土壌中の腐植酸を構成する炭素に占めるススキ由来炭素の割合


[要 約]
 日本各地で収集した土壌から腐植酸を精製して炭素安定同位体比(δ13C値)を測定した結果,ススキなどのC4植物に由来する炭素が腐植酸中の炭素に占める割合は18〜52%であり,ススキ以外の植物も腐植酸の生成過程で重要な給源であることを初めて明らかにした。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 生物環境安全部 植生研究グループ 化学生態ユニット
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 日本の黒ボク土には黒味の強い腐植酸が異常に多量に蓄積されている。この黒色腐植酸の生成・ 集積メカニズムの一つとして,ススキ草原を維持するために行われてきた野焼きによって生成されたススキの燃焼微粒炭が腐植酸の給源であるとする学説が提案 されている。しかし,腐植酸を構成する炭素に占めるススキ由来の炭素の割合をこれまでに調べた例はない。そこで,土壌から腐植酸を分離・精製し,そのδ13C値を測定することによってススキに代表されるC4植物に由来する炭素の含有率を明らかにし,日本の黒ボク土における腐植酸の生成・集積メカニズムの基礎的知見とする。
[成果の内容・特徴]
  1. 植物のδ13C値は光合成システムによって大きく分かれ,C3植物では約-27‰,C4植物では約-13‰となる。日本に自生するC4植物の代表種はススキであり,そのバイオマスは他の自生C4植物よりも圧倒的に多い。また,植物体の燃焼によってδ13C値は変化しないことから(図1),腐植酸のδ13C値を測定することによって,ススキに代表されるC4植物に由来する炭素が腐植酸中に含まれる炭素に占める割合を見積もることが可能である。
  2. 黒ボク土を含む日本の表層土壌9点から腐植酸を分離・精製した。δ13C値は,燃焼型元素分析計を直結した高分解能安定同位体質量分析計により測定した。その結果,腐植酸に占めるC4植物由来炭素の含有率は18〜52%と見積もられた(表1)。
  3. 腐植酸に占めるC4植物由来炭素の含有率は,非常に黒味の強い腐植酸(A型腐植酸)でも最大で52%であった。このことから,ススキ以外のC3植物も腐植酸の給源として重要であることが初めて明らかになった。
[成果の活用面・留意点]
  1. 植生が安定している土壌では,土壌のδ13C値を直接測定することによって,腐植酸に占めるC4植物由来炭素の含有率を推定することができる。
  2. ススキ以外のC4植物としては,シバ,トウモロコシ,サトウキビ,ヒエ類がある。このような植物が優占している土壌では,C4植物由来炭素の含有率はススキ由来炭素の含有率と一致しない可能性が高い。

[その他]
 研究課題名 : (カテコール関連化合物を放出する植物の導入が周辺の植物や土壌環境に及ぼす影響解明)
 予算区分  : 運営費交付金
 研究期間  : 2003年度(2000〜2005年度)
 研究担当者 : 平舘俊太郎,藤井義晴,荒谷 博
 発表論文等 : 1)Hiradate et al.,Geoderma,119,133-141(2004)

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