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情報:農業と環境 No.54 2004.10.1
独立行政法人農業環境技術研究所
No.54
・平成16年度革新的農業技術習得研修 「農業生態系の保全に配慮した農業技術」 が開催された
・第2回環境研究機関連絡会成果発表会 −持続可能な社会をめざして− が開催された
・茨城県神栖町の農業用井戸水および米などのジフェニルアルシン酸の分析結果
・農業環境研究:この国の20年(10) 空間情報に基づく農業環境資源の モニタリングと評価
・わが国の環境を心したひとびと(10): 外山八郎
・農業環境技術研究所案内(14): 残された遺産 −96年前からの公害汚染植物−
・論文の紹介: 人間活動と野生生物保護の利害対立の解決策を探るための意志決定モデルの利用
・本の紹介 152: 環境危機をあおってはいけない −地球環境のホントの実態−、 ビョルン・ロンボルグ著、山形浩生訳、 文藝春秋(2003)
・資料の紹介: 「インベントリー」第3号、 (独)農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター刊
・資料の紹介: 有機食品と有機農業のための欧州行動計画 −その1−
 
平成16年度革新的農業技術習得研修
「農業生態系の保全に配慮した農業技術」が開催された

研修の目的

最近、食の安全と安心がマスコミ等で大きく取り上げられ、行政的にも安全と安心への方向付けがなされつつある。一方、農業が農業生態系に及ぼす影響についても懸念されている。そこで、遺伝子組換え作物の生態影響評価および生物多様性の保全に関わる状況と最新の研究成果を中心に紹介し、これらの認識を深めてもらうための研修を企画する。また、最近の生態系保全型技術研究の進展状況を紹介し、最後にこれらの問題についての総合討議を行う。

内容の概略

1) 遺伝子組換え生物を巡る最近の状況と生態影響評価研究(最近の情勢、Bt遺伝子組換えトウモロコシの環境影響評価事例)

2) 生物多様性保全を巡る状況と研究紹介(水田の生物多様性、侵入・導入生物、環境指標生物としての線虫、地理情報と生物多様性)

3) 生態系保全型技術の研究紹介(フェロモン、アレロパシー、病原性低下因子)

4) 農環研における生物関係インベントリーの紹介(昆虫、微生物関係)

5) 研究サイト見学(隔離圃場、昆虫標本館)

6) 討議

開催期日: 平成16年9月13〜14日

実施担当機関: 農業環境技術研究所

研修日程

9月13日(月)

13:10〜13:30  開講式

13:30〜14:10  組換え作物の環境安全性評価: 生物環境安全部 岡 三徳

組換え作物を巡る世界の状況、環境安全性評価に対する国内の体制、さらに評価の考え方およびその評価手法の開発や最近の結果や情報が紹介された。

14:10〜14:50  組換え作物の花粉飛散と交雑: 組換え体チーム 松尾和人

組換え作物の環境影響評価の中で話題となっている花粉飛散と交雑に関する国内の取り組みとその結果が報告された。

15:00〜15:40  アレロパシー研究の最前線: 植生研究グループ 藤井義晴

様々な植物のアレロパシーとその原因物質、アレロパシーを介した植物間相互作用が紹介され、それらの産業利用の可能性について解説された。

15:40〜17:00  組換え作物栽培試験ほ場(見学): 組換え体チーム、インベントリーセンター

組換え作物の影響評価試験を実施している農環研所内ほ場および土壌モノリス館、昆虫標本館の見学が行われた。

9月14日(火)

  9:00〜  9:40  導入植物の環境影響と対策: 植生研究グループ 小川恭男

「外来種規制法」の施行に伴う外来植物の管理ならびに新たに導入しようとする外来植物に関する事前の安全性評価等が紹介された。

  9:40〜10:20  水田の生物多様性: 昆虫研究グループ 田中幸一

生物多様性を保全する意義やその評価について解説し,水田の昆虫を中心とした事例研究が紹介された。

10:30〜11:10  生物多様性保全のための地理情報の活用: 植生研究グループ 井手 任

利根川流域における農地利用の変動がもたらす周辺植物相への影響を監視する戦略的調査情報システムとそれを用いた解析事例が紹介された。

11:10〜11:50  病原力低下因子利用による果樹類紋羽病の遺伝子治療: 微生物・小動物研究グループ 松本直幸

果樹類の重要な土壌伝染性病害である紋羽病に対して,病原菌の病原力を低下させる菌類ウイルスを用いた生物防除の可能性についての研究成果が紹介された。

13:00〜13:40  作物の誘導抵抗性を利用した病害防除: 有機化学物質研究グループ 石井英夫

環境低負荷型の作物保護技術の開発が望まれているが,非殺菌性の化合物を利用した病害抵抗性誘導について,その可能性や今後の課題が紹介された。

13:40〜14:20  フェロモン研究の最先端: 昆虫研究グループ 杉江 元

農業生産に今後、役立ちそうないくつかのフェロモンの研究が紹介され、性フェロモンや集合フェロモンの検定、分析、合成、製剤化が解説された。

15:20〜15:00  意見交換     研修受講者、研修講師、関連研究者

この研修会の全テキスト(PDFファイル)が、農環研Webサイト技術情報・研修テキスト革新的農業技術習得研修「農業生態系の保全に配慮した農業技術」 に掲載されています。

 
第2回環境研究機関連絡会成果発表会
−持続可能な社会をめざして− が開催された

今日、いたるところに見られる、さまざまな環境問題を解決するためには、それぞれの専門領域に止まることなく、これらを包括した総合的な視点から、それぞれの専門分野の研究が推進されなければならない。

また環境研究に関する多様な要求に応え、これを効果的かつ効率的に推進するためには、新たな情報交換の場を設け、より一層深い連携と綿密な協力が不可欠であろう。そのため、平成13年に環境研究に関わる国立および独立行政法人の研究機関で構成される「環境研究機関連絡会」が平成13年に設立された。

昨年度は当所が連絡会の事務局を担当し、第1回の成果発表会を開催した(情報:農業と環境No.39を参照)。今年度は、国立環境研究所が事務局となって第2回の成果発表会が以下のように開催された。

日時: 平成16年9月22日(水) 10時〜17時30分

場所: つくば国際会議場(エポカルつくば)

第2回環境研究機関連絡会成果発表会

−持続可能な社会をめざして−

開会あいさつ

第 I 部 『地球温暖化問題への取組み』: 司会 植弘 崇嗣(独・国立環境研究所)

海洋観測による温暖化物質の動態解明: 鶴島修夫(独・産業技術総合研究所)

東京湾口の常時連続観測と環境予測モデルに関する研究: 鈴木高二朗(独・港湾空港技術研究所)

海面上昇による沿岸災害の増加 −将来予測と評価−: 岩崎伸一(独・防災科学技術研究所)

地球温暖化に伴う食料生産予測: 野内 勇(独・農業環境技術研究所)

21世紀のアジアの水資源変動予測: 鬼頭昭雄(国土交通省気象庁気象研究所)

都市域のヒートアイランド現象とその対策: 足永靖信(独・建築研究所)

第 II 部 『循環型社会構築への取組み』: 司会 齋藤雅典(独・農業環境技術研究所)

マテリアルフロー分析から見た循環型社会: 森口祐一(独・国立環境研究所)

家畜排せつ物を利用した高栄養水産餌料の生産: 岡内正典(独・水産総合研究センター)

建築部材によみがえる建築廃材: 渋沢龍也(独・森林総合研究所)

エコセメントの開発について: 西崎 到(独・土木研究所)

公共事業におけるグリーン購入への取り組み: 曽根真理(国土交通省国土技術政策総合研究所)

閉会あいさつ

 
茨城県神栖町の農業用井戸水および米などのジフェニルアルシン酸の分析結果

茨城県は、平成16年9月16日に神栖町における農業用井戸水および産米のジフェニルアルシン酸(DPAA)の調査結果を記者発表した。DPAAは自然界に存在しない有機砒(ひ)素化合物で、旧日本軍の化学兵器(くしゃみ剤)に由来すると考えられている。平成15年春、飲用井戸水からDPAAが検出されたことから、環境省の緊急措置事業として、ボーリングによる汚染源の調査や動物への毒性試験などが行われてきた。

記者発表では、今年度の調査結果が、DPAAの健康影響に関する情報とともに公表された。概略を紹介するが、詳細は以下を参照されたい。http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=5274

1.農業用井戸水の分析結果

分析を実施した本数: 45本

不検出井戸本数 : 40本

検出井戸数    :  5本 (野菜ハウス1本、水田4本)

検出されたDPAA濃度: 0.003〜0.270 mg As /L

2.米などの分析結果

(1) 野菜(トマト・アスパラガス): 不検出

(2) 米(4カ所)          :  検出 (0.043〜0.110 mg As /kg)

このうち、1カ所は15年産米でも分析(0.020 mg As /kg)

3.DPAAが検出された米について

●環境省での各種毒性試験で、現時点では、毒性に関する知見が限定されている。ネズミ(ラット)を用いた28日間反復経口投与試験では、0.3 mg/kg 体重/日の値で、何ら有害な影響は認められなかったことから、今回の米を摂取しても健康への影響は少ないと考えられている。

●DPAAが0.020 mg As /kg 検出された15年産米を生産し、当該米のみを自家消費していた世帯の家族5名についての生体試料(爪や毛髪)検査を実施した結果、全員からDPAAは検出されず、自覚症状などもなかった。

●15年産のDPAA検出米は一般流通量が限定されており、そのため、一般消費者に健康上の悪影響が生じる懸念は極めて少ないと考えられる。

4.その他

●DPAAが検出された4カ所の16年産米については出荷を自粛。DPAA検出米を常時食べていた人は念のため食べないようにしてほしい。

●DPAAの毒性、その曝露による健康への影響の評価等については、環境省に要望しつつ検討を進める。

 
農業環境研究:この国の20年(10)空間情報に基づく農業環境資源のモニタリングと評価

前回の「情報:農業と環境No.53」では、「農業環境インベントリー」をとりまとめた。今回は、「空間情報に基づく農業環境資源のモニタリングと評価」を紹介する。

1.はじめに

リモートセンシングや地理情報システム(GIS)の活用は、農業環境研究の歴史とほぼ重なっており、農業環境研究の柱である研究対象領域の点・面から空間への拡大、研究専門領域の統合に大きな役割を果たしてきた。とくに、それらは農業環境を構成する土壌、植生(作物および草地を含む)、水、気象などの資源とそれらに基づく土地利用のモニタリングおよび評価のための有効な手段となっている。

これまでの研究成果は、1)ほ場から地域までを対象とした人工衛星観測データによる農業環境資源のモニタリングおよび評価、2)農業環境資源に関する空間情報を用いたモニタリングおよび評価、3)一枚の葉からほ場までを対象とし、地上、飛行船ないしは航空機から観測するためのセンサーおよびシステム開発に大別される。

人工衛星データによるモニタリングはブラジルセラード地区の土地被覆区分図の作成に始まり、水稲をはじめとした農耕地の作付け、草地利用区分図の作成およびそれらの面積推定などへと活用された。時代の変遷とともに、使用可能なデータの解像度や観測頻度が高まるにつれて、分類および面積推定の精度も深まっていった。また、時間的な変化もとらえられるようになったため、土地被覆/土地利用変化ばかりではなく、水稲の作付け時期、草地の更新年次などを地図化したり、洪水被害、サンゴ礁へ農耕地から流出した赤土汚染、砂漠化の進行をはじめ積雪深や融雪状況のモニタリングまでが可能となった。

一方、地上での地点観測データと衛星データとの関係を明らかにして、土壌の腐植量や水分含量の評価・図化を可能にし、これらの結果を作物の生産力推定にも利用していった。このほか、ほ場における病害発生モニタリングあるいは発生予察にも成果をあげてきた。人工衛星以外では、航空写真、熱赤外線映像、地上写真を活用して、温度の推定、病虫害の把握、土壌断面特性の評価に成果をあげてきた。

地形、土壌、植生、気象および土地利用などのデータを重ね合わせて解析する地理情報システムも農業環境資源のモニタリングおよび評価に大きな役割を果たしてきた。その例としては、農耕地適否を評価する立地評価あるいは作物の生育適否に関わる生産力評価があげられる。また、気象データを基にして、水稲冷害のモニタリング手法を開発したり、水稲冷害被害の局地的な違いが土壌の特性に起因していることも明らかにした。さらに、既存のデータに降雨量や流量等の観測データを加えて、流出モデルを作成するなど、それまでの重み付けによる区分単位評価だけでなく動的な評価も行われるようになった。

植物体やほ場を対象としたセンサーおよび観測システムの開発についても、農業環境研究のスタート時から取り組まれている。当初は、おもに地上からの観測であったが、しだいに係留気球、飛行船および航空機を利用した観測が行われるようになり、観測範囲を拡大していった。そして、作物あるいは群落の構造を推定するためのセンサーおよび現存量、栄養、ストレス状態などの作物生体情報の把握できるセンサーが開発されるとともに、観測値から各生体情報を自動計算するシステムが開発された。それらによって、水稲生育量のモニタリング手法、収量のシミュレーション手法、水稲予測収量マップの作成手法などを開発してきた。

以下、それぞれの項目ごとに、これまでの研究成果を通して、研究の進展を振り返る。

なお、農業環境技術研究所からは、リモートセンシングに関する成果が研究所資料と2冊の図説シリーズとして公表されている。資料は、「農業環境とリモートセンシング−ランドサットTMデータによる農業環境資源の解析」(秋山ら、1989)で、衛星リモートセンシングデータの解析技術の高度化と、農業分野における利用場面の発掘・拡大を図ることを目的に作成された。資料は本冊と別冊の写真集からなり、その後のリモートセンシング研究の指針としての役割を果たした。図説シリーズの一つは、「宇宙から見た日本の農業」(福原・今川編、1993)で、日本の61の地域をランドサットTMの合成画像で紹介し、それぞれの地域の農業の特徴を解説したもので、農業環境技術研究所のWebサイト(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/db_image.html#jspace (最新のURLに修正しました。2010年6月))からも閲覧できる。もう一つは、「農業リモートセンシング」(秋山ら編、1996)で、リモートセンシングの原理、特徴とそれまでの農林業に係わる研究の成果が詳しく紹介されている。

2.衛星リモートセンシング

(1)土地利用/土地被覆分類手法

衛星リモートセンシングを活用した最初の成果として、ブラジルセラード地域の植生図がランドサットMSSデータを利用して作成された。当時、最新のミニコンピュータ(FACOM M-310)を使用して(渡辺ら、1988)、クラスタ解析による教師なし分類を行った。分類結果を既存の植生図などと比較して、その妥当性を得た。振り返ってみると、まさに、農業環境研究におけるリモートセンシング技術の活用の始まりであり、成果の記述にもその点が色濃く出ている(福原、1985)。衛星リモートセンシングの最大の利点は、広域の地表面を同時に観測できることである。そして、土地利用単位に区分することは、リモートセンシングの基本であり、その結果は、広くさまざまな場面に応用できる可能性をもっている。この成果をきっかけに、おもに、解像度30mのランドサットTMデータを使った地域レベルの土地利用/土地被覆分類手法が発展していった。

一方、解像度が1kmではあるが、観測周期が半日と高頻度である気象衛星ノアの赤色光と近赤外線光の反射強度から得られる植生指数と熱赤外光の反射特性から得られる昼夜の温度差を活用して、より広域の土地利用/土地被覆分類が試みられた。植生指数と昼夜間温度差の2つの変数を使い、メンバーシップ関数を用いて、それぞれの画素の距離によって属性を決め、水田、畑地、森林、水面、その他の5つに区分することを試みた。得られた分類結果を行政区別の統計データと比較したところよい相関が得られ、ノアのような地上分解能が低いデータからも有効な土地被覆分類の面積推定ができることがわかった(古谷、1991)。また、ノアデータから得られる毎日の植生指数を用いて地球規模の植生状況を把握するためのグローバル植生指数(GVI)が提供されているが、解像度が数10kmに相当するため、土地利用形態が複雑な日本では適用できない。そこで、日本にも適用可能な解像度である1kmメッシュで提供できる日本植生指数(JVI)データセットを作成した。このデータセット作成は、1991年4月から1992年3月までの1年間について、各画素の毎月の最大NDVIを使用することによって雲の影響を除去し、月単位のデータセット(JVI)とした。そして、斜軸正角割円錐図法による300万分の1地形図に合致するよう幾何変換を加えた。その結果、各地域のNDVIの変化を見ることによって、水田単作、二毛作などの各地域の農業活動の違いを広域的にとらえることができた(斎藤ら、1994)。

