家畜排泄物処理過程からの環境負荷揮散物質測定システム


[要 約]
 家畜ふん尿処理過程から発生する悪臭や温暖化微量ガス(メタン,亜酸化窒素)等の定量的な測定システムを試作した。容積約13m3(直径3m×高さ2.2m)の耐水透明シート製チャンバーの天井中央部から吸引する方式で,裾部分から外気が導入される。入気及び排気中の各種ガス濃度と通気量から総発生量を評価する事ができる。
[担当研究単位]畜産試験場 飼養環境部  廃棄物資源化研究室,汚染物質浄化研究室,上席研究官
[部会名] 農業環境・地球環境
     畜産
[専 門] 環境保全
[対 象] 家畜類
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 地球環境問題への関心の高まりから,処理過程で発生する悪臭や温暖化微量ガス(メタン,亜酸化窒素)等の二次的な環境負荷が問題となり,これら環境負荷ガスの定量的な把握が急務となっている。実際のふん尿処理過程からの環境負荷ガス発生量を把握するためには,実規模に近い試験(1m3以上)を行い,発生の変動と環境要因の検討を行う必要がある。
[成果の内容・特徴]
  1. 容積約13m3(直径3m×高さ2.2m)の耐水透明シート製チャンバーを試作し,耐水性コンクリート床に設置した(写真1)。
  2. チャンバー内空気は,インバータ制御による送風機により天井中央部から吸引され,チャンバー裾部分と床面との隙間(3cm程度)から外気が導入される。導入外気(吸気)と排気との各種ガス濃度を連続的に測定し,換気量(排気量)との積で発生総量を評価した。
  3. 欧州各研究機関で作成されている同様のチャンバーは水平方向に通気を行うため,風向風速によって換気量の変動が大きく,また,通気による堆肥化等の進行への影響が避けられない。そのため本装置では空気の流れを実際の堆肥化と同様の上方への気流としている。
  4. 牛ふん・敷きわら混合物を堆積し,堆肥化過程からのメタンの発生を検討した。試験は排気中のメタン濃度がバックグラウンドと差異がなくなるまで行った。吸気(バックグラウンドとして3点),排気(送風機排気部)およびチャンバー内からポンプで各測定点の空気を採取,FID-GC(水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフ)で10分間隔の連続測定を行った(図1)。
  5. メタンの測定値はくり返しによる誤差も極めて小さく(CV 0.6, SD 12ppb程度),バックグラウンドのメタン濃度(1.8ppm程度)の変動測定が可能である。
  6. 本試験で最もメタン発生が著しい期間(堆肥化初期,排気濃度75ppm)においても,チャンバー近傍のバックグラウンドのメタン濃度上昇は見られず,チャンバー内空気は裾部分から天井部吸引口へ流れるよう制御されたものと考えられる(図2)。
  7. アンモニアや亜酸化窒素についても測定が可能であった。しかし,凝縮や吸着等の影響について検討しておく必要がある。
[成果の活用面・留意点]
  1. 堆肥化処理だけでなく,汚水処理や貯留等からの各種揮散物質の評価が原理的に可能である。
  2. 本試験ではチャンバーの換気頻度を10回/時としたが,測定対象となる物質の濃度によっては換気を低く設定する必要がある。この場合,自然の通気量を考慮する必要がある。

具体的データ


[その他]
研究課題名:家畜排泄物の処理・資源化技術の環境影響特性の解明
予算区分 :経常
研究期間 :平成10年度(平成10〜12年) 
発表論文等:畜産学会95回大会発表予定,日本土壌肥料学会平成11年度大会発表予定
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