影響に関する資料集」では、温暖化が農業全般に及ぼす影響についてまとめている。地球規模の気温や大気中の温室効果ガス濃度の上昇は避けられない予測結果となっており、地球温暖化の問題は優先性の高い喫緊の課題である。
 
 具体的には、既に乳白米の発生やカメムシ類の異常発生などの形で問題が顕在化している。今後、地球温暖化に関する国内外の動向・研究成果などの情報や気候変動に関係する観測データなどを入手し、それらを基に精緻(せいち)な予測技術を確立するとともに、できる限り有効な対策を講じていくことが重要である。
 
2)地球温暖化に関する地域における環境対策行政の取り組み
 国際社会において環境問題への取組は進展しているが、地球環境の劣化はますます深刻化している。気象庁によると、2002年の世界年平均地上気温の平年差は、観測史上2番目に高い値となっており、この要因の一つとして、二酸化炭素などの増加による地球温暖化の影響が考えられている。岐阜県においては「この地球温暖化に伴う異常気象は既定の事実であり、避けて通れない大きな問題」であると認識し、県という自治体レベルで、「どのような影響を受けるのか」、そして「それにどう対応するのか」を研究しておくことが極めて重要であるとしている。
 
 そこで「どのような影響を受けるのか」という点に関して、世界的な、および日本全体の気候変動の予測は出ているが、岐阜県という地域的なレベルにおける気候変動はどうなるのかということが推測されていないため、その予測を試みた。得られた「幅のある予測」の中で、最悪の状況を想定して「それにどう対応するのか」を農林水産、建設管理、農山村整備、防災、商工、健康および環境などの関係部局において考え、今でも実行可能なものを「速やかに実行する対策」および技術などが確立されてから実行するものを「速やかに検討する対策」として取りまとめた。
 
 一般的に、地球温暖化に伴う異常気象は「まだ先のこと」と考えられているが、「回避できないこと」として対策を実行し、または、対策を実行するための研究などを開始することは、県民の生命や財産を守るために、大変重要かつ時宜を得たものと考えている。
 
3)高温によるコメの品質低下に対する対策
 −関東農政局管内の事例−
 高温によるコメの品質低下の現状について、関東農政局管内で実施している農産物検査における一等米比率の推移を見ると、出穂期の高温などが影響している可能性が明らかになった。等級が低下する理由として、平成10年産の調査以降、乳白によるものが1位となっている。
 
 この対策として、農林水産省では「農業生産の技術指導について」のなかで、登熟期の高温対策を指導している。また、関東管内では、平成15年度以降、耕種、肥培管理、水管理および品種構成のそれぞれについてガイダンスを行っている。具体的には、関東農政局管内では、茨城県、栃木県、千葉県、神奈川県および長野県で、農業者にパンフレットなどを配布して対応している。最近では、平成11年産が乳白米の割合が多く、登熟期の高温の影響を強く受けた。品質を維持するために田植えの時期を5月5日以降にすることが有効と考えられている。
 
 −三重県におけるコシヒカリの品質低下の要因と対策−
 三重県では水稲作付け面積の約78%にコシヒカリが栽培され、本州では最も早いコシヒカリの早場米産地である。しかし近年、一等米比率が著しく低下している。特に、良食味米産地である伊賀地域で影響が大きい。この原因を明らかにするため、主に気象の面から解析を行った。
 
 伊賀地域における出穂盛期と一等米比率の関係には、出穂盛期が8月初旬の場合に一等米比率が80%以上になること、また籾(もみ)数が過剰になると品質変動が大きくなる特徴が認められた。一方、気象要素として、稲作期間の平均気温、平均最高気温、最低相対湿度および温乾風日数などを取り上げ、一等米比率との相関係数を求めたところ、出穂後7〜13日間の温乾風日数の相関係数が−0.764となり、明瞭な負の関係が明らかになった。温乾風が白未熟粒を発生させる生理的メカニズムは未解明だが、今後とも群落内の微気象と品質との関係について検討し、発生軽減技術を組み立てる必要がある。
 
4)温暖化による水稲栽培可能期間の変化予測
 地球温暖化は水稲の生育と収量に大きく影響すると予想される。従来の生産性を維持するための対応策の一つとして、栽培期間の移動が考えられる。これらについて解析を行うため「気候登熟量指数」を導入し、気候変化条件下において最も高い生産力とそれが得られるような栽培期間を調べ、その時間的・空間的分布特性の特徴について検討している。
 
 その結果によると、現在の気候条件において最大登熟量指数が高い地域は、秋田県、山形県および新潟県などの日本海側に分布する。これに対して、関東地方周辺では広範囲にわたって登熟量指数は低い。将来の気候変化シナリオのもとで登熟量指数の経年変化に現れる特徴は、北海道を除く地域で、年とともに登熟量指数が減少することである。この理由は、温暖化に伴い最適な登熟期間の平均気温である22℃を越えるケースが増えるため、潜在的な生産性が低下すると考えられる。また最適な出穂期の分布をみると、北海道・東北地方の一部地域では出穂期を早めることで登熟量指数を高める効果が現れるが、これ以外の広範な地域では出穂期を遅らせることで登熟量指数を維持することが推定される。
 
5)野菜・果樹への影響評価と対応技術
 −野菜への影響評価と対応技術−
 現在、日本で栽培されている野菜の多くは温帯産であるうえ、周年供給のため、品種の特性や気象・社会的条件などを背景として多様な作型が開発されている。従って、研究例はごく一部の作物に限られている。そのなかで、例えば近年生産が伸びている果菜類のうち四季成性品種のイチゴに関して、温暖化による花芽分化の不良、奇形果の多発および減収が起こることが考えられる。概括すると発育の擾乱(じょうらん)と成長の抑制が問題となると考えられる。
 
 また、葉根菜類については、栽培期間を高温期にシフトさせるとともに、より冷涼な地域での生産を行うことにより周年供給を実現させてきた。従って、果菜類にくらべ暖候期生産において基本的に無理がある。また高温により抽台が促進されるものも多く、抽台してしまうと収穫ゼロとなる危険があるため、温暖化の影響はより深刻である。
 
 このほか、害虫の越冬率の上昇や南方系害虫の定着、ナス科野菜の青枯病やウリ科野菜のうどんこ病などの病害がこれまで発生の少なかった寒冷地へ拡大する懸念が増している。対策としては、生産コストの上昇や生産量の不安定化を招かないよう配慮しつつ、生産予測に基づいた産地間連携を図るなどの必要があるだろう。
 
 −果樹への影響と対策技術−
 北のリンゴ、南のカンキツといったようにわが国の果樹産地は地域により栽培樹種が分化している。果樹生産に影響を及ぼす環境要因は、気温、日射、降水、土壌などさまざまであるが、リンゴ地帯やカンキツ地帯が形成された要因は気温の相違である。このことから将来の温暖化が果樹生産に及ぼす影響は極めて大きい。
 
 現在のリンゴの栽培適温域は、北海道南部から東北全域、長野、北関東北部に分布している。温暖化シナリオを利用して、リンゴ栽培に適する年平均気温の分布の変化を解析したところ、2040年代には東北中部の平野部が、また2060年代には長野県でも適地から外れることが予想されている。こうした影響を軽減するためには、栽培体系の見直しが必要になるとともに、防除暦の見直しや外国からの病虫害の侵入に対して今まで以上に注意を払う必要がある。また、暖地向きの新品種の開発や既存品種の高温耐性を検定しておく必要が考えられる。
 
6)温暖化影響対策の今後の展望
 温暖化が進行する間にも、気象は大きく変動し、思わぬ低温が襲来する年も頻発することになろう。温度ひとつをとっても大きな振幅を示しつつ、平均化すれば上昇傾向となるのである。たとえば、平成5年と15年には著しい水稲冷害が起こった。温暖化対策を進める中でも、低温、旱魃(かんばつ)および豪雨などへの対応策も忘れてはならない。
 
 生物生産や農業への影響を考える場合、内嶋善兵衛氏が10数年前に提示した図が問題点の所在をよくとらえている。温度の上昇、降雨の量や分布などの温度・水文状態変化および二酸化炭素を含む温室効果ガスの濃度上昇などは、生物、とくに植物の生長に大きなインパクトを与える。われわれは温暖化を当分の間とどめることができないであろう。従って、温暖化に順応した農業生産の体系化が必要である。それらには、作物品種の育成、適作物の導入、作付け期や作付け地域の移動、施肥の改善および作物の適応性検定の強化などがまず行うべき検討課題となろう。
 
 以上は、いわば消極的な対策である。一方、やや積極的な観点から影響軽減対策を模索してみると、休耕地をなくして、何らかの作物を栽培し、食糧、バイオマスエネルギーや肥料などに積極的に利用することがあげられる。これらは、二酸化炭素の循環にとっても極めて健全な行き方である。農業における循環型システムの構築も、コンセンサスを得るよう努力しつつ突き進んで行けば、そこに近づくことができるのではないか。作物の生産と利用という面から考えてみても、自給率を高めて輸入体質から脱却することによって、また、バイオマスの多面的利用によって、温暖化影響の軽減に貢献できる対策が種々見いだされよう。
 
7)総合討論
 温暖化により、白未熟粒の発生に代表されるコメの品質低下が顕在化している。登熟期の高温や出穂後の温乾風日数の増加が原因と考えられる一方、収量はそれほど低下していない点について指摘があり、参加者から関連した圃場試験の結果が紹介された。温暖化とともに、収量も低下するという予測結果に関しては、登熟過程の生理的な反応を考慮することで合理的に説明できることが紹介された。こうした議論を通して、温暖化がコメ生産に及ぼす影響が極めて深刻な問題になりつつあることが認識された。
 
 温暖化の過程で、年々の気候の変動も大きくなることが考えられる。そこで、特に野菜の安定栽培を考える場合に異常気象との関係が重要である点が指摘された。また、地域における環境対策行政でも異常な少雨や多雨に関わる対策の検討が求められており、こうした比較的スケールが小さい気象現象による負の影響を予想する重要性が議論された。さらに、茶については、摘み取りの時期が早まっているが、このため、かえって春先の異常な気圧配置によって発生する晩霜に遭遇する危険性が増すなど、多様な影響が考えられることが指摘された。
 
 このほか、温暖化による降雪量の減少が農業水資源に大きな影響を及ぼす可能性、農業者を含む国民一般に対し温暖化対策を浸透させる重要性と問題点など、広範に及ぶ議論があった。最後に、水稲栽培の例に絞って考えても、非常に多様な過程を通して温暖化の影響が及ぶため、総合的な研究が不可欠である点を指摘して総合討論を締めくくった。
 

 
評価部会(2月27日 9〜12時)
 本会議の出席者など41名が出席して、農業環境研究の主要成果候補について検討した。検討の結果、農業環境技術研究所から提出された平成15年度主要成果36課題全部が、主要成果として採択された。なお、これらの主要成果は、秋田県農業試験場、富山県農業技術センター農業試験場、静岡県農業試験場海岸砂地分場、愛知県農業総合試験場東三河農業研究所から提出のあった主要成果合計5課題とともに、「農業環境研究成果情報(第20集)」として、平成16年3月末に公表された。
 
わが国の環境を心したひとびと(6):吉岡金市
はじめに
 今回の「わが国の環境を心したひとびと」では、反骨の農学者といわれた吉岡金市をとりあげる。吉岡金市の農学者としての特徴は、西尾敏彦著の「農業技術を創った人たち」によく表現されているので、以下にその一部を紹介する。
 
 「吉岡金市は岡山県井原市の農家に生まれた。苦学して京都大学を卒業する。専攻は農林経済学だったが、生涯の多くを水稲直播の技術研究にささげた。もっとも、いきなり直播に取り組んだわけではない。最初は、やはり大原孫三郎が創立した倉敷労働科学研究所で農業労働の実態調査を行なった。ここで、彼自身が”記憶のさかのぼり得る限りでの幼少の頃から体験してきた”重労働が、農業の改革を妨げる最大の障害であることを実感する。」
 
 吉岡は岡山県井原市の農家の息子として明治35(1902)年7月26日に生まれた。京都帝国大学を卒業した後、倉敷(日本)労働科学研究所で労働生理学、産業衛生学、労働医学、労働技術学を研究した。ついで大原農業研究所農業経営部長として、水稲の灌漑(かんがい)に関する研究を基盤とする労働節約的な直播機械耕作法の研究を進めた。
 
 つねに農家の労働力の解消に目を向けていた。そのためには、機械化が必要であると考えた。しかし、田植え稲作では機械化はむずかしい。水稲直播こそが農業を近代化する大きな決め手になると考えた。頑固で行動的で努力家の吉岡金市は、農業に関わる数多くの本を書いた。
 
 これらの本の題名を見ると、吉岡を農学の研究者とだけみることは正しくない。彼がめざしたのは、農家とともに歩む技術改革と、農家の経済的な幸せと、農村に住むひとびとの環境と健康をもとめた総合的なものであった。その証(あか)しとして吉岡は、農学と経済学と医学の博士号を取得していた。それらのことは、以下に示す吉岡の書いた本の題名からも推察できる。吉岡の著書は60冊、論文は300編を超える。そのなかの代表的な著書のいくつかを眺めてみる。
 
● 農具に関する研究:労働科学、1936
● 農具の整理について:労働科学、1937
● 日本農業労働論:時潮社、1939
● 日本農業の機械化:白揚社、1939
● 農業と技術:白揚社、1941
● 農業機械化の基本問題:白揚社、1941
● 日本の農業:伊藤書店、1944
● 水稲の直播栽培に関する研究:伊藤書店、1947
● 日本農業の電化:白揚社、1947
● 農業技術学−農業技術の理論とその変革(農業技術学):日本科学社、1949
● ソ連農業の機械化:資料社、1949
● 農業技術の変革:潮流社、1950
● 農業労働の技術学:有斐閣、1951
● 水稲麦間直播におけるケラの防除法、農業及び園芸27、1952
● 直播栽培の技術学:有斐閣、1952
● 農業経営の技術学:有斐閣、1953
● 日本のミチューリン農法−発展のための批判と報告−:青銅社、1954
● 中国の農学:東洋経済新報社、1957
● 吉野熊野総合開発調査研究第2報:熊野川水系北山川池原ダムの小栃川への背水、堆砂に関する調査研究報告書、自己出版、1963
● ブドウ−うまいブドウのうまい作り方:明文書房、1964
● 果樹の接木交雑による新種・新品種育成の理論と実際「第1巻」:新科学文献刊行会、1967
● 公害の科学:イタイイタイ病研究−カドミウム農業鉱害から人間公害(イタイイタイ病)への追求、たたら書房、1970
● 吉岡金市・松本文雄:枯松一斉調査と年輪解析報告、松枯れの原因は大気汚染であって松にくいこむマツノザイセンチュウはその結果である、日本公害史研究ノート、第4巻第4号、1975
● カドミウム公害の追求:労働科学研究所、労働科学叢書54、1979
 
 著書の題名から明らかなように、吉岡の関心は農家の生産と経済と労働の問題であった。しかし農民の生の豊かさを望む吉岡の関心は、時代の変遷とともに人と環境の健康に移っていった。昭和30年代には治水に関心が向き、冷水害などによるダム災害の調査を行った。これがもとで、さらには神通川水系のカドミウム公害を追求し、イタイイタイ病の研究に大きな業績を残すに至る。この点が、吉岡金市を「わが国の環境を心したひとびと」にあげる最も大きな理由である。
 
 1970年に「たたら書房」から出版された「イタイイタイ病研究」と、1979年に「労働科学研究所」から出版された「労働科学叢書54 カドミウム公害の追求」は、氏の著書の中の圧巻であろう。
 
