珪藻の除草剤感受性を群集レベルの生育速度により簡易に検定する


[要約]
河川や水田土壌より採集した珪藻を用いて,珪藻群集の生育速度を測定する手法を開発した。この手法により珪藻群集の除草剤感受性を簡易に検定できる。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 化学環境研究部 有機化学物質研究グループ 農薬動態評価ユニット
[分類] 技術

[背景・ねらい]
 現行の農薬等化学物質に対する生態影響評価は個体レベルの影響評価であり,単一の生物種を用いた急性毒性試験の結果が利用されている。一方,より現実的な評価手法として地域性を考慮した群集レベルの影響評価が求められている。陸水生態系の重要な一次生産者である珪藻の群集レベルでの影響評価については,従来の方法では,評価対象地点の珪藻群集を構成している個々の種に対して個体レベルの試験を繰り返し行い,その結果の積み重ねにより群集レベルへの影響を予測している。すなわち,評価を行うには,採集試料から多数の珪藻培養株を確立するとともに,それぞれの珪藻培養株に対する検定を行う必要があり,多大な労力と長い期間を要する。そこで,河川および水田を評価対象地点として,珪藻群集の除草剤感受性を簡易に検定する手法を開発する。 
[成果の内容・特徴]
  1. 河川及び水田土壌に生息する珪藻群集は,それぞれ河床の石表面のこすり取り及び土壌中珪藻の培養により集める。集めた珪藻については,珪藻培養株の確立作業を経ずに除草剤感受性試験の珪藻試料に調製する(図1)。この手法により,これまで多大な労力を要していた培養株の確立作業を省くことができ,簡易な検定が可能になる(図2)。
  2. 珪藻群集の生長は,クロロフィルaの吸光度により測定する。さらに,試験開始後,24時間から96時間の間における生長速度の阻害を測定すると共に半数生長阻害濃度(24-96h ErC50)を算出し,これを珪藻群集の除草剤感受性値とする(図3A)。この手法は,確立した培養株に対して個々の検定を行う従来法(図3B)に比べ,測定の際の時間と手間の大幅な削減が可能となる。
  3. 検定実施例として,河川上流部(桜川流域の源流部)及び中流域(同農村部)からそれぞれ採集した生物試料を用いて,トリアジン系除草剤であるジメタメトリンの感受性を検定した。ジメタメトリン感受性は,源流域と比べ中流域が低いことが明らかとなった(図3)。従来法と本手法の結果は同じ傾向を示すことから,本手法が群集レベルでの影響評価手法として利用できることが示された。
[成果の活用面・留意点]
  1. 農薬等化学物質の生態影響評価のより現実的な評価段階において,陸水生態系の一次生産者におよぼす簡易な影響評価手法として利用できる。
  2. 懸濁物質が大量に混入した生物試料では,吸光度のバックグラウンドが上昇し,検定が困難になる。そのため,採集場所や方法に留意し,砂が大量に堆積している石からの採集は避ける。
  3. 緑藻が大量に混入した生物試料では,緑藻と珪藻間の薬剤に対する感受性差から珪藻群集への精確な評価ができなくなる。そのため,明らかに緑藻のコロニーが確認できる石からの採集を避ける。

具体的データ


[その他]
研究課題名 : 除草剤の高感度分析法の開発と藻類に対する影響評価法の検討
(水田用除草剤の水系における拡散経路の解明と藻類等水生生物に対する影響評価法の開発)
予算区分  : 環境研究[日韓水質保全],運営交付金
研究期間  : 2005年度(2001〜2007年度)
研究担当者 : 石原悟
発表論文等
(1)Ishihara. Symposium series No. 899 Environmental fate and safety management of agrochemicals, American Chemistry Society, p112-123 (2005)
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