耕作放棄地を含む中山間傾斜農地における土壌侵食評価式


[要約]
急峻斜面上の連続した農地において、耕作放棄など管理粗放化に伴って発生した表流水による土壌侵食を評価・予測するために、USLE(Universal Soil Loss Equation)型の式に斜面上位からの流入水の寄与項を加えた侵食評価式を作成した。
四国農業試験場 地域基盤研究部 環境管理研究室
[部会名] 環境評価・管理
[専門]  環境保全
[対象]  
[分類]  研究

[背景・ねらい]
近年、耕作放棄などの管理の粗放化に伴い、排水路の埋没などにより圃場に外部から水が流入して土壌侵食が進行している。ここでは、外部の影響のない農地 (USLEの対象とする農地)のみではなく、斜面に連続した農地集団の農地の土壌侵食を評価するために、USLE型の式に流入水の項を加えた侵食評価式を 作り、実態との適合性を検討した。
[成果の内容・特徴]
  1. 圃場内部に起因する侵食量を評価するUSLE型の式に、圃場外部からの流入水に起因する侵食量を評価する項を加えた式を考案した。右辺の第1項 は、傾斜畑あるいは棚田法面のUSLE型、第2項は田面のUSLE型の項を示す。第3項は、管理の粗放化などによる外部からの流入水の侵食への寄与の項で ある。なお、この式では、上部の農地からの土壌の流入は考慮していないので、侵食土量は侵食可能土量である。
    A=I・K・[E・{L・S・C・P・rn+L'・S'・C'・P'・(1-rn)}+fa・m・g・h・C・P]
    A:侵食土量 R:降雨係数(=E・I) E:降雨の運動エネルギー I:降雨強度 K:土壌係数 L:斜面長係数 S:傾斜角係数 C:作物係数 P:保全係数
    fa:圃場外部からの流入水の侵食寄与程度を表す係数 m:圃場面積あたりの、外部から流入する地表流出水量 g:重力加速度 h:圃場の上下の標高差 (降雨量、集水面積、比高に依存する)  rn:傾斜部分割合(傾斜畑ではrn=1、田面が平らな棚田では、法面割合がrn、田面割合が1-rnとなる。)
    注)L、S、C、Pは傾斜部分の値で、L'、S'、C'、P'は平らな田面部分の値である。
  2. 傾斜角係数Sは、USLEのS算定式では傾斜が急な斜面では過大評価するため、人工降雨実験で得られた式を用いた。土壌係数Kは、降雨実験と侵食試験から 求めた。降雨強度I、降雨の運動エネルギーE、斜面長係数L、作物係数C、保全係数Pは、アメダスデータ、侵食試験、USLEマニュアル等に準拠して求め た。
  3. 侵食実態調査の結果、圃場外部からの流入水の侵食寄与程度を表す係数faは圃場によりばらつくが、耕作放棄後間もない植生の不安定な荒野の状態の場合には 平均1.0、安定化した原野あるいは草刈りなど一定の管理が加えられる場合には約0.2、耕作田畑ではほぼ0となった。
  4. 高知県大豊町西峰の一部について、管理が粗放である耕作放棄地および採草地の分布(図1)、 評価式のUSLE型の項によって推定される土壌侵食可能土量(図2)、評価式によって推定される 土壌侵食可能土量(図3)、および現地調査結果(図4)を示す。 管理の粗放化によって土壌侵食量が増し、山地を開析する主谷(標高約400m)との比高が小さいほど、また山腹を刻む沢すじに近いほど侵食が生じやすいという調査結果を、 評価式はほぼ反映することができた。
[成果の活用面・留意点]
  1. 傾斜農地の管理粗放化に伴う環境保全機能の変動予測と評価、および中山間地域資源の保全管理計画策定などに活用できる。
  2. この成果は、西南暖地の四国中央部の結晶片岩を母材とする山地斜面(平均傾斜20度)の標高500〜1000mの範囲において得られたものである。

具体的データ


[その他]
研究課題名:四国地域の土壌侵食の変動評価
予算区分 :特別研究(中山間保全)
研究期間 :平成6年度(平成4年〜6年)
発表論文等:1) 四国の中山間農地の土壌侵食予測手法、日本土壌肥料学会関西支部
        大会講要(1994)
      2) 四国の急傾斜畑におけるマルチングの土壌侵食防止効果、土壌の物
        理性、71号(1995)
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