Acidovorax 属植物病原細菌の病原型とそれに関連する菌体成分


[要 約]
 Acidovorax 属の植物病原細菌には,宿主植物の違いによって識別できる病原型が存在する。イネを宿主とする病原型の細菌は,イネに病害感受性を誘導する菌体成分を有する点で他の病原型の細菌と異なる。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境生物部 微生物管理科 微生物特性・分類研究室
[部会名] 農業環境・農業生態
[専 門] 作物病害
[対 象] 微生物
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 Acidovorax 属に属する植物病原細菌は,細菌学的性質に基づいて2種3亜種に分類されている。ところが,本属には植物に対する病原性が異なる系統が多数存在するため,植物検疫での病原菌の特定や病害防除法の策定などにおいて大きな障害となっている。そこで,本属細菌を宿主植物の違いに基づいて病原型に類別するとともに,菌体成分を利用して病原型を識別する可能性を検討する。
[成果の内容・特徴]
  1. Acidovorax 属細菌は,分離源植物種だけに明瞭な病斑を形成する特性があり,その特性に基づいて複数の病原型に類別できた。例えば,イネ分離菌は一つの病原型(イネ系統)を形成し,イネに対する病原性の有無で他の病原型(非イネ系統)と識別できた(表1)。
  2. 宿主植物の分類と細菌学的性状に基づく分類との間に密接な関係が認められ,イネ科植物にはA. avenae subsp. avenae,ラン科植物にはA. avenae subsp. cattleyae,ウリ科植物にはA. avenae subsp. citrulli,コンニャクにはA. konjaciが寄生した(表1)。
  3. 非イネ系統の生菌あるいは菌体成分(菌体表層成分の抽出物)をイネへ前接種すると病害抵抗性が誘導され,二次接種菌による病斑の伸長が抑えられた。同様の現象はイネ系統の菌体成分にも見られた(図1)。
  4. 一方,イネ系統の菌体成分においては二次接種菌の感染初期の増殖を促進した(図2)ことから,病害感受性を誘導したと考えられる現象が認められた。
  5. これらの現象は,イネ系統の菌体成分中にイネに病害抵抗性を誘導する物質とともに病害感受性を誘導する物質も含まれていることを示すものであり,この点で非イネ系統の細菌と異なった。
[成果の活用面・留意点]
  1. Acidovorax 属の病原型は宿主植物に接種することによって識別できる。また,宿主に病害感受性を誘導する物質やその生産遺伝子を特定すれば,接種試験を実施しなくてもAcidovorax 属細菌の病原型の判定が可能となる。
  2. 菌体成分による病害抵抗性や病害感受性の誘導機構については,さらに解析が必要である。

具体的データ


[その他]
     研究課題名 :Acidovorax 属細菌の宿主認識特性の解明
     予算区分  :経常
     研究期間  :平成10年度(平成8〜10年度)
     発表論文等 :
       1)Acidovorax 属の生菌およびその菌体成分によるイネ褐条病の病斑形成の抑制,日植病報 64(5) (1998)
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