葉面バクテリアが生産する抗微生物活性物質の化学構造の解明


[要 約]
 葉面バクテリア Bacillus amyloliquefaciensは,抗微生物活性物質を分泌することにより他の葉面微生物の生育を抑制している。この抗微生物活性物質中には,7種類の環状ペプチド化合物が含まれており,そのうち一種類は新規物質Iturin A-8である。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 生物環境安全部 植生研究グループ 化学生態ユニット,
                  生物環境安全部 昆虫研究グループ 昆虫生態ユニット,
                  農業環境インベントリーセンター 微生物分類研究室
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 生物の相互作用には,植物,微生物,昆虫など複数の生物種間を越えて発現するものがある。こ のような作用は,ある種の化学物質が原因となって複雑な連鎖系で構成されることがあり,その作用機作を解明するための基礎的な研究が進められている。植物の葉面に常在する微生物相には,抗微生物活性物質を生産・分泌して他の微生物を抑制するものがおり,クワの葉面に生息するバクテリアB. amyloliquefaciens株は,このような作用によってクワ炭疽病などの発症を抑え,クワの生育に好影響をもたらすことが知られている(Yoshida et al.,2001)。しかし,原因となる抗微生物活性物質の化学構造が特定されていないために,その作用機作が解明されていない。そこで,B. amyloliquefaciens株が生産する抗微生物活性物質を単離し,その化学構造を特定する。
[成果の内容・特徴]
  1. B. amyloliquefaciens RC-2株を液体培地にて大量培養し,Colletotrichum dematium(クワ炭疽病菌)に対する生育阻害活性を指標にして,培養ろ液から抗微生物活性物質を精製し,最終的に7種類の化合物(化合物1〜7)を単離した。
  2. これらの抗微生物活性物質について各種スペクトル分析により化学構造を解析した結果,これらはいずれもIturinと呼ばれる環状ペプチド化合物であることを特定した(図1)。
  3. 特定した抗微生物活性物質のうち,一種類(化合物7,Iturin A-8)は新規物質であることが明らかとなった(図1)。
[成果の活用面・留意点]
  1. 本研究により,B. amyloliquefaciens RC-2株が生産する抗微生物活性物質の化学構造が初めて明らかになった。このことにより,クワとその葉面に生息する複数の微生物との相互作用を解明するための研究が進展する。
  2. 詳細に帰属したIturin A-2〜A-8のスペクトルデータ(Hiradate et al., 2002)は,Iturin類の同定に活用できる。
  3. Iturinは各種植物病原微生物に対して幅広い抗微生物スペクトルを有する。

[その他]
 研究課題名 : (農業生産活動が農業生態系の生物群集の構造と多様性に及ぼす影響の評価)
 予算区分  : 運営費交付金
 研究期間  : 2002年度(2000〜2002年度)
 研究担当者 : 平舘俊太郎,吉田重信,杉江元,荒谷博,藤井義晴
 発表論文等 : 1) Hiradate et al., Phytochemistry, 61, 693-698 (2002)
               2) Yoshida et al., JARQ, 36, 89-95 (2002)
               3) Yoshida et al., Phytopathology, 91, 181-187 (2001)

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