硝酸性窒素の浅層地下水および第二帯水層への到達時間


[要 約]
 農業環境技術研究所内の黒ボク土畑圃場における硝酸性窒素の浅層地下水への到達時間は,1.6〜6.0年(平均2.8年)であり多雨年ほど短い。これに対して,浅層地下水面から難透水層下の第二帯水層までの移動時間は,降水量の年次変動によらずほぼ一定(8.2〜8.3年)に保たれる。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 化学環境部 栄養塩類研究グループ 土壌物理ユニット
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 浅層地下水を介した硝酸性窒素の汚染拡大を防止するためには,まず土層内での水および硝酸性 窒素の移動時間,従って浅層地下水への到達時間を明らかにする必要がある。本研究では,農業環境技術研究所内の黒ボク土畑圃場における土層内の水収支および浅層地下水位観測結果に基づき,深さ別保水量と水フラックスを用いて地表浸入水が浅層地下水面および難透水層下の第二帯水層に到達するのに要する時間を推定すると共に,年降水量の違いによる変化を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. 地表浸入水および硝酸性窒素の土層内移動速度は見かけ上ほぼ一致する(図1)。土層内の水移動時間を求めれば,硝酸性窒素の移動時間を推定できる。
  2. 根群域下端から溶脱した硝酸性窒素が浸透水とともに下方移動して浅層地下水面に到達するのに要する時間(表1のτ0-1 + τ1-h)は,年次変動が大きく,多雨年ほど短い。平均到達時間は2.8年,降水量の大小により1.6〜6.0年の範囲で変動する(表1)。
  3. 浅層地下水面に到達すると,浸透水フラックスは難透水層上を横移動する水平成分Ghと難透水層下の第二帯水層に向かう鉛直成分Gvに分かれる(図2)。土層内水収支と浅層地下水位の観測結果および難透水層の飽和透水係数からGvGhの値を求めれば,硝酸性窒素の浅層地下水帯通過時間τh-2.6と難透水層通過時間τ2.6-4.8を推定できる。
  4. 多雨年には浅層地下水位が上昇すると共に,深さ1 mを通過した水フラックスのうち難透水層上を横移動する割合が増加する(Ghは少雨年の22 mmに対し,多雨年では549 mm)。これに対して,鉛直成分Gvの大きさはほぼ一定(Gv = 208〜226 mm)であり,年次変動が小さい(表1)。このため,浅層地下水面から難透水層を通じて第二帯水層に到達するのに要する時間(τh-2.6 + τ2.6-4.8)は,年降水量の変動によらずほぼ一定に保たれる(農業環境技術研究所内の黒ボク土畑圃場では8.2〜8.3年)。
[成果の活用面・留意点]
黒ボク土畑から溶脱した硝酸性窒素の浅層地下水帯を通じた流出および難透水層下のより深い帯水層における硝酸性窒素の地下水汚染の予測に用いることができる。

[その他]
 研究課題名 : 地下水到達・流下過程における硝酸性窒素の流出遅延時間の予測
        (硝酸性窒素等の土層内移動の解明)
 予算区分  : 環境研究[自然循環]
 研究期間  : 2003年度(2003〜2005年度)
 研究担当者 : 江口定夫
 発表論文等 : 1)江口ら,地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会第9回講演要旨集,228-231(2003)
               2)江口ら, 日本土壌肥料学会講演要旨集第49集,2(2003)

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