雨季と乾季がある東北タイでは、同じ土地で季節ごとに複雑な土地利用がなされていることから、両季節のランドサットTMデータを利用して、農業を主体とした土地利用を判別する手法を開発した。この手法は、観測時の太陽高度を補正して異なる時期のデータを同じ基準で解析できるようにしたもので、地表水の有無と土壌の影響を除去した植生指数(KVI)を用いて裸地、畑地、森林などに区分する手法である(斎藤・山田1992)。

土地利用の変化をとらえる際には、通常同じ方法で分類した結果を重ね合わせて比較するが、長期間の変化をとらえようとするときには、観測する衛星の寿命やセンサー技術の発達により、同じセンサーのデータを利用することは難しい場合が多い。そうした背景を踏まえて、観測精度の異なる衛星を用いて、それぞれ独自に教師なし分類で得た結果を、マトリクス演算によって再度分類・統合して重ね合わせ、土地利用変化を解析する手法が開発された(小川ら、2001)。

空間解像度30mのランドサットTMデータやさらに空間解像度の高い衛星データは、かなり詳細に地表面の特徴をとらえることができる。しかし、観測範囲が約100 kmと限られ、観測周期も約2週間であるため、広域の土地利用あるいは作物の成長にあわせたリモートセンシングは困難であった。そこで、空間分解能は必ずしも高くない(約1km)が時間分解能が高い(2回/日)NOAA/AVHRRデータを用いて、タイのチャオプラヤデルタ(200km×200kmの範囲)を対象に、水稲の作付け状況と作付け時期を精度よくモニタリングする方法を開発した。これによって、デルタ内で11月から4月まで行われる作付け時期の違いを3時期に区分でき、作付け面積も県単位で精度よく推定できた(富田ら、2001)。

1990年代前半まで広く用いられてきたランドサット、スポット、ノアなどの衛星センサーは、いずれも光学センサーであり、雲でさえぎられるため、モンスーン地帯では雨季を中心に観測が著しく制限されてきた。したがって、土地被覆分類や水田面積推定をはじめ、さまざまな解析手法は確立されていても、最適な時期のデータを入手できないことが多く、実用化のための障害となっていた。そこで、1995年に打ち上げられたRADARSAT衛星に搭載された天候に左右されず夜間でも観測可能な合成開口レーダ(SAR)のデータを用いることにより、毎年の水稲作付け面積を高精度で早期に推定する手法の開発に取り組んだ。その結果、SARデータの水面の輝度値が他の場所と比較して低いことを利用して、水稲作付け地域を精度良く抽出することができた(小川ら、1999、小川、2000)。

水田は湛水期間をもつから、その時期のデータを含めて分類することが比較的容易であるが、草地や畑地を類型化することは決して容易ではない。そのような中で、土地利用が比較的均一である根釧地域の草地を対象として、牧草の更新時期を見積もるために、草地の更新からの経過年数を区分する手法が開発された。これは、草地の近赤外域および中間赤外域の輝度値が更新された翌年にもっとも高くなる特徴を利用して、各区画の更新年次を決定し、1985年から1994年までの草地更新年次マップを作成したものである。マップの精度を現地で確認したところ、播種が耕起に対して1年遅れることがあるのを考慮して、−1年のズレを許すと80%の一致率が得られた。このマップは、草地の更新時期の決定に有効な情報を提供できる。

また、この研究では、解析結果を示す際に、衛星画像と道路図を重ねて表現しており、衛星データと地理情報の重ね合わせがこのころから始まったといえる(美濃・斎藤、1995、美濃、1996)。この研究を基礎に、同じ根釧地域を対象として、1980年代と90年代の複数の光学センサー画像データを利用して、草地の利用形態と収穫時期の把握が試みられた。収穫の前後で近赤外域と中間赤外域の輝度値が逆転するという特徴から、収穫の有無を判別し、放牧地と採草地を区別した。そして、採草地について、一番草の収穫適期である6月下旬の画像をもとに、一番草が収穫されたかどうかを判定した。その結果、採草地の割合は1982年から1986年では60.1%であったが、1990年から1994年では77.0%に増加したこと、また、収穫適期での一番草の採草率は18.3%から44.1%へと増加していたことを明らかにした。この結果は、地上での調査と一致していたことから、草地の利用形態や収穫時期の推定に利用できることが明らかになった(美濃ら、1998)。また、牧草生育の時系列的情報を精度よくモニタリングするため、毎日のデータを取得できるノアAVHRRデータの植生指数と、天候にかかわらず観測できる分解能約20mの合成開口レーダから得られる土地被覆情報とを併用する手法を開発した。解像度1kmのノアAVHRRデータの各ピクセルには草地だけでなく森林や裸地が含まれているため、合成開口レーダのデータから各ピクセルに含まれる森林と裸地の面積割合を推定し、草地、森林、裸地が90%以上を占めるピクセルの植生指数を調べた。この面積割合と植生指数を使って、ノアAVHRRデータの各ピクセルごとの草地だけの植生指数を推定した。この推定された植生指数と同時に観測された光学センサーによって得られた植生指数とは高い相関を示し、1kmメッシュ単位ではあるが、定常的な牧草の生育モニタリングが可能であることが示された(美濃ら、2001)。

(2)農業災害や環境問題のモニタリング

衛星によるリモートセンシング情報は、農業災害のモニタリングにも活用された。1986年8月初旬の台風によって、関東各地の河川が氾濫し、農作物が冠水した。この洪水の発生直後と1ヶ月後のランドサットTM画像のバンド2,3,4,5の輝度値を使って、坪刈収量を予測する式を作成した結果、洪水直後はバンド2と3、1ヶ月後はバンド4の輝度値を用いれば、洪水後の時間に関係なく、精度よく収量を予測できることを明らかにした。これは、バンド3の輝度値と相関の高い洪水時の濁流の色の度合いが被害の程度を左右する水稲に付着する泥土の程度を表していることからも裏付けられた。そして、洪水直後のバンド3を使って、水稲の洪水被害程度を推定した被害マップが作成された(山形ら、1988)。

リモートセンシングの環境問題への活用は、中国内モンゴル自治区を対象とした砂漠化研究に見られる。内モンゴル自治区錫林河流域(823km2)を対象として、植被量が多いほどランドサットTMデータのバンド4とバンド3の比も大きくなることを指標として、「砂漠化していない」から「砂漠化している」までの5段階に区分した。そして、集落あるいは井戸・泉の周辺や道路沿いに、退行草原が広がっていることを明らかにした(福原、1989、根本ら、1989)。

その後、この植被量を示すランドサットTMデータのバンド4とバンド3の比を使った植生指数をもとに植被のない部分を抽出し、そこからバンド5とバンド1の比を使った構造物指数をもとに人工構造物を削除し、さらにその地域の土壌の色を指標としてバンド3とバンド1の比を使った赤色度指数によって砂漠化した土地だけを抽出する方法が、中国各地の砂漠化進行地域を対象に開発された。これら3つの指標を使うことによって、タイプの異なる砂漠化域でも砂漠化域を抽出することができることを示した。また、同様の方法を同じ地域の異なった時期のランドサットデータに適用することによって、その地域の砂漠化域の年次間変化をとらえた(今川、1994a、今川、1994b)。

このほか、ランドサットTMデータを活用してサンゴ礁へ流出した赤土の分布をとらえる手法が開発された。ランドサットTMデータのバンド1とバンド3の比と赤土砂に含まれる全鉄量との間に反比例の関係が見いだされ、この関係を用いてサンゴ礁内の赤土砂の堆積分布を推定した。1960年代以降に沖縄本島では、パイナップル畑の造成に伴う土地利用変化とともに、赤土砂のサンゴ礁内への流入が問題化した。ランドサットデータを活用した解析が、沖縄県中部の宜野座村カタバル沖の1984から1989年のデータを用いて行われた。この解析では、河川の出口に顕著な堆積域があること、陸地の縁辺や礁嶺の内側に赤土砂が堆積していることが認められたが、年次間の変化はほとんど認められなかった。これは、この時期にはすでに造成が終わっていたことによると考えられる。しかし、ここで得られた手法は、浅海域での汚染実態をモニタリングする手法として利用できるほか、空中写真の利用も可能で、必要に応じて、より長期間のモニタリングにも応用できる(岡本、1992a、岡本、1992b)。

(3)農業資源評価

リモートセンシング技術の農業分野への導入については、十勝平野などを対象に行われた土壌資源評価に関する研究を忘れてはならない。まず、ランドサットTMデータのバンド3と地力保全成績書の腐植含量(作土層25cmに加重平均)との間に有意な回帰式が見いだされた。そして、この回帰式から推定し腐植含量と実際に測定された値との間に有意な関係が得られたことから、ほ場一筆内における生産力分布の不均一性を把握でき、土づくり、施肥設計や作付計画などに活用できることを明らかにした(畠中、1988)。

その後、水田と畑が混在する地域での表土の腐植含量の評価に関する研究が行われ、土壌の分光放射特性は、可視波長域では水深の影響を受けないことを明らかにした。水田についてはランドサットTMデータのバンド1とバンド3から湛水時の腐植含量を推定する重回帰式を求め、畑地の腐植含量については、裸地状態でバンド2,4,5を組み合わせた推定式を求めた。そして、水田と畑地が混在する地域を対象とする腐植区分図を作成して、不自然な継ぎ目は生じないことを確かめた(福原、1989)。この成果をもとにして、後に十勝平野全域を対象とした腐植含量図が作成された。

畑表土の土壌特性については土壌水分率、水分張力、日当たり水分張力上昇速度、全有効土壌水分容量の評価が十勝平野を対象として行われた。その結果、土壌水分率はランドサットTMデータのバンド2により、土壌水分張力(PF)はバンド1とバンド4により精度よく推定できることを示した。これらの結果は、従来の点の観測結果を面に広げるばかりでなく、季節的な変動をとらえることにも貢献した(福原、1991)。これらの成果に加え、ランドサットTMデータを用いて、土層別の有効水分容量、土壌の乾燥程度を予測できるPF上昇速度、礫深度および熱水抽出窒素含量の推定式を得た。さらに、十勝平野の主要な畑作物であるテンサイについて根収量および糖分を推定する式を求めた。そして、これらの推定式から得られた値を、ランドサットTMデータの解像度である30mメッシュでデータベース化し、十勝地域の任意地点の特性値を任意の水準、縮尺で表示できる「十勝地域農業情報システムAGRIST」を作成した(西宗、1994)。

衛星リモートセンシングでは、土地被覆/土地利用だけではなく、植生、土壌、水などの総体としての光の反射をとらえている。そこで、ランドサットTMデータを使って、つくば近郊の畑地(対象地域は30km平方)を抽出し、炭素循環モデルを組み込むことにより、土壌炭素量の経年変化を予測することで、畑地の炭素収支を広域的に推定する手法を開発した。炭素循環モデルに必要な植物地上部の炭素量を夏季のデータから、土壌中の炭素量を植生のない冬季のデータから推定し、モデルに入れることによって、1年後の土壌炭素量を推定した(池田、2001)。

地球規模の温暖化の影響と水資源の変動特性を知るために、ユーラシア寒冷域の積雪深と融雪状況を推定する手法を開発した。米国の気象衛星に搭載されているマイクロ波放射計SSM/I(地上分解能25km)を使用し、積雪深観測地点での実測値とSSM/Iの19GHzと37GHzの値の差との間に相関があることを見いだし、北緯35度以上のユーラシア大陸における積雪深分布図を作成した。また、朝夕の19GHzと37GHzの輝度温度差から、融雪域の分布と積雪深を推定した(大野、2001)。

(4)作物の生育診断

畑作物の生育診断は、干ばつによるテンサイの被害実態を把握するための航空写真の利用から始まった。航空写真をドラムスキャナでデジタル化し、赤、緑、青の波長とテンサイの減収率との相関をとったところ、緑との相関がもっとも高く、そこから根重の減収率の推定式を導き出した(畠中・塩崎、1988)。衛星リモートセンシングを活用して、1980年代後半の作付面積数千ha、ほ場規模約0.7haの群馬県嬬恋村のキャベツ畑を対象として、根こぶ病の発生ほ場の検出手法が開発された。根こぶ病の発生の有無を、植生指数を用いて植生量の違いから判別した。診断の時期は8月の上旬から中旬が最適で、判別率は健全ほ場で89%、発生ほ場で84%であった。また、発生ほ場では、植被量が少ない時には、白化症状を反映して可視の3バンドと中間赤外の2バンド、植被量の大きいときにはしおれ症状を反映して中間赤外2バンドの反射がそれぞれ大きくなるという特徴をとらえた(鳥越ら、1991)。また、コスモス衛星写真(解像度約6m)を用いて、根こぶ病が発生しやすい多腐植質で湿潤な土層をもつという土壌要因を摘出し、斜面下部や底部に多い危険箇所の予察に有用であることを示した(鳥越ら、1991、鳥越ら、1992)。

また、作物の葉色の解析を通して、十勝平野では主要農産物であるテンサイの糖分含量の推定が行われたほか、石狩平野では米の食味の評価が行われている。

3.地理情報システム

地理情報システムを適用した最初の成果として、普通畑の適性度分級システムの開発があげられる。このシステムは、4段階での評価を順次統合して総合評価を行う。最初の一次評価では、地力保全調査に基づく土壌、地形、気象等の自然立地要因をメッシュ化する。二次評価では、メッシュ化された各要因のデータをもとに、耕うん、地力発現ならびに侵食防止の難易性と根圏、同化生産の制限性を評価する。三次評価では二次評価の前3項目を用いて耕作性を後2項目を用いて生育性を評価する。四次評価でそれらを総合して、適性度を評価し、対象とした茨城県八郷町の評価をメッシュ図で示した(鳥越、1988)。また、同時に同地域を対象として、地形、土壌に関する各種の要因をメッシュ化し、地理的変異の大きい要因について農業上の意味づけを行い階級区分を行った。そして、それらの要因について主成分分析を行って、自然立地の特徴を抽出し、クラスター分析を行って、立地条件を類別する手法を開発した。さらに広域の地域を対象とした場合には、小気候区や自然植生などの要因を検討することが可能である。(鳥越、1988)。

その後、フィリピンを対象として畑作可能地の立地類型を明らかにし、類型ごとの畑地利用と作物生産に対する制約を、地形、土壌条件を指標にして分級して、土地利用計画、土壌管理指針を示した。土壌、地形、土壌の母材、気候型を要因として類型化を行い、各類型の普通畑、樹園地、草地への利用適性を、傾斜、侵食の可能性、水分条件(過湿、過乾)、土壌条件(物理性、肥沃度、養分)によって、それぞれ4段階に分級し、それらのもっとも悪い等級で総合評価を行った。評価の結果と現況の土地利用は自然立地条件によく調和しており、新たな普通畑地の開発の余地はあまりないこと、また、樹園地や草地の普通畑への転換は激しい侵食を起こす可能性のあることが示された。そして、灌漑施設の整備や土壌管理の改善によって現在の畑地を高度に利用することの重要性を提示した(浜崎、1993)。

適正な土地利用のあり方を提示する手法として、北海道の泥炭農用地の不均一な地盤沈下に対応するため、地盤沈下予測評価図が作成された。対象地域となった石狩泥炭地を25mメッシュで覆い、地盤沈下を起こしやすい条件に着目して、土壌の種類、開発時期、土地利用の履歴、客土の厚さに評点を与えた。そして、それぞれの点を加算して、各メッシュで今後大きな地盤沈下が起きる可能性を大、中、小の3段階で評価し、図化した。その結果、高位・中間泥炭土のほか、低位泥炭土の中にモザイク状に分布する転換畑で、今後も大きな地盤沈下が進行することが予測された(宮地ら、1993)。

