農耕地への有機物施用は亜酸化窒素の主要な排出源のひとつである


[要 約]
 施用有機物の種類により亜酸化窒素の排出量は大きく異なり,施用有機物のC/N比と亜酸化窒素の排出量の間には負の相関関係がみられる。また,わが国の黒ボク土畑全体では,施用有機物と化学肥料からの亜酸化窒素の排出量は同程度である。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 地球環境部 温室効果ガスチーム
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 気候変動枠組み条約に基づくわが国の温室効果ガス排出・吸収目録の算定において,農耕地への有機物施用による亜酸化窒素(N2O)の排出量は,実測データが非常に少ないために化学肥料の排出係数を用いて推定されている。このため現在の推定値の不確実性は大きく,その精緻化が課題とされている。本研究では,日本の畑土壌の約50%を占める黒ボク土において,有機物の施用がN2Oの排出(発生)に及ぼす影響について,実測データを用い定量的に評価する。
[成果の内容・特徴]
  1. 農業環境技術研究所温室効果ガス発生制御施設におけるクローズドチャンバー法を元にした連続自動測定試験の結果,施用有機物の種類により,N2Oの排出量は大きく異なることが示された。C/N比が比較的小さい有機物〔括弧内の数値はC/N比〕〔発酵鶏糞(9.7),発酵豚糞(10.7),菜種油かす(9.6),魚かす(4.2)〕からのN2O排出量は尿素区よりも大きく,C/N比の大きい有機物〔牛糞堆肥(24.3),乾燥牛糞(15.9)〕からのN2O排出量は尿素区よりも小さい傾向がみられた(図1)。また,施用有機物のC/N比とN2Oの排出量の間には負の相関関係が見られた(図2)。
  2. わが国の施用有機物の統計データを用いてN2Oの排出量を推定するために,施用有機物を二つのカテゴリー(C/N比の大きい有機物およびC/N比の小さい有機物)に分け,各カテゴリーのN2Oの排出係数を本研究の結果を用いて表1のように算定した。N2Oの排出係数は,いずれの値についても,IPCCガイドラインのデフォルト値(1.25%)より小さい値であった。
  3. 算定した排出係数と施肥量等の統計データを用いて,わが国の黒ボク土畑全体からのN2Oの排出量を試算した(表1)。その結果,わが国の黒ボク土畑における有機物施用によるN2Oの排出量(0.36 Gg N yr-1)は化学肥料のもの(0.34 Gg N yr-1)と同程度であり,有機物施用は農耕地からのN2Oの主要な排出源のひとつであることが示された。
[成果の活用面・留意点]
  1. 気候変動枠組み条約に基づくわが国の温室効果ガス排出・吸収目録の基礎データとして,その精緻化に寄与する。
  2. 施用有機物のC/N比とN2Oの排出量の関係をモデルに組み込むことにより,より詳細な排出量推定が可能となる。
  3. さらに多くの種類の有機物を用いてC/N比とN2Oの排出量の関係について検証する必要がある。また黒ボク土以外の土壌についても検討する必要がある。
  4. 有機物施用による環境負荷については水質への影響などを含めて総合的に検討していく必要がある。

[その他]
 研究課題名 : 農地における土地利用と肥培管理に伴う温室効果ガス等の発生要因の解明と発生抑制技術
        の開発(農地の利用形態と温室効果ガス等の発生要因の関係解明および発生抑制技術の開発)
 予算区分  : 運営費交付金
 研究期間  : 2003年度(2001〜2005年度)
 研究担当者 : 秋山博子,八木一行,須藤重人,西村誠一
 発表論文等 : 1)Akiyama and Tsuruta,J. Environ. Qual.,32,423-431(2003)
               2) Akiyama and Tsuruta, Global Biogeochem. Cycles,17(4),1100,doi:10.1029/2002GB002016,
               (2003)(インターネット版)

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