農村環境の生物保持機能に着目したビオト−プ結合システム


[要約]
伝統的な平地農村のモデルを所構内に造成することによりトンボ類,カエル類、森林性の鳥,疎林・草地を利用する鳥,林内空間を利用する鳥,フクロウなどを 定着させることのできる平地農村のビオト−プ結合システムの望ましい姿を明らかにした。
農業環境技術研究所  環境管理部  資源・生態管理科  植生動態研究室
[部会名] 環境評価・管理
[専門]   環境保全
[対象]
[分類]   行政

[背景・ねらい]
 生物の豊富な農村環境を望む声が都市住民などの間で起こっている。伝統的な平地農村のモデルを所構内に造成し,回復してくる生物相から,豊かな生物相を 保持するための平地農村のビオト−プ結合システムの望ましい姿,特に集落樹林,二次林,溜池などの配置の仕方や管理の仕方などを明らかにするための調査研 究を行なった。

[成果の内容・特徴]

  1. 造成した水空間から移動したトンボ類の移動距離を計った結果,トンボ相を保持するためには水空間を約1km以内の間隔で造成する必要のあることが わかった。また伝統的な谷津田の溜池は1Km以内の間隔で隣合うことがわかり,この配置がトンボの種供給を可能にし,トンボ相の多様性と安定性の保持に役 立ってきたこともわかった。
  2. カエル類では地上性のニホンアカガエル・アズマヒキガエルは,水空間の間の土地利用が樹林地・畑などの場合は約1kmの距離でも移動が可能なこと, 樹上性のシュレ−ゲルアオガエルの移動を保障するためには樹林地を連続させる必要のあることがわかった。
  3. 所構内の二次林に冬期に飛来する森林性の鳥を調査し,筑波山,宍塚大池,筑波大・実験植物園,工技院・気象研究所,洞峰公園の鳥相と比 較することにより,森林性の鳥を平地農村に呼び戻すためには,樹林地率を16%以上にする必要のあることを明らかにした。これらの鳥が平地農村まで降りて きていた時代の樹林地率は土地面積の25〜30%であったことから,この値が鳥相を保持するための目安となることがわかった。
  4. 二次林の林床管理を行なって鳥相の変化を調査した結果,疎林・草地を利用する鳥(ホオジロ・カシラダカ・カワラヒワ),林内空間を利用する鳥 (エナガ・シジュウカラ・メジロ・コゲラ)を定着させるためには2〜3年に1回の林床管理が必要であることがわかった。
  5. 繁殖期のフクロウはスズメ・ムクドリを幼鳥の段階で多く食べていることがわかった。スズメは都市化により増加することが巣数と住宅数の 関係からわかった。また大規模住宅団地に接した繁殖地のフクロウはスズメを多く捕っていることから,都市化によるスズメの増加をフクロウの定着により抑制 できる可能性のあることがわかった。さらにフクロウを繁殖させるためには林縁部が閉鎖された0.7ha以上の樹林が必要であること,繁殖地の最短間隔は約 1.3kmで,伝統的な集落の間隔と一致することから,各集落樹林に定着可能なことなどがわかった。
    またフクロウに二次林の林床で生活する動物を捕食させるためには,明るい林の場合は1年に1回,暗い林でも2年に1回程度の下草刈りを行う必要のあることがわかった。
    具体的データ
[成果の活用面・留意点]
 これらの成果は市町村等の環境計画に活用できる。ただしこの結果は平地農村においてのものなので,他地域に適用する場合には地域の環境条件を考慮する必要がある。

具体的データ


[その他]

研究課題名:農村環境の生物保持機能に着目したビオト−プ結合システムの開発
予算区分 :経常
研究期間 :平成7年度(平2〜7年度)
発表論文等:(1)トンボの移動距離をとおしてみた湿地生態系のありかた,人間と環境,15(3),
        2-15,1990
      (2)谷津田環境の配置がもつトンボの種供給機能,環境情報科学,21(2),84-88,
        1992
      (3)農村環境とビオト−プ,農林水産省農業環境技術研究所編『農村環境とビオト−
        プ』,38-66,養賢堂,1993

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