地理情報システムは、各種情報を重ね合わせ、設定したメッシュ単位で目的の評価を得るために使われることが多かったが、流域を対象とする水の流出モデルに利用する研究も行われた。この研究では、小流域における水保全機能を評価するため、25mメッシュを単位として、保水容量と孔隙特性に基づいた土壌類型、および降雨遮断と蒸発散特性とに基づいた土地利用類型を設定し、これらと標高、傾斜方向、流出次数等の地形情報を加えたメッシュ地理情報を組み合わせ、実際に観測された降水量をもとに流出モデルを開発した。日降水量から水移動を推定でき、流出量ばかりでなく、土壌中に貯留されている水量の推定や土地利用が変化した場合の貯水量と流出量の変化の予測にも利用できるため、このモデルは、流域内の土地利用計画の立案にも活用できる(松森・浜崎、1995)。

4.農業環境資源計測システムの開発

リモートセンシングは衛星データを利用するものだけではなく、各種センサーを用いて作物に触れることなく電磁波的計測を行い、非破壊的に作物情報を把握することも試みられてきた。

(1)作物の構造・生育診断のための計測

最初に取り上げられたものは、作物の群落構造を推定するために超音波パルスを利用する「超音波作物レーダ」である。20kHzから60kHzまでの任意の周波数の超音波パルスを、パルス幅や強度を変えて発射し、その反射波の波型を記録・解析する装置を用いて、作物群落の上空数10cmないし1mから鉛直下向きに超音波を発射し、水平に移動させながら高さ別の密度を測定した。デントコーンとダイズで測定をおこない、刈り取り法による結果との類似性が示された(芝山・秋山、1986)。続いて、光センサーが利用され、0.4〜1.9μm(1μm = 1000分の1mm)の波長域と10nm(1nm = 100万分の1mm)の波長分解能をもつ「高速走査型可視・中赤外分光測定装置」を開発し、イネや土の反射スペクトルを測定して、窒素(葉緑素)、葉面積、現存量(収量)および水分の情報抽出に有効と考えられる波長帯を選定した。そして、選定された有効波長帯(可視3、近赤外3、中赤外2)だけを測定する「作物生育リモート診断計」を試作し、実際のほ場での出穂期の反射特性から作成した水稲予測収量マップを作成した(芝山・秋山、1989)。その後、水稲生育量のモニタリング手法に関する研究が行われ、水稲群落の成長初期から成熟期までの全成長過程の反射スペクトルを毎週2回の頻度で小型の7バンド(可視〜中間赤外)分光センサを用いて測定した。測定された反射スペクトルから、地上部バイオマス、葉面積指数、葉身窒素量、葉身窒素含有率および水分含有率を推定する重回帰式が求められた。(井上・富田、1996)。

また、ダイズの生育状況を知るために、葉身の窒素含有量を推定する方法が考案された。ダイズの葉面を透過した光は、青の光をほとんど含まないため、緑と青の光の差から透過光が卓越している部分を推定できる。この部分についての、緑と赤の反射の比と葉身窒素含有量との間の相関は葉面の反射光を含めた相関より高いことがわかった。このことから、透過光を利用することにより、葉身窒素含有量を精度よく推定することができた(奥野・山縣、1999)。

このほか、作物の生理状態を計測する手法として、赤外線放射測温を用いて蒸散速度の変動を検出・評価する方法も提案された(井上・石井、1990)。

(2)作物の構造・生育診断のための上空からの計測システム

以上のように、地表面近くからの計測で、作物群落の構造や植物体に含まれる窒素量や水分を推定できたが、この結果を応用して、より広範囲での観測を可能とするシステムが開発、提案された。まず、無線操作で上空から画像を撮影する係留ヘリウム気球空撮システムが開発された。これは、気象観測用カイトバルーンに、視野位置確認用のテレビカメラと無線でシャッターを操作する35ミリカメラを取り付けたものである。数百mの高さから試験ほ場程度の範囲を撮影できる。2週間間隔でイネの生育量を撮影し、葉面積指数を推定した結果、実測値をかなり正確に追跡することができた(芝山ら、1987)。その後、同様のシステムを用いて可視および赤外写真を同時に撮影し、地上分解能約2.5×2.5cmで500×1,000画素の画像から、ダイズ個体群のバイオマスおよびクロロフィル濃度を推定する回帰式を得て、面的分布をとらえることができた。これらの結果、ほ場における作物の葉面積や地上部重など現存量の追跡、病虫害の発生や雑草の侵入の状況、肥料ムラの検出などに利用できる(井上・森永、1995)。

次に、上空を航行しながら地上を観測する飛行船型システムが開発された。これは、6気筒エンジンを搭載し、無線制御により半径1km程度の範囲を移動できる。飛行高度は30mから500mで、直下モニタ用ビデオカメラで撮影位置と高度を常時確認できる。青、緑、赤、近赤外の4バンドのCCDビデオカメラを搭載し、1画面10a〜15 ha程度の領域を数cmから数10cmの高解像度でカバーでき、飛行しながら1/30秒ごとのスペクトル画像を連続的に記録できる。これによって、ほ場のバイオマスや葉面積指数を高解像度でとらえることができるようになった(井上ら、1998、井上、1999)。さらに、ヘリコプターなどに搭載して、中低高度から観測できる分光デジタル画像計測システムを開発した。このシステムは、従来のスチール写真やビデオ装置では観測できなかった可視〜近赤外域の5つの波長帯と短波長赤外域および熱赤外域の波長別画像を取得できる。また、大容量のメモリを内蔵し、従来は困難であった高解像度の波長別デジタル画像の連続記録を可能にした。地上空間分解能は飛行高度と画角に応じて数cm〜数mの範囲で設定でき、有人ヘリに搭載して取得した画像と地上での同時計測データの比較から、反射率や表面温度を精度よく求められることを実証した。さらに取得したデータを用いて、水田や畑地のバイオマス、葉面積指数、土壌炭素含有率等の空間分布を高精細度で推定できる(井上ら、2002)。

(3)その他の計測システム

現在の衛星データでは、畑、草地、森林に区分することはできても、さらにその種類まで分類することは困難である。そのような中で、草型の異なる牧草の混生率を推定する方法として、偏光度計測が提案された。従来、群落全体を計測の対象としてきたが、群落内の構造をとらえるために、構造や形態に鋭敏に反応する反射光の「偏光度」を測定した。その結果、赤色光バンドの偏光度が、イネ科とマメ科の草本が混生する群落の中でマメ科の割合が大きいほど高いことを確認した。そして、混生率の違いによる赤色光バンドの偏光度の変化を推定するモデルを作成し、測定された偏光度から、マメ科草本の割合を推定した(芝山ら、2000)。

また、植物生体の水分、色素濃度、窒素濃度などの情報を把握する目的で、波長分解能数nm程度の高い波長分解能をもつ野外計測用ハイパースペクトル画像計測システムが開発された(井上、2002)。このシステムを用いて、作物収穫残渣による土壌被覆率の推定に有効な反射スペクトルを検索し、短波長赤外域の2,000nm〜2,200nmに特有の反射スペクトルパターンを見いだした。そして、高い反射を示す2,000nmと2,200nmの平均値と低い反射を示す2,100nmとの差で反射指数(CRI)を定義し、その値が土壌や植物の種類によらず、作物収穫残渣による土壌被覆率と強い正の相関があることを明らかにした(井上ら、2002)。作物収穫残渣が土壌表面を被覆していることは、土壌侵食防止、土壌水分保持や有機物還元等の効果がある。しかし、可視画像では作物残渣と土壌の色が類似しているため、区別が難しかった。この方法によれば、雨季の植被状態の観測が難しい半乾燥地域などでも、乾季の画像を用いて植被状態を推定することが可能であり、砂漠化等のモニタリングへの応用が期待される。

リモートセンシング技術は地表面の情報にとどまらず、地表面下の土壌構造の把握にも利用できる。市販の地中探査レーダーを用いて、灰色低地土、表層腐植質黒ボク土を対象に、非接触センシングを行い、レーダーエコーと標準地点の断面形態とを比較した。その結果、レキ土層の有無とその深さだけでなく、土性、ち密度の差も検出でき、周囲とは異なった特有の堅さをもつ層や人工かく乱土壌、暗渠などを判別できた。また、この方法は連続的な図示が可能で、土壌調査に要する経費、時間を大幅に節約できるものである(草場・天野、1988、草場、1991)。

5.今後の展望

情報化技術がますます高度化していく中、衛星データや各種地図情報は質、量ともに充実してきている。衛星データの解像度は1m程度まで向上し、観測できる波長帯の数も大幅に増えている。また、観測周期も短縮されている。さらに、初期に雲を透過できない光学センサーのみが使用されたため、データの取得が天候に左右され、湿潤〜半乾燥地域での定常的なデータ取得が困難であったが、雲を透過する全天候型センサーが衛星に搭載され、そのデータの利用が可能になったことは画期的であった。

こうした衛星観測技術の発達で、ここで取り上げてきたように、農業環境に関係するさまざまな事象の計測が可能になってきた。新たなセンサーで得られたデータあるいは新たな波長帯のデータと地表面の状態を対応させ、何がとらえられるか、どうとらえるかを追求する研究を、これからも継続していかなければならない。また、衛星データはその利用が可能になって30年以上経過しており、農業を取り巻く環境の長期モニタリングに、今後いっそう貢献することが期待される。しかし、一度打ち上げられた衛星には寿命があり、センシング技術の発達とともに、衛星に搭載されるセンサーの種類や解像度も変更されている。したがって、長期間のモニタリングを行う観点からは、衛星の種類や解像度が異なっていても追跡や比較が可能な解析手法の確立が求められるであろう。また、広域を同時に観測できる特徴を活かした、作物生長、物質循環等のモデリングのためのパラメータ取得にも、今後いっそうの貢献が期待される。

一方、地理情報に関しては地形、土壌、植生等の地図情報が電子媒体で提供されるようになった。さらに、気象、水、植生の調査データや化学物質の賦存量など多くの情報が地点情報を伴って報告されるようになっている。こうした個々の情報を統合するシステムの開発が待たれる。また、過去にアナログ情報として提供されてきた地図情報や統計情報を電子化あるいはデータベース化して、地理情報システムで統合するための技術の開発も必要とされる。

こうして得られた情報を活用することにより、より長期の環境の変遷をモニタリングすることが可能になるとともに、衛星データとの統合によって研究の推進が図られることが期待される。

最近は、衛星データを活用した米の食味マップの作成が自治体単位で行われるようになっている。これまでに確立してきた解析手法や開発した観測手法を、研究現場や生産現場でさらに活用していただけるよう、技術移転の促進を図らなければならない。さらに、解析したデータを迅速に公開し、情報を提供するとともに、利用者から逆にフィードバックされる情報をもとに、解析の高度化を図る必要がある。

 
わが国の環境を心したひとびと(10):外山八郎

日本有数の海洋資源の宝庫:天神崎

フィリピン群島の東側から、台湾の東側、南西諸島の西側、そして日本列島の南岸に沿って流れる黒潮暖流は、藍黒色で幅が100キロメートルもある。この暖流の影響を受ける「天神崎」近辺は、動植物の宝庫といわれる。ここはまた、和歌山県南紀白浜の対岸に位置する景勝の地でもある。

天神崎は、田辺湾の北側にある紀伊半島の西側に突き出した20ヘクタールの小さな半島である。正方形にしたら、一辺たった450メートルにすぎない。高いところで30メートル余りの丘陵が連なり、豊かな緑が太平洋の潮風に耐えて生い茂る。岬の先に、陸地と同じ広さの21ヘクタールに及ぶ岩礁が広がる。干潮時には、この広い平らな岩礁が現れる。

ここには、海岸の緑のなかに生息する動植物と、海に生息する動植物が、平らな岩礁をはさんで同居する。森と磯と海が一体となって織りなしたひとつの生態系がある。暖流の影響を受けるため、気候は一年を通じて温暖で、海でも陸でも南方系の生物が多種多量に存在する。学術的にきわめて貴重な場所である。

ここで観察できる動植物の種類は約250種にものぼる。キツネやタヌキも棲息している。野鳥は約50種いる。昆虫などの小動物の生息地としても最適な条件を備えている。クモ類も95種にのぼるといわれる。海には珊瑚(さんご)が約60種類も生息する。北緯34度近辺の海では、世界的にたぐいまれな数といわれる。湾の近辺では、約50種のウニ、約90種に近い海藻が採れる。海岸近くに森林が残り、湿地にはチゴザサの群落や、周辺地には食虫植物のモウセンゴケの群落も見られる。まさに生物の宝庫である。

天神崎の自然を大切にする会

昭和49年(1974)、この天神崎に別荘地の造成計画が起こった。天神崎の希有な自然を守ろうと保護運動がスタートした。当時、熊野の山を伐採する営林署の計画に反対する運動が行われていたので、わけなく40人程度の同志が集まり、「天神崎の自然を大切にする会」が発足した。そして天神崎を守るための署名活動が始まった。この運動に前後して、田辺商業高校に隣接する砂浜の埋め立てが決まった。

自分たちが子供のころから慣れ親しんだ磯辺を守ろうと立ち上がった人びとがいた。その中でもこの運動に、心底情熱を燃やして立ち上がった人がいた。それが元田辺商業高校教師の外山八郎であった。外山らは、昭和49年の10月に「熱意表明募金」を募り造成計画地を買い取ろうとした。昭和51年(1976)3月までに393万円余りが集まり、10月に2390平方メートルを350万円で買い取った。昭和53年(1978)の11月には、「天神崎保全市民協議会」を中心とした「天神崎市民地主運動」となり、さらに募金活動が行われた。ときには、外山など役員が多額の自己資金をつぎ込んだ。

このような役員の献身的姿勢は、市民やマスコミに取り上げられ、全国から賛同者が現れた。全国の人々の心を打ち、多くの募金が集まるようになった。平成4年(1992)までに3億7000万円が集まり、4万4652平方メートルを取得した。いまでは、天神崎は完全に保護されている。これは日本人の自然観にかかわる、ひとつの革命であった。

昭和49年(1974)のこの天神崎の別荘地開発計画に端を発して、全国的にナショナルトラスト運動が広がった。こうして日本での運動の先駆けとして、天神崎は全国的にその名を知られるようになった。

外山八郎の姿

開発されそうになった自然を守るために、ただただ金を集め土地を買う。募金集めに走りまわり、退職金をつぎ込み、家屋敷も抵当に入れ、地主の怒りを買いながら、天神崎という小さな岬を守った。元高校教師の外山八郎は、そんなことをして82歳の生涯を終えた。

外山八郎のこの運動は、日本人の自然観にかかわるひとつの革命であった。天神崎の自然を守るために命を燃焼させた外山八郎とはどんな人であったのか。外山の姿を追ってみる。

外山八郎は、大正2年(1913)に田辺の隣の南部町に生まれ、5歳のときに東京に移った。子供たちを東京の学校に入れるため、母が9人の兄弟を連れて引っ越した。

外山の祖父、脩造は北陸の長岡藩の豪農で、家老の河井継之助(つぐのすけ)に見込まれて藩の財政改革に携わった人である。明治になってから日銀大阪支店長などを経て、阪神電鉄の初代社長も務めた。父は長男だが家督を継がず、南部町に隠棲(いんせい)したといわれている。

昭和12年(1937)、外山は東京大学を出て三菱海上火災保険に就職する。しかし、同じ年の12月に肺結核を発病、仕事を続けることができなくなる。田辺に隣接する白浜などで数年の療養を経て、昭和15年(1940)に政府系の東亜研究所に入った。しかし、18年には結核が再発した。戦局が厳しくなるなかで、またもや和歌山に帰ることになる。

外山は結核のため、田辺に移り住んだ。10年にわたる療養を経て、病は徐々に癒(い)えていった。昭和23年(1948)、県立田辺高校の常勤講師に採用された。この教師への採用が、「天神崎の保護」という彼の生涯を決定する運命との出会いであった。

天神崎には、満潮になると没し、干潮になると姿を現す岩礁がある。黒潮の影響で多様な生物が生息することはすでに述べたが、外山はこの地で容易に観察できる生物の知識を、生物の教師から聞き、自らの経験をふまえ多くの知識を蓄えていった。

生物多様性や価値観の多様化など、いま広く共感を持って迎えられる観念を、外山は早くに意識化していた。天神崎を保護するための理論的な支柱を、これらの知識と経験で導き出していった。

