農業統計情報を用いた地域レベルの窒素収支算定システム


[要 約]
 地域レベル(県・市町村)での農地を中心とした窒素収支を評価するためのモデルと,窒素フロー算出に必要となる農業関連統計情報をパソコン用表計算ソフ トに併せて収録することにより,簡便かつ迅速に任意の地域における窒素収支が算出可能な窒素循環算定システムを作成した。
農業環境技術研究所 環境管理部 資源・生態管理科 生態管理研究室
[部会名] 環境評価・管理
[専 門] 環境保全
[対 象]  
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 近年の農業は依然として化学肥料に対する依存度が高く,堆厩肥の農地施用量の減少による地力の低下が危ぶまれる一方で,家畜飼養の盛 んな地域では家畜糞尿が余剰となり処理に困るというアンバランスな状況が発生している。また,耕地において過剰な窒素が生態系の窒素循環における攪乱要因 となり,湖沼の富栄養化や畜産公害等,環境に対する様々な悪影響として具現化してきた。これらは地域を単位とした窒素循環が不適当なために生ずるもので, その実態を簡便に把握する手法が必要である。
[成果の内容・特徴]
  1. 窒素収支算定システムの概要
     これまでの窒素循環モデルに基づいた窒素収支算定の方法が,対象地域ごとに手動で行われていた点を,関連農業統計情報をデータベースとして 表計算ソフトに収録することにより,任意の県・市町村を対象とする地域レベルでの収支算定が簡便かつ迅速に行えるように効率化した。 図1に実行時のプロセスを示す。
    1. 各種統計デ−タは農林水産研究計算センターに収録された共通基礎データ(農林水産省統計情報部)を用いた。他の必要なデータは 土壌管理実態アンケート調査(農林水産省農産園芸局土壌保全班,1990),バイオマス資源のエネルギー的総合利用に関する調査(科学技術庁資源調査所,1982), 及び,農業技術体系等既存の成書等から求めた。  
    2. 図2に,窒素循環モデルのフローダイアグラムを示す。各種農作物の生産量と作付面積,家畜飼養頭数,人口, 化学肥料施用量,家畜糞尿排泄量と利用率(農地投入率)等から,各循環経路に物量を配分し,その後に対応する窒素含有率を乗じて窒素フロー量に換算する。
  2. 試行例  本システムの実行は,起動後のメッセージに従って,対象地域の県名と市町村名(県の場合は再度県名)を和名で順次入力すれば,収支計算を実行し 結果のシ−トが作成される。試行例として,日本全国における県ごとの窒素収支を求め,「耕地→蓄積と溶脱」になる窒素量を図3に示した。 各県で「耕地→蓄積と溶脱」になる窒素の量は,かなりの変異が認められた。
  3. 利用法 本システムの利用法としては,窒素資源の動態の現状把握のみにとどまらず,多収,化学肥料の減肥,家畜糞尿の利用促進といった農業技術の導入や, 農作物の作目と作付面積,家畜飼養頭数等の計数値を新たに入力することで窒素動態への影響をみるという利用法も可能であり,地域に存在する有機物資源の有効利用 のための地域計画のシミュレーション用プロトタイプとして応用できる。
[成果の活用面・留意点]
 現システムでは,統計データに関して,市町村別にデータを登録しているもの,県内または全国で同一のデータとしているものがある (表1)。市町村レベルにおける実行では,国・県で同一としている係数値をより地域の実態に即したとものし,さらに 地域の特性を組み入れたコンパートメントを加えることで,より現実を反映した評価が可能となる。

具体的データ


[その他]
研究課題名:農業生態系における養分循環のモデル化による新農業システムの評価
予算区分 :経常,一般別枠
研究期間 :平成9年(平成4〜10年度)
発表論文等:1)松本成夫,三島慎一郎,織田健次郎,袴田共之:地域農業における物質循環
        予測システム,システム農学, 11(2), 164-174 (1995)
      2)S. Mishima, N. Matsumoto, K. Oda : Data base for estimation of nitrogen
        flow in a region, Advances in Ecological Science Vol. 1 Ecosystems and
        Sustainable Development (eds J. L. Uso, C. A. Brebbia & H. Power), 243-
        252 (1997), Computational Mechanics Publications
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