気温変動が水稲収量に与える影響の予測


[要 約]
 異常気象で予想される気温変動に対して,現行の水稲36品種の収量がどう影響を受けるかを推定する。気温が変化した場合,感温性の強い品種が栽培されている北海道・東北地域においては,現行作期では大きな収量変動が予測される。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境資源部 気象管理科 大気生態研究室
[部会名] 農業環境・地球環境
[専 門] 農業気象
[対 象] 水稲
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
近年の我が国の気象は,1993年の大冷害に見られるように,気温変動が大きくなっていることが指摘されている。そのため,気温変動により農業生産がどの程度影響を受けるかについての評価はきわめて重要である。そこで,現行の水稲36品種について,現行の作期を仮定し,気温変化が起きた際の収量変化を予測した。
[成果の内容・特徴]
  1. 低温不稔を考慮した生育・収量予測モデル(Yajima, 1996)を使用し,気温変化は,現在のメッシュ気候値から-2, 0, +2, +4℃変化した場合を考えた。水稲品種は,作物統計で各県ごとに上位にある1〜3品種を考慮し,全国で36品種を選択した(表1)。移植日・出穂日等は,現行作期のものを用いた。
  2. 多くの地方はほぼ現在の気温で収量が極大を示している(図1)。全国的には,気温が2℃低下すると約14%,2℃上昇すると約5%,4℃上昇すると約12%の収量低下が見込まれる。気温が2℃低下した場合,低温不稔が増加することにより全国的に収量の低下が予測される。逆に,気温が上昇した場合,生育期間が短くなることにより吸収日射量が低下するため(図2),北海道・東北を除く地域では収量は低下し,2℃気温が高い時に収量の増加が期待されるのは北海道のみであった(図3)。
  3. 北海道は,“きらら”や“ゆきひかり”など感温性の高い品種を主に用いているため,気温が高いほど大幅に生育が短くなる。九州・四国では,”ヒノヒカリ”等感温性が低く感光性の高い品種が導入されているため気温変化に対して収量変化の幅が小さい。
[成果の活用面・留意点]
本研究で得られた予測結果から,気温変動への対応策の例を以下に挙げる。 
  1. 中部日本から南では,気温上昇した場合,移植日を早める。気温低下した場合は,移植日を遅らせる。
  2. 気温変動に応じて品種を変更する。特に,温度が大きく上昇した場合,南西日本では,高温不稔に強いインディカ品種を導入するのも一つの方策である。
  3. 気温低下した場合,画期的な品種改良が行われない限り,北部日本での大幅な収量の低下は免れず,他の作物への転換が必要になる。
     なお,本研究は現行の農業作期体系を仮定して行われた結果であることが,留意点として挙げられる。


[その他]
研究課題名:CO2濃度上昇と気候変化に伴う農作物の生長変動予測手法の開発
予算区分 :一般別枠[地球環境],経常
研究期間 :平成10年度(平成2〜8年)
発表論文等:CO2濃度および温度が変化した条件における日本の水稲収量のメッシュ気候値を用いた推定,農業気象 54 (1998)
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