ショウガ科植物に寄生する外来性青枯病菌系統の侵入と伝搬


[要 約]
 わが国で初めて,高知県において発生したショウガ科植物の青枯病菌(Ralstonia solanacearum)は, レース4および生理型4である。rep-PCR解析の結果,タイまたは中国由来と考えられる2つの系統が,それぞれ異なる経路で高知県に侵入・伝搬したと推察される。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 生物環境安全部 微生物・小動物研究グループ 微生物機能ユニット
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 青枯病菌は, 熱帯から温帯に広く分布し,5つのレース(宿主植物に対する寄生性の違い),および炭水化物の利用性に基づく6つの生理型(biovar)に,それぞれ類別される多様な系統が存在する。わが国では従来, 40数種の宿主植物が知られ,トマト,ナス等に寄生性のあるレース1とジャガイモに特異的なレース3, および生理型 N2, 3, 4 が在来系統として報告がある。近年, わが国で初めて,高知県において, 新たに3種のショウガ科植物(クルクマ,ショウガ,ミョウガ)に青枯病が認められ,被害が拡大している。そこで, 同病原細菌の同定と分子生物学的手法による外国産菌株との比較を行い,新規系統の由来と伝搬経路について検討する。
[成果の内容・特徴]
  1. クルクマ,あるいはショウガでそれぞれ確認された青枯病菌は,侵入後, ショウガおよびミョウガへの感染,発病を通して伝搬,拡大している(図1)。
  2. わが国で3種ショウガ科植物から分離された青枯病菌株は,マンニット,ソルビット,ズルシットの利用性が陽性,マルトース,ラクトース,セロビオースについては陰性であり,既報の知見と一致し,生理型4と判定される。
  3. ナス科およびショウガ科植物に対する接種試験から, 在来系統(レース1, 3)は後者に病原性を示さず, 一方,ショウガ科植物からの分離菌株は,原宿主に加え,ジャガイモ,トマト等にも病原性を有することから,わが国初のレース4系統と判定される(表1
  4. 細菌ゲノム中の反復配列間の領域を指標としてDNA多型を検出するrep-PCR解析の結果, ショウガ科植物分離菌株には在来系統では未報告の2つのDNAパターンが認められ,それぞれタイ産菌株(I型)および中国またはオーストラリア産菌株(II型)と同一である(図2)。
  5. 以上から,タイに由来し,クルクマに感染,侵入したI型系統は,その後ショウガおよびミョウガへと伝播,拡大し,一方,オーストラリアまたは中国経由でショウガを通じて侵入したII型系統は,I型系統とは異なる経路で,それぞれ高知県内での定着を果たしたものと推測される(図1)。
[成果の活用面・留意点]
  1. 外来性微生物種の分布拡大や安全性に関する評価手法の確立に資する。
  2. 青枯病菌の多様性研究の新規素材として利用可能であり,また侵入・導入生物に関するデータベースの構築に貢献する。

[その他]
 研究課題名 : 環境微生物等の増殖促進・抑制に影響を及ぼす環境要因の解明
        (微生物及び植物の代謝物等が微生物の増殖に及ぼす影響の解析)
 予算区分  : 運営費交付金
 研究期間  : 2003年度(2001〜2005年度)
 研究担当者 : 土屋健一,澤田宏之,高橋真実,吉田隆延,矢野和孝(高知農技セ),
        堀田光生(北海道農研セ)
 発表論文等 : 1)土屋ら,日植病報,65(3),363(1999)
               2)Tsuchiya et al.,The 1st Int. Conf. Tropic. Subtropic. Plant. Dis.,11(2002)
               3)Tsuchiya et al.,Proc. Int. Semi. Biol. Invasions,305-317(2003)

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