アーバスキュラー菌根菌の新しい系統とPCR法による検出


[要 約]
 シバ草地より単離したアーバスキュラー菌根菌の一種は,18S rRNA遺伝子の解析により,既知のアーバスキュラー菌根菌とは異なる,新たな系統に属することを明らかにした。本菌に特異的なPCRプライマーを設計し,本菌の検出法を開発した。
[担当研究単位]草地試験場 生態部 土壌微生物研究室
[部会名] 農業環境・農業生態
[専 門] 土壌
     バイテク
[対 象] 微生物
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
  アーバスキュラー菌根菌はリン吸収促進などの作用で宿主である植物の生育を改善する。ほとんどの草本植物に感染するので,草地生態系の物質循環などに大きな役割を果たしていると考えられている。草地におけるアーバスキュラー菌根菌の生態を解明する研究の過程で単離した菌は,形態的に異なる2種類の無性胞子を形成することを見出した。そこで,本菌の分子系統的解析を行い,さらにPCR法による検出法を開発した。
[成果の内容・特徴]
  1. 草地試験場シバ草地より分離され,胞子の形態よりGlomaceae科Glomus leptotichum と同定された菌は,異なる形態の,Acaulosporaceae科Acaulospora gerdemannii の胞子も形成した。すなわち,これらの菌は異名同種であり,従来の無性胞子の形態に基づく分類(接合菌類Glomales目・3科6属)では,説明できなかった。18S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく系統解析によって,本菌が既知のアーバスキュラー菌根菌とは異なる系統であることが明らかとなった(図1)。
  2. 18S rRNA遺伝子塩基配列に基づき,本菌A. gerdemanniiG. leptotichum )に特異的なPCRプライマーを設計した(図2)。このPCRプライマーによって,本菌の胞子DNAのみから特異的に約110bpの増幅産物が得られた(図3)。さらに,本菌の共生した植物根DNAを鋳型にしたPCRにおいても,根に共生している本菌を検出することができた。
     本菌特異的プライマーを用いたPCR法は,野外で採取した植物根についても適用可能であり,野草地より採取したアズマネザサには,本菌A. gerdemanniiG. leptotichum )および他の科(Gigasporaceae科,Glomaceae科)に属する菌が同時に共生していることが認められた(図4)。
[成果の活用面・留意点]
  1. 従来のアーバスキュラー菌根菌検出用に開発されたPCRプライマーでは検出不可能であったA. gerdemanniiG. leptotichum )の植物からの検出が可能である。
  2. PCRで増幅したDNAについて,最終的には塩基配列を決定して確認する必要がある。

具体的データ


[その他]
研究課題名:草地生態系における菌根菌の機能と生態
予算区分 :経常(草地動態)
研究期間 :平成11年度(平成9年〜11年度)
発表論文等:Phylogenic position of an arbuscular mycorrhizal fungus, Acaulospora gerdemannii,
      and its synanamorph Glomus leptotichum, based upon 18S rRNA gene sequence. 
      Mycoscience 39: 477-480(1998)
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