解毒酵素遺伝子塩基配列の違いを利用した有機リン剤抵抗性ワタアブラムシの識別法


[要 約]
 ワタアブラムシの有機リン剤抵抗性の原因となる解毒酵素(カルボキシルエステラーゼ)遺伝子の塩基配列には抵抗性系統と感受性系統の間に違いがある。この違いに基づいて設計したプライマー対を用いたPCRによって抵抗性系統と感受性系統を明確に識別できる。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 化学環境部 有機化学物質研究グループ 農薬影響軽減ユニット
[分 類] 技術

[背景・ねらい]
 化学合成殺虫剤の連用による害虫の殺虫剤抵抗性の発達が問題となっている。殺虫剤抵抗性は遺 伝する性質であるため,発達の実態把握や動態予測のためには抵抗性に関与する遺伝子を持つ個体の割合を正確に知る必要がある。ワタアブラムシは多種の農作物を加害する重要害虫で,近年各種殺虫剤に対して抵抗性を発達させてきている。本研究では,ワタアブラムシの有機リン剤抵抗性発達に対する信頼性の高い実態把握・動態予測に資するため,抵抗性の個体と感受性の個体を解毒酵素(カルボキシルエステラーゼ:CE)遺伝子の塩基配列の違いを利用して簡便かつ正確に識別するための手法を開発する。
[成果の内容・特徴]
  1. ワタアブラムシの有機リン剤抵抗性発達は解毒酵素CEの量的増大に伴うことが知られていたが,CEをコードするcDNAの塩基配列にも抵抗性と関連して違いが見られる(感受性の供試4系統のうち,最も感受性の高い系統については,他の3系統と配列が異なっているので「超感受性系統」として分けて扱う)。特に,5'末端非翻訳領域では,翻訳開始点につながる24塩基が一致する他は全く相同性が見られず,感受性系統と超感受性系統では抵抗性系統よりも各々192塩基,212塩基短くなっている(図1)。
  2. 抵抗性系統のCE-cDNA5'非翻訳領域の塩基配列を基に設計したフォワードプライマー(F1)と翻訳領域内の塩基配列を基に設計した抵抗性特異的リバー スプライマー(R1)を用い,各系統のcDNAを鋳型としたPCRによって抵抗性系統と感受性系統(超感受性系統を含む)を明確に識別できる(図2)。
  3. 本プライマー対を用いた識別はcDNAを鋳型とした場合ばかりでなく,各系統の精製ゲノムDNAを鋳型とした場合でも有効である(図3)。
[成果の活用面・留意点]
  1. これまで,ワタアブラムシの有機リン剤抵抗性の検定には,生物検定やCE活性の測定など労力や時間がかかり,その上検定条件によるデータの振れの大きい方法が用いられてきた。本法ではゲノムDNAを鋳型として明確に識別可能であり,RNAの精製や逆転写反応等の煩雑な過程を要さないため,多検体を調査する必要のある抵抗性のモニタリング等に活用できる。

[その他]
 研究課題名 : アブラムシ類の生活環制御機構に基づく新規薬剤作用点の探索
        (新規資材による生体防御機能等の活性化機構の解明)
 予算区分  : 運営費交付金
 研究期間  : 2004年度(2002〜2005年度)
 研究担当者 : 鈴木 健
 発表論文等 : 1)鈴木,特願2004-189518 (2004)

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