不測の核事故が生じた時の米麦の放射能汚染の推定方法


[要 約]
これまでの放射能汚染調査結果から,大気からの90Sr・137Cs降下量と米麦中の両核種の含量の間に高い正の相関が認められた 得られた回帰式を汚染推定式と定義したこの汚染推定式の信頼性を検証するためチェルノブイリ事故時の米麦の137Cs汚染に適用し,推定値と実測値を比較したところ概ねよい一致が得られた。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 環境管理部 計測情報科 分析法研究室
[部会名] 農業環境・環境評価・管理
[専 門] 環境保全
[対 象] 水稲・麦
[分 類] 行政

[背景・ねらい]
過去における放射能汚染調査結果を解析することにより,核事故などが生じた場合の米と麦の放射能汚染レベルを,事故に起因する放射性降下物の量から推定する手法を確立し,放射能汚染対策に資する。
[成果の内容・特徴]
  1. 大気から放射性降下物の認められる1959年から1982年に採取された米麦を対象に,各年の米麦の90Srと137Csの含量と当該年の栽培期間中に降下した両核種の降下量(気象庁:地域気象台の観測地)との間で高度な正の相関が成り立つことが判明した(図1)。この相関図から回帰式y=axbを導入し,これをここでは汚染推定式(表1)と定義した
  2. 上式は不測の事故が生じた米麦の栽培期間中に降下した90Srあるいは137Csの量(x)を代入することにより米麦中の両核種の量(y)が推定されることになる。なおここでyは直接汚染と間接汚染の両成分を含む。
  3. 降下量の影響を強く受けて汚染される度合いは,90Srでは玄麦 》玄米 》白米,137Csでは玄麦>玄米>白米の傾向が認められた。玄米は精米することにより放射能汚染が約60〜70%低減される(図1)。
  4. この汚染推定式の信頼性を検証するため,1986年チェルノブイリ原子炉事故によりもたらされた放射性降下物(137Cs)の小麦栽培期間中の降下量(小麦出穂期頃の5月に多量降下した)から小麦の137Cs含量を推定し,推定値と実測値を採取地ごとに比較した(図2)。各採取地とも両者で比較的よい一致がみられた。
  5. 同様に,米で検証した(図2)。事故由来の137Csの水稲栽培期間中の降下量は全国平均5Bq/m2と小麦の栽培期間中降下量の約3%と少ないが推定値と実測値間には概ねよい一致が認められた。
[成果の活用面・留意点]
本汚染推定法は,核事故が生じ,それに伴う放射性降下物が栽培期間に約1〜1000 Bq/m2 降下した場合を対象にしている。これらの汚染推定式(地域毎の推定式も得られている)から,不測の事故時の米麦汚染の推定が可能となり,放射能汚染対策に資することが出来る。

具体的データ


[その他]
 研究課題名 : 土壌並びに農作物中の降下放射性核種の分析及び研究 
 予算区分  : 原子力[降下放射性核種] 
 研究期間  : 平成12年度(昭和58〜平成12年度)
 発表論文等 : 1)水田土壌中90Srの移行に対する2成分モデルの適用,保健物理,35(3)(2000)
         2)わが国での90Srと137Csによる白米の汚染,Radioisotopes,50(3)(2001) 
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