産経新聞の連載記事「ナショナル・トラスト運動の先駆者 外山八郎」の第3回「風変わりな教師 黙って話を聞き、温かく見つめる」(2004年5月26日)には、次のようなエピソードが紹介されている。「いつも古い自転車をゆっくりこいで、ヘルメットをかぶっていた」、「ふだんでも、背広にネクタイをしめて革靴だった」、「背広は天神崎のバザーで千円で買ったと言ってた。ワイシャツも、ほつれを直して着ていた」、「どこへ行くときも奥さんの手弁当。自家製パンがすごい。野菜の塊がごろごろ入ってた」。また、外山本人が講演で語った「学校の規則に従わないとか、勉強しないとか、それで簡単に生徒が悪いと言ってしまう先生方の職業意識といいますか、そういうものに非常に反発を感じていました」、「どうして生徒たちが悩むのか、その根本を探っていくのが教師の仕事ではないんだろうか。そんなことを考えておりました」という言葉も紹介されている。

このような自己を飾らない姿と生徒を思う意識とが、天神崎の保護に結びついていったのであろうか。また、彼は敬虔(けいけん)なキリスト教徒であった。このことも、彼の信念に大きな影響を与えたであろう。田辺教会での日曜礼拝には必ず出席したという。

紀州の田辺はきわめて興味深い土地である。興味深い人が出る。世界をめぐりめぐってこの地に生活した生物学者で生態学者でかつ民俗学者である南方熊楠(みなかたくまぐす)は、ここで後半生を過ごした。環境研究の元祖ともいえる人である。社会主義者の荒畑寒村が、地方紙で駆け出しの記者をしたのもこの地であった。大逆事件で絞首刑になった管野スガもこの新聞社で働いていた。戦後の社会党委員長で首相になった片山哲も、この地に生まれた。全身に矢を受けて壮絶な死を遂げたという弁慶も、この地から出たという。ここは世界文化遺産になった熊野の玄関口である。興味深い人間を生む、土地の気がなにかあるのかもしれない。

参考

ナショナルトラスト:「歴史的名勝および自然景観地のためのナショナルトラスト」の略称

自然環境や歴史的環境の保存を目的に、1895年イギリスで発足した民間組織である。その後、世界各地に広まった同じ趣旨の運動もいう。イギリスでは18世紀の後半,産業革命による開発で国民が誇りとする美しい自然や歴史的環境が,次々に壊されていった。これを心配した3人の市民、弁護士のサー・ロバート・ハンターと婦人社会事業家のオクタビア・ヒルと牧師のキャノン・ローンズリーが相談して,募金運動を始めた。

最初は啓蒙的な団体にとどまっていたが、1907年にイギリス議会はナショナルトラスト法を制定した。これは純然たる民間団体で、政府は1ポンドの援助もしない。その管理する資産については、「譲渡不能」と宣言する特権をナショナルトラストのみに認めた。これによって、トラストの資産はほかに売却されることも,抵当に入れられることも,さらには議会の同意なしには,政府といえども強制収用することができないという特権が認められた。この「譲渡不能」の特権が確立したことによって、人々は安心して寄金や寄贈をするようになり、ナショナルトラストの存立の基盤は確固としたものになった。

この運動によって、先史時代からローマ時代の遺跡をはじめ古城・教会・修道院・領主館・森林・農地・牧場・水車小屋・公園・庭園・草原・荒地・沼沢地などが保存されている。なかには、村落をそっくり管理しているところもある。

わが国における先駆的運動は、昭和39年(1964)に設立された財団法人「鎌倉風致保存会」に始まる。1960年代のなかば、高度経済成長政策に伴っておこった乱開発のため、鎌倉の鶴ケ岡八幡宮の裏山の御谷(おやつ)に宅地造成工事が計画された。このことを知った住民たちが、古都の景観が壊されると心配して財団法人を結成し、募金を集めて工事予定地を買い取る方策をたてた。

この発起人の一人に作家の大佛次郎がいる。その経過は、「破壊される自然」という随筆のなかでくわしく述べられている。当時、大佛は鎌倉・京都・奈良などの古都の景観が,次々に壊されていくのを嘆くとともに,それとは対照的にイギリスの風土が,みごとに守られていることを指摘し,背景にナショナルトラストの運動があることにふれ,その歴史・思想・現状について述べている。大佛は、イギリスのナショナルトラスト運動を系統的にわが国に紹介した最初の人といえる。

財団法人観光資源保護財団、通称日本ナショナル・トラストは、経済団体の代表などの財界人によって1968年12月に設立された。これまでに「トキの生息地」や「石川啄木生家」の買い取り、「岐阜県白川郷」の調査活動、「知床国立公園内100平方メートル運動」、「天神崎の買い取り運動」、「オホーツクの村づくり運動」、「ウトナイ湖に野鳥の観察施設をつくる運動」、「妻籠宿の歴史的町並みとその周辺の自然を守るための運動」などが展開されている。

外山八郎の生涯

大正 2年(1913): 田辺の隣の南部町に生まれる。5歳のときに東京に移る。

昭和12年(1937): 東京大学を卒業し、三菱海上火災保険に就職。12月に肺結核を発病し、田辺に隣接する白浜などで数年の療養。

昭和15年(1940): 政府系の東亜研究所に入る。

昭和18年(1943): 結核が再発、戦局が厳しくなるなかで、また和歌山に帰る。

昭和23年(1948): 県立田辺高校の常勤講師に採用。「天職」とのめぐりあい。

昭和49年(1974): 和歌山県の天神崎に別荘地の造成計画があることを住民たちが知ることになった。10月、造成計画地を買い取るための「熱意表明募金」が開始された。これと前後して、外山が勤務していた田辺商業高校に隣接する砂浜の埋め立てが決まる。

昭和51年(1976): 3月までに393万円が集まる。9月に2390平方メートルを350万円で買い取る。

昭和52年(1977): 12月、土地の買い取りを目的とした「市民地主運動募金」が始まる。

昭和53年(1978): 11月、「天神崎保全市民協議会」を中心とした「天神崎市民地主運動」となり、さらなる募金活動が行われる。

昭和58年(1983): 天神崎のある田辺市で「ナショナルトラストを進める全国の会」の第一回全国大会が開催。

昭和60年(1985): 開発計画のあった4ヘクタールの土地の買い取りが完了。この間に全国から寄せられた寄付金は2億円余にのぼる。

昭和60年(1985): 「ナショナルトラスト法人」(自然環境保全法人)への税の減免措置決定。

昭和62年(1987): 「天神崎の自然を大切にする会」が、日本初のナショナルトラスト法人に認定される。

平成 4年(1992): 3億7000万円が集まり、4万4652平方メートルを保護。

平成 7年(1995): 「天神崎の自然を大切にする運動 二十周年通史」(平成7年)発刊。

平成 8年(1996): 1月19日、82歳の生涯を田辺市の病院で終える。遺書により葬式は営まれず、遺体は和歌山県立医科大学に献体された。

参考資料

1)www.sankei.co.jp/eco/special/rin/01.html

2)members.jcom.home.ne.jp/0920091101/env/handbook/handbook1.pdf

3)歴史的環境:木原啓吉著、岩波書店(1982)

4)ナショナル・トラスト:木原啓吉著、三省堂(1984)

 
農業環境技術研究所案内(14):残された遺産−96年前からの公害汚染植物−

試料の発見

農業環境技術研究所の別棟「大気汚染資材判定実験棟」から、2300点を超える大量の古い植物標本とガラス板に焼き付けられた工場や植物の写真のネガが見つかったのは、平成15年の春のことであった。発見は偶然であった。当所の岡三徳部長(生物環境安全部)が、別の試料を探しているときのことである。押し花のようにきちんと作られた試料を見た岡氏は、未整理の植物標本が保存されているものと思いこんだ。しかし、そうではなかった。これらの試料は、整理する段階で農業環境研究にとってきわめて貴重な試料であることが明らかになった。

二竿の頑丈な木製の戸棚にしまわれていた試料は、農業環境技術研究所が東京都北区西ヶ原から筑波に移転したときに送られてきたそのままの姿で、平成15年の秋まで23年間も埃(ほこり)を被り続けていた。いや、西ヶ原でも同様に埃を被り続けていたのであろう。明治41年(1908)の日付のある試料は、96年近くも人目に晒(さら)されなかったことになる。もっとも新しいものでも昭和12年(1937)であるから、その年に生を得た者は当所にだれもいない。これらの試料の由来や来歴を関係する諸先輩に聞いたが、どなたもご存じなかった。

試料の内容

試料の内容を大まかに整理する。もっとも多かったのは、愛媛県の地名が記された試料である。宇摩郡、越智郡、周桑郡、新居郡、西宇和郡、伊予郡、今治市から採取された、明治41年、42年、43年、45年、大正2年、3年、4年、5年、6年、7年、8年、11年、14年、15年、昭和2年、3年、5年、6年、7年、8年、10年、11年、12年、13年、17年、18年、19年に採取された、いまから96年前から60年前までの植物および作物の標本である。

植物および作物の試料は、イネ(水稲、陸稲)、甘藷、ヨモギ、アザミ、コモノキ、ムギ、大豆、胡麻、桃、里芋、茄子、ツタ、ムカゴ、イノコヅチ、ハコベ、ツルムケモドキ、ノブドウ、ヒメジヲン、カニツリグサ、サルトリイバラ、ヨツバムグラ、スギナ、チシャ、ツユクサ、エノコログサ、イタドリ、ウマカラスムキ、ヒョウタン、アラガシ、桑、林檎、梨、公孫樹、イヌツゲ、コノデガシワ、ビャクシン、カエデ、クロマツ、櫻、櫨、イイギリ、粟、小豆、桐、サワフタギ、煙草、イグサ、石竹、エゴノキ、柿、トダシバ、ウマノミツバ、ゼンマイ、モミヂイチゴ、ヘビイチゴ、ノバラ、ドクダミ、イラクサ、サクラダチ、スイバ、コヌカグサ、ミゾソバ、サクラタケ、キンポウゲ、アヤメ、蕎麦、大麻、青刈大豆、ネーブル、タデ、イチビ、短廣花螺、小松菜、栗、畦畔大豆、菊、フキ、馬鈴薯、シャクヤク、ユスラ、檪、杉、ハコネダケ、クマザサ、ハゲンバク、ヒノキ、センダン、葡萄、百日紅、バラ、アカザ、夕顔、ダリヤ、ウド、大根、無花果、茗荷、ホホヅキ、アケビ、銀杏、フヂ、柳、南瓜、蚕豆、菽類、葛、紫蘇、ウメ、胡瓜、モミヂ、マキ、プラタナス、ツゲ、枇杷、ユウカリ、山吹、ポプラ、紅梅、そのほか不明のものに及ぶ。

茨城県久慈郡で採取された大正2年、大正4年、昭和13年の試料は、煙草(水府葉、米葉)、イネ(水稲、陸稲)、ケヤキ、葱、玉葱黍、雑草、馬鈴薯、サクラ、ハコベ、コスモス、大麦、レンゲソー、アサガホ、フキ、胡瓜、ギタンである。

静岡県庵原郡の日本軽金属蒲原工場と記載のある昭和18年、昭和19年の試料は、ムギ、水稲、果樹園(温州)、温州蜜柑、青桐、鈴懸、山桃、柑橘、楓、スギナ、竹笹、腕豆、小豆、松、杉、槙、薔薇、牡丹、蘭、柿、小麦、蕎麦である。

新潟県の二本木日曹工場と記載のある試料は、昭和16年、昭和17年に採取された櫻、煙草、枇杷、桑、蓬、銀杏、梨、楢、楓、松、櫨、茶、蜜柑、熊笹である。

三重県の河原田村、四日市市付近と記された昭和16年、昭和17年の試料は、水稲、イヌタデ、雑草(ヨモギ)、豆、胡麻、菜豆、大豆、甘藷、人参、南瓜、笹である。

福岡県大牟田市の三井鉱山および三池窒素電気化学と書かれた昭和10年の試料は、草苺、梧桐、南瓜、菊、人参、ヨシ、茄子、ヒサカキ、甘藷、薊、大豆、葱、夾竹桃、里芋、柳、大根である。

香川県の直嶋村の昭和3年、昭和6年に採取された試料は、蚕豆、水稲、イタドリ、ノイチゴ、松、樫である。

宮城県栗原郡の大正9年の試料は、桐、小豆、イタドリ、サワフタギ、カメバソウ、モミヂイチゴである。

神奈川県横浜市の東亜農薬中山工場と書かれた昭和18年の試料は、胡瓜、茄子、イネ(水稲、陸稲)、桑、トウモロコシ、粟、小豆、蕎麦、胡麻、大豆である。

長野県東筑摩郡の日本電気工業株式会社と書かれた昭和11年の試料は、水田のイネである。

そのほか不明な点がいくつもあるが、東京都北多摩郡の仙川アルミニューム工場と記された昭和16年前後の植物、秋田県鹿角郡の年代不詳の水稲、千葉県農事試験場の昭和6年の早生愛國、岡山県不詳地の昭和6年の松、樫、熊本県八代町の昭和15年の不詳植物、栃木県足尾銅山の不詳年代、不詳植物、石川県の下尾鉱山の昭和19年に採取された不詳植物などがあった。

愛媛県の試料以外は、茨城県の大正2,4年のものと宮城県の大正9年のものを除いてすべて昭和のものである。

なぜこのような試料が?

これらの貴重な試料が、なぜ農業環境技術研究所に保存されているのか? それも、なぜ愛媛県で採取された試料が明治41年から昭和19年まで大量にあるのか? これは「情報:農業と環境No.50」の「わが国の環境を心したひとびと(7):岡田 温」と「情報:農業と環境No.53」の「わが国の環境を心したひとびと(9):古在由直」ときわめてかかわりが深いと考えられる。

岡田 温」では、別子銅山から亜硫酸ガスが大気に放出されたことによる、作物への煙害の発生や、鉱毒水による稲作への被害を紹介した。詳細は、「情報:農業と環境No.50」を参照していただくとして、問題は、なぜ明治41年からの試料かということである。これには理由がある。

実は、愛媛県の別子銅山の近辺では、明治10年代から亜硫酸ガスの被害が広がっていた。明治26年(1893)には、愛媛県新居浜村で村民数十人が別子銅山新居浜分店に対し、製錬所の亜硫酸ガスによる農作物被害を訴え、精錬事業の停止を要求している。さらに明治27年(1894)の5月には、新居浜製錬所より排出された亜硫酸ガスのため、ムギが不作に陥った。

その後、明治28年(1895)の2月、明治30年(1897)の12月には愛媛県新居浜で煙害がさらに激化した。このような中で明治38年(1905)の1月、別子銅山は煙害をさけるため精錬所を別子から四阪島に移転した。しかし8月の本操業とともに、愛媛県越智郡と周桑両郡に亜硫酸ガスの被害発生が出始めた。海を隔てた四阪島からの煙害の本島への被害は、予想外の事件であった。

翌年の明治39年(1906)の7月、またまた愛媛県周桑郡で別子銅山の亜硫酸ガスによる稲の葉の被害が発生した。翌々年の明治40年(1907)には、別子銅山四阪島製錬所の亜硫酸ガスによる被害が、数か村で発生した。

これに対して、明治41年(1908)には愛媛県四阪島製錬所煙害調査が始まることになる。以後、昭和11年度までこの調査は実施される。実は、このとき調査されたムギや稲のほかに数多くの植物や作物の試料が、昔の農事試験場に送られてきていたと考えられる。

情報:農業と環境No.53」の「わが国の環境を心したひとびと(9):古在由直」で、古在を日本の公害問題に最初のメスを入れた科学者として紹介した。あの渡良瀬川沿岸の足尾銅山の鉱毒調査に全力を注ぎ、わが国で初めて公害問題を提起した学者、古在由直は、当所の前身(農業技術研究所)のさらに前身である農事試験場の第2代目の場長(明治36〜大正9年)であったことはすでに紹介した。

明治23年(1890)年の8月に関東地方で大水害が発生した。足尾山地に源を発する渡良瀬川は、栃木県、茨城県、群馬県、埼玉県の四県が県境を接する利根川合流地点で氾濫し、鉱毒を含んだ大量の水が付近一帯を浸した。この一件で鉱毒の被害は衆目の一致するところとなった。農民は、足尾銅山の操業停止を求めて栃木県に上申書を提出した。これと時を同じくして、渡良瀬川沿岸の青年有志は畑の土と川の水を採取し、農商務省地質局にこれらの試料の分析を依頼したが、地質局ではこの申し出を拒否した。

