農耕地からの亜酸化窒素の排出係数は現在のIPCCデフォルト値よりも低い


[要約]
世界の農耕地における亜酸化窒素発生量のデータベースを作成し解析した結果から,水田からの直接発生および農耕地からの溶脱による間接発生排出係数は,それぞれ0.31%および1.24%と推定される。 
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 地球環境部 温室効果ガスチーム
[分類] 行政

[背景・ねらい]
 世界各国において温室効果ガス排出量の算定に用いられている,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の国別温室効果ガスインベントリーガイドライン(IPCCガイドライン)の改訂が2006年に予定されている。そのため,農耕地からの温室効果ガスの排出係数の見直しが急務となっている。このIPCCガイドラインの算定方法では,国別の温室効果ガス排出量算定において各国のデータの準備状況に応じて3段階の方法が提案されているが,なかでもデータが十分にない場合(Tier 1)にも適用できる基本の排出係数(デフォルト値)は世界各国の温室効果ガス排出量の算定に用いられており,この数値を最新のデータを加味して改訂することは非常に重要である。そこで,これらのデフォルト値の改訂に寄与することを目的として,以下の二つの排出係数について解析を行う。(1)現在の算定方法では,水田から直接発生する亜酸化窒素(N2O)の排出係数(EF1-RICE)は畑や草地の排出係数(EF1)と同じとされているが,湛水条件でのN2Oの発生量は畑条件とは大きく異なると考えられることから,新たな見直し案を提示する。(2)また,農耕地から溶脱により間接発生するN2Oについては現在の排出係数(EF5)が過大評価である可能性が高いことから,新たな見直し案を提示する。  
[成果の内容・特徴]
  1. 世界の水田から直接発生するN2Oの実測データ(29地点,149測定)を収集した。これらのデータのうち,化学肥料または有機物肥料を施用した水田について解析した結果,常時湛水田よりも中干しあり水田のほうがN2O発生量は大きかった。しかし,このうち排出係数が計算可能なデータについて解析した結果,N2O排出係数には水管理の違いによる統計的な差はみられず,排出係数(EF1-RICE)の平均値(±標準偏差)は施肥窒素量の0.31(±0.31)%であり,現在のIPCCのデフォルト値(1.25%)よりも著しく低かった(表1)。
  2. 世界の農耕地から溶脱により間接発生するN2O発生量のデータベースを作成し解析した結果,農耕地から系外に排出された窒素が地下水や表面流去水においてN2Oを排出する際の排出係数(EF5g)は窒素溶脱量の0.24%(95%信頼区間:0.18%-0.29%)と推定され,現在のIPCCの推定値(1.5%)よりも著しく低かった(図1)。この値に,河川および沿岸域における既存の排出係数(それぞれ,EF5r=0.75%およびEF5e=0.25%)を加えることから,溶脱によるN2O間接発生の排出係数(EF5)は1.24%と見積もられる。
[成果の活用面・留意点]
  1. 本情報は,IPCCガイドラインにおける排出係数デフォルト値の改訂に寄与するものである。
  2. 今回推定した排出係数は現在利用可能なデータを網羅して推定したものであるが,将来実測データが充実してきた場合にはさらなる改訂が必要である。

具体的データ


[その他]
研究課題名 : 農耕地における土地利用と肥培管理に伴う温室効果ガス等の発生要因の解明と発生抑制技術の開発,わが国とアジア諸国の農耕地におけるCH4, N2Oソース制御技術の開発と広域評価
(農地の利用形態と温室効果ガス等の発生要因の関係解明および発生抑制技術の開発)
予算区分  : 運営費交付金,環境省:地球環境[温室効果ガス]
研究期間  : 2005年度(2003〜2007年度)
研究担当者 : 秋山博子,澤本卓治(酪農学園大学),中島泰弘,須藤重人,西村誠一,八木一行
発表論文等
1)Akiyama et al., Global Biogeochem. Cycles, 19, GB1005, doi:10.1029/2004GB002378 (2005)(2005)
2)Sawamoto et al., Geophys. Res. Lett., 32, L03403, doi:10.1029/2004GL021625 (2005)
目次へ戻る       このページのPDF版へ