 公害とそれに伴うイタイイタイ病の実態を世界に訴えたい思いが、彼の著書「イタイイタイ病研究」の冒頭の13ページの英文にも現れている。これは、国際社会科学評議会公害問題常置委員会が開く「公害問題に関する国際シンポジウム」の講演の要約である。題名は、「Natural and Social Scientific Study of Itai-itai Disease」で、Prefaceのあとは、次の項目が続く。
1. Industrial Development and Dissemination of Industrial Hazard
2. Characteristics of Itai-itai Disease
3. Natural Scientific View on Itai-itai Disease
4. Social Scientific View on Itai-itai Disease
5. Literature on Itai-itai Disease
 
 日本語の内容は次の通りである。本書の第1編は神通川水系公害研究報告書で、農業公害と人間公害に関する研究がまとめられている。第2編ではイタイイタイ病が、カドミウムの慢性中毒症であると結論されるまでの経過が報告される。第3編では、カドミウム慢性中毒症を中心とする産業公害の免疫的研究の経過と成果が述べられる。第4編では、カドミウム慢性中毒症としてのイタイイタイ病論争がきわめて具体的に語られる。第5編では、イタイイタイ病と公害との関連性についての疫学的研究が、著者の書いた別の文献で紹介される。目次は以下の通りである。
 
第 I 編―神通川水系鉱害研究報告書―農業鉱害と人間公害(イタイイタイ病)
A 農業鉱害に関する研究
1.研究の課題と方法と対象   2.神通川水系の用水と鉱毒
3.神通川水系の農業と鉱害   4.農業鉱害から人間公害へ
B 人間公害に関する研究
1.研究の課題と対象と方法   2.イタイイタイ病の疫学統計
3.イタイイタイ病の病源物質  4.イタイイタイ病の原因と治療法
C 農業鉱害と人間公害の総括
結―鉱害研究の成果と将来の課題
第 II 編―イタイイタイ病がCdの慢性中毒症であることの「結論」が出されるまでの経過
1.山口市の中国地方公衆衛生学会と札幌市の日本整形外科学会への同時発表
2.神岡鉱山からの反論とその反批判
3.昭和36年から37年末までに起ったいたましい2つの悲劇
4.イタイイタイ病患者を「政治的に掌握」して研究成果をひとりじめしようとしたものは誰か
5.ウソはどこかでボロを出して、その本質を自らばくろするものである
6.科学的研究における協力関係―共〔協〕同研究とはいかなるものであるか
7.被害者は自信をもって事に当るべきである
8.「イタイイタイ病との闘い」について
9.若い人々を迷わしてはならない   10.カドミウム中毒関係文献について
第 III 編―Cd慢性中毒症を中心とする産業公害の疫学的研究
I  研究の課題(研究の方法論を含めて)
II 研究の経過(世界的な研究史を含めて)
III 研究の成果(疫学的研究を中心として)
1.問題の限定(昭和44年3月27日厚生省発表)
2.神岡鉱山の地形と地質と鉱床の特性   3.神岡鉱山の製練方法の変遷
4.神岡鉱山下流高原川・神通川のダム建設
5.神通川の河床とイタイイタイ病との関係  6.杉の年輪に刻印された鉱害記録
7.神通川水系のイネの鉱害―冷水害か鉱害か
8.イタイイタイ病による死亡者についての疫学的検討
9.富山のイタイイタイ病はなぜあとをたたぬか
10.イタイイタイ病関係年表の訂正   11.長崎県対馬の対州鉱山のCd鉱害
12.群馬県安中市の東邦亜鉛安中製錬所のCd鉱害
13.大分県奥岳川流域のカドミウム鉱害
IV 結―亜鉛・カドミウム鉱山の公害
第 IV 編―カドミウム慢性中毒症としてのイタイイタイ病論争
1.イタイイタイ病論争の問題点
2.イタイイタイ病の原因が長い間不明であったのは疫学的な研究が足らなかったからである
3.富山県のイタイイタイ病が発生したのは、いつごろか、明治末期からあとが問題なのだ
4.富山県のイタイイタイ病の原因は、米か水か
5.カドミウム製錬工場から排出される亜硫酸ガスとカドミウム鉱害との関係―神岡と対馬のちがいは、どこにあるのか
6.長崎県対馬の対州鉱山にイタイイタイ病は、あったのか、なかったのか
7.対馬のイタイイタイ病患者のレントゲン写真は、本物か、偽物か
8.現地調査とサンプリングを自分でしないでは、イタイイタイ病の研究はできない
9.臨床医は臨床医らしくその臨床的な経験の科学的な報告をかくべきである
10.イタイイタイ病とは何か、それはいつごろから発生したのか
結―カドミウム慢性中毒は鉱害だけではないのである
第 V 編―イタイイタイ病と鉱害との関連性についての疫学的研究
I 緒言―研究の課題  II 研究資料並びに研究方法
III 研究成績
1.イタイイタイ病の疫学的諸現象とそれを支配せる環境因子についての考察
2.イタイイタイ病患者発生の地域限局性とそれを支配せる環境因子についての考察
3.Zn、Pb及びCd特にCd中毒症に関する文献的考察
IV 結 論
文 献
付録:イタイイタイ病関係文献目録
あとがき/要約―公害イタイイタイ病の自然科学と社会科学(英文)
 
 次の著書「カドミウム公害の追求」は、六つの章と補からなる。第1章は「イタイイタイ病の疫学」と題して、公害と疫学の研究の重要性が語られ、神岡鉱山のカドミウムとイタイイタイ病との疫学が論じられる。第2章は「カドミウム公害の虚実」と題して、カドミウム公害の原因、汚染源、形態、実態、調査および防除対策が紹介される。第3章は「山形県吉野川流域Cd公害の免疫」で、吉野川水系Cd公害の原因、具体的汚染源の追求・調査、農業公害、人間公害、鉱山の防止事業、公害補償など内容は多岐にわたる。第4章は「生野鉱山Cd公害の免疫的研究」、第5章は「北陸鉱山Cd公害に関する調査研究」が紹介される。
 
 第6章の「イタイイタイ病のうそとまこと」では、公害問題に関する多くの問題点が指摘されている。われわれは、この章から多くのことを学ぶことができる。公害研究の原典がある。その内容は、1)公害と科学者・ジャーナリストの良心と良識、2)イタイイタイ病研究のプライオリティ、3)小林・萩野のウソにひっかかった人びと、4)イタイイタイ病の研究方法と研究費、5)公害に関する疫学的研究の重要性、6)国内的・国際的カドミウム公害、7)萩野医師からの研究費についてのいきさつ、8)イタイイタイ病の事実関係と法律関係。なお、補として、1)公害と新聞、2)カドミウム公害のプライオリティについて、3)イタイイタイ病法延闘争をかえりみて、である。
 
イタイイタイ病(イ病)とカドミウム汚染
 吉岡金市の環境・公害にかかわった業績をイタイイタイ病(イ病)とカドミウム汚染の歴史から追ってみることにする。イ病は、大正時代から発生していたようである。原因が分からず、神通川流に域特有な原因不明の難病と思われていた。この病気は、神通川流域の川や地下水を飲料水として使用していた地域の農家の、とくに中年以降の経産婦に多く発病したことから、女性特有の病気と思われていた。
 
 この病気にかかると、くしゃみをするだけでも胸骨や顎の骨が折れてしまう。骨がもろくなってしまい、骨の折れる痛みでイタイイタイと泣き叫ぶ。その後しだいに衰弱し、やがて死亡する例が多いことから、「イタイイタイ病」と名づけられた。一家の主婦が被害者となるケースが多かったため、家庭生活は破壊され、とり返しのつかない悲劇もおこる、まさに悲惨な病であった。
 
 大正6(1917)年8月7日の「富山日報」が、神岡鉱山の鉱カスによる水田の鉱毒汚染を警告している。これが神岡鉱山にかかわる鉱害の最も古い報告であろう。大正11(1922)年には、富山県神通川流域で奇病が発生した。おそらくこの奇病がイ病のもとであったろう。富山県におけるイ病が、大正時代から発生していたと考えられる根拠はここにある。
 
 昭和13(1938)年には、このような奇病に対して富山県神通川流域の諸団体が神岡鉱山防毒期成同盟会を組織している。奇病の問題が取り扱われるなかで、昭和21(1946)年3月には、リウマチ性の患者が富山県神通川流域に多発した。おそらく、初めての複数のイ病の患者であったと想定される。また、昭和23(1948)年6月には、富山県では農作物被害に対し神通川鉱害対策協議会が結成された。農作物にも人にも被害が顕著に現れるようになった。
 
 昭和30(1955)年、地元の民間臨床医の萩野 昇氏が医学界で発表した研究が世間の人々にこの病気の存在を知らしめた。カドミウムに汚染された地下水や河川水の飲用が、骨軟化症をおこす。これが公害病であることを公言したのである。さらに、動物実験でこの病気の原因を究明してきた荻野医師は、昭和34(1959)年10月、この病気の「原因は神岡鉱山の鉱毒」であると発表した。このことが、イ病告発のきっかけとなったのである。
 
 昭和36(1961)年6月に刊行された吉岡金市著「神通川水系鉱害研究報告書−農業鉱害と人間公害(イタイイタイ病)」は、日本で初めてカドミウム公害を明らかにした科学的な報告書である。この報告書により、イ病の原因がカドミウムによることが明確になった。これがきっかけとなり、わが国でも組織的な研究が開始されるようになった。その後、イ病の発見に尽力した吉岡金市、萩野 昇および小林 純の間で研究成果やデータの取り扱いで不幸な悶着(もんちゃく)がみられた。このことについては、吉岡金市の著「カドミウム公害の追求」にその経過が詳しく述べられている。
 
 科学の発展には必ず人間の葛藤(かっとう)がある。人間が科学を生み、それを育んでいる限り、当たり前のことであろう。別の表現をすれば、葛藤のある科学ほど内容があるとも言える。かつて筆者が、科学における人間の葛藤に関して実に感銘した本に、ワトソンとクイックの「二重らせん」とシャロン・ローンの「オゾン・クライシス」がある。前者にはデータの盗みの話が、後者には自殺の話まで登場する。
 
 その後、昭和41(1966)年10月に富山県婦中町で、イタイイタイ病患者73人が発見された。また昭和42(1967)4月、富山県のイタイイタイ病は三井金属神岡鉱業所の廃水が原因であることが、岡山大学の小林 純教授と荻野 昇医師によって発表された。1966年の厚生省の見解と1972年の名古屋高裁判決(第1次提訴)によってイ病の発生源は、三井金属鉱業神岡鉱山であることが確認された。
 
カドミウムによる農業被害
 文部省、厚生省および富山県による調査が、金沢大学医学部の研究者を中心にして1963年から65年にかけて実施された。常願寺川、黒部川および庄川の各流域が調査の対象に選ばれた。患者は神通川流域にのみ限られた。患者の尿や米からカドミウムが多量検出された。
 
 また1967年からは、厚生省公害調査研究委託費による日本公衆衛生協会・イタイイタイ病研究班が発足した。この班では汚染地域から収穫された米のカドミウムの分析が行われるとともに、水田土壌のカドミウム、鉛、亜鉛等の重金属元素の詳細な分析が行われた。これらの結果と、イ病患者と容疑者の有症率の対比が行われ、両者の密接な関係が明らかにされた。また、神岡鉱山堆積場鉱さいのカドミウム分析も実施された。この時の調査で、イ病とカドミウムとの関連が疫学的に疑いもなく明白になっていった。
 
 さらに、汚染地域全域のカドミウム濃度分布とイ病の有病率の分布が密接な関係にあることが明らかにされた。また水田土壌中のカドミウム濃度は、上層ならびに水口で高いことが解明され、カドミウムによる汚染は潅漑(かんがい)によるものであることも明らかになった。
 
 カドミウムは人体への被害だけではなく、神通川を農業用水とする稲作にも大きな被害を与えた。長期間にわたってカドミウム汚染米を食べた者が、カドミウムによる障害を受けたわけだから、農地の汚染土壌をそのままで放置すれば、イタイイタイ病の根本的な解決にはならない。そのため、三井金属鉱業の負担でカドミウム汚染土壌の除去が進められた。
 
 今や世界の関心の多くは、地球を基盤に置いた様々な環境問題に向けられている。吉岡金市の研究と研究に対する真摯(しんし)な態度は、わが国の環境研究の先鞭をつけたものである。「頑固で行動的な人だった。つねに権力に対峙(たいじ)し、引くことを知らない反骨の人でもあった。」と、西尾敏彦著「農業技術を創った人たち」に書かれている。環境問題が社会問題となっている現今、社会はますます吉岡金市を必要としている時代であるが、すでに彼は昭和61(1986)年、84歳でこの世を去った。今必要としているのは、二人、三人めの吉岡金市である。
 
参考文献
・農業技術を創った人たち:西尾敏彦著、家の光協会(1998)
・萩野 昇・吉岡金市:イタイイタイ病の原因に関する研究について、日整外会誌、35、812ー815(1961)
・環境史年表 1868−1926 明治・大正編:下川耿史著、河出書房新社(2003)
・環境史年表 1926−2000 昭和・平成編:下川耿史著、河出書房新社(2003)
・吉岡金市:カドミウム公害の追求、労働科学叢書54、労働科学研究所(1979)
・公害の科学:イタイイタイ病研究−カドミウム農業鉱害から人間公害(イタイイタイ病)への追求、たたら書房(1970)
 
農業環境研究:この国の20年(4)
侵入・導入生物による農業生態系への影響
1.はじめに
 国境を越えて導入される生物全般を外来生物という。外来生物には、その便益を活用するために人間が目的を持って運んでくる意図的な導入生物(作物、緑化植物、天敵昆虫など)、ならびに貨物や輸入資材などに混入して知らず知らずに運び込まれる意図しない導入生物(雑草、害虫、病原菌など)がある。また、これらの導入外来生物のうち、人間が管理しきれない新たな場所に定着し、分布を拡大する侵略性の強いものがあり、これを侵入生物と呼び、話を進めて行く。
 
 さて、外来生物にかかわるわが国の現状についてみると、新聞紙面には、マングース、アライグマ、ブラックバスなどの加害状況とその脅威に関する記事が頻繁に見受けられ、緊急な対策が必要になっている。これを受けて、平成16年3月9日には、「特定外来生物被害防止法」が閣議決定され、生態系、生息地または種を脅かす外来生物の導入防止、そのような外来生物の抑制と撲滅を掲げ(生物多様性条約の第8条)、そのための対策を講じることになっている。
 
 こうした観点から農業生態系に目を向けると、田畑、草地、森林およびそれらの周辺のいずれにおいても、すでに多くの導入生物が定着している。また、その中には侵略性が強いものもあり、日本固有の生物の多様性に対して、すでに悪影響を及ぼし始めている。しかし、依然として農業分野では、耕作放棄地、休閑農地あるいは畦畔の緑化管理等を目的とした景観作物の導入など、意図的な導入生物が次々と運び込まれている。このような実態は、農業に対して導入生物がもたらす便益もさることながら、それらによる生態系影響リスクの増大を放任していることにほかならない。本章では、外来生物がもたらす生態系影響リスクと農業分野への便益を整理し、外来生物のリスクを未然に防ぐための措置と、外来生物のリスク管理について述べる。
 
 一方、生態系に対するリスクになるかどうかについて科学的な証明はないが、新たな生物として遺伝子組換え作物がある。これについては、人間との深いかかわりの歴史(ファミリアリティー)が一般作物に比べて短いために、多くの人たちが安全性についての懸念をいだいている。そこで、各国では、遺伝子組換え作物の安全性を確認するための評価試験を実施し、組換え作物の輸入や一般栽培を行う上で万全を期している。このため、遺伝子組換え作物は人間と生態系に対してハザード(危険)になるのか、なるとすれば、どの程度の確率(リスク)があるのか、といった観点で評価試験を実施している。こうした評価試験の現状については、多くの消費者と生産者が興味を持つところであり、本章ではこのことについても詳述する。
 
