天然放射性核種210Pbは乾燥地草原での風食を示す指標として有効である


[要 約]
 砂漠化に直面する乾燥地域の放牧試験区では、放牧圧が大きく、地表面が攪乱され風食を受けているところほど、土壌表層部に含まれる210Pb濃度が低いことから、風食を示す新しい指標として,天然由来の放射性核種である210Pbを提案する。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 環境化学分析センター 放射性同位体分析研究室
                  生物環境安全部 植生研究グループ 景観生態ユニット
                  地球環境部 食料生産予測チーム
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 世界の人口密集地域である東アジアでは,農耕地での土壌侵食や,砂漠化に伴う土地荒廃や黄砂 の発生が深刻な問題となっている。これらの問題を軽減するには,できるだけ早く侵食や砂漠化を検知し,適切な対策を施すことが必要である。そこで,砂漠化域を対象に,過放牧等による植生の退行とともに風食の初期段階で起こる,土壌中の微細粒子の移動を検知するための指標として,天然に空中降下し微細粒子に吸着する,放射性核種210Pbを活用することの有効性を検証する。
[成果の内容・特徴]
  1. 210Pbは,これまで侵食評価に活用されてきた核爆発由来の137Csとは異なり,天然の空中降下物であり, (1)侵食により一度表層の微細粒子が失われても,新たに集積する,(2)半減期が約22年であり10年オーダーの変化を追跡できる,という利点をもつ。
  2. 210Pbは,水に溶けて浸透することはなく,通常土壌の地表近くに集積されていることから,表層の土壌を採取して濃度を比較することにより,土壌表層部の風食を推定できる(図1)。
  3. 1992年以降放牧試験(1996年までは放牧,1997年以降は全て禁牧)を実施した,中国内モンゴル自治区奈曼の試験地(図2)で,風食に対する210Pbの適用の有効性について検討した。試験地は,比較的平坦であるが南側には比高4m程度の小さな砂丘が東西に延び,放牧圧の異なる3つの試験区と禁牧区からなる。重放牧区の南側3分の2と中放牧区の砂丘表面は,1996年には裸地となり,夏季でも砂が飛散していた(図3)。その他の部分は,羊による踏圧を受けていたが,表面は草本で被覆されている。
  4. 1998年8月に地表から深さ5cmまでの土壌を採取して,210Pb(ex)放射能濃度を測定した。210Pb濃度は,放牧圧が高く,裸地化していた重〜中放牧区の場所ほど低い(図4)。また各放牧区の210Pb濃度平均値は,禁牧区から重放牧区へかけて、植被率が小さくなるにつれて、小さくなっている。この結果は,210Pb濃度分布が,植被の退行に伴う土壌表層部の風食を,よく反映することを示す。
[成果の活用面・留意点]
  1. 本成果は,乾燥〜半乾燥地域の風食の前兆を検出することに有効である。また砂漠化防止対策実施後の,微細粒子集積に伴う有機物含量の増加で示される,土壌肥沃度の評価にも適用可能である。
  2. 表層物質の定着に関する定量的評価には,210Pbの降下量を検討する必要がある。

[その他]
 研究課題名 : 中国における砂漠化に伴う環境資源変動評価のための指標開発に関する研究
        (中国における砂漠化に伴う環境資源変動評価のための指標の開発)
 予算区分  : 地球環境[砂漠化]
 研究期間  : 2003年度(2001〜2003年度)
 研究担当者 : 藤原英司,大黒俊哉,白戸康人
 発表論文等 : 1)藤原ら,第40回理工学における同位元素・放射線研究発表会要旨集,173(2003)
               2) 藤原ら,第39回理工学における同位元素・放射線研究発表会要旨集,156(2002)

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