そこで青年たちは渡良瀬川沿岸の土壌と水を採取し、当時帝国大学農科大学の助教授で硬骨の科学者として、公平無私で情実に左右されることがないと評判があった古在由直を訪ねて、分析調査を依頼した。1891(明治24)年5月のことであった。それから2週間後、由直は被害農民に次のような分析結果を送っている。「過日来御約束の被害土壌四種調査致候処、悉く銅の化合物を含有致し、被害の原因全く銅の化合物にあるが如く候」。科学者としての信頼を古在が勝ち得たときである。

また、古在は明治35年(1902)年3月に鉱毒調査委員に命じられた。委員になった古在は、渡良瀬川沿岸一帯を徹底的に調査することを主張したが、その主張は認められなかった。そこで古在は、「年月と経費が甚だしくて困難であるならば私がやってみせる」と啖呵(たんか)を切って自ら鉱毒調査に乗り出した。

農民たちの古在場長への信頼は、当時の農事試験場への信頼にもつながっていたのであろう。明治41年以降の別子銅山周辺の被害植物が、農事試験場に送られ、分析に供されたのであろう。そして、今なお2300点以上の試料が、当所に保存されているものと考えられる。

亜硫酸ガス公害の歴史

愛媛県以外の試料は何を意味するのか。これらも、別子銅山の場合と同様に煙害の調査に使われたものと考えられる。以下にわが国の亜硫酸ガスによる公害の歴史を拾い出してみた。年代別に史実を追う。これによって、愛媛県以外の県からの試料の意味が何か分かるかもしれない。

明治18年(1885) 愛媛県別子銅山の亜硫酸ガス被害が広がる。

明治26年(1893) 9月25日:愛媛県新居浜村で村民数十人、別子銅山新居浜分店に対し、製錬所の亜硫酸ガスによる農作物被害を訴え、精錬事業の停止を要求。10月8日にも農民数百人が抗議。

明治27年(1894) 5月:愛媛県、別子銅山の新居浜製錬所より排出の亜硫酸ガスのため、麦不作。7月19日:別子銅山の亜硫酸ガス問題で、愛媛県金子・庄内・新須賀の3村の農民850人がムシロ旗・竹ヤリを持って住友・新居浜分店を襲う。農民23人逮捕。

明治28年(1895) 2月:別子銅山新居浜製錬所の亜硫酸ガス被害で、被害村の総代40余人が大阪住友本店と交渉。村民の示した被害には各種農作物・山林・家屋の被害のほか泉水中のコイ、フナなどの斃死や人間の呼吸器疾患の増加などがあった。11月29日:栃木県議会、県知事に対し「足尾銅山の土砂・鉱屑の渡良瀬川への投棄禁止」を建議。11月:別子銅山、新居浜の亜硫酸ガス問題解決のため製錬所移転を計画し、瀬戸内海上の四阪島を買収。

明治30年(1897) 12月14日:足尾鉱毒被害地の83町村が憲法による被害民保護請願提出。12月:愛媛県新居浜で煙害激化。

明治35年(1902) 秋田県秋田郡で、小坂鉱山の亜硫酸ガスによる山林・農作被害発生。特に畑作物は収穫が3分の2に減少。

明治36年(1903) 7月21日:足尾銅山に対し、鉱毒除外命令が出される。

明治38年(1905) 1月:別子銅山四阪島製錬所が完成。8月の本操業とともに、愛媛県越智周桑両郡に亜硫酸ガスの被害発生。

明治39年(1906) 7月21日:愛媛県周桑郡で別子銅山の亜硫酸ガスによる稲の葉の被害発生。

明治40年(1907) 足尾銅山から排出された亜硫酸ガスは、濃硫酸に換算して操業開始の明治10年から53万9,820トンに達する。別子銅山四阪島製錬所の亜硫酸ガスによる被害が数か村で発生。

明治41年(1908) 11月:日立鉱山に病院が設立され、亜硫酸ガスの被害地で、無医区の入四間地区へ往診を始める。

明治41年(1908) 8月13日:住友四阪島製錬所からの亜硫酸ガスのため、愛媛県越智郡の農作物に大被害。27日:農民1,500人が住友工業所に押しかける。明治43年(1910) 11月9日:賠償金と製錬量制限で解決。

大正 2年(1913) 岐阜県船津町で三井神岡鉱山の有毒鉱塵と亜硫酸ガスによる農作物・家畜の被害が深刻化。

大正 3年(1914) 大阪市の農民37人が明治39、40年度の農作物収穫が激減したことをめぐり、大阪アルカリ会社排出の亜硫酸ガス・硫酸ガスが原因とし、損害賠償請求の訴訟を提起。大阪アルカリ事件。

大正 4年(1915) 住友四阪島製錬所が鉱毒調査会の指示に従い、6本の大煙突(従来の半分の高さの太い煙突)を完成。ところが操業を開始するや、四阪島全体が高濃度の亜硫酸ガスに覆われ、対岸にも従来より濃い硫酸が届く。小坂鉱山の亜硫酸ガス被害が19村に及ぶ。

大正 5年(1916) 7月:大阪アルカリ会社の亜硫酸ガスが周辺の農民、周辺十数町の乳児や小学生の呼吸器に害を与えているとして、大阪府が2か月内に除害設備をするよう命令。10月31日:岐阜県大野・吉城郡で平金鉱山の排出ガスにより山林の樹木が枯死。また三井神岡鉱山の亜硫酸ガスにより、吉城郡の被害がさらに深刻化。

大正14年(1925) 住友四阪島製錬所が、亜硫酸ガス処理のため新式の硫酸装置を採用。この方法で製錬硫黄量の70%以上を硫酸に転ずることが可能になった。

昭和 元年(1926) 住友四阪島製鉄所がペテルゼン式硫酸製造装置を完成。煙害が減少。

昭和 5年(1930) 3月:大阪・木津川飛行場で、周辺の4工場からのセメント粉末、亜硫酸ガス、フッ化水素などにより、白い霧が発生し飛行不能となる。金属腐食も発生。

昭和10年(1935) 四阪島製錬所の排出する亜硫酸ガス濃度が0.19%に減少。以後も0.2%以下となる。

昭和11年(1936) 尼崎市の肥料会社から排出の亜硫酸ガスにより、市内と大阪市の一部で中毒患者が続出。

昭和13年(1938) 7月:別子銅山四阪島製錬所が硫酸中和工場を設置、亜硫酸ガスの発生解消。

昭和14年(1939) 昭和産業横浜工場で亜硫酸ガス流出事故が発生し、新子安一帯に被害。川崎市で亜硫酸ガスを含む工場群のばい煙で樹木や農作物の枯死などが激化。

昭和31年(1956) 5月:大阪で近畿地方大気汚染調査連絡協議会が結成される。昭和32年から36年まで京阪神地域における亜硫酸ガス(SO2)の広域調査を実施。

昭和39年(1964) 東京都の大気汚染調査で、亜硫酸ガスは0.045ppmで10年前の9倍と判明。亜硫酸ガスを大量放出する34工場にスモッグ発生時の燃焼自粛を要請。

昭和41年(1966) 10月21日:千葉大学教授らが、千葉工業地域で亜硫酸ガスが増加し、小学低学年の肺機能が低下と報告。

昭和43年(1968) 11月:東京都と千葉・神奈川県が東京湾沿岸への亜硫酸ガス排出企業の進出は原則として拒否する方針を決定。

昭和44年(1969) 7月29日:厚生・通産両省が亜硫酸ガス(SO2)の排出基準を告示。

昭和46年(1971) 10月12日:横浜市が日本石油に対し、横浜精油所の亜硫酸ガスの総排出量を43%カットするなど、7項目の公害防止対策を申し入れ。11月10日:アジア石油会社に横浜工場の亜硫酸ガスの総排出量を74%減らすなど9項目を申し入れ。

このように亜硫酸ガスの歴史を追ってみたが、愛媛県以外の植物試料が直接亜硫酸ガスの煙害の歴史と結びつく事実は得られなかった。しかし、亜硫酸ガスの歴史を調べるのにずいぶんエネルギーを費やしたので、あえてここにその歴史を記載しておく。

いずれにしても、これらの試料は下尾鉱山、足尾銅山、四日市、東亜農薬、大牟田の三井・三池、日本軽金属、日本電気などに関連するものであるから、亜硫酸ガスや重金属などの被害をうけたものに間違いはないであろう。

これらの試料は、当所のインベントリーとして保存する。これらの試料を将来どのように有効に活用していくか、これから考えていく必要がある。たとえば、非破壊分析に供して、過去の亜硫酸ガスの被害や重金属の汚染状況を知ることができるであろう。いずれにしても、このような時間を超えた環境試料が存在することは、環境科学を進める上できわめてよろこばしいことである。これらの試料を利用した共同研究など関心のある方は、当所の企画調整部研究企画科に連絡いただきたい。

参考文献

1)情報:農業と環境No.50 わが国の環境を心したひとびと(7):岡田 温

2)情報:農業と環境No.53 わが国の環境を心したひとびと(9):古在由直

3)環境史年表 1868−1926 明治・大正編:下川耿史著、河出書房新社(2003)

4)環境史年表 1926−2000 昭和・平成編:下川耿史著、河出書房新社(2003)

 
論文の紹介:人間活動と野生生物保護の利害対立の解決策を探るための意志決定モデルの利用

Using Decision Modeling with Stakeholders to Reduce
Human-Wildlife Conflict: A Raptor-Grouse Case Study
S. M. Redpath et al.
Conservasion Biology 18: 350-359 (2004)

農業環境技術研究所は,農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに,侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって,生態系のかく乱防止,生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の一つとしている。このため,農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが,今回は地区の野生生物をめぐって対立する保護グループと利用グループの代表者が参加した、自然管理方法の意志決定モデルに関するワークショップについての論文を紹介する。

要約

人間活動と野生生物保護の意見の対立を解消するためには、地域共同体や他の利害関係グループが、対策の決定過程に参加する必要がある。だが、とくに意見の対立によってグループ間の対話が限られてしまった問題では、利害関係者の意見や考え方を定量することが難しくなる。選択可能な複数の対策に対する容認可能性を予測する方法の一つに、多基準分析(multicriteria analysis)によって利害関係者の考え方を定量する方法がある。この論文は、3階層からなる階層化決定木(hierarchical decision tree)と多基準決定分析を用いた共同作業によって、対立グループ間の相互理解と対話を試みた事例を紹介している。

英国スコットランド高原では、法律で保護されている猛禽(もうきん)であるハイイロチュウヒ(ワシタカ目)(Circus cyaneus)の保護と、猟鳥(りょうちょう)であるアカライチョウ(キジ目)(Lagopus lagopus scoticus)の個体数維持にかかわる環境保護の問題が論争となっている。アカライチョウは、ヒースの茂る荒地に生息する狩猟鳥で、個体数維持の目的は、秋の狩猟期に獲物であるライチョウの個体数を最大にしておくことである。ハイイロチュウヒはアカライチョウを捕食する害鳥と見なされ、駆除されることも多い。

著者らは、利害の対立するライチョウ維持グループとチュウヒ保護グループの考え方と、利害対立を解消するさまざまな管理手法に対する受容程度とを評価するため、多基準分析(multicriteria analysis)を用いた。

両グループから5名ずつのワークショップ参加者は、まず評価項目の相対的な重要性を数値化し、そして、これをもとに高原地域とハイイロチュウヒに対する管理手法の選択肢を比較した。土地の管理手法に関しては、ライチョウ管理グループの参加者は経済的基準を、チュウヒ保護グループの参加者は自然環境の項目を重視した。

ライチョウ管理グループは、ライチョウの猟場を、チュウヒの個体数制限を含めて十分に管理することがもっとも好ましいと考え、チュウヒ保護グループは、猟場を自然保護地区として管理することが好ましいと考えた。だが、ライチョウの猟場を合法的に管理することは、どちらのグループも高く評価した。

チュウヒへの対策について、ライチョウ管理グループは対策の効果が現われるまでの時間的スケールと対策の費用を重視し、チュウヒの個体数を決められた数に調節するやり方を好ましいとした。一方、チュウヒ保護グループはチュウヒの個体数への影響を重視し、チュウヒが自然状態の密度に達することが望ましいと考えていた。だが、注目すべきこととして、すでに野外での試験が部分的に行われている、ライチョウ以外の餌を使う方法には、両グループから高い評価点が付けられた。このことは対立の解消につながることが期待できる。

意見対立を解決する方策を評価するために意志決定モデルを利用したことの大きな成果は、2つの対立する利害グループの間の対話が促進され、互いの考え方についての理解が深まったことである。各グループからの参加者の共同作業によって、グループ間の対話と相互信頼を作り出すために、これらの客観的な手法が重要であること、そして、さまざまな管理方策の有効性を調べる研究がさらに必要であることが明らかになった。

 
本の紹介 152: 環境危機をあおってはいけない −地球環境のホントの実態−、 ビョルン・ロンボルグ著、 山形浩生訳、 文藝春秋(2003) ISBN4-16-365080-6

本書は、デンマークのオーフス大学政治科学部統計学担当準教授ビョルン・ロンボルグによって執筆され、従来の環境問題を扱った書籍と内容的に大きく異なるものである。「地球環境は悪化の方向にある」という緊急問題を提起する形での環境関連の書籍が多いのに対し、本書は「環境危機をあおってはいけない」、「きちんと整理した情報に基づく議論が必要である」、「近年の遺伝子組み換えなど一連の科学技術はリスクと便益との比較が重要」などとし、「環境に関係するデータをきちんと見て落ちついた対応」を求めている。

そのため本書は、「環境危機の「よく聞くお話」は本当か?」、「 人類の福祉はどんな状態か?」、「人類の繁栄は維持できるのか?」、「公害は人間の繁栄をダメにするか?」、「明日の問題」および「世界の本当の状態」の6部から構成されている。

しかし、本書は環境問題の研究者から、いろいろな厳しい批判があった。このことについては、日経サイエンス(2002年7月号)、Science 299 (2003年1月17日)、Nature 423 (2003年5月15日)に詳しい。

著者は、本当の世界の状態をはかること、それを思いこみではなく、手に入る最高の事実に基づいて評価することを強調する。とくに、「地球白書」の語る環境はますます悪化しつつあるという定番の話を強烈に批判する。その例を挙げてみよう。

ワールドウォッチ研究所の「地球白書」に関して、森林面積の減少に関する報告の間違い、硫黄の排出量と酸性雨の関連の間違い、肥料消費量と食糧問題の関係のとらえ方の間違い、生態系の崩壊の証拠説明の不足などが指摘される。そして、この研究所の何度も繰り返される主要な発言を見ると、生態学的な崩壊という定番話の主張は、実に危なっかしい例に基づくか、単に信念として述べられていると手厳しく批判する。

他にもWWF(世界自然保護基金)などの例を示しながら、本書のタイトル「環境危機をあおってはいけない」を解説する。2925にも及ぶ膨大な文献や注の数には、著者の本書に寄せる思いが如実に示されている。しかし、引用文献が適切に行われているかをよく吟味しながら読まれるべきであろう。目次は以下の通りである。

第 I 部 環境危機の「よく聞くお話」は本当か?

 1.世の中、よくなってきているのだ

 2.なぜ悪いニュースばかり流されるのか

第 II 部 人類の福祉はどんな状態か?

 3.人類の福祉を計る

 4.期待寿命と健康

 5.食糧と飢え

 6.かつてない繁栄

 7.第 II 部の結論:かつてない人類の繁栄

第 III 部 人類の繁栄は維持できるのか?

 8.ぼくたちは未来を食いつぶして現在の繁栄を維持しているのか?

 9.食べ物は足りているのか?

10.森林はなくなりかけているのか?

11.エネルギーは枯渇するか?

12.エネルギー以外の資源

13.水は十分にある

14.第 III 部の結論:繁栄は続く

第 IV 部 公害は人間の繁栄をダメにするか?

15.大気汚染

16.酸性雨で森は死んでいるか?

17.屋内の空気汚染のほうが深刻

18.アレルギーとぜん息

19.水質汚染

20.廃棄物の捨て場はないのか?