2.外来植物の影響
(1)意図的な導入植物
 食料生産に欠かせない日本の農作物は、ほとんどすべてが意図的な導入植物である。また、これらの農作物は、人間が長年にわたって、耕地内で採種と播種を繰り返してきたので、その繁殖と分布を確実に制御することができる。そのため、耕地から逸脱して生態系に悪影響を及ぼすことは皆無といってよい。しかし、一部の牧草には、草地から逸脱して、路傍や公園あるいは山野に自生しているものがある。たとえば、シロツメクサは、子どもたちが花を集めて首飾りを作ったりするほど、多くの場所によく見かけられ、日本にすっかり帰化している。
 
 一方、田んぼの畦(あぜ)に咲くヒガンバナやスイセンは、農村の原風景にとけ込んでいるが、実は、はるか昔に意図的に導入された植物である。また、現在でも、景観作物や花卉(かき)類が、次々と意図的に導入されている。しかし、これらの中には、大量の種子を生産したり、多年生であったり、栽培の歴史が短かったりするものがあり、耕地や法面(のりめん)から逸脱して生態系に蔓延(まんえん)するリスクを秘めている。
 
 農業環境技術研究所が2003年に主催した侵入生物に関する国際セミナー(Oka et al., 2003)では、ニュージーランドが実施している植物輸入に先立つリスク評価手法についての報告があった。意図的な導入植物が固有の生態系にもたらすリスクを管理するために、輸入しようとする植物の侵略性が強いかどうかを事前に評価し、もしそうであれば行政が輸入を規制する仕組みである。また、こうした行政対応を行っている国は、ニュージーランドの外にオーストラリアがあり、これらをお手本とした「特定外来生物被害防止法」の施行が、現在日本でも検討されている。
 
(2)意図しない導入植物
 近年のグローバリゼーションにともなって、多くの人々と物資が国境を越えて移動している。また、こうした移動にともなって、外来生物の意図しない導入が生じる。そこで、これを水際で防ぐために、各国では厳重な動植物の検疫を実施している。しかし、日本における現在の植物検疫は、害虫と植物の病気を対象としたものであり、外来植物種子の混入は対象外になっている。このため、輸入農産物に大量の外来植物種子が混入していても、それらはそのまま日本に上陸し、侵入植物の温床になっている。
 
 お隣の韓国でも、このような状況は同様であり、農業環境技術研究所が2003年に主催した侵入生物に関する国際セミナー(Oka et al. 2003)では、韓国における雑草の侵入状況についての報告があった。韓国では、すでに定着している外来雑草は300種以上に及び、これらの3分の1以上は近年の意図しない導入によるものである。また、それらはたいていが港の近く、道路沿い、また埋め立て地で発見されている。このことから、外来雑草は、それらの種子が混入した輸入穀類とともに上陸し、定着したことが考えられる。
 
 飼料の多くを輸入に依存している日本では、年間1,700万トンの飼料用穀類と200万トンの粗飼料が輸入されており、これらの中にも多くの雑草種子が混入している。たとえば、茨城県の鹿島港に入港した飼料用輸入穀類105検体について、混入していた雑草種子を調査したところ、2,245種類もの種子が検出されている(Kurokawa, 2000)。このように様々な雑草種子を含んだ穀類は、飼料として工場で加工される。しかし、その多くは回転式クラッシャーで粉砕されるだけである。そのため、混入した雑草種子は大部分が無影響で、飼料とともに畜産農家に運び込まれる。一方、雑草種子を混入したままで輸入された乾草やイナワラは、梱包(こんぽう)状態のまま畜産農家に運ばれ、利用される。このため、畜産農家圃場では、侵入植物の発生が著しい(黒川、2002)。
 
 飼料用の輸入穀類に混入して上陸し、近年、畜産農家の畑で蔓延して、大きな雑草被害を引き起こしている侵入植物にイチビがある。しかし、この雑草は、繊維作物として意図的に導入されて栽培された歴史があり、その栽培が衰退した1930年以降は、帰化植物となって日本各地に分布していた。にもかかわらず、近年になって雑草被害が発生したのはなぜだろうか? このことを解明するための研究が進み、どうやら、被害の発生源は、日本にすでに帰化していたイチビではなく、飼料用のトウモロコシとともにアメリカから導入されたイチビであり、遺伝的に異なる集団であると考えられている。この新たな遺伝的集団は、古い集団に比べて雑草性に富むため、畜産農家の飼料畑で猛威をふるう結果となったのである。
 
 一方、ハルジオンは、明治以降に意図せずに導入された侵入植物であり、すでに日本に広域に分布している。しかし、近年になって、この侵入植物が除草剤抵抗性を獲得した(佐藤ら、1989)。これに対して、原産地のアメリカでは、いまだに抵抗性を獲得していない。この要因のひとつとして、日本に侵入したハルジオンが、ボトルネック的な新しい進化を遂げたことが考えられる。つまり、海外に生物が侵入する場合に、跳ね上がり(変わり者)が移住し、その中でさらにその土地に適応したものだけが生き延びる。この過程で、その侵入生物は、一度変異の幅が狭まったのち、再び新たな変異を獲得する。日本に侵入したハルジオンはこうした過程を経て、原産地と異なる遺伝的集団となり、その集団から除草剤抵抗性個体が発生したものと推測される(伊藤、2003)。
 
 これらのイチビやハルジオンの例が示すように、雑草のグローバリゼーションは、新たな遺伝的集団の形成を助長し、種の特徴を変貌(へんぼう)させて、予測もしない被害を及ぼすことが考えられる。
 
 意図しない導入植物は、意図的に導入しようとする植物のように、生態系影響リスクを事前にチェックできない。また、大量に運び込まれる物資について、外来植物の種子が混入しているかどうかを水際でチェックすることも不可能に近い。このため、新たな侵入植物は、今後も続々と出現するだろう。こうした侵入植物が蔓延して、生態系に悪影響を及ぼす前に、駆逐あるいは制御する必要がある。そのためには、侵入植物の監視(モニタリング)を徹底し、いち早く被害を発見することが重要である。
 
(3)侵入植物の定着と蔓延
 植物は種子から発芽・定着し、生育に伴って陣地を拡大する。このため、撹乱(かくらん)によって裸地化し、植物が生育していない場所で繁殖しやすい。とくに、耕地雑草類はこうした傾向が強く、裸地に同時並行して定着しようとする野草類やその他の植物を、旺盛(おうせい)な発芽力と初期生長速度によって駆逐し、そこを占拠する。
 
 侵入植物においても耕地雑草類と同様であり、多くの侵入植物は、撹乱された裸地に多く認められる。また、とくに旺盛な生育と繁殖を繰り返す侵入植物は、在来植物を押しのけて優占種となり、日本固有の生態系に悪影響を及ぼす。
 
  1)発芽・定着特性
 日本在来のオオバコは、踏み固められた土の路面や運動場によく見られる。これに対して、侵入植物のセイヨウオオバコは、オオバコと似た発芽・定着特性を持ち、オオバコと同じような場所に生育する。しかし、発芽最適温度はオオバコより高く、変温条件で発芽率が上昇する傾向が強い(松尾ら、2001)。このため、オオバコより、日がよく当たる明るい裸地に適合しやすい。その結果として、日本在来のオオバコは、セイヨウオオバコのために暗い場所に追いやられている。
 
 このように、侵入植物はそれとよく似た在来植物と同じような挙動をとり、もし在来植物より高い環境適応性を持つと、その生息場所を占拠してしまうことがある。
 
 一方、ひとたび定着した植物はさまざまな挙動をとって陣地を拡大し、周辺植物を制圧する。その拡大様式には、陣地拡大型、使い分け型、陣地強化型がある(根本ら、1992)。たとえば、チガヤやシバは匍匐(ほふく)茎や地下茎をもって陣地を拡大し、ススキは大きな株となって陣地を強化する。また、メヒシバやヨモギは、両方の戦略を状況によって使い分けている。
 
 こうした観点から侵入植物をみると、セイタカアワダチソウは使い分け型であり、ひとたび定着すると強い侵略性を示す。また、オオブタクサやオオハンゴンソウは、草丈を数メートルに伸ばして陣地を強化し、他の周辺植物を圧倒する。
 
  2)生育特性
 日本には火山灰土壌が広く分布する。この土壌は酸性で、アルミニウムが溶け出すために、その毒性により植物の生育が著しく阻害される。こうした土壌に適応した在来植物のアジサイは、有害なアルミニウムを解毒し、植物体内にアルミニウム・クエン酸錯体として無害な形で蓄積する(平舘ら、1997)。日本におけるアジサイの広域的な分布は、このような特性に依存していると考えられる。つまり、日本に広域的に分布している在来植物は、何らかの形で酸性土壌に適応するための戦術をとっているのである。
 
 一方、侵入植物のエゾノギシギシとナガバノギシギシは、ともにヨーロッパ原産であり、世界中に強害雑草として分布し、農業被害を及ぼしている。また、両者を比較すると、ナガバノギシギシは、エゾノギシギシより分布が広く、被害も大きいといわれる。しかし、日本では、逆に、エゾノギシギシの発生が多く、こちらの方が大きな被害を及ぼしている。これは、エゾノギシギシの低リン酸耐性と高アルミニウム耐性が、ともにナガバノギシギシよりまさることにより、酸性土壌への適応力が高いことに基因している(堀江ら、1990)。つまり、諸外国に比べて日本には酸性土壌が多いので、このような逆転現象が起きたと考えられる。また、日本の草地では、とくに土壌の酸性化が進行しやすいために、エゾノギシギシによる雑草被害がいっそう著しい。
 
 このように、侵入植物は、原産地と異なる土壌環境に遭遇すると、予想もしない挙動をとることがあり、思わぬ農業被害につながる。ここに示したエゾノギシギシが典型的な例であり、日本の酪農家は毎日、草地に侵入したエゾノギシギシの防除に追われている。
 
  3)他感作用(アレロパシー)
 植物の中には、体からさまざまな化学物質を放出して、周辺植物の生育を阻害したり、助長したりする作用をもつものがある。また、こういった生理活性物質による植物間の相互作用を他感作用(アレロパシー)という。
 
 他感作用を検出する方法として、プラントボックス法(藤井ら、1992)、サンドイッチ法(藤井ら、1998)ディッシュバック法(藤井ら、2000)が開発されている。これらの方法は、いずれも、他感物質に鋭敏に反応するレタスを材料として生物検定する方法であり、プラントボックス法は、植物の根から染み出る化学物質による他感作用を検出する方法である。また、サンドイッチ法とディッシュバック法は、葉から染み出る化学物質と葉面から揮発する化学物質による他感作用を、それぞれ検出する。これらのように、植物は化学物質を体のいたるところから環境中に放出し、周辺の植物や生物に影響を及ぼしている。
 
 一方、他感作用を発揮する侵入植物をみると、セイタカアワダチソウがよく知られている。セイタカアワダチソウ群落では、出現する植物種数が少なく、これはセイタカアワダチソウの他感作用によると考えられている。また、数年すると、セイタカアワダチソウですら、自らが産出した他感作用物質によって自家中毒を起こして消失するといわれ、こうした現象をいや地現象ということがある。
 
 牧草や緑肥作物として意図的に導入されたヘアリーベッチは、果樹園の下草や休耕地の休閑作物としても利用されている(藤井ら、1994;藤原ら、1998)。これは、ヘアリーベッチのもつ雑草制御機能に着眼したものであり、この機能は他感作用物質に基因している。また、この物質がいったい何であるのかを分析してみると、はたしてシアナミドであることが判明した。このシアナミドは、石灰窒素に含まれる除草成分であり、従来から農業的に利用されてきた。植物がシアナミドを体内で合成しているという、世界初の驚くべき発見は衝撃的であった(藤井ら、2002)。
 
 そのほか、他感作用を発現する導入・侵入植物として、ムクナ、ペレニアルライグラス、ナガボノウルシ、タイワンレンギョウ、クレオメなどがある(藤井ら、1989;高橋ら、1989; 浅川ら、1996;平舘ら、1997;藤井ら、2000)。しかし、いずれにしても、他感作用は、雑草を制御するために有力な農業手段となるが、セイタカアワダチソウのような侵入植物がこれを発揮すると極めて危険な武器となり、諸刃(もろは)の剣といえる。
 
3.外来昆虫の影響
(1)意図的に導入された昆虫
  1)昆虫の輸入
 海外から輸入される昆虫としては、農業で利用される天敵類や花粉媒介虫などがある。その他にペット用の昆虫(カブトムシ、クワガタムシなど)もある。最近、それらの輸入量が増加している。これは、施設野菜栽培で生物農薬としての天敵利用や省力的授粉のためのセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)の利用が盛んになってきたことによる。また、ペット用昆虫については、農作物を加害しないものは、1999年に植物防疫法の対象外として、輸入が認められたことにもよる。これらの外来昆虫が野外に定着した場合に、わが国固有の生物相や生態系に影響を及ぼすのではないかという懸念が持たれていることから、その実態を明らかにし、適切な生態影響評価を行う必要がある。
 
 実際に、マングースによる稀少生物の捕食、ブラックバスなどの外来魚による漁業被害や水生生物の多様性への影響、アライグマによる農作物被害など、意図的に導入された生物による問題が顕在化している例がある。こうしたことから、外来植物のところでも触れたように、「特定外来生物被害防止法」制定の動きがある。これは、生物多様性条約の締結を契機とした外来種対策の取組み強化の一環でもある。この法律が成立した場合に、農業用に輸入される昆虫についても検討されるであろうが、この場合には、生態的リスクと農業上のベネフィットの両面からみた総合的な評価が必要であろう。
 
 1992年に締結された生物多様性条約では、その前文で、生物多様性には様々な価値があるが、とくに「生物多様性の保全およびその持続可能な利用は、世界の人口が必要とする食糧、保健、その他を満たすために決定的に重要である」と述べている。すなわち、生物多様性の保全は、それがもたらす恩恵を持続的に利用するためであることも強調している。こうした観点から、導入生物の生態影響を見ていく必要があろう。
 
  2)天敵
 天敵については、1999年に環境省から「天敵農薬に係る環境影響評価ガイドライン」が出された。また、農林水産省においても委員会が設けられて検討された。
 
 海外から導入される天敵の生態影響としては、(ア)標的とする害虫と同じ栄養段階にある土着の非標的生物を直接的に、あるいは間接的に減少させる、(イ)競合する土着天敵、あるいは以前に導入された天敵を減少させる(広瀬、1999)。(ウ)近縁種との交雑による遺伝子レベルでの生物多様性への影響が考えられる。これらの生態影響が、生態系機能の低下に結びつくのか、あるいは保全すべき種の地域個体群の減少や絶滅が起きる可能性があるのか、あるとすればその生態的リスクはどのくらいの確率で起きるのかを予測し、評価する必要がある。
 
 しかしながら、外国から導入された天敵の生態影響に関する研究は、わが国では極めて少ない。以下、農業環境技術研究所で行われてきた研究を中心に紹介する。
 
  (1)クリタマバチの寄生蜂
 クリタマバチは、クリの芽にゴール(芽の内部に虫が寄生してこぶ状になったもの)を作ってその生長をとめ、大きな被害を与える中国原産の侵入害虫である。1941年に岡山県下のクリで初めてその被害が確認された。クリタマバチによって形成されるゴールから出現する土着の寄生蜂群として、7科18種余りが記載されている。これらの寄生蜂はいずれもクリタマバチが侵入する以前からわが国に分布し、コナラ属の植物にゴールを作る種々のタマバチに寄生していたものと考えられている。後に述べるクリマモリオナガコバチもそのような生活をしていたようである(村上、1997)。
 
 クリタマバチを防除するために、中国から寄生蜂(チュウゴクオナガコバチ)が導入され、1982年に茨城県つくば市と熊本県大津町で初めて野外放飼された。チュウゴクオナガコバチの分布域は年ごとに広がり、分布拡大速度は当初ゆるやかであったが、その後次第に加速し、年次ごとの最大分散距離(つくば市からの距離)は対数的に増加した(志賀、1996, 1997)。この導入寄生蜂が定着した地域では、クリタマバチによる被害が著しく減少した。
 
