ミトコンドリアDNAで識別される高度耐凍性の雪腐黒色小粒菌核病菌


[要 約]
 雪腐黒色小粒菌核病菌は寒冷積雪地帯に広く分布する雪腐病菌の一種で,変異に富む。ミトコンドリアDNA断片のシークエンス結果から,耐凍性に特に優れる菌群がユーラシア原産の他の菌群のなかで独立した存在であることが示される。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境生物部 微生物管理科 土壌微生物生態研究室
[部会名] 農業環境・農業生態
[専 門] 作物病害
[対 象] 微生物
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 雪腐病菌は積雪下で活動する一群の糸状菌で,その低温下での生理活性が注目されている。たとえば,雪腐黒色小粒菌核病菌(Typhula ishikariensis)のある菌群のリパーゼは低温でも活性が失われず,産業的な応用が期待されているが,本菌は局地的な分化がいちじるしく,世界各地でそれぞれ独自の名称が用いられている。本研究では,日本産の2つの生物型,ノルウェー産の3つのgroup,およびロシア産のvar. ishikariensis を用いた。そのうち,ノルウェー産のgroupVは低温に対する耐性が高く,-80℃の低温にも耐えることができ,このような高度な耐凍性は雪腐黒色小粒菌核病菌における他の分類群にはみられない。耐凍性に関する遺伝子の雪腐黒色小粒菌核病菌内における分布を明らかにし,有用な遺伝資源を効率的に探索するためには,groupVのような際だった生理的特徴をもつ分類群が他の分類群と分子系統学的にどのような位置関係にあるかを知る必要がある。
[成果の内容・特徴]
  1. ユーラシア産の雪腐黒色小粒菌核病菌から全DNAを抽出し,プライマーML5と6によりミトコンドリアlarge rDNA断片(約480-660bp)を増幅して,シークエンスを比較すると,@生物型A,groupT及びロシア産var. ishikariensis,A生物型B及びgroupU,BgroupVの3つのクラスターにわかれる(図1)。
  2. groupT及びその他分類群に属す雪腐黒色小粒菌核病菌の生育適温は10℃であるのに対し,groupVの適温は4℃である。積雪下の温度である0℃では,groupTもgroupVも正常に生育するが(図2),より高い温度の12℃で培養するとgroupVの生育は著しく阻害される(図3)。
  3. groupTとgroupVの間には交配実験結果から雑種と思われる菌株も存在し,遺伝的に近縁と考えられていたが,両者はmtDNA断片に関しては明らかに異なる(図1)。
[成果の活用面・留意点]
  1. 雪腐黒色小粒菌核病菌から高度耐凍性を有する菌群は,groupVに存在するmtDNAの特異的配列を元にしたプライマーの利用により検出できる。
  2. groupVに存在する遺伝子は,耐凍性向上に関する研究上,有益である。

具体的データ


[その他]
研究課題名:雪腐黒色小粒菌核病菌の菌株間の交配関係及び遺伝的類縁関係
予算区分 :行政対応特研〔低温環境代謝〕
研究期間 :平成11年度(平成9〜11年度)
発表論文等:1)Freezing resistance among isolates of a psychrophilic fungus, Typhula
        ishikariensis from Norway. Proc. NIIR Symposium on Polar Biology11, (1998)
      2)Temperature sensitivity and frost resistance of Norwegian Typhula
        ishikariensis. Proc. Internat. Workshop on Plant-Microbe Interactions
        at Low Temperature under Snow(1997)
      3)Effect of temperature on growth and intracellular proteins of Norwegian
        Typhula ishikariensis isolates. Acta. Agric. Scand., Sect. B. Soil and
        Plant Sci., 47(1997)
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