水耕栽培したダイズにおけるカドミウムの移行特性


[要 約]
 水耕栽培したダイズ「エンレイ」において,子実へのカドミウムの移行速度は着莢盛期から粒肥大盛期に高く,その時期に吸収したカドミウムが子実中含量の約50%を占める。また,葉から転流したカドミウムの成熟期の子実中含量に与える影響は小さい。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 化学環境部 重金属研究グループ 重金属動態ユニット
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 ダイズ子実中のカドミウム濃度を低減するには,吸収したカドミウムが最も子実へ移行しやすい 時期を明らかにし,その時期に吸収抑制対策を行うのが効果的である。これまでの土耕ポット試験及び圃場試験の結果は,概ね粒肥大始期(R5)以前に吸収したカドミウムがダイズ子実へ移行しやすいことを示唆しているが,生育時期別及び部位別の詳細な移行特性は明らかになっていない。そこで本研究では,ダイズ「エンレイ」を水耕栽培し,生育時期別の経根吸収カドミウムと成熟期の子実中カドミウム濃度の関係から,ダイズ子実へのカドミウムの移行特性を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. ダイズの生育時期別に一定濃度のカドミウムを経根吸収させたとき,成熟期(R8)の子実中カドミウム濃度は吸収時期に依存し,着莢盛期(R4)から粒肥大盛期(R6)に吸収させた場合に子実中濃度が最も高くなる(表1)。
  2. 子実のカドミウム移行速度(1日あたりの移行量)を図式積分して累積移行量に換算すると,着莢盛期(R4)から粒肥大盛期(R6)における吸収分が成熟期の子実中カドミウム量の約50%を占める。すなわち,この時期に吸収されたカドミウムが成熟期の子実中カドミウム濃度に最も影響する(図1)。
  3. 本葉2〜3枚期(V3-4)から着莢盛期(R4)に吸収されるカドミウムは子実中カドミウム量への寄与分として約20%であり,成熟期の子実中カドミウム濃度に及ぼす寄与は小さい(図1)。
  4. ダイズ地上部でのカドミウムの転流を調べるため,本葉2〜3枚期(V3-4)にカドミウムを吸収させ,生育時期別に試料を採取して部位ごとの吸収量を調べた。吸収したカドミウムは,開花盛期(R2)までに茎,葉柄,葉に移行し,粒肥大盛期(R6)から成熟始期(R7)までの時期に葉中のカドミウム量が減少し,莢と子実中の量が上昇する。すなわち,粒肥大盛期(R6)から成熟始期(R7)までの時期に葉に蓄積されたカドミウムは子実へ転流する(図2)。
[成果の活用面・留意点]
  1. 本水耕試験の結果は,圃場試験で確認したダイズ子実へのカドミウムの移行パターンと合致する。
  2. 子実へのカドミウムの蓄積を抑制するには,着莢盛期から粒肥大盛期までの間,カドミウムの経根吸収を低減させることが肝要である。
  3. モリブデンを加えた水耕液で栽培したダイズ中のカドミウムをICP質量分析計で定量する際,分光干渉を回避するため,モリブデンを除去する前処理が必要である。

[その他]
 研究課題名 : カドミウム吸収特性における作物間差異の解明
        (農耕地におけるカドミウム等負荷量の評価とイネ・ダイズ等による吸
        収過程の解明)
 予算区分  : 運営費交付金
 研究期間  : 2004年度(2001〜2005年度)
 研究担当者 : 川崎晃,織田久男
 発表論文等 : 1)織田ら,Biomed. Res. Trace Elements, 15, 289-291 (2004)
               2)箭田(蕪木)ら,Biomed. Res. Trace Elements, 15, 292-294 (2004)
               3)蕪木ら,土肥学会講要,50, 112 (2004)

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