 チュウゴクオナガコバチが土着寄生蜂(クリマモリオナガコバチなど)に及ぼす影響についても調査されている(志賀、1997;村上、1997)。クリマモリオナガコバチは、チュウゴクオナガコバチが導入される前には、クリタマバチ寄生蜂群の中で優占的な地位を占めており(村上、1997)、羽化時期の異なる早期羽化型と晩期羽化型の二つの生態型がある。クリマモリオナガコバチとチュウゴクオナガコバチとは、相対的産卵管鞘長(産卵管鞘長/胸部長)によって区別できるが、雄間で区別することは困難である(Otake, 1987)。
 
 導入寄生蜂が放飼されて10年以上経過した関東平野部では、寄生蜂の相対的産卵管鞘長から判断して土着寄生蜂はほとんど見られなくなり、導入寄生蜂およびこれと土着寄生蜂との中間型が毎年増加する傾向が見られた。また、寄生蜂の体内に存在する酵素(マリックエンザイム)の電気泳動パターンによって、導入寄生蜂と土着寄生蜂(早期羽化型)とは判別可能なので、これを用いて解析すると、野外における導入寄生蜂と土着寄生蜂(早期羽化型)の交雑頻度は極めて低いと判断された(矢野ら、 1997;Yara et al., 2000)。したがって、土着寄生蜂(早期羽化型)の寄生割合が相対的に低下したのは交雑以外の要因が働いているためと考えられる。チュウゴクオナガコバチとクリマモリオナガコバチ早期羽化型は、ミトコンドリアDNAによっても区別できる。一方、導入寄生蜂と土着寄生蜂の晩期羽化型との関係については、ミトコンドリアDNAの解析からだけでは明確でなかったので、さらに、核DNAによる解析も含めてその実態を正確に把握していく必要がある。
 
 さらには、この導入寄生蜂の放飼が、人々が恩恵を受けるべき生態系機能にどのように影響したのか、あるいは将来的に生態系機能の持続性にどのように影響するのかという観点も含めて、総合的に評価していく必要があろう。
 
  (2)マメハモグリバエの寄生蜂
 マメハモグリバエは、1990年にわが国への侵入が確認された野菜や花卉(かき)の重要害虫である。その幼虫は、葉に潜り込んで白く曲がりくねった食害痕(こん)をつけるので、俗に「絵かき虫」とも言われる。マメハモグリバエの幼虫に寄生する寄生蜂の種類は多いが、土着種28種および導入種1種が記録され、これらを網羅した図解検索を作成し(小西ら、1997, 1998)、インターネットで公開した。マメハモグリバエの寄生蜂には、寄主であるハモグリバエの幼虫体内に卵を生み込み、孵化(ふか)した幼虫がその内部を食べて育つ内部寄生の型と、寄生蜂の成虫がハモグリバエの幼虫を殺してその外側に卵を産み付け、孵化した幼虫がハモグリバエの幼虫を食べて育つ外部寄生の型がある。ちなみに、わが国にはマメハモグリバエ防除用に2種類の寄生蜂が導入されたが、そのうち、ハモグリコマユバチ(Dacnusa sibirica)は内部寄生型であり、もう1種のイサエアヒメコバチ(Diglyphus isaea)は外部寄生型である。後者は日本にも分布している(小西ら、1998)。
 
 ところで、同一の寄主(ハモグリバエの幼虫)で2種類の寄生蜂が競争した場合に、どちらが勝つであろうか。特に、この組合わせが導入種と土着種である場合に、導入種が常に勝つとなれば、導入種によって生態影響が引き起こされる可能性がある。そこで、まず、ともに外部寄生である導入寄生蜂イサエアヒメコバチと土着寄生蜂カンムリヒメコバチ(Hemiptarsenus varicornis)とを同居させたところ、両者間の競争関係に優劣は認められなかった。しかし、導入あるいは土着の外部寄生蜂と内部寄生蜂を同居させた場合には、導入・土着にかかわりなく、いずれも外部寄生蜂の方が内部寄生蜂よりも競争力が強いという結果が得られた。
 
 また、外来種である内部寄生蜂ハモグリコマユバチは、通常ハモグリバエの1齢幼虫によく産卵するが、ヨーロッパの原産地で同所的に生息する外部寄生蜂イサエアヒメコバチが同居する実験条件下では、これとの共寄生を避けるために、産卵対象をより齢期の進んだ幼虫に移す。しかし、ハモグリコマユバチは、共進化の過程を持たないわが国土着の外部寄生蜂カンムリヒメコバチを同居させてもそのような行動を示さず、より共寄生を受けやすいことが分かった(望月、2002)。これらのことから、外来の外部寄生蜂は、土着の内部寄生蜂に影響を及ぼす可能性があると推定される。しかし、さらに、野外により近い条件を設定した試験やシミュレーションを行い評価していくことも必要である。
 
 また、今後、海外から天敵を導入する場合には、天敵間の競争関係や交雑等に関する情報を蓄積して、事前に適切な生態影響評価を行い、導入の可否を判断できるようにしていく必要がある。さらに、外来寄生蜂を導入する際には、二次あるいは高次寄生蜂を随伴しているかどうかも重要なチェックポイントとなる。
 
  3)花粉媒介虫
 農業利用のための昆虫として、花粉媒介用のセイヨウオオマルハナバチが輸入されている。トマトは施設内では結実しにくいので、従来はトマトトーンという結実促進ホルモン剤が一つ一つの花房に噴霧されていた。トマトはほとんど蜜を出さないのでセイヨウミツバチは使えない。このため、1980年代後半にベルギーやオランダで花粉媒介用のセイヨウオオマルハナバチの大量増殖が可能となったことから、1991年以降わが国にこの昆虫が導入されている。その後、その使用実績は急速に伸び、2002年には6万箱を超えた(五箇、2003)。これにより、授粉に要する作業時間と労力が大幅に削減され、現在では大規模なトマトハウスなどでは必須の昆虫となっている
 
 一方、セイヨウオオマルハナバチは、日本の土着マルハナバチ類よりも競争力の点で優位に立つとされ、これが野生化した場合に、野外の花粉媒介昆虫相に大きな影響を与えるのではないかと危惧(きぐ)されている(鷲谷ら、1996)。また、その他の生態影響として、セイヨウオオマルハナバチが土着のオオマルハナバチなどと種間交雑した場合に、卵の受精は完了するが発育しないなどの交尾後隔離が働き、土着マルハナバチの女王に生殖攪乱をもたらす可能性や、セイヨウオオマルハナバチに寄生するダニを土着マルハナバチに持ち込む可能性があることなどが指摘されている(五箇、2003)。そのため、導入種に代えて土着種であるクロマルハナバチを利用しようという考え方がある。現在、飼育技術を有するオランダの企業に本種の増殖を依頼し、これが逆輸入されている。この場合も本種が生息していない地域で利用され野生化した場合には、セイヨウオオマルハナバチの場合と同様の問題が生じるとの懸念が指摘されている。農業環境技術研究所では花粉媒介虫に関する研究はこれまでほとんど行われていないが、リスク管理技術の1つとして、生殖虫(新女王と雄成虫)の発生を抑制するために、昆虫成長制御剤を餌に混ぜた場合の幼生期の各発育ステージへの影響を調査している(金ら、2001)。
 
 農業上利用される天敵や花粉媒介用昆虫等の導入に当たっては、生態リスクだけではなく、農業上の利益を考慮した、リスク・ベネフィット分析による評価を行い、さらに、リスク管理が可能であるのかどうかを総合的に検討していく必要がある。また、生態リスクを検討する場合に、地域個体群の絶滅をリスクのエンドポイント(どうしても避けたいリスク)とするという考え方が示されており(中西、1995)、そのような生態リスクがどのくらいの確率で起こるのかを論議していく必要があろう。
 
(2)非意図的に導入された昆虫
  1)わが国に導入された昆虫の種類
 多くの昆虫は飛翔(ひしょう)などにより能動的に移動することができるが、気候的、地形的な自然障壁のために、本来、それぞれの種の分布は特定の地域に限られていた。しかし、近年の交通手段の発達による国際的な物流と人の交流の増大は、多くの生物が生物地理学的な境界を容易に越え、新たな地域に侵入する機会を著しく増加させた。
 
 わが国に非意図的(飛翔や漂着によって入った種も含む)および意図的に導入された昆虫種としては、239種がリストアップされており、さらに、外来種の可能性がある85種を加えると324種となる。239種の外来昆虫のうち、害虫は172種を占めている。日本の昆虫の全種数29,929種に占める外来種の割合は、0.8%となる。また、外来種の分類学的な内訳をみると、種数では、ヨコバイ亜目(同翅亜目)(Homoptera)37種、甲虫目(鞘翅目)(Coleoptera)36種、ハチ目(膜翅目)(Hymenoptera)21種、チョウ目(鱗翅目)(Lepidoptera)12種、アザミウマ目(総翅目)(Thysanoptera)11種の順となっている(森本ら、1995)。なお、この報告の後にも、アザミウマ類、ハモグリバエ類など微小昆虫を中心とする侵入種や、意図的に導入された天敵などが加わっており、最近の再集計によれば、明治以降の外来昆虫種は415種に上っている(桐谷、2002)。
 
 わが国に外来昆虫種が最初に侵入定着した場所をみると、40%が南西諸島(面積割合では1.2%)で、60%が本土であった。その後に、最初に南西諸島あるいは本土に侵入した種の20%ずつが、本土あるいは南西諸島に分布拡大しており、南西諸島は南方系の昆虫がわが国に侵入する上で重要な位置を占めていることが分かる(桐谷、1997)。
 
  2)わが国の植物検疫措置とその理論的裏付け
 病害虫が農産物等に混入・付着し、あるいは手荷物による持込みによってわが国に侵入するのを防ぐために、植物防疫法に基づき植物検疫措置が実施されている。現在の植物検疫措置は、WTOのもとでSPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)に沿って実施されており、それが非関税障壁(貿易障害)にならないように、科学的な根拠に基づいて実施することが求められている。
 
 農業環境技術研究所は植物防疫所と協力して、検疫上の様々な問題について理論的な研究を行ってきた。まず、植物検疫のための荷口検査について、病害虫の侵入阻止率に基づいてサンプル数を統計学的に求め、実際に植物検疫規程で用いられているサンプリング法が、荷口一つ一つの安全性の保証と輸入植物全体の安全性の保証という要求を満たしていることを理論的に検証した(山村ら、1998)。
 
 また、植物検疫におけるサンプリング検査の際に、検疫害虫だけでなく、害虫の加害痕も調査対象として荷口の合格・不合格を決定する場合の検査効果を推定する式を作成した。この式から、加害痕も利用することによって、検査効果は向上したが、現行の殺虫処理に代えるほどの効果は無いことを明らかにした。このことは、たとえば、輸入リンゴの重要検疫害虫であるコドリンガに対する検疫措置において、輸出元が主張するシステムアプローチ(加害痕も検査し、かつ、複数回の検査を行う方法)では不十分で、やはり殺虫処理が必要であること示している(山村ら、2000)。
 
 さらに、植物検査における荷口検査は前述のように、統計学的に適正なサンプリング法に基づいて行われているが、最近、国際的に害虫の侵入・定着の危険度分析に基づいて検疫強度を定める動きがある。このために、各種害虫の侵入確率を的確に推定し、所定の安全レベルを達成するために必要なサンプリング検査法と検疫処理(例えば殺虫処理)の組み合わせを決定する推定式を作成した(山村、2001;山村ら、2002)。このように植物検疫措置の場で提起される具体的問題に対して、理論的に究明していくことがますます重要となっている。
 
  3)侵入害虫への対策 
  (1)侵入種の同定
 非意図的な害虫の侵入に対して、まず、植物検疫や発生現場において目新しいこれらの害虫を同定し、モニタリングする手法が必要である。また、侵入が警戒されている、あるいは侵入した害虫の分布拡大の予測、経済的被害の予測、生態影響のリスク評価などを行うことも必要である。
 
 ミナミキイロアザミウマは、1978年に宮崎県で初めて発生が確認された重要害虫であるが、きわめて微小で類似のアザミウマ類が多く同定が難しい。このため、果菜類の畑に発生する類似の土着アザミウマ類20種の成虫の形態的特徴を明らかにし、検索表を作成した。また、発生頻度の高い12種については、幼虫でも識別できるようにした(宮崎、1985)。さらに、約200種の日本産アザミウマに関して、1898年から1985年までの88年間の文献およびそこに記載された寄主植物を網羅した資料を作成し(宮崎ら、1988)、アザミウマ研究に役立つようにした。
 
 また、低気圧の移動や台風の影響によって、わが国に飛来する昆虫種は多い。東シナ海の定点観測船(最寄りの陸地から数百kmの距離)上で採集された1981年から1987年の7年間の鱗翅目昆虫の標本を同定したところ、7科43種が含まれており、これらの種がかなりの移動性を持っていることを明らかにした(吉松、2003)。上記のうちで、個体数が多かった鱗翅目上位4種は、コブノメイガ、シロオビノメイガ、コナガ、ホシホウジャクの順であり、上位3種は害虫である。このことは、これらの害虫の発生予察をしていく場合に、移動の解析が重要であることを示している。また、最近、熱帯・亜熱帯性のヤガ科の新害虫クシナシスジキリヨトウが芝を激しく加害しているのが確認され、これを同定した(吉松、2003)。今後、地球温暖化やヒートアイランド化が進むと、熱帯・亜熱帯性の昆虫類の定着や北上が起こる可能性が一層高まってくるので、それらの昆虫類の同定が迅速に行われる必要がある。
 
(2)侵入種を効率的にモニタリングするためのフェロモン利用
 侵入害虫のモニタリングを行う場合に、侵入後間もない時期には個体群密度が極めて低いので、感度のよいモニタリング技術が必要である。サツマイモの重要害虫であるアリモドキゾウムシは、沖縄県、鹿児島県の島嶼(とうしょ)に侵入し、現在、根絶事業が行われている。かつて、九州、四国にも一時侵入したが、そのつど根絶されている。本種の根絶防除には、性フェロモンによるモニタリングが不可欠となっている。アリモドキゾウムシの性フェロモンは、米国農務省で開発されたが、これと農業技術研究所で合成したものとでは誘引性に差がないこと、幾何異性体の混入によって誘引阻害が起こるが、5%程度ならば実用上問題ないことを明らかにした(杉江ら、1989)。杉江らは、農業環境技術研究所で21種類の害虫の性フェロモン、集合フェロモン等の化学構造を決定したが、そのうち、シバツトガは侵入害虫である。今後とも、侵入昆虫の効率的なモニタリングのためのフェロモン開発は重要である。
 
 4)侵入種の増殖と分布拡大
 新たな地域に侵入した害虫は、原産地に生息する天敵から解放されるために、多くの場合生存率が高くなり、爆発的に個体数を増加させて分布地域を拡大し、経済的被害、農薬投下量の増加による環境負荷の増大、生物多様性への影響などをもたらす。しかし、侵入後10年、20年と経過するうちに、侵入当時の爆発的な勢いが失われる例が多い。
 
 1976年に愛知県下で初めて発生が確認されたイネミズゾウムシは、雌のみで増殖する単為生殖系統であり、北米西海岸地域が原産地である。単為生殖系統の侵入昆虫は、1個体でも増殖が可能であるので、交通機関などで分布を拡大しやすい。本種は侵入当初、非常に飛翔しにくく、分布拡大は歩行や川の流れで行われると思われた。しかし、調査の結果、薄暮になると飛び始め、夕方の上昇気流で上空に昇り、風に飛ばされて移動しやすい昆虫であることが分かった(岸本、1980)。分布拡大の要因としては、気象要因(風向、風速、気温)および交通機関が重要である。また、越冬世代成虫の発生時期に田植えが終わっている東日本地域では、田植え時期の遅い西日本地域よりも本種の密度が上がりやすいために、発生面積の拡大速度が大きくなる傾向が認められた(森本、1993)
 
