3種のヤガ科新害虫の九州以北における発生の確認と同定


[要 約]
 ゴルフ場シバ草地におけるクシナシスジキリヨトウの初発生と,わが国では害虫とは考えられていなかったイラクサギンウワバの多種作物での発生を確認した。また,シイタケ菌床栽培におけるムラサキアツバの害虫化を確認し,これら害虫の発生状況を明らかにした。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンター 昆虫分類研究室
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 ガ類の中で最も種数の多いヤガ科は,現在我が国から1,300種以上が報告されており,約1 割に当る126種が害虫として「農林有害動物・昆虫名鑑」(1987)に記録されている。しかし,地球温暖化や作物の栽培方法の変化等の様々な要因により,これまで記録のないヤガ科新害虫が発生する可能性がある。そのため都道府県の農業試験場や病害虫防除所等から同定依頼されたヤガ科昆虫を調査することにより,各地域で問題となっている新たな害虫を確認し,その発生状況を把握する。
[成果の内容・特徴]
  1. 静岡県でヤガ科昆虫の初発生を確認し,これをクシナシスジキリヨトウSpodoptera cilium図1)と同定できた。また,1999年頃以降,本種が静岡県内ゴルフ場のシバを激しく食害していたことを確認した。本種は亜熱帯・熱帯地域に分布し,九州以北では1994年に熊本県と兵庫県で成虫が採集された記録があるが,発生記録はない。幼虫はシバの在来害虫スジキリヨトウSpodoptera depravataに酷似している。
  2. 兵庫県でイラクサギンウワバTrichoplusia ni図2)の広域的多発生とアブラナ科野菜等多種作物の被害を初めて確認した。本種は,海外では重要害虫であり,九州以北においては僅かな発生はあったものの害虫としての認識はなく,「農林有害動物・昆虫名鑑」(1987)にも記録されていない。
  3. 愛媛県でムラサキアツバDiomea cremata図3)がシイタケ菌床を食害することを初めて確認した。また,神奈川県,高知県でも同様な被害を確認した。近年のシイタケ菌床栽培の普及によって本種が新たな害虫となったと考えられる。
  4. 幼虫のより詳細な情報は,農業環境インベントリセンター昆虫分類研究室のホームページ
    http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/inventry/insect/index.htm)で公開する。
[成果の活用面・留意点]
  1. これら3種の害虫は,既に他地域でも発生している可能性もあり,特に近隣の自治体では注意する必要がある。
  2. 地球温暖化により熱帯・亜熱帯原産の害虫が日本本土で新たに問題となる事例や作物の栽培方法の変化に伴う新害虫の発生事例は,今後も増加する可能性がある。

[その他]
 研究課題名 : 所蔵タイプ標本のデータベース化と昆虫インベントリーのためのフレームの構築
              (所蔵タイプ標本等のデータベース化及びインベントリーのためのフレームの構築)
 予算区分  : 運営費交付金
 研究期間  : 2002年度(2001〜2005年度)
 研究担当者 : 吉松慎一,廣森創(静岡大農),廿日出正美(静岡大農),八瀬順也(兵庫農技総セ),
        宇高信一郎(明石農改セ),仲田幸樹(愛媛林技セ),安田耕司
 発表論文等 : 1) 吉松ら,日本昆虫学会第62回大会講要,81(2002)
               2)八瀬ら,関西病虫害研究会報,44, 80(2002)
               3)吉松・仲田,日本鱗翅学会第49回大会講要,5(2002)

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