21.第 IV 部の結論:公害の負担は減りつつある

第 V 部 明日の問題

22.化学物質がこわい

23.生物多様性の問題

24.地球温暖化

第 VI 部 世界の本当の状態

25.窮地なのか、進歩なのか?

 
資料の紹介:「インベントリー」第3号
(独)農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンター刊

年刊誌「インベントリー」第3号が、平成16年4月に発行された。本誌は当所の農業環境インベントリーセンターによって、編集、発行されている。第1号は、農業環境インベントリーセンターが独立行政法人農業環境技術研究所の設立にともなって設置された翌年、平成14年に発行された(情報:農業と環境 No.28(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn028.html)を参照)。

発行の目的は、「農業環境研究」の領域全体を対象とし、新たに収集または寄贈された標本や試料、および、新たに開発または作成されたデータベースなどの概要を紹介することにある。また、農業環境インベントリーセンターから発信された「農業環境研究成果情報」や活動状況を掲載している。まさにインベントリー、目録そのものである。

本誌に紹介されている標本や試料は、目的に応じて貸出しを行なっている。また、各データベースは、各研究組織のインターネットホームページから利用できる。さらに、データファイルの詳細な情報は執筆者へ依頼することによって入手できる。いずれの場合でも、原則として無料であるが、これらを活用して研究成果などが生まれた際には、本誌で紹介していただくことを条件としている。こうしたことを通じて、インベントリーの成長を支援していただきたい。なお、第1号と第2号は、わずかに残部がある。また、9月末に公開されたばかりの農業環境インベントリーセンターのページ(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/inventry/ (現在は対応するページがありません。2010年6月))でも、冊子体のすべての内容が閲覧できるので、ぜひご利用いただきたい。

以下に、第3号の目次を紹介する。

巻頭言

インベントリーセンター3年間の成果と今後の発展方向 −3号の発刊に当たって−

報文

野生イネ科植物に寄生する葉枯性病原菌類の採集と同定

研究トピックスのコーナー

土壌情報の一元的収集システムの開発

農業環境技術研究所が所蔵する昆虫タイプ標本一覧表ならびに画像のWeb公開

分散型データベースによる「微生物インベントリー」の構築とWeb公開

インベントリーのコーナー

廃水処理汚泥中の微量元素の存在形態

都道府県市町村単位で養分収支を求めるデータベースシステム

放射能測定のための主要穀類および農耕地土壌の保存試料

主要穀類および農耕地土壌の90Srと137Cs分析データ集

流域水質解析・評価システム

農村集水域小河川の水質モニタリングとそのデータベース

農業環境技術研究所総合気象観測データ

日本における気候変化予測データ[降積雪]

「日本野生植物寄生・共生菌類目録」の作成とWeb公開について (2)

「日本産糸状菌類図鑑」の公開と追録 (2)

研究標本館のコーナー

土壌モノリス館

昆虫標本館 −最近の寄贈標本について−

昆虫標本館 −所蔵標本の管理と活用について−

付録(平成15年度農業環境インベントリーセンター(NRIC)の取り組み

Web公開情報/セミナー講演要旨/研究課題一覧/研究成果の発表/研究協力・交流/在職者とその動き

 
資料の紹介:有機食品と有機農業のための欧州行動計画−その1−

欧州委員会は、2004年6月10日に「有機食品と有機農業のための欧州行動計画」を採択した。欧州委員会は2003年12月にEU理事会が採択した結論文書(2004/C 34/03)「有機食品および有機農業のための欧州行動計画に向けた基本方針」 (http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn051.html#05110)に基づき、欧州行動計画を作成するために、オンライン協議、ヒアリング、EU各国および関係者との協議を続け、この欧州委員会スタッフによる討議用資料 (http://ec.europa.eu/agriculture/organic/documents/eu-policy/european-action-plan/organic-action-plan-2004_en.pdf (リンク先を変更しました。2014年10月)) の提案となった。今後、この行動計画の正式な採択に向けて、さらに検討を行うことになる。

この資料は、有機農業を農業環境問題を解決する有力な農法の一つに位置づけ、有機農業の発展に向けて、さまざまな側面から検討を行い、今後、EU(欧州連合)において、どのような政策や関連法規が必要であるかが記述されており、我が国の有機農業に携わる行政者や研究者の参考になると思われる。そこで、この資料の前半部分を仮訳したので、紹介する(後半部分は第55号に掲載予定)。

原文中の脚注は番号(1)2))を付けて、巻末に掲載した。原文中の図表(有機農業面積と世界の有機農産品の販売額)および引用文献は省略したので、上記のアドレスにアクセスしていただきたい。また本文中の用語について、参考になると思われる資料をウェブサイトから検索し、番号(*1*2、・・・)を付けて巻末に掲載したので、参照していただきたい。

EC委員会   
2004年6月10日、ブリュッセル  
SEC(2004) 739   

有機食品と有機農業のための欧州行動計画

欧州委員会スタッフ討議用資料

欧州委員会からの論議用文書(COM(2004)415 final)の附則

目次

1. 緒言

1.1. 背景

1.2. 有機農業政策の枠組み

1.3. 有機農業の効果

1.4. 有機農業政策に対する包括的基本理念

2. 有機農業の発展

2.1. 生産

2.2. 市場

3. 有機食品市場

3.1. 有機農産物についての消費者の認識

3.2. 市場経済メカニズム

3.3. 情報主導の需要

3.4. 基準間の違いによる市場問題

3.5. 販売活動の手段としての有機ロゴ

3.6. 需要と供給の監視と分析

4. 公共政策と有機農業

4.1. 共通農業政策の枠組みにおける有機農業

4.2. 農村開発

4.3. 研究

5. 基準と検査−品質保証

5.1. 現行の法的枠組み

5.2. 規制の考え方

5.3. 有機生産基準の範囲

5.4. 基準設定のための手段の改善

5.5. 遺伝子組換え生物(GMO)

5.6. 検査制度

5.7. 輸入

5.8. 輸出

附則:有機農業を支援することが可能な欧州共同体措置のリスト

引用文献

1. 緒言

有機食品のためのFAO/WHO合同食品規格ガイドラインによれば、有機農業は、「生物多様性、生物的循環および土壌生物の機能を含む、農業生態系の健全性を促進、強化する全体論的な生産管理システムである。このシステムは、地域的条件としては、その地方に適合したシステムを義務づけることを考慮に入れて、農場外からの投入材の使用よりも管理作業を優先することに重点を置く。このことは、このシステムの中であらゆる固有の機能を発揮するために、合成物質の使用とは対照的に、農学的、生物学的、機械学的な方法を可能なかぎり、使用することによって達成される。

理事会規則(EEC)2092/911)の採択によって、欧州連合は有機農業に関する政策を世界で最初に設定した(この規則は理事会規則(EC)1804/19992)によって改正された)。この規則のなかで、理事会は有機農業および有機食品で用いた生産方法を証明する農産物および食品の条件を詳細に規定する欧州共同体の枠組みを設けた。

有機農業に関するこの論議用文書で、欧州委員会は有機農業の状況を評価し、今後、数年間の政策を開発するための基礎を定めるつもりであり、それによって、共通農業政策(CAP)への有機農業の貢献に向けた総合的戦略の展望を提供する。

1.1. 背景

この行動計画は2001年6月と2002年12月の農相理事会の要請によって提出する。

2002年12月に「有機食品と有機農業のための欧州行動の可能性の分析」と題する欧州委員会スタッフによる作業用文書(ワーキング・ペーパー)3)を提出した。この文書は欧州の有機農業の発展と行動に向けて考えられる諸要素を分析するための基礎を与えたが、本討議用資料は、これに続くものである。

その目的は、欧州共同体における有機食品分野の持続的な発展を確保し、さらにこの発展によって、発展途上国から有機農産物の輸入を促進するための必要事項を明らかにすることである。この討議用資料はそのような発展を促進するために計画した一連の政策措置を説明している。

この行動計画に向けて、根拠のある基礎を確保するために、異なった一連の協議および討論が欧州議会、EU理事会において、そして利害関係グループにおいて行われてきた。オンラインによる協議4)において、作業文書で提起したさまざまな問題に対する意見を一般市民に求めた。おもな質問は、販売活動、CAP、基準、検査および研究に関するものであった。そのほかに、欧州委員会は、2004年1月に重要な問題を加盟国および主要な利害関係組織と討議する公聴会を設けた5)

欧州連合レベルの市場占有率または農地面積割合の点から、有機農業分野の発展のための個別目標を定めるのではなく、この分野を発展させ、それによって、この市場の潜在力をできるだけ生かす条件を与えることが欧州委員会の目標である。

いくつかの加盟国や地域6)は、有機農業、とくに農業環境プログラム、市場開発、研究および能力構築*1に関する開発のための国および地域の行動計画を確立してきた。これらの行動計画は、関係加盟国において、この分野の発展に貢献してきた。欧州委員会は、欧州行動計画がこれらの国および地域の行動計画を補完、連携することをめざしている。

1.2. 有機農業政策の枠組み

1999年に、理事会はCAPの環境統合および持続可能な開発に関する戦略の中に、有機農業を受け入れた7)。「一般原則としても、農業者が適切な農業活動基準以上に環境に貢献した場合、適切な報酬が与えられるべきである。特定の農業生産法、たとえば有機農業、総合農業生産*2、伝統的な低投入農法および地域特有の生産は、環境的、社会的および経済的なプラス効果をもたらす。

欧州委員会は2001年6月、イエーテボリ欧州理事会に欧州連合の持続可能な開発戦略8)を提出した。そこでは、CAPは量よりも質に報酬を与える、たとえば、有機農業分野およびその他の環境と調和した農法を助成すべきであるということが行動の一つとして確認された。

2002年の第6次欧州共同体環境行動計画を定めた欧州議会と理事会の決定9)において、この計画の目的を達成するための行動の一つとして、「適切な場合には、粗放的生産法、総合農業活動、有機農業および農業の生物多様性を含む、環境に責任をもつ農業をさらに促進する」ことが提案された。

結局、2003年のCAP改革10)の目的は、いくつかの基本原則によって、農業を支援することであり、それは次のように要約できる:

・ 競争力の向上、市場重視の強化、およびより効果的な所得援助によって、経済的に持続可能にすること;

・ 消費者の要求に敏感にこたえ、食品の品質および安全性の向上を促進し、農村開発に向けた資金援助バランスを改善することによって、社会的に持続可能にすること;

・ 環境と動物福祉の基準のさらなる効果的適用と発展のための明瞭な枠組みを通して、環境的に持続可能にすること。

EUにおける有機農業分野の発展は、欧州委員会が最近発表した新提案の環境技術行動計画(論議用文書COM(2004) 3511)に記載)とも完全に一致する。

1.3. 有機農業の効果

有機農業は高い水準の環境保護をめざすいくつかの欧州共同体政策に大きく貢献する(前節参照)。

有機農業のおもな便益は、次のことに関連がある:

・ 農薬: 有機農業は他の農業システムよりも、景観、野生生物の保全および動植物相の多様性に関して、これらを改善する効果が平均的に高いことが研究で明らかにされている。有機農業がそうであるように、農薬の使用を制限すると、水質も改善し、有機食品中の残留農薬も少なくなる。

・ 植物の養分: 有機農業は総合農業や非有機農業よりも、平均して窒素溶脱率が通常、低くなることが、ほとんどすべての関連作物の土壌に残留する窒素の調査から明らかにされた。

・ 土壌の保護: 硝酸塩の溶出を減らすための間作作物の栽培、より長期の、より多様な作物の輪作、単一種による過放牧を減らす混牧など、有機農家が広く使用する管理行為は、いずれも土壌の保護に役立つ。土壌の有機物含量は場所によって大きく異なるが、その含量は非有機圃場と比較すると有機圃場で一般に高い。

・ 生物多様性と自然保護: 有機農業は農業資材の投入量が少なく、農場における草地面積割合が高く、そして在来品種および作物系統をより多く使用しており、これらのことによって、種および自然の生息地の保存に貢献している 。

・ 動物福祉: 有機農業の基準には、法で定めた規定よりもはるかに進んだこの分野の必要条件がいくつか含まれるので、動物福祉に良い影響を与えることができる。

食品の安全性に関しては、一般に、すべての有機食品が非有機食品よりも程度の差はあれ、安全であると主張することはできない。食品の安全性および質への効果を含め、効果についてのより包括的な分析結果については、2002年12月の欧州委員会の討議用資料を参照されたい12)

1.4. 有機農業政策に対する包括的基本理念

有機農業についての包括的政策の基本理念を立案する際に、有機農業は2重の社会的役割があることを認識すべきである。

1.有機農業は、食品を生産する一つの方法であるが、有機食品特有の市場を構築した。その市場で消費者は通常、高い価格の有機食品を自発的に購入している。この点から、有機農業は、その利益、すなわち好みの食品を得る消費者が資金を出している。この観点から、有機農業の発展は、市場の法則によって決定されている。

2.有機農業は、公共財、おもに環境便益*3をもたらすが、公衆衛生、社会と農村の発展および動物福祉をもたらすことも知られている。ここでは、どちらかといえば有機農業者が行う土地管理を重要視する。このようにしてもたらされる公共財に対して、公的手段による資金供給が可能である。この視点からみると、有機農業を発展させることは、主として環境政策領域に関係する政策の選択の一つである。

有機農業の両方の社会的役割が農業者に収入をもたらし、同時に食品チェーンにおける新たな事業者のための経済的なチャンスがおもに市場メカニズムから生み出される。

スウェーデンでは、農業者が有機として農産物を販売しないときでも、有機農法に合わせることによって、農業環境便益を供給するように促している。

消費者、生産者および一般市民の目的を達成するために、有機農業政策は、これらの2つの社会的役割のための均衡の取れた取り組み方を開発すべきである。この政策は公益のために公平な長期の支援を提供し、同時に、安定した市場の発展を促進すべきである。この取り組みは、有機農業分野の成長を促進し、それによって、有機農業の全体的な発展が公的支援に依存することなく、両社会的役割を実行し続けることをめざしている

2. 有機農業の発展

2.1. 生産

有機農業は20世紀初頭に、おもにドイツ、英国およびスイスで発達した。しかし、有機農業に対する関心が本当に高まりを見せたのは、ほんの1980年代であり、この時代に有機農産物に対する消費者の関心とともに、有機農業の生産法が発展し続けた。その当時、生産者の数が大きく増加し、有機農産物の加工と販売活動のための新たな戦略が取り入れられた。有機農業の発展のためになったこの状況は、大部分が、健康的で、環境と調和した農産物を得たいという消費者の熱心な関心によるものである。同時に、加盟国は有機農業の可能性を次第に認め、加盟国の研究課題の一つに有機農業を入れ、しかも特別法を採択している。

けれども、これらの努力にもかかわらず、透明性がないため、有機農産物の市場の新たな発展が阻害された。1991年の理事会規則(EEC)2092/91の採択するにあたって、理事会は有機生産の方法を証明する有機農産物もしくは有機食品の条件を詳細に定めた欧州共同体の枠組みを設けた。

1992年以降、有機農業を農村開発プログラムの中に組み入れた。農業環境事業に基づき、環境に役立つ適切な農業活動以上の農業技術を採用する農業者を助成している。その農業者は負担した費用と失った収入が補償される。有機生産に関する研修、加工および販売活動、および農場への投資は他の農村開発措置に関係する。

1990年代には、この分野の急速な拡大がみられた。1985年に、確認された有機生産(転換中の面積を含めて)は、EUの農家数6300戸で、10万haに過ぎず、利用可能な農地総面積(UAA)の0.1%未満であった。2002年の終りまでに、農家数約15万戸、農地面積440万haで、農地総面積の3.3%、農家数の2.3%までに増加した*4

利用可能な農地総面積に対して有機農業面積の占める割合は、加盟国の中でかなりばらつきがあることを図は示している。新規加盟国では、有機農業は若干の国を除いて、EU15か国よりも発達していないが、すべての新規加盟国が有機農業を行い、そして認証システムがある。これらの国々の多くの農業は粗放的であるが、その特性を変えることはさほど難しくないであろう。新規加盟国は、加盟の時点から、他の加盟国と同じように、基準および検査に関して同じ要件を守ることになる。