 1997年にわが国で発生が確認されたブタクサハムシは、外来雑草であるブタクサ、クワモドキ(オオブタクサ)、経済作物では唯一のヒマワリの葉などを摂食する。とくに、花粉アレルギーの原因の一つであるブタクサに対しては、群落全体を食い尽くし枯らしてしまう現象が認められている。これは、室内飼育で1雌当たり1,000個以上の産卵を行うこと、新発生地であるわが国では天敵が少ないために(守屋ら、2002)生存率が高いこと、移動分散性の低い個体が混在していることなどが関係しているためと考えられている。この外来昆虫は、帰化雑草のブタクサの生育を抑制するプラスの影響とヒマワリを加害するマイナスの影響という両面性を示す事例である。
 
 わが国に侵入した害虫の分布可能地域は、温帯地域からの侵入種については、生育に有効な積算温度と休眠誘起の日長との関係を示す光温図によって予測できる(森本、1990)。有効積算温度が1世代分に満たなければ生育を完了できないし、また、繁殖や休眠誘起に必要な日長が確保されなければ生活環を維持できない。
 
 一方、熱帯・亜熱帯産の休眠性を持たない害虫は野外越冬が困難であるが、近年の施設栽培の増加により、(ア)世代数が多く増殖率が高い、(イ)広食性である、(ウ)栽培施設と外部、あるいは防虫網のある施設間を移動できる能力があるなどの特性を有していれば定着しやすい。わが国の施設栽培では、非休眠性であるために、かえって冬期間にも暖房条件下で増殖できる上記のような特性を有する微小な侵入種が重要害虫となっている。
 
 また、わが国に侵入したシバスズ(コオロギ科)は100年ほど前に小笠原諸島に分布拡大したが、休眠性を喪失し亜熱帯気候に適応している(森本、1990)。アメリカシロヒトリは、侵入当初は2化性であったが、西南日本に分布拡大すると3化性を示す個体群が現れ、同時に生活史にかかわるさまざまな形質にも変化が起きている(五味、1999)。このように、侵入害虫にとって新天地であるわが国において、これらの害虫に当初見られなかった形質が出現する小進化とも思われる現象が生じた。
 
  5)長距離飛来性の侵入害虫
 梅雨時の低気圧の移動に伴って、ウンカをはじめとしてさまざまな昆虫類が東シナ海を飛翔移動している。高層天気図(約1500m上空)上の多くの観測地点の風向風速データを入力することによって、下層ジェットの発達状況をコンピュータで作図するプログラムを開発した(清野、1988)。これを用いると、下層ジェットの位置を示す流跡線が中国大陸からわが国の上空に達している場合に、ウンカの飛来が有ることがリアルタイムで予測できる。
 
 これを裏付ける一つの事例として、東シナ海の定点観測船上で比較的採集個体数が多かった2日間について、上記の流跡線解析を行ったところ、その日には流跡線が中国中東部から定点観測船付近に達していた(吉松、1992)。
 
 中国大陸からわが国に飛来するトビイロウンカについて、これに抵抗性のイネ品種を加害できるバイオタイプの動向を継続的に調査した。そして、1997年以降に、抵抗性遺伝子bph-2を持つイネ品種を加害できるバイオタイプの割合が急増していることを明らかにした(田中ら、2000)。
 
  6)侵入生物に関するデータベース構築
 侵入生物の問題は、わが国のみならず世界的にも、あるいはわが国と地域的に関係の深いアジア・太平洋地域においても大きな問題となっている。とくに、近年におけるこの地域への侵入は、生物地理学的に遠い新大陸などからの生物種が増加しているなどの共通性が見られる。また、わが国へは南西諸島経由で南方系昆虫が侵入するケースも多い(Kiritani, 1997)。こうしたことから、アジア・太平洋地域の農業生態系に侵入する害虫を含めた生物種に関する情報を地域で共有していくことは、各国における侵入と蔓延の防止に役立つ。このため、2003年に「アジア・太平洋諸国における侵入生物の生態影響とデータベース構築」と題する国際セミナーを開催し、参加各国で侵入生物に関する情報の交換を行うとともに、「アジア・太平洋地域外来生物データベース(APASD)」のシステムを構築した(Yamanaka et al., 2003)。
 
4.外来微生物の影響
(1)非意図的に導入される微生物の同定診断
 微生物についても、海外から農産物等に寄生・付着して非意図的に病原微生物が導入される場合と、最近発展が著しい微生物農薬として意図的に輸入される場合がある。病原微生物の侵入については、もともとわが国にいたものなのかどうか判然としない場合が多く、発生記録の精査、微生物の特性調査、DNA解析などによるその起源や侵入経路についての研究の結果、初めてその事実が明らかとなる場合が多い。
 
 病原微生物についても、国内への侵入と定着を許さないために、水際で食い止める植物検疫が重要である。このためには、未侵入種などを迅速に同定診断する技術が不可欠である。侵入が警戒されるインゲンマメ萎凋細菌病の病原菌(Curtobacterium flaccumfaciens pv. flaccumfaciens)の検出・同定を目的とする菌分離のための選択培地、分離菌を特異的に検出するためのモノクロナール抗体の作製、および類似菌種との異同を確証するためのDig-ELISAキットを用いたマイクロプレートハイブリダイゼーション法とこれによるDNA-DNA相同性に基づく識別法を開発した(水野、1995, 1998)。
 
 また、沖縄県で初めて発生したマンゴー細菌病の病原細菌(Xanthomonas campestris pv. mangiferaedicae)を分離・同定し、マンゴーかいよう病と命名した。さらに、フィリピン・ミンダナオ島で試験栽培中のコウスイガヤ(シトロネラ)に顕著な葉枯れ症状を起こし、わが国には未侵入の病原菌(Curvularia androponis)を分離、同定した(福田ら、1989)。
 
5.遺伝子組換え作物の生態系に対する影響評価
(1)遺伝子組換え作物の安全性評価試験
 農業環境技術研究所内には、本邦初の遺伝子組換え作物隔離圃場があり、1991年にはこの圃場で、日本で初めての組換え作物の安全性評価試験が、組換えトマトを用いて実施された。現在、このような組換え作物の隔離圃場は全国に20カ所あり、そのうち7カ所はもとの国立研究機関である独立行政法人の所有となっている。
 
 このような隔離圃場の設置にあたっては、(1)関係者以外の立ち入りを規制するためのフェンスの設置、(2)隔離圃場内で組換え作物等を処分するための焼却施設、(3)人の履き物や機械に付着した土壌などを隔離圃場から外に出さないための洗浄施設と洗浄水の土壌懸濁(けんだく)物質等をトラップするための沈殿槽の設置が義務づけられており(農林水産分野における組換え体利用のための指針)、農環研の組換え作物隔離圃場もそれらを装備している。
 
 2001年までに、農環研で安全性評価試験が実施された組換え作物は29件におよび、これらのすべてについて、環境安全性が確認されている。評価項目は、評価対象の組換え作物によってケースバイケースで選定される。そして、選定された評価項目に沿って、組換え作物と非組換え作物とを比較対照することによって、組換え作物の環境安全性の確認を行っている。
 
 しかし、2004年の2月以降には、生物多様性条約のカルタヘナ議定書の批准及びそれを担保するための法律の施行によって、こうした環境安全性評価試験の枠組みが大きく変更される。農環研では、これに先立って、科学的な評価試験が実施されるように、適正な試験方法の確立と評価実施に必要な科学的知見の整備を行うこととし、従来までのような当事者的な役割を中止することとした。このことによって、農環研が、議定書と法律の履行に対して中立な立場で、国民のために貢献できるものと考えている。
 
(2)遺伝子組換え作物の一般栽培における現状と将来
 今までに、日本において産業目的で一般栽培された組換え作物は、カーネーションなどの花卉類の一部を除けば、まったくない。このことは、組換え作物を奨励しているアメリカ、カナダ、アルゼンチン等(マイアミグループ)はもとより、組換え作物に対して慎重な立場をとっているEUに比べても、極めて異質である(三田村、2003)。しかし、日本は、毎年約3,000万トンにも及ぶ穀類を輸入しており、組換え作物も当然輸入しいる。今までに実施してきた組換え作物の環境安全性評価試験は、このような輸入にかかわる安全性の評価が中心であった。つまり、日本において産業目的で組換え作物を一般栽培することについて、重要と考える業者はきわめて少なかった。
 
 しかし、組換え作物のもたらす便益が理解され、組換え作物に対するパブリックアクセプタンスが浸透すれば、当然日本においても、産業目的として組換え作物の一般栽培が普及することが予想できる。そうなると、組換え作物を栽培したい農家とそうではない有機栽培農家などの否定的な農家とが混在することになる。EUでは、これらの農家が問題なく共存することを前提として、さまざまな試験を実施している。
 
 共存のために最も重要な観点は、組換え作物の花粉が飛散して、その栽培に否定的である農家の栽培作物に影響を及ぼすことである。つまり、組換え作物の花粉が飛散し、非組換え作物に交雑すると、収穫される子実は組換え農産物となってしまうからである。こうした交雑をさけるためには、組換え作物と非組換え作物との距離的な隔離、あるいは時間的な隔離(花の咲く時期をずらす)が重要となり、そのための地域的な栽培計画を立案し、実行させることが不可欠になる。EUでは、こうした栽培計画の立案のために、実規模の農家圃場で大がかりな試験を行っている。
 
 農環研では、花粉の飛散性が高いトウモロコシについて、実圃場で起こりうる交雑の程度を推定するために、実際の組換え作物を実験材料としなくても推定が可能になることを念頭に置いて、新しい実験方法を確立した(松尾ら、2003)。トウモロコシには、白い子実の品種と黄色の子実の品種があり、黄色の品種の花粉が白い品種に交雑すると、その子実は黄色になることが知られている。作物学的には、この現象をキセニアと呼んでいる。この現象を判定材料として、花粉親の黄色い品種と花粉を受ける白い品種を配置し、距離と風向きや風速などの気象条件が交雑に及ぼす影響を解析した。その結果、隔離距離が10mになると急速に交雑率が減少して、0.1〜0.3%になることを明らかにした。ちなみに、1本のトウモロコシの穂軸には、約500粒の子実があり、0.2%とはそのうちの1粒が交雑したことを示している。また、こうしたキセニア現象はイネにおいてもみられ、モチ米の花粉がウルチ米に交雑すると、ウルチ米が白濁することが知られている。現在では、この現象を判断材料として、イネに起こる交雑の推定についても実験を行っている。
 
 一方、組換え作物が栽培目的で一般栽培されるようになると、それが長期間に及ぶことが考えられる。こうしたときに、比較的短期間で行う安全性評価試験では予測できなかった長期的な影響があるかもしれない。こうした懸念に対して、環境安全性が確認された実際の組換えセイヨウナタネと組換えダイズを農環研の試験圃場で経年栽培し、長期的な影響について監視(モニタリング)を行っている。また、その他の組換え作物についての長期影響は、農環研と他の試験研究機関との連携により、各地で実施している。
 
(3)Bt遺伝子組換えトウモロコシの生態影響に関する緊急調査
 Bt遺伝子組換えトウモロコシが生産する花粉には、Btトキシンが含まれている。この花粉を摂食したオオカバマダラというチョウの幼虫が影響を受ける可能性を示唆する論文が科学雑誌「Nature」に掲載された(Losey et al. 1999)。この内容は、新しいタイプの生態影響として世界的に大きな波紋を投げかけた。わが国でも緊急にBtトウモロコシ花粉の生態影響についての調査研究が農業環境技術研究所で開始された(農業環境技術研究所編、2003)。実際に、Btトウモロコシが国内で一般栽培されていない条件下で、Bt花粉の生態リスクをどのように評価するかは難しい問題である。生態リスクは毒性と曝露(ばくろ)量に関係することから、それぞれの要因ごとに調査研究を行い、取りまとめた。
 
 まず、生物毒性については、評価対象とする希少種を使うことは困難であることから、代替え種を探し、もっとも感受性が高かったヤマトシジミ1齢幼虫を生物検定用昆虫として選び、供試個体の半数が致死する花粉密度と検定法を明らかにした(松井ら、2002, 2003)。同時に、ELISAダブルサンドイッチ法で花粉中の微量のBtトキシン量を測定する方法を開発した(大津, 2003)。一方、花粉が周辺植物の葉上に堆積する密度については、粘着液を塗ったスライドグラスを花粉採集器に載せてこれを圃場に置き、スライドグラスに堆積する花粉密度を測定した。この花粉密度と風向、風速および開花度を組み入れたモデル式を作成し、堆積花粉密度の最大ポテンシャルを予測した(川島、2003)。実際には、葉上の花粉は風などにより脱落することから、粘着液を塗布したスライドグラスで採集される花粉密度に残存率(Pleasants et al., 2001)を乗じて、トウモロコシ圃場からの距離別の葉上花粉堆積密度を推定する。
 
 具体的には、Bt11系統のBtトウモロコシ品種を用いて、多少ともヤマトシジミ1齢幼虫の生育に影響が出始める可能性があるBtトウモロコシ圃場からの最大距離は約20mであるとした。一方、わが国においてBtトウモロコシが大規模に栽培される状況を想定し、そのような状況の下で影響を受けそうなチョウの希少種をレッドデータブックから探した。すなわち、それらの生息地を類型化し,トウモロコシ圃場周辺に生息し、Bt花粉を摂食する可能性が多少ともある種を絞り込んだ。これらを総合勘案し、Btトウモロコシ圃場の20m以内に希少種あるいは普通種の地域個体群の多くの部分が生息するような状況はわが国では想定できないことから、本品種による希少種や普通種の個体群への影響は無視できることを明らかにした(松尾ら、2002)。今後さらに、Btトキシン活性を有する花粉の堆積密度と圃場との距離の関係を一層実態に近くなるように計測あるいは推定し、将来的に作出されるであろうさまざまなタイプのBt遺伝子組換えトウモロコシ品種の生態影響評価に応用していく必要があろう。
 
さまようセイヨウタンポポ
 ヨーロッパ原産のセイヨウタンポポは、アカミタンポポとともに、世界に分布を広げた放浪植物として知られている。これらのタンポポは、日本においても都市化の進行につれて増加し、現在ではもっとも身近な帰化植物のひとつになっている。
 
 これほどまでにセイヨウタンポポが分布を広げることのできた理由としては、「無融合生殖」と呼ばれる特殊な生殖法を持つことがあげられる。無融合生殖では、減数分裂を行わずに親の体細胞と同数の染色体をもつ卵細胞が作られ、花粉からの精核とは融合することなく胚が形成される。そのため、セイヨウタンポポは1個体からでも確実に種子を生産でき、不意に襲うかく乱の間隙をぬいながら、分布の空白地を開拓できるのである。
 
 ところが、近年、これまでセイヨウタンポポだと思って見ていた植物の多くが、在来のタンポポとの雑種個体であるという報告が相次ぎ、セイヨウタンポポの分布についての見直しが必要になってきた。タンポポにいったい何が起こったのだろうか?
 
