都市近郊水田の夏期最高気温低減効果


[要約]
都市近郊の水田や市街地の気温を測定し,水田の周辺市街地に対する夏期最高気温低減効果を明らかにした。水田と市街地の気温差は最大約2℃あるが,水田の 面積率が減り市街地との混在度が増すほど気温差は小さくなること,水田の気温低減効果は,水田と接した縁から市街地内150m前後まで及ぶことが認められ た。
農業環境技術研究所 環境管理部 資源・生態管理科 農村景域研究室
[部会名] 環境評価・管理
[専門]  環境保全
[対象]
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 都市近郊に残存した水田は,周辺市街地の夏期の最高気温を低減し,良好な居住環境の形成に寄与すると考えられるが,そうした 効果をもつ水田の形態や効果の波及範囲については,これまで解明されてこなかった。本研究は,水田の夏期最高気温低減効果とその分布形態との関係,及び同 効果が市街地内に及ぶ範囲について明らかにすることを目的とした。
[成果の内容・特徴]
  1. 埼玉県春日部市を中心とした6km(南北)×3km(東西)の事例地域について,1km2標準メッシュの1/20細分メッシュ(約50m×50m)により水田の分布を判読し, 9×9メッシュを単位に水田の面積率と市街地との混在度を求めた(図1脚注参照)。その結果,水田は面積率と混在度により5つのグループ (図1中のA〜E)に分類された。
  2. 5グループのそれぞれから代表的な水田を複数箇所選択し,夏期の正午前後に市街地との気温差を測定し, グループごとの平均値を求めた。 その結果,E(高面積率)→D(中面積率/低混在度)→C(中面積率/中混在度)→B(中面積率/高混在度)→A(低面積率)の順に 気温差が小さくなることがわかった(図1)。 とくに,面積率が中程度(30〜70%)の際には,混在度が高まるほど気温差は小さくなり, B(高混在度)とC(中混在度),D(低混在度)との間には,平均値に有意差(95%水準)が認められた。すなわち水田の面積率が中程度の場合には,市街地との 混在度が低い水田ほど気温低減効果を高くもつものと考えられた。
  3. 事例地域内の水田から市街地へ垂直にのびる道路(3コース)を対象に,夏期の午後に,水田縁から市街地内に至る気温を複数回,連続的に測定した。その結果, 水田縁から150m前後で気温が定常状態になることが認められた(図2)。すなわち水田の気温低減効果は,水田縁から150m前後までの市街地に 及ぶと考えられた。
[成果の活用・留意点]
 本研究の成果は,水田と低層住宅が混在する地域における合理的な土地利用手法を検討する際の基礎資料として活用できる。ただし本研究の結果は, 特定の事例地域において一定の気象条件のもとで得られたものである。成果の汎用性を高めるためには,様々な地域・気象条件のもとで本研 究と同様の測定を行なう必要がある。

具体的データ


[その他]
研究課題名:都市近郊水田の残存形態とその気候緩和機能の解明
予算区分 :重点基礎(「環境保全機能からみた土地利用変動の影響評
      価手法の開発に関する研究」)および経常
研究期間 :平成7〜8年度
発表論文等:1)Yokohari, et.al, Ecological Rehabilitation of
        Tokyo; Effects of paddy fields on summer air
        temperature in the urban fringe area.,33rd IFLA
        World Congress proceedings, p.557-563(1996)
      2)Yokohari, et.al, Effects of paddy fields on 
        summer air temperature in the urban fring eareas 
        of Tokyo, Japan. Landscape and Urban Planning 
        (in print) (1997)
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