イネは土壌からダイオキシン類を吸収しない


[要 約]
 ダイオキシン類の異性体組成と濃度が全く異なる土壌で栽培しても,イネ体におけるその組成と濃度は類似すること,土壌中にほとんど存在せず大気中にガス態として多く存在するコプラナーPCBの含有量が多いこと,維管束液中からダイオキシン類が検出されないことから,ダイオキシン類は土壌からイネの根によって吸収されるのではなく,大気が主要な汚染源である。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 化学環境部 ダイオキシン評価研究官,ダイオキシンチーム
[分 類] 行政

[背景・ねらい]
 ダイオキシン類は,廃棄物の燃焼・焼却過程での生成や,農薬に含まれる不純物としての農耕地 への投入等,様々な過程で農業生態系に負荷され,農耕地土壌中に蓄積されている。これらダイオキシン類蓄積土壌で栽培した作物への汚染が懸念されているが,その軽減対策を進める上で作物への汚染経路を明らかにすることが必要である。そこで,ダイオキシン類の異性体組成及び濃度が異なる土壌でイネを栽培し,土壌および作物体各部位における濃度分布や異性体組成を比較することにより,イネにおける主要汚染経路を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. ダイオキシン類の濃度及び異性体組成が著しく異なる二種類の土壌を用いて,ガラス室内でイネを栽培した。一方の土壌(中青)はダイオキシン類濃度が 2100 pg-TEQ/g 乾土で,七,八塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(HpCDD,OCDD),及び六〜八塩化ジベンゾフラン(HxCDF,HpCDF,OCDF)の含有量が多い。他方(中橙)はダイオキシン類濃度が36 pg-TEQ/g 乾土で,四,八塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(TeCDD,OCDD)がその大部分を占めている。また,両土壌ともにコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)の含有量は極めて少ない(図1,下段)。これらの土壌で栽培した収穫期のイネ体各部位におけるダイオキシン類の濃度及び異性体組成は互いに類似し,栽培土壌のダイオキシン類濃度及び異性体組成は反映されない(図1,上中段)。イネ体から検出されるダイオキシン類は,土壌中にほとんど存在せず,大気中にガス態として多く存在するコプラナーPCBが主体である。
  2. 汚染土を加えてダイオキシン類濃度を調製した土壌でイネを栽培し,収穫期における各部位のダイオキシン類濃度を分析した結果,葉>モミガラ>茎>玄米の順に濃度が減少し,大気の影響を受けやすい部位ほど濃度が高い。可食部である玄米はモミガラにより被覆されているため,大気の影響を受けず,ダイオキシン類濃度は極めて低い。また,分けつ最盛期に採取した維管束液中のダイオキシン類濃度は検出限界以下(<0.0001 pg-TEQ / mL)である(図2)。
  3. 以上より,イネ体のダイオキシン類は,土壌から根によって吸収され,蒸散流とともに地上部に移行するものではなく,大気が主要な汚染源であると判断される。
[成果の活用面・留意点]
 環境省・農林水産省による「農用地土壌及び農作物に係るダイオキシン類実態調査」等の行政調査結果の解析に活用できる。

[その他]
 研究課題名 : 塩素系有機化合物の穀類への吸収・移行・蓄積機構の解明
        (イネ等におけるダイオキシン類の吸収,移行特性の解明)
 予算区分  : 環境研究[環境ホルモン]
 研究期間  : 2002年度(1999〜2002年度)
 研究担当者 : 桑原雅彦,上垣隆一,清家伸康,大谷卓
 発表論文等 : (1)Kuwahara et al., Organohalogen Compounds, 58, 57-60(2002)
               (2)桑原,日本農薬学会誌,27(4), 415-419(2002)

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