土地利用の改変に伴う気温変化の予測


[要 約]
 農耕地が有する気候緩和効果は三次元非定常大気−植生結合モデルで評価できる。つくば周辺の水田を主とする農耕地を全て畑地にすると,1996年7月の天候の場合,月平均最高気温は現在より約1.5℃,1月で約0.6℃上昇する。逆に水田にしても気温低下はわずかであり,現在は上昇を抑制する緩和効果が作用していると考えられる。
[担当研究単位]農業研究センター 耕地利用部 気象立地研究室
[部会名] 農業環境・地球環境
     総合農業・生産環境
[専 門] 農業気象
[対 象]   
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 農耕地が有する多面的機能の一つである気候緩和効果を科学的に評価するMI(マクロインディケーター)の開発とそれらに基づく将来予測が,農業と環境に関する国際論議の場において必要となってきている。信頼性の高いMIを理論的に導くことは容易ではなく,本研究ではその基礎となるモデルを開発するとともに,水田や畑地が有する緩和効果を数値実験によって明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. 水田や畑地が有する気候緩和効果は三次元非定常大気−植生結合モデル1)で評価できる。土地利用や局地気候のデータ入力によって,モデルを使った数値実験が比較的容易にできるようになった(図1)。現在の水田を主とする農耕地を全て野菜畑に変えると,最高気温は1996年7月で約1.5℃,平均気温で約0.6℃上昇する。水田に変えても,最高気温の低下は約0.1℃にとどまり,現在は上昇を抑制する緩和効果が作用している。一方,日射量の少ない1月の最高気温と平均気温の上昇は7月の半分以下と予測された。
  2. 図2は風下距離に伴う植生上(Z=1.5m)の気温変化の普遍的関係である。数値実験によると,地表面温度を予測する曲線(a)は風上側の影響が距離の約1/2乗に比例して急速に減衰し,その影響は風下の植生上の縁に限定されることが示された。この結果は実際をよく現している。曲線(b)は地表面温度を一定とする解析解で,参考として示した。
  3. 実際の草地と裸地の境界付近に形成される気温変化が1996年の夏期観測から示された2);T1 = 24.76−0.237 U+2.849 R−0.711 Z0,u,T2 = 24.406+0.096 U+2.582 R−0.473 Z0,d。ここで,T1とT2は風下側の裸地上(草地/裸地)と草地上(裸地/草地)の気温(℃),Uは風速(m/s),Rは日射量(MJ/s),Z0,uとZ0,dは草地/裸地の場合の草地と裸地/草地の場合の草地の地表面粗度(cm)である。上式から,気温の抑制効果が見込まれる要因は風による冷気の移流と粗度の増加による潜熱フラックスの増大である。
[成果の活用面・留意点]
(活用面) 実際の農耕地を構成する水田や畑地が有する気候緩和効果を本モデルで比較的容易 に予測できる。
(留意点) 成果1の月平均気温の予測値は植生の状態によって若干異なり,成果2の実験式の適用範囲は数百メートルであることに留意すること。

具体的データ


[その他]
研究課題名:農耕地の気候緩和効果に関する影響評価
予算区分 :環境研究〔貿易と環境〕
研究期間 :平成11年度(平成8〜12年度)
発表論文等:1)農業気候資源の評価への局地気象モデルの応用,農業気象学会1993年度
        シンポ講要(1993)
      2)大気−植生結合モデルによる植生の気候緩和効果の評価,1998年度水文・
        水資源学会講要(1998)
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