PCR-RFLP解析による白絹病菌の類別と地域的分布


[要 約]
九州から南関東にかけて分布する白絹病菌 (Sclerotium rolfsii) と北陸を中心とする地域の白絹病菌は生育適温および菌核の形態が異なる。rDNAのITS領域のPCR-RFLPパターンにおいて北陸の白絹病菌はS. delphinii に近い。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境生物部 微生物管理科 土壌微生物生態研究室
[部会名] 農業環境・農業生態
     総合農業・生産環境
[専 門] 作物病害
[対 象] 微生物
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
白絹病菌(Sclerotium rolfsii)は世界の熱帯から暖温帯に広く分布し,日本では九州から南関東にかけて夏期に発生する。しかし,北関東・北陸・東北の冷温帯地域でも少数ながら白絹病の発生例があった。北陸を中心とする地域では白絹病の発生時期がやや早く,春から初夏にかけて発生した。北陸を中心とする地域の白絹病菌は,S. rolfsii の近縁種で北米の冷温帯地域に分布し,同様の病害を引き起こすS. delphiniiに近いと考えられたため,日本各地の白絹病菌株を比較した。
[成果の内容・特徴]
  1. 九州から東北にかけて分離された67菌株についてrDNAのITS領域のPCR-RFLP解析を行ったところ,5つのグループに類別された(図1)。九州から南関東にかけて分離された菌株はグループ1あるいは2であったのに対し,北関東・北陸・東北の菌株はグループ3,4または5に属するものが多い(表1)。
  2. グループ1はアメリカ合衆国南部およびインドネシアのS. rolfsiiと同じITS-RFLPパターンを示し,グループ3はネパールのS. rolfsiiと同じである。グループ4はアメリカ合衆国北東部のS. delphiniiと同じITS-RFLPパターンを示す。グループ2および5に相当するパターンは海外での報告がなく,グループ2はグループ1と,グループ5はグループ4と共通のバンドが多い。
  3. 形態学的性質について,グループ1および2は海外のS. rolfsiiと同様の小型・球形の菌核を形成し,グループ4および5は北米のS. delphiniiと同様の大型・不定形の菌核を形成する(図2)。グループ3は菌核を形成い。
  4. グループ1および2の生育最適温度は30℃であり,33℃で生育はやや低下する。グループ4および5の生育最適温度は28-30℃であり,33℃で生育が大幅に低下する(図3)。グループ3は生育がきわめて遅く,生育適温範囲は決定できなかった。
[成果の活用面・留意点]
  1. 地域間で異なる白絹病の発生生態は白絹病菌のグループによって説明・予測できる。
  2. 各グループと外国のS. rolfsiiおよびS. delphiniiの系統関係を明らかにする必要がある。

具体的データ


[その他]
 研究課題名 : 白絹病菌の生態的諸特性の解明
 予算区分  : 経常
 研究期間  : 平成12年度(平成9年〜13年度)
 発表論文等 : 1)Variation in Sclerotium rolfsii isolates in Japan. Mycoscience 39:
          399-407 (1998)
        2)Variation in southern blight fungus in Japan. JARQ 34: 93-97 (2000)
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