ムクナの根から放出されるL-ドーパに対する植物の抵抗性機構


[要 約]
 ムクナの根から放出されるL-ドーパによる植物生育阻害作用には植物種間差があり,イネ科とマメ科植物には抵抗性を持つものがある。イネ科のペレニアルライグラスはL−ドーパをドーパミンに,マメ科のシロクローバはイソキノリンアルカロイド類に変換することで抵抗性を持つ。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 生物環境安全部 植生研究グループ 化学生態ユニット
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 L-ドーパ(L-3,4-dihydroxyphenylalanine)は,マメ科のムクナ(Mucuna prurience var. utilis)の植物体中に,生体重の1%,種子に4〜10%含まれ,他感物質として作用することが示唆されている。そこで,L-ドーパがムクナの根から栽培環境中に放出されることを高感度分析により確認し,周辺植物の生育阻害要因となることを検証する。また,様々な植物種を供試して,L-ドーパの植物生育阻害活性に対する感受性を検定し,植物種間における感受性の違いならびにその原因を解毒・耐性機構の面から解明する。
[成果の内容・特徴]
  1. プラントボックス法でムクナを栽培し,根から寒天培地中に放出されるL-ドーパを電気化学分析により高感度で測定した結果,50〜250ppmの濃度で存在した。このことから,プラントボックス内で混植したレタスの生育を阻害する活性を完全に説明することができる。
  2. L-ドーパに対する植物の感受性を比較検討した結果,キク科やアブラナ科などは感受性が高いが,ペレニアルライグラス(イネ科)やシロクローバ(マメ科)は抵抗性である(表1)。
  3. ペレニアルライグラスは,外部から与えたL-ドーパをL-ドーパミンに変換する(図1)。L-ドーパミンは,レタス等に対する生育阻害作用が小さい。
  4. シロクローバは,L-ドーパをCDTHIQ(L-3-carboxy-6,7-dihydroxy-1,2.3,4-tetrahydroisoquinoline),およびMCDTHIQ(1-methyl-L-3-carboxy-6,7-dihydroxy-1,2.3,4-tetrahydroisoquinoline)のイソキノリンアルカロイドに変換する。これらの化合物を合成して植物に対する影響を調べたが,植物生育阻害作用は全く認められない。
  5. 以上の結果から,ペレニアルライグラスはL-ドーパをL-ドーパミンに,シロクローバはCDTHIQ, MCDTHIQ等のイソキノリンアルカロイドに変換して失活させる(図2)。
[成果の活用面・留意点]
  1. L-ドーパに対する植物側の感受性の違いを,ドーパミンやイソキノリンアルカロイドへの変換によって説明できるが,この他にも抵抗性機構がある可能性がある。
  2. L-ドーパによる植物生育阻害機構としてスーパーオキサイドアニオン等の活性酸素の発生が考えられ,超微弱発光分析装置によるバイオフォトンの測定により検証している。

[その他]
 研究課題名 : 導入・侵入植物の生物検定法による他感作用の検定と作用物質の同定
        (カテコール関連物質を放出する植物の導入が周辺の植物ならびに土壌環境に及ぼす影響解明)
 予算区分  : 運営費交付金,重点支援研究[導入侵入植物],パイオニア特別研究[カテコール]
 研究期間  : 2004年度(2001〜2005年度)
 研究担当者 : 藤井義晴,平舘俊太郎,荒谷博,西原英治(現・新潟県園芸研)
 発表論文等 : 1)Fujii et al., Biol. Sci. Space, 17(1), 6-13 (2003)
               2)Nishihara et al., Plant Growth Regul., 42(2), 181-189 (2004)

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