 これまでの報告を確認し、さらに日本列島規模での雑種個体の広がりを把握するために、環境省生物多様性センターが実施する「身近な生きもの調査・タンポポ調べ(2001)」と協力し、全国のボランティアが集めたタンポポについて、DNA塩基配列などを手がかりにした雑種判定を行った。その結果、外見上はセイヨウタンポポと見なされた844個体のうち、85%にあたる713個体が雑種個体であった。また、これらの雑種個体とセイヨウタンポポは、どちらも北海道から九州まで日本列島の各地に広く分布していた。このように大規模なセイヨウタンポポの交雑は、世界的に見ても前例のない、貴重な報告である。
 
 それにしても不思議なのは、本物のセイヨウタンポポが少ないことである。セイヨウタンポポは、無融合生殖を武器に世界を股にかけてきたのではなかったのか。むしろ、日本においては、単純に自らのコピーを増やすだけでなく、在来のタンポポとの交雑を介して土着の遺伝子を取り込むことによって、自らを日本の自然環境に適応させたのだろうか。雑種タンポポを知ってしまったわれわれには、放浪の末に変わり果てたセイヨウタンポポの姿を見届ける義務があると思うのだが、いかがだろうか。
 
論文の紹介:導入生物を使って有害な侵入生物を防除する
Restoring Balance: Using Exotic Species to Control Invasive Species
Mark S. Hoddle, Conservation Biology 18(1): 38-49 (2004)
 
 農業環境技術研究所は,農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに,侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって,生態系のかく乱防止,生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の一つとしている。このため,農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集している。
 
 今回は、侵略的な外来生物によって生態系の機能が失われたり、生物多様性の保全に重大な影響があったりするときに、この侵略的な外来生物を別の外来生物を使って防除する手法に関する総説を紹介する。
 
要約
 
 有害な侵入生物が、世界中の自然生息地を脅かしている。また、大きな環境被害を引き起こし、それによる経済的損失は年間数10億ドルとなる。有害な生物の侵入を防止し、その分布拡大を抑制し、あるいは、壊された生態系を回復するためには、積極的な人間による管理が必要である。
 
 生物的防除は、外来種の影響を受けやすい生息地において、有害な侵入生物を防除するための強力な技術となる。外来の有害生物を食べ、害を及ぼさない程度にまで密度を低下させるような、より上の栄養段階の生物(天敵)を、慎重に選択して利用するのである。世界中の古典的な天敵利用(野外に天敵を放して定着させることによって有害生物を防除する)事業において、昆虫やダニなど節足動物の防除のために5,000例以上、雑草防除のために900例以上の天敵導入が行われた。
 
 この防除技術によって、いくつかの有害な雑草、節足動物や脊椎(せきつい)動物の防除が成功した。しかし、生物的防除のために生物を導入することで、土着の生物に予想しなかった影響が生じるのではないかという懸念が生じており、この有害生物防除の実施の環境安全性について、これまで考えられていたようにリスクフリーとはいえないと考えられるようになっている。保全生物学の専門家の多くは、対象外の生物にも害を及ぼす可能性があるため、生物的防除技術は高リスクであると見ている。一方、生物的防除が成功すれば、農薬使用量の減少、有害生物の著しい抑制、そして生態系の状態がその有害生物の侵入の前に見られたと同様な状態に回復できるなどの利益が得られるだろう。
 
 有害生物を管理する戦略としての生物的防除には限界があり、一部の有害生物は生物的防除の対象にはできないだろう。天敵が十分に寄主特異的でなかったり、対象外の生物にも害があったりするからである。いくつかの導入事例では、対象外の生物に重大な影響が生じている。計画の一部として導入した寄主範囲の広い天敵が、対象生物以外の生物も激しく攻撃したためである。
 
 対象外生物への影響を防止するために、天敵の放飼に関する規則が、ニュージーランドやオーストラリアなどで示されているように、さらに厳しくなりつつある。また、外来天敵の輸入と放飼に関するFAO(国連食糧農業機関)の国際規約が、1995年に全参加国によって承認された。その安全対策が広く世界中に採用されるようにするため、天敵利用の適切な実施方法に関するガイドラインが提唱されている。これに従えば、寄主生物と生息地に対して適合度の高い天敵を選択できるはずである。
 
 自然環境を保全するための生物的防除計画では、自然地区に侵入した雑草種が従来から対象とされてきた。さらに最近では、土着の野生種と競合したり、土着の植物を食害したりする外来の有害節足動物が、保全のための生物的防除計画の対象となっている。侵略的な水生無脊椎動物や有害脊椎動物など、自然環境の保全において重要な新たな対象生物にも生物的防除を検討すべきである。多くの場合、侵入の防止、封じ込め、根絶のための対策を使いつくしたり、あるいは成功の見込みがないときは、適切に選択された対象生物に対する十分に練られた生物的防除計画の実行だけが、生物群集に悪影響を及ぼす侵略的な生物種を防除する方法になるかもしれない。
 
本の紹介 139:植生と大気の4億年
−陸域炭素循環のモデリング−
ディビッド・ベアリング、イアン・ウッドワード著
及川武久監修、地球フロンティア責任企画
京都大学学術出版会(2003)
 本書は、4億年前に陸上に進出し、環境に大きな影響を与えた植物について書かれたものである。中生代の高温期や新生代の寒冷期に、植物はどのように生きたか、それによってまた気候はどう変動したのかを解説する。シミュレーションと化石のデータを組み合わせ、太古の気候と植物の分布を重ね合わせ、環境と生物の根元的な関係を明らかにしている。
 
 これまで「情報:農業と環境」の「本の紹介」で、このような生物の進化と環境変動を斬新な視点からとらえた本を何冊か紹介してきた。それらは、「生命と地球の共進化:農業と環境No.5」、「共生生命体の30億年:No.8」、「生命誌の世界:No.9」、「環境考古学のすすめ:No.21」、「共生の思想:No.22」などである。これらの本と本書を読み比べることによって、遥(はる)かなる46億年の地球の歴史がより深く読みとれるであろう。このほかにも、「生命と地球の歴史:岩波新書」、「共生の生態学:岩波新書」などがある。本書の目次は、以下の通りである。
 
 日本語版への序文/序文/謝辞
第1章 序説
 1.1 はじめに  1.2 地質的時間スケール  1.3 寒冷期の地球
 1.4 温暖期の地球  1.5 急激な気候変化−白亜紀末期の大量絶滅
 1.6 まとめ
第2章 植物の基礎的な生理機能−現在の知見から過去を解明するために
 2.1 はじめに  2.2 CO2固定酵素ルビスコ
 2.3 ルビスコの特性曲線  2.4 光呼吸  2.5 ルビスコの進化
 2.6 気孔  2.7 光合成と炭素の安定同位体  2.8 まとめ
第3章 気候と陸上植生
 3.1 はじめに  3.2 植生の気候的限界
 3.3 過去5億年間の全球気候の変化
 3.4 過去5億年間の陸上生態系の光合成
 3.5 光合成モデルの計算結果の検証  3.6 まとめ
第4章 気候と現在の陸上植生
 4.1 はじめに  4.2 大気大循環モデル
 4.3 GCMの初期化と取り扱い
 4.4 古気候に関するGCMシミュレーション
 4.5 GCMの信頼性と精度  4.6 植生モデルの基本的な動作の流れ
 4.7 モジュールの説明  4.8 土壌での相互作用
 4.9 植生構造の決定  4.10 機能型を定義すること
 4.11 現在におけるLAIとNPPのモデル実行
 4.12 1988年におけるLAIの全球分布
 4.13 1988年におけるNPPの全球分布
 4.14 優占する機能型における今日の分布予測  4.15 まとめ
第5章 石炭紀後期
 5.1 はじめに  5.2 石炭紀後期の大気が光呼吸に対して与えた影響
 5.3 石炭紀後期の大気が葉の気体交換に対して与えた影響
 5.4 石炭紀後期の光合成と植物の成長  5.5 石炭紀後期の地球の気候
 5.6 石炭紀後期における全球陸域の生産力
 5.7 モデルの結果と地質学的記録の比較
 5.8 全球の陸上生産力と炭素貯蔵に対する酵素の影響
 5.9 陸域生態系の分解速度と炭素貯蔵
 5.10 石炭紀のC3型植物とC4型植物の分布
 5.11 火災と石炭紀後期の陸域生態系  5.12 まとめ
第6章 ジュラ紀
 6.1 はじめに
 6.2 三畳紀・ジュラ紀境界での気候と大気中CO2の変化
 6.3 植物の適応と生存に関する帰結
 6.4 高CO2濃度に対する植物の順化
 6.5 ジュラ紀後期の全球の気候
 6.6 ジュラ紀後期の光合成の全球的パターン
 6.7 モデルで得られた植生活性の古環境データとの比較
 6.8 ジュラ紀後期の全球の陸上植生の生産力
 6.9 植生機能に対するCO2の影響
 6.10 ジュラ紀後期の植物機能型の分布
 6.11 ジュラ紀の地質記録との比較  6.12 まとめ
第7章 白亜紀
 7.1 はじめに  7.2 白亜紀中期・後期における全球の環境
 7.3 K/T境界イベント後の環境
 7.4 K/T境界イベント後の短期的環境変化(10−10年)
 7.5 衝突後の長期的環境変化(10−10年)
 7.6 白亜紀における植生の生産力と構造
 7.7 白亜紀における陸域生態系の炭素貯留量
 7.8 K/T境界における大規模な野火による炭素の消失
 7.9 K/T境界後の生態系の性質の変化と地質学的証拠
 7.10 白亜紀における植生活動のモデル化に対する炭素同位体比制約条件
 7.11 白亜紀における植物の多様性  7.12 植物機能型の全球分布
 7.13 白亜紀を通じた植物の科の多様性の変化  7.14 まとめ
第8章 始新世
 8.1 はじめに  8.2 始新世と将来の全球的な気候
 8.3 GCMによる始新世の気候と地質学的データとの比較
 8.4 始新世における陸域植生の構造と生産力
 8.5 始新世の植生が気候に与えるフィードバック
 8.6 第三紀初期の化石森林の生産力
 8.7 始新世と将来の全球植生分布
 8.8 始新世と将来の陸域生物圏の炭素貯蔵量  8.9 まとめ
第9章 第四紀
 9.1 はじめに
 9.2 氷期・間氷期サイクルの環境変動に対するC3植物の気体交換の応答
 9.3 LGM以降の全球気候変動
 9.4 LGM以降の全球一時生産力と植生構造の変化
 9.5 LGM以降の植物機能型の分布
 9.6 LGM以降のC4植物の分布の変化
 9.7 LGM以降の陸上炭素貯留量の変化
 9.8 第四紀後期の陸上生物圏による全球13C分別
     −陸上炭素貯留量に対して意味すること
 9.9 植生と大気O2の酸素同位体組成  9.10 まとめ
第10章 将来の気候と陸上植生
 10.1 はじめに  10.2 気候シナリオ
 10.3 全球積算の陸域生態系応答
 10.4 卓越する植生機能型の分布の変化  10.5 まとめ
第11章 終わりに
 11.1 総論  11.2 炭素循環  11.3 植物種
 11.4 現在と将来の時間スケール  11.5 結論
訳者後書き/用語・略語/参考文献/索引
 
環境被害の防止および修復についての環境責任に関する
欧州議会と理事会の指令を採択することを目指して
理事会が採択した2003年9月18日の共通の立場
(EC)No58/2003  −その2−
 欧州連合理事会は、環境被害の防止および修復についての環境責任に関する欧州議会と理事会の指令を採択することを目指して2003年9月18日の共通の立場(EC)No58/2003を採択した。
 
 ここでは欧州官報に掲載された文書C 277E(2003年11月18日、10〜30ページ)、"Common position (EC) No 58/2003 adopted by the Council on 18 September 2003 with a view to the adoption of a Directive 2003/.../EC of the European Parliament and of the Council of ... on environmental liability with regard to the prevention and remedying of environmental damage (2003/C 277 E/02) "
   http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:C:2003:277E:0010:0030:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年6月)
を仮訳した。今回は後半部分の、本指令の附則ならびに理事会の論拠声明について紹介する。仮訳するに当たって、不明な用語については、参考になる資料をウェブサイトから検索し、それらの資料の中から、いくつかの資料を番号(*1*2・・・)を付けて、掲載した。また仮訳した内容が適切に表現されていない部分もあると思われるので、原文で確認していただきたい。
 
 なお、前半部分は「情報:農業と環境」の第48号 ( http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn048.html#04813 ) に掲載されているので、参照していただきたい。また本文書に関連する文書「環境被害の防止と修復に関する環境責任に関する欧州議会と欧州理事会の指令案 ( >http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:C:2002:151E:0132:0145:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年6月) ) 」を仮訳し、「情報:農業と環境」の第25号 ( http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn025.html#02509 ) 、第26号 ( http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn026.html#02602 ) および第27号 ( http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn027.html#02706 ) に掲載してあるので、参照していただきたい。さらにEUの環境政策は、原則として共同決定手続に基づき決定されるが、この検討過程に共通の立場が位置づけられており、この検討手順については、「情報:農業と環境」の第42号(遺伝子組換え生物の国境を越える移動に関する欧州議会と理事会の規則提案に対する理事会の共通の立場)に掲載されているので、参照いただきたい ( http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn042.html#04210 )。
 
 
附則 I
第2条第1項(a)に記した判定基準
 
生息地または種の良好な保全状態を達成すること、もしくは維持することに悪影響がある被害の重大さは、被害発生前の保全状態や、生息地または種がもたらす快適さによって提供されるサービスおよびこれらの自然の再生力を基準に評価されなければならない。ベースライン状態に重大な悪化があれば、次のような測定できるデータによって判定されるべきである:
 
− それぞれの種の数、それらの密度または保護する区域、
 
− 種または生息地を保護することに関して、特定の個体の機能もしくは被害を受けた区域の機能 、(地方、地域そして欧州共同体レベルを含む高いレベルで評価した)種または生息地の希少さ、
 
− (その種もしくはその個体群の固有の活力に応じた)種の繁殖能力、(標徴種またはそれらの個体群に固有の活力に応じた)種の生存力または生息地の自然の再生力、
 
− 種または生息地の活力のみで、ベースライン状態と同等かそれより優れているとみされる状態にするために、保護措置を強化する以外にいかなる介入もせずに、短期間に回復する被害後の種または生息地の能力。
 
人の健康に影響を及ぼすことが証明された被害は、重大な被害として分類されなければならない。
 
下記のことは重大な被害として分類する必要はない:
 
− 問題の種または生息地にとって正常とみなされる自然の変動よりも小さいマイナスの変動、
 
− 自然が原因のマイナスの変動、または生息地記録文書もしくは対象文書に定めたように、あるいは所有者もしくは事業者が以前に行ったように、用地の通常の管理に関係する介在に起因するマイナスの変動、
 
− ベースライン状態もしくは種もしくは生息地の活力のみによって導く状態までか、ベースライン状態と同等もしくはそれよりも優れていると思われる状態か、どちらかまでに短期間に、しかも介在せずにそれらが回復することが証明される種もしくは生息地に与える被害。
 
 
附則 II
環境被害の修復
 
この附則では、環境被害を修復する最も適切な措置を選択するために従うべき共通の枠組みを提示する。
 
1. 水、保護種および自然の生息地に与える被害の修復
 
水、保護種および自然の生息地に関する環境被害の修復は、一次修復、補足的修復および代償的修復の方法によって、そのベースライン状態に環境を復元することによって達成される。それらの修復法としては:
 
(a) 「一次」修復は、被害を受けた自然の資源および/または損なわれたサービスをベースライン状態までに、もしくはベースライン状態に向けて戻すあらゆる修復措置である;
 
(b) 「補完的」修復は、一次修復が被害を受けた自然の資源および/またはサービスを十分に回復しないという事実を補うために自然の資源および/またはサービスに関して行われるすべての修復措置である;
 
(c) 「補償的」修復は、被害発生日から本来の修復がそのすべての効果を達するまで、発生した自然の資源および/またはサービスの一時的損失を補うために行われたすべての処置である;
 
(d) 「一時的損失」は、被害を受けた自然の資源および/またはサービスがそれらの生態的機能を果たすことができない、もしくは他の自然の資源もしくは一次修復措置または補完的修復措置が効果を得るまで、社会にサービスを供給することができないという事実から生まれる損失を意味する。社会の一部の人々への財政的補償はその損失事項にはならない。
 
