マレーズトラップによるトビケラ成虫を指標とした水環境モニタリング


[要 約]
 農村河川の水路上にマレーズトラップを設置して省力的にトビケラ成虫を採集する方法は,トビケラを指標として河川流域の水環境を把握する生物学的モニタリングとして有効である。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境生物部 昆虫管理科 昆虫分類研究室
[部会名] 農業環境・環境評価・管理
[専 門] 環境保全
[対 象] 昆虫類
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 水生昆虫を指標とする調査は主に幼虫を対象に行われてきたが,幼虫の採集は手間がかかり,流域の微環境によって結果にバラツキが生じ定量調査が難しい。マレーズトラップを水路上にセットすると,流路に沿って飛来する水生昆虫成虫の定量的採集が省力的にできる。そこで,トビケラ成虫を指標としてその群構成,種多様度,構成種の特性に基づく生物学的水質評価手法の有効性について検討した。
[成果の内容・特徴]
  1. 茨城県新治郡八郷町の山間農耕地を流れる小河川で,範囲約2qの3〜4地点に(図1,A〜D),マレーズトラップ(図2)を水路をまたぐ形で毎月1週間セットして水辺昆虫の定期採集調査を行ったところ,トビケラ,カワゲラ,カゲロウ等の水生昆虫の成虫が採集された。その中,シーズンを通して個体数が豊富なトビケラを指標対象として選定した。その結果,本法は省力的に採集調査ができ,水生昆虫の成虫を指標とした水環境モニタリング手法として有効であることが明らかになった。
  2. この調査で,1995年は10科21種2906個体,1997年は17科42種3136個体のトビケラ成虫が確認された。その群構成を地点間で比較すると,種数は上流部で多く,個体数は下流の方で多かったが,種多様度は上流2地点で高く下流ほど低くなる傾向があった(図3-4)。
  3. 電気伝導度は溶解イオン濃度に比例し,水質汚濁度の目安となる。上流2地点では電気伝導度は低いが,下流へ下るほど高くなり,急激な水質汚濁の進行が見られ,トビケラ群構成との間に関連性が認められた(図5)。最多の29種が採れ種多様度も高かったC点は山林傾斜面に挟まれた最奥の谷津田にあり,森林性種と開地性種が混生する最も里山的な環境であった。
  4. 上流の清冽な水域では顕著な優占種がなく,カクスイトビケラ科,ケトビケラ科,ナガレトビケラ科に属する多様な種が共存するのに対し,下流へ下るほど水質汚濁に強いコガタシマトビケラ(シマトビケラ科)が圧倒的な優占種となり,群構成が単純化する傾向が認められた。
[成果の活用面・留意点]
 本法は省力的にトビケラ成虫が採集でき,水生昆虫を指標とする環境モニタリング調査手法として有効であるが,実用化に先立ってトビケラ成虫の同定手法の開発,環境指標となる種の生態特性,生息環境要因などを解明する必要がある。 

具体的データ


[その他]
研究課題名:流域環境における動物相の動態と環境指標調査法の開発
予算区分 :モニタリング
研究期間 :平成10年度(平成6〜10年)
発表論文等:1)マレーズトラップによる農山村河川流域のトビケラ成虫モニタリング調査,
        日本昆虫学会第57回大会講演要旨(1997)
      2)「水環境保全のための農業環境モニタリングマニュアル」に「トビケラ成虫を
        指標とした水環境評価法」として収録
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