キュウリべと病菌のストロビルリン系薬剤耐性菌とチトクロームbのアミノ酸置換


[要 約]
 キュウリべと病菌のストロビルリン系薬剤耐性には,チトクロームb遺伝子の変異が関係し,耐性菌ではチトクロームbのアミノ酸がグリシンからアラニンに置換している。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 資材動態部 農薬動態科 殺菌剤動態研究室
[部会名] 農業環境・農業生態
[専 門] 薬剤
[対 象] 微生物
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 最近,天然物をリード化合物とするアゾキシストロビンやクレソキシムメチルなどのストロビルリン系薬剤が開発されたが,キュウリべと病菌ほかで耐性菌問題が生じた。そこで,耐性を急速に発達させた菌の遺伝的背景を明らかにするため,ストロビルリン系薬剤の作用点であるチトクロームbの遺伝子の塩基配列を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. ストロビルリン系薬剤の防除効果が低下した圃場より採集したキュウリべと病菌に,アゾキシストロビンに耐性を示す菌が多数検出され(表1),この耐性菌はクレソキシムメチルに交さ耐性を示した(表2)。
  2. チトクロームb遺伝子の保存領域を検索し,プライマーを設計,合成してPCRを行った。その結果,べと病菌のDNAから285bpのチトクロームb遺伝子断片が増幅された。
  3. べと病菌の耐性菌の塩基配列を感受性菌と比較したところ,耐性菌では,ミトコンドリアDNA支配で,薬剤の結合に重要とされるチトクロームbのコドン143の推定アミノ酸に,グリシンからアラニンへの置換が見られた(図1)。
[成果の活用面・留意点]
 培養が困難な絶対寄生菌について,ストロビルリン耐性の迅速診断法の開発が期待できる。また,農薬の生態影響,特に農業活動に伴う,環境微生物のミトコンドリアDNAの変異,選択機構の解明に役立つ。なお,薬剤と作用点タンパク質との結合親和性を調べて,アミノ酸置換の意味を知る必要がある。

具体的データ


[その他]
研究課題名:植物病原糸状菌の薬剤耐性機構の解明
予算区分 :国際交流〔薬剤耐性遺伝子〕,経常
研究期間 :平成11年度(平8〜11年度)
発表論文等:1)キュウリうどんこ病菌,べと病菌のストロビルリン系薬剤耐性菌の出現と,耐性機構に
        関する1つの考察,日植病報,65,655(1999)
      2)キュウリべと病菌ほか,植物病原菌からのチトクロームb遺伝子の解析と,ストロビル
        リン系薬剤耐性との関係,日植病大会講要(2000)
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