盛夏期の北極域ツンドラにおける二酸化炭素収支特性


[要約]
 アラスカ州の北極域ツンドラにおいて微気象観測を行い,盛夏期の二酸化炭素(CO2)収支と微気象との関係を把握した。 水温の上昇や飽差の増大は,生態系呼吸量の増大や,光合成量の抑制をもたらし,大気から生態系に吸収されるCO2を減少させる傾向 が明らかとなった。
農業環境技術研究所 環境資源部 気象管理科 気象特性研究室
[部会名] 地球環境
[専門]  農業気象
[対象]
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 大気中の温暖化ガス濃度の上昇に伴い,地球温暖化,特に高緯度地域の温度上昇が予測されている。温暖化は,北極域ツンドラの有機質土壌の 分解を進行させ,凍土に蓄積された膨大な有機炭素を,二酸化炭素(CO2)やメタンとして大気中に放出させると予測されている。これは温暖化を さらに加速し,農業生産に多大な影響を及ぼす可能性がある。本研究では,北極域ツンドラにおいて微気象観測を行い,微気象とCO2収支との 関係を把握し,温度上昇がCO2収支に及ぼす変化について検討した。
[成果の内容・特徴]
  1. アラスカ州プルドーベイ(北緯70度15分)の北極域ツンドラで微気象観測を行った。7,8月の盛夏期の凍土は,地表面から深さ数10cmまで融解し, 水深1〜2cm程度の湿地状となった。温湿度や日射量等の一般微気象要素の他,渦相関法によりCO2フラックスを直接測定し, CO2フラックスと微気象との関係を解析した。
  2. ツンドラ植生上で測定されるCO2フラックス(fCO2)と,植物の光合成量P,生態系の呼吸量Respとの関係を模式的に示す (図1)。P,Resp共に気象条件に影響される。
  3. 日射条件が殆ど同じ(図2(a))3日間で,CO2フラックスのレベルは大きく異なり(図2(b)), 水温や飽差が高い場合(図2(c,d))に吸収(下向き)のレベルが低かった。この傾向は,内陸ツンドラでも同様に認められた。
  4. 図1の概念に基づいて,CO2フラックスと微気象との関係を表すモデルを構築し,生態系の光合成量Pと呼吸量 Respとを分離した。モデルによるCO2フラックスの計算値は,測定値とよく合致し(図3),PとRespの分離・評価の 妥当性が確かめられた。
  5. 水温の上昇(日平均で約4℃上昇)により,生態系呼吸量は約3gCO2/(m2d)増大し(図3(a)と(b)の白色部分), 高温で空気が乾燥した条件では,気孔の閉鎖等により光合成抑制量は通常の2gCO2/(m2d)程度から6gCO2/(m2d)程度へ 増大する(図3(b)と(c)の黒色部分)ことがわかった。
  6. 水温の上昇や飽差の増大は,生態系呼吸量の増大と光合成量の抑制をもたらし,大気中から生態系に固定されるCO2を減少させることが明らかとなった (図3(c)の斜線部分)。
[成果の活用面・留意点]
 結果は,盛夏期の海岸性湿地状ツンドラにおけるCO2収支解析結果である.気象条件とCO2フラックスとの定性的関係は内陸ツンドラでも 同様であるが,それぞれの数値は植生の種類や生育時期によって異なることに注意を要する。

具体的データ


[その他]
研究課題名:北極域ツンドラの微気象とCO2収支特性の解明
予算区分 :国際共同研究(二国間型)
研究期間 :平成7〜8年度
発表論文等:アラスカ州プルドーベイの北極域ツンドラにおける盛夏期のCO2収支に及ぼす微気象の影響,農業気象,53(1)(1997)

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