XANESを用いた水田土壌中のヨウ素の非破壊形態分析とその溶脱機構


[要約]
放射光源X線吸収スペクトル近傍構造(XANES)により,組成が複雑な土壌中においてもヨウ素の選択的な非破壊形態分析が可能である。水田土壌溶液のヨウ素濃度は灌漑期に著しく上昇するが,その要因は、ヨウ素酸(IO3-)からヨウ化物イオン(I -)への還元反応である。 
[担当研究単位]  農業環境技術研究所 環境化学分析センター 放射性同位体分析研究室
[分類]学術

[背景・ねらい]
 核燃料再処理施設の運転に伴い環境中に放出されるおそれのある放射性同位元素のうち,放射性ヨウ素(129I)は食物を介した内部被曝への寄与率が最も高い。再処理施設の稼働をひかえ,放射性ヨウ素の農業環境中における動態解明が急務である。土壌に比較的強く保持されて存在するヨウ素の形態をとらえるためには,土壌を構成する多くの元素の中からヨウ素だけを選択的に分析できる手法が有効である。そこで,土壌中ヨウ素の非破壊形態分析に放射光源X線吸収スペクトル近傍構造(XANES)を適用し形態分析をおこなうとともに,水田土壌からヨウ素が溶脱する要因を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. XANESにより環境中ヨウ素の主要な形態であるヨウ素酸イオン(IO3-, +5価),ヨウ化物イオン(I -,-1価),分子状ヨウ素(I 2,0価),有機態ヨウ素(0価)の区別が可能である(図1)。
  2. ヨウ素はK殻でX線吸収がおこるエネルギーが33167eVと高く,土壌中の多量元素によるX線吸収の影響を受けにくい。そのため土壌中のヨウ素の酸化還元状態を非破壊分析する手段としてXANESが有効である(図2)。XANESによる非破壊形態分析により,従来法で問題となる抽出過程の形態変化を回避できる。
  3. IO3-は湛水条件下で微生物活動に伴う酸化還元電位の低下によって,I2あるいは有機態ヨウ素となる。I-まで還元したヨウ素は土壌に保持されにくいため,土壌溶液に溶出する(図2)。
  4. 灌漑期の水田土壌からのヨウ素の溶脱の要因は,土壌に保持されやすいIO3-がI2を介して土壌に保持されにくいI -へ還元することである。還元により生じたI2の一部は,土壌固相に保持される(図3)。
[成果の活用面・留意点]
放射性ヨウ素による内部被曝量を予測するための基礎データとして,放射性廃棄物処分施設の安全評価,および原子力施設の事故等の緊急時対応策に活用できる。

具体的データ


[その他]
研究課題名 : 放射性核種の農作物への吸収移行および農林生産環境における動態解明
(リスク評価のための137Cs等放射性同位元素の平常時モニタリング)
予算区分   : 運営費交付金,文科省・放調費 [放射性核種]
研究期間   : 2005年度(2003〜2005年度)
研究担当者 : 山口紀子,藤原英司,谷田肇(高輝度光科学研究センター)
発表論文等
1)Yamaguchi et al., J. Environ. Radioactiv., 86 (2) 212-226 (2006)
2)Yamaguchi et al., SPring-8 User Experiment Report, No.14, 2 (2005)
3)山口ら,日本土壌肥料学会講演要旨集第51集,32(2005)
目次へ戻る       このページのPDF版へ