非殺菌性化合物アシベンゾラルSメチルによるキュウリ病害抵抗性の誘導


[要 約]
 非殺菌性のベンゾチアジアゾール系化合物,アシベンゾラルSメチルをキュウリ葉に施用することによって炭疽病や黒星病に対する局部的及び全身的獲得抵抗 性が誘導される。化合物処理により,キュウリ葉のパーオキシダーゼ,キチナーゼ遺伝子が速やかに発現し,抗菌性物質benzyl hydroperoxideの生成量も増大する。
農業環境技術研究所 資材動態部 農薬動態科 殺菌剤動態研究室
[部会名] 農業生態
[専 門] 薬剤
[対 象] 果菜類
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 植物に全身的獲得病害抵抗性のような永続的な免疫性を付与する化合物アシベンゾラルSメチルについて,その抵抗性誘導機構を分子や遺伝子の レベルで解明する。また,これに基づいて,従来の殺菌剤による病害防除とは異なる環境低負荷型の新たな作物保護技術の開発を目指す。
[成果の内容・特徴]
  1. キュウリ第1葉を非殺菌性のベンゾチアジアゾール系化合物アシベンゾラルSメチル(benzo〔1,2,3,〕-thiadiazole-7- carbothioic acid S-methyl ester, ノバルティス社より分譲)の100ppm液に5秒間浸漬処理し,その3時間後キュウリ全体に炭疽病菌または黒星病菌を接種すると,第1葉のみならず上位葉においても 発病が顕著に抑制される(図1)。
  2. アシベンゾラルSメチルを浸漬処理したキュウリ第1葉からRNAを抽出してRT−PCRを行うと,抵抗性に関連すると想定されるパーオキシダーゼ,キチナーゼ 及びグルカナーゼ遺伝子の転写活性が速やかに増大している(図2)。
  3. アシベンゾラルSメチルを噴霧処理したキュウリ植物体地上部における抗菌性物質の増大をバイオオートグラフィーにより見い出した。 また抗菌性物質の 化学構造をbenzyl hydroperoxideと同定した(図3)。これは天然物としては未報告の化合物である。
[成果の活用面・留意点]
 作物における病害抵抗性誘導機構に関する基礎的知見が得られ,抵抗性関連遺伝子を導入した組換え体作物の作出に役立つ。

具体的データ


[その他]
研究課題名:非殺菌性化合物による作物病害抵抗性誘導機構の解明と利用技術の開発
予算区分 :経常
研究期間 :平成9年度(平8〜12年度)
発表論文等:1)石井英夫ほか:非殺菌性化合物CGA245704の数種病害に対する防除効果と抵抗性
        誘導,日植病報(講要), 63, 233 (1997)
      2)堀尾 剛:非殺菌性化合物CGA245704によってキュウリに誘導される抗菌性物質,
        日植病報(講要), 63, 233 (1997)
      3)石井英夫ほか:菌の感染・発病過程に及ぼす病害抵抗性誘導化合物CGA245704の
        影響,日植病報(講要), 63, 497 (1997)
      4)鳴坂義弘ほか:病害抵抗性誘導化合物CGA245704による抵抗性関連遺伝子の発現
        誘導,日植病報(講要), 63, 497-498 (1997)
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