一次修復によってそのベースライン状態に環境が復元しない場合、補完的修復が行われる。さらに、補償的修復は、一時的損失を補うために行われる。
 
環境被害を修復するということは、水、保護種および自然の生息地に与える被害の点から人の健康に悪影響がある重大なあらゆるリスクが除去されることを意味する。
 
1.1.  修復目標
 
一次修復の目的
 
1.1.1. 一次修復の目的は、被害を受けた自然の資源および/またはサービスをベースライン状態まで、もしくはベースライン状態に向けて復元させることである。
 
補完的修復の目的
 
1.1.2. 被害を受けた自然の資源および/またはサービスがベースライン状態に回復しないとき、その時点で補完的修復が行われる。補完的修復の目的は、被害を受けた場所がそのベースライン状態に回復した場合に供給されるような、目的にふさわしい代替地を含めて同程度の水準の自然の資源および/またはサービスを供給することにある。影響を受けた個体群の関与を考慮して、代替地はできるだけ適切な箇所で、被害を受けた場所と地理的に結合されるべきである。
 
補償的修復の目的
 
1.1.3. 補償的修復は、回復するまでの自然の資源とサービスの一時的損失を補うために行うものでなければならない。この補償は被害を受けた場所か代替地のいずれかで、保護された自然の生息地と種あるいは水に対する追加的改善から成り立っている。公衆の一部の人々への財政的補償は、その修復事項にはならない。
 
1.2.  修復措置の特定
 
一次修復措置の特定
 
1.2.1. 短期間でベースライン状態に向けて自然の資源とサービスを直接に復元する修復措置、または自然の回復による修復処置から構成される選択肢を考えなくてはならない。
 
補完的修復措置および補償的修復措置の特定
 
1.2.2. 補完的修復措置および補償的修復措置の規模を決定する場合、資源間の等価法もしくはサービス間の等価法を用いることを第一に考えなくてはならない。これらの方法に従って、被害を受けたそれらと同じ種類、質、量の自然の資源および/またはサービスを供給する処置を第一に考えなくてはならない。これが不可能な場合には、代替の自然の資源および/またはサービスが供給されなければならない。たとえば、質の低下は、修復措置の量を増すことで相殺されるかもしれない。
 
1.2.3. 最初の選択肢、資源間またはサービス間に等価法を用いることができない場合には、代替評価法を用いなければなならい。所管官庁は、必要な補完的修復措置および補償的修復措置の程度を決定するための方法、たとえば貨幣的評価を指示することができる。失われた資源および/またはサービスを評価することが実行可能であるが、代替の自然の資源および/またはサービスを評価することが正当な期限内でまたは正当な費用で実行することができなければ、所管官庁は失われた自然の資源および/またはサービスの貨幣評価額と同等の費用の修復措置を選択することができる。
 
補完的修復措置および補償的修復措置は、これらの措置が修復措置の時間優先および時間プロファイルを反映するための追加の自然の資源および/またはサービスを供給するように設計されるべきである。たとえば、ベースライン状態に達するまでの期間が長ければ長いほど、(他の条件が同じであれば)行われる補償的修復措置の総額はますます大きくなる。
 
1.3.  修復措置の選択肢の選定
 
1.3.1. 次の基準に基づいて、最善の利用可能な技術(best available technologies)*1を使用して、適正な修復措置の選択肢を事前評価すべきである:
 
− 公衆衛生と安全性に対する各選択肢の効果、
 
− その選択肢を実施する費用、
 
− 各選択肢の成功の可能性、
 
− 各選択肢が将来の被害を予防し、その選択肢を実施する結果として副次的な被害を回避する程度、
 
− 各選択肢が自然の資源および/またはサービスの各構成要素に利益を与える程度、
 
− 各選択肢が関連する社会的、経済的、文化的な問題および地方固有のその他の関連要因を考慮する程度、
 
− 環境被害が復元されるまでに必要とする期間、
 
− 各選択肢が環境被害箇所の復元を達成する程度、
 
− 被害を受けた場所との地理的結合。
 
1.3.2. 特定されたいろいろな修復の選択肢を事前評価する場合、被害を受けた水、保護種または自然の生息地をベースラインまでに完全には復元しない、またはさらにゆっくり復元させるような一次修復措置を選択することもできる。この決定の結果として、一次修復の場所で前の自然の資源および/またはサービスが、失われた自然の資源および/またはサービスと同様の水準を供給するための補完的処置または補償的処置を強化することで補償される場合に限り、この決定を取ることができる。これは、たとえば、同等の自然の資源および/またはサービスを安い費用で他の所で得ることができる場合である。これらの追加的修復措置は、第1.2.2項で定めた規則に従って決定されなければならない。
 
1.3.3. 第1.3.2項に定めた規則にかかわらず、第7条第3項に従って、所管官庁は、次の場合、さらに修復措置を取らないことを決定する権限がある:
 
(a) すでに講じられた修復措置が、人の健康、水または保護種と自然の生息地に悪影響を与える重大ないかなるリスクもないことを獲得している場合、
 
(b) ベースライン状態または同様の水準に達するために実施すべき修復措置の費用が、得られる環境の恩恵より大きすぎる場合。

*1: http://www.axis.or.jp/~iso/14001_page_5.htm (対応するページが見つかりません。2011年5月)
http://www.ceis3.jp/adviser/text/risuku.pdf (対応するページが見つかりません。2010年6月) p.15;「6.4.1.リスクの削減」の項
http://assess.eic.or.jp/houkokusho/bat0003/chap_6/chap_6.html (対応するページが見つかりません。2010年6月)

 
2. 土地の被害の修復
 
被害の時点において、現行の使用もしくは今後の公認さた使用を考慮し、汚染された土地が人の健康に悪影響をもつ重大ないかなるリスクも今後もはや起さないように、関連する汚染物質を除去、規制、抑制し、あるいは減少することを最低限、確保するために必要な措置を取らなければならない。このようなリスクがあれば、土壌の特性と機能、危険な物質、調剤(preparations)*1、生物または微生物のタイプと濃度、それらのリスクおよび拡散の可能性を考慮し、リスク評価の手続きによって評価されなければならない。被害が発生した場合、土地使用規則、あるいは有効な他の関連する規則があれば、それらに基づいて土地の使用を確かめなければならない。
 
土地の利用を変更する場合は、人の健康への悪影響を防止するためにあらゆる必要な措置をとらなければならない。土地利用規則または他の関連規則がない場合は、予想される開発を考慮して、特定区域の使用は被害が発生した関連地域の性質によって決定される。
 
自然回復の選択肢、すなわち回復過程の際に人が直接的介入をしないような選択肢を考えなければならない。

 *1: http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/int/reach.html (該当するページが見つかりません。2015年5月)
の定義の項参照
http://www.env.go.jp/chemi/seitai-kento/h13/05/07.pdf の調剤指令参照

 
 
附則 III
第3条第1項に記した活動
 
1. 統合的な汚染の防止と規制に関する1996年9月24日の理事会指令96/61/EC(1)に従って許可を必要とする施設(installation)*1の業務(operation)*1。これらの業務には、新製品とその過程に関する研究、開発および検査のために使用した施設もしくは施設の一部を除く、指令96/61/ECの附則Iに記載された活動のすべてを指す。
 
 
2. 廃棄物に関する1975年7月15日の理事会指令75/442/EEC(2)および有害廃棄物に関する1991年12月12日の理事会指令91/689/EEC(3)に従って、許可または登録を必要とする業務の監督と処分場のアフターケアを含む、廃棄物と有害廃棄物の収集、移送、回収および処分などの廃棄物管理の業務。
 
これらの業務には、とりわけ、廃棄物の埋め立てと焼却施設の業務に関する1999年4月26日の理事会指令1999/31/EC(4)に基づく埋め立て地の業務および2000年12月4日の欧州議会と理事会の指令2000/76/EC(5)に基づく廃棄物の焼却に関する業務が含まれる。
 
本指令の目的のために、これらの業務には、公認の基準にまでに処理した都市の廃水処理施設の下水汚泥を農業用に散布することを含めないことを加盟国は決定できる。
 
3. 欧州共同体の水環境に排出される特定の危険物質に起因する汚染に関する1976年5月4日の理事会指令76/464/EEC(6)*2に従って、事前認可を必要とする内陸の地表水へのすべての排出。
 
4. 特定の危険物質に起因する汚染に対して地下水を保護することに関する1979年12月17日の理事会指令80/68/EEC(7)に従って、事前認可を必要とする地下水への物質のすべての排出。
 
5. 指令2000/60/EC*3に従って、許可、認可または登録を必要とする地表水または地下水への汚染物質の排出または注入。
 
6. 指令2000/60/ECに従って、事前認可を必要とする取水および貯水。
 
7. 製造、利用、貯蔵、処理、埋立て、環境中への放出および以下の現地輸送
 
(a) 危険物質の分類、包装、表示に関係する加盟国の法律、規則および行政上の規定の統一化*4に関する1967年6月27日の理事会指令67/548/EEC(8)の第2条第2項で定めた危険物質*5
 
(b) 危険な調剤の分類、包装、ラベル表示に関する加盟国の法律、規則および行政上の規定の統一化に関する1999年5月31日の理事会と欧州議会の指令1999/45/EC(9)*6の第2条第2項で定めた危険な調剤;
 
(c) 植物保護製品*7の上市に関する1991年7月15日の理事会指令91/414/EEC(10)*8の第2条第1項で定めた植物保護製品;
 
(d) 殺生物剤*9の上市に関わる1998年2月16日の理事会と欧州議会の指令98/8/EC(11)の第2条第1項(a)で定めた殺生物剤
 
8. 道路による危険物の輸送について加盟国の法律の統一化に関する1994年11月21日の理事会指令94/55/EC(12)の附則A、または鉄道による危険物の輸送について加盟国の法律の統一化に関する1996年7月23日の理事会指令96/49/EC(13)の附則で定める、または欧州共同体に出入港し、しかも危険物または汚染物を運送する船舶のための最小限の要件に関する1993年9月13日の理事会指令93/75/EEC(14)に定める、危険物または汚染物の道路、鉄道、内陸水路、海、空などによる輸送。
 
9. 上記指令の対象となる汚染物質のいずれかの大気中への放出について、工場からの大気汚染防止に関する1984年6月28日の理事会指令84/360/EEC(15)*10に従って認可を必要とする施設の業務。
 
10. 遺伝子組換え微生物の封じ込め利用に関する1990年4月23日の理事会指令90/219/EEC(16)で定めた遺伝子組換え微生物などの輸送を含むすべての封じ込め利用。
 
11. 欧州議会と理事会の指令2001/18/EC(17)で定めた遺伝子組換え生物の環境へのすべての意図的放出、輸送および上市
 
12. 欧州共同体内の、域内および域外への廃棄物の輸送の監督と規制に関する1993年2月1日の理事会規則(EEC)259/93(18)で定める欧州連合の域内の、域内および域外への認可を必要とするまたは禁止された廃棄物の国境を越える輸送

(1): 欧州官報 L 257、1996年10月10日、26ページ。本指令はこの前の欧州議会と理事会の指令2003/35/EC(欧州官報 L 156、2003年6月25日、17ページ)で改正された。
(2): 欧州官報 L 194、1975年7月25日、39ページ。本指令はこの前の委員会決定96/350/EC(欧州官報 L 135、1996年6月6日、32ページ)で改正された。
(3): 欧州官報 L 377、1991年12月31日、20ページ。本指令は1994年6月27日の指令94/31/EC(欧州官報 L 168、1994年7月2日、28ページ)で改正された。
(4): 欧州官報 L 182、1999年7月16日、1ページ。
(5): 欧州官報 L 332、2000年12月28日、91ページ。
(6): 欧州官報 L 129、1976年5月18日、23ページ。本指令はこの前の欧州議会と理事会の指令2000/60/EC(欧州官報 L 327、2000年12月22日、1ページ)で改正された。
(7): 欧州官報 L 20、1980年1月26日、43ページ。本指令は指令91/692/EEC(欧州官報 L 377、31.12.1991、48ページ)で改正された。
(8): 欧州官報 196、1967年8月16日、1ページ。本指令はこの前の規則(EC)807/2003(欧州官報 L 122、2003年5月16日、36ページ)で改正された。
(9): 欧州官報 L 200、1999年7月30日、1ページ。本指令は委員会指令2001/60/EC(欧州官報 L 226、2001年8月22日、5ページ)で改正された。
(10): 欧州官報 L 230、1991年8月19日、1ページ。本指令はこの前の規則(EC)806/2003(欧州官報 L 122、2003年5月16日、1ページ)で改正された。
(11): 欧州官報 L 123、1998年4月24日、1ページ。
(12): 欧州官報 L 319、1994年12月12日、7ページ。本指令はこの前の委員会指令2003/28/EC(欧州官報 L 90、2003年4月8日、45ページ)で改正された。
(13): 欧州官報 L 235、1996年9月17日、25ページ。本指令はこの前の委員会指令2003/69/EC(欧州官報 L 90、2003年4月8日、47ページ)で改正された。
(14): 欧州官報 L 247、1993年10月5日、19ページ。本指令はこの前の欧州議会と理事会の指令2002/84/EC(欧州官報 L 324、2002年11月29日、53ページ)で改正された。
(15): 欧州官報 L 188、1984年7月16日、20ページ。本指令はこの前の指令91/692/EEC(欧州官報 L 377、1991年12月31日、48ページ)で改正された。
(16): 欧州官報 L 117、1990年5月8日、1ページ。本指令はこの前の決定2001/204/EC(欧州官報 L 73、2001年3月15日、32ページ)で改正された。
(17): 欧州官報 L 106、2001年4月17日、1ページ。本指令はこの前の理事会決定2002/811/EC(欧州官報 L 280、2002年10月18日、27ページ)で改正された。
(18): 欧州官報 L 30、1993年2月6日、1ページ。本指令はこの前の委員会規則(EC)2557/2001(欧州官報 L 349、2001年12月31日、1ページ)で改正された。
*1: http://www.eper.de/dokumente/IVU-RL_englisch.pdf (対応するページが見つかりません。2010年6月) の定義の項参照
*2: http://www.envix.co.jp/ecoquery.html (対応するページが見つかりません。2010年6月) の水質関連法規(1)参照
*3: http://www.jmf.or.jp/japanese/wold_topic/EU/eu1_4_3.html (対応するページが見つかりません。2010年6月)
*4: http://www.envix.co.jp/ecoquery.html (対応するページが見つかりません。2010年6月) のF-2 危険物質関連の項参照
http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g01114hj.pdf のp.14の(9)参照
*5: http://www.dantes.info/Strategies/Docs/Directive%2067.548.EEC.pdf の第2条2項参照
*6: http://mh.soc.or.jp/memo/mk0018.htm (対応するページが見つかりません。2010年6月)
http://www.kasozai.gr.jp/news/news13.html (最新のURLに修正しました。2010年6月)
http://www.kasozai.gr.jp/news/news12.html (最新のURLに修正しました。2010年6月)
*7: http://members.at.infoseek.co.jp/gregarina/K1A4.html (対応するページが見つかりません。2010年12月)
http://members.at.infoseek.co.jp/gregarina/K1A2.html (対応するページが見つかりません。2010年12月)
*8: http://www.maroon.dti.ne.jp/bandaikw/news/pestcide/EU/EC020704pestremove.htm (最新のURLに修正しました。2010年6月)
*9:http://www.jetoc.or.jp/biocide.htm (対応するページが見つかりません。2010年6月)
http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/kankyoken/report-news/2003/siryo2.pdf (対応するページが見つかりません。2010年6月) p.182表6参照
*10: http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/902/902-7.pdf (対応するページが見つかりません。2011年5月)

 
 
