ウイルス媒介虫の空間分布集中性がイネ縞葉枯病の発生に及ぼす影響の数理モデルによる評価


[要 約]
媒介虫であるヒメトビウンカの平均こみあい度が一定値以下だと本病は発生しないが,媒介虫の集中性が高ければ,個体数に関わらず,保毒虫率(ウイルスを持つ虫の率)は一定値に保たれる。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境生物部 昆虫管理科 個体群動態研究室
[部会名] 農業環境・農業生態,総合農業・生産環境
[専 門] 作物虫害
[対 象] 昆虫類
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
イネ縞葉枯病は1970年代に大発生したが現在は病害抵抗性品種導入などにより終息している。 しかし,その発生・終息のメカニズムは十分には解明されていない。本研究では病気の発生機構を媒介虫の個体数や分布集中性を組み込んでモデル化し,病気の予防のための基礎的知見を得ることを目的とする。
[成果の内容・特徴]
  1. 保毒虫率(ウイルスを保持する媒介虫の率)の変動を示す式を導いた(式1)。 茨城県農試によって収集された発生予察データを用いて非線形最小二乗法により1年あたりの垂直伝染率α,1年あたりの水平伝染率βを推定し,α= 0.80, β= 0.085を得た。
  2. 分布集中性の影響を例示するために,媒介虫の分布が集中している場合と集中していない場合で本病の発生がどのように違ってくるかをシミュレーションで示した(図1)。 分布が集中していない場合には保毒虫率が低くなり病気が絶滅する傾向がみられる。
  3. 媒介虫の平均こみあい度mtが一定値以下であれば本病は発生しないことが解析的に示された(式2)。 この不等式から平均個体数に関する不等式を導いたところ病気の発生する限界平均個体数は 0.20/25株となった。 茨城県の県西部における1973年 から 1979 年までの25株あたり平均個体数は 0.86 である。 大ざっぱにいって県西部では約75%の媒介虫を何らかの方法で除去すれば病気は発生しなかったことがわかる。
  4. 式2を近似的に書き変えるとutβ<0.018が得られる。この式は25株あたり媒介虫個体数ut を75% 低下させることとβを75%低下させることは病気の絶滅に関しては同一の効力を持つことを意味する。すなわち媒介虫を75%除去することと,75%のイネを病害抵抗性品種に置き換えることが同等の効果を持つことを意味する。
  5. 媒介虫の分布が集中していると,平衡条件下における保毒虫率は個体数に関わらず一定値β/(1-α+β)に近づく(図2)。
[成果の活用面・留意点]
  1. イネ縞葉枯病の発生理由を定量的に理解することが可能となる。
  2. 個体数の調査方法が県によって異なるため,モデルのパラメーターは各県ごと,あるいは各地域ごとに推定する必要がある。

具体的データ


[その他] 
     研究課題名 :農業生態系の構成要素の動態に関する数理的解析法の開発 
     予算区分  :経常 
     研究期間  :平成10年度 (平成2〜7年) 
     発表論文等 : 
       1)Stabilization effects of spatial aggregation of vectors in plant disease systems. 
            Researches on Population Ecology, 40, (1998)
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