素掘りラグーンに貯留したスラリーが浅層地下水の窒素濃度に及ぼす影響


[要約]
 地下に難透水層とその直上に透水性の高い滞水層を持つ緩傾斜面に掘削した素掘りラグーンに,粘度の低い低濃度のスラリーを投入すると,投入直後から急速に周辺の浅層地下水を汚染し,その影響は3ヶ月後の試験終了時にも認められる。
北海道農業試験場 草地部上席研究官 草地管理・地力研究室
北海道農業試験場 生産環境部 土壌特性・微生物研究室
[部会名] 環境評価・管理
[専門]  環境保全
[対象]
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 フリーストール牛舎導入を背景に,今後の酪農ではスラリー方式により大量の家畜排泄物を処理する例が増加する可能性がある。一方,その処理施設建造が遅れ,スラリーを素堀のラグーンに貯溜する事例が出始めている。その場合,周辺の地下水,ひいては水系に悪影響を及ぼす可能性がある。その影響程度を浅層地下水中の全窒素濃度の追跡により明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. 北海道農業試験場内で,地下2m以内に難透水層が,その直上に透水性の高い(飽和透水係数10-2cm/秒オーダー)滞水層がある緩傾斜面(傾斜度1.7゜)に素掘りのモデルラグーン(直径10m,深さ1.8m;写真) を造設し,雑排水により希釈され極めて粘度の低い乳牛のスラリー(全窒素濃度は800mg/L)を2回に分け計125トン投入した。ラグーンの周辺に配置した地下2mまで達する地下水採取管より浅層地下水を採取し,全窒素濃度を定量した。また,ラグーンに残存したスラリーの水深を測定した。地下水の全窒素濃度が2mgN/L以上(投入前の最高値は1.2mg/L)の場合をスラリーの影響と判断した。
  2. 影響範囲は斜面の最大傾斜方向(等高線と直交する方向)へ拡大する(図1)。
  3. 影響範囲は投入直後から急速に拡大し,9日後以降は縮小に転じる(表1)。その影響は,最盛期にはラグーンの75m下方まで,試験終了時(85日後)に於いてもラグーン15m下方まで認められる。
  4. ラグーンの水位は,スラリー投入直後に著しく低下し,投入10日後以降は緩慢になるが,54日後まで低下し続ける(図2)。 54日後のラグーンの水深は,投入した全スラリーの水深相当値に,降水による増加を加算し,蒸発による減少を減算した計算値の77%となり,残り23%相当分のスラリーは漏出したと推定される。
[成果の活用面・留意点]
  1. 本成果は,素掘りラグーンによる地下水汚染に対する評価の判断材料となる。
  2. 本成果は,比較的低濃度のスラリーまたは尿汚水を透水性の高い土壌で素掘りラグーンに貯留した場合のスラリーの漏出予測の参考となる。
  3. 粘度の高いスラリーを用いた場合,土壌の透水性,設置地点の傾斜度が異なる場合等,条件が異なるときは別途検討を要する。

具体的データ


[その他]
研究課題名:草地の環境保全機能の解明
予算区分 :経常
研究期間 :平成8年度(平成6〜10年度)
研究論文等:大型ラグーン貯留スラリーの地下水水質に及ぼす影響,日本土壌肥料学会講演要旨集,42,208(1996)
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