附則 IV
第4条2項に記した国際条約
 
(a) 油による汚染損害の民事責任に関する1992年11月27日の国際条約*1
 
(b) 油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する1992年11月27日の国際条約*2
 
(c) バンカー油の汚染損害の民事責任に関する2001年5月23日の国際条約*3
 
(d) 危険物質及び有害物質の海上輸送に伴う損害の責任および補償に関する1996年5月3日の国際条約*4
 
(e) 道路、鉄道と内陸航行船による危険物輸送中の被害の民事責任に関する1989年10月10日の条約。

*1: http://www.jsanet.or.jp/glossary/wording_txt2_c.html#13 のCLCの項 (最新のURLに修正しました。2010年12月)
*2: http://www.jsanet.or.jp/glossary/wording_txt2_f.html#5 のFCの項 (最新のURLに修正しました。2010年12月)
*3: http://www.ndl.go.jp/horei_jp/Treaties/imo/imo15.htm (対応するページが見つかりません。2010年12月)
*4: http://www.ndl.go.jp/horei_jp/Treaties/imo/imo11.htm (対応するページが見つかりません。2010年12月)
http://www.jsanet.or.jp/glossary/wording_txt2_h.html#1 のHNSの項 (最新のURLに修正しました。2010年12月)

 
附則 V
第4条第4項でいう国際手段
 
(a) 原子力エネルギー分野の第三者に対する責任に関する1960年7月29日のパリ条約と1963年1月31日のブリュッセル補充条約*1
 
(b) 原子力損害の民事責任に関する1963年5月21日のウィーン条約*2
 
(c) 原子力損害に対する補完的な補償に関する1997年9月12日条約*3
 
(d) ウィーン条約とパリ条約の適用に関する1988年9月21日の共同議定書;
 
(e) 核物質の海上輸送の分野の民事責任に関する1971年12月17日のブリュッセル条約*4

*1: http://www.ndl.go.jp/horei_jp/Treaties/oecd/oecd3.htm (対応するページが見つかりません。2010年12月)
http://www.ndl.go.jp/horei_jp/Treaties/oecd/oecd1.htm (対応するページが見つかりません。2011年5月)
*2: http://www.ndl.go.jp/horei_jp/Treaties/iaea/iaea2.htm (対応するページが見つかりません。2010年12月)
*3: http://aec.jst.go.jp/jicst/NC/senmon/old/songai/sonota/sonota01/siryo1.htm (対応するページが見つかりません。2010年12月)
*4: http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/13010116_1.html (対応するページが見つかりません。2010年12月)
の、3.原子力関係を含めたIMOの主要な活動(2)の項を参照

 
 
附則 VI
第18条第1項に記した情報とデータ
 
第18条第1項に記した報告には、環境被害の事例および指令に基づく責任の事例のリストと、それぞれの事例について次のような情報とデータが含まれていなければならない:
 
1) 環境被害のタイプ、被害の発生の日付および/または発見の日付、および 本指令に基づいて開始した手続きの日付
 
2) 責任がある法人の活動分類コード(1)
 
3) 責任がある関係者または資格のある組織体が裁判による審査手続きに訴えられたかどうか(申請者のタイプと訴訟手続きの結果を明記しなければならない)
 
4) 修復過程の結果
 
5) 手続き終了の日付
 
加盟国が本指令の効果を適正に評価するのに役立つとみなすあらゆる情報とデータをその報告の中に入れることができる、たとえば:
 
1) 本指令で定めた、修復と防止の措置で招いた費用:
 
− この情報が入手できるならば、責任がある関係者が直接、支払った費用と責任がある関係者から事後に回収した費用;
 
− 責任がある関係者から回収されなかった費用(未回収の理由を明記すべきである)
 
2) 指令に従って使用した資金的保障手段を促進するための処置と実施に関する結果
 
3) 本指令を実施、施行するために必要な行政組織の設置と運営のために行政が毎年、負担した新たな行政費用の査定

(1): NACEコードが使用できる(欧州欧州共同体における経済活動の統計分類に関する理事会規則(EEC)3037/90(欧州官報 L 293、1990年10月24日、1ページ))。

 
 
理事会の論拠声明
 
I. 緒言
1. 欧州委員会は、理事会に環境被害の防止と修復についての環境責任に関する欧州議会と理事会の指令の提案を2002年2月21日に提出した。
 
2. 欧州議会は、その意見を2003年5月14日に提出した。
 
経済社会評議会*1は、2002年7月18日にその意見を採択した。
 
地域委員会*1は、2002年4月9日付けの書簡によって意見を提出しない旨を通達した。
 
3. 2003年9月18日に、理事会は欧州共同体設立条約の第251条に従って、その共通の立場を採択した。

*1: http://www.lib.u-tokyo.ac.jp/undepo/exhibition/2003/kikou/kikou.html

 
II. 目標
この指令の目的は、環境被害を防止もしくは修復しようとする枠組みを確立することである。提案は、「汚染者負担」の原則に基づいている、すなわちその活動が環境被害またはその被害の差し迫った脅威を引き起こした事業者は、取るべき防止もしくは修復の措置のための財政的責任を負うことになる。この原則は、金融負債にさらされることを減らすように環境被害のリスクを最小限にする措置を採用し、実施する方法を開発することを事業者に促すであろう。
 
規定された結果をどのように達成するかについての制度および手続き上の詳述な取り決めは、補完性の原則と均衡の原則に沿って、大部分が加盟国に任されている。
 
けれども、効果的に実施するために加盟国が最少限の共通の基準を共有するように、達成すべき復元目標に関する若干の規則と、それらを達成する措置をどのように選択するかを設定している。
 
III. 共通の立場の分析
1. 総論
この指令の範囲は、業務上の活動に起因する土地、水および生物多様性への環境被害を対象にする(若干の例外が想定される)。経済的損失は対象にしない。この指令は、被害の差し迫った脅威があるときは、事業者が自らの費用で防止処置を、そして被害を引き起こした場合には修復処置を取ることに対する義務を提示している。 
 
この指令は、一方では、すべての環境被害が該当し、しかも厳密に規定された責任が適用される(附則に掲げた)高リスクの特定の業務活動、他方では、事業者に過失もしくは不注意がある場合に、保護種と生息地への被害だけに該当する附則に掲げた以外の業務活動とを区別している。
 
さらにこの原文は次のことを想定している:処置を申請する利害関係の公衆に対する機会、国境を越えた汚染の場合の加盟国間の協力、および資金保障手段の開発の促進。本指令の規定は過去に遡って効力を及ぼさない、すなわち、本指令の施行日前に引き起こした被害は該当しない。
 
欧州委員会は、理事会が合意した共通の立場を承認した。
 
2. 欧州議会の修正事項
2003年5月14日に本会議の投票で、欧州議会は、本案に対する48の修正を採択した。
 
理事会は:
(a) 次のように、そのまま、部分的にもしくは大筋で、26の修正事項を共通の立場の中に取り入れた:
 
修正2:既存の汚染サイトの正確な数の引用は必要でないと考えるが、2番目の修正部分の考え方は、前文の検討理由(recital*1)1に取り入れられている。

*1:http://www1.odn.ne.jp/~aac13570/pcorigin.htm (対応するページが見つかりません。2010年6月) の脚注[1]参照

 
修正3:指令は、一般に、責任の限度を定めていないので、2番目の修正部分はその中に取り上げなかったが、最初の修正部分の大意は、検討理由2に取り上げている。
 
修正7:原子力エネルギー問題に関して、理事会は欧州委員会が表明した立場に同意するが、検討理由10は、この修正の最後の修正部分で、ある程度、考慮されている。
 
修正10は、検討理由13に部分的に取り入れられている。
 
修正14は、検討理由22の中に取り上げられている。
 
修正16と18は、それぞれ検討理由25と30に取り上げられている。
 
委員会の再調査のタイミングに関して、理事会はさらに長く引き延ばしたいが、修正21は検討理由31で部分的に扱われている。
 
定義に関する修正[ 93、94、23、90、95、96、97 ]:この修正の大部分は、第2条の中に含まれている。とくに、「生物多様性」(今は、「保護種と自然の生息地」)、「保全状態」、「価値」(削除)の定義は、欧州議会によって提案された線に沿って修正され、時にはわずかに言い換えた所もある。「被害」の定義は、平易にし、「事業者」の定義は、修正の提案の線に沿って広くしてある。けれども理事会は、この修正の他の部分、とくに「生物多様性」、「事業者」の定義および「放射」の参照を追加することに関して委員会が提示したコメントに同意する。
 
修正[ 85、99 ]は、すなわちこの修正の部分は、この指令と国際協定の適用範囲間の関連に関して、本質的には(指令の再調査に関する)第4条2項と第18条2、3項に取り上げられている。この修正の残りに関しては、理事会は委員会が提示した意見に同意する。
 
修正100は、第5条の中で大部分が取り上げられている。最後の修正部分に関して、事業者が要求に従わない場合に、防止処置を取ることを確実にするために加盟国に対する義務(補助的な国の義務)について、理事会は同意できなかった。理事会によれば、処置の決定については、所管官庁が一件一件、慎重に行うべきである。
 
修正101は、第6条と第7条で大部分、扱われている。補助的な国の責任に関する理事会の立場は、上記に概説した(修正100を参照)。理事会は、修復処置を行うかどうかを個々に決定することは所管官庁次第であると考える。
 
修正32:第6条第1項では、所管官庁が処置をすることを要求しなくても、処置することを事業者に求めており、この中で修正の大意を取り入れている。
 
修正36:被害を引き起こした第三者に対する回収手続きをとる費用は、第8条第2項の新たな言葉遣いで明確に扱われていない。けれども、この可能性は第10条で明らかに予想される。
 
修正[ 86、103、38 ]は、第4条で部分的に取り上げられているが、「許可」された活動または「最高水準の技術」活動の場合、被害は除外事項のリストから削除し、その代りに第8条、防止と修復の費用の項で扱われている。この不慮の事故は、その場合によって、「戦闘行為」(第4条第1項(a))の用語または、第三者に起因する被害に関する第8条第3項のどちらかで扱われると考え、理事会は、第4条の中にテロリズムの記述を追加しなかった。理事会は第8条第4項(b)(最高水準の技術)の横断的規則でこの問題を適切に扱っているので、その「適正な農業と林業の業務」との特定の関連を追加することは必要でないと考えられる。結局、指令の範囲を広げることを避けるために第4条の前置きの文章を修正しなかった。
 
修正91:この修正の基本的考え方は、第8条第4項で部分的で扱われている。「許可」、または、「最高水準の技術」活動の場合には、事業者が過失もしくは不注意でないことを証明している場合、この指令に従って取った修復処置の費用を事業者が負わないことを認めることを加盟国が決定することができる。
 
修正41は、複数の関係者が起因する場合、費用の配分に関する第9条で部分的には取り上げられている。
 
修正44は、第13条の今の言葉遣いでそれとなく扱われている。
 
修正47は、第12条2項の中で取り上げられている。
 
修正107:この修正の最後の部分は、第14条第1項で取り入れられている。けれども、市場に出ている適切な商品について乏しい入手可能性と、実施の際の当然の困難さを考えると、指令の付属IIIに掲げた活動を段階的に適用している義務的資金保障についての議会案に理事会は、合意することができない。
 
修正52は実質上、第15条で扱われている。
 
修正63は部分的に、大体、附則 IIの前文で取り上げられている。
 
修正65は実質上、この文章の第1項(附則 II)の最後の文章で扱われている。
 
修正66は実質上、第2項(附則 II)の最初の文章で取り上げられている。
 
修正72と74は、それぞれ第1.2.3項と1.3.2項(附則 II)の考え方で部分的に扱われている。
 
(b) 共通の立場の22の修正(5、6、8、9、11,12、13、17、19、22、27、33、34、35、43、106、53、54、55、60、108、76)は組み入れなかった。
 
修正5、8、9、11、12、13、19、22、27、33、43、106、54、55、108、76に関しては、理事会は委員会が表明した立場に従った。
 
修正6、17、34、35、53、60に関しては、委員会によって、そのまままたは部分的に受け入れられたが、共通の立場の中には取り入れなかった:
 
修正6:指令案の原文は十分な柔軟性が与えられていることを考えると、この修正の追加は必要ないと思う。
 
修正17:第13条の定める審査の手続きは、事業者の場合にも、十分な適用範囲を出していることを考えると、理事会はこの修正を取り上げなかった。
 
国境を越える被害の場合の加盟国の責任に関する修正34は、取り入れなかった:一般に、共通の立場は、委員会が最初に想定したように、補助的な国の責任について規定していない。
 
第4条第4項に従って、被害と個々の事業者の活動との因果関係を証明することが可能な場合、指令は、被害または被害の差し迫った脅威のみに適用されることを考えると、費用回収の期限に関する修正35は、必要ないと思われる。
 
修正53:この問題に関する国内法があるので、理事会は、委員会が提案した原文に固執することをむしろ選んだ。
 
共同焼却は現行の原文で暗黙のうちに扱われているので、附則 III(2)の共同焼却関連を追加する修正60は、取り上げなかった。
 
3. 理事会が取り入れた主な更改事項:
定義:定義に関する第2条を簡素化する。若干の定義は、委員会案を根本的に変えることなく削除され、その他は、関連する附則(環境被害の修復に関する附則 II)に統合および/または移した。けれども、「環境被害」の定義について、理事会は、保護種と自然の生息地への「重大な」被害となるものについての評価を容易にするために、提案された指令の附則Iの中で今回、若干の基準を補足説明した。
 
除外条項(第4条):共通の立場は、適用可能な法律もしくは事業者に交付された免許または許可で認められた排出もしくは事象に起因する被害、または排出もしくは活動を行ったその当時の科学技術的な知識の最高水準の状況からは有害であると考えられた排出もしくは活動に起因する被害を除外事項扱いにしない。けれども、そのような場合に、事業者が過失もしくは不注意でないことを証明している場合、指令に従って取った修復措置の費用を事業者が負わないことを加盟国が許可することができる(第8条第4項)。
 
国内法に基づいてそれらの責任を制限することを船主に認めるために、海上および内陸の航行責任に関する2つの国際手段を考慮して、除外事項に関する第4条に中に新たな項目を追加した。
 
補助的な国の責任(第5条第4項および第6条第3項):事業者が特定することができない、またはこの義務に従わない、または費用を負うことを要求されない場合、必要な予防もしくは修復の措置をとることを確保するために加盟国の義務を改めた。このような場合に、共通の立場によって、所管官庁は、防止もしくは修復の措置を自ら行うことを決定することができる。さらに、第6条は長期の修復の活動と当面の対応を区別している。偶発的事象の場合には、さらなる被害を制限または防止するために、第6条第1項(a)は、汚染物質の当面の封じ込めと除去を想定している。
 
複数の関係者が原因となる場合の費用配分:
共通の立場の第9条は簡易化され、この問題を加盟国の法的権限の範囲内にすべて委ねている。
 
処置の申請:共通の立場の第12条は、被害の差し迫った脅威の場合にも、可能な限り対象にする。
 
時制の適用:共通の立場の第17条は、これらの規定を明記している。
 
報告と再審査:本指令を適用して得られた経験に基づいて、委員会が(とくに)再審査すべき点を記載している共通の立場の第18条に新たな項を付け加えた。各国の報告に含まれる情報に関して、附則VIの一部を加盟国の選択にした。
 
最終的には、若干の条項の順序を変え、そして本旨を大部分修正することなく、(第4条の場合、附則IVと附則Vを追加することによって)それらの内容を再編成した。附則II(環境被害の修復)と附則III(指令の範囲に関する第3条に記した活動)をさらに効力のあるものにしてある。共通の立場に、これらの新たな要素が生まれたために、検討理由は若干の追加と改訂を行った。
 
IV. 結論
理事会は、III.2.aに記した修正を取り入れているこの共通の立場は、第一読会の欧州議会の意見の大部分を考慮していると考える。適正な時間枠の中で達成することができるように共通目標と規則を決定する間、かなりの範囲が加盟国の法的権限に依存するが、共通の立場は、公衆の懸念があっても、事業者および現在の資金保障市場の均衡の取れた現実的な解決策を代表している。
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