農業環境技術研究所 刊行物 研究成果情報 平成18年度 (第23集)

普及に移しうる成果 3

2006年版IPCCガイドラインに採用された水田から発生する
メタンの新しい算定方法

[要約]
水田から発生するメタンのデータベースを作成・解析することにより、新しい算定方法を提案し、2006年IPCC改訂ガイドラインに採用されました。このガイドラインは世界各国でのインベントリ算定に用いられることから、世界の温室効果ガス排出量算定の精緻化に大きく貢献します。
[背景と目的]
 水田は温室効果ガスであるメタンの重要な人為的発生源です。世界各国の温室効果ガス発生量の算定に用いられているIPCCガイドラインでは、水田からのメタン発生に関して、実測データの統計解析を行わずに排出係数*1を求めるなど大きな不確実性がありました。そこで、水田から発生するメタンの実測値を集めたデータベースを構築・解析し、より精度の高い算定方法を提案することを目的として研究を行いました。
[成果の内容]
 既往文献からアジア諸国における水田からのメタン(CH4)発生実測データを収集し、8カ国、103地点、868栽培期間データからなるデータベースを構築しました。これらのデータについて、栽培期間の平均メタンフラックスと各発生制御要因の関係を解析し、排出係数*1と拡大係数*2を求めました。このことから、水田から発生するメタンの算定方法の改訂案を提案しました。
 算定法の基本は、これまでのIPCC*3ガイドラインの方法に従い、世界の全水田を対象に、水田のカテゴリー別に、排出量の原単位となる排出係数に水稲栽培面積と水稲栽培日数を乗ずることとしました(式(1))。カテゴリー別の排出係数は、各発生制御要因の寄与を考慮するための拡大係数により補正されます(式(2))。算定の基準となるベースライン排出係数は、1.30kg CH4 ha-1 day-1と求められました(表1)。また、水田タイプと栽培期間中の水管理、および栽培期間前の水管理にともなう拡大係数をそれぞれ求めました。さらに、有機物施用にともなうメタン発生の増加に図1に示す関係が得られたことから、その拡大係数は式(3)表2を用いて求めることとしました。
 この算定方法の改訂案は2006年に改訂されたIPCCの新しいガイドラインに採用されました(vol. 4, p. 5-44〜53)。このガイドラインは世界各国で用いられることから、国連気候変動枠組み条約に基づく、世界の温室効果ガス排出量算定の精緻化に大きく貢献します。
*1 排出係数:算定に用いる単位面積あたりの排出量の原単位
*2 拡大係数:水田タイプ、水管理、有機物管理等、各発生制御要因の寄与を表す係数
*3 IPCC:気候変動に関する政府間パネル
本研究は環境省地球環境総合推進費S-2「陸域生態系の活用・保全による温室効果ガスシンク・ソース制御技術の開発−大気中温室効果ガス濃度の安定化に向けた中長期的方策−」による成果です。

リサーチプロジェクト名:温室効果ガスリサーチプロジェクト

研究担当者:物質循環研究領域 八木一行、顔暁元(海洋研究開発機構、現中国科学院南京土壌研究所)、秋山博子

発表論文等:1)Yan, X. et al., Global Change Biol., 11, 1131-1141(2005)

図表

目次へ戻る    このページのPDF版へ