三瓶山地域における短草型草地の特性と放牧による植生管理


[要約]
三瓶山地域の草地で調査を行なった結果、放牧条件下の短草型草地は、不食地と被食地の間で種組成や群落構造が異なるために、刈取条件下の 短草型草地に比べて種多様性が高かった。多様性の保全を目標にする場合、比較的ゆるやかな放牧による植生管理が有効である。
中国農業試験場 畜産部 草地飼料作物研究室
[部会名] 農業生態
[専門]  生態
[対象]  野草類
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 放牧は,半自然草地を維持するのに必要な撹乱要因の1つであるが,植生管理手法としての評価は十分になされているとはいいがたい。そこで,島根県三瓶山 地域のシバまたはトダシバ優占の短草型草地を対象に,放牧地の植生の特徴を種組成や群落構造の面から明らかにし,放牧管理の有効性を検討する。
[成果の内容・特徴]
  1. 島根県三瓶山地域の,1ha当たり1頭程度の和牛放牧が行なわれている草地(放牧区,シバ優占),レクリェーション利用のために年4〜5回の頻繁な刈取り (多回刈区,シバ優占)または年1〜2回の刈取り(少回刈区,トダシバ優占)が加えられている草地において(表1),植生高の 異なる群落ごとに植物社会学的な調査を行ない,種組成や群落構造を比較した。
  2. 草地の現況は,放牧区および少回刈区については,短草状態(群落高約10p)の中に丈の高いパッチ(群落高30〜50p)が散在するモザイク状の相観を呈し, 多回刈区は全体が丈の低い(群落高約10p)芝生状の相観である。
  3. 群落別にみた出現種数と多様度指数(表2)からみると,放牧区では,丈の高いパッチ(不食地)での出現種数や多様度指数が 丈の低い場所に比較して高い。少回刈区では,丈の低い場所と丈の高いパッチとの間の出現種数や多様度指数に大きな差はみられない。一方,多回刈区が他の 2区に比べて著しく低いのが特徴的である。
  4. 種組成に基づいて植生調査プロットを序列化した結果,放牧地ではプロット間の種組成の違いが少回刈区,多回刈区に比較して大きい (図1)。これは有刺植物,不食植物あるいは糞の周囲に生じる不食過繁地が,種組成や群落構造の面で被食地と大きく 異なるためである(写真)。
  5. 以上より,多様性の保全を目標にする場合,不食地がパッチ状に残るような比較的ゆるやかな放牧強度(1ha当たり1頭以下)による植生管理が 有効な手段となり得る(図2)。
[成果の活用面・留意点]
  1. 自然公園における半自然草地の維持管理法を決定する上での参考となる。
  2. 貴重植物など保全を必要とする特定の植物個体群の管理法については未検討である。

具体的データ


[その他]
研究課題名:草原性植物の生態保全と畜産的土地利用との関連解析
予算区分 :経常研究
研究期間 :平成8年度(平成8〜11年)
発表論文等:高橋佳孝,内藤和明,放牧条件下における短草型草地の特性と
      植生管理への応用,国際景観生態学会日本支部会報,3(3)(1996)
目次へ戻る