シマジン分解細菌群CD7の構成種とその機能


[要 約]
 土壌中から分離したシマジン分解細菌群CD7は,3種類の細菌Arthrobacter sp.(CD7w), Bradyrhizobium japonicum(CSB1), 新属・新種のβ-Proteobacteria(CDB21)で構成され,CDB21のみがシマジン分解活性を有している。CDB21は,CSB1と混合すると良く生育し分解速度が高まる。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 化学環境部 有機化学物質研究グループ 土壌微生物利用ユニット
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 近年,農耕地土壌等で広く低濃度で分布している難分解性有機汚染物質の分解除去技術としてバ イオレメディエーションが注目されている。しかし,現場は複数の有機化合物で汚染されている場合が多く,これらの汚染物質を同時に原位置で完全分解する技術は開発されていない。そこで本研究では,木質炭化素材を用いて土壌中から集積・分離したシマジン分解細菌群CD7の構成種と機能を解明し,複合汚染現場や単一の菌株では無機化できない難分解性有機化合物汚染現場の原位置バイオレメディエーション技術の開発に資する。
[成果の内容・特徴]
  1. シマジン(5mg/L)を唯一のC,N源とする無機塩培地 (SMM5)で分解細菌群CD7を液体培養した後,分解が確認された培養液より3種類の異なるコロニー形状を示す菌株が単離された。このうちCD7w,CSB1と名付けた菌株は,16S rRNA塩基配列より,Arthrobacter sp.,Bradyrhizobium japonicumと同定されたが,いずれもシマジン分解活性を示さなかった。シマジン分解活性を示した菌株CDBは,16S rRNA塩基配列を用いた系統解析の結果,新属・新種のβ-Proteobacteria (GenBank AB194096)と考えられる (図1)。
  2. CD7w,CSB1,CDB21のいずれの菌株も単独でSMM5寒天培地に生育しないが,CSB1とCDB21を混合したときのみSMM5寒天培地上でコロニーを生じる(図2)。
  3. SMM5液体培地中で複合系(CDB21/CSB1),CDB21,CSB1を振盪培養したところ,CDB21/CSB1のみ菌体の増殖が認められ,速やかにシマジンが分解される(図3)。CDB21単独では菌体の増殖は認められず,接種菌体による緩やかなシマジン分解が認められた(図3)。
  4. SMM5液体培地中で複合系(CDB21/CSB1)を培養し,シマジン(SIZ)及び他の塩素化トリアジン系除草剤(アトラジン(ATZ),プロパジン(PPZ),ターブチラジン(TTZ))の混合液を添加して、それぞれの物質に対する分解能と代謝物を検定した。その結果,CDB21/CSB1はSIZの他にATZ,TTZのように側鎖にN-エチル基を持つ塩素化トリアジン系除草剤を分解するが,側鎖にN-イソプロピル基のみを持つPPZは分解しない(図4)。TTZの分解速度はSIZ,ATZより遅く,LC-MSにより脱塩素化された代謝物の蓄積が一時確認されるが,培養時間経過に伴い消失する。
[成果の活用面・留意点]
  1. シマジン分解細菌群CD7は,シマジン分解・資化と生育に必須な栄養因子を互いに補完しあうような機能を持ったコンソーシア(複合微生物系)であると考えられる。CD7wは分解には直接関与しないが、炭化素材内に分解細菌群が集積する際に必要となる。
  2. シマジン分解細菌群CD7及びCDB21/CSB1は非常に安定な複合系であり,複数の難分解性塩素化トリアジン系除草剤(但し,プロパジンは除く)で汚染された土壌及び水環境修復や汚染防止のための微生物素材として利用できる。

[その他]
 研究課題名 : 複合分解微生物系の構造と機能の解明
        (木質炭化素材を用いたトリアジン系除草剤汚染環境への分解菌接種技術の開発)
 予算区分  : 運営費交付金
 研究期間  : 2004年度(2001〜2005年度)
 研究担当者 : 木和広,原田直樹 (興和総合科学研究所)
 発表論文等 : 1)高木ら,新規農薬分解菌と複合微生物系による農薬分解法,特願2003-194330 (2003)
               2)Iwasaki et al., Proc. 3rd Int. Conf. Contaminants in the Soil Envir., 43 (2003)
               3)高木ら,農業技術,59(10),17-21 (2004)

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