CO2濃度の上昇と水稲の生育・収量


[要約]
大気中のCO2濃度の上昇にともない水稲個体群光合成,地上部乾物重等の増加が認められた。CO2濃度が現在よりも約2倍となると, 水稲の収量は穂数・籾数の増加を痛じて8〜15%増加する。
農業環境技術研究所 環境資源部 気象管理科 大気生態研究室
[部会名] 農業生態
[専門]  農業気象
[対象]  稲類
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 化石燃料の消費量増加により,大気中のCO2濃度が上昇し,21世紀半ばには現在の2倍の濃度に達すると推定されている。そこで,将来 予測される大気CO2濃度上昇が水稲の光合成・物質生産・収量等に及ぼす影響を実験的に明らかにし,地球温暖化の対策に資する。
[成果の内容・特徴]
  1. 個体群光合成の連続測定が可能な屋外閉鎖型人工気象室(クライマトロン,1989〜94年(長さ3m・幅2m・高さ2m),1995〜96年(長さ4m)) 3〜6室を用いて,移植時から収穫時までCO2濃度を350〜1900ppmの数段階で水稲(日本晴)を群落状態で栽培し,CO2濃度の違いが 個体群光合成,生育,収量等に及ぼす影響を調査した。
  2. 各年を通じ,出穂日はCO2濃度の高い場合,対照区(350ppm)よりも1〜2日ほど速まる傾向が見られた。
  3. CO2濃度が高まるにつれ水稲個体群光合成速度の上昇が見られ,650ppmでは350ppmの場合に比べ,光・光合成関係の初期の勾配(光利用率に相当)で 約50%ほど高まることが認められた。しかし,650ppmを越えると,CO2濃度増加の影響は小さくなった(図1)。
  4. 乾物重の増加は,個体群光合成の結果を反映して650ppmまではCO2濃度の増加につれ増加したが(12〜15%),650ppmを越えると,CO2濃度の 影響は小さくなった。また,CO2濃度増加により茎数・穂数・m2当たり籾数が増加し,これらの増加を通じて収量は8〜15%増加した (表1)。
[成果の活用面・留意点]
 温度環境等より自然に近い条件を試験室内に創出し,CO2濃度と水稲収量との関係を検討したもので,地球温暖化の影響を評価するための指標となる。 自然光型人工気象室内での実験であるため,地温・作土層等の土壌条件(本試験の場合土壌の深さ約25cm)が圃場条件とは異なり,これら土壌条件の違いの影響については, 今後検討する必要がある。

具体的データ


[その他]
研究課題名:高二酸化炭素濃度大気が作物の生理・生態に及ぼす影響の解明
予算区分 :経常
研究期間 :平成8年度(昭和59〜平成8年)
発表論文等:
     1)高CO2濃度下水稲群体之光合作用及乾物生産,中華農業気象1(2),p.69−74(1994)
     2)CO2濃度上昇と温暖化が水稲の生育及び収量に及ぼす影響,日作紀65(2),p.222−228(1996)

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