2.2. 市場

OECDによると、21世紀初頭の有機農業分野は、年間、全世界で260億米ドル(欧州で110億米ドル、米国で130億米ドル)に相当すると推定されている。起点の金額は非常に低いものの、一般にもっとも高い成長率を示す農業分野であり、その年間成長率は15%から30%程度である。オーストラリアとアルゼンチンは世界最大の認証有機農地面積(主として放牧地)を保有しているが、オセアニアと南アメリカの場合は、有機農産物の市場が極めて小さく、それぞれ1億米ドル程度である。アジアの小売販売額は、2003年に4億から4億5千万米ドルの範囲にあったと推定される*5

EUにおける有機農業の生産額は、平均して農業総生産額の約2%を占める。有機農産物の販売額の割合も農産物の総販売額の約2%を占めると推定される。

3. 有機食品市場

3.1. 有機農産物についての消費者の認識

有機農業分野は、この市場の確立に成功している。この市場の確立は、あくまでも、規制と認証システム*6によって保証された規定の生産法の開発があって可能になった。有機農産物の隙間市場は、認証システムと偽りのない生産の保証という、消費者の信頼に大きく依存している。市場の拡大は、有機農産物の品質が非有機農産物よりも常に良いという消費者の認識に依存している。とはいえ、品質はかなり主観的な概念である。農産物がヘルシー、良好な味、またはこれまで以上の人気、もしくは時代感覚にマッチしているといった認識などの農産物の属性と関連づけられる。しかし、汚染のない好ましい環境もしくは、より近くで生産された農産物を求める消費者の倫理的価値にも関連づけられる。

市場調査は有機食品を購入する動機はいくつかあることを強調している。消費者が有機農産物を購入するもっとも重要な動機は、健康と味に関連するが、環境や動物福祉のような側面は、二次的動機であり、それぞれの加盟国で重要性が異なっている。

消費者が有機農産物を買わない理由についても調査してきた。明らかにされたもっとも重大な理由は、有機農産物が高すぎることである。消費者の中には、有機農産物を店で見つけられない、品質に違いがあるとは思わない、有機農産物の内容についての情報を持っていない、あるいは、それらの農産物が本当に有機農産物であるかどうか疑問に思う、という消費者もいる。それゆえに、付加価値の認識と費用間のバランスが重要な課題である。

3.2. 市場経済メカニズム

有機農産物市場をさらに成長させるための主要な障害の一つは、その消費者価格が高いことにあると思われる。有機農産物の割増価格は、国および農産物ごとに異なる。消費者が払わなければならない標準的な割増価格は、50〜60%程度である。農家売渡し価格の標準的な割増率は、変動が大きいものの、同じ水準にある。農業者が受け取る代金は、通常は最終価格のごくわずかであるので、有機農産物を売るとき、加工部門と小売部門が余分の割増金を受け取っていることを、調査は示している。

価格とそのもとになる費用間の関係について利用可能な厳密な情報がない。とはいえ、費用が高くなる明らかな理由はいくつかある。

流通チェーンにおいて、共同卸売り、加工および小売の段階で費用が高くなる理由は次のとおりである:

・ 原材料の購入価格が高く、供給の連続性に問題がある;

・ 非専用の卸部と加工の部門における清浄と分別の経費が高い;

・ スケールメリットがない:輸送経費が高く、少量処理によって単位あたり流通経費が高い;

・ 売れ残り品や廃棄品が多い;

・ 検査と認証に経費がかかる。

農場レベルでのコストが高いおもな理由は、作物の生産性および収量が一般的に低いこと、生産費を高める家畜の低密度飼養、新たな投下労働経費ならびに農場レベルの専門的技術水準の低さ、および検査と認証の経費が含まれることである。

最終的な商品の価格を下げるために、有機農業基準の適切な適用に悪影響を及ぼすことなく、コスト削減の方法を開発することが重要である。流通チェーンの傾向としては、農業者から消費者への直接販売が進展中である。このようなシステムは、有機農業について基本的な考え方を同じくする農業者と消費者との結びつきを強めることにもなりうる。

ところが、スーパーマーケットを通した有機農産物の販売がほとんどの市場において、急成長の流通経路である。有機農産物専門店で購入している消費者と比較すると、スーパーマーケットで有機農産物を購入している消費者は、環境配慮をそれほど重要に考えていない。このことは数年のうちに割増価格が下がるという期待へのいくらかの裏付けになる。さらに、売上高をさらに高めるには、さまざまな認識と意見を持ち、有機食品に傾倒していない消費者、しかも価格に敏感な消費者をますます当てにするので、需要の伸びがさらに困難になる可能性があると予想する理由もある。

一般市場経済の原則に従うと、供給の伸びが需要の伸びと一致している場合のみ、有機農産物の割増価格の維持が可能である。一致しない場合、割増を低減することになる。有機農産物市場は制限がないとみなされる傾向があったが、現実には需要と供給のバランスがある場合のみ、その市場の可能性を手に入れることができる。たとえば、多くの国は有機の食肉と有機の酪農製品の需要に関して、高い伸びを報告しているが、供給が需要を上回った場合の、いくつかの事例を列記することが可能である。これは、有機農産物と慣行の農産物間の価格差をひどく縮小するか、有機農産物が慣行の農産物として売られかのいずれかになっている。

結論として、供給と需要が相伴って伸び、有機農産物の占有率が十分に安定した市場を確立するために十分な大きさになることが、この分野の将来の発展にとって重要である。

3.3. 情報主導の需要

この行動計画に先立つさまざまな協議からの、もう一つの主要な結論は、消費者が有機農業の原則と便益について十分に知らされていないということであった。

有機農業についての利用可能な情報を広げるために、加盟国の公的当局と欧州委員会は、客観的で信頼性の高い情報を使用可能にすることが重要である。有機農業に関する基準、行為および環境や他の便益についての情報キャンペーンを確立すべきである。このキャンペーンは、消費者ならびに農業者のほかに加工業者、小売業者、大規模調理室ならびに学校も対象とすべきである。効果的であるためには、おもな対象者は一般市民でなく、(さらに多くの有機農産物を購入する「傾倒した」消費者と対照的に)限られた種類の有機農産物を確実に買う、時々の購入者を対象にすべきである。

EUにおいて消費されるかなりたくさんの食品が、たとえば病院、学校および職員用食堂など、大規模な調理室またはケータリングサービス*7において調理されている。そのような調理室の管理者は、非有機食品と一緒に有機食品を提供することを勧めることができるはずである。しかし、成功させるためには、関係する職員が適切な情報と研修を受ける必要のあることが経験から明らかとなった。

欧州共同体は、有機農産物に対する情報と促進のキャンペーンを支援するための選択肢をすでにいくつか持っている(附則Iを参照)。第三国の市場に関して、欧州委員会は直接に情報プログラムを企画し、資金を出すことが可能であり(直接管理)、一方、利害関係者と加盟国は、現在の欧州共同体の中でそのようなキャンペーンを定着させなければならない。そのためにEUは共同出資することができる。EU全体を対象にした効果的なキャンペーンを確保にするために、利害関係者主体の共同出資キャンペーンに加えて、EU域内市場に係わる情報活動、とくにEUロゴに関して、新提案と100%資金供給の手段を欧州委員会に与えることが適切と思われる。

行動1

有機農業に関する情報と促進のキャンペーンを組織化するために、欧州委員会に直接、行動するためのより多くの手段を与える理事会規則(EC)2826/2000(域内市場の促進)の改正を提出する。

消費者、公共施設の食堂、学校および食品チェーンの他の重要な関係者に、有機農業の利点、とくに有機農業の環境便益を知らせるために、そしてEUロゴの認識を含む、有機農産物の消費者の意識と認識を高めるために、EU全域において数年にわたって、情報と促進のキャンペーンを開始する。

時々、有機農産物を購入する消費者および公共施設の食堂など、明確なタイプの消費者に合わせた情報と促進のキャンペーンを開始する。

欧州委員会はキャンペーン戦略を開発するために、加盟国と専門組織との協同の取組みを増強する。

3.4. 基準間の違いによる市場問題

EUは欧州共同体全体の規則を施行したにもかかわらず、それぞれの加盟国において生産者に適用される基準の間に若干の違いが今でも存在する。EU規則が実施される以前は、民間の認証組織が有機農産物の購入者に保証を与える唯一の組織であった。それらの基準はしばしばわずかに違っており、消費者の選択、文化的な違い、生産条件、生産者の好み、および市場の反応を反映した地域的な好みを満たしていた。

生産者、消費者、市場取引担当者および他の利害関係者が、民間の基準および/または国の公的基準がEU規則によって定める基準と、どの程度、異なっているかを正確に知ることは困難なことが多い。さまざまな地域で有機農産物を販売することを望んでいる生産者は、とくに、より透明なシステムから便益を得ようとする。そのため、透明性を向上させ、さらに情報を簡単にアクセス可能にすることが非常に重要である。

欧州委員会が共同出資した新たな研究プロジェクト13)には、EU規則と比較した、さまざまな国および民間の基準との違いを記載したインターネット・データベースを立ち上げるための作業が含まれている。このプロジェクトは、より永続的なデータベースの出発点になるであろう。このようなデータベースが継続的に更新できるように、欧州委員会の支援によって、検査機関自らが管理すべきである。

行動2

欧州共同体基準と比較した、さまざまな民間および国の基準(国際基準と主要な輸出市場の基準を含む)を掲載するインターネット・データベースを立ち上げ、維持する。

基準間の公言された違いの透明性を向上させるとともに、このような違いは、貿易の障壁になりがちでなので、その違いを最小限にしなければならない。EU規則は、民間もしくは国の検査機関が課したより厳しい規則を現在、認めている。そのため、検査機関は必ずしも互いの基準を認識していないため、その結果として、かれら独自の民間ロゴのもとで当該農産物を販売することを拒否している。そのため、可能ならどこでも、基準を一致させ、また基準のなかで地方の違いを受け入れしやすくすることが重要である。第5節で提案した行動のいくつかは、その状況を改善することが期待されている。

3.5. 販売活動の手段としての有機ロゴ

EU規則で規定した最小限の条件に従って生産されたすべての農産物は、原則として、それ以外のロゴがなくても有機としてすべての加盟国内の市場で販売することができる。

民間の商標とロゴが長年、開発されてきた。加盟国の多くは、国または地方の検査および認証機関のロゴが記載されていなければ、小売業者は有機農産物を販売しないか、または消費者が有機として農産物を全く認識しないため、有機として農産物を売ることができない。

前節で述べたように、基準の違いと相互の認識の欠如は、市場の発展の妨げとなり、さまざまなロゴがあると、紛争の象徴として使われる。ある加盟国から事業者がとくにいくつもの加盟国に事業者の農産物を販売したい場合、地方ロゴの利用を得ることが複雑で、高くつくことがしばしばある。

これらの要因は、域内市場の有機農産物の取引の妨げになる。

2000年に有機農産物用のEUロゴを導入したが、その導入目的は、市場で有機農産物の識別をさらに向上させることはもちろん、EUの消費者に対して有機農産物の信頼性を高めることにあった。けれども、このロゴは依然として有機農産物に一般に使われていない。

ロゴを同一にすると、有機農産物の消費者の認識が高まることがいくつかの調査で明らかにされている。ドイツでは、国の有機農産物用のロゴが2001年に導入された。ドイツのロゴの成功は、共通ロゴと説得力のある情報と促進のキャンペーンを組み合わせたことによって市場を改善することにいかに貢献してきたかを示す一例である。

これは、有機農産物の共通ロゴが有機農産物の販売を増加させる非常に重要な要因であることを証明し、欧州委員会はEUロゴのより幅の広い使用が域内の取引を促進し、それによってEUにおける有機農産物の市場全体が拡大されると考える。

多くの消費者にとって、依然として民間ロゴが認める有機農産物用の唯一のシンボルである場合、EUロゴのより幅の広い適用が、EUロゴと一緒に民間ロゴを継続して使用することを排除すべきでない。さらに、この適用は、有機生産についてすでに知っている消費者に、消費者が好む検査システムの要件を満たす農産物を選択する自由を与えている。

EUロゴの義務的使用がロゴについての消費者の意識を高める効果的な方法と思われるが、調整された情報と促進のキャンペーンが現段階で、最初に行うべきことであると欧州委員会は考える。今後の進展次第で、この問題は、後で考え直すことができる。

協議の過程の中で、EUロゴが他のEUロゴとあまりに似ており、そのために、ロゴの字句を必ずしも読まない消費者が混乱することになるかもしれないという懸念が上った。欧州委員会は、混乱について、重大なリスクがあるとは思っていない、しかもロゴのデザインを変更する手続きには2,3年かかるので、発展を遅らせないために現在のデザインを維持することが望ましいと委員会は考える。

行動1(情報と促進のキャンペーン)と行動19(輸入農産物に関するロゴのより広範な使用)のもとで開始する行動は、EUロゴのより広範な使用を促進するであろう。

3.6. 需要と供給の監視と分析

欧州委員会は、理事会規則(EEC)2092/91によって、加盟国から有機農業者数、有機作物の栽培面積および有機家畜の頭数について、国レベルで行政データを目下、収集している。有機農業の変数は農業事業体の構造に関する欧州共同体の調査の中に最近、組み入れられた。この変数で有機作物の栽培面積の地域的分布のアセスメント*8が可能である。けれども、加盟国の多くは、有機作物の栽培面積に関する統計的情報が部分的であり、他の項目について利用可能な情報もほとんどないので、有機農業に関する現行のデータセットは、現在の加盟国すべてが完全であるというわけでもなく、使用可能であるというわけでもない。

さらに、供給チェーンの重要な問題であるにもかかわらず、有機市場について直ちに使用可能な統計的情報が欠けている。全市場に占める有機農産物の割合についての情報にアクセスすることが政策担当者とって重要であることに加えて、この産業は、その販売活動戦略を計画するために新たな情報が必要である。現在、有機農産物の販売に関して非公式の統計は使用できない。有機生産に関する統計的情報は、検査機関から収集することがいくらか可能であるが、有機農産物などの取引に関する非常に重要な情報は存在しない。取引データは、通常、各国の統計事務所から利用可能なだけであるが、ほとんどの加盟国において、有機農産物と非有機的農産物間に区別がされていない。

そのため、現行法によって、関連する情報と経済学的データの収集を強化することが重要であるが、有機農業、有機食品およびその市場に関する新たな公的な統計を収集するために、一致した方法を準備することも重要である。

行動3

有機農産物の生産と市場に関する統計データの収集方法を改善する。

欧州共同体統計プログラム*9、*10の枠組みの中で、EU統計局(Eurostat)は、加盟国と協力して、有機農業に関するデータの入手可能性と品質の向上をすでに開始した。有機農産物の情報を同一類型で集計するために、「慣行」農業に関する統計表の一部を拡張すべきである。すなわち統計的な分類と記載項目を関連統計値を収集するために合わせることができる。

4. 公共政策と有機農業

4.1. 共通農業政策の枠組みにおける有機農業

有機農業は、CAPの重要な原則である環境統合および持続可能な開発に関する戦略の重要な手段である。

有機農業者は、目下、直接支払いと価格支持措置を通して、CAPの第1の柱による支援を受ける資格がある。

さらに重要なことは、有機農業はCAPの第2の柱、農村開発政策の中に完全に組み込まれており、環境便益を供給する際に重要な役割を果たしている。2003年のCAP改革は、環境に対して高い水準の配慮を示す方法によって、安全で高質品の農産物を供給する農業分野が経済社会的にみて成り立つかどうかを重視した。したがって、CAP改革は、欧州における有機農業の今後の発展のために、次のような積極的な枠組みを定めることが予想される*11、*12

・ 単一農場支払いの導入:生産からデカップリング*13された単一農場支払いで、有機農業者は、以前の特定の作物や家畜に関連した直接支払いを放棄することなく、有機輪作にとってより適切と考えられる作物を栽培、そして、より粗放的に家畜を飼養することができるであろう。

・ 厳格な基準を満たす中で、有機農業者が獲得した親交と専門知識で、有機農業者はクロスコンプライアンス*14の新たな必要事項、とくに環境と動物福祉の基準に関して、すばやく、効率的に適応することができるであろう。

・ 農村開発プログラムのための資金の強化。

・ 有機生産法の動物福祉と食品の品質基準を重視すると、有機農業者が新基準(附則Iを参照)を満たすのに有利な条件にもなる。

加盟国は、それらの実施に関してさまざまな選択肢があり、有機農業への影響は、加盟国が改革をどのように実施するかにかかっている。たとえば、デカップリングの程度と国別の包括予算*11の使用は、有機農業に影響がある。そのために有機農業の支援を望む加盟国は、新たな規則を実施する場合、有機農業への影響を検討しなければならない。

同様に、市場組織規則の改正に向けて広範囲にわたる影響アセスメントを立案する際に、欧州委員会は有機農業への提案の影響を含め、さまざまな利害関係者グループの利害関係を考慮する。

第1の柱の中で、果実と野菜の共同市場組織*15、*16は、該当する有機農業者の組織を含む生産者組織に特別の支援を与えている。

欧州委員会は、すべての農業支援は通報と分類に関するWTO規則*17、*18を遵守することを徹底する。

一般に、生産と関連している支援(結合支援)は、黄または青のボックス(政策)の通知を受け、削減の約束に従う*19

WTO条件を満たす環境プログラム*20の下でデカップリングされた支援と支払いは、グリーンボックス(緑の政策)によって明らかにされ、削減の約束の例外扱いとされている。

行動4

加盟国は有機生産に関係した果実と野菜部門の生産者組織に振り向けるEU支援に補助金を上積することができる。

4.2. 農村開発

理事会規則(EC)1257/1999 14)で定めた農村開発政策は、(たとえば、農場の環境と動物福祉の面の改善のための)農業事業体への投資、生産、研修、加工および販売活動の措置のための品質計画への農業者の参画と促進、条件不利地域への保証支払い、および農業環境措置など、さまざまな措置によって、第2の柱を通じて支払うことができる。この点で、有機農業はこの規則がめざした農業環境便益の大部分をもたらす農業活動と考えられる。

けれども、これらの措置のいくつかは有機農業分野において必ずしもよく知られていない。

行動5

欧州委員会は、生産、販売活動および情報に関して有機分野によって使用することができるすべてのEU措置を掲載したメニューをウェブ上で開発する。

新規加盟国を含む、すべての加盟国は、有機農業者が使用可能なプログラムを立ち上げている。

有機農業を開始することを決定したとき、農業者にとっておそらく市場の見通しがもっとも重要な要素と思われるが、経験的事実からすると、地域と国の農村開発プログラムの有機農業への強力な取り組みが有機農業に関する理解を高めることに役立つことがわかる。

この行動計画までの準備期間において、農村開発の重要ないくつかの要素を有機農業との関係から深く議論した。

4.2.1. 補完性の原則*21、*22

農村開発プログラムの作成においては補完性の原則が適用され、加盟国または地域の責任で優先事項を定め、適切な措置を選択することができる。この選択可能な項目に対する唯一の例外は農業環境であり、農業環境は明確な要求に従い、加盟国の全域で提案されなければならない。

4.2.2. 有機農業に対する特別な措置

一連の協議を通じて、農村開発規則の中に有機農業のための、特別に独立した章を入れるべきであるということを複数の利害関係者が提案した。けれども、農村開発規則措置のパッケージは、すでにさまざまな基準の下で有機生産のほとんどすべての面に適用することができ、しかも加盟国の責任で優先事項を定め、そして一貫性のある一式の措置、たとえば有機農業者が非有機的農業者と投資支援を受けるための同等の機会を確保する措置を導入することができる。

そのために有機農業のために別章を設ける利点は、かなり限られると思われる。

4.2.3. 一貫性のあるプログラム

農村開発プログラム*23では伝統的に農業環境措置と農業事業体への投資に重点を置いてきた。

けれども、需要側への支援政策は、供給側への支援を補完する不可欠なものと考えられる。有機農産物の需要を刺激すると、有機農産物の販売活動や加工の現行の手段はもちろん、農村開発規則の食品の品質に関する章の中の新たな手段も使ってさらに発展することができる。有機農産物の人気を押し上げるさらなる方法として、特産品および/または農村ツーリズムとの結びつきを定着するために使用可能な別の選択肢もある。

促進事業以外に、食品の品質に関する章には、農業者に品質計画への参加を促すことを目的とした奨励策を取り入れている。短期的な援助は、(有機農業、原産国の名称と地理的表示*24、*25、伝統的な特産物および特定の地域で生産される高品質のワインを含む)EUレベルおよび国家レベルで合意した事業に農業者が加入し、参加することを促進するために利用できる。これらの農産品に対して生産者グループの活動を促進することを同様に支援することができる。

4.2.4. 特定の課題に農業環境事業の焦点を合わせる

加盟国は、さまざまな環境便益を対象とした農業環境措置で構成されている多数の選択の幅を持ち、それを使うことができる。

特定の開発を支援するために農業環境プログラムを利用することが可能である。その一例としは、環境と家畜福祉への効果を最高に活用するために、農場全体を有機農業に転換するための奨励策を加えることができるであろう。

他の手段としては、有機農業が環境にプラスの影響を与えるために、若干の地区、たとえば、飲料水地区または他の環境保護地区の好ましい管理の選択肢として有機農業を対象にすることができる(第1.3節を参照)。

加盟国の中には、転換期間の間のみに農業環境事業を適用する国もあるが、長期間にわたって、環境と自然保護の便益を維持するために、転換後の期間も含めて考慮することが適切であることが多い。

4.2.5. 普及サービス

普及(または助言)サービスは、科学的な成果を農業の現場に移転する際に重要な役割を果たしてきており、しかも現場と研究との連結を理想的にする。有機農業者は、情報資源を出し合い、助言もしくは普及サービスに参加し、自分たちの農場を見学させ、有機農業に転換することに関心をもつかもしれない非有機農業者に有機農業者の経験を話すことによって、重要な役割をこの点で果たすことができる。

助言サービスを改善することは、有機農業の発展にとって重要な課題である。加盟国が助言組織と農業者に適合した助言事業の立ち上げを支援することはすでに可能であり、EUはそのための共同資金援助を目下、提供している(農村開発規則の第3章)。これは、加盟国、とくに、新規加盟国が有機農業のように環境と調和したシステムについての研修と教育に対して、現行のシステムの中で優先事項を与えることを考えなければならない一つの領域である。その点については、地方の供給チェーンおよび有機生産をとくに促進する地区の発展をめざす農業者のための研修と助言サービスを考慮に入れることもできる。

さらなる側面は、有機農業分野における研究および技術支援を開発する「有機農業分野の知識システム」の検討である。職業訓練において、有機農業/農産物に関する情報を標準の履修課目に含めることができ、しかも特別な研修コースを提供することが可能である。農村開発は、すでに適切な支援措置を提供している。

行動6

欧州委員会は農村開発プログラムの中で、有機農業を支援するために使用可能な手段を十分に利用することを加盟国に強く勧告する。たとえば、国または地域の行動計画は、以下の事項に重点を置いて開発する:

新たな品質計画*26を利用して需要側を活性化すること;

長期的に、環境と自然保護の便益を維持するための行動;

農場の一部でなく、全体を有機生産に転換する有機農業者のための奨励策を開発する;

有機農業者は非有機農業者と同様に、投資支援を受ける機会が等しく与えられること;

関係者間の(契約で保証された)取り決めによって、生産チェーンを統合することで、流通と販売活動を促進にする生産者のための奨励策を開発する;

普及サービスを支援する;

生産、加工および販売活動にわたる、有機農業に係わるすべての事業者のための研修と教育;

(これらの区域に有機農業を限定せずに、)環境保護区域の好ましい管理の選択肢として有機農業を対象にする。

欧州委員会は、農村開発プログラムの証拠書類の事後評価(evaluation)*8、*27を目下、行っている。事後評価の要素の一つが有機農業への影響である。現行の農村開発プログラムから得られた経験は、2006年以降の農村開発の新たな枠組みの中に入れられるであろう。

4.3. 研究

有機農業分野の拡大を促進するために、またその生産力を高めるためにも、新たな情報、とりわけ、新たな技術が求められる。そのため、農業者に有機農法に関する情報への容易なアクセスを提供することは、有機分野を発展させることを目的とした政策の重要な部分である。有機食品および有機農業分野は、非常に動的であり、急速な成長と絶え間ない発展を示しており、新技術の利用可能な情報を効果的に交換するための支援が必要である。そのために、研修と研究は、大学や他の研究機関の研究プログラムを採択することから、農業者に適切な技術移転を可能にするための農場研修まで、すべての段階で重要である。研究、助言サービス、農業者の間の密接な協力によって、研究の成果を農業現場に移転することが加盟国の一部ですでに実施されている。けれども、この分野の協力を他の加盟国および加盟国間で向上させる必要がある。

有機食品は、伝統的に最低限の加工で売られていた。今日では、有機農産物を買う消費者が有機農産物の加工品を見せてもらいたいということも明らかであり、原則として、食品のすべて、もしくは少なくともほぼすべてを有機として提供することを可能にすべきである。ところが、有機農産物への使用が認められている添加物は、ほんのわずかであるので、加工業者にとって問題が生じるかもしれない。

そのために、加工業者は、個別の製品について認識された歯ごたえ、色、保存品質などを保持するために新たな加工法を開発しなければならないだろう。有機農業者とは異なり、加工会社は、加工と流通の両方の分野で非有機農産物と有機農産物を扱うことが多い。このことは、加工業者は2つの食品チェーンを分けるために相当の費用に直面することになる。そのため、このことは有機食品用の分別加工チェーンを開発するために、加工産業がさらに多くの研究を必要とする分野の一つである。

第6次枠組み計画(FP615))において、「農業」は特定の優先項目ではないが、有機食品と農業に関係のある研究項目は、優先領域5「食品の品質と安全性」とテーマ別優先領域6「持続可能な開発、地球環境変化と生態系」、トピック5「持続可能な海岸地区、農地と森林を含む土地管理戦略」および政策計画のための科学支援の下で(おもに)見ることができ、公開された目的別の提案募集に従って、さまざまなタイプの研究活動を提出することができる。

発展途上国の研究機関は、EUの研究計画に参加することができる。けれども、別の活動プログラムの中で発展途上国の関連課題の取込みを考慮に入れて、その参加を、さらに促進すべきである。

FP5とFP6を受けて設定した有機農業プロジェクトのリストは、インターネットの下記の場所で公表されている:

http://europa.eu.int/comm/research/agriculture/research_themes/organic_farming.html (対応するページが見つかりません。2010年6月)

共同研究センター(JRC)でも政策の発展を支援し、第6次枠組み計画の下で資金が供給された研究課題を実施している。JRCは3つの中核研究分野を定めた。その中の2分野は有機農業と非常に関連がある:「食品、化学製品および健康」と「環境と持続可能性」。これらの分野の研究項目が、JRCの一つまたは複数の研究所で実施される。JRCは、また、信頼性の立証の向上の手段の調査も行う(全体論的方法の検証など)。目下、有機農業に関連するいくつかのプロジェクトがすでに実施中である。

行動7

有機農業とその生産法に関する研究の強化。

脚注

1) 農産物の有機生産ならびに、農産物および食品の有機生産を証明する表示に関する1991年6月24日の理事会規則(EEC)No 2092/91 (欧州官報 L 198、1991年7月22日、1ページ)。

2) 家畜生産を含めるために、農産物の有機生産ならびに、農産物および食品の有機生産を証明する表示に関する理事会規則(EEC)No 2092/91を追加する1999年7月19日の理事会規則(EC)No 1804/1999 (欧州官報 L 222、1999年8月24日、1ページ)。

3) 2002年12月12日のSEC(2002) 1368 :http://www2.rda.go.kr/kpms/ipsm/Korean/03_undp/morgue/cord/05.pdf (最新のURLに修正しました。2010年6月) (対応するページが見つかりません。2011年10 月)

4) http://europa.eu.int/comm/agriculture/qual/organic/plan/result_en.pdf (対応するページが見つかりません。2010年6月)

5) http://europa.eu.int/comm/agriculture/events/organic/index_en.htm (対応するページが見つかりません。2010年6月)

6) オーストリア、ベルギー、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、ドイツ、フランス、アイルランド、ラトビア、オランダ、ポルトガル、スロバキア、スペイン、スウェーデン、英国。

7) 欧州農業指導保証基金(EAGGF)による農村開発の支援といくつかの規則の改廃に関する1999年5月17日の理事会規則(EC)1257/1999 (欧州官報 L 160 1999年6月26日)。

8) 欧州委員会による協議文書、より良い世界のための持続可能な欧州:持続可能な開発のための欧州連合の戦略(イエーテボリ欧州理事会への欧州委員会の提案)(COM(2001) 264)。

9) 第6次欧州共同体環境行動計画を定める2002年7月22日の欧州議会と理事会の決定 1600/2002/EC(欧州官報 L 242、2002年9月10日、1ページ)。

10) CAPの中間見直し(COM(2002) 394 final)

11) http://ec.europa.eu/environment/etap/index_en.html (該当するページがみつかりません。2014年9月)

12) http://europa.eu.int/comm/agriculture/qual/organic/plan/consult_en.pdf (対応するページが見つかりません。2010年6月)

13) FP6:502327.有機農業に関するEU規則の改正を支援する研究。

14) 欧州農業指導保証基金(EAGGF)による農村開発の支援といくつかの規則の改廃に関する1999年5月17日の理事会規則(EC)1257/1999 (欧州官報 L 160 1999年6月26日)

15) 第6時枠組み計画(2002-2006年)。研究と技術開発のためのEU枠組み計画は、欧州研究圏の創設を支援する主要な手段である。

参考文献

*1: http://www.keidanren.or.jp/abac/glossary.html

*2: http://www.ahold.com/aholdinsociety/food/supplychain.asp (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*3: http://members.aol.com/coken/research/eba-new.htm (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*4: http://www.maff.go.jp/kaigai/2003/20030514uk52a.htm (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*5: http://www.grolink.se/org_agriculture.htm (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*6: http://www.maff.go.jp/soshiki/syokuhin/heya/new_jas/organic/gaiyou.pdf (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*7: http://www.jnto.go.jp/info/conventions/shiryoshitsu/dictionary/right/contents_c014.html (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*8: http://www.med.nihon-u.ac.jp/department/public_health/ebm/faq.html (対応するページが見つかりません。2010年6月) (「Q:EBMでは評価を表す単語がassessment, evaluation, appraisalといろいろ出てきますが、これらは異なるものでしょうか。」への回答を参照)

*9: http://europa.eu.int/grants/grants/community_statistical_prog/community_statistical_prog_en.htm (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*10:http://secretariat.efta.int/Web/EuropeanEconomicArea/ParticipationInEUProgrammes/programmes/Statistics (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*11:http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/agrifood/europe/news/04022601.htm

*12:http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/agrifood/europe/document/cap04.htm

*13:http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/agrifood/europe/news/02071101.htm

*14:http://www.maff.go.jp/j/study/other/tiiki_sigen/cyukan/pdf/data02.pdf (最新のURLに修正しました。2010年6月) (「交差要件(クロス・コンプライアンス)」を参照))

*15:http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/agrifood/europe/document/mtrmemo.htm (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*16:http://www.iti.or.jp/flash52.htm (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*17:http://organization.at.infoseek.co.jp/wto/agri/agrij18.htm (対応するページが見つかりません。2011年3月)

*18:http://www.zenchu-ja.org/JAnewHP/ja-zenchu/wto/shokuryoletter/letter/letter1211A.htm (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*19:http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/agrifood/europe/news/02071501.htm

*20:http://www.rrr.gr.jp/iso/ogawa/papercp51.htm (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*21:http://www.f.waseda.jp/kkuri/envecon/99_10.htm (対応するページが見つかりません。2011年10月) (「17.2.3. Future Policy」を参照)

*22:http://www.econavi.org/weblogue/back/25/backnumber/special/22.htm の「EU〜国〜地域地域の関係----補完性原理」の項

*23: http://www.go-em.gov.uk/rural/englandrd.php?x=0 (対応するページが見つかりません。2012年8月)

*24:http://www.nta.go.jp/category/kenkyu/syurui/2038_01/20.htm (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*25:http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/globalisation/agritrade/news/03061201.htm

*26:http://www.welcomeurope.com/news_info.asp?idnews=1612 (対応するページが見つかりません。2010年6月)

*27:http://www.jabee.org/OpenHomePage/q&a0204-0509.htm (対応するページが見つかりません。2014年10月) (「2. 日本技術者教育認定制度の求めるもの」を参照)

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