畑地の一毛作と二毛作における炭素のシーケストレーションの評価


[要 約]
 陸稲,トウモロコシ,大豆を一毛作した畑地と陸稲-大麦,落花生―小麦,トウモロコシ―大麦を二毛作した畑地における炭素収支を明らかにした。 一毛作および二毛作畑地(表層腐植質黒ボク土)とも年間の炭素収支はマイナスを示したが,畑地を二毛作として利用することにより,年間当たり 50〜110gCm-2の炭素(CO2)放出の低減が可能であることが示唆された。
農業環境技術研究所 環境生物部 植生管理科 植生生態研究室
[部会名] 農業生態
[専 門] 生態
[対 象]  
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 農耕地の管理・利用方法の違いによって,二酸化炭素の動態・収支がどの様に変化するのか,またどの様な管理方法により持続的で かつCO2の放出を低減した農業が可能であるかを解明し,農業生態系における炭素のシーケストレイション(隔離,封鎖)を評価する 必要がある。ここでは,作付体型の異なる畑地生態系において炭素の動態と収支を解明し,炭素(CO2)の吸収源・供給源の視点から 農耕地の評価を行う。
[成果の内容・特徴]
  1. 陸稲,トウモロコシおよび大豆の一毛作畑地の年間の炭素収支は270〜320gCm-2のマイナスを示した(表1)。 このマイナス分は,地下70cmまでの炭素の蓄積量の1.2〜1.4%に相当した。
  2. 陸稲―大麦,落花生―小麦およびトウモロコシ-大麦の二毛作畑地の年間の炭素収支も160〜270gCm-2のマイナスを示し (表2),このマイナス分は,地下70cmまでの炭素の蓄積量の0.7〜1.2%に相当した。
  3. 一毛作・二毛作畑地(表層腐植質黒ボク土;表層土壌(0〜5cm)の炭素含量6.7〜7.6%,窒素含量0.48〜0.52%)とも,上記のような耕種方法を 繰り返せば,土壌に蓄積されている炭素が年々消費され,耕地土壌の消耗を招くことが示唆された。
  4. 一毛作と二毛作の畑地における炭素収支を比較すると,二毛作畑地の方が炭素(CO2)の放出が少ないことが明らかになった。したがって, 二毛作畑地として利用することにより,年間当たり50〜110gCm-2の炭素収支の改善が可能であることが示唆された。
  5. 一毛作と二毛作畑地の炭素収支の違いは,主に冬作期における作物の炭素固定能に原因があり,畑地生態系からの炭素(CO2)の 放出量を低減するためには,休閑期を減少し,畑地の利用期間をできるだけ長くする(作物の栽培期間を長くし,畑地を裸地状態にしない)ことが 必要であると推察された。
[成果の活用面・留意点]
  1. 一毛作畑地と二毛作畑地(表層腐植質黒ボク土)における炭素収支の実態を明らかにしたことにより,今後の対応についての基礎資料となる。
  2. 二酸化炭素の収支・動態の予測モデルを構築するための基礎資料となる。

具体的データ


[その他]
研究課題名:農耕地における炭素のシーケストレーションの評価
予算区分 :環・地球環境(炭素循環)
研究期間 :平成9年度(平成8〜10年)
発表論文等:Carbon dioxide evolution from upland rice-barley double-cropping field in
      central Japan. Ecological Research, 11, 217-227 (1996)
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