クリタマバチの土着寄生蜂に対する導入寄生蜂の影響


[要約]
 関東、中部地域では、クリタマバチの防除に導入寄生蜂チュウゴクオナガコバチが放飼されて後、土着寄生蜂クリマモリオナガコバチが減少したが、 野外における両種の交雑頻度は低いと推定される。
農業環境技術研究所 環境生物部 昆虫管理科 天敵生物研究室
[部会名] 農業生態
[専門]  作物虫害
[対象]
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 クリの侵入害虫クリタマバチ防除のため,中国から導入した導入寄生蜂(チュウゴクオナガコバチ)は,1982年つくば市で放飼され,関東地方でクリタマ バチの被害を顕著に減少させた。一方,土着寄生蜂(クリマモリオナガコバチ)との相互作用が示唆されていたが,野外における実態は不明であった。そこで, 導入寄生蜂が競争関係にある土着寄生蜂へ及ぼす影響を解明しようとした。
[成果の内容・特徴]
  1. 1993〜1995年にかけて関東,中部地域のクリに着生したクリタマバチのゴール(虫こぶ)を採集し,羽化調査および形態観察により,羽化した 寄生蜂雌個体の種類, 個体数を調査した。導入寄生蜂の放飼点により近い関東地域の平野部(前橋)では,ほとんど土着寄生蜂は羽化せず,導入寄生蜂および相対産卵管鞘長が導入・土着寄生蜂の 中間的な値を示すもの中間型が羽化した。放飼点から遠い群馬・長野県境(松井田)や長野県下(小布施)では,土着寄生蜂が優勢であったが,導入寄生蜂や中間型の 比率が毎年増加傾向を示した(図1)。従って導入寄生蜂の影響により土着寄生蜂が減少したと推測された。
  2. 1991〜1995年にかけて関東・中部地域の11地点で採集したゴールから羽化した856頭の雌個体について,ポリアクリルアミドゲ ル電気泳動によるマリックエンザイムの バンドパターンの分析により土着寄生蜂と導入寄生蜂の交雑個体の検出を行った結果,9個体のみが交雑個体であった。形態観察で中間型と判定された個体のほとんどが アイソザイム分析では導入寄生蜂と判定された(図2)。野外における導入寄生蜂と土着寄生蜂の交雑の頻度は低いと推定された。
[成果の活用・留意点]
 クリタマバチ防除に利用する導入天敵と土着天敵間の競争,種間交雑の実態が明らかにされ,入天敵の土着天敵への影響に関して重要な知見が得られた。

具体的データ


[その他]
研究課題名:導入天敵の作用機作と侵入昆虫の個体群制御
予算区分 :大型別枠(生態秩序)
研究期間 :平成8年度(平成5〜7年)
発表論文等:導入寄生蜂チュウゴクオナガコバチと土着寄生蜂クリマモリ
      オナガコバチの野外における交雑,応動昆講要,p.167(1995)
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