地球の温暖化に伴う寒地型牧草の夏枯れ地域の変動予測


[要約]
地球の温暖化に対応した寒地型牧草の栽培地域の変動予測を行なった。ニューラルネットワーク手法により生産量と気温及び日射量の関係を明らかにし、気候シ ナリオを用いて乾物生産区分図を作成した。高CO2濃度の直接の影響についても検討した結果、夏枯れ地域は拡大し、寒地型牧草の栽培地域は縮小することが 予測された。
草地試験場 草地計画部 草地立地研究室、造成計画研究室、草地機能研究室
[部会名] 環境評価・管理
[専門]  環境保全
[対象]  牧草
[分類]  研究

[背景・ねらい]
いくつかの気候シナリオによって予想されている温室効果ガスの増加による地球規模での気候変化は、来世紀の初めに温暖化として我々の暮 らしに影響をもたらすことが懸念されている。草地畜産にとってもその影響を予測し、対策を検討することが急務である。わが国の主要な牧草である寒地型牧草 は、現在でも関東以西では夏期の高温によって夏枯れによる生産低下が起きており、温暖化によって夏枯れが一層深刻化すると予想される。一方、温暖化の原因 の一つであるCO2濃度の上昇は牧草の生産を増加させることも知られている。そこで、温度上昇の影響及び高CO2濃度の影響を合わせて評価するとともに、 草種による対応の可能性を検討する。
[成果の内容・特徴]
地球規模での環境変動(気候シナリオ)に対応した牧草の生産力の変動予測を行った。気候シナリオに基づく気温データを用いて各草種の乾 物生産区分図を作成した結果、夏枯れ地域が拡大することが予測された。生産量を増加させると言われている高CO2濃度の増収効果を加味しても、夏枯れ地域 はあまり改善はされないと予測された。
  1. オーチャードグラス、ペレニアルライグラスおよびトールフェスクの栽培試験データに基づき、ニューラルネットワーク手法により生産量と気温及び日射量の関係式を作成した(図1)。
  2. 高CO2濃度の直接の影響を検討するため、350ppmと700ppm条件下でのオーチャードグラスの生育実験の結果から関係式(図2)を導き、これを加味して夏枯れの程度を検討した。
  3. 温度上昇を低く見積もっている気候シナリオ(GISSモデル)を適用した場合でも、夏枯れが激しくなることが予測され、夏枯れに強いとされるトールフェスクでも改善効果は少ないと考えられた(図3)。

[成果の活用面・留意点]

  1. 温暖化に対応した草地研究の重要な情報として利用できる。
  2. 成果は現在における影響の予測であり、今後、気候シナリオの精度の向上や改善、基礎的、定量的知見の増加によって、改良されて行くべきものである。


[その他]
研究課題名:牧草の生産力変動予測技術の開発
予算区分 :一般別枠(地球環境)
研究期間 :平成6年度(平成5年〜8年)
発表論文等:温暖化に伴う牧草気象生産力の変動予測、日草